『大切なものを取り返しに来た相手を返り討ちにして自分の思うままにしちゃう悪いサキュバスのお話』





 かつて人間界を脅かしていた魔王軍は勇者の活躍によって侵略の勢いを弱めていた。

 だが完全に侵略が止まったわけではない。

 真の平和を勝ち取るために勇者・レムは魔王城の最下層にたどり着いた。

 彼は四大精霊の加護を受けた聖なる武具を身にまとい、襲いかかってくる魔物たちを斬り伏せて魔王軍に占領されていた地域を解放した。

 やがて光の精霊まで味方につけて、この魔王城の最深部に到達した。

 この先にある魔王の部屋へ入るためには、手前にある四つの部屋で鍵となる宝珠を得なければならない。

 宝珠は各部屋のボスが管理している。いずれも手強い相手だったが「炎獄」「魔氷」「邪風」の名を冠する宝珠は手に入れた。

 そして四つめの部屋……

 レムは妖しげな装飾が施された扉の前で目を瞑り深呼吸をした。

(だいじょうぶだ、体力も魔力も全快している。いくぞ!)

 静かに目を開くと、巨大な両開きの扉が開いてゆく。
 途端に中から甘い香りをたっぷり含んだ空気が溢れ出して彼の頬を撫でた。

 最後の鍵となる「淫闇」の宝珠はこの部屋の主を倒せば手に入る。

 気をしっかりと持ち、魔力を全身に薄く張って魅了の魔術に対抗する。

 扉の先、レムがにらみつける先で一匹の魔物がフワリと中に浮かんでいた。


「あはっ、また来ちゃったんだ」

 艶やかな女性姿の魔物がパチンとウィンクしてきた。柔らかそうな淡いピンク色の髪を揺らし、少し困ったような表情でレムを迎え入れる美少女。
 真っ白な肌は侵入者の視線を釘付けにするほどなめらかで魅力的。
 大きく張り出した美巨乳と明確にくびれたウエスト、そして扇情的なお尻と長い脚。

 彼女は魔王軍の四天王・リムカーラ。
 男を惑わし狂わせる専門家……サキュバスである。

「僕から奪ったものを返してもらうぞ……」

 レムは彼女と対戦し、三度の敗北を喫していた。

 この先に魔王がいるというのに先へ進めない歯がゆさをまさに今、味わっている。

 装備も経験も実力もレムのほうが確実に上なのに思うようにいかないのは、ひとえに相性の悪さなのだろう。

「ふぅん……返してほしいのはこれのこと?」

 淫魔は妖しげに微笑み、指先で空中に円を描く。

「っ!!」

 彼女が描いた円形の闇の中から現れた三つの球体がふわふわと中に浮かぶ。
 それらは「炎獄」「魔氷」「邪風」の宝珠だった。

「もちろん返してあげる。あたしに勝てたらだけどね?」

「覚悟しろ。必ず勝つ!」

 気迫に満ちた言葉を吐く彼を舐め回すように見つめるリムカーラ。

 彼女は指先で再び空中に何かを描く。勇者の目の前に魔法陣が現れた。

「ここはあたしのフィールドだからルールに従ってもらうよ。
 この契約魔法に触れて承諾して。
 あたしに勝てたら『この中のひとつ』を返してあげる」

 レムは歯を食いしばる。
 宝珠を奪還するためにはあと三度、彼女に勝利しなければならない。

 だが選択の余地はないので承諾する。
 直後、魔法陣の半分が昏い光を放って消滅した。

「契約は半分成立。勇者クンは何を賭けるのかな」

「これを……」

 彼はしぶしぶ身につけていたアミュレットをリムカーラに差し出す。

 光の精霊の祝福を受けた貴重な魔除け。
 闇が支配する魔王城でも自然回復効果のある必須アイテムだ。

 闇属性の魔物は触れられない物だからここで外してしまっても問題ない。

 しかしリムカーラはつまらなそうに首を横に振る。

「えー、それじゃだめ。ぜんぜん釣り合わないから身につけたままでいいよ」

「!? じゃあどうしろって言うんだ」

「右手」

 憤る勇者をじっと見つめ、ニヤニヤしながら彼女は言う。

「え」

「勇者クンの右手をちょうだい?」

 想定外の要求に一瞬たじろぐレムを見て淫魔は楽しげに笑う。

「あはっ、心配しないで。右手の『支配権』が欲しいの。
 勝手にオナニーできないようにね? それなら勝負してあげる」

「い、いいだろうっ! お前を倒せばそれでいいだけの話だ」

 レムが承諾したことで残りの魔法陣も消滅した。契約魔法が成立した。

 同時に背後のドアが音を立てて閉まり退路が立たれた。

「いくぞリムカーラ!」

 勇者は剣を構え、裂帛の気合とともに浮遊する淫魔に斬り掛かった。

・・・・・

・・・



 闇の攻撃魔法を避けながら接近する。
 鋭い勇者の攻撃を淫魔は紙一重でかわして距離を取る。

(なぜ当たらないんだ!)

