『ある冒険者の失敗 ~魔爪に魅せられて~』




 ゆっくりと彼女が近づいてくる。無様に膝をついた俺を見下しながら。

「目が生きてますね。まだ諦めないのですか?」

 満身創痍の俺は気力を奮い立たせて相手を睨み返す。
 少しでも弱気を見せたらあの妖しく光る瞳に呑まれてしまいそうだった。

「愚問だ。そんなの当たり前だろうが……」

「すごいですね。でもたいへんですね。私は苦しむ貴方を救ってあげたい。そろそろ楽になってほしいのですが」

 胸の前で手を組み、祈るように俺へ語りかける姿はまるで聖女のよう。
 だがこの美しさも優しげな言葉使いも全ては偽り。
 俺は吐き捨てるように言い放つ。

「……お前の施しなどこちらから願い下げだ!」

「まあ」

 柔らかな表情が一瞬陰りを見せる。
 彼女は胸の前で組んでいた手をほどき、右手をすっと真横に広げた。
 そして勢いよく右から左へ、真っ白な手を薙いでみせた瞬間……

ズプリ……

 俺の左肩に鋭いものが突き刺さった。

「ぐあああああああああーーーっ!!」

 鎧の隙間を正確に狙った一撃が俺の左腕の自由を奪う。
 傷跡がじわりと紫色に染まりだす。

「ふふ、いい声……♪ もう一本いきますか」

 苦しむ俺を見つめ、細腕で自らを抱きしめるようにしながらその女は愉悦の表情を浮かべていた。





 イレギュラーというのはどこの国でも起きるものだ。それも最悪なタイミングで。

「アンダルのパーティーが全滅だと?」

 ギルドからの緊急招集。そして苦々しい顔で俺に説明するギルドマスター。
 隣国へ赴いたパーティーが任務を達成して帰還する予定日時から二週間近く経過したというのに音沙汰が無いという。

「いや、まだ確定ではないのだが……」
「連絡がないのだからその可能性はある、か」

 数日前に様子を見に行かせた別のパーティーからの提示連絡も途絶えたという。
 魔導具の故障も考えられるが楽観的な予測は避けるべきだろう。

「彼らを失う訳にはいかない。だから――」
「わかったよギルマス」
「そうか。頼んだぞアルク」

 こうしてソロ活動をしているBクラス冒険者の俺に白羽の矢が立ったのだ。

 目的地である「魔の森」はそれほど遠くではない。
 普通に歩けば数日間でたどり着けるだろう。

 そして現地に到着する前に俺は情報収集のために付近の村に立ち寄った。
 アンダルたちのパーティーも必ず立ち寄るであろう中継地点。
 装備品などのチェックや水と食料の補給をしておきたいところだ。

「この村で間違いないはずだが」

 ギルドにもらった地図に書かれている、魔の森に一番近い辺境の村「ポーパル」。
 方向的に間違いはないのだがどこか雰囲気が寂しい気がした。
 いくら都市部ではないとはいえもう少し人通りがあっても良いと思う。

 宿屋の看板を探しながら歩いていると一人の村娘が井戸から水を汲んでいた。
 その背中に声をかける。

「ちょっといいか」
「はい、なんでしょう?」

 声に振り向いた村娘は少し驚いたような顔でこちらを見ていた。
 声がきつかったか。まあいい。
 構わずに問いかける。

「一週間以上前にここに冒険者達が来たはずだが」
「ええ、いらしてました」

 穏やかに答える娘。どうやら情報が得られそうだ。

「俺は冒険者のアルクという。仲間を探している。キミは?」
「イメルと申します。両親がこの村で宿屋を営んでおります」

 宿屋の娘か。それにしては妙に丁寧だ。
 今夜お世話になると伝えると彼女は嬉しそうに微笑んだ。

 旅人や冒険者は宿屋にとって貴重な顧客だ。
 たとえそれが一度限りだとしても。

「ところで彼らがどこへ向かったのかわかるだろうか」
「たしか北の山地へ向かうとおっしゃってましたわ。魔物を退治するとか」

 北に向かったという。魔の森の討伐対象はクリアしたのだろうか。まあいい。

「わかった。ありがとう。こいつは教えてくれたお礼だ」

 俺は次の瞬間、目にも止まらぬ速さで腰の剣を抜いて村娘を斬り伏せようとした。

ザシュッ!

