『昨日出会った女の子』





 南側に大きな窓が一つだけあるビジネスホテルで俺は目覚める。

「朝だ……うぐっ、頭が痛ぇ……」

 不意に襲ってきた片頭痛は仕事のせいではなく飲みすぎたせいだろう

 朝日がいい感じに眩しくて不浄な自分を清めてくれる気がした。
 もうすぐ本格的な夏が来る。
 その前に梅雨になるけど、きっとすぐに終わるから割りとどうでもいい。

「昨日の子、かわいかったなぁ」

 ノロノロと道路を行き交う自動車と太陽を交互に見比べながらぼんやりと昨夜のことを思い出す。

・・・
・・


(ふざけんな! そんなの休み明けでいーじゃねえか!)

 連休中だというのに急なトラブルで顧客に呼び出された俺は、自腹覚悟で自宅から微妙に遠いこの街へやってきた。
 念の為にスマホの電源をオフにしておかなかった自分を呪う。

 顧客はパニック気味に俺に連絡をよこし、繋がったことを喜び、機械の不調を訴えてブチギレ、休み明けの対応になると告げるとすぐに来てくれないかと泣きついてきた。まさに喜怒哀楽の人生だな。

 話を聞いた限りでは簡単に復旧できそうな気がしたが、本当にその通りだった。
 作業開始から一時間後、不調が取り除かれたことを確認した俺が顧客に報告すると信じられないといった顔で驚き、そして派手に喜んでくれた。
 この顔が見られただけでもいいかと考えていたら、なんと特別報酬がもらえた。
 金一封。非課税。とてもありがたい。

 その金を飲み代にして今日のうちに使い切ってしまおうと考えた。自分の懐に入れるには大きな金額だったので顧客を誘って飲もうと思ったのだが、あいにくあちらは都合が良くないと言われ丁寧に謝られた。
 その代わりにいい店を紹介すると言われ、やってきたのがこの「赤い虎」という店。

(フーゾク店じゃねえのか!?)

 もろにメンエス。エキゾチックな顔立ちの女性が白い服を来て男の背中にオイルを塗ってるような看板が目に付く。興味はあるけど今まで入ったことはない。

 店の前でしばらく呆然としていると、

「おにーさん、予約してる人です?」

 明るい雰囲気の女性に声をかけられた。若いな。そして可愛らしい印象。

 風俗嬢にありがちなきらびやかなアクセサリーや厚化粧もなく健康的な肌。
 黒髪ボブで清潔感もあり、白いシャツとデニムを履いている大学生みたいな女の子だった。きっと店でも人気があるのだろうなんて思いながら見つめていると、

「せっかくだから私を指名してくださいよ! サービスしちゃいますよ~」

 彼女は名刺を取り出して俺に押し付けてきた。
 マナという名前らしい。営業もさっぱりしてて上手いな。

 雑居ビルの細い階段を登っていく彼女の背中を見送りながら、俺は既に入店を決意していた。


 薄暗いエントランスを抜けて木製の片開きの扉に手をかける。
 店の入口をくぐるとそこは思ったより明るい照明が灯されており、フロントにいたにこやかな中年男性がこちらを見てお辞儀した。

「いらっしゃいませ。ご予約の方ですか」
「いや、フリーなんだけど」
「さようでございますか。ありがとうございます」

 先程の彼女といい、ここは悪くない店なのかもしれない。
 俺はこの店を教えてくれた顧客に感謝した。

「当店は初めてでございますか」
「うん。でも、できればこの子にお願いしようと思って」

 マナからもらった名刺を見せると男性の顔色が変わる。

「もしかして店の前で客引きなどしていませんでしたか」

 ここで俺は頭を働かせる。

「いや、偶然知り合って」
「さようでございますか」

 詳しくは知らないけど迷惑防止条例などに引っかかると男性は思ったのだろう。
 下手すればあの子がこの店をクビにされる。
 それは避けたかった。

「駄目だったかな」
「いえいえ、とんでもございません。ではマナをご指名ということで宜しいですか」

 彼の言葉に頷いた俺が施術料を先払いしようとして財布を出すと、なぜか指名料はいただきませんと男性がお辞儀をしながら告げてきた。


 ともあれ待合室へ。清潔感のある狭い空間には俺しか居ない。
 黒革のソファに座り、出された飲み物に口をつけながらテーブルの下にある「カタログ」をペラペラとめくれば、件のマナの写真と簡素なプロフィールが書かれていた。