 戦闘開始から数分が経過してレムは焦り始める。
 自分の調子は決して悪くない。
 闇魔法によるデバフは無効化できてるし相手の攻撃も食らっていない。

 剣だけでなく魔法での攻撃も試みた。

 しかし火球や雷撃などは彼女に届く直前で他の場所へ転送されてしまう。
 リムカーラは攻撃をそらすのが抜群にうまい。
 飛び道具では有効打を与えられないと判断して身体強化を繰り返し、剣に魔法をまとわせて斬りつけるのだが切っ先が彼女に届かない。

「ふふふ」

 口元に余裕をたたえながらリムカーラはふわりひらりと回避する。

「勇者クンの力ってすごいよね。あたしなんかより全然強いし、速いし、鋭いし」

「くそっ、いちいち逃げるな!」

「えー、逃げてないよー? じゃああたしも剣を使うからね」

「!?」

 リムカーラが呪文を唱える。

 すると彼女の右手にもやもやとした闇の短剣が現れた!

(なんだあれは……黒い刀身にピンク色の魔力が絡みついているようだが)

 サキュバスが剣を使うこと自体が珍しい。
 実際にレムは今まで見たことがないので警戒する。

「初めてかな? 淫魔の剣……ほら、痛くしないからかかっておいで」

 自分の得物を出すと同時に彼女がフロアに足をつけた。

 そして空いている手でクイッと彼を手招きするリムカーラ。

 勇者と剣を交えるつもりなのか。

 その挑発的行為を受けたレムは一瞬で距離を詰め、激しく斬りつけた!

フォンッ!

 勇者の一撃をギリギリまで引き付けて、淫魔は踊るように身をかわし反撃。

「えいっ」

 レムが振り抜いた剣の右側に体を滑らせ、可愛い掛け声とともにリムカーラは彼の肘を狙って短剣を突き出す。

「ぐああああっ……って、あ、あれ……?」

「うふっ、まずは一度目」

 正確に肘関節を淫魔の剣で貫いてすぐに彼女は距離を取った。

 右肘に覚悟していた痛みがこないかわりにレムの体に異変が起こる。

「な……」

「しびれちゃうでしょ? あたしの剣さばき」

 戸惑う彼を見てリムカーラが笑う。
 レムの右手、肘から先の感覚が鈍くなっていた。

(剣を握れないほどではないが、変な感じがする……)

 麻痺ではないが軽いしびれが持続している。
 それにジワジワと右腕全体が熱を帯びているようだ。
 体の芯にデバフ効果を植え付けられたような感覚。

(だが切り落とされていない……それならっ!)

