僕の名前は多田共紀(おおたともき)。国立神奈川大学付属高校の一年生だ。
 一学期が始まってすぐに、父の転勤話が持ち上がった。
 会社の支店長クラスの人事で、急な欠員が出たらしい。
 父にとっては昇格人事に当たるのかもしれないが、単身赴任にするか家族ごと引っ越すかで数日間話し合いが続いた。

 結局、家族みんなで移り住むことにした。
 話し合いの中で、単身赴任でうまくいかなくなった家庭があると母から聞かされた。
 普段は父と言葉を交わすことすら、それほどないのだけど……母の話には説得力があった。
 たまにしか話をしない父であっても、遠く離れた所にいるとなると心配だ。

 そんなわけで、今よりずっと西の地方都市に僕たちは引っ越すことになった。
 もちろん僕が足を運んだこともないような遠い場所だ。

(言葉とか……大丈夫だよね? 同じ日本だし)

 それでも不安はなにかしら付きまとう。

「共紀、せっかく入学試験に合格したのに……申し訳ないな」

 自分では気づかないうちに意気消沈していた僕を見て、いつも強気な父が珍しく頭を下げた。
 試験のことはあまり気にしていなかったけど、友達と離れるのは悲しい。

 特に親しくしている彼女と離れてしまうのがつらい。
 彼女の名前は高野有希(たかのゆき)という。
 中学二年の秋から、ずっと付き合っている。

 正式に転校することが決まってからは、有希と毎日のようにデートをした。
 もともと口数の少ない女の子だったけど、最後の日はほとんど無言だった。
 僕も何を話せばいいのかわからなかった。

 それでも、僕たちはずっと手を握っていた。
 往復の電車でも、映画館でも、公園でも…………。

「わたし、ずっと待ってる……ううん、きっと遊びに行く!」

 デートの終わりにそう言われたとき、何故かもう二度と会えないような気がして胸が痛んだ。
 僕は有希を抱きしめて、はじめてのキスをした。

 僕の胸に顔をうずめて、有希は声を殺して泣いた。
 そんな彼女を僕は優しく抱きしめ続けた。
 
「トモくん、ごめんね……泣いたりして、困らせちゃってごめんなさい」

 別れ際、有希は無理やり笑顔を取り戻した。







 新しい街で目覚めた朝、着慣れない制服の袖に腕を通す。
 今までは学ランだったのに、今日からはブレザーだ。

(こういう服装は苦手なんだよなぁ……)

 ワイシャツにネクタイというのは非常に面倒くさい。
 編入先は私立白百合学園……どう考えてもお嬢様学校なのだが、男女共学だ。
 別に僕が希望したわけではない。
 歩いていける範囲で適当な学校はここしかなかった。
 毎朝こんなことをしなきゃいけないのか……。

 学校には編入試験のときに一度行ったきりで、道順すら満足に覚えていない。
 仕方ないので、同じ制服を着た連中の後ろをついていく。
 こうすれば自動的に学校へは着けるだろう。

 それから十数分後。

 なんとか正門をくぐると、ようやく自分がここに通うのだと認識する。
 まずは職員室のドアを叩き、担任の教師を見つけて挨拶をした。

 それから教師と共に自分のクラスへ向かい自己紹介。
 教室の空いている席は一番後ろだった。

 休み時間のうちにクラスの数人と話をした。
 みんな素朴でいい人に感じた。
 妙な緊張感と共に、初日の授業は終わった。
 ホームルームが終わってすぐに担任に声をかけられた。
 
「ああ、そうだ。多田くん、生徒会室に行ってくれないか」

「はい」

「うちの学校の生徒手帳を受け取りに行ってくれ」

 担任の教師はそれだけを言い残すとさっさと教室を後にした。

(生徒手帳なんて別になくてもいいのにな……)

 そんなことを考えながらも、僕は教えてもらった生徒会室へと向かった。
 どうやら別館の3階にあるらしい。







 別館と本館とは渡り廊下で繋がっている。
 基本的に理科室であるとか、音楽室などの特殊授業を行う場所はこちらに集まっているようだ。
 生徒でざわめく本館と違って人気(ひとけ)が少なく、どことなく薄暗い印象を受ける。
 実際に照明の数も少なく感じる。

「生徒会室は……3階の一番奥か」

 フロアの見取り図を見ながら目指す場所に辿り着くと、軽い違和感を覚えた。

 なぜここだけ木の扉なのだ?

