『身代わりの代償 ~上級生vs下級生~』




 季節はもうすぐ本格的な冬になる。
 僕、北上菜月【きたかみなつき】がこの大学に入って半年以上が過ぎた。

 整った環境で学業に精を出すのはもちろんだが、入学当初から現在までバトルファック部に所属し続けている。文字通り毎日精を出しているわけだ……簡単に射精(だ)してはいけないのだが。

 バトルファックというのは政府公認の成人向けスポーツで、少子化対策を絡めて補助金込みで全国的に推奨されている。
 その内容は男女がリング上で技を競い合い、どちらが先に相手を(性的に)絶頂させるかを競うものだ。

 露出の少ないリングコスチュームで向かい合い、相手の動きを封じて性的な行為へと移行するのがセオリーなので、最初の立会で後れを取っても本番の性技で巻き返すことが充分可能だ。
 中には最初から相手を誘惑して性技のみで勝負を決めに行く選手もいるけど、そういう人たちは基礎体力に乏しいケースが多いようだ。

 必ずセックスが絡む刺激的な内容もあって人気が高まり近年ではプロ化が進んだ。
 強くなるためには日常的に心身を鍛える必要があり、黎明期に感じた単なるエロの枠を飛び越えたように思える。
 かつてのフードファイトやeスポーツの流れに少し似ているかもしれない。

 さて、僕が通っているこの大学はバトルファックの強豪校だ。全国大会上位の選手も在籍しているし卒業してからプロの世界で活躍している先輩たちも多数いる。

 比較的容易に異性と交わることができるため、エロ目的で入部した同級生たちも多かったけれど今ではほとんど残っていない。
 普段の練習が地味でハードなので不埒な輩は自然淘汰されていく。中には女子部員に手を出して先輩たちに叩きのめされて不能になってしまうやつもいた。
 バトルファックの世界は純粋で過酷なのだ。

 先輩の多くは卒業と同時にプロ資格(=部活動の実績があれば実技試験が免除)を取得してプロ入りするのだが在学中にプロ資格を取得してしまう猛者も中には何名かいる。


 ちょうど僕の眼の前にいる戸田郁乃【とだいくの】先輩もその一人だ。
 大学の公式戦では無敗。
 すでにいくつかのプロチームから声がかかっているという逸材。

 僕が入学する前から彼女の噂は耳にしていた。類まれなセックスのセンスと実力に裏打ちされた実績。そして人目を引くビジュアル。雑誌にも時々登場する戸田先輩は僕だけでなく部員にとってあこがれの人なのだ。

 いずれはバトルファック……組手の相手をしてほしいと考えているのだが今はまだ雲の上の存在。声をかけることすら憚られる。

 ちなみに1年生の自分が戸田先輩に挑戦するためには女子部の下級生全員を倒さねばならない暗黙のルールがある。
 しかし今の男子部員にとってそれは全国大会優勝以上に厳しい条件だと考える。

 男子部と女子部では部員数が違う。
 比率で言うなら1:4で、圧倒的に女子が上。
 うちの部に限って言えば男子は女子の練習相手として存在する。

 大学側の厚意で女子同様の練習設備が整っているものの、多くは女子に実効支配されているので肩身が狭い。
 女子に常々バトルファック技の練習台にされてしまうため男子は自分の技を磨くための時間が取りにくいのが現状だ。体力だけは人一倍あるのに、皮肉なことに女子のサンドバッグにされがちである。
 男女の力量の差は歴然で、4年生の先輩男子ですら時々2年生女子の上位者に負けてしまうことがある。
 そして僕はまだ公式戦デビュー前のルーキー。1年生の女子はすでに新人戦をクリアして公式戦で何勝も上げているというのに……。

(迷うな! 今は基礎体力をつけてまずは同級生に勝つんだ!)

 既にある程度のスタミナはある。あとはスピードとテクニックが必要だ。
 部活内でうちの女子に勝てるようになれば間違いなく男子としては全国レベル。
 それが僕にとって年度内に達成したい目標だった。

 まずはフィジカルを磨こう。
 同時にメンタルを向上させよう。

 そんな思いを胸に秘め、黙々と筋トレを続ける僕にいきなり大抜擢の機会が訪れた。


「えっ、今日の部活は無理? 私との約束はどうなさるつもりですか」

 トレーニング室に設置されたマシンで腹筋を続けていると、不意に戸田先輩の声が聞こえてきた。思わず視線を向けてしまう。

(今日もきれいだなぁ……って、駄目だ! 簡単に欲情しちゃ!)

 視線を逸らして自戒する。でもまたすぐに見てしまう。
 それほどまでに先輩の立ち姿は美しかった。

 今日はまだ着替えを済ませていないレアな私服姿。
 普段なら練習着であるタンクトップやレギンス姿なのに珍しい。

「お酒を飲みすぎて動けないなんて言い訳が私に通じるはずがないでしょう。なんにせよ代表のあなたが来ないなら不戦敗になりますがそれでよろしくて?」

 長い黒髪を片方の手でさっと後ろに払って、腰に手を当てて通話を続けている。
 どうやらお怒りのご様子。それでもやはり美しい。

 ベージュのニットのセーターとワインレッドのプリーツスカート、それに黒のストッキング姿。どこからどう見てもきれいなお姉さんでしか無いのにリング上では無敗の女子バトルファック界期待の星というギャップがたまらなくそそる。


「は? あなたの代役ですか。男子の部員さんは……今のところ一人しか見当たらないようですけど」

 戸田先輩がちらりとこちらを見たような気がした。慌てて目をそらす。


「わかりました。本当にそれで良いのですね。後輩くんに代役を務めてもらいますけど後で結果に文句をいうのは無しですから」

 通話は終わったようだ。
 物騒な内容が聞こえたけど気にしないでおこう。
 自分にできるのは筋トレだけだ。

 だがその数秒後に通話を終えた先輩が僕のほうへ足早に近づいてきた!


「キミ、1年生の北上くんよね」
「はい」

 あまりの緊張感でそれ以上言葉が続かない。
 眼の前で僕を見つめる美女。その圧倒的なオーラに飲み込まれる。

(な、なにっ? こんな近くに先輩が来たことなんて新歓コンパ以来ではっ)

 戸田先輩は軽く腰を折るようにして僕の顔や体付きをジロジロと見つめている。
 もともと先輩と僕はほとんど背丈が一緒なので、マシンに座っている僕は自然と見下される格好になる。

「今からちょっと私の練習に付き合ってもらえないかしら。キミの先輩でもある紺野くんとバトルする予定だったのに急に都合が合わなくなっちゃって」
「そ、それで……?」
「私とキミで練習試合をしましょう」