「きゃああああっ!」

 切り上げた剣先は確実に村娘を捕らえたはずなのに全く手応えがない。
 怯えて叫ぶその姿が霧のように薄れてゆく。

「おかしいですね。魔力は抑えていたはずなのになぜ気づいたのですか?」

 俺の後ろからの声。振り向くと同時に再び剣を走らせる。

「それはお前が間抜けだからだよッ!」

ヒュオッ……

 またもや空振り。
 しかし今度は対象が近くに居た。
 無傷の村娘が微笑みながら立っている。

「イメルと言ったか。その禍々しい魔力は隠せてたよ。だが同時に気配が全く感じられなかった。貴様、いったい何者だ」

 剣を構え直しながら問いかけると、彼女は肩にかかった髪を軽く払いながらじっとこちらを見つめ返してきた。

「ふふっ、教える気はない……と言ったら?」

 不敵な笑みを浮かべるイメルに俺は無言で斬りかかった。
 彼女はそれをバックステップで回避した。

 交渉決裂。もはや力づくで吐かせるまでだ。
 何度か攻撃するうちにこいつがただならぬ敵に思えてきた。

 緩急をつけながら接近する俺に対して踊るように避けながら距離を保つイメル。
 軽業師のようなおかしな動きに惑わされ、実体を捉えきれない。

 彼女は確実にこちらの動きを見てから対応している。
 それなのに速い。
 ワンテンポ遅れても一つひとつの動作が俺の上を行く。

息切れする俺を見つめイメルはため息をついた。

「私、今は気持ちが穏やかなのですよ。のんびりしたいというのに」

「ほざけっ! はぁはぁ……身軽なやつだ……!」

「ふふ、ちょっと頑張り過ぎの冒険者さんですね。では」

 するとイメルは俺から三歩ほど下がり距離を取った。いったい何をするのかと思った瞬間、彼女が立っている場所の地面が小さく爆発して抉れた。

(なにっ!)

 身を低くして猛スピードでこちらへ突っ込んでくるイメル。

 大地をえぐるほどの驚異的な脚力。
 そして、その速さを乗せた貫手が俺に迫る。

 回避することが難しく感じた俺は、剣を横に構えて受け流そうとした。
 魔力を纏った指先が俺の胸を狙っていた。

 剣身を合わせ攻撃を滑らせようとしたのだがそれはフェイントだった。
 彼女は寸前で腕を引いてしまう。
 そして逆の手に魔力をまとわせ、フラーに手のひらを当てていた俺の手首を掴んでしまった。その刹那、

バチィッ!

「痛ッ! なんだ……これは……」

 俺の左半身が衝撃で痺れた。
 彼女はすぐにサイドステップで俺から離れたが、手首に明確な傷痕が残されていた。

「綺麗でしょう? 私の『魔爪』ですわ」

 距離を取った彼女がそう言った。
 銀色に妖しく光るそれはたしかに爪だった。
 しかも革製の篭手を貫通して俺の地肌に突き刺さっているようだ。

 握りつぶされるほどの力を加えられたわけではないのに。
 ジンジンと痺れ続ける手首をかばいながら爪を引き抜こうとしたところ……

「いぎっ!?」

 また同じ痛みを味わわされた。

「不用意に触れないほうがいいですよ。痺れちゃいますから」

 ここでもう一つ俺は気づく。
 イメルの『魔爪』には実体がなく、引き抜くことができなかった。

 おそらく魔力で形成された小さな呪い。
 俺の手首に突き刺さっている事実しかそこに存在しなかった。

「くっ! 厄介な」

「ふふふ、本当に厄介なのはこれからです」

 歯を食いしばり向き直った俺に再び突撃してくるイメル。
 あの爪は要注意だ。

 刺されば痺れる上に防具を貫通してくるのもヤバイ。
 もし剣を握る腕にあれを刺されたら戦いが終わる。

 俺の警戒心を見透かしたように彼女はジグザグに走りながら俺の右へと周りこもうとしてくる。その動きに合わせて剣を突き出すのだがイメルは退かなかった。

 地面スレスレまで体を折って剣撃を回避、さらに一歩踏み込んで俺の右膝の少し上に手を置いた。

ビリッ!

