AI大賞グランドファイナルが終わった。
 俺のアイドルたちは見事にその栄冠を勝ち取り、この一年の苦労が報われた形となった。

 たくさんの記者さん達から取材を受ける彼女らを見守りつつ、俺はこの後のことを考えていた。
 今日は、この授賞式よりも大きな試練が……このあと待ち構えているんだ。


「お待たせしました、プロデューサー」

「お疲れ様、雪歩。それに今日はおめでとう」

 取材も一段落して、私服姿に着替えた雪歩が目の前にやってきた。
 彼女をユニットのリーダーにして良かった。
 かつての雪歩とは比べ物にならないほど、精神的にも成長してくれた。


「ありがとうございますぅ。えへへ……何度言われても嬉しいですね、『おめでとう』って」

「そうだろう。でも、それだけのことを雪歩たちは成し遂げてきたんだよ?」

 俺はそっと右手を伸ばした。
 手のひらでゆっくりと彼女の髪をなでてやる。
 たったそれだけだが、雪歩はいつも猫のように目を細めて喜んでくれる。

「頑張ったな、雪歩……」

「じゃあ、私にご褒美を下さい」

 恥ずかしそうに顔を赤くしながら、雪歩が上目遣いでこちらを見つめてきた。

(この一年、俺は彼女と毎日のように接してきたけれど、結局この笑顔に慣れることはなかった)

 暖かい日差しを優しく包み込んだような雪歩の笑顔は、見たものを一瞬で虜にする。
 これは俺だけでなく、全国のファンの意見でもあった。


「えっと、ご褒美ってなんだ?」

「私と……いいえ、私のユニットをずっとプロデュースし続けてください!」

「無茶言うなよ、雪歩。俺は明日からハリウッドに研修が……」

 そう言いながらも、心のどこかでは雪歩の想いに応えたい気持ちはある。
 明日からも雪歩のユニット「ドリラーズ」を盛り上げていけたらどれだけ楽しいことだろう。
 納得してくれたと思っていたのだが、甘かったようだ。


「じゃ、じゃあ! 私と……うぅ、その、抱いてください!」

「な、なんだと!」

 あまりにもストレートな要求に俺は戸惑った。
 男として、個人的には断る理由などない。
 しかし俺はプロデューサーだ。
 他の何者でもない、彼女のプロデューサーなんだ。


「私を満足させられなかったらプロデューサーの負けですぅ」

「お、おい! 俺の気持ちは全く無視なのか」

 葛藤する俺をよそに、すでに雪歩の頭の中では抱かれることは決定しているらしい。


「負けたら罰ゲームとしてハリウッド行きはキャンセルです!」

「結局それかよ! そんな条件この俺が飲むとでも思っ……」

「この勝負を断っても負けとみなされますぅ」

 そこまで言い切ってから、雪歩は俺に向って一歩近づいた。
 普段は穏やかなその瞳に、今は固い決意が宿っている。

「……何が何でも勝負させようって言うんだな?」

「はい。私、今日だけは譲りません! アイドル生命をかけてのお願いです」

 彼女がここまで強い口調で俺に臨んできたのは……本当に久しぶりだ。
 雪歩は一見すると気弱に見えるが、実は頑固者だ。

 ここ一番では自分の意見を絶対に曲げない強さがある。
 だから……おそらくその言葉通りだろう。

「ふぅ……わかったよ。じゃあ、場所を変えよう」

 俺の言葉を聞いて、雪歩は再び笑顔を浮かべた。







――IA大賞授賞式が行われた付近のシティホテル。

 俺は財布が許す限りで、一番いい部屋を選んだ。
 きっかけは何であれ、俺にとっても雪歩にとっても思い出の夜になるだろう。

「緊張しちゃいますぅ……」

「雪歩から誘ってきたんじゃなかったっけ?」

「そ、それはそうなんですけどっ! 恥ずかしくて、穴掘って埋まりたい気分です~」

 その様子を見て、俺はなぜか安心した。
 目の前にいるのはいつもの雪歩だ。
 ちょっと臆病で泣き虫だけど、世界で一番可愛い俺のアイドル……俺は彼女をそっと抱きしめた。

