『台風の日にカードバトルをしたらイカサマに嵌められて人生がターンエンドしちゃったお話』





【登場人物紹介】

穂高道彦。株式会社勝田台製薬勤務。営業主任。
社内恋愛反対派。年収もそこそこ。責任感もほどほど。
そろそろ婚活考えてる。趣味は車中泊とカード集め。

小林リオ。去年の新卒。穂高の後輩社員。営業事務。
身長161センチ Fカップ 乙女座。正常位が好き。
趣味は婚活前の男性を誘惑すること、カフェ巡り。




 とりあえず自己紹介。穂高道彦【ほだか みちひこ】、独身。
 製薬会社勤務。営業部。適度に昇進、月収はそれなり。
 今日は在宅(社員寮にて)勤務。理由は天候不良。

 ひっきりなしに窓を叩きつける雨音を聴きながら少し遅れてきた梅雨のように感じてしまうのは先日まで酷暑が尾を引いていたせいなのだろう。
 蒸し暑いので遠慮なくエアコンを稼働(電気代は会社持ちだし)。昨日の段階で上司からは自宅待機と言われた。台風の季節とはいえ決算月なのでそんな余裕をブチかましてる場合じゃないんだけど、この豪雨では取引先がまともに稼働してない可能性もあるから英断だったのかも知れない。

「……すごい雨なんだよなぁ」
「困りますよね」

 目の前にコーヒーが注がれたマグカップがコトッと音をたてて置かれた。
 視線を上げればとびきりの営業スマイルでにっこり微笑む黒髪の女性。



 小林リオ。後輩社員。たぶん24歳。しらんけど。
 僕と同じ製薬会社に勤務している女性。黒髪クール系事務員。

「ところで……なぜユーは僕の部屋に」

 えへへ、と舌を出しながら彼女が言う。意外とキミって笑うのね。

「きちゃった♪ 社員寮ってけっこうきれいなんですね」

「きちゃったんだ……じゃあ仕方ないね」

 社員寮と言ってもマンションの一室。事務所としても使えそうな2LDKだし、同居していた男性社員は先月退寮したばかりで今は僕一人。そりゃあ綺麗(=殺風景)だろう。

 数分前、リビングにあるテーブルでノートパソコンを開いて取引先へ連絡をしているところに彼女が現れた。その時はちょっとだけ驚いた。事務所に誰も居なかったのでこちらへ来たという。
 彼女は定時上がりなので僕とは仕事の時間割が違う。そのせいで今日はリモート勤務でいいという連絡が遅れたのかも知れない。そのまま帰ろうとしないあたりは性格だろう。割と生真面目。

 そんなことよりも。

「臨機応変で動じないやさしいセンパイ好きです!」

 これまた貴重なセリフを……普段は笑ったところを見せない彼女がフレンドリーに話しかけてくるのがとにかく不思議。
 事務所のおつぼ……先輩女性社員たちが談笑している時でも電卓を片手に伝票を処理している姿しか僕の記憶にはないのだ。

「あー……キミも飲む? コーヒー」

「流された。でもいただきます!」

 そう言いながらテーブルにマグカップをもう一つ置く彼女。
 ちゃんと自分のも用意してたんだね。やっぱり抜け目ないわ。

 趣味がカフェ巡りと言うだけあって彼女が淹れたコーヒーはなぜか美味しい。

(それにけっこうかわいいし)

 うちは社内恋愛禁止という前世代的な慣習を未だに引きずっているので面と向かって口にしたことはないけど。
 それと彼女にはよからぬ噂がある。異性との交友関係について……真偽の程は定かではないが納得できる。容姿端麗、付き合う相手には困らないだろう。
 そのことについて僕が言及したことはない。業務は古株の女性社員さん以上にこなせるから純粋に頼りになるしプライベートは仕事に関係ない。

(彼女もいつか結婚して退職するのかなぁ)

 ぼんやりとそんなことを考える。結婚……僕は婚活を始めようと思って資料を集めてる最中だ。純粋に出会いがない。取引先はあくまでも取引先。古風な会社に義理立てする気はないけど社内恋愛はめんどくさいというのは賛成できるところだ。
 そんなわけで、結婚するなら社外の人でと考えてる。効率だけを考えるならお見合いのほうが手っ取り早い。
 でも目の前の彼女みたいなビジュアルの会員は居ないんだろうなと諦めてる。

