『なぜか元カノが俺の部屋に入り浸っている話 2』
落ち込んでいなかったといえば嘘ではない。
ベッドに腰掛けたまま俺は窓の外をぼんやり眺めていた。
「はぁ……俺ってやつは」
困ったことに不快感はない。
それもまた悩みのひとつと言えなくもないのだが。
軽くため息を吐きながら頬杖をつく。
「……一度きりの過ちだと思いたい」
「何が?」
「お前のことだよ!! ベッドの上でアイスを食べるんじゃない」
右側を向いて威嚇するが本人はどこ吹く風といった様子で意に介さない。
彼女の名前は谷月海奈【やづきみな】という。いわゆる元カノ。
今日は黒いシャツに白いデニムのショートパンツ。髪型は相変わらずポニーテールで、不思議そうに俺を見上げるボタンみたいな瞳はグリグリしてて大きい。
「一応尋ねるが、何故今日も違和感なく俺の部屋に居やがるんですか」
海奈は俺の方を見ながらなかなか溶けないアイスをペロペロ舐めつつ首を傾げた。
「? だってここは私の部屋」
「違うだろがっ!」
「話はちゃんと最後まで聞かないと。この間エッチしたからここは実質私の部屋と同じという意味で」
厚かましい。だが真っ向から否定する気になれない。たしかに俺たちは付き合っていたわけで、でも先日のエッチはこいつから仕掛けてきた事故みたいなものだから俺に責任はなく……なぜ言い訳ばかり考えてるんだ、俺。
「……ヤるだけの部屋じゃないんだが」
「ここは愛の巣」
ニコリともせず平然と言いのけてきやがる。
やはり俺のほうがおかしいのか? そう思わざるをえない。
俺と海奈はすでに別れたカップルのはずなのに、相変わらずこいつはこの部屋に来てるし、俺もそれを許容してる。
(海奈のやつ、本当は俺と別れたくなかったんじゃないのか。でもそれを聞く勇気は今のところ俺にはない)
居心地は悪くないのだ。こいつが隣りにいることで部屋の空気がどこか落ち着く。
できることならこの関係を壊したくない。
「そんなお悩み中のあなたのために。今日は再建プランを考えてきた」
「は? 何だこのノートは」
考え事をしている俺に向かって海奈が小ぶりなノートを差し出してきた。
恋愛再建計画と書かれているけど無視。
受け取ってパラパラめくってみると丸っこい字で細かくいろんなお店の情報とか電話番号、行きたいスポットなどがマーカーで示されていた。
どうやらパンケーキ屋へ行きたいらしい。太っても知らんぞ。
「このように、元カノと元カレという関係は世間体が悪い」
「スイーツ情報しか書かれてないのだが」
「それもたしかに大事。でも関係修復はもっと大事」
「そ、そうかなぁ。まあそうかもしれんけど」
海奈はそういうけど、俺たちが付き合っていたことすら知ってるやつがいない気がするのだが。とにかくこいつには仲直りする意思はあるようだ。
「だからといって簡単に私との関係が元通りになるなんて思うなよ元カレ」
「お前はいったいなにをしたいんだ!?」
ノートをパタンと畳んで海奈に突き返す。
「それはご想像におまかせします」
「ナチュラルに拒否るなよ! 大切なところだぞ」
「ぅん……じゃあちょっとこっちきて」
そう言いつつ俺より先に自分の方から動いてきた。
海奈の髪の香りが強くなる。
肩と肩がぶつかって思わず抱きしめたくなるような至近距離。
左を向いた海奈は、じっと俺を見つめて動かない。
(急に黙り込んでどうするつもりだ。それに、な、なんだ? 顔、寄せ過ぎじゃ――)
二人の時間が止まったように感じた瞬間、
ちゅっ♪
彼女の方から唇を押し当ててきた。
「!? おお、おまっ」
「さっきから不用意に近づきすぎ」
ちゅちゅ、ちゅっ♪
今度は連続で柔らかさを味わわされる。近づいてきたのはお前のほうだろう!
そんな言葉は口に出さずに海奈とのキスを楽しんでいる自分がいる。
(こいつのキス、逆らえない……されるたびに次を求めちまう!)
無意識に俺は彼女と向き合い細い肩に手をおいていた。
かすかに震えている気がする。
かわいい。
思わず引き寄せ、抱きしめてしまった。
海奈はそれにも逆らわず、俺に身を預けて再びキスをしてきた。
「これでわかってもらえた?」
「ふ、あぁぁ……な、なに……」
ちゅ…
一度離れて見つめ合い再び吸い寄せられるように口づけを重ねる。
二人の呼吸が重なり、クールな様子だった海奈の目も少し興奮が滲み出しているようだった。
「私からの希望。どんな時でもキスでごまかされちゃう彼氏でいてほしい」
「そんなのって、お前なぁ……」
ちゅっ、ちゅうぅぅぅ!
