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 今年ももうすぐ終わりを迎える。
 駅前の商店街も先日までのクリスマスムードが消えて、今はもう正月の飾り付けになっている。

 俺は相変わらずアイドルたちのスケジュール調整などで忙しい。
 クリスマスが終わったとは言え、年末年始はイベントラッシュで気を抜けない。
 アイドル達に出来るだけ負担をかけないようにしつつ、予定を隙間なく埋めていかなきゃならない。

 プロデューサー業というのは、パズルゲームに似ている。
 ただしそのパズルは一秒ごとに形を変えていくのだが……。

「……今日は早めに切り上げられそうだな」

 そんな忙しい毎日でも、相手の都合で急に予定が空いてしまうことがある。
 今日はまさにそんな一日だった。
 俺にとってはちょうど良い残務処理の日となった。
 その作業も終わりを迎えようとしている。

 
「ねえ、ハニー? どこか連れて行って欲しいの」

 たまたま俺が呟いた言葉を聞いた美希が目を輝かせながら口を開いた。
 ここだけの話だが、俺は彼女・星井美希と付き合っている。
 それもプロデューサーとしてではなく、一人の女性として。

 美希がリーダーを務めるユニット「おにぎり☆なの」は、俺がプロデュースを担当している。
 彼女の圧倒的なビジュアルと、見かけによらず真面目なレッスン姿などに惹かれてリーダーに抜擢した。
 そして俺の予想通り、彼女は天才だった。
 歌唱力、ダンスはもちろん、そのスタイル抜群の容姿や、愛らしい顔立ちなどはファンだけでなくプロデューサーである俺をも魅了した。

「ミキ、プロデューサーのためならどんなことだってするよ! アイドルやめろって言われたらやめる!! だから付き合って? ミキをお嫁さんにして♪」

 たとえ俺じゃなくても、彼女にここまで言われればどんな男でも断ることなど出来ないだろう。
 俺は美希の言葉に押し切られる形で、事務所の皆には内緒で交際することを決めた。

 しかし、普段なら事務所では俺のことをハニーと呼ばない約束なんだけど……
 今日の美希はなんだか切羽詰った様子を見せていた。

「えっ? そんな急に言われてもなぁ」

「お願いなの。ミキ、もうストレスで爆発しちゃいそうなの~~!」

 まずい。これはもう仕事を投げ出す一歩手前だ。
 なんとかうまくフォローしないと、彼女の場合は冗談抜きで大変なことになってしまう!

「う~ん、明日からも仕事ばかりでオフも取ってやれないからな……よし、いいよ。どこか遊びに行こうか?」

 本当は家に帰ってゆっくりしたいところだけど、たまにはアイドルたちの息抜きも必要だ。

「じゃあね、ショッピングモールがいいの! ミキ、お洋服とおにぎりが見たいなぁ」

 洋服はともかく、おにぎりについては良くわからないけど。
 それで気が済むのならお安い御用だ。

「ああ、わかった。今夜は付き合うよ」

「……なんか言い方がエッチなの」

「うわっ、なんだよそのツッコミ! とにかく、買い物には付き合うよ」

「やったぁ♪ ハニー、だ~い好きなの!」

 美希は両手を広げて、俺に抱きつこうとしてきたがさすがに事務所内でそれは不謹慎だ。
 俺はヒラリと身をかわした。

「う~~、避けちゃ駄目なの!」

「事務所内で暴れる美希の方が悪い」

「もうっ……とにかく! ミキとの約束、忘れないでね? 今夜の19時だよ? ミキ、ずっと待ってるからね!」

 口を尖らせて美樹は俺をにらみつけた。
 少しすねた表情も彼女らしくて可愛らしい。

「ああ、わかったよ。約束は守る。でも、あと少しだけ仕事あるから……終わったら電話するよ」

「……絶対来てくれなきゃ嫌だよ~?」

 恨めしそうに俺を見ながら、美希はロッカールームへと向っていった。







――そして30分後。

 ようやく書類の山が最後の数枚となったとき、音無さんがコーヒーを入れてくれた。

「お疲れ様です。プロデューサーさん」

「あっ、ありがとうございます!」

 彼女は音無小鳥さん。
 俺が入社したときからずっと事務の仕事をしている。
 少し緑色がかったショートヘアで、いつも笑顔を絶やさない。

 そして見た目も可愛らしくて、元アイドルといわれても疑わないだろう。
 年齢は……おそらく俺より少し上のはずだけど、詳しく聞いたことはない。
 事務所のことでわからないことがあれば彼女に聞くようにしている。

「でも、いいんですか? あんな約束しちゃって」

 音無さんは自分のカップに注いだコーヒーを飲みながら、俺に話しかけてきた。

「ええ、たまには美希の言う事を聞いてやらないと……って、聞いていたのですか!?」

「はい♪」

「あ、あの……このことは社長には内密に」

「フフッ、大丈夫です。高木社長にはナイショにしておきますから」

 そこまで言ってから、音無さんは両手でコーヒーカップを握り締めながら斜め上を見つめた。

「プロデューサーさんとアイドルの関係って、妄想無限大ですよねぇ……」

 まるで独り言のように呟くと、音無さんは表情を緩めた。


(一体彼女の頭の中で、俺と美希はどんなことになっているのだろう!?)

 ドス黒い不安を感じた俺は、彼女の妄想を中断させるべく必死に語りかけた。


「音無さん? 音無さーん!?」

「ハッ、いけない! お互いにちゃんとお仕事しましょうね、プロデューサーさん」

 正気に戻った彼女は、いそいそと自分の席へと戻っていった。






 それからあとの業務がなかなかはかどらず、俺は予想以上に苦戦を強いられた。
 さっきまでのようにすんなりと書類に判子をつけない。
 何度読み直してもどこか間違いがあるような気がしてならない。

(おかしいぞ、俺……それになんだ、この眠気は……)

 そう、身体がだるいのだ。
 まるで風邪の引き始めのように、意識できないほどジンワリと身体から力が抜けていく。

 悪戦苦闘する俺の肩に、ポンっと誰かの手が置かれた。

(ま、まさか美希っ!?)

 待ちきれなくなって俺を迎えに来たのか。
 彼女ならありうる。

 言い訳を考えながら恐る恐る振り返る。


「うふふ、驚きましたか?」

「あ、あれ? 音無……さん」

 俺の肩に手を置いたのは彼女だったのか。
 美希じゃなくてよかった。

 しかし……

「むっ……だいたい、いつまでも他人行儀なんですよね……」

「え? なんですか音無さ……」

「小鳥ちゃんって呼んでくれないし!」

 お、音無さんが怒ってる!?
 いつも笑顔で優しくて気の利く事務員さんの彼女がなぜ……しかも俺の体調がおかしいときに、どうしてこんなことに!?


「私が呼んで欲しいのに、呼んでくれないなんてひどいと思いませんか?」

「それは無理ですよ、音無さん……」

「ほら! また呼んでくれなかったぁぁぁぁぁ!」

 親しくないのに「小鳥ちゃん」なんて呼べるわけがない!
 でも美希は彼女のことを「小鳥」って呼び捨てにしてたよな。

 そんなことを考えていたら、急に音無さんが背中から俺を抱きしめてきた!

「ちょ、お、おとな……」

「おクスリ、効いてきたみたいですね」

「えっ……?」

 クスリ? 薬ってなんだ……それよりもこの、肩のあたりに当たってる柔らかいものって……。
 それほど背は高くない彼女だが、俺が座っているとなれば話は別だ。

「プロデューサーさん……」

「おと……小鳥さん……」

 さっき怒られたときの彼女の表所が頭によぎったせいで、自然に言い直してしまった。

「小鳥ちゃん、でしょ? うふふ……私といいこと、しちゃいませんか?」

 俺を抱きしめたまま、彼女が妖しく囁いてきた。
 少ししっとりした音無さんの髪が、俺の右頬をやさしくくすぐった。

(こんなに……色っぽい声を出せるんだ、彼女)

 彼女に抱きしめられながら、美希にはまだ備わっていない「大人の香り」を俺は無理やり感じさせられていた。




 予想外の展開に、俺は言葉を失っていた。
 あの音無さんに抱きしめられている現実……これは夢じゃない。

 でもなぜか頭がボンヤリして、夢心地のようで…………

「プロデューサーさぁん♪」

「はっ!」

 甘く囁く彼女の言葉で、我に返った。
 だが細い腕が俺の首にしっかりと巻きついているせいで身動きが取れない。
 背中と首筋に彼女の豊かなバストをさっきよりも明確に感じる。

(もしかしてミキよりも……大きいんじゃないか!?)

 音無さんは着痩せするタイプなのかもしれない。
 比較的細身の身体に隠された女性らしさというべきか……俺の背中に与えられた刺激は、そのまま股間へ直撃していた。

(小鳥の……いや、音無さんの裸を見てみたい)

 そう考えた瞬間、俺の胸にズキンと痛みが走った。
 アイドルに対して恋心を抱いてはいけないのと同じように、彼女に対しても一線を越えてはならない気がした。

 俺は普段から彼女を性の対象として見ていなかった。
 それだけに、戸惑いがどんどん大きく膨らんでゆくのだ。

「んふっ……そろそろキス……しちゃおうかなぁ」

 音無さんが何度も頬ずりしてくる。
 予想以上にすべすべした肌を擦り付けられるたびに、抵抗する力が奪われていくようだ。

 しかし、俺を抱きしめる力が強すぎて呼吸があああぁぁぁ!!

「お…(とな)…し…(さん、くるし)…りい……ですっ!」

「えええっ!?」

 必死の思いで声を絞り出すと、俺に抱きついていた彼女が急に離れた。

「う……あ、はぁ、はぁっ!」

 彼女にガッチリ決められたスリーパーホールドから解放された俺は、急いで酸素を肺に取り込もうとした。


「い、今……おっ、お尻大きいって言いました?」

「がはっ、ごほっ……はぁ、はぁ……?」

 音無さんがわなわなと震えている。
 俺の声を聴き間違えたようだ。

 まだ呼吸が整わない。
 俺は呼吸をしながら必死で首を横に振った。


「いいえ、言いました。私の心はもうズタズタです。これはもうお仕置きです~~!」

 彼女は再び俺のそばに近づいて、椅子の背を掴んでまわした。

「こ、こと……うわああぁぁ!」

「私、結構力があるんですからね……こっちにきてもらいますよっ」

 椅子がそのまま回転して、音無さんと正面から向かい合う。
 さらに彼女は正面から俺を抱きかかえるようにして、椅子から立たせた。
 無意識に、さっき背中でつぶれていたバストを見る。

(やはりでかい! まるであずささんみたいだ)

 こんなに立派なものをお持ちだったとは……今まで全く気づかなかった。
 彼女は俺を抱きかかえたまま、近くにあった来客用のソファへと転がした。





「じゃあ、悪いプロデューサーさんをお仕置きしちゃいますね!」

「お、俺は何も!」

「うふふ、さっき私の胸を見てましたよねっ?」

 音無さんは咎めるような口調で俺を責めた。
 当たっているだけに言い返せない。


「プロデューサーさんが望むなら見せてあげてもいいですけど」

「えっ?」

「ふふ、やっぱりだめです。これはお仕置きだから見せてあげません」

 いたずらっぽく微笑みながら、彼女は俺の顔の前で後ろを向いた。

「その代わり……ちらっ……?」

 そして振り返りながら、少しだけ黒いタイトスカートの裾を捲り上げた。
 黒いニーソックスと、真っ白な太もも……そしてうっすらとパンティラインが見えた。

「何が見えましたか?」

 視線を奪われた俺を満足そうに見つめながら、音無さんが尋ねてきた。

「く、黒い下着……かな?」

「うふふ~、残念! 水色の縞パンでした♪」

「うくっ……」

「間違ったから、さらにお仕置きのグレードが上がりまーす」

 そしてもう一度身体を俺の方に向けて、今度は正面からスカートの裾をあげて見せた。
 可愛らしい縞模様が少しだけ見えた……。

「あらあらぁ? プロデューサーさんにとってはこっちのほうが攻撃力高かったみたいですね」

「こ、細かく観察しないで下さい!」

 音無さんの視線は俺の股間を注視している。
 本当に穴が開くほど見つめられて……こっちのほうが恥ずかしくなってきた。

「プロデューサーさんって、ロ・リ・コ・ン?」

「そんなことはないですっ」

「ムキになっちゃって、かわいいですね。こっちはもっと可愛いのかしら?」

 クスクス笑いながら、音無さんはソファに転がされた俺の脚の間に座った。
 そして彼女は俺の下半身をむき出しにし始めた!

「こんなところで……一体どうするつもりなんですか」

 手際よく俺を脱がせると、彼女はサンダルを脱いでソファの背もたれの部分に腰掛けた。
 転がされた俺を見下すようにして彼女は言う。

「どうするつもりって? もうわかってるんじゃないですか?」

 音無さんの左足がそっと持ち上がり、足の裏がペニスを優しく踏みつけた。

「くううう」

「プロデューサーさんの大好きなこと……してあげたいなぁ」

 ペニスを踏む足にはほとんど体重がかけられていなかった。
 彼女はうっすらと微笑みながら、優しく俺自身を撫で回した。

(ふあぁ……なんだこれ……すごい……!)

 ナイロンのすべすべした感触が、ゆっくりと刷り込まれていく。

「聞いてますよ? 脚でされるのがお好きなんですよね、プロデューサーさん」

「誰がそんなことをっ」

「情報のソースは秘密ですけど、私765プロのことなら何でも知ってるんですよ」

 彼女の脚の指が、そっと棹の部分を掴もうとする。
 ヌルリとした我慢汁が足の指先を濡らすと、滑らかな快感が俺の身体に流し込まれていく。

 脚でされるのは確かに好きだ。夢だといってもいい。
 でも、そんなことは誰にも話したことはないのに……なぜ彼女は知っているんだろう?


「……美希ちゃんの脚、細くてスベスベで気持ちいいのでしょうね」

「うああぁ、な、なにを……!」

 美希の脚、と聞いて不覚にも意識が飛びそうになってしまった。
 ダンスで鍛え上げたアイドルの脚に自らの欲求をブチまけてみたいという願望は、密かに持っている。
 でもそれがよりによって美希だなんて!
 あいつを……穢したくない。

「くすっ、超敏感ですね? でも、私の脚もなかなか悪くないと思いますよ」

「うっ、ううう!」

 悪くないどころではなかった。
 美希を抜きにしても、音無さんの脚もすごく魅力的だ。
 それにこの姿勢で一方的に責められるなんて……全然想定していなかっただけに刺激が強すぎる!

「このままの格好で責めてあげます。いつもプロデューサーさんが見てる、この黒ニーソのままで……」

「だ、だめだよ……音無さ……あああぁぁ!」

「呼び方は『小鳥ちゃん』でしょう? もう許さないですよ……エッチでたまらなくなっちゃうこと、い~っぱい妄想させてあげます」





 たっぷり寸止めされて、意識が朦朧としてきた。
 まだ彼女の脚に挟まれて、きゅうきゅうに締め付けられているような感じがする。

「あ……があぁぁ!」

 急に腰がビクビクと痙攣して、俺は再び我慢汁を吐き出してしまった!

(そんな……彼女のことを考えただけでイくなんて)

 危うくイきかけた。
 音無さんの黒いニーソと、その下に隠された柔肌の感触は完璧に俺を虜にしていたのだ。

「あらあら、もう触れていないのに出しちゃいましたね?」

 身体中から力が抜けて、興奮が一時的に落ち着く。
 俺は思い切って彼女に尋ねた。

「なぜこんなことを……するのですか、音無さん!?」

「理由ですか? ふふふっ」

 制服をきちんと正しながら、彼女は冷たく笑った。


「……最近あの子達、プロデューサーさんのことしか話してくれないんですよぉ」

「俺のこと……?」

「これって、すごく危険なことだと思いません?」

 音無さんがこちらを向いた。
 しかしその視線は深い闇のように冷たい。

(一体俺が何をしたって言うんだ!?)

 アイドルたちがプロデューサーである俺のことを考えるのは当然ともいえる。
 しかしそれが音無さんにとっては許せないことなのだろうか!?

「だから私、考えたんです。プロデューサーさんを私のものにしちゃえばいいんだって」

「な、なんでそうなるんですかっ!」

「そうすればあの子達の心が完全にプロデューサーさんに行っちゃっても、最終的には私のものになるでしょう?」

 その言葉を聞いて俺は全てを悟った。
 彼女は、音無さんは事務所のアイドルたちを……!


「だから、プロデューサーさんには堕ちてもらいますね」

「ああっ、くそ! また……」

「説明は以上です。抵抗しても無駄ですから、このままたっぷり吐き出してください♪」

 音無さんの身体が俺に重なる。
 もはや陥落寸前のペニスが、ゆっくりと彼女の太ももの内側に挟み込まれた。

(今度こそイかされてしまう……)

 しかしもう抗う術がない。
 魅力的な弾力に包まれたペニスは、射精したくて自らヒクヒクと震えだしている。

「私のテクニックでヘロヘロにされちった可愛いプロデューサーさんのお顔は、このインカムに内蔵してあるカメラに全部収めてありますからね」

「うぐっ、うあああぁぁ、ま、まだイくわけには」

「強がりを言っても無駄ですよ、プロデューサーさん♪」

 鈴のように響く彼女の声を聴きながら、俺は全身をこわばらせた。

 だめだ、もう……出る!

 必死でこらえる俺の顔を覗き込みながら、音無さんは徐々に締め付けを強めていく。


「あああぁぁ、そんな!」

「ふふっ、もうおしまいですよ、えいっ」

 一瞬だけ、彼女が腰を捻った。
 太ももに挟まれたペニスが悲鳴を上げる。
 その瞬間、下半身の力が抜け落ちてしまった!


どぴゅうううううぅぅぅぅ~~~~~~!

「うわあああああああああああぁぁぁぁっ!!」

 しゃ、射精が全然止まらない!
 切れ目なく何度もイかされ、足りなくなった精液が無理やり身体からひねり出されていくような感覚……

 わけのわからない言葉を叫びながら、俺は何度も彼女に身体を預けた。




「はぁい♪ いっぱい出しちゃいましたね~」

 周囲に飛び散った俺のしずくを、彼女は丁寧にタオルで拭いてくれた。

「やっぱりお好きなんですね、黒ニーソ……ううん、女の子の太ももですか?」

 何も言い返せない。
 音無さんのテクニックのせいとは言え、無様に何度も達してしまったことは事実なのだから。

 言葉に出来ない喪失感でがっくりとうなだれる俺に向って、彼女が言った。


「……これで美希ちゃんとの約束も守れませんね?」

「あっ!」

 すっかり忘れていた!!

 いつのまにか時計の針は20時を指そうとしていた。
 ミキとの約束の時間はとっくに過ぎている。


「もう時間切れですよ。今からじゃ間に合いません」

「くそっ、身体が……!」

 俺は身体を起こそうとしたが、腰から下が鉛のように重く感じた。
 足腰が立たなくなって……うまく立ち上がれない。


「情けないですね。動けないですよね? プロデューサーさん」

 特に慌てる様子もなく、彼女は淡々と周囲の後片付けをしていた。
 ソファや床に飛び散った精液はおそらくもう綺麗にふき取られているだろう。

「ニーソ責めで徹底的におちんちんを焦らしてから、ふわふわの私の太ももで時間をかけて搾りましたから、プロデューサーさんの下半身は完全にスタミナ切れです」

「うううっ、そんなはずは!」

 ソファの袖につかまって立とうとしたが、それでも無理だった。
 音無さんの身体に……骨抜きにされてしまった。


「ほら、動けないでしょう? そのためにあんな面倒な責めにしたんですから」

 音無さんはゆっくりと俺に近づいて、顔の前で少しだけタイトスカートをめくりあげた。
 可愛らしい縞パンと、さっき俺を痛めつけた真っ白な太ももが見え隠れした。

「私のアソコにお誘いしちゃえば、一瞬でプロデューサーさんを気持ちよくしてあげられたんですけどね。今日は美希ちゃん……ううん、ミキの心を完全に折ってあげる必要があったから」

「なっ! じゃあはじめから知っていたのですか! 美希と俺の関係を……」

 その問いかけには答えず、彼女は俺の仕事机へと向った。


「ケータイ、これですよね?」

「お、音無さん、なにをするんですか!」

「いっしょに記念撮影しましょ、プロデューサーさん」

 仕事用の俺のケータイをカメラモードに切り替えると、音無さんは静かにしゃがみこんだ。
 拒もうとしても身体は動かない。


カシャッ

「くっ……」

 俺たち以外の誰もいない事務所で、シャッター音が冷たく響く。
 俺のケータイのカメラで、恥ずかしい姿をとられてしまった。
 せめて服を着直してからにしてくれればいいのに。


「いい顔で撮れましたね」

「も、もう……これで気が済みましたか?」

「いいえ、まだですよ。仕上げをしなきゃ」

 彼女は満足げに写真をもう一度眺めてから、ケータイを操作し始めた。
 ものすごく嫌な予感がする。


「じゃあ、これ送っときますね? あて先は誰にしようかなぁ」

「えっ……や、やめてください! ああっ!!」

 音無さんは楽しそうに画面を見ながらメールの送信ボタンを押した。








 冬の星座が瞬く空の下、美希は彼を待っていた。
 時計の針はもうすぐ20時を回ろうとしていた。

「ハニー、遅いの……あんまり待たされると……ミキ、悲しくなっちゃうな」

 道行くカップルの姿が彼女の眼に入る。


「……みんな幸せそうなの」

 早くあんなふうに腕を組んで歩きたい。
 抱きついて怒られながら、もっと彼に抱きつきたい。

 そんな思いを募らせ始めたとき、美希のコートの中でケータイが何度か震えた。
 着信のリズムと、ランプの色だけで誰だかわかる。

「あっ、ハニーからメールがきたの!……って、あれれ?」

 タイトルには「ミキへ」と書いてあったが、肝心の本文がない。

 しかも彼には珍しく添付画像があるようだ。

 美希は鼻歌交じりに、彼が送ってきたファイルを開いた。







(了)