 どうやら新人枠らしい。そして他の女の子たちもみんな美形だった。

「失礼します。準備が整いました」

 中年男性がやってきたので俺は案内に従って施術ルームへと向かった。

「いらっしゃいませ。本日はご指名いただきありがとうございます!」

 簡素なドアを開けた先で、仕事用の服に着替えた彼女が立っていた。
 部屋の中はアロマが焚かれていて薄暗く、ベッドがひとつあるだけだ。

 白いタンクトップに青のスカーフを巻いて、下は黒のミニスカート。
 黒髪ショートでパッチリした目をした彼女にとても良く似合っている。
 こうしてみると非常にプロポーションが良い。指先も足もきれいだし、これはもしかしたら大当たりなのかも。

「マナさんが営業上手だったからね」

 俺がそう言って褒めると彼女は微妙な笑顔を見せた。

「あはははは……店長にちょっぴり叱られちゃいました」
「まじか。大丈夫だった?」
「はい! くれぐれもソソーのないようにって言われましたけど」

 しょんぼりしながらも明るい笑顔を崩さないマナを見た俺は不意におかしくなって笑ってしまう。決して悪い印象ではない。

「あとで店長さんに俺からもフォローを入れとくよ」

 俺の言葉を聞いて彼女がホッとしたように見えた。

 指示に従って服を脱ぎ、小ぶりなベッドにうつ伏せになる。

「こういうお店は初めてですか?」
「うん。童貞」
「マジで!?」
「いや、ほんとに」
「あはははっ、ぜったいうそだー!」

 手のひらにオイルを馴染ませながらマナは笑い、俺の背中をマッサージし始める。

(思っていたのと、かなりイメージが違うけど……これはこれで……)

 ネットなどの情報だと、演出過多かもしれないが、癒し系の音楽が流れる中で無言で体をゆっくりと撫で回されるような感じだと思っていた。しかし現実は音楽無しで、しかも明るい接客態度の女の子が俺の体を指圧している。

「んっ……」
「あ、痛かったです?」

 こちらの僅かな声にも反応するマナ嬢。

「いや、そうじゃない……続けて」

 声を出してしまったのは、彼女の指使いが気持ち良すぎるから。
 うつ伏せになっているから立てかけられた鏡越しにしかマナの姿が見えないけど、きれいな女性に体をいじられてると思うとだんだん興奮してくる。

「ぁう、くっ……!」
「もしかしてお兄さん、感じやすい人ですか」
「そうかも……」
「ふふふ、そうなんだぁ。じゃあしっかりサービスしちゃいますね!」

 再びポンプを押して手のひらにオイルを馴染ませ、彼女の手が背中全体をマッサージしてくるが今のところ性欲を我慢出来ないほどではない。

「いつもこういう雰囲気なの?」
「はい! 元気いっぱいにやるのが私流の接客ですので」

 ちょっとうるさいですかねーなんて笑いながら彼女は言う。だがそれでいい。
 むしろ雰囲気を出されて囁かれたりしたら、一発でフルボッキしてしまう気がした。

(ここは本当にマッサージだけなのかもしれない)

 別にそれでもいいと思って俺が微妙な安心感とともに一息ついていると、

(膝をついてお尻を持ち上げてもらえますか?)

 不意に耳元で、コソコソ話をするみたいに彼女が顔を寄せてきた。

「え」

 いつの間にか俺の背中におっぱいを押し当てるように覆いかぶさっている!

「次の施術に移りますので。お兄さんのリンパを刺激しますね」

 わりと有無を言わさぬ口調で彼女が指示してきたので腰を浮かすと、するりと細い両腕が俺の足に絡みついて姿勢を整えてきた。

「こ、これ、はずかしい、ね?」

 枕に突っ伏したまま俺はマナ嬢にお尻を向けている。
 背中から離れて腰を抱くようにベッドに座り込み、特に気にした様子を見せずに彼女が言う。

「そうですか。じゃあタオルを掛けますね」

ファサッ……

 俺の背中に茶色いタオルが掛けられたけど根本的な問題解決になってない。恥ずかしい気持ちのままじっとしていると彼女の手のひらがまさに縦横無尽に動き始める。

(あっ、あああぁぁぁ……!)