 しかも両開きで、いかにも偉い人がいる雰囲気だ。
 なんだか緊張してきたぞ……。

 コンコン。

 控えめにノックをしてみると、自動的に扉が開いた。
 偶然なのか、こういう作りなのかわからないが不気味である。

「失礼します」

「どうぞ」

 生徒会室に一歩足を踏み込むと、硬い床の感触が消えた。

(なんでここだけじゅうたんが……?)

 校長室の間違いではないかと思って、もう一度入り口の表示を確かめる。

 間違いなく生徒会室だ……。

「どうぞお入りください」

「あ、はいっ」

 声に促されて部屋の中に入る。
 入り口付近には背の高い書架があって奥は見えない。

 二歩三歩と足を進める。
 部屋の中は小さな音量でクラシック音楽が流れている。
 それにほんのりと甘い、オレンジのような香りがする。

(なんだか学校の中とは思えないな……)

 まるでどこかの令嬢が住む一室みたいに上質な空間。
 床にはごみひとつ落ちていないし、窓際のカーテンも教室とは違って淡いグリーンだ。
 そして奥のほうに大きめの机があり、一人の女子生徒が書き物をしていた。
 生徒会のことは良くわからないが、彼女は書記とか会計とかそんな役目なのだろう。

「ちょっと待ってね……」

 手元のノートを見つめたまま、女子生徒が僕に声をかけた。
 背筋を伸ばしたままでボールペンで何かを書き込んでいる。

 彼女が手を止めるまでの間、ほんの十秒ほどだったが……僕はその横顔に見惚れてしまった。
 肩よりも長いまっすぐでつやつやの黒髪、ノートを見つめている穏やかな瞳。小鳥のように可愛らしい声。真っ白で長い指先……僕が今まで見た中でも、間違いなくベスト5に入る美しい人だ。
 座っているから断定はできないけど、背もかなり高い……。

「こんにちは。ご用件は何かしら?」

「あっ」

 彼女がこちらを見ている。

「生徒手帳をいただきに来たのですが……」

「あら、あなたが転校生の多田くんかしら?」

「は、はい!」

「先生からお話は伺っているわ」

 女子生徒は椅子から立ち上がった。
 すらりとしていて、やはり僕より背が高い。
 彼女の髪が揺れると、部屋の中に漂う甘い香りが強くなった気がする。


 

「生徒会長をさせてもらってる鷹野です。よろしく」

「多田です。こちらこそよろしくおねがいします」

「この学園のことでわからないことがあったらなんでも聞いてね」

 書記や会計じゃなくて生徒会長さんだったのか。
 鷹野さんは僕を見つめて穏やかに微笑んでいる。

(目線がほとんど一緒だ……)

 立ち上がった彼女はニーソックスを履いていた。
 僕が前に通っていた学校では禁止だったけど、ほっそりした彼女の脚に良く似合っている。

 座っているときは気づかなかったけど、バストも……とても大きい。
 服の上からでもわかるくらいフワフワで、思わず包み込まれたくなる。

(な、何を考えているんだ! 僕は!!)

 小さく頭を振って自分を戒める。
 ほんの少し会話をしただけで、僕は彼女に圧倒されてしまった。
 年上の美人生徒会長……おそらく彼女は三年生。

(それにこの人「たかの」さんっていうのか……)

