『ふらりと立ち寄った風俗店で施術をされて病みつきになってしまった男性の話』




 遅配とはいえ夏のボーナスが出た。俺はこれを雀の涙だなんて思わない。出るだけありがたいご時世なのだ。顧客と会社に感謝する。これでエアコンと冷蔵庫を買い替えられるぞ……なんて考えながら電気街を歩いていると、何やら気になる看板を見つけた。

男性向けエステ「妖女快館」

 雑居ビルの二階にあるお店だった。
 表向きは健全そうだがどう見てもいかがわしい雰囲気が隠しきれてない。
 俄然興味が湧いた俺ではあるがそこで一歩踏みとどまる。

(手元で情報を検索して評判を……って、何もないな。新規オープン店か)

 足を止めて店名をもう一度。ようじょ……いいのか今の時代。
 なるほど、妖女と幼女をかけて、さらに快感と会館をかけたわけだ。
 そういう趣味はないが今日がないわけでもない。あざとい。

 ただ金額の案内がないのでぼったくりの可能性はある。
 総合的に考えて今回は見送ることにして通り過ぎようとした時だった。

(いっちゃうの?)

 不意に頭の中に女の子の声が響いた。
 夏の暑さを忘れるくらい涼やかで心地よい音色だった。

 慌てて周囲を見回すとメイド服とチャイナドレスをかけ合わせたような服装の小柄な女の子がこちらを見つめていた。おそらく客引きである。なのに声掛けしてこない。

「もしかしてあのお店の人ですか」
「そう」

 仕方なくこちらから声をかけてみると、そっけなく返された。
 でも声は可愛かった。そして年齢不詳かつ美形。前髪とサイドが長すぎてメカクレ状態の女の子と自分が絡み合っている姿を想像してしまう。悪くない。

「中でキミを指名できる?」
「できます」
「じゃあ案内してもらえるかな」
「よろこんで」

 そう言いながら小さく笑った彼女が名刺を手渡してきた。
 衣籐美雲【いとうみくも】と書かれている。もちろん源氏名だろう。
 こうして俺は美雲のあとについて入店することになった。


 店内は清潔感に溢れていた。白い壁紙、観葉植物、漂うミントの香り……壁に貼られているポスターも「適切な処置で血流を整えれば健康になれます」などと書かれていて健全すぎて白々しい。が、それはかまわない。目の前の彼女が相手をしてくれるのだから。

「少しお待ち下さい」

 そう言って奥へ消えてから一分も経たないうちに三雲が再登場。白衣を着て生足と白いサンダル姿になった彼女が現れた。前髪を上げるとやはり美人さんだった。

「こちらへ」

 素直に後をついていくと個室へ通される。縦長の室内は薄い紫色の壁紙で、白いシーツが敷かれた簡易寝台が妙に明るく感じた。

 美雲に促されて服を脱いでゆく。そして指定された紙パンツを履かされた。ほぼ全裸にされてしまった自分と白衣の彼女を見比べると急に恥ずかしくなり、俺は自分から簡易寝台の上に上がってしまう。

 世間話などはなく、今日の体調を尋ねられたり、ローションを使って平気かどうかなどの事務的なやり取りの後で、

「標準コースと特別コースがありますがどちらになさいますか」

 外で話した時よりも多少柔らかくなった口調で彼女が言った。
 一応価格を尋ねてから俺は特別コースをお願いした。
 きっと特別な何かあるのだろう。大いに期待してしまう。

「では最初は全身にアロマオイルを馴染ませてゆきます」

 涼しげな声で彼女は告げて、白い手のひらに備え付けのオイルをワンプッシュした。
 クチュクチュ、という小さな音が聞こえる。

「んっ……」

 左足のふくらはぎに指先を置かれた時に声が出た。

「力を抜いてください」
「う、うん……」

 そう言われてもなかなか脱力できないのだが、彼女の指が体を這い回っていくうちに自然と俺はその通りにされていく。
 ゆっくりと揉みほぐされていくうちにだんだん慣れてきた。
 美少女の細い指の感覚がずっと体の表面に残されている。
 やがて腰から下を全てマッサージされ尽くす頃にはすっかり俺はその技術に魅了されていた。

「上手だね」
「ありがとうございます」

 三雲の手がベッドと腰の隙間に滑り込んでくる。すでにオイルまみれになっているせいでするりと簡単に忍び込んできた両手が肉棒に触れること無く俺の膝を立たせる。

(ああぁぁ……)

 うつ伏せになったままお尻を突き出すような体勢。恥ずかしくて前を向けない。

「太ももと鼠径部をマッサージします」

 簡素な説明の後で再開される魅惑の手つき。するすると太ももや膝を撫で回されていくうちにペニスは完全に勃起してしまった。

(さ、さわってほしいのに……あの指でめちゃくちゃにされたい!)