 聞き耳を立てていた内容と微妙に違うけど戸田先輩が僕にバトルを申し込んできた。
 これはもちろん練習形式の組手なのだろうけど、

「……僕なんかで務まるでしょうか」
「そこは問題ないわ。私のほうでうまく調節するし。時間がもったいないからこのままリングへ上がってくれないかな」

 既に僕が引き受けることは決定事項らしい。

 周囲の女子が見守る中、僕は先輩に促されて先にリングへ上がる。
 それが男子部にとって重大な影響を与える一戦になるとも知らずに。


 僕に続いて先輩がリングへ上がると自然にギャラリーが増えてきた。

 女子の部員数は男子の数倍。
 しかも男子部のメンバーは今のところ僕しか居ない。

(はずかしい……しかも相手が戸田先輩だから公開処刑に等しいぞ)

 始まる前から完全アウェーでの試合という気持ちになる。


「今から事前説明するね。予定では1ラウンド15分間を1セット、お互いに絶頂回数は無制限でギブアップも可能。それから……」

 淡々と説明が続く。
 相変わらず先輩は私服姿だけどこのままバトルするのかな。

 そんな心配をよそに先輩からの言葉は終わろうとしていた。

「……以上でルール説明はおしまい。オッケー?」
「だいたいわかりました」
「最後に言い忘れたけど、キミの先輩・紺野くんとはひとつ約束をしていたの。このスパーリングの結果次第で男子の練習スペースを女子に明け渡してもらうって」
「えっ、待ってください!!」

 笑顔で告げる内容じゃない……
 とんでもないプレッシャーが両肩にのしかかってきた。

「彼自身との対戦じゃないから結果よりも過程を重視するつもり。私は男子の本気が見てみたいの」
「男子の本気……勝敗ではなく、ですか?」
「そう。だからキミは全力で頑張らなきゃいけないわ。手を抜いたり不甲斐ない姿を見せたら容赦なく紺野くんに言いつけるから」

 その場合は廃部かもね、と戸田先輩が続ける。

(嘘だろ……)

 自分でもわかるほど急速に血の気が引いてゆく。
 僕のスパーリング内容次第で男子部の居場所がなくなるってこと?
 そんなの責任重大すぎて一年生には無理でしょ!?


「ま、紺野くんが逃げ出した理由もわからなくはないけど、勝ち負けにこだわりすぎてて私はそういうの男らしくないなーって思うの」

 頬をプクッと膨らませながら戸田先輩が言う。
 くっ、かわいいけど騙されないぞ。

「そ、それはたしかにそうですけど!」

 戸田先輩がパチンとウィンクしながら人差し指を立てた。

「キミならきっと大丈夫だと思うわ」
「そう、ですかね?」

 励まされると嫌な気持ちはしないけどやはり不安だ。

 実際男子は女子に負けっぱなしだから強く言い返せない。
 ただ少しだけ悔しい気持ちはある。

「でも条件が厳しすぎます!」

 もう少しだけごねてみる。
 すると、戸田先輩は両手を伸ばして僕の顔を優しく挟み込んできた。

(あったかい手だ……)

 手のひらで触れられただけなのに急に心拍数が跳ね上がる。
 目の前にあこがれの人がいるのだから仕方ないのだけど。

「北上くん、キミはいつも真剣に体力作りしてるよね。今日も一人で筋トレしてた。ストイックな男性ってすごく魅力的よ」
「えっ、僕のことを見ててくれたんですか」
「もちろん。だからキミにお願いしてるの。私を助けると思って気軽にスパーリングの相手をしてほしいな?」

 僕の顔から手を離し、今度は両手を合わせてお願いしてくる戸田先輩。
 素敵な女性からここまで言われては退くわけにいかなくなった。

「わかりました。戸田先輩の胸を借りるつもりで」
「ふふ、エッチね♪ おっぱい大好き後輩くん」

 先輩は自分自身を抱きしめて胸を寄せるみたいな仕草をした。
 本当にデカいな……いかん、見とれてる場合じゃなかった。

「なっ! バトルファックだし、しょうがないじゃないですか! とにかく全力でやらせてもらいますっ」

 慌てたせいもあって最後は自分からお願いする形になってしまった。
 うまいこと乗せられてしまった気もするけど。



 試合用のタイマーを互いのコーナーに設置しながら先輩が言う。

「成り行きとは言え私から無理なお願いを聞いてもらうわけだから、キミからのお願いも聞いてあげようと思うの」

 どうやらハンディキャップをくれるらしい。これは予想してなかった。
 力量差を考えてれば当然だが、普通は相手から不利な条件を提示してこない。

(まあ単純に僕が舐められてると言えなくもないけど、これはチャンスだ)

 冷静に頭脳を働かせて考える。最初の1分間無抵抗でいてもらうとか、全裸で挿入した状態からバトルをスタートしてもらうのも悪くない。
 
 あれやこれやと思案した結果、

「……そのままの格好でお願いします」

 個人的な好みを抜きにして考え抜いた提案だ。
 プリーツスカートに黒ストッキングという私服姿のままならいくら先輩でも戦いづらいに決まってる。

(それにこんな姿の女性とバトルする機会なんてめったに無いだろうし)

 今の先輩はどこからどう見ても憧れのお姉さんだ。
 僕自身もテンションが上がるし、想像以上の力が出せるかもしれない。

(先輩だってせっかくの可愛らしい服を汚したくないだろうから動きが鈍るかも)

 もしかしたら拒否されるんじゃないかと思いつつ黙っていると、

「わかったわ」

 先輩は二つ返事でオッケーしてくれた。
 眼の前でニコニコしながら僕をじっと見つめている。

 よし、あとは戦うだけだ!

 お互いにニュートラルコーナーへ向かう。
 約10秒後に試合開始のブザーが鳴り響いた。



「さあ、はじめましょう」

 特に構えることもなく、リラックスした様子で先輩が微笑んでいる。
 ある程度余裕があって当然だろう。
 こちらはまだデビュー戦すらこなしていないルーキーなのだから。

「うっ……」

 向かい合ってみると先輩が纏う空気が重くのしかかってきた。
 百戦錬磨の女王の風格とでも表現すべきか。
 両手と両足が見えない鎖で繋がれたように感じる。

(でもこういう時こそ先手必勝だ!)

 自分を奮い立たせて呼吸を止める。
 グッと足を踏み込もうとした瞬間……先輩が目の前にいた!

「えっ……えええっ!」
「迷いすぎ。相手に合わせちゃ駄目。それに踏み込みがちょっと遅いかな?」

 そう言いながら先輩の長い腕が下から伸びてきた!
 真っ白な指先が僕の肩や首を狙っている。

「くっ!」

 とっさに回避を選択する。伸びてきた腕をはねのけて反撃、つかみ返そうとする僕の手が触れる前に先輩がバックステップした。

「ふふっ」
「こ、このぉっ!」

 出鼻をくじかれ翻弄されたことに悔しさを覚えながら追いすがる。
 しかし今度はフワリと漂う芳香を残して目の前から先輩の姿が消えた!

(死角にしゃがみ込み……違う、どこだっ、後ろか!?)

 そして左回りに振り返ろうとしたら逆サイドからタックルされた!

「うおおおおっ!?」

 慌てて右を向く。読みが外れてまた一手遅れた。
 低い位置からのタックルによってしっかり掴まれてしまった。
 僕の右半身に柔らかな先輩の体が絡みついている。

(なんだ、これ、あ、足が固められたみたいにッ!)