「ぐううっ!」

 予想はしていたが厚手の布地を貫通して『魔爪』が俺の右足に突き刺さった。
 来るとわかっていれば痛みは耐えられる。妖しげな痺れにも耐えられる。

(このまま剣を打ち下ろせば――)

 だが、ほんの一瞬だけ硬直してしまった。
 そのチャンスを彼女は見逃さなかった。

「ほら、隙あり」

……ちょんっ

 先程の痛みが残る左手首をイメルの白い指がかすめた。

バリバリッ!

「ぐがあああああっ!」

 右膝と左手首が痛みに襲われる。魔術師が使う雷撃に似た攻撃。
 しかも彼女が触れるとその効果が蘇るというおまけ付き。

「はい、こっちにも」

 左手首に触れていた彼女の指が俺の左足の太ももに伸びてきた。
 白い指がほのかに光りを放ち、再び『魔爪』が打ち込まれた。

プスッ……バリイィィッ!

「があああっ、や、やめっ……!」

 突き刺す痛みと痺れを振り払うようにがむしゃらに剣を振り回す。

 イメルはそれを回避しながら、

「いじめすぎちゃいましたか?」

ちょんっ

 白い指が俺の右膝に触れ、彼女は大きくバックステップした。

バチイィィッ

「うぎゃああああああっ!」

 少し遅れてやってきた痛みと痺れに悶え、剣を杖にするように地面に突き刺して俺はイメルを睨む。

「なぜだ……お前は今、『魔爪』に触れていなかったのに……」

「まあ! よく見てましたね」

 ぱん、と両手を胸の前で叩いてから感心したように彼女は言う。

「それは私が離れ際に魔力を送ったからです。一度『魔爪』を差し込んでしまえばいつでも発動可能なんですよ。ほら、こんなふうに」

 楽しそうに俺を眺めながらイメルは指先を軽く鳴らす。

ぱちん

バリバリバリッ

「ぎがあああぁぁっ!」

 左手と左右の足にあの痺れが再び蘇る。体力と気力の消耗に耐えきれず、俺は剣にすがりつくようにしながら膝をついてしまった。

 本格的にまずい。

 『魔爪』を引き抜こうにも触れることはできず効果は永続的。
 いったんここから離れるにしても指先ひとつで痺れさせられてしまう。




 ゆっくりと彼女が近づいてくる。無様に膝をついた俺を見下しながら。

「目が生きてますね。まだ諦めないのですか?」

 満身創痍の俺は気力を奮い立たせて相手を睨み返す。
 少しでも弱気を見せたらあの妖しく光る瞳に呑まれてしまいそうだった。

「愚問だ。そんなの当たり前だろうが……」

「すごいですね。でもたいへんですね。私は苦しむ貴方を救ってあげたい。そろそろ楽になってほしいのですが」

 胸の前で手を組み、祈るように俺へ語りかける姿はまるで聖女のよう。
 だがこの美しさも優しげな言葉使いも全ては偽り。
 俺は吐き捨てるように言い放つ。

「……お前の施しなどこちらから願い下げだ!」

「まあ」

 イメルの柔らかな表情が一瞬陰りを見せる。
 彼女は胸の前で組んでいた手をほどき、右手をすっと真横に広げた。

 そして勢いよく右から左へ、真っ白な手を薙いでみせた瞬間……

ズプリ……

 俺の左肩に『魔爪』が突き刺さった。

「ぐあああああああああーーーっ!!」

 鎧の隙間を正確に狙った一撃が俺の左腕の自由を完全に奪う。
 傷跡がじわりと紫色に染まりだす。

「ふふ、いい声……♪ もう一本いきますか」

 苦しむ俺を見つめ、細腕で自らを抱きしめるようにしながらイメルは愉悦の表情を浮かべていた。

「その前に邪魔なものを剥がしておきましょう」

パチン

 それは『パージ』(装備脱落)の魔術。
 彼女が指を鳴らすと俺の装備品が音を立てて全て周囲に飛び散った。
 むき出しにされた体を見つめながら彼女が嗤う。

「せっかくですからとっておきの技を披露しましょう」