 サラサラとした感触で太ももの内側や膝裏を撫でられる。ふくらはぎや足の指までたっぷりとオイル漬けにされてしまう。

「お兄さん、ここがすごく凝ってるみたい……」

 絶妙な力加減でペニス付近、いわゆる鼠径部を何度かなぞられる。

「ううぅ、き、きもちいい……」
「じゃあ集中的に揉みますねー」

 ぎゅっぎゅと力を入れながら彼女が腰骨からお尻、そして鼠径部へ手をすべらせて刺激してくると流石に我慢できなくなった俺は枕に口をつけて小さく叫んでしまった。

(はずかしい! でもきもちいいっ! 女の子にされるがままなのに)

 時間が経つほどに密室で可愛い女性とふたりきりでいることを意識してしまい、申し訳ないほどペニスが膨らみ始めてしまうのだ。

「あれっ、これは……」

 俺の変化に気づいたマナ嬢は、驚いた風に言いながらも、そっと手のひらでペニスの先端をサラリとなで上げる。

さわっ……ツツツツツツ……

 その手つきがまた絶妙で、パンパンになった亀頭を包み込むようにした後、指先で先端から根本までを一往復させてきたのだ。

「ひぅっ!」
「疲れが溜まってますねー。しっかり揉みほぐさないと!」

 女性らしい細い指が、小ぶりな手のひらがふわりと玉袋を包み、クリュクリュと転がしながら硬さを確かめてきた。自分でもわかるほどに精液が押し上げられて股間がじわじわと熱を帯びてゆく。

「だんだん血行が良くなってきたみたいですねー」

 その行為を繰り返しながら鼠径部のマッサージまでされてしまうと、流石に声を抑えきれなくなる。
 上半身をピクピクさせながら手のひらと指先の「施術」の心地よさに耐えていると、不意にその刺激がピタリと止んで、

「表になってもらえますか」

 にこやかな声でマナ嬢が俺の真横で囁いてきた。


「えっ……!」

 戸惑っているうちに片方の腕を引っ張られ、俺は仰向けにされた。
 うつ伏せだった俺の左側に居た彼女は俺の右腕を左脇の下へ通すようにして……なるほど、こうやって相手をコントロールするのか。つまらないことに感心してしまう。

「ここからは対面式のマッサージになります。ちょっと恥ずかしいけど我慢です!」

 両肘を曲げてぎゅっと拳を握って「ファイト!」とポーズして見せるマナ嬢。
 恥ずかしいのはこっちだよ!

 ともあれ、俺はひっくり返された。
 すると彼女はオイルの入ったボトルをプッシュするでもなく、俺に覆いかぶさるように顔の脇に手をついて、ベッドの上へ乗ってきた。顔がとても近い。

「見つめ合うの好き?」
「う、うん……でもマナさんみたいな可愛い子だとちょっと恥ずか……」
「かわいいならいいじゃないですかー」

ちゅっ

「っ!?」
「今のはちょっとしたお礼です♪ 続けますねー」

 店長には内緒ですよなんて言いながら、また俺の左側に降りたマナ嬢がオイルを手のひらに馴染ませ始めた。

 唇に軽く触れ合うだけのものだったが、彼女からの「ちょっとしたお礼」はこちらの気持ちを大いにかき乱した。

(いまのって、こんなかわいい子と……いいのか?)

 幸せすぎる。そうとしか表現できない。
 そこから先のプレイは数分前よりも興奮に満ちたものだった。

「う、うまいね……」

 正面から鼠径部をなぞられながら懸命に俺は彼女を褒めた。
 少しでも気を抜いたら喘いでしまいそうだ。

「ありがとうございます! でも結構難しかったりするんですよ……」

 表にされたときからずっと俺はベッドの端を強く握りしめている。

 マナ嬢のテクニックが本気を見せ始めたからだ。
 オイルまみれの手のひらが首筋を撫で、鎖骨に触れると声が出た。
 それに構わず彼女は胸全体を撫で回してくる。しかも乳首だけには触れないように気配りしながら。

(こ、これ、きつい……自分から求めてしまいそうになる!)