 僕はふと有希のことを思い出した。
 彼女は可愛い系なので、目の前の美人とはぜんぜんタイプが違うけど。


 
「せっかくなんだけど、今日はお渡しできないわ」

 生徒手帳を机から出して、彼女は言った。

「どうしてですか?」

「これね……校長先生の印を押さないといけないのよ。でも今日はあいにく出張中」

 なるほど、そういう意味か。
 オーバーアクションで残念そうにする僕を見て鷹野さんが笑った。

 その笑顔を見て、僕も緊張感から解き放たれた。

「ずいぶん豪華な部屋ですね」

「この部屋は元々校長室だったのよ」

「妙に豪華な部屋だなって思いました」

「うふふ、そうよね。お茶でも出しましょうか?」

 他愛ない会話も弾む。
 生徒会長とは言え、彼女は気さくな人だった。


「私、美術部の部長も兼任しているの」

「たいへんですね」

「まあね。でも部員は3人しかいないから運営は楽よ」

 お茶を飲みながら色々と話をした。
 転校早々こんな美人と知り合えるなんて……ちょっと嬉しい。


「そうだ、せっかくだからアルバイトしていかない?」

「えっ?」

 彼女からの意外な提案。
 学校内でアルバイトなんて聞いたこともない。
 もちろん僕はアルバイト自体した事がないわけだが。


「アルバイトは禁止ではないのですか?」

「うちの校則にアルバイトの禁止はないわ。届出は必要だけど」

 こともなげに彼女は言った。
 しかし僕はその届出の仕方もしらないのだ。

「それは私があとで出しておくわ」

 心配そうにしている僕の気持ちを察してか、鷹野さんは自分の胸を親指でトンと小突いた。


「ところで僕は何をするのです?」

「絵のデッサンモデル。じっとしているだけで一時間800円よ?」

 それなら僕にもできそうだ。
 でもヌードとかないですよね、と尋ねると彼女は笑って首を横に振った。


「今からそうね……下校のチャイムが鳴るまでの50分でいいわ。付き合ってもらえる?」

 そのときの僕は、こんなに楽なバイトはないと高をくくっていた。







――美術部室。生徒会室の一角が部室になっているわけだが。


「はぁ、はぁっ……すみません!」

「だらしないわねぇ」

 それから20分後、僕は息を切らせていた。
 
 思っていたより、かなりきつい!

「じっとしているだけのバイトなんて他にないわよ?」

「それはそうでしょうけど……」

「でも、慣れてないからしょうがないか」

 後で知ったことだが、人間は同じ姿勢でじっとしていることはできない。
 身体中の筋肉をわずかにでも動かしていないと辛くなる仕組みなのだ。

 絵のモデルさんというのは一つの職業として確立している。
 しかも大変な修練が必要な職種といえる。

「じゃあ補助道具を使いましょう?」

 鷹野さんはクローゼットから何をか取り出した。
 麻縄の先に吊り輪がついているような道具だ。

(え、なにこれ……!)
 
 まるで拷問道具のように見えたが、そんなことは口にできない。
 麻縄の部分を天井についているフックに通すと、二つの吊り輪が僕らの頭の上でブラブラした。

「ちょっと手を貸して?」

 彼女はテキパキと動いて僕の手首を吊り輪に通した。
 そしてマジックテープのベルトで固定した。

 僕はバンザイするような格好で天井から吊るされてしまった。

「大丈夫。少し力を入れれば外れるようになってるから」

 不安そうにする僕を見て、彼女はマジックテープを指差した。
 たしかにこれなら簡単に取れる気がする。

「足の方もつけておくね」

 そしてもう一組、今度は90センチくらいの棒の両端に吊り輪がついている道具。
 手のほうと同じようにマジックテープで足首を止められた。

「辛くなったら言ってね?」

「はい」

 僕の返事を聞いてから、鷹野さんは椅子に座ってデッサンを再開した。








「せ、先輩……!」

「まだ15分だよ? じっとして」

 やっぱりだめだ。じっとしてられない。
 僕がギブアップしようとすると、鷹野さんが制止した。

 なんとか頑張ろうと体勢を戻す。

 そんなやり取りが何度か続いた。

「もう! ぜんぜん駄目だよっ」

「すみません……」

 無理やり道具で姿勢を保っているとはいえ、肩がもうパンパンだ。
 そしてふとももの内側も張り詰めている気がする。

 脂汗を浮かべる僕に、鷹野さんが近づいてきた。
 このアルバイトは辞退しよう。
 そうすればこの苦痛から解放される……

きゅっ!

