過去作品(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=16160251)を加筆修正したものです。何故か倉庫の奥深くに眠っていたので表に出すことにしました。






『近所のお姉さんに教えを乞うつもりが素直になれず色々こじれてしまった結果 2』





 両親と喧嘩をした。父親はともかく母親と俺とは犬猿の仲。確かに今回のテストの点は良くなかった。はっきり言って惨敗だ。

 でも自分の親から徹底的に追求されるのは少し違うと思う。すでにこちらは敗北を痛感してるのだ。戦意喪失の相手に追い打ちや死体蹴りはひどい。ここぞとばかりにやり込められてはたまらない。言われたことが正論だとわかっても反発してしまう。

「……ってことなんだけど、ひどいと思わない? ミユ姉」
「別にぃ」

 不満げに事の次第を報告する俺を見ながらつまらなそうに彼女は返す。
 肩より少し長い黒髪をポニーテールにしたこの無防備な部屋着姿の女性は酒城ミユ(さかきみゆ)という。いわゆるお隣の「きれいな」お姉さんだ。
 なぜカギカッコ付きで形容詞が必要かというと、それがないと本人が怒るからだ。

 白いキャミソールとハーフパンツ姿という色気のなさそうな格好でありながら、バレーボールで鍛えたおかげでスラリと長い手足。さらに日焼けしていない真っ白な素肌を惜しげなく目の前にさらしてくる。身長は俺より少し高くて、年齢もふたつ上。


「アンタの泣き言とか千回以上聞かされてるし、なぁ~んにも響いてこないのよね」
「俺の親よりひどくない!?」
「別にぃ」
「なんかその返しがムカつく」

 ミユ姉と俺の家は隣同士で交友関係もある。小さい頃からよく遊んでもらったし、俺の親が不在の時は泊めてもらったりもした。いずれにせよ古い話だ。
 最近はちょっと、俺のほうが気後れをしてミユ姉に話しかけられずに居た。彼女は普段どおり接してくれていたんだけど、俺から見てミユ姉はきれいになりすぎた。
 お世辞抜きで通っている学校の中でもカースト上位だと思う。彼氏がいると言われれば素直に信じてしまうだろう。

 さて、そんな女性が目の前にいる。呆れたような目でソファに座った俺を時々見つめながら。

「んで、アンタは自分から母親に頭を下げるつもりはないわけよね」
「当然だ!」
「あーぁ、こりゃ希由実さんも苦労するわけだわ」

 そう言って大げさにため息を吐きながら両手を広げる。ちなみに希由実さんってのは俺の母親の名前だ。ミユ姉と仲良しでうちの親が料理を教えたり自分が着れなくなった服をあげたりしているそうだ。

「どーせまたアンタが逆ギレして出てきたんでしょ。顔に書いてあるわ」
「かーちゃんは関係ねえってば!」

 そう突っぱねてみたけれど、図星だった。困ったことに喋り方までなんとなく似てきてる……さっきボコボコに言われたのを思い出して苦い顔になってしまう。

「しょーがないなー。ちょっと電話しておくから」
「ちょっと待っ」
「じゃあアンタが話す?」
「いや……」
「フン」

 ミユ姉は立ち上がり、スマホを手にして背を向けた。
 悔しいがその立ち姿に見とれてしまう。

 通話はすぐに終わった。

「ケンタ、今夜はここに泊まっていいってさ」
「なっ! 勝手に決めてんじゃねえよ」
「だってアンタ宿なしだよ? 自動的にここに泊まるしか選択肢はないんだけど」
「くそっ、しくじったか……」
「理由は希由実さんから大体聞いたけど。勉強久しぶりに教えてあげよーか」

 ミユ姉がそう言いながら俺の隣に腰を下ろすと、髪が揺れて甘い香りがした。
 せっかくなら時間を無駄にしないほうがいい。
 俺は小さく頷いた。

 しかし……

「なんかさー、もう勉強いいよね? どーせやる気ないっしょ。受け入れ体制が出来てないボウヤに無理やり教え込むなんて時間の無駄だし」

 俺と手甘えているわけではない。やる気が無いわけではないのだ。
 この環境のせいで全く集中できないだけなのだ!

「さっきからずっとアタシの胸のあたり見てたよね」
「いや、そんなことはないっ!」
「必死に打ち消してくるのダサいんですけど」
「肯定するほうがヤバイと思わないか!?」
「ふぅん?」

 と、すぐとなりで俺に顔を寄せてくるミユ姉の体温が俺の平常心を奪う。

 昔から知っている相手とはいえ、これでは意識してしまう。

(むしろなんでこの人は全然平気なんだ?)