「あっ……プロデューサー」

「こうすれば怖くないだろ? ここには雪歩と俺しかいないんだから」

「はい……」

 野ウサギのように小さく震えていた雪歩の身体が、次第に落ち着きを取り戻していく。 抱きしめられながら彼女は少しずつ指先を伸ばしてきた。 
 まるで俺の存在を確かめるように。

「く、くすぐったいな……」

 脇の下から腕を通した雪歩は、俺にすがりつくように身体を密着させてきた。
 ぎゅっと抱きしめられて、ほんのりと柔らかな彼女の胸を感じた。
 細い指先が俺の背中をなぞる。

「私と初めて会った日……覚えてますか?」

「ああ、もちろん」

「うふふ、嬉しいですぅ。今みたいに優しいまなざしで……私を見てくれてました」

 雪歩の身体が、ふっと離れた。
 俺は彼女の肩に手をかけて、ゆっくりと衣類を脱がせ始める……。

「電気……消してもらえますか?」

 俺は無言でその言葉に従った。
 部屋の明るさに恥ずかしさを感じていた雪歩が、小さくため息をついた。

(けっこう胸は大きいんだ……)

 暖かそうなセーターやシャツを脱がせると、白いレースのブラが目に入ってきた。
 それはいかにも彼女らしい清楚な下着姿だった。

 抱きしめたまま背中のホックを外してやると、形の良い乳房が緩やかに揺れた。
 気を抜くとその肌の白さに見惚れてしまいそうだった。

「そういえば雪歩とは何度も喧嘩したよな」

 思い出したように俺が呟くと、彼女の身体がピクンと震えた。

「ううぅ……プロデューサー」

「ああっ、雪歩! 泣くなよ……」

「違うんです、プロデューサーのせいじゃないんです! 泣いてばかりでごめんなさい……」

 感受性の強い雪歩のことだから、さっきの一言で何かを思い出したのだろう。
 俺にもたくさんの思い出がある。
 時には些細なすれ違いもあったけど、俺達の絆は強くなった。

「いいよ、雪歩。こっちを見てごらん?」

「今日もプロデューサー……眼が優しいですぅ」

 震えながら泣き出した彼女の顔をそっと両手で包んでやると、泣き顔は消えて眩しいほどの笑顔がのぞいた。

 さすがにもう我慢の限界だった。
 俺はそのまま顔を寄せ、桜の花びらのような彼女の唇に……

「雪歩……」

 自分の想いを重ねた。
 ほんのりとした唇の暖かさと、彼女の吐息をはっきりと感じた。

「いい笑顔だな、雪歩。もっと笑って」

「えへへ……プロデューサーがそう言うなら、私ずっと笑ってます」

「へぇ、余裕だな? でも本当はドキドキしてるみたいだけど?」

 細い身体をぎゅっと抱きしめながら、俺は言った。
 素肌が触れ合っているせいで、彼女の鼓動をしっかりと感じる。

「心臓がすごいことになってないか?」

「わ、私がドキドキしてることなんて気づかないフリしてください! うわぁぁぁ~」

 慌てて全力で否定する雪歩の姿が可愛すぎて、俺はますます強く彼女を抱きしめた。

(こんなささやかな思い出でいい。彼女への思い胸に刻もう)