「センパイこれは?」

 彼女の目に止まったのは僕の私物だ。うっかり置いたままだった。

「ああ、趣味のカードだね」

 しかもそれ対戦用デッキ。美少女キャラが少し多め。

「ふぅん……けっこう本格的ですね」

「わかるの?」

 彼女にはわからないかもだけど一応聞いてみた。
 カード収集は学生時代から続けていてレアなカードもいくつか混じっている。

「はい。弟が同じものを持っていたのでそれなりに」

 小林さんの意外な一面。乱雑にカードを扱わないところが好印象。
 仲間が増えたってわけじゃないけど話を聞いてもらえるだけで嬉しかった。
 カード集めは僕の数少ない趣味の一つである。

「あっ、かわいいイラスト」

「それはレアカード【エルフの少女】だねぇ」

 彼女がじっと見つめているカードは発行枚数が少ないレア。
 ゲーム上での性能は普通だけどお気に入りの一枚だ。

「かわいいくて色っぽいというか……こういう娘が好きなんですか?」

「うん。好き」

 ここで無駄に照れたり否定はしない。
 大切な自分の趣味だからね。ちなみにデッキは魅了系。

 僕の説明になるほど、と頷いてくれる彼女。カードに詳しいことよりも非オタにありがちな拒絶感を表に出さないのも嬉しかった。

「ふぅん……じゃあカードバトルしません?」

 小林さんがデッキの下半分を僕に手渡す。

「はいこれ、センパイのデッキです」

「本気かよ。まあいいけど」

 話し合いながら簡単なルールを決める。
 カードの枚数が半分だからライフも半分、ターン数は5ターンまでとした。

 お互いにカードをシャッフルしてバトル開始。
 自分のデッキは全部覚えてるからこの時点で彼女の手持ちを分析することもできるけど無粋だからそれはなし。そして先行は彼女に譲ることにした。

「私のターン。伏せカード一枚と【エルフの少女】を攻撃表示で召喚」

 彼女の手札は攻撃力1500 守備力1200。このままでは凡庸。
 伏せカードは攻撃力を上昇させる武器か魔法だろうと予測。

「さっそくきたな。僕のターン、ドロー、【ガードナー】を守備表示で召喚。あとカードを一枚伏せるよ」

 攻撃力500 守備力2100。彼女のアタックに合わせて守備力500アップの伏せカード【堅守の構え】をオープンしてやろう。

 無骨な壁キャラで返り討ちにされて小林さんが悔しがる顔を想像していると

「ここで伏せカードオープン、【全体突撃命令】発動です!」

「は? なんだとっ!」

 僕はみっともなく慌てた。こいつ、できる!

 【全体突撃命令】の効果で【ガードナー】の守備表示が無効化される。

 せっかく召喚したガードナーが【エルフの少女】にあっさり倒されてしまった。

「えへへ、無理やり攻撃させちゃいました♪」

「くうぅぅ!」

 いきなり手札消滅。悔しい。何もできないままターンエンド。
 ニヤニヤしながら彼女がドロー、そして――、

「私のターン、手札から魔法カード【魅惑の歌声】を装備……からセンパイにダイレクトアタックです」

 こちらの伏せカードなんて気にせずに宣言する彼女。
 僕のライフがごっそり削られる。
 それと【魅惑の歌声】の追加効果、次の1ターン僕はドローができなくなる。

「ププッ、くすくすっ、センパイのザァ~コ♪」

 彼女は口元をカードで隠しながら目を細めて言った。なんという煽り……
 それは普段の小林さんからは想像できない妖しい声色だった。

「かわいい娘にわからせられちゃうなんて恥ずかしいでちゅね~」

 悔しいけど言い返せない。
 まるで【エルフの少女】本人に直接責められてるような感覚だ。
 しっとりと耳の奥へ忍び込んできて、脳みそをソロリと撫でてかき混ぜていくような淫らな言葉遣いに頭がくらくらする。

「エ、エルフの少女はそんなこといわない!」

「じゃあ今だけエロフですね」

「!? 今なんて?」

「なんでもないです。伏せカードを二枚追加でターンエンド。ふふっ」

 思った以上に手強いし、メンタルを乱すのがうますぎる!
 本当に【エルフの少女】にいたずらされたような気持ちになってしまう。

「くそっ……僕のターン、ドローできないから……よし、これだ!」

 手札から【ドラゴンの女騎士】を召喚した。
 このカードは強化された【エルフの少女】より少しだけ攻撃力が高い。
 そしてさら手札から【速攻】を追加。
 召喚と同時に彼女を攻撃。これで状況をひっくり返せる!……はずだった。