「はうぅぅっ! んっ、う……」
今度は情熱的なキス。
海奈はギュッと目をつむったまま片方の手を俺の後頭部へ回してきた。
いつの間にか俺はベッドに横たえられていた。
目の前には俺を見下ろす海奈がいる。
呼吸を見出し、口元を拭いながら彼女は言った。
「上の方はほぼ制圧したので下の方を攻略する」
「しっ、下って!?」
それには答えず海奈は器用に俺のズボンのベルトを外し、下半身をむき出しにしてしまった。ひんやりしたエアコンの空気が素肌を撫でる。
「やめろ、は、はずかしぃ……ぞ……」
「私が余計に興奮するからその反応はやめたほうがいい」
「えっ」
興奮するのか。
海奈は俺の股間を見つめ、そっと手を伸ばしてきた。
(まずい、握られたら俺は――ッ)
きっと求めてしまう。海奈の指先でペニスをいじられたら我慢が効かなくなる。
すべすべした女の子の手のひらに包まれると自分では再現できないほどの快感が一瞬で生み出される。特に彼女は俺の感じやすいポイントを良く知っている。
クリュッ……
「ここだっけ?」
そっと撫でるような手つきだった。伸ばされた三本指で捧げ持つようにカリ首や裏筋部分を包み込まれる。すでに溢れていた透明な我慢汁が海奈の指を濡らす。
その滑りが程よい刺激となって俺が逆らえない快感を生み出す。
「う、うまい……そこはっ、ああああーーーー!」
「面白いように感じてくれるところは好評価」
クチュクチュと卑猥な音を立てながら海奈は俺自身を弄ぶ。
あまりの恥ずかしさに俺は顔を手で隠してしまう。
「ほら、もうこんなにドロドロ」
短時間で俺のペニスから大量の我慢汁を搾り取ってゆく海奈。肉棒はすっかり膨らみきっており、腹に張り付くのではないかと言うほど反り返って敏感にされていた。
「あっ、はぁ、あっ……」
「でも私のほうも無事じゃなくなってる様子。ん……んぅぅっ」
クチュリ……
感じまくる俺を観察している海奈も密かに興奮していたようだ。
白のショートパンツを素早く脱ぎ去って自ら股間に手を伸ばし、ペニスをしごく手つきと同じように自らを慰めていた。
(エ、エロい……!)
唇の端をキュッと結んだまま目を伏せ、細い指先でクリトリスをいじっている。
その興奮が口元からわずかにこぼれる。
ちらっと恥ずかしさそうに俺を見てから海奈は笑った。
「おちんちんを味付けしてあげる。ひとつになろう?」
自分自身を慰めていた指先を見せつけながら俺の頬に線を引く。ヌルリとした彼女の愛液を感じた俺はますます興奮してしまう。海奈はさらにもう一度股間に手を伸ばし、愛液を指先に絡ませてペニスの先端へと塗り込み始めた。
「ま、待て! それきもちいいっ、じゃない、だめだ、エロすぎるッ」
「うふふふ♪ あとで思い出しエッチしてもいいよ」
妖しく微笑みながらクリクリと亀頭を磨くような手つきでこね回してくる。
チュクチュクチュクチュクッ……
その優しく包まれるような刺激は男なら誰でも幸せを感じてしまうほど心地よく、我慢できるものではないだろう。男の許容範囲を軽く超えた甘美な手コキ、指コキによって勝手に腰が持ち上がってしまう。
「私の手のひら好き?」
「すっ、好きだああああああ!!」
「じゃあこのまま出して」
ようやくニコっと笑った彼女の顔を見て、俺の全身が幸福感で満たされてゆく。
こんなに可愛らしく俺をいたわってくれる海奈を手放したくない。
一緒にいたい。
できれば毎日エッチしたい!
「いいよ……毎日でも」
海奈がフフッと笑う。
どうやら俺は自分の気持ちを言葉に出していたようだ。
手コキは継続したまま背伸びをするように彼女の顔がゆっくり近づいてきた。
そして唇を奪われた瞬間、俺は爆ぜた。
「えいっ」
「んっ、んううううううううーーーーー!!」
射精直後にペニスを上手に刺激されると連続射精してしまう。そのタイミングを熟知しているかのように、先端をやんわりと包み込んでくる彼女。柔らかくて甘い刺激に再び俺の股間が膨れ上がり、ブリッジするように腰が跳ね上がった。
クニクニとひねり込んでくるその手の中に俺はまたもや精を捧げてしまう。
「くっ! また今日も……」
柔らかすぎる彼女の手の中で何度も射精して落ち着きを取り戻した俺に襲いかかってきたのは無力感、自己嫌悪、羞恥心だった。
(海奈に対して何もしてやれないどころか、終始リードされっぱなしだった!)
男としてのプライドだってある。
しょんぼりしている俺の肩を海奈がポンポンと叩いてきた。
「落ち込まないほうがストレス少ない」
情けをかけられると余計に惨めになる。
その優しい言葉に俺は反発した。
「誰のせいだと……ふあっ!」
だがそれも遮られる。
自分の方を向いた俺の頬を両手で挟み込み、海奈が俺をじっと見つめてきた。
言葉は少ないけどまっすぐで、俺だけを捉えた視線。
相変わらず何を考えてるのかはわからないけど、もしかしたら海奈も俺と同じことを感じているのかもしれない。
「私はこうして近くで見つめ合うのが好き。だから、これからもよろしく」
「お、おう……」
まるで俺の胸中を見透かしたかのような一言だった。
全てを理解していないのかもしれないがお互いに通じる部分はある。
俺も海奈と見つめ合うのは嫌いじゃない……というよりは大好きだ。
翌週、俺は海奈といっしょに話題のパンケーキ屋へと足を運ぶのだった。
(つづく)
『なぜか元カノが俺の部屋に入り浸っている話』
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