 細いのにむっちりした足が右足に絡んで動かせない。しかも長い腕が僕の背中に回り、惜しげなく豊満なバストをギュッとくっつけられてドキドキしてしまう。

 その柔らかさを感じる間もなく左足が軽く払われた。
 反射的に踏ん張っていたのでバランスが失われる。

「くそっ……!」

 体勢が崩れそのまま視界が周ってマットに倒された。
 あっという間の出来事。
 ここまで開始から30秒も経っていない。

(動きが速すぎるっ!)

 僕は倒されたまま戸田先輩の香りに包まれ、お尻に軽い痛みを感じつつ部室の照明と戸田先輩を見つめていた。

ググッ……

 背中に回されていた先輩の手が僕の腕をひねり上げた。

「あ、ぐああっ!」
「相手に掴まれたらもっと早く逃げださないと駄目よ」

 耳元でしっとり優しい先輩の声。
 こんなに密着してくるなんて!
 あまりの速さに状況判断が全くついていかない。
 この体勢は興奮よりも恥ずかしさと悔しさが勝る。

(いったん距離を!)

 抜け出そうとして左肘を立てようとしたら斜めにずらされ、左足でマットを蹴ろうとしたら今度はぐいっと引き寄せられて空振り。ひねられて自由が利かない右腕は離してもらえず右足も体重をかけられてマットを蹴れない。

 戸田先輩のボディコントロールがうますぎるのだ。
 自分の体なのに思うように動かせないもどかしさに苛立つ。
 その一方で先輩はニヤニヤしながら僕の体を攻略してゆく。

「キミの動きはわかりやすいから楽ね」

 悔しい。どうやって自分が押し倒されたのかもわからないうちに一秒ごとに手足が極められていく感覚。少しずつ戸田先輩の位置が僕の背中へとスライドしてゆく。

 そして一分後。

「はい、できあがり」

 動けないまま背後から先輩の声を感じる。
 硬いリングマットではない暖かさを全身に感じていた。

「うぎっ、あ、ああぁぁ……そ、そんな!」
「驚いた? これは私が得意な拘束技のひとつよ」

 僕は仰向けにされたまま先輩の体の上に乗せられていた。

 下半身は戸田先輩の両足が後ろから絡みついて動かせない。
 上半身は既に片方の腕がねじられ感覚がない!

 自分の状況を理解しても満足に身動きが取れない!

「くうっ、ああああっ!」
「その程度の抵抗じゃ私からは逃れられないわよ。それっ」

 ギリギリと全身が締め付けられてゆく。
 僕の首に先輩の細腕が差し込まれ、簡易スリーパーホールドみたいになってる!

「ぐ、ぐるじ……」
「あらあら、北上くんは女の腕も振りほどけないのかな?」

 クスクス笑いながら先輩が言う。
 だがどんどん首が締まって苦しさが増してゆく!

「時々緩めて安心させながらもう一度締め付けると……どう?」

 にわかに先輩の声にサディスティックな色合いが滲み出す。

(苦しいに決まってるじゃないか!)

 でも声が出せない。呼吸するだけでいっぱいいっぱいだ。

 まるで蛇に巻き付かれた小動物のような状況なのだと思い知る。
 このままでは毒牙にかかってさらに追いつめられてしまう。

(はや、く、抜け出さないと、いけないのに!)

 細腕を振りほどけず気持ちばかりが焦る。先輩の体のどこにこれだけの力があるのかわからないが、彼女は巧みに手足を使って僕を拘束し続けた。

 その結果、わずか一分足らずで僕はスタミナを戸田先輩に絞り取られてしまった。

「見てご覧なさい。身長は同じくらいなのに、私のほうが脚が長いみたい」

 すっかり弱々しくなった僕を抱きしめながら先輩がささやいてくる。

「ううぅぅ!」
「可哀想な後輩くん。お姉さんの脚に絡まれて抜け出せなくなっちゃったね」

 くそっ、くそっ! 悔しいけど言い返せない。

 背後から抱かれた上で両足の自由まで奪われているのだ。

 さらに腕に力が入らない。
 普段の半分くらいしか出せない気がする。

「ストッキングを履いたままだと本当は滑っちゃうんだけど」

スリスリスリスリ……

「あうああああぁぁーーーーっ!」

 不意に全身が震えた。予期していない刺激のせいだった。
 わざと必要のない無駄な動きで戸田先輩が美脚を使って僕の体にストッキングの感触を刻みつけてくる。

(きもちいいっ、だめだこれ、おぼれちゃううううぅぅぅ!)

 練習着越しに感じた美脚の感触は凶悪の一言に尽きる。

 しかも先輩はちゃっかり指先で僕の乳首を責めてきた!

カリカリカリッ

「あああああーーーーーーーーっ!!」

「乳首をくすぐられたら力が抜けちゃうでしょ。でもこれ、今のキミにはごほうびになっちゃうかな? うふふふふ」

 微弱な電気を流されたみたいに全身が震えてる……

 妖しげな心地よさに思わず身を委ねてしまいそうになる。

(きもちいい、けど、自分から、屈するわけには……!)

 男としてのプライドが甘い刺激を拒絶する。

 しかもペニスにまだ直接触れられていないのだから屈辱的だ。
 こんな残酷な誘惑をされたことなんて今まで無かった。


「は、はなせっ!」
「先輩に対する言葉遣いがなってないわね。悪い子にはいたずらしちゃおっと」

 気づかぬうちに左脇から伸びてきた細い指先がペニスを掴んでいた。

 僕より足が長いということは、きっと手も長いということで――

クニュンッ!

「ふあああっ!」

「かわいい鳴き声ね」

 身動きがとれない僕の体に魔性の指先が絡みつく。

 そっと包み込むように亀頭の先を弄び、軽くひねりを加えて我慢汁を搾りながらやわやわと揉み込んでくる。

「はああああっ! だめっ、だめですっ」

 男を駄目にする指使い……戸田先輩は手コキも一流なんだ。逃げようとする方向に指先が追いかけてくるみたいで、じわじわと全身に広がってくる。

 快感で顔を跳ね上げる僕を見つめながら満足げに彼女は笑う。

「大げさね。ほぉら、もっと指先で味わってあげる」

 本格的に戸田先輩の指コキが始まろうとしていた。

 人差し指と中指の第一関節が的確にカリ首を捉え、手首のスナップをきかせ始めた。
 すぐにクチュクチュという音が響き始め、恥辱で僕の顔が赤く染まる。

 さらにそこから先輩は微振動を加えようとしている!

「それっ、シコシコシコ~♪」
「ひいっ、あああ、ま、まって!」

 それは指先だけでペニスをくすぐるような動きだった。

 爪の先で表面を軽く引っ掻いて、指の腹で感じやすい場所に粘液を塗る。

 単純なその繰り返しがたまらなく気持ちいい!
 とくに細かくカリ首を刺激されると反射的に悶絶してしまう。

(ああああっ! だめだ、これだけで、で、でちゃうっ!)