「伏せカード2枚オープンです。トラップカード【全体攻撃力倍増】と【反射の姿見】を発動です」

「お、おいっ!?」

 【全体攻撃力倍増】は敵味方を問わずにフィールド上のカードの攻撃力を2倍にする諸刃の剣。使いどころが難しいカードだ。

 【反射の姿見】は相手の攻撃をそのまま返す。つまりこちらの攻撃が通らない。

 僕の伏せカードは守備力上昇の【堅守の構え】と魔法カード【融合】なので、明確な対抗手段がないままドラゴンの女騎士は自滅した。

 彼女の場には【エルフの少女】が無傷で健在。
 もう僕のライフほとんど無いじゃん!

「イカサマすんなよおぉぉぉ」

「あっ、バレました? 私、カードマジックは少し得意です」

 悪びれもせずに彼女が言う。相変わらず口元をカードで隠しながら。

「私のターン、手札から魔法カード【誘惑の時間】を発動。このターンが終わるまでセンパイは伏せカードに触れません」

 ニヤニヤ笑いながら彼女が続ける。

「自分のデッキで虐められちゃうなんて……今どんな気持ちです?」

「悔しいに決まってるだろ! それに……ずるいぞ……」

「うふふふ、センパイはもう【エルフの少女】の虜です」

 妖しく笑う彼女に見つめられながら僕はサレンダーした。

 イカサマくさいバトルだったけど今さらそれを咎めたところで惨めになるだけだ。

(しかたない、これはゲームなんだからこういう日もある。でも……)

 何故かドキドキが収まらなかった。彼女の煽りのせいだろう。
 【エルフの少女】のセリフが頭の中でグルグル回っていた。

『ザァ~コ♪』

 くそっ、楽勝だったはずなのに何もできずに完敗。

 またあとで勝負できるかな……なんて思いながら窓の外を眺める。
 雨は一向に降り止む気配がない。さすが台風。

「……そろそろ業務に戻るよ」

「はい。私もお手伝いします」

「助かるよ。じゃあ――」

 そのあとは気持ちを切り替えてデータ整理を彼女に任せ、僕は電話対応に注力した。

 いくつか業務をこなしたら今日はもう終わりにしよう。



――それから3時間後。天気予報を裏切って雨が酷くなっていた。

「なかなかやまない、ねえ……

「困りますよね」

 彼女は相変わらずここにいた。少しは慌てろよクール系。マンションの一階にあるコンビニで食料を買い込んできた僕たちは向かい合って遅いランチを摂っていた。

「小林さんさぁ……これ、帰れないんじゃないか。まじで」

「どうしましょう。やさしいセンパイ」

 たいして困ってなさそうな声で彼女は言う。電車の遅延情報などをネットで調べて無事に自宅へ返してあげたいと思っているのだが本人はどこ吹く風といった様子で自分で淹れたコーヒーを落ち着いて飲んでいる。

「センパイも飲まれますか?」

「あ、うん。お願い」

「もうしばらくここに居てもいいですか? 駅のホームで濡れるのは嫌ですし」

 もっともな意見だ。拒む理由もない、が。

「じゃあ今日はこのままここに泊まっていけば? なんつって……」

 半ばヤケクソでありえない提案を口走る僕に対して彼女が目をパチパチしていた。
 そりゃあ怒るよね、普通は。

「さすがですセンパイ。お気遣いありがとうございます。その手がありました」

 すっと立ち上がる彼女。
 おいコラ、決意を秘めた表情で「よしっ」じゃあないんだよ。

「私は従順で可愛い部下なのでご厚意に甘えます!」

「え……嘘でしょ?」

 たしかに明日は公休日だしここでの宿泊も可能だ。
 いくつかの問題に目を瞑れば。

 この社員寮には緊急用のふとんが何組かある。飲みすぎて終電を逃した社員のためではなく、他の営業所から応援に来た人員をビジネスホテルに泊まらせないための(経費削減用)備品として。あくまでも緊急時への備え。

(だがこれでは違う意味で緊急時になってしまう……)