 頭の中にそんな願望が急激に膨らんでくる。だがそれを口に出せずにいると、三雲は細い指先を使って睾丸を弄び始めた!

「特別コースはこちらもマッサージします」

 袋の中身を確かめるような指使いで左右の玉をいじられる。もどかしさで腰がよじれそうになるが、いつの間にかベッドに上がった彼女は正座をするような体勢で俺の足を閉じられなくしていた。

「パンパンに張り詰めてますね」
「それは、言わないで欲しい……」
「わかりました」

 小さな手の上で睾丸を転がされ鼠径部をなぞられる。無意識に俺の口から声が漏れているのを無視して彼女の施術が続く。

(この時点でペニスをしごかれたら絶対に射精してしまう……!)

 しかし意地悪くペニスを避けて往復する美少女の指先がそれを許さない。

「だ、出したい……」
「駄目です」
「頼む、お願いだ……追加料金なら払うから」
「追加は必要ないです。コースに含まれています」

 そっけなく返される。だが逆に期待してしまう。

「み、美雲さん……早く……」
「まだ背中と腕が残っていますので」
「~~~~~~~~っ!!」

 硬めの枕に顔を埋め、必死で下半身の疼きを堪えていると……

「ちゃんと昇天させてあげますから」

 そっと彼女に囁かれた。
 不意に顔を横に向けると彼女は笑顔だった。
 そして雰囲気が一変していた。
 巨乳でもなく、高身長でもなく凡庸な女子校生くらいにしか見えないのに引きずり込まれるような魅力を感じる。

 背中と肩にオイルを振りかけられ、彼女の手のひらで伸ばされる。脈が打つほど興奮させられた下半身を放置されたまま施術は続き、やがて導かれるままに仰向けにされた。

(あぁぁ、きれいだ……俺はこの子に弄ばれて……)

 両手を頭の後ろで組むように言われながら、うっとりと彼女を見つめてしまう。
 肌は白い。腕も足もほっそりした黒髪の美少女だ。
 だが本当にそれだけで、なにか薬を使っているような怪しい雰囲気はない。

「いかがですか? 今のご気分は」

 でも引き込まれる。もっと見つめて欲しい。店名から妖艶な美女を想像していたので肩透かしを食らったはずなのに、良い意味で心が落ち着かない。

「だいぶリラックスされているようですね。特別コースを続けます」

 そして再開された施術は刺激的すぎた。
 突然彼女が白衣を脱いで下着姿になったのだ。

「うっ、ううぅぅ……」
「あら? 急にこちらが元気になりました」

 笑みを浮かべた彼女の人差し指が、ちょん……と亀頭を引っ掻いた。

「あううぅぅっ!」
「ふふ……」

 そして彼女はゆっくりと俺の腹の上に座り込み、自分の胸や腕にアロマオイルをふりかけ始める。蠱惑的な目で俺を見下ろしながらゆっくりと上体を倒して――

ふにゅ……

「っ!!」

 唇が触れそうな距離まで顔を寄せてきてつぶやく。

「私が全裸になったところを想像しながら耐えて下さい」

 そう言って両手で俺の顔を挟み、抱きついた格好で体を上下にスライドし始めた。

クチュ、ヌリュ、クチッ……ふにゅううぅぅぅぅ

 胸と胸がしっとり擦れ合い、紙パンツの中で膨らみきった肉棒が彼女の柔らかな尻肉にわずかに触れた。

「んああああっ!」

 もともとサラサラした特性のオイルなのにねっとりと絡みつくように感じてしまうのは彼女の技巧なのか、お互いの汗のせいなのかはわからない。ただ静かに快感が全身に染み渡ってゆく……

 まっすぐに伸ばしていた俺の足が僅かに持ち上がると、それを見越していたように外側から彼女の足の先が俺の膝裏に差し込まれた。
 同時に首に回していた腕がほどかれ、彼女の手のひらで両手の指が絡め取られる。

「両手を両足を封じました。動かせないでしょう?」
「え……」

 美雲にそう告げられて気づく。まるで自分が女郎蜘蛛に囚われた哀れな獲物みたいな姿にされていることに。

「そのままじっとしていてください」

 全身に塗られたオイルが白い柔肌で伸ばされ浸透してゆく。甘い刺激にピクピクと悶えながら美しい顔を見つめているうちに俺は想像してしまう。

 ここで急に立ち上がって彼女を犯す。押し倒す、抵抗力は弱い。
 小さな顔。怯えて濡れた瞳が欲しくなる。
 唇を奪うと甘く悶える。
 もう一度キスを……欲望に溺れていく自分が止められない。