 気を取り直してレムはもう一度突撃する。
 今度は慎重に、フェイントを交えながら接近するのだが、

「あはっ」

 剣を振るおうとするレムの腕を左手で横に押して、すれ違うように交差する時にリムカーラは彼の脇腹をえぐった。

「ぐあっ!」

 肉体を斬り、すり抜ける闇の刃が体の中央付近を掠めたので、レムはチクリと刺すような痛みを感じて呻く。通常の武器なら致命傷だったかもしれない。

「これで二度目。ちょっと痛かった?」

 淫魔の剣が淡い輝きを放つ。
 先程と同じように激しい痛みはないがしびれと疼きが彼に与えられる。

「ふ、ふざけるなあああ!」

「きゃんっ」

 横薙ぎにされた勇者の剣をしゃがんで交わし、リムカーラは淫魔の剣を彼の太ももに突き刺す。

 悔しそうに距離を取ろうとするレムに自ら接近して投げキッスを放ち、油断させてからすり抜けて背中に傷をつける。

 彼の連撃を見極め、息を吸い込むタイミングで距離を潰して再び右肘あたりを狙って斬りつける。

 いずれも斬られた彼に痛みはない。だが何かが削ぎ落とされてゆく。

 リムカーラはレムに対して一撃離脱を繰り返した。

 淫魔の剣が閃くたびにゆっくりと彼は侵食されてゆく。

 積み重なるしびれが甘い疼きに変わり、彼の攻撃を鈍らせる。

 光の精霊の加護はこの部屋のフィールド効果で打ち消されていた。
 ゆえに、淫魔の剣による闇の呪いは確実に蓄積されてゆく。

 その事実にレムが気づく頃、彼は十数回もリムカーラに切り刻まれていた。

 そして、

「かわさないからおいで? 勇者クン」

 両手を後ろに回し、美しいバストを前に突き出すようにして彼を挑発する淫魔。

 逆上したレムは渾身の力でリムカーラに攻撃するのだが、

「はい、ストップ!」

 声を聞いた瞬間、剣を振り上げた腕が石化したように動かなくなる。

「なっ! なにっ、体が……」

「わかった? 逃げてるのはあたしじゃなくて勇者クンの心」

 無理やり動こうとしてギシギシと悲鳴を上げる勇者の肉体をいたわるように微笑むリムカーラ。

 そっと彼の頬を淫魔の剣で優しくなで上げる。

「もう動けないよね?」

 刃のついていない部分で数回、慈しむようにゆるゆると往復されているうちにレムの全身から力が抜け落ちていく。
 闇の力とサキュバスのオーラを纏った剣が勇者の心を内側から溶かそうとしていた。

「ぐあっ、くそ、おのれ……いったい何をした!」

「クスッ、なんだと思う?」

「卑怯だぞ! そんな妖しげな剣を使うなんて!!」

「えー、ひどいなぁ。じゃあこれはしまっちゃうね」

 リムカーラは可愛く微笑みながら小さな声で呪文を唱える。

 淫魔の剣はゆっくりと闇に飲まれて消えた。

「くそ、どうしてこんなに、一方的に……」

「ああそうか、覚えてないんだもんね。
 じゃあ思い出させてあげる。えいっ♪ 封印解除(リバースメモリー)」

 クスクス笑いながらリムカーラが指を鳴らす。

 それを見ていたレムの頭の中に一気に情報が流れ込んできた。
 彼の表情が苦しげにゆがむ。
 忘れていたほうが幸せだったのかもしれない。それほどまでに屈辱的な記憶。

 一度目の対戦。
 リムカーラで体術に負けて魅了された。記憶を封印されて転移魔法で強制送還。

 二度目の対戦。
 攻撃を全て見切られ、手加減された上に呪いをかけられた。記憶を封印後、放逐。

 三度目の対戦。それまで同様に弄ばれ、今度は武具を全て排除されてから呪印を刻まれ、全身を手のひらで愛撫されながら言葉と快感で呪いを強化させられた……


「そん、な……」

「クスクスッ、いいお顔になったね。これでもまだあたしに勝てると思う?」

 美しく微笑むリムカーラを見てレムは絶望した。
 覚えていたのは記憶の断片に過ぎず、信頼していた聖なる武具はすでに汚染され、肉体まで呪われていたのだ。リムカーラに対して自分が勝つ要素が無かったのだと思い知らされた。

「くっ……じゃあ、どうすれば……」

 勝てない。何回挑んでも勝ち目がない。

「あーぁ、心が折れちゃったかぁ……
 このままだとつまらないから一時的に全部返してあげる」

ぱちんっ

 希望の光を失いそうになった勇者を見てリムカーラが指を鳴らした。

 同時に彼の肉体が大きく跳ね上がり、全身をまばゆい光が包み込む。


 レムの体から淫魔の呪いが消え去った!

 レムの体から淫気が消滅した!

 聖なる武具の封印が解除された!

 光の精霊の加護が復活した!


「あ……、力が溢れてくる。勇者の力が!」

 急激な回復に戸惑いつつレムは立ち上がり、武器を構えた。

 今まで以上に闘志を漲らせ目の前の淫魔をにらみつける。


「余裕のつもりか。だったら後悔させてやる。勇者の力を思い知るがいい!」

 慢心も油断もない彼の本音だった。

 今なら勝てる。本気でそう思えるだけの要素が全て揃ったのだから。

 自分に殺気を向けるレムを見つめ、リムカーラは満足げに頷く。


「スッキリしたでしょ。そのかわりここからが本番だよ」

 淫魔は笑い、勇者は剣を構える。

 宝珠を賭けた二回戦が始まろうとしていた。

 ジリジリと間合いを詰めて、先に仕掛けたのはリムカーラだった。

「はいっ!」

ドガアアッ!

「がっ……」

 ほんの一瞬、勇者が動き出す寸前に淫魔の肘が彼の顔面にヒットした。

 衝撃を緩和する聖なる兜に守られているというのに気を失いそうになる一撃。
 思わず握っていた剣を落としかけてしまうレム。

 その動きはまるで瞬間移動だった。さらに淫魔の攻撃が続く。

「それそれっ! うふふふふふ」

ガシッ、バキッ、ドムッ!