 まずいだろ、さすがにまずい。
 誰かに見られる心配はないけど僕自身の気持ちとしてよろしくない。

 テーブルに肘をついて爪を噛む僕に構わず、小林さんがリビングの隅にあった掃除機を片手に空き部屋に向かっていく。

「では業務は終了ということで今から室内清掃を始めますね」

 すぐにブォーンという給排気音が聞こえてきたので、軽い困惑を覚えつつ僕も自室へ向かうことにした。

 簡素なベッドの上で考える。
 掃除機の音を気にしないようにイヤホンで音楽を聞きながら。

(まいったな。上司に知られたらまずい。いや、まずくはないだろうけど管理責任とかそういうことになるのではないか)

 ここは社員寮。あくまでも冷静に、仕事として。
 ベッドでゴロゴロしながらこの後のことを考える。
 都合の良すぎる妄想しか頭に浮かんでこなかった。。
 ひとつ屋根の下で男女が一晩過ごす。
 なにかの間違いがあったらどうなる?

(どうにもならないだろうなぁ)

 そう、おそらく何も起きない。
 これは緊急避難。悪天候のせい。
 台風一過、僕が目覚める頃には彼女だって自分の判断で自宅へ帰ろうとするだろう。

 お互いにいい大人である。なんの間違いもない。

 醜い妄想を中断して現実逃避するために静かに目をつぶろうとした時だった。

コンコン。

「せんぱーい」

 きた……「なにかの間違い」があちらから声をかけてきた。

 数秒間、思考停止した後に僕は部屋のドアに向かって答える。

「なんでしょう?」

「ご相談が」

「……ではどうぞ」

「はい。お邪魔します」

ガチャリ。

「ブッフォォォ!!」

 ドアを開けて入ってきた彼女の服装を見てむせる僕。

「洗濯済みのシャツ、借りていいですかね」

「いいもなにも着てるよね? もう着てますよねアナタ」

 視線の先に立っていたのは真っ白なTシャツ姿の彼女だった。体の線が細いからブカブカに見えるその格好はどこかエロティックで、黒髪ロングとのシナジー効果でとんでもない破壊力だった。

「あのさ、小林さん」

「なんです? ミッチー」

 名前呼びかぁ……初めてだよ。ミッチーなんて呼ばれ方。

「……せめて下を履こう」

「あ、だいじょうぶです。履いてますよ」

 ぴらっとシャツの裾を捲り上げる彼女。
 黒いスパッツとおへそが見えた……って、これますますエロくね!?

「それから私のことはリオでいいですよ。呼び捨てでオッケ!」

 オッケ、じゃないんだよなぁ! ぜんぜんオッケーじゃないよ。
 しかも軽く聞き流された。朝の意趣返しか。

「キミさ、ちょっと無防備過ぎません?」

「何がです?」

「いや、僕も一応男なんだよ。飢えた狼みたいな一面が」

「いいですよ」

 い、いいのかぁ……

 テヘッという効果音が付きそうな仕草で言われると二の句が継げない。

「乱暴されるのは嫌ですけどセンパイになら」

「は? いやっ! いやいやいや待てぃ」

 そ~~っと距離を詰めてくる小林さん。
 僕はすでにベッドの上、逃げ場がないです。

「失礼しますね。よいしょっと」

「よいしょ、じゃないんだよなぁ!」

「あっちの部屋、何もなさすぎて怖いです。だからお話をしに来ました」

 体を起こした僕の脇に腰を下ろして平然としてる彼女。
 じっとこちらを見つめてくる大きな瞳がわずかに揺れていた。

(震えてるのか? たしかに怖いかも知れないな……)

 わずか30センチ以内に感じる小林さんからいい匂いが漂ってくる。
 香水なのか体臭なのか、それとも髪の香りなのか……

(さすがにドキドキしてきたぞ……小林さ……リオさん度胸ありすぎ)

 どこを見ていいのかわからない僕は視線を落とす。
 シャツの上からでもはっきりわかる大きな膨らみに目が行く。
 間違いなく巨乳。それにすべすべした太もも、肌も美白だった。

「ミッチーセンパイ」

「な、なに?」

「拒むならどうして追い返さなかったんです?」

 横すわりのまま彼女がまた少し距離を詰めてきた。
 近くで見る彼女の顔立ちにはたまらない色気があった。

「それは雨がひどかったから……」

「優しいんですね。でも本当にそれだけ?」



ぴとっ。

 真っ白な指先が僕の手に触れる。
 ひんやりしてて、細くて、握り返したくなる……。

「いや、それだけじゃなくて……リオさんは後輩だから」

 かなり苦しい言い訳。でも、こうしないと理性が保てない。

「違いますね。エッチで可愛い後輩だから、です!」

 そう言いながら彼女が思い切り僕に抱きついてきた。
 理性があっけなく崩れ去る瞬間だった。

(こ、これは、柔らかすぎるうううぅぅぅ!)