 目の前でイメルの爪の色が毒々しい紫色に変化する。
 彼女はそれを一舐めしてから静かに、ツプリ……と俺の額に浅く突き刺す。

「んがっ、あ、あああぁぁぁっ!」

 皮膚を突き抜けた爪の先がカリカリと直接骨を引っ掻く。
 だが不思議と痛みを感じない。

「この爪に『快楽変換』の術を込めました。痛みを快楽に、快楽を深愛に変換する素敵な術です」

 爪の先から何かが流し込まれてゆく。正常な思考が阻害され、頭の中が書き換えられていくような感覚。ゆっくり時間をかけて俺の視界がピンク色に染まる。

「気持ちいいでしょう。ご褒美の時間です。いっぱい虐めてあげる」

「あ、ああ、やめてくれ……!」

「指先に魔力を集中、からの――」

 額から指を離し、爪の色を戻したイメルが腕を引く。
 そのまま勢いよく人差し指を俺の胸に突き刺した!

ズプウゥゥッ

「ぎっ……あ、え……え?」

「痛みは快楽に」

「うあっ、あひっ、あ、ああああぁぁ!」

 来るべきはずの痛みが来ない代わりに、胸に刺さった爪を中心に全身が痺れてゆく。

「クスッ、かわいいです」

 イメルは俺に頬ずりしながら軽くキスをしてきた。

「う……」

 頬に触れるだけの挨拶みたいなキスにこの上なく感じてしまう。
 体ではなく心が。
 まるで最愛の女性に愛されているような多幸感に包まれる。

「快楽は深愛へ。私の愛を受け入れて?」

「な……馬鹿な、どうして……」

「好き♪」

「ッ!!」

 淫らに煌く瞳に見つめられ、俺は言葉を失う。

「うふふ、心臓がドキドキですね? 大好きな私に見つめられて」

「やめ、ろぉ……」

「やめません。この爪で痺れなさい」

 そしてまた深々と爪の先が俺の体に食い込む。
 しかも一本ではなく五本も。

「あがああっ、あっ、あっ……」

「エッチなお顔になってますよ? いいんですかそれで」

「おまえ、なんかに……ぃ……ひゃうううっ!」

 食い込んだ爪が傷口を広げる。
 その痛みを快感が覆い尽くしてゆく。
 もっと傷つけて欲しいと願ってしまうほどに。

「大好きです。敵に愛されて、抗えないあなたの弱い心が」

「やめろ、それ、だめだ、きもきいぃぃぃ」

「あはっ、言わせちゃいました。もっと好きになって?」

カリカリカリッ!

「ああああああっ!」

「体中に爪痕をつけてあげます。痛みは快楽へ」

 イメルは両手の指をフルに使って露出した俺の全身に爪痕をつけた。

「この爪で『永続』呪印を刻めば……」

「うあっ、ああっ、あうううっ!」

 ぺろりと指先を舐めて傷跡同士をつなげるようになぞってゆく。

 痛みが快感に変わった先で、快感がリンクして増幅される。

「あ、あっ……!」

「こうすればずっと私と一緒ですよ。魔力を乗せた呪いは簡単に消えませんから」

 ピリピリと痺れ続ける快感の中で俺は悶える。

(抜け出せない……支配されていく……)

 弱々して体を震わせる俺にイメルが優しく口付けた。

「快楽と深愛のアメとムチ……さて、どれくらい持つでしょうね」

 そして今度は爪を用いない全身愛撫。
 すべすべした指の腹をこすりつけながら彼女は笑い、愛をささやく。

「強い男性は好きですよ。だから」

チュッ

「んひいいっ!」

「もっと私を感じさせて」









 ――それから数十分後。

 俺は地面に背中を付けて空を見上げていた。視界の正面には彼女がいる。

(なんて、ことだ……)

 もはや手足が満足に動かせない。
 全身に微弱な痺れが絶え間なく襲いかかり気絶することすら許されないのだ。
 俺の体は首から下のほぼ全てにイメルの『魔爪』が突き立てられていた。