 手のひらだけでなく指先での刺激を時折混ぜてくる彼女の技巧のせいで肉棒はひたすら固くされ続けていた。

「敏感な部分には基本的に触れちゃいけないので難しいんですよー」

 チラチラとテントを張ったそれを確認しながらマナ嬢は言う。

「触れても、別に構わない……よ?」

 ここまで焦らされてしまうとおねだりせざるを得なかった。

 すると彼女の口元がニマァ~っと歪んで、

「ええー、お触り禁止なのに。じゃ、お言葉に甘えて」

 待望の刺激が何の前触れもなくやってきた。

ふわり……しゅっしゅっしゅ

「んはぁっ!」
「ふふっ、じつはさっきから気になっていたんですよー」

 先端に絡みつく指先。そしてこちらを見つめる優しげな瞳。
 それらの相乗効果はとても強烈で、俺は息を弾ませて快感に耐えようとするが、

「スッキリさせてあげますね?」

しゅっしゅ、クニュクニュクニュ……

「んっ、うあっ、ぐっ!」

 サラサラした指先が優しく亀頭を撫でまくり、手のひらのくぼみでクリクリと焦らされているとすぐに我慢の限界が訪れた。

「両手で包んであげると気持ちいいみたいです」

 その言葉通りにマナ嬢は睾丸を手のひらで包んでじわりと温かい安心感を俺に与え、ねっとりと焦らすようにもう片方の手のひらは先端を包んで上下に小刻みなピストンをしてきた。

「いっ、イく……でちゃう、マナさんっ、あ、あっ……!」

「いいですよ。お兄さんのここ、もう限界ですね!」

きゅ……

 左右の手のひらで優しくペニス全体を絞られるとそれがトドメとなり、俺は声を押し殺しながら彼女の手の中に大量の精液をぶちまけてしまった。

(はぁ、はぁっ、す、すごい、きもちよかった……)

 オイル以外のモノに塗れた彼女の美しい手のひらと、可愛らしい笑顔を見つめながら手足が完全に脱力してしまう俺。

 マナ嬢は俺の下半身を清潔なタオルで拭き取ってから感想を求めてきた。

「いかがでしたか?」

「すごく、よかったです……」

「わぁ! ありがとうございますー」

 心の底から嬉しそうな表情を見せてから、ちらりと時計を見て俺にささやくマナ嬢。

「あの、お兄さん? まだ時間余ってるんですが」

「?」

「もしよかったら、続きをしてもいいですか」

「この先があるの?」

「はい。特別なやつがあるんですよ!」

 ここまで来たら断る理由はない。何より俺自身が期待してしまっている。

「じゃあお願い……」

「お任せください! よいしょっと」

シュルルッ……

 すると彼女は黒いスカート、ストッキングとショーツまでを素早く脱いで近くの台においた。

「えっ!!」

 驚いている俺に流し目を送りながら彼女はベッドの上で、俺の腰をまたぐように膝立ちになる。そして優しいタッチでペニスを掴み、濡れそぼっているオマンコの入口へぴたりと当ててきた。

「まだここがコリコリなので、私の中でマッサージしちゃいますね!」

クプ……

 先端がぬかるみに嵌ったように沈んでいくのを見て慌てた俺は、

「ちょちょっ……んぐっ!?」

「お兄さんはじっとしててください。叫ぶのはナシで」

 彼女を止めようとした言葉を手のひらで抑え込まれてしまった。

 大きな瞳に欲望の炎をわずかに宿しながらマナ嬢がゆっくりと腰を下ろす。

「ふふっ、いただきまーす……」

ずにゅうぅぅぅっ!

「んっ、んん~~~~~っ!?」

 先端を飲み込んだオマンコが一気に肉棒を根本まで飲み込む。
 信じられない光景に俺は快感よりも困惑を覚えた。

 だがそんな思いも、彼女の腰振りで一気に霧散してしまう。

「あったかくて気持ちいいでしょ? 揉みほぐしますね」

ずちゅ、ずちゅ、ぬちゅ、ぐちゅっ

(ひいいっ、き、きもちいいいいぃぃぃ!)