 押し当てられたバストだけじゃない。彼女という存在そのものが、おろしたてのタオルよりもふわふわしてて清らかでたまらなく心地よかった。
 抱きつかれた体重なんてほとんど気にならない。男として受け止めなきゃいけないように感じた僕は本能的にその細い体を抱きしめようとして、思いとどまる。

(ここで僕が手を出したら、彼女を傷つけてしまうのでは……)

 今すぐにでも彼女を抱きしめたい指先を必死で抑える。しかし、

「……センパイが何か仕掛けてきても、その前に私が犯しちゃいますけど」

「おか、えっ、今なんて……おほおおおぅっ!?」

 次の瞬間、僕は条件反射みたいに叫んでた。男のオホ声。きもい。
 だがこれは仕方のないことだ。
 なぜなら……彼女の手が僕の股間へ滑り込んできたのだから。

クチュッ、ニチュッ……

 指先が的確にペニスの感じやすい場所に絡みついてくる。
 予測できない動きが興奮を高める。

(う、うまい、慣れてるのか……くうううっ、ああああぁぁ!)

 快感で顎が跳ね上がる。
 無意識に目を閉じて口もギュッと結ぶ僕。
 その首筋を彼女は繊細な舌使いでペロペロと舐め始めた。

「くっ、あっ、うああぁ!」

「声が出ちゃいますよね。こうされると」

 舌先がチロチロと動き、細い指がクニュクニュと肉棒をしごき始める。
 抱きついたまま僕の思考を追い詰めてゆく彼女。

「おちんちんは地味な私でも興奮してくれるんですね」

 違う、地味なんかじゃないしすごくきれいだし!

 ギュッと抱きしめられる。柔らかなバストの反発力が増加した。

「それとも、少しは意識してくれたんですか? 私のこと」

ちゅううぅぅ……

 首筋にキスをされた。これ、きっと跡が残るやつだ。
 ジンジン痺れる傷跡に再び舌先が舞い降りて、優しく傷を舐め取ってゆく。
 そしてまた強めのキス。

「んあっ、ああぁぁーーー!」

 意識しないようにしていたのに、どうしてそっちから踏み込んできた?

 理性が完全に崩れてく……彼女の唇の感触が気持ちよくてたまらない。
 淫らな妄想がどんどん膨らんでいく。

 このキスを唇にされたら? 背中や胸にもされたらどうなるんだろう。

「どうしてほしいのか、私に聞かせて下さい。こっそりと」

 小声で囁かれてビクンと震えてしまった。彼女のテクニックが僕の隠していた感情を溶かし、スルスルと本心を剥きだしにしていく。
 このまま気持ちよくされたい。
 あの時の【エルフの少女】みたいにささやいてほしいと。

「ひいいっ!」

 はむっ、と耳たぶをついばまれ……僕は観念した。

「教えてセンパイ……」

 とびきり甘ったるい声で僕に指示を出す彼女。

 気づけば勝手に喋り始めていた。

 今日は朝からずっとリオさんを意識していたこと。
 横顔に見とれていたこと。
 細くて長い手足を見つめていたこと。
 部屋に入ってきた時の興奮……など……

「うふっ、うれしい……」

 僕に抱きついたまま彼女がグリグリと頬ずりしてきた。

(反則だろ……ほっぺの柔らかさと密着感で気が狂いそう……)

 気づけば僕はベッドへ押し倒されていた。しなやかな体をフルに活用して真上から抱きつき、彼女が完全に僕の身動きを封じている状況。

 彼女はわずかに身を浮かせて笑う。

「センパイ、あの【エルフの少女】は好き?」

 首を傾げてこちらに問いかける彼女がそのまま【エルフの少女】に見えた。
 きれいな顔立ちで、肌もきれいで手足が長くておっぱいが大きい美少女キャラ……これそのまんま彼女のことでは?