 こっちが尋ねたいくらいだけど、流石に不謹慎なので問うことは出来ない。
 なかなか思考がまとまらず、一人でブツブツとつぶやいてしまいそうになる。

 すると少し離れた場所からこんなことを言われた。

「ケンタ、久しぶりに一緒に寝よっか」
「は?」

 俺が固まっていた隙に、ミユ姉はすでに布団を整えていた。
 わざわざソファを部屋の隅に寄せてスペースを作り、テキパキと布団を2つ並べて俺を手招きしていた。

「並んで寝るの!?」
「あ、布団は一つのほうが良かった?」
「正気か!」
「何が?」

 ミユ姉が俺の手をぐいっと引く。強い力だ。
 そのまま吸い込まれるように布団に横たわると背中を抱きしめられた。

「うっ、俺に拒否権はないのか……」
「まあまあ、勉強以外にもいろいろ教えてあげるからさー」

 抱きすくめられて動けなくなる。
 体力も体格もかなわないと思い知る。

(くそっ、逆らえない……情けない、ミユ姉はこんなにも柔らかい体なのに)

 背中に押し付けられているのが何なのか、考えなくてもわかる。
 それよりヤバイのは体温。

 抱きしめられてるだけで勝手に興奮してくる。
 まずい、反応してしまう。
 自然と車海老のように体を折り曲げてしまう。

 すると不意に下半身がもぞもぞとし始めて、

「えっ……ま、待って! なんで俺の、あ、あっ……んんんんんんぅ!!」

 異変を感じてすぐのことだった。
 あっという間にミユ姉の長い手足に俺は絡みつかれていた。

 それだけじゃなく、俺の口元が手のひらで抑えられていた。声も出せない。
 しっかりと腕の関節も極められていて動けない。
 こんな状況では下半身のくすぐったさ、もどかしさだけが膨らんでいく。

「んふ、急におとなしくなっちゃうんだね。かわいい♪」

 さらに甘すぎる囁き。
 ミユ姉のヒソヒソ声を耳の穴から注がれて背筋が震えた。
 色っぽくて、悪戯な年上女子の声に頭の中がとろける。

「もっと力を抜いて、と言っても無理そうね。そのままでいいよ」
「ふあっ、ああ、ミユね……ぇ……」
「いろんなところをイイコイイコしたげる」

 その言葉通り俺の全身が撫で回された。
 恥ずかしいけど苦痛じゃない。
 照れるけど気持ちいい。

「こういうふうにされるの嫌いじゃないでしょ」
「うん……」

 気づけば俺は素直になっていた。
 否、素直にされていた。

 ミユ姉の優しい手付きで転がされて全身の力がほぐれていく。縮こまっていた体も真っ直ぐになって、下腹部や鼠径部までも手のひらで愛撫された。

(で、でも、肝心なところには触ってくれないんだ……ふああああっ!)

 俺は思い出す。以前もこんなふうに焦らされて、最後は泣きそうになりながらおねだりしてしまったことを。ミユ姉はそれら全てを今まで二人だけの秘密にしてくれている。感謝すると同時に俺は彼女に対して頭が上がらないのだ。

「強がってるけど本当は傷つけたくなかったんだよね?」
「えっ」
「だから財布もスマホも持たずに出てきたんでしょ」
「……」
「別に答えなくてもいいよ。いっぱい慰めてあげるからさー」

 布団にくるまったまま優しく囁かれ、それと同時に背筋をツツツーっとなぞられた。

「ひゃああっ!」
「馬鹿ね。叫んだら聞こえちゃうでしょ」
「ごめん、なさい……」
「じっとしてなさい。あたしのニオイ、いっぱいつけてあげる……」

ちゅ……

 首筋にキスをされた。わかったのはそれだけだった。
 次の瞬間その僅かな接触のせいで全身が甘く痺れてしまう。

「うあああ……」
「喘ぎ声も初々しくていいね。でも少しだけボリューム落とそっか」

 それはとても優しいキスなのに、首筋から頬、顎を経て反対側へ繰り返され、繋がっていく。途切れない快感と膨らんでくるミユ姉への思いで俺はおかしくなりそうだった。

(感じる……ミユ姉の手のひら、指先の感触、それに息遣いまで全部……)

 キスをされながら他の場所を撫でられていると気づいてますます快感が抑えきれなくなる。ミユ姉は俺の背中から離れ、真上から覆いかぶさるような体勢になっていた。

「重いとか言ったらやめちゃうからね」

ちゅっ……

 ちょっぴり拗ねたような、戒めるようなキス。
 暗闇の中で見るミユ姉は目が離せないほど可愛かった。

(こんなに優しくされたら、好きになっちまう……全身を撫でられて、動けなくされてくみたいで……)