 性感帯を直接コチョコチョされるようなテクニックに慌ててその手をつかもうとしても美脚で阻まれる。そしてさらにペニスを弄り回され脱力してしまうという悪循環。

「本当に非力ね。女の子の力なのに振り解けないの?」
「ち、ちがっ、ああ、だって!」

 力を入れようとしてもすぐに抜け落ちてしまう!
 性感帯を弄ぶ指先に逆らえない。

「ほらほら、もっと抵抗しないとこのままフォールされちゃうよ? 体力づくりしていてもこの程度なの? ちょっとがっかり……あ~~~~ん」

カプッ、チュルルルルル

「んっ、あっ……はああああっ!! だめえええええええ!!」

 背後から囁かれた後で耳たぶを軽く噛まれ、雑にすすられる。
 思わず情けない声を出してしまった。
 それを見ていた周囲の女子たちからクスクスと笑い声が聞こえてきた。

(きもちいけど、こんな、くやしい、手も足も出ないなんて……ッ!)

 気づけば左手も自由に動かなくされていた。
 いつの間にか背後で肘まで折りたたまれ、先輩の体と自分の背中の間でねじりあげられている。逆に先輩は自由になった手で僕の体を抱きしめ、引き寄せるようにしながら指先で乳首をコリコリと刺激してくるのだ。

レロォ……

「ひゃううううっ!」

 耳と首筋をやさしく舐められ僕が悶えると、戸田先輩は息を吐きながら微笑んだ。

「ちょっと舐めただけなのに敏感すぎ。このままじゃ可哀想だから、デビュー戦の前に私で慣れておきましょうね」

レロッ、チュルル、クリクリクリ……!

 容赦なく無防備な場所を舐められる。全国トップレベルの舌技で!
 しかもおまけに乳首を指先で転がされてるううううぅぅぅ!

「うあっ、ゆるしてっ、先輩ッ」
「んふふ……まだだぁめ♪ それに私、そういう姿を見るとテンション上がっちゃうタイプなの」

 恥ずかしすぎて横を向く。
 部室内にはトレーニング時に自分のフォームを確認するための大きな鏡がある。
 今そこに映っているのは全裸に近い自分と清楚なニット姿の戸田先輩。

(ああ、僕は先輩を裸にすることすらできないのか!)

 自分の不甲斐なさに絶望したときだった。

チュピ……

「ひうううっ!」

 首筋を舐められ、血管の真上にキスまでされてまた僕は喘ぐ。

 優しいキスの跡がすべて性感帯になっていくみたいで怖い。
 ジタバタともがいているつもりでも先輩はしっかりと動きを封じていた。

「さあ、おっきしましょうね。 ボ・ク♪」

 体を抱き起こされ、リングの中央で脚を放り出して座らされた。その背後から先輩が覆いかぶさってかかとを使い、僕の足をぐいっと大きく広げてくる。

「ボクちゃんのかわいいところ、みせて?」

「あ、あああっ、やめて……!」

 戸田先輩に赤ちゃん扱いされて興奮してしまう。
 そんな趣味なんて無いはずなのに。

「ほら、女子のみんなによく見てもらいましょうね」

 いわゆる屈辱固めの体勢である。しかも全く外れそうにない。
 僅かに残った体力が今さっきまでの攻防で失われてしまった結果、膂力で劣るはずの先輩に抑え込まれてしまったのだ。

(ううっ、先輩の胸が背中に当たってる! しかもこんなに密着して、好き放題舐められてるのに返せないなんて!)

「ふふふ……ぎゅうううううう~~~!」

「ああああああああーーーーっ!!」

 先輩に抱かれ、柔らかさに包まれたせいでペニスが硬くなる。


「……やだ、見てあれ」

「ああいう趣味があったんだね、彼って」

「今度私も試してみようかな~」

 股間の変化に気づいた女子がいやらしい視線と言葉で遠慮なく僕を犯してくる。

 容赦ない羞恥責めから逃げるように天を仰いで歯を食いしばる。

「ちゃんと見てなきゃだめでしょ?」

 先輩の手が顎に添えられ、無理やり僕の顔をぐいっと横に向けてきた。

「あ、あっ、あああ!」

「ふふっ、どうしたのかな?」

 先輩の瞳がじっと僕を見つめている。
 視線をそらせないまま恥ずかしさだけがこみ上げ、膨れ上がってきた!

(逃げたいのに、気持ち良すぎて逃げられない!)

 心と体の両方が犯されていくのを感じる……

 そして上半身だけでなく下半身も快感で拘束されていると気づく。
 ストッキングに包まれた長い脚が僕の腰から下に絡みついて動いているのだ。

(あ、ああぁ、サラサラして気持ちいいッ、これは、だめだ! こんなことならまだ素足のほうが我慢しやすかったかもしれない)

 黒ストッキングの感触は想像以上に心地よく、しかもわずかでもうごくたびにその刺激をこちらへ味わわせてくるのだ。
 つま先が膝裏に差し込まれて動けないばかりか、じっとしているだけで情けなさと快感を刻みつけられてゆく。

「すっかり甘えん坊さんになっちゃったね」

「はぁ、はぁ、はぁっ……!」

 男子の意地を見せるために抵抗し続けなきゃならない。
 それなのに力がどんどん抜け落ちていく……

「今から天国へ連れて行ってあげる。キミ程度なら足技だけで充分かも」

 優しい声で囁かれる辛辣な言葉。
 その時になって僕は先輩からこの上ない辱めを受けていることに気がついた。


 開始から三分経過。
 相変わらず僕は先輩に背中を抱かれたまま動けずにいる。
 しかも折りたたまれていた腕はすでに解放されていた。

「くうううっ!」
「それで全力? 手足に全然力が入ってないよ」

 必死の覚悟でもがいても抜け出せなかった。先輩が試合着でも練習着でもない姿であることがさらに屈辱感に追い打ちをかけてくる。

「右手ももう満足に動かせないみたいね。じゃあ……」

さわさわさわさわっ

「うあっ、ああああ、なにこれええ!?」

 突然の刺激に上半身をビクビクと波打たせる僕をしっかりと押さえつけながら、先輩の手のひらが軽やかに僕の胸を撫で始める。

「足技で射精する前に上級生の指技も味わっておきなさい」

 先輩は背後から僕を抱きながら両手の人差し指を滑らせて乳首の周りをくるくると弄び始める。すぐにその指先が二本に増えて薬指と人差し指で乳首を左右からピーンと引っ張った。

「な、なにを……」
「キミの乳首さんを念入りに気持ちよくしちゃうの」
「え」
「敏感にされた乳首を指先で舐めてあげる。ほらぁ、ペロンッ♪」

ピンッ

 控えていた中指が、僕の左右の乳首を同時に軽く弾く。

「ふああっ!」
「うふふ、もう一度……ペロンッ」

ピンッ

「あああああああああ!!」

 楽しげな声に少し遅れ、ピリピリした電気みたいな刺激。
 ほんの少し指がかすめただけなのに簡単に喘がされてしまう。

(どうして……そうか、わ、わざと二本指で乳首を張り詰めさせて!)