「どうされたのですか?」

 興奮で呼吸を弾ませる俺の様子を微笑みながら見つめる美雲。
 試しに立ち上がろうとしてみたが実際には動けなかった。

「ださせて、くれ……も、もう……」
「もう降参ですか?」

 体重の軽い彼女にのしかかられたまま指先すら動かすのが億劫になるほど快楽漬けにされていることに気づく。自分ではどうにもならない。

「この状態になると、私を押しのけて挿入したい、めちゃくちゃにしたい、そんな事を言い出すお客様はけっこう多いのですが……」

 三雲は上体を起こし、俺の目を見据えたまま静かに腕を後ろへ回す。
 そして狙いを定めたかのように尻肉に触れる肉棒の先端を爪の先で引っ掻いた。

クニュッ

「あああああああああっ!」

 たったそれだけで俺の全身に快感が駆け抜けた。

「実際はこの通り。お客様ご自身が動くのは難しいです」

 彼女は再び俺に顔を寄せ、両手を肩においてから静かに体を揺らし始める。
 下着越しに柔らかなおっぱいを感じながら細身の彼女に包みこまれる。

「たっぷりと気持ちよくなる毒を染み込まされ、体の自由がきかない……そして心のどこかで私に犯されたいと願っているのではありませんか?」

「それ、は……」

 俺は即答できなかった。女に犯されるという発想がそれまで頭の中に存在しなかったのだが、それはとても甘美なものに思えた。

 気づいたときにはもう遅い、というやつだった。
 自分は美雲に絡みつかれてる。心も体も見えない糸で操られていた。

「ここからが特別コースです。全裸での施術になりますから『間違って』私の膣内におちんちんが入り込んでしまうかも知れませんね?」
「っ!!」

 そう言って、三雲は妖艶に微笑みながらブラとショーツを脱ぎ去る。
 今まで隠されていた部分が全てさらけ出されたというのに、お互いに全裸であるというのに俺は一方的に興奮させられている。

「私の中、とても気持ちいいみたいですよ? にゅるりとして、あたたかくて、おちんちんが奥に届く前にほとんどの男性はドピュって」

 その言葉に俺は身悶えした。

(あああああああああああーーーーーっ!)

 すでに限界以上に張り詰めてお預けを食らっているペニスが切なく打ち震えている。
 女の囁きをこんなにエロく感じたことは今までなかった。

「想像しちゃいますよね。こんな細い体で抑え込まれて動けないまま、ゆっくりズプリと咥えこまれて……自分から腰を振ることも出来ずに犯されて」

ヌチュッ……

 その時、先端が熱い膣内へ招かれた。俺はこれだけで射精することを覚悟したがなんとか持ちこたえる。

「まだ我慢ですよ? 想像すればするほど気持ちよくなれますから」

 こちらの葛藤を見透かしたような一言だった。先っぽだけで果ててしまってはもったいない、恥ずかしい、そんな気持ちが俺の中で渦巻いている。だが彼女の囁きは続いていた。

「白くて粘っこい精液を私の中で搾り取られると病みつきになっちゃうみたいです。しかも何度も何度も……たっぷり揉みほぐされた体では抵抗できないとびきりの快感を味わってみたくないですか?」

 そこで彼女がトントンと小刻みに腰を揺らしてきた。
 亀頭が膣の入口で舐められ、溶かされ、解放される……そんな様子をこちらに思い描かせる絶妙な刺激だった。

(まだ先端だけなのに……出してしまいたくなる!)

 無意識に俺の体がこわばっていくと、

「射精したら快感が途切れてしまうかも知れませんよ」

 三雲はしっかりと言葉で釘を刺してきた。俺の全身が硬直する。

「一番奥まで我慢できたらキスしてあげます」

 歯を食いしばり必死で射精を堪える俺にさらに甘い誘惑を注ぎ込んでくる彼女。
 目の前にある小さな唇の感触がどれほど心地よいものか想像するだけで、俺の期待がもう一段階跳ね上がった。

クニュッ、ヌプ……グチュ、クチュッ……ヌプ……

「あっ、ああああ~~~! うあぁ、そんな……!」
「ふふふ」

 ゆっくりと挿入され続け、時々引き抜かれる。
 その繰り返しに頭の中が沸騰してしまいそうだった。

「そろそろ馴染んだ頃でしょうか」

 そうつぶやいた彼女が大きく息を吸いこみ、ひときわ大きく体を沈ませる。

ずちゅううぅぅぅぅ!