 実際に身動きできない。それにさっきまでずっと触ってほしかった場所には彼女の太ももがそっと添えられていた。

「怖がらなくていいよ。あたしに任せちゃいなよ」
「うっ、ああああっ!」

 あまりのもどかしさに自分から腰を突き上げてしまう。
 だがミユ姉はそれを見越していたかのようにすっと腰を引いてしまう。

「気持ちよくなりたい?」

 なりたいに決まってる! 俺は首がもげるほど顎を上下させる。

「じゃあ、アタシのことも満足させて」

 満足って、どうやって!?
 俺は息を切らせて情けない顔でミユ姉を見上げることしか出来ないというのに。

 すると彼女の右手がスーッと下りてきた。

クチュッ

「くぁぁっ! ンウウウウウッ……」
「アンタの恥ずかしいイキ顔をしっかり見届けさせてもらうからね」

 右手でペニスを包まれ、左手で口元を塞がれた。まるで犯されているような気持ちで俺はミユ姉を見つめる。彼女はニヤニヤ笑いながら、ゆっくりと円を描くように右手を動かしてきた。

(きもちっ、きもちいいよおおおおぉ! ああ、とける、こしがぜんぶ、てのひらにつつまれてえええ!!)

 頭の中が崩れていく。何も考えられないほど気持ちいい。
 のしかかられたまま大好きな人に犯される感覚に抗うことが出来ない。

 股間を中心に体も意識も溶けかかった俺に顔を寄せてミユ姉は尋ねる。

「アタシのこと好き?」
「んひっ、ふひっ、んゆんぇぇぇ!」
「ふふっ、ありがと。どれくらい我慢できそう? ああ、そっか。もう限界だよね。お疲れ様」

 心臓が早鐘を打つ中で俺は全力で好意を伝え、それが理解されたようだった。
 同時に全身が泡立ち、快感が溢れ出してしまいそうになる。

(イクッ! イクウウウッ、イッチャウウウウ!!)

ちゅううううぅぅぅ……

 口元をふさいでいた手のひらが剥がれ、代わりに唇が押し付けられた。
 ミユ姉のふんわりした唇を感じながら全身が脱力していく。

 そして次の瞬間、

ドッピュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!

 吹き上がった快感に意識が飛びかけた。
 全身で彼女を感じながら絶頂すること数回、俺の手足が完全に脱力するまでミユ姉はキスをやめなかった。

ちゅ、ぽ……

「クスッ、いい顔するじゃん♪」

 やっと唇が離れるころには、俺の意識はすっかり天国へ召されていた。ただひたすら心地よい余韻に包まれ、漂うだけの俺をミユ姉はずっと見ていたらしい。




 そして翌日。

 朝起きてすぐに俺は自宅へ連れ戻された。
 ミユ姉も同伴で。

 まず母親から外泊したことを責められ、キレそうになった俺をミユ姉が諌めた。
 そんなやり取りが何度か行われ、結論として俺の親がさじを投げた。
 俺は見放されたのだ。

 そして今後はミユ姉が俺の監視役になる。
 うちの親から正式に依頼されたのだ。

「というわけで、あたしたち付き合うことになりましたー!」
「なんで!?」
「細かいことはいいじゃん。これでお互いの部屋が通行フリーになったわけだ」

 監視役と兼任して家庭教師も頼まれたミユ姉は嬉しそうだった。

「バイト代も結構貰えるみたいだし、ビシバシ鍛えてあげる」
「ミユ姉、まさかこれを最初から見越して?」
「さあ、なんのことかしら。とにかくアタシの彼氏になるんだから勉強して見た目も中身もいい男になってもらいからね」

 あとで親から聴いた話だが、ミユ姉はずっと部活ばかりで学園では男子との交流ができなかったらしい。その悩みを聞いていた母親が俺を勧めて、彼女がそれを受け入れた。

(ま、まあ、相手がミユ姉なら俺も文句ないんだけどさ……)

 初めての交際相手が年上になるなんて思っていなかったけど、もう少しまともな出会い方をしたかったという気持ちはある。これじゃあ一生頭が上がらない。

「ちょっと! こっち向きなさい」
「ぅあっ……」

 不意にミユ姉が下を向いていた俺の顎を持ち上げた。
 真正面から見つめられるとドキドキする。
 つまらなそうに下を向いている場合じゃなかった。

(ミユ姉、本当にきれいなんだ……いいのかな、俺で……)

 じっとしているだけで鼓動が高鳴る。
 俺が自分に見とれているのを理解したのか、ミユ姉はクスッと笑った。

「約束してよ。もっといい男になるって!」
「が、がんばるよ!」

 そう言うと彼女はまた笑った。
 キリリとした表情も好きだけど、花が咲いたような笑顔が俺は好きだ。

「よろしい。じゃあ、勉強だけじゃなくて、年上の彼女の良さもいっぱい教えてあげる」
 優秀でしっかり者の年上の彼女に、俺はいつも以上にドキドキしてしまうのだった。





『近所のお姉さんに教えを乞うつもりが素直になれず色々こじれてしまった結果』(了)


















(さらにつづく?)
初稿 2025.05.15












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