 わかっていてもどうしようもない。
 戸田先輩の指がもう一度僕の乳首を弾く。

ピンッ

「うああああっ!」

 今度は楽器のようにさえずってしまった。
 優しいはずなのに下半身に直結する鋭い刺激だから耐えられない。

「少しだけ爪を立てて、と」

クニュクニュクニュ……

「あ、うああぁぁぁぁ~~~~!!」

 今度は一転して優しい刺激。しかも快感を深く味わわせるために先輩が指先でグリグリと乳首を押しつぶしてきた。

 触れられてもいないのにペニスが上下に跳ね上がるのを感じた。

(こんなに、寸止めされたら、おかしくなる……)

 今すぐイキたい。体が次の刺激を求めてしまう。
 きっと我慢汁も大量に湧き出しているに違いない。
 でもそれを口に出すのはダメだ……僕は今、男子部の代表なんだから。

「ふぅん、けっこう頑張るんだ」
「も、もちろんです……」
「じゃあこのまま女の子みたいにイってみる?」

 涼し気にそう言いながら愛撫が続く。ペニスへの刺激はおあずけのまま下半身は固定され、胸への刺激だけで性感が高められてゆく。

「乳首さんはこれくらいにして、今度は全身おちんちんの刑よ」

 そしてまたさっきとおなじ手つきで全身がくすぐられる。

スリ、スリュ……

「うっ、あっ、ああっ、それえええ!」

 恥も外聞もなく僕は叫ぶ。わかっていても抜け出せない女体地獄。僕の体をペニスに見立て、先輩の手のひらが快感の軌跡を描くように自由に胸の上で這い回る。胸から脇、腹部、腰回り、そしてまた胸に戻って際限なく感度が高められていく!

「今度はお耳と乳首さんで、ね?」

クリクリ、チュプチュプ、コリコリコリ……

 美しい指先が乳首を弾いてくる。甘美な不意打ちに仰け反ると耳たぶを甘噛みされ、耳穴に吹き込まれた吐息とともに脳内までかき混ぜられた。

 もはや先輩の手は僕への拘束に使われていない。上半身をひねることすら難しいほど体力が絞り取られているのをわかっているからだ。

「いじめるのはそろそろ終わりにしましょう」
「え……」

クニッ

「ひっ」

 突然やってきた直接的な刺激に声が上ずってしまう。視線を落とすとトランクスの上にストッキングに包まれた足がそっと乗せられていた。

「いいこいいこしてあげる」

「え、えっ、だめっ!」

「素直じゃないのね。ほーら、いいこいいこ……」

しゅっしゅっしゅっしゅ

「うあっ、あああああ!きもちいいっ、きもちいいいいい!」

「ふふふ」

 既にたっぷりと染みを作っていたペニスが切なく震え次の刺激を待ちわびている。

 先輩の足はとても柔らかかった。絶妙な圧力で優しくすりおろすような動きを繰り返されると僕の声がさらに高くなる。

「今まで意地悪してごめんね。感じすぎちゃったよね。ここからはキミの好きなところで優しくいじめてあげるから」

 慰めるような先輩の甘ったるい声が耳に心地よく響く。
 それだけで溶かされてしまいそうなほど心に染み込んでくる。

 長い脚が僕の腰に絡みつき、感じやすい場所を探るように足の裏がペニスを刺激しはじめていた。



 まるで今の自分は蜘蛛の巣に捕らわれた獲物みたいだ。
 抵抗する力を奪われリングの中央で仰向けにされたままの自分を俯瞰する。

 我慢汁がトランクスに大きなしみを作っている。

 エアコンの風が体を掠めただけでたまらなく気持ちいいほど感度が上がってる。

 そして僕を抱いているこの女性に逆らえない。

「私の足でスリスリされるの好き?」
「は、はいいぃぃ……」
「じゃあもっと良くしてあげる」

 先輩の美脚に僕の股間は蹂躙され続けていた。

 抗えない心地よさの中で恐怖すら感じる。
 年上とは言えわずか三歳違いの女性のテクニックに手も足も出ないのだから。

「脱がせちゃうね」

シュッ……

 先輩は器用に足の先を使って僕のトランクスをずらし、つま先で無防備になったペニスをくすぐるように撫で始めた。

「これ、とっても気持ちいいんじゃない?」

ヌチュッ、グチュッ

「うっ、うううう、ああああーーー!」

 サラサラした感触が優しく何度も僕を包み込む。
 ペニスで感じるだけでなく全身がこの刺激を求めてしまっている。
 これが非常に厄介だった。

(ストッキングに責められてる、先輩の足、こんなに綺麗で、エッチな動きをして、どれも好きだけど……こんなに気持ちいいなんて!)

 最近の先輩は普段からストッキングを着用していた。ずっと遠目でそれを見つめているうちにいつかあの足で犯してほしいという願いが僕の頭の中で生まれていたようだ。

 女性の肌と同様にきめ細やかなストッキングの感触は男を悩ませることはあっても休ませることはない。

「もっと元気にしてあげる。よく見てて」

 そう言ってから先輩は身を起こす。
 リングの中央で座り直し、さっきより強く両脚で僕の腰回りを締め付けてきた。

(蟹挟みされて、ち、ちからがはいらない……)

 このまま立ち上がるなり這い回って拘束から逃れなきゃいけないのに、僕は目の前でゆっくり動き始めた美脚に魅入られていた。

「喜ばせてあげる。いっぱい我慢して見せて」

 耳元で先輩がささやく。
 両手を僕の脇の下へ通してしっかりと上半身を固定、腰から回した左足は男根を支えるように添えながら、右足の足の裏をクネクネと動かしながら亀頭を撫で始めた。

「性技・カリ磨き。手コキでも可能だけど足コキのほうが屈辱的よね」

クチュクチュクチュクチュ♪

「んあっ、あああああーーーー!」

 戸田先輩は左足を極力動かさず、右足の動きだけでカリの側面から亀頭の先端までを丹念に擦り上げてゆく。足の指とは思えない細やかな動きが目の前で繰り広げられ、敏感なペニスの脇を何度も優しく削り取られていくうちに射精感が高まっていく。

「今度は逆よ」

 左右の足の動きが反転すると再び新鮮な快感が全身を包み込む。
 着衣のままで先輩が僕を圧倒している。ストッキングに包まれた足が目の前で軽やかに揺らめいて僕に快楽を刻み込んでくる現実。

「キミが脚フェチなのは対戦前からわかっていたけど、このままだと普通の女の子を見ただけで勃起しちゃうようになるかもね」
「そんなっ、ことは!」
「ううん、絶対になると思うなー。少なくともストッキング姿の私と向かい合ったら、今日のことを思いだしちゃうかもね?」

 足の動きと同時にささやかれる淫らな解説が僕の頭の中を駆け巡り、抱きしめられている柔らかな肢体によって抵抗の意思が削がれる。


「そろそろトドメを刺しちゃうね」

 亀頭への責めがピタリと止んで、先輩の足の裏がペニスを左右からやんわりと押しつぶしてきた。

「このままじっとしててあげる」

 その言葉通り先輩は動かない。

 今まで僕を悩ませてきた刺激はなくなった。
 それなのにさっきよりも先輩の脚をリアルに感じている。

ピクッ

(あ、ああぁぁ……どうして?)