 アンダルのパーティーが全滅した理由が今ならわかる。
 こいつにやられたのだ。
 おそらく一人ずつ、念入りになぶるように自由を奪われたのだろう。

 イメルは言った。
 北の山地に自分たちの拠点があると。

 そして「魔の森」は彼女たちにとって貴重な資源調達の場所であり、我々人間に荒らされたくなかったと。

「今となってはどうでもいいことですね」

 彼女はそっとしゃがみ込み、両手の指先で俺の顔をフワリと包み込む。

「今からアルクさんを彼らと同じように導いてあげますわ」

 イメルがにっこりと微笑む。
 その柔らかな表情に警戒心を溶かされたように俺は見とれてしまう。

(あ……)

 彼女の瞳の色が変化した。
 同時に、手足の自由を奪い続ける痺れが微妙に変化する。

「ここからは優しくしてあげますからね」

 優しい声が心地よさを伴う甘い疼きとなって俺の思考を鈍らせる。
 今までは緑色だった彼女の瞳の色が今は『魔爪』と同じ銀色になっていた。

 俺の顔を手で挟んだイメルと何も言わずに見つめ合う。
 この時も彼女の指先から微弱な雷撃が発せられていることに俺は気づけなかった。

 甘い疼きが全身に染み渡った頃、彼女が静かに顔を寄せ、唇を重ねてきた。
 さらに舌を差し込まれた時に俺は大きく目を見開いてしまった。

「ふっ……」

 イメルの目が静かに閉じられてゆく。
 トロリとした唾液を俺の口の中へ流し込みながら。

(あ、甘い……それに気持ちいい……)

 静かなキスで呼吸を奪われながら俺は体の内側から彼女に溶かされていくような感覚に陥る。
 すっかり動けなくなった俺に何度もキスをするイメル。
 その可憐な唇から流される唾液と吐息、それに心地よい痺れに抗えない。

 抵抗する気力が美少女の唇に転がされ、溶かされてゆく。

 不意に顔を離したイメルは呼吸を乱す俺を見つめながら目を細くした。

 長いキスのせいで二人の間に唾液のアーチが完成していた。
 この瞬間も彼女と繋がっていることに俺は喜びを覚えてしまう。

「そろそろ虜ですね。では念のため」

 イメルはいたずらっぽく笑い、軽くウィンクしてきた。

 長いまつげが揺れた後、俺の心臓がドクンと大きく跳ね上がった。
 まるで両目に彼女の姿を焼き付けられたみたいに。

「気づかれましたか。『魔爪』はすでに貴方の心に深く突き刺さりました」

 静かにそう告げた彼女はゆっくりと服を脱ぎ始める。
 目の前にさらされた清らかな肉体に俺は見とれてしまう。

 うっとりと見あげる俺の体にまたがり、彼女はペニスに狙いを定め腰を下ろしてくる。
 軽く髪をかきあげるイメル。
 状態異常を振り払えない俺はそんな小さな仕草にも魅了されてしまう。

 よく手入れされた芸術品のような汚れひとつない肉体の局部は体毛が薄く、乳首は桃色で小さめ。
 真っ赤に潤んだ膣口がゆっくりと肉棒に押し当てられた。

「もういつでも……ですか? ふふふふ」

 ゆっくりと腰を前後に振るイメル。愛液まみれにされる俺。
 そのたびにギンギンに張り詰めた肉棒が嬉しそうに震えた。

 いきなり挿入することもなくたっぷりと時間をかけて男をあやしてくる。
 吸い付くような膣口がペニスの表面をなぞるたびに俺を喜ばせる。

 ぬるりとした愛液が潤滑剤となり、妖しい刺激が途切れなく俺に送り込まれる。

「さて……」

 すっかり従順になった肉棒を優しく手で包み、イメルが静かに魔力を込める。
 ぼんやりと輝きはじめた爪の先でペニスの表面が優しく引っ掻かれた。

「うっ、あ、ああぁぁ、なにを……?」

「貴方の大切なところに淫呪を刻みつけてます。淫紋ではないので一度きりですが、その分効果は大きいですよ?」

 呻く俺に対してイメルが言う。ペニスの表面に『魔爪』を使った呪印を施すことでお互いのつながりが深くなると。

「このおちんちんを私の中に招くとどうなるか……楽しみですね」

「ッ!?」

 やがて淫呪を刻印し終わった彼女がゆっくりと腰を持ち上げる。

 そして亀頭の先を膣口でゆるりと舐め回してから、静かに腰を沈め始める。

クプッ……

「はぁんっ♪」

 軽く喘ぎながら俺を見つめ、じわじわと肉棒を飲み込んでゆく。

(ああ、キツい……こんなに狭いなんて……!)