「金髪のウィッグもつけてあげましょうか」

「だ、だめだよ、そんなことしたら……」

 本当に見分けがつかなくなる! 容易に想像できてしまうから。彼女がもしコスプレしようものなら僕はその魅力から離れられなくなってしまう。

「ふふっ、本当にお好きなんですね。【エルフの少女】が」

「そ、そうだよ! だから――」

「じゃあ可愛い後輩の私は?」

「っ!!」

 抑えていた気持ちがまた溢れ出した。本当は今日だけじゃなくて、入社したときから気になっていたこと。こうして近くで見ると本当に可愛くて、綺麗で我慢できなくなる……など、驚くほど滑らかに言葉が口から飛び出した。

「クスッ、そんな事言われたら手加減できなくなっちゃうじゃないですかぁ♪」

 僕の言葉を噛みしめるように今までで一番楽しそうな顔をする彼女。

 ゆっくりと来ていたシャツをめくり上げ……ノーブラだったんだ、やっぱり。
 この柔らかさは尋常じゃない。そう思っていたんだ。なのに惜しげなく擦り付けてくるなんてチート技ばかり使ってずるい。

「私でいっぱいにしてあげます」

むにゅううぅぅんっ!

 視界が真っ暗になる。頭の中は真っ白になった。
 柔らかいおっぱいに制圧された僕はついに自分から彼女の肌に触れてしまう。

(こんなにスベスベなんだ……女の子の肌って……)

 夢中になって自分に触れる僕を強く抱きしめながら彼女が笑う。

 その後、僕は具合が良すぎる彼女の膣内で徹底的に搾り取られた……。


――事後。

「センパイはご存知ですか。私が他の女子社員からどんなことを言われてるか」

 指の先すら満足に動かせなくなるほど体力を搾り尽くされた僕の腕を枕にしながら彼女は静かに言った。その眼差しはいつものクール系事務員に戻っていた。

「噂は聞いてるけど」

 僕は真に受けてないよという言葉を続ける前に、

「セクハラです!」

「ちょ、まだ全部言ってないんだけど!?」

 慌てて弁解する僕を見つめて彼女がいたずらっぽく微笑む。

「まあ、でもそろそろ汚名返上したいと思いまして」

 たしかに少なくない男性との関係を持ったことはある。
 しかし今日まで彼女を満足させられる男性には巡り会えなかったと言う。

「……そこで提案なのですが」

 今度は僕の恋人に立候補したいと言う。正気か。全然自信ないぞ。

「あのね、キミは僕のことをあまり知らないでしょ」

「趣味はカード集めとキャンプ。しかも最近婚活を始めようとしてますね」

「なぜそれを!」

 カード集めの他に、じつはキャンプも好きなのだ。
 ただ基本的にソロキャン(しかも車中泊)なので最近では一人身の寂しさを感じ始めたので回数が減っていた。

 婚活はまさに始めようとしてたところだけど、なぜ彼女が知ってんの!?

「それらしい郵便物が事務所に届いてましたから」

「開封したのかぁ……」

「はい。女の情報網を侮らないで下さい」

 いや、あけるなよ。だが自分にも落ち度はある。
 毎日遅くに帰宅するという理由で資料請求の「連絡先その2」欄に会社の住所を入れたのはたしかに迂闊だった。

 苦い表情をしている僕の頬を彼女の白い手がさらりと撫でた。

「これからは守ってくださいね? センパイ……」

 端正な顔立ちの彼女が顔を寄せる。そして、

ちゅっ……

 柔らかな口づけに心を奪われた。
 本当はこんなにきれいなんだよなぁ、彼女。

 フフッと笑いながら彼女は僕の手を取り、自分の下腹部を触らせながら言う。

「私と、お腹の子を」

「な、なっ……」

 結婚前にいきなりパパですか?
 いやいや、僕はそんな必中スキル持ってないはずなんだけど!?

「まあ、お腹に赤ちゃんができたかどうかはわかりませんけど」



「そういうの嘘でも怖いからやめてくれる!?」

 私の中でいっぱい出させたから確率は高いですけどね、なんて気軽に言ってるけどこちらのメンタルは完全にパニック状態だよ。
 ゴムつけてくれよ。頼むから。今となっては遅いけど。

「センパイ、これからは私だけ見て?」

 子猫のようにすり寄ってくる彼女を全身で感じながら、今日の悪天候にほんの少しだけ僕は感謝するのだった。



(了)





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