 挟まれたペニスが足の裏の間で震え始めた。

 眼の前で挟み込まれているだけなのに抗えない。
 自ら刺激を欲してしまいそうだ。
 抜け出そうと思えば可能なのに動けない。

ピクピクッ!

(きもちいい、いいのに、たりないよぉ……!)

 淫らな思いが頭に充満してそれがダイレクトに股間へ降りてゆく。
 無意識にモジモジと体を揺らしてしまう。
 ストッキング越しの足の裏で軽く圧迫されているだけなのに、とろけてしまいそうだ。
ビクビクビクッ!!

「あああああっ!」

 勝手に腰の奥からグツグツと精液がたぎってくるみたいで、体中が痺れていく。

「これでおしまいね」
「うあっ、そんな……くそおおっ!」

 震えだす体を止められない。しかし戸田先輩が僕をギュッと抱きしめ、耳の穴に優しく注ぎ込むように声を紡いだ。

「ほら、イっちゃえ♪」

ツプッ

「あ……」

 今まで耳たぶを噛むだけでそれ以上のことをしなかった先輩が、舌の先を僕の耳穴に差し込んできた。

(犯された……耳も奥、まで……あ、ああああ、出るッ!)

 それが最後の抵抗力を奪い去った。僕は言葉も出せずにガクガクと全身が震え、今までためまくっていたものを一気に吐き出してしまう!


ドピュウウウッ!

「んはああっ、うあああああああああーーーーーーーーーっ!」

 先輩に体を預けたまま僕は盛大に爆ぜた。
 じっくり熟成された寸止め精液がまっすぐに天井めがけて立ち上る。

「あはっ、出た出た♪ ちゃんとしごいてあげるから」

しこしこしこしっ

「だめえええ、いまはああ、うああっ、ま、また!」

ビュルウウウッ!

 先輩の絶妙な足使いによって残っていた分も搾り出されてしまう。

 何回かに分けで断続的に精液を拭き上げた後、硬さを保ったままのペニスが切なげに打ち震えていた。

「のこり8分。ギブアップする?」

「まだ、やれます……」

 気絶しそうな状態で僕は拒絶した。

 でも勝ち筋が見えない。

 負けてはいけないステージだというのに勝てる気がしない。
 敗北を拒絶する気持ちが彼女の腕の中でジワジワ溶かされていくのを感じていた。


「じゃあ立って」

 ギブアップを拒否した僕を先輩が抱き起こす。抱きかかえた僕の体をコーナーへ押し込んでから先輩がギュッと正面から抱きついてきた。

 あまりにも顔が近い。そのままキスできるくらいの距離で見つめられるとドキドキが止まらなくなってしまう。

「え、えっと、先輩……」
「さっき『まだやれます』っていったよね。あの言葉が本当かどうか確かめるから」

 小さな声でつぶやいてから先輩は笑った。
 その表情に見とれていると、急にペニスが生暖かい場所で挟み込まれるのを感じた。

「え」

「ふふっ、やっぱり私よりも短いみたいね。足」

 恋人同士のように抱き合いながら先輩は一瞬だけ背伸びをしたように見えた。
 その直後にやってきた刺激……まさかこれは!

「試合でもこうして相手にわからせてあげるのよ」
「なっ……」
「ファンの間では『美脚処刑』なんて呼ばれてるみたいだけど、ちょっと失礼よね? 男性にとって泣き出すほど気持ちいいんだから」

 立位での素股だと理解したときには遅かった。そして僕はこの技を知っている!


「テレビの放送とかで見たことあるでしょ。キミのおちんちんも私の太ももで踊らせてあげる」
「ッ!」

 過去の対戦試合のレポートで見たことがある。
 先輩の美脚処刑はその名のとおり男殺しの技で、コーナーに追い詰められた相手は逃げ出せない快楽拷問に泣きながら許しを請うのだ。
 
 投げ技や絞め技で相手を弱らせてからコーナーへ追い込む。
 そのころには試合の主導権は完全に自分のものになっている。

 そして本番ではなく対面立位の素股で相手を屈服させる。

 合理的な技だ。
 でもその技が自分にかけられるなんて思ったことはない。

(早く逃げなきゃ! 立ったままノックアウトされてしまう!)

 しかし無駄だった。
 柔らかな太ももに挟み込まれたペニスに逃げ道は用意されてなかった。

キュッキュッキュッキュ!

「ふあっ、ああ、せっ、あああああ!」

「ふふふ♪ 可愛い声で鳴いてくれるんだね」

 断続的にトントンと背伸びをするよう先輩の細い体が目の前で浮き沈みを続ける。

(こ、これっ、きもちいいけど、はずかしいいいい!)

 コーナーポストにもたれかかるようにしながら一方的に刺激される屈辱と、目の前の可愛らしい顔立ちの先輩を感じながら興奮があっという間に上昇してゆく!

 周囲の部員たちからも失笑がこぼれ、自分がひたすら受け身であることを思い知らされた。それなのに気持ちよさがすべてを塗りつぶしてゆく。

 先輩の細い体に抱きつこうにも両手がトップロープに絡んでいるから動けなかった。
 コーナーへ押し込まれた時点で貼り付けにされていたのだと気づく。

「おちんちんはずいぶん張り詰めているようね。これなら続行可能かもしれないわ」

(それでもまずい、このままじゃ!)

 このままでは全身が骨抜きにされてしまう。
 頭の中をよぎった危機感を最大限に膨らませ、僕は全身を奮い立たせて先輩の拘束技から抜け出そうとした!

「うわあああああああああああああああ!!」

 全身の力を振り絞ってコーナーから、ロープの拘束から逃れる。
 みっともなくリング上に前のめりに倒れ込むと鈍い痛みに襲われた。


「脱出できたのは褒めてあげるけど、早く立ちなさい」

 涼し気な先輩の言葉に従ってヨロヨロと立ち上がる。
 倒れたままでは負けなのだから。

 だがこれだけで体力が底をついているのを実感した。

(わざわざ僕が立つのを待たなくても……クソ、体がもう動かない)

 倦怠感がひどい。
 激しく射精したせいもあるけど、美脚処刑で寸止めされたのもきつい。

 自力で窮地を脱したつもりだったが、それすら彼女の演出に過ぎなかったのかもしれない……僕に無駄な体力を使わせるための。

 先輩は優雅に僕に近づき、右手で手首をつかんだ。


「やだ、もうボロボロじゃない。興奮してきちゃう。えいっ」

 視界がグルンと回って豪快に押し倒される。
 柔道の背負投げみたいな技を受け、背中を強打した。

「ぐっ、ううぅぅ!」

「せっかく立ち上がったのに無駄になっちゃったわね」

 たいした痛みはないがもう自分で立ち上がれる気もしなかった。


「ここからが本番よ。ふふふふふ」

 僕にまたがった先輩がゆっくり腰を落とそうとしてくる。

(これ、騎乗位……駄目だ、動けない……)