 しかし彼女は手足のマジックテープを緩めるどころか、逆に強く締め付けた。

「な、なにをするんですかっ!」

「動いちゃ駄目」

「うっ……」

 美人生徒会長の強い言葉と視線に、息を呑んだ。

「あなたは動かない練習をしなさい」

「しかし……」

「けっこうつらいとおもうけど、その代わり……天国に連れていってあげる」

「えっ、ちょ、ちょっと!」

 なんと、彼女がいきなり僕のズボンのベルトを緩め始めた。


「や、やめてください!」

「騒ぐと人が来るわよ? いいの?」

 騒ぎ出そうとする僕を封じる一言だった。
 こんなところを誰かに見られたら……

「一体僕をどうするつもりですか?」

「筆卸に協力してもらうわよ」

「ふでおろし……?」

 彼女はカバンの中から何か紙袋を取り出した。

 一瞬、僕の頭の中に淫らな構図が浮かんだがそうではないらしい。


「ここに新しい筆が4本もあるの。私は油彩だからフィルバートを使うわ」

「フィルバート……?」

「これのこと」

 彼女は平らな筆を取り出した。
 これがフィルバートというらしい。

「あとこれもね……ラウンドっていうのよ」

 彼女は先の丸い筆を取り出した。
 これは細かい部分を修正するのに使うらしい。

「ほら……」

「うっ」

 紙袋から取り出した筆をすっと伸ばして、僕の頬を撫でる。
 柔らかそうに見えたその筆は、結構な硬さだった。

「私は油彩をやるから、こういう硬い筆先じゃないと駄目なの」

 筆がなぞったあとをいたわるように、鷹野さんは指で頬をなでてくれた。

「でもこれは硬すぎるわ……少しやわらかくしないとね?」

「う、うわっ!」


 彼女の指が僕のトランクスとズボンを一気に引き下げた!

 ぽろん、と……ペニスがこぼれおちる。

(は、はずかしい!)

 心では拒絶しているはずなのに、僕自身はすでに硬くなりかけていた。
 このまま触られでもしたら、間違いなくギンギンになって……

 くにゅうっ!

「はひいぃっ!」

「ふふっ、触っちゃうね」

 お、女の子の手って……これ、やばすぎる!

 なんでこんなに柔らかいの?

 しこしこしこ……

 鷹野さんの指が、親指と中指と人差し指が亀頭をつまむ。
 一気に硬くされて、しかも熱くなって……

 なんでこんなに……気持ちいいの?


「うふ、もう出てきたね」

 な、なにが……!?

 僕の疑問に答えるように、彼女はさっきの筆……フィルバートで亀頭の先を撫でた。

「あうっ!」

 予想していたような突き刺さる痛みはなかった。
 その代わり、触れるか触れないかで弄ばれ……腰から何かが滲み出していく。

 ピチャピチャ……

 その音がだんだん大きくなっていく。
 こ、これはきっと僕の……

「ねえ、知ってる?」

「はっ……え?」

「男の人のジュースって、ほんのり甘みがあるのよ?」

 視線を下げると、僕を見上げる彼女と目が合った。
 右手に絵筆を持って、僕のペニスを愛撫しながら……

「ジュースって……」

 思考がまとまらない。
 彼女は筆を持ち替える。僕に筆先が見えるように。

「精子に栄養を与えるために、糖分があるんだって……」

「そ、それが……?」

「あなたの味はどうだとおもう……?」

 そ~っと、筆先に舌を伸ばす鷹野さん。
 僕の我慢汁をたっぷり含んだ筆先に小さな舌が触れた瞬間、

(あうううぅっ!)

 なぜか股間が甘く痺れた。
 まるで自分のペニスを舐められたように。

 ペロ……

「ふふふ、とっても甘い……」

「き、きたないよ……あうううぅ!」

 舐めたばかりの筆先を、再びペニスの表面に這わせる。

(間接キス……!)

 しっとり濡れた筆が再び亀頭を這い回る。
 それはまるで彼女に舐められているように心地よかった。

(彼女に舐めて欲しい……)

 小さな口にペニスを飲み込まれたい。

 ゆっくり前後左右に揺さぶられたい。

 亀頭の敏感な部分だけ何度も舐めて欲しい。

 筆先で弄ばれながら、そんなことを考える。

 股間がますます熱くなる……。


「あら、また美味しくなった」

「……」

「私に与えられた屈辱の分、甘みが上乗せされているのかしら?」

 今迄生きてきた中で一番恥ずかしい……
 女の子に言い返せない。

 彼女の言葉に逆らえない!!



「もっとかわいくいじめてあげる。素敵な味にしてあげるわ……」

 鷹野さんは再びしゃがみこむと、左手で裏ピースをした。
 そして人差し指と中指の間にペニスを挟みこむ。

「このままゆっくり根元を締め付けたら?」

「あああぁ、だ、だめです! そんなっ」

「それだけじゃ済まさないけどね」

 ペニスの根元が細い指に挟まれる。
 下から支えられて動かなくなった亀頭に、そっと絵筆が添えられた。

「ひいいっ!」

「ほらぁ、またペロペロされちゃうよ?」

 亀頭を濡らす透明なしずくがたっぷりと筆先にまぶされる。
 僕の身体に快感が舞い戻り、腰をガクガクと揺らした。

「狂わせてあげる……」

 ペロリと唇を濡らしてから、鷹野さんは筆使いを再開した。
 さっきと違って彼女の指は筆の真ん中を握っている。
 そして筆先が撫でる箇所も限定的になって……

「あああぁぁっ!」

 腰をよじっても左手がペニスを逃がさない。
 固定された亀頭を、残酷なくらいゆっくりと絵筆が這い回る。
 たっぷりと快楽の傷跡を僕に埋め込みながら……
 
(力強い愛撫よりも、繊細に弱点をなぶる動きに変わっている!)