 まるで処女のような膣内の締め付けと、それを抜けたあとにやってくる柔らかな感触が全身に広がってゆく。今まで味わったことのない快感は先程の刻印のせいなのか、それともイメル自身の持ち物のせいなのか判断できないが、

(お、おれはイメルと繋がってしまうのか……)

 これが男を虜にする魔性の名器であることに違いなかった。
 無意識に手を上げて彼女に触れようとする。

 すると動かないはずの手があっさり持ち上がった。
 既に『魔爪』による戒めは解かれているらしい。

「まあ、元気ですね。いいですよ?」

 そう言いながらイメルは俺の手を取り自ら二つの膨らみへと導く。
 指先で感じる彼女のバスとは予想以上に大きく、そして柔らかかった。

「夢中になってください。貴方と、私の未来のために」

 そう言って彼女が一気に膣奥までペニスを迎え入れた。

クプッ、……ズチュ、……グチュウウウウウ!

 狭い膣口でペニスをキリキリと絞られ、そして内部で全方位から揉みしだかれる快感に俺の忍耐力は一瞬で決壊してしまう!

「うああああああああーーーーっ!!」

ドピュドピュドピュウウウウウウ~~~~~~~!!

 たっぷり焦らされたおかげで射精が止められない!

 イメルは満足そうに俺を見つめ、上半身を倒してピッタリと俺に覆いかぶさった。

「さあ、もっと愛し合いましょう?」

ちゅううぅぅぅっ!

 柔らかな唇に再び呼吸を奪われ、可愛らしい舌先に口内を荒らされる。
 舌同士が絡みつくたびにピリピリと心地よい痺れが広がっていく。

「んむっ、う……あううっ!?」

ドピュッ、ドピュウウウッ!!

 はちみつのように甘い彼女の唾液を味わいながら俺は射精してしまう。
 その唾液が催淫剤であることも知らずに。

「ふふ、気持ちいい? 射精直後のおちんちんにも『魔爪』を与えてあげましょう」

 ゆらゆらと腰を動かすイメル。左右に腰を振り、その後でペニスが抜ける直前までお尻をもち上げてから一気に落とされる。

「えいっ」

クプクプッ、クチュ……ヌチュウウウウウゥゥゥ!

 相変わらず狭い入り口は挿入を一瞬拒み、そして受け入れる。男が感じる場所を全てめくり上げるようにしながら無力化して翻弄するイメルの性技。

「あっ、ああああーーーーーーーっ!!」

 柔らかすぎる膣内でペニスを弄ばれた俺は叫ぶ。
 挿入直後のピリピリした心地よい刺激からの優しい愛撫は天国だった。

 彼女が与える快感が俺の心に、さらに深く食い込んでゆく。

(だめだ、もうイメルのことしか……考えられない……)

 萎えることを忘れさせられたペニスは膣内で張り詰めたまま何度も彼女の寵愛を受け、射精の回数と同じだけ呪印を深く刻まれてゆく。

 それ以上に俺の精神は彼女に魅了され、長い時間を待たずに自分からイメルを求め続けてしまうのだった。


「さて、そろそろいいでしょうか」

 たっぷり時間をかけて俺を犯し尽くしたイメルが体を起こす。
 そして夢見心地の俺に尋問を始めた。

「なるほど、わかりました。ではご褒美に」

クチュクチュクチュッ!

 洗いざらいすべての情報を彼女に与えた俺は再び絶頂してしまう。
 この後もおそらくギルドから誰かがやって来るに違いない。

 しかしもう今の俺にできることなどないのだ。

 イメルに敗北した俺が北の山地へ送られることは確定しているのだから。



『ある冒険者の失敗 ~魔爪に魅せられて~』(了)

(制作 2023.11.01 加筆修正 2023.11.12)










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