 それから、俺はしばらく雪歩の乳首をいじりまわした。

「はぁぁぁっ!」

 たっぷり感じさせてから指先を背中に滑らせ、そのままお尻から秘所へとしのばせる。 そして腕枕をしながらもう片方の手は優しく握ってやる。

「エロいな、雪歩……」

「も、もうっ! 優しくしてください……プロデューサー……」

 すっかり息を弾ませた雪歩をみていたら、俺のほうも興奮してきた。
 だが今は俺が彼女を感じさせる番だ。男には時として我慢も大事だ。

「すごく感度のいい体になってきたな」

「だ、誰のせいだと思ってるんですかぁ……はぁ、はぁん!」

 ゆっくりと指先で背筋を撫であげると、雪歩はビクビクと気持ち良さそうに震える。
 芸術的な腰のラインにも、そっと指先を這わせてみる。

ツツツ……

 脇の下の一歩手前まで一気に指を滑らせてやる。
 細いながらも、ぴっちりと張りのある雪歩の体は、触っているだけでも心地よい。

「あっ、そんな……くぅん……イジワルしないでください」

「興奮してきたときの雪歩の声ってすごくいいよ……」

「そんなのわかんないですぅ……でも……」

 すでに雪歩の顔はりんごのように紅く染まっている。
 視線は恥ずかしそうに俺を見つめたり、天井を見上げたりしている。
 さらにモジモジと腰を動かし始めた。

「でも、なに?」

 今なら俺にだってわかる。
 もっと触って欲しい、気持ち良くして欲しいと雪歩の体が訴えかけている。

「そろそろ満足したか?」

 俺は少しだけ彼女の細い足を持ち上げて、その内側をそっとさすった。
 軽く汗ばんだ真っ白な柔肌が手のひらに吸い付いてきた。

「し、しませんっ! ひ、あぁっ、きゃんっ」

「ここがいいんだ……!」

 俺の腕の中で髪を振り乱して快感に身をよじる雪歩。
 甘酸っぱい香りを感じながら、俺は手のひらの愛撫をエスカレートさせてみた。

「どう? そろそろ降参か、雪歩」

「絶対しません! でも、ああぁぁ!!」

「もしかして満足しても嘘をつく気なのか?」

「すごい……ですぅ……私の気持ちいいところわかるんですか? プロデューサー」

 本当はわかるわけなどない。
 しかし嬉しそうに俺を見つめる雪歩を見ていると、少し強がりも言いたくなる。

「はぁぁぁ……」

 すっかり力が抜けた彼女の体を引き寄せながら、可愛い耳元にそっと口を寄せる。



「まあな。雪歩はわかりやすいから」

 ホテルに入る前、雪歩は俺に勝負を挑んできた。

 しかし俺は勝負の行方に関わらず、決めていることが二つだけあった。



「あのな……雪歩、一年だけ待っていてくれ」

「えっ? でもそれは勝負に勝ってからの……」

 俺が決意したことは、何が何でもハリウッドの研修に参加することだった。
 雪歩の才能だけに頼らず、もっとユニットを活躍させるためには俺自身のレベルアップが必要不可欠なんだ。
 だから彼女にはその気持ちをわかって欲しい。

「雪歩……この先に何が待っていても、俺はお前と一緒に歩いていく」

「え、ええ!? プ、プロデューサー!」

「だから頼む……わかってくれ!」

 今のお前から見れば、俺は頼もしく見えるかもしれない。
 俺だって雪歩に甘えてほしいけど、それだけじゃ駄目なんだ。
 お互いにもっと強くならないといけないんだ……。

「私だって、自分を信じたいです……でも、でも……」

「……」

「お願いです、プロデューサー。私に、勇気を下さい。大好きな人と離れ離れになっても、頑張れる力を……」

 俺の腕の中で、雪歩は不安そうにじっとこちらを見つめている。

(彼女だって頭ではわかっているんだ。あとは不安を取り除いてやれば……)