 筆の先がカリ首の溝をなぞる度に腰が震える。
 もちろん彼女もそれを承知の上で、愛撫を重ねてくる。

「なかなか頑張るね。でも……」

「ああぁぁ、そんなところ!」

「頑張れなくしてあげようか?」

 すくっと鷹野さんが立ち上がった。

「ふふふ……」

「あっ……」

 美しい鷹野さんに見つめられているだけで、もうイきそうだった。
 だがペニスへの刺激はない。

「見て」

 僕から視線を逸らさずに、彼女は筆を持ち上げた。
 そして口元に筆を持ってくると、優しく先端を舐め始めた。

 ペロ……

「ああぁぁ……」

 ズキンと股間が疼く。
 苦しそうな僕の顔を見て、彼女は一瞬だけ笑った。

 真っ赤な舌先がチョンチョンと筆先を舐める。
 ただそれだけなのに……ま、まるで僕のペニスを舐め上げられているみたいだった。

(あなたもこうやってしてほしい?)

 彼女の大きな瞳がそう語っている。
 実際には無言で筆の先を舐めているだけなのに……
 鷹野さんの甘い声が頭の中で何度も鳴り響いている。

「舐めて……」

 思わず口にしてしまった心の叫びに、彼女はにっこり笑った。

「んふ……♪」

 舌先が筆から離れる。
 そしてさっきと同じように、根元を左手で支えたまま筆先を亀頭に乗せた。

 ペチュ……

「うくっ……!」

 しっとりと濡らされた筆の先が触れただけでイきそうになる。
 ほんのり生暖かく感じるのは、鷹野さんの唾液がたっぷり乗っているから……

「この筆で、キスしてあげる」

「や、やめて……」

「ううん、駄目♪」

 ちゅくっ……

 筆がゆっくりと円を描く。
 亀頭の上に快感が塗り広げられていく。

 僕が出したぬるぬるを絡め取りながら、筆が走る。

「あ、あああぁぁ! 出ちゃう、出ちゃうよおぉぉぉ!!」

「いいわよ。いっぱい飛ばしてあげる」

 吊るされているから手で隠すこともできない。
 足首もつながれているから、自由に閉じることができない!

「ゆ、有希ぃ……!」

「うん?」

 離れ離れになった彼女の名前を口にした。
 このまま堕ちてしまうわけにはいかない。
 大好きな有希のことを思えば、どんなことだって我慢できるはず!


 歯を食いしばる僕を見て、鷹野さんが不思議そうに尋ねてきた。

「多田くん、私の名前を知っていたの?」

「え……」

「私、由紀っていうのよ。フルネームは鷹野由紀(たかのゆき)」

 なんてことだ!
 まさか苗字だけじゃなくて……ファーストネームまで!!

(しずまれ、落ち着け! 俺……)

 しかし身体は別の意味で興奮し始めていた。
 大好きな彼女と同じ名前の初対面の女性。
 しかも飛び切りの美人で、生徒会長で……

「あ、そうか! あなたの彼女さんのことね?」

「え、あ、いや……」

「ふう~ん」

 鷹野さんは大きくため息をつくと、恨めしそうに僕を見つめた。

「私なんか忙しくて彼氏もいないって言うのに」

 絵筆の動きが緩やかになる。

「なんだか……妬けちゃうわ」

 そしてゆっくりと立ち上がって、僕の背後に回った。
 背中を抱きしめながら、僕の右肩にあごを乗せる。
 ふわふわの彼女の髪が顔に当たって……気持ちいい。

「そうだ、私のことをユキって呼んでいいわよ」

「……えっ?」

 一体何を……?

 さらに続く彼女の一言に、僕は混乱した。

「今日から私が、あなたの『ユキ』になってあげるわ……」

「だ、だめだよそんなのっ!」

 反射的に抵抗した。
 鷹野さんは……僕の心を塗りつぶす気だ!

 大事に持ってきