12月の初旬、金曜日の夕方、
ここは東京駅付近の洋風居酒屋「飲ま飲ま」。
まだ夜も早い時間なのに楽しそうな二人。




「アンタってさ、本当についてないよね」

僕の目の前にいるのは大学の同級生・小野沢京子。
背はちっちゃいけど声は大きい元気な女友達。
中学のころからの腐れ縁で、ずっと一緒だ。

「せっかく内定取ったのに不況で会社つぶれちゃうし、彼女には振られるし、年末ジャンボきっと当たらないし」

彼女の言うとおりだ。この年の瀬に、内定をもらっていたマンション販売会社が倒産。

慌てて就職活動を再開したところだが、世の中も景気が悪くてなかなかうまくいってない。
……最後の宝くじの件は余計だけど。

「久しぶりなのに容赦ないな、オマエ」

「ふふっ、まあ今日ぐらいはアタシが慰めてあげるわよ」

京子は目の前にあったビールジョッキを持つと
まるで体育会系の部員のように一気飲みをした。
女性とは思えないいい飲みっぷりだ。

「慰めてあげる、か」

なんとなく情けない気持ちになる僕を無視して京子は言う。

「あー、アンタ! 今エッチなこと考えたでしょ? バーカ♪」

そんなこと考えられる気分じゃないよ……。

だが、いつでも明るい彼女を見てると厳しい就職活動も何とかなりそうな気がしてきた。

「よし、明日からもがんばるぞ」

「まーまー、そんなことよりさ……とりあえず飲も?」

僕と京子は4杯目の中ジョッキを店員さんに注文した。


それから一時間半。
飲み放題コースにしておけばよかったというほど
僕らは空のビールジョッキを生産した。


「ちょ……うぅ……ちょっと酔っ払っちゃったけど、エッチなことしないでよね?」

「あー、神に誓ってしませんよ」

「そこまですんなり言い切られるとムカつくわ……」

だからそんな気分じゃないんだってば。
エッチ以前にお前飲みすぎだろ?

酔いが回った京子は少し魅力的だった。
ひとつにまとめている黒髪が少し解けた様子も色っぽいし、胸元がラフな感じになったブラウスもいい感じ。

「でもアンタけっこういい男だよね。最近ぜんぜんツイてないけど」

……これで一言もしゃべらなければ、かなりいい女だと思う。
黙ってればそれなりに綺麗だし、実際に大学でも彼女は人気者だ。

しかし彼氏はいないらしい。
なぜだろう?

「お前はもうそのへんにしとけ、京子」

そういう自分もふらついてはいるのだけど、
泥酔直前のコイツよりはましだ。

注文のボタンを押そうとする彼女の手を上から押さえる。


「だからぁ! アタシにエッチなことすんなってば」

「なにもしてねえっ!!」

「アハハ、ちょっとだけよぉ♪ もうアタシだめかも……ぐぅ」

ケータイのリチウムイオン電池が切れたときのように
京子は突然動かなくなった。

「お、おい!」

「ぐぅ……ぐぅ……♪」

「やれやれだ……」

幸せそうに居酒屋でリタイヤした彼女を抱いて、
僕はお会計を済ませた。



ここからタクシーで20分くらいのところに
彼女のアパートはあった。

何度か試験勉強などで来たことはあったけど、
酔っ払いの京子を連れ帰ったことはない。

「おい、起きろ……」

「うっさい、バカァ」

もはやほっぺをビシビシ叩いても全く起きないほど立派な酔っ払いになってる。
京子の黒いバッグからアパートの鍵を探し出した。
さっさと寝かせて帰ろう。


「や、やだっ! 何脱がしてるのよ、ヘンタイ! エロオヤジ~~!!」

「…………」

まだ靴も脱がせてないし、部屋にも入ってないぞ。
とりあえずこいつが大声を出す前に、アパートのドアを開けることに成功した。


部屋の中はさすがに女の子らしく整頓されていた。
ちょっと意外だったが感心している場合ではない。
早く立ち去らねば……

「待ちなさいよ、エロオヤジ……あたしが抜いてあげる!」

だがそうは問屋がおろさなかった。
京子の頭の中で、僕はすっかり欲求不満のエロ親父扱いだ。

「ちょっとだけなら甘えていいよ……今日は特別にアタシがしてあげる」

「バカいってんじゃねー、早く寝ろ!」

「いーからいーからいーから、おねーさんに任せなさい♪」

だめだこいつ……でもこれはチャンスかも?
普段の俺と京子なら絶対にこんなことにはならない。

ここはひとつ覚悟を決めるか、などと考えていると突然ズボンのベルトをはずされた!


「もうビンビンじゃ~ん♪」

「て、てめ……」

得意そうにベルトを振り回す京子。
たしかに息子はビンビンです……

さらに次の瞬間には彼女はスルスルと衣類を脱ぎだした。


「じゃあ、しよっか?」

「や、やめ……ろよ」

「却下」

小さな唇が言葉を奪った。

身をすり寄せてきた京子が僕にキスをしてきた。
淡いレモンの香りと、髪の匂いが僕を包み込む。

(むぐ……こいつ、京子のクセに色っぽい)

僕の唇を割って、するりと侵入してくる舌先。
改めて目の前の相手が女性であることを思い知らされる。

それも比較的美人の域に達している女性であるということに。

「エ、エロいな京子……もうこのへんで……」

「こうすると気持ちいい? すぐイかせちゃうぞ~」


きゅううううううぅぅぅ

「ふあああっ!!」

キスを何度も交わしつつ、トランクスの中に侵入してくる京子の指先。
すべすべの手が僕の敏感な部分を優しく愛撫してくる。

(き、気持ちいい……くそっ、京子なのに!!)

普段はありえない友人との情事に、
僕は背徳感を覚えていた。

明日からいったいどんな顔してこいつに接すればいいんだろう?
でも、これは……悔しいけど気持ちいい。


「やだ……ほんとにイっちゃいそうな顔してるぅ!」

「だ、だって気持ちいい……んだ」

「うむ、なかなか素直でよろしい」

股間を探るような手つきで、京子の指先がペニスにからみついた。

「おわあああぁぁ!!」

「逃がさないもん」

さらに激しく動く彼女の手によって、あっという間に射精直前までペニスが膨れ上がる。

「ほら、イっていいんだよ?」

「あっ、あああぁぁ! 出ちゃうッ」

その言葉が合図となり、一気に僕の股間で欲望が弾けとんだ!!


「うわぉ♪」

しばらくの間、立ったままの姿勢で僕は彼女に抱き支えられながら絶頂の余韻を味わった……。




一方的に僕をイかせてから彼女は眠り込んでしまった。
こういう自由奔放なところは、正直うらやましいと思う。

(人の気も知らないで……)

風邪を引かないようにちゃんと布団をかぶせてやった。
結局僕は彼女が目覚めるまでそばにいてやることにした。



そして朝。


「なにこれ、アタマ超痛いわぁ……飲みすぎちゃったわよ。アンタのせいよ?」

ようやく生き返った彼女の第一声がこれだった。
とりあえず元気そうだ。

「ところで! エッチなことしなかったでしょうね!!」

少なくとも僕からはしてないです……。

ん??

こいつもしかして本当に覚えてないのか?
とりあえず僕は反射的に首を何回も縦に振った。


「まじで? してない??」

「お、おう……」

その様子を見た京子が大きなため息をついた。


「ほんと? 信じるよ」

「あ、ああ。じゃあおれ、帰るよ! 昨日はありがとうな」

そそくさとアパートの玄関に向かう僕。
昨日のことは一夜限りの夢、ということでよさそうだ。



プルルルルル♪

しかし、階段を下りてしばらく歩いたあたりで
ケータイにメールが入った。

京子からだ。

何か忘れ物でもしたかと思ってメールを開いた僕は、
その内容を見て思わずニヤリとした。


(あのときのアンタの顔、ちょっと可愛かったよ。また今度しようね?)

やっぱりオンナにはかなわない。
そんなことを考えながら、僕は帰路についた。









(了)