 見上げれば先輩の整った顔がよく見える。
 抜け出したいけど体が動かない。
 どうやら投げと同時に抑え込みまで完成するような技だったらしい。

「頑張ったキミへのご褒美。枯れるまで犯してあげる」

 その一言に僕の脳内が痺れた。
 先輩に犯される?
 プロ入り確実で、憧れの女性がはっきりと口にしたのだ。

「お望み通りこのままの服装でセックスするからね」
「あうっ、く……」
「普段着姿の私に犯されたいなんて、キミはなかなか見どころあるわ」

 僕に見せつけるようにスカートの中へ手を差し込み、片足づつストッキングを脱ぎ始める先輩。

シュル、シュルルル

(うわ……)

 目を皿のようにして僕はその光景に見とれた。
 そのシーンだけで何度でもオナニーできそうなほどエロい。

 黒ストッキングの下に隠れていた先輩の生足がゆっくりと現れる様子は下手なアダルト動画よりも刺激が強いだろう。

 そしてその奥に見え隠れする茂みは間違いなく名器。
 対戦成績が物語るように男を必ず敗北させる魅惑の器官。

 今までの流れでこちらは完全に脱衣状態だが先輩は未だに無傷。
 むしろ着衣の利点を存分に発揮していると言っていい。

(こんな調子で残り時間を耐えられるのか僕は)

 魅力的な美脚を包むストッキングを用いた亀頭研磨もそうだったし、柔らかなニットの感触で僕を抱きすくめ、長い手足を見せつけるような手コキで僕を翻弄してきた。
 そんな先輩の騎乗位が男にとって天国でないはずがない!

「怯えなくてもいいの。ただ気持ちよくされちゃうだけなんだから」

 僕をまたいだ戸田先輩が膝立ちになる。
 ふわりとスカートがペニスを覆い尽くす。

 そして、

ピチュッ、スゥーーーーー……

「うっ! あああ……」

 ため息が出るほどの気持ちよさ。ただなぞられただけなのに!

 プリーツスカートに隠された秘所が長い間寸止めを喰らい続けていたペニスに触れた瞬間、トロリと腰の奥から何かが溶け出すのを感じた。

「どうかしら。私のアソコ、感じてくれた?」

 ゆっくりと腰を前後にスライドさせる先輩を見つめながら僕の呼吸が荒くなってゆくのだけはわかる。

 あ、熱い! まだペニスの表面が膣口に触れただけのはずなのに先輩のオンナ自身はとても熱かった。
 ジュルジュルと舐めあげるような腰使いとともに愛液がペニスを覆い始める。

「キミのおちんちんと正式にキス……しちゃったね」

 快感で身動きができないまま先輩を見上げる。

 まだ挿入していない。それなのに、腰のクビレから下だけをクネリクネリとうごめかす騎乗位素股にこの上ない一体感を感じてしまう。

「どんどん硬くなってる……」
「あ、あああ、せん、ぱいッ、すごい、こんなにっ!」
「うふ、なぁに? ちゃんとお話して」

 表情のひとつひとつが愛らしい先輩。
 そして人差し指を口元に当てながら恥じらうような見下し。

「せっかくだし、手もつなごうか?」

 僕の右手をそっと左手で包み込む先輩。
 指と指を絡ませ、恋人同士みたいにキュッと握って見つめ合う。

「好きです……」

 無意識にそう口走っていた。
 大きな瞳に吸い寄せられるみたいに気持ちが勝手に言葉に変換されていたのだ。

「うふふっ、じゃあ挿れるわね。キミの気持ちを大切にしてあげる」

 僕をじっと見つめながら先輩が腰を沈め始める。

 肉棒を自らの愛液で甘やかし、たっぷり濃厚な味付けをして彼女は宣言する。


「でもこれはバトルファックだから。もし私の膣奥で残り時間の全てを我慢できたらキミの勝ちでいいよ」

 余裕たっぷりの表情で腰を少し浮かせ、位置を確認することもなくペニスを自らの内部へと導いた!


クプッ

 柔らかい花弁がペニスの先端と触れ合い、交わった。

「んっ、うううう!」

 この喘ぎは僕だ。
 目をぎゅっとつぶって震える手のひらで口元を抑えた。
 そうしないと叫んでしまいそうなほど気持ちいい!

 すると不意に先輩が僕の頬を撫でてきた。

「私の目を見てて。体だけじゃなくて心まで満足させてあげるから」

プチュッ

 美しい顔に見惚れるのと同時にペニスの先が膣口でキスされた。
 そのまま軽い抵抗を伴って亀頭が膣内へ潜り込んでゆく。


「ありがとう。お礼にこっちにも」

チュ♪

 心臓が飛び出しそうになる。初めて先輩にキスされた。
 憧れ続けた女性の唇は極上の柔らかさで、欲情する以上に恋慕の気持ちが胸にこみ上げてくる。

(もしかしてこれが、バトルファックの真髄……なのか……)

 相手を自分に夢中にさせる性技。
 相手を溺れさせる確実な一手。

 自分が相手を好きになって心を掌握する。

(理解したのに、もう反撃できない、こんなのって……幸せすぎるっ)

 きっと戸田先輩は無意識にこれを行っているんだ。
 そして最後まで自我を保って相手を堕とす。

 だから無敗。
 このバトルを通じて僕は先輩の強さの秘密を垣間見た。

 理解と同時にペニスをガードしていた緊張感が緩んで腰回りが暖かくなる。
 もう限界だった。

(こ、こんな熱く溶け合えるなんて! だめだ、溺れちゃ駄目なのにっ)

 負けるにしてもせめてギブアップしない。
 それが最後のプライドだ。
 歯を食いしばって甘美な刺激を受け入れる。

 僕の意思を感じ取った先輩が微笑む。

 熱くネットリとした感触で先端が抱きしめられたように感じた。
 思わずため息が出そうになる。

(善戦すれば、結果じゃなくて経過を見せれば僕の勝ちにしてくれるって言ってたから、絶対に我慢し――)

「ふふっ」

 不意に膣口がキュっと締めつけてきた。
 亀頭全体が抱きしめられ、緩んで甘やかされてからまた締め上げてきた!

「いっぱい気持ちよくなってね。私の中で」

 まだ入ったばかりだというのにキツい!
 しかしその感覚のまま先輩はゆっくり腰を沈めてくる。

クプウウゥゥゥ……キチュ、クプゥゥゥ……

 深く沈めたと思ったらすぐに浮かせて元の位置より少しだけ深いところにもう一度突き刺してくるテクニック。

「あぁ、先輩ッ!」

「これが膣技・快楽輪廻(エクスタシーループ)。じっくりキミを味わってあげる。だからキミも……楽しんでね?」

 入り口の狭さを味わいながらペニスが半分ほど飲み込まれ、また戻された。
 もしここで自分から突き上げなどしようものなら僕は暴発してしまうだろう。

(……すご、いっ! 膣内がざわめいて、何度も抱きしめてくれる!!)