「ぁん……♪ すご、い、相性ぴったり……」

 マナ嬢の膣内は熱く、俺のペニスに吸い付きながらくすぐってくるような心地よい名器だった!
 肉襞をかき分けると待っていましたとばかりに奥がきゅっと締まり、抜き差しするたびにたっぷりと愛液がまぶされてスムースな腰使いと相まって俺の性感がぐんぐん高まっていく。

「あ、あっ、すごいよ、マナさんのアソコ!」

「ふふっ、お兄さんも気持ちよさそうで嬉しい♪」

スッ……ちゅぷり!

「!?」

 すると彼女が突然俺の口の中に人差し指を突っ込んできた。

(な、なんだ……こんなこと、してくるなんて……)

 思いがけずにドキドキしてしまったのは、俺を見下ろす彼女の表情がとてつもなくエロいものになっていたから。さっきまでの快活な美少女と言った雰囲気ではなく、それは妖艶な美女が見せるものだ。

ピチャ……

 俺は彼女に逆らわず、その指先を味わうように舐めてしまう。

「もしかしてドMさんです? だったらいいのになぁ」

ちゅぽっ

「あ……」

 名残惜しそうに指先を見つめる俺の気持ちを確かめるように彼女が顔を寄せてくる。

 自分より年下の女性が半先で甘ったるい声で囁いた。

「おちんちん、たっぷり搾ってあげます……なんて」

「っ!!」

 心を鷲掴みにされた。マナ嬢に今の願望を見透かされたことが恥ずかしく、でもどこか嬉しくなった俺は言葉を返すよりわかりやすい反応をしてしまう。

「あっ、ピクピクしてる! やっぱりこういうのが好きなんですねー」

 確信を得た彼女は俺の胸に両手をつき、僅かに腰を浮かせながらグニグニと左右に円を描き始める。
 膣内で色んなところにしゃぶられるように弄ばれ、数分も経たぬうちに俺は彼女の膣内へ盛大に射精してしまうのだった……。


 そして終了10分前のタイマーが鳴ると、

「いかがでしたか? 特別施術」
「さ、最高……」

 マナ嬢に尋ねられた俺は、途切れ途切れの息で満足の評価を出した。

(チップを支払うべきなのだろう……)

 しばらくはおかずに困らないで済む。こんなすごい体験をしたのだから。
 彼女になにか声をかけようと思ったけど、精液をたっぷり搾り尽くされたおかげで首を動かすのがだるかった。

 だが、着替え終わった頃になって彼女が顔を寄せてきた。

「私今日はこれでお仕事終わりなんですけど、よかったら一緒に飲みませんか」

 願ってもない申し出だった。
 この後の時間をホテルでオナニーするだけで終わらせたくない。

「ぜひ」

「やったー! お兄さん大好きっ」

 ぴょんと飛びついてくる彼女に戸惑いながら、俺達は連絡先を交換した。

 そして彼女が知っている店に連れて行かれて痛飲してしまうのだった。



・・
・・・

 朝日の眩しさに慣れたころ、昨夜の出来事を全て思い出した。

 ついでにそれ以外のことにも気づいた俺は振り返る。

「でさ、なんでそこにいるの?」

 ベッドの布団の膨らみに向かって問いかけると、寝癖混じりの黒髪がぴょこんと顔を出した。

「きちゃった♪」

 てへっ、じゃないんだよと嘆息する。
 ホテルに追加料金を支払わないといけないじゃないか。

「名前……マナだっけ」

「ぶっぶー! 本当はマナミなんだ。ごめんねシンジ」

「俺も偽名なんだわ。シンジじゃない。カイトだ」

「あれー? 違う人と寝ちゃったのかな私……」

 どうやらお互いに酔っ払っていたようだ。飲み過ぎは良くないな。

 ベッドに戻り、首を傾げてこちらを見ている美少女の方を抱いた。

「それは大変だ。俺も不安だから今から確かめ合おう」

「りょーかい!」

 それから俺たちは退室時刻を知らせるフロントからのインターホンがけたたましく鳴り響くギリギリまで激しく抱き合うのだった。


 後でわかったことだが、顧客が俺に紹介したのは「赤い虎」ではなく、その脇にある小さな居酒屋だった。

 これはただの、ゴールデンウィークだから結果オーライという話。



昨日出会った女の子 (了)










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