 雪歩は一生懸命俺の気持ちを理解しようとしてくれてる。
 不安な気落ちを無理やり押さえつけて、俺を送り出そうとしてくれてる。

 それがものすごく嬉しかった。
 ここからは俺が彼女を安心させてやる番だ。


「雪歩……もしもハリウッドから無事に帰ってきたら、必ず最初に逢いに来る」

「えっ、それだけじゃ不安ですぅ!」

「じゃあ必ず好きっていう」

「はううぅ! でも、そんなわかりきったことじゃ面白くないです」

 雪歩が不満そうな表情をする。
 しかしここまでは計算のうちだ。

「そうか? 俺は今まで女の子に『好き』なんていったことないんだぞ」

「えええええ!? そんなの絶対嘘です、プロデューサー」

「嘘じゃない。だって、俺は……自分から『好き』と言った相手とは、結婚するって決めてるんだから」

「!!」

 これが、俺の二つ目の決意だった。
 ハリウッドから戻ったら、そのあとは雪歩のプロデュースに専念する。
 事務所の社長が何を言ってもこれだけは譲らない。

 こんな可愛い俺だけのアイドルを……他の誰にも渡したくない。


「ず、ずるいですぅ! それじゃあ私の作戦が……」

「ふふっ、さあどうする、雪歩? このまま満足してくれるなら俺も約束する」

「約……束?」

「一年後、必ず好きだといってやる。必ずだ!」

 俺の言葉を聴いた雪歩は、少しだけ考える様子を見せてからニッコリと微笑んだ。

「もう、プロデューサー……そんなこと言われたら約束するしかないじゃないですかぁ」
「交渉成立だな……」

 彼女の柔らかい髪をなでながら、俺は再び彼女を抱き寄せた。
 そして心を重ねるように、今までで一番長く……甘い口付けを交わした。



 ゆっくりとお互いの唇が離れた。
 熱に浮かされたような表情で、雪歩は俺の方を見つめている。

「そんなに私のことを想ってくれるなんて……嬉しいです」

「えっ、ちょ……んううぅ!?」

 思いがけず俺は慌てふためいた。
 雪歩は俺の顎を指先でクイっと持ち上げて、奪うように唇を重ねてきた。
 しかも舌先を俺に差し込んで……これはまったくの不意打ちだった。

「もっといっぱいキスしてあげます。あっちで浮気はしないで下さいね、プロデューサー」

 今度は軽いキス……
 しかし充分に雪歩の切ない気持ちが感じられた。

「う、うん……約束する」

「いつも私だけを見て……」

 雪歩は俺の回答に満足げな顔で、さらに唇を合わせてきた。
 
(こんな色っぽいキスが出来るなんて……)

 これじゃあとてもじゃないが、ハリウッドで浮気なんて出来るわけがない。
 ほんのり甘酸っぱい雪歩のくちびるに勝てる誘惑なんてこの世にありえない。

「夢でも逢いたいです……プロデューサー」

 雪歩はそのあとも、甘く囁きながら何度もキスをしてきた。
 彼女の想いをたっぷり受けた俺は、すっかり虜になってしまった。



――そして2時間後


 俺はホテルの部屋の天井を見つめていた。
 隣では雪歩が穏やかな笑みを浮かべて眠っている。

 たっぷりキスをされながらの雪歩とのセックスは、俺がしてきた中で一番の気持ちよさだった。

(こいつめ……)

 雪歩の整った形の鼻を人差し指でツンツンしてみる。

「う……うぅん……」

「ごめん、起こしちゃったね……」

「いいえ、ずっと起きてました♪」

 腕の中で、彼女がイタズラっぽく笑った。

「あ、あのプロデューサー……私、強くなれた気がします」

「そうか……って、お、おい! 雪歩……?」

 雪歩はベッドの中で無理やり俺の身体を反転させた。


「えへへ、ちょっとだけ不器用な背中……でも、暖かくて……」

「こ、こらっ! スリスリするな……」

「大好きです、プロデューサー……今までもこれからも」

 ちょっとだけ雪歩は泣いた。
 ほんの少しの間だけ、辛抱して欲しい。
 日本に戻ってきたら、今日みたいにずっと抱きしめてやりたい。

「雪歩、俺の方こそ……全てをありがとう」

「えへへ、いってらっしゃい。私の最高のプロデューサー♪」




(了)