 守りを固めようとするより早く全身を打ち据えられてしまい、やっとの思いで半歩下がって剣を振るう勇者。だがそのときには目の前の敵が消えている。

「くそっ!」

 リムカーラが背後にいる感じたレムは直感を信じて振り返り、斬撃を放つ。

 その読みどおり彼女は後ろに回っていたが、

「当たらないねぇ? 本気出してるのに」

 フワリと宙に浮いて回避してしまう。

「手加減してくれなくていいんだよ」

「くそっ、くそおおお!」

 がむしゃらに距離を詰めてくる勇者に付き合うように至近距離で攻撃を避け続けるリムカーラ。
 その両手にピンク色の淫気を集め、攻撃をかいくぐりながら彼の防具に手のひらを添える。ほっそりした白い手のひらが聖なる鎧を軽く押さえる。

「えいっ♪」

 可愛らしい掛け声とともに放たれたピンク色の波動。
 リムカーラの掌底は信じられないほど強烈な痛みを伴い彼の全身を貫いた。

「ぐ、ふ……」

 レムの視界がブレた。
 防具越しに貫通してきた淫魔のオーラが何度も跳ね返り、容赦なく勇者の肉体にダメージを与える。

 リムカーラの攻撃は続く。両手を淡いピンク色に染めたままレムの攻撃の隙間を縫うようにして打撃を重ねてゆく。

 右胸、左肩、額、背中、脇腹、腰骨……

 勇者が一度攻撃する間に、この淫魔は二度の攻撃を行うことができた。

 レムの脳内に蘇るのは最初の敗北。
 あの時と同じように、いやもっと苛烈に今は攻め立てられている!

(遅れる、目では追えるのに最初の一撃が、効いちまってる……)

 実際リムカーラの攻撃は徐々に弱くなっていた。だがそれも彼女の計算通り。
 痛みで動きを止めたあとに手数で圧倒することで、彼にかつての敗北感を思い出させようとしているのだから。

 それから一分後、レムの肉体に変化が訪れていた。

「な、なんで……くそっ、これじゃあ、また!」

「うふふふ」

 すでにリムカーラは攻撃していない。だが勇者は動けなかった。

 全身が熱い。打撃を受けた場所が、おかしなことにもう一度打ちのめされたいと叫んでいるようだった。

 そして目の前の淫魔を見れば胸の奥がズキズキと甘くうずいてくる。

 魅了されかけているのがわかっているのに抗えない。

 真っすぐ立っていることが辛くなる。
 それは痛みによるものではなく、戦う意志がかき乱されているからであり――、

「これで10個めの刻印。もう我慢出来ないでしょ」

「ぐうっ、ううぅぅぅ!」

 闘志を忘れないために彼女を睨む。

 しかし、レムは心の中で彼女を求め始めていた。

(やめろっ、敵である相手に、僕は一体何を考えているんだ!)

 打ち据えられた全身はすでに淫気に汚染されていた。
 何度も重ね打ちした掌底は、痛みを快感にすり替えるリムカーラの得意技のひとつだった。
 勇者でなければ到底抗えるはずもなく、すでに心が堕落してしまっていただろう。

「勇者クン、誘惑してあげよっか?」

 震える彼の目の前でリムカーラは髪をかきあげ、両手を頭の後ろに回してポーズを決める。
 細い首筋に視線を奪われる。プルプルと柔らかそうな唇もたまらない。
 ふわふわの髪も、あどけない顔立ちも、しなやかな体も全てが魅力的。
 全裸よりも淫らで露出が高すぎる衣装は彼女のスタイルの良さを際立たせている。
 人外の魔性だとわかっているのに触れたくなる存在。

(あの胸に顔を……違う、あの足で……そうじゃない、僕はあいつを倒して、倒して抱きしめて……ああ、もうっ!)

 レムの理性はすっかり崩壊し、淫らな想像しかできなくされていた。

 うっとりした目で自分を見る勇者に向けてリムカーラが両手を大きく拡げた。


「おいで、勇者クン♪ 今夜も認めさせてあげる。
 キミは心がとても弱~い存在で、あたしのことが大好きで、
 何回も何回もわざと負けたくなっちゃうような情けない男の子だってことをね?」

 それはもはや勝利を確信した上位者の行為。
 余裕たっぷりに振る舞う淫魔に対して勇者が取った行動は……

【選択肢】

1・リムカーラのかわいい唇で果てたいと願った
2・リムカーラの胸の柔らかさを味わいたいと願った
3・リムカーラに身を任せ、気持ちよくされたいと願った
4・絶対に諦めない! 徹底的に抗う!!



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シエン 
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ファンボックス 
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