 先輩の内部は騎乗位スマタの時に予想していた以上に熱く僕に抵抗を許さない。
 締まりの良い膣口という第一関門をくぐり抜けた先端は、すぐに第二関門へと向かわされた。

「もうすぐ全部飲み込まれちゃうね。キミの大切な所が」
「し、しめつけるのっ、すこし緩めて!」
「だ~め♪ まだまだ気持ちよくなるんだから」

 締め付けが強いだけでなく内部が緩やかにうねり続けているのだ。
 侵入者を逃さず味わい尽くすように肉襞がヒクンヒクンと波打ちながら感じやすい場所を責めてくる。
 先輩の膣内はそんな優しくて残酷な感触を絶え間なく僕に与えてくれる。

「満足してくれてるみたいね」
「すごい、すごいです!」
「こんなこともできるよ」

キュウウウウウウ~~~~~ッ!!

 やわやわとペニスを甘やかしながら弄んでいた膣内が突然ピッタリと吸い付く感触に変化した。例えるなら全身にキスをされ、唇で跡が付くほど吸引されているような!

「私のオマンコがね、キミのことを離したくないって言ってるよ」
「う、うれしいですっ!」
「じゃ、私の一番奥まできてみる?」

 甘ったるい声でささやかれると戸田先輩のことがますます愛おしくなる。
 嘘だとわかっているのに、誘惑だとわかっていても抗えない。

キュ、キュゥゥ……

(逃げたいのに離してくれない! それ以上に言葉が出せないほど気持ちいい……!)

「このままねじこんであげるね」

 今まで以上に先輩とひとつになっている気がした。その事を強調するように先輩は上半身を僕に預け、ベッドと自分の体でサンドイッチしてきた。豊かなバストが僕の肺を圧迫するように押し付けられる。指先でしっかりと僕の両手を掴み、片方の手は恋人つなぎのままになっていた。

(ま、また膣内が締まって先端が、撫でられながら擦れて……動けないのに、動けないのが気持ちいいなんて想像したこともなかった!)


「忘れないで。キミは男子の代表なのよ。私に負けたら男子は廃部。解体されて居場所を奪われちゃうかもしれないんだよ?」

 憧れの先輩と密着して、体と一緒に心が溶かされていく。
 今すぐに射精してしまいそうだけどギリギリのところで踏ん張る。

「ぐ、ぎぎ……!」
「そうそう、頑張って」

 全身の力をかき集め、ブリッジで跳ね返そうとする。
 時間をかけてググッと膝が浮き上がったときだった。

「頑張ったぶんだけ惨めに崩してあげる。えいっ」

 可愛らしい掛け声が耳元で聞こえた。同時に左足がカクンと落ちた。先輩が右足のかかとを僕の膝裏に滑り込ませたのだ。その数秒後には僕の右足に同じことが起きた。

「ああああああああっ!」

「健気ね。もがいても無駄なのに。抵抗なんてさせるわけ無いでしょう。これで無力化されちゃったね」

 悔しいけど気持ちいいッ! この体勢だとさっきよりも深々と先輩の膣内にペニスが突き刺さることになる。入り口の締め付けよりも今は奥のほうが圧が強い。

 そしてついに、戸田先輩の一番奥にペニスが到達した……

「これで封殺騎乗位完成。もう詰みよ。このまま膣内を小刻みに揺らされたら男の子はどうなると思う?」


 先輩は両腕を僕の首に回し、今までで一番強く僕を抱きしめてくれた。

 完全にひとつになっている……その状態で彼女は上下に腰を打ち付けず、ねっとりとした舌使いで僕の唇を奪い始めた!

ジュルッ、プチュ、レロッ……

(あああっ、そんなことされたらあああああっ!!)

 すると不思議なことにコーナーで立位素股をされている時に感じた微振動がペニスを包み込み始めた。腰を動かさずにじっとしているはずなのにペニス全体がくすぐられているような絶妙な刺激。

 キスと同時にペニスを責められてはたまらない。しかもこれはじっとしているだけで確実に射精に導かれるような暖かさ。

(だめだ、出る……!)

ドプッ……

 熱いものが僕の体の奥から漏れ出す。
 もう残っていないと思っていたけど、これはヤバい。

 こちらの意思に関係なく精液をすべて持っていかれてしまうかも。

「あんっ」

 小さな声だが先輩の口から歓喜の声が出た。
 色っぽくて、かわいくて、抱きしめたくなるような喘ぎ。
 でも腕に力が入らない。震える指先がわずかに先輩の体に触れた瞬間、

キュウッ!

 それは思いがけず強烈な締付けだった。
 こんなキツキツな状態から、さらに男を締め付けることができるのか!

「ひいいっ!」

 再び絶頂の波が襲いかかってくる!

「ねえ、最後に私のことを思いながらイって♪」

 頭の中が真っ白になるほどの快感にさらされた僕にはそんな余裕はなかった。
 ただ必死に先輩の体にしがみつくようにしてこの刺激に耐えるしか無いのだから。

クチュウウウウゥゥゥ……!

 絶妙な締め付けが最後の瞬間を運んできた。
 じっとしたままペニスを甘やかし、男を駄目にする極上名器。
 この甘いさざめきが……ああ、絶対無理だ。我慢できない。

 間違いなくこれで打ち止めにされちまう!

「ああああああっ、いくっ、イクッ、イッ……」

ドピュッ、ドプドプドプッ!

「うふふふふ、ちゃんと名前呼んでくれたぁ」

 先輩は喜んでいるようだった。そうか、戸田郁乃だから……イクって言葉が。

 そしてわずかに全身を震わせているのに気がついた。

 もしかして先輩も絶頂したのかな……だんだん意識が遠くなってきた。


「北上くん、すごくよかった……最後まで頑張ったキミは合格よ。ナイスファイト!」

 それが、気絶する直前に僕が最後に耳にした言葉だった。


 
 男子代表として急遽リングに上がった1年生・北上菜月と4年生・戸田郁乃の公開スパーリングが終わり、女子部の面々は普段と同じように活動を再開していた。

「初めてにしてはがんばったほうじゃないかな? ふふっ」

 気絶したままの彼の代わりにモップがけをしながら郁乃が楽しそうにつぶやく。

 もともと勝敗はどうでも良かった。
 最近だらしない男子にお灸をすえるだけのつもりだった。

 でも代役の彼が予想以上に根性を見せてくれたのが郁乃は嬉しかったのだ。

 自分が卒業するまでに一人前にしてやりたいと思う。
 いっそのこと彼氏にしてしまって良いかも。

 彼女はそんな事を考えていた。

 疲労困憊でリングに倒れたままの菜月にバスタオルを被せてから彼女は彼の耳元に顔を寄せる。

「もっと強くなって私を驚かせてね」

 その言葉が届いたのか、軽く表情を緩ませながら彼は幸せそうに寝息を立てるのだった。


(了)



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