「ひいっ、あああああ~~~~~!」

 肉棒だけでなく全身を彼女に包みこまれたような感覚。
 たっぷり快感を焦らされた俺の顔を見ながら三雲が満足そうに笑う。

「入りました。よく我慢できましたね」

 目を細め、俺の髪をなでながら彼女が膣内を軽く締め上げた瞬間、

「いいっ、イくううううぅぅぅ!!」

ドプッ、ドピュウウ、ドプドプドプッ……

 大量の精液を膣内に吐き出す快感に俺は白目をむいた。
 根本まできっちりと飲み込まれた瞬間、俺は爆ぜてしまった。

ちゅうぅぅ……ジュルル、ペロペロペロ……

 同時に唇が重ねられ、ますます俺の心が混乱する。

(あ、あまい……)

 約束通り三雲は俺にキスをしてくれた。
 しかも口内を舐め回すようなディープキス。
 射精直後という最高に男が弱くなっている状態で施される情熱的な口撃は、容易に俺の内面を彼女という存在で満たし、支配しつくしてしまう。

 思考と体力のすべてを奪われた俺は全身を投げ出して彼女を受け入れていた。

 やがて、たっぷりと俺を甘やかし終えた彼女が体を起こした。

「まだ終わりませんよ?」

 そう言いながら両手を俺の胸について、わずかに前傾姿勢になった三雲がニヤニヤしながら腹に力を込めると――

キュッ……グチュグチュグチュウウゥゥ!

「えっ、あ……な、中が動いて! な、なにこれええええぇぇ!?」

 不意にやってきた股間の痺れに俺は悶える。
 じっとしたまま彼女は動かない。
 それなのにペニスが膣内で複雑に揉みほぐされている!

「あ、ま、まって! だめっ、まだ、敏感だからあああぁぁぁ!」
「わかってます。でも気持ちいいでしょう?」

ぐちゅっ、ぐちゅっ、ぐちゅっ

 腕を上げようとしても疲労感で上がらず、下半身はさらに痺れて動かせなかった。
 快感だけが積み上げられ、彼女の中で膨らんでゆく感覚。

「メチャメチャにされてしまうのはお客様でしたね。ふふふ」

 まるでこちらの気持ちを見透かしたような一言に全身が震えた。
 俺は彼女を犯したかった。それなのに犯されて、想像以上の快感を味わってしまっている。

「次はこういうのはいかがでしょう」

 両手を俺の胸についたまま腰を前後にグラインドさせてくる。
 これがたまらなかった。
 あっという間に二度目の射精が近づいてくる。
 性感を支配されている心地よさにたまらず俺は彼女を求めてしまう。

「みく、もっ、ま、また出るうううぅぅぅ!」
「いいですよ」

キュウウゥゥゥゥ!

「ああああああああああああああああーーーーーーっ!」

ドピュウウウウッ!

 ペニス全体を締めつけられ、再び俺は絶頂した。

「ふふ、お客様の精液まみれにされて膣内が喜んでます。私のほうが病みつきになっちゃいそうです」

 違う、快楽の毒にたっぷり浸されてるのは俺の方だった。
 一方的に犯されて病みつきにされているのは俺の方だ。

 やがて美雲が俺を抱き起こし、自分からベッドに背中を預けた。

「今度はお客様の方からどうぞ」

 蠱惑的に微笑みながら美脚を大きく広げる彼女にペニスを挿し込む。

(ああ、柔らかくて気持ちいい……)

 だが正常位になっても何も変わらない。
 体勢が変わっても女性上位の関係は崩れない。

 めちゃくちゃに犯してやるつもりだった。ヒイヒイ言わせてやるつもりだった。
 それなのに彼女は余裕の表情で腰を動かす俺を受け止めている。

 美雲はまるでアラクネ、クモの妖女。

 細い脚が俺の腰に回される。腰の動きが制限され、彼女のリズムで強制的に腰を動かされると自分でする以上の心地よさが全身に染み渡る。

(駄目だ、俺はもう彼女が与えてくれた快感から抜け出せない……)

 そして腰の動きを完全に止めた俺を再び転がし上になる彼女。

 くねりくねりと左右に腰を振られ、時間をかけて快感をなじまされてから俺は三度目の精を放ってしまう。

 そのまま騎乗位で時間いっぱいまで俺を快楽漬けにしてから、最後に彼女が軽くキスをしてくれた。

ちゅ……

「次回のご来店をお待ちしております」

 美しい指先が俺の首筋をくすぐっていた。

 それは毒のように甘い調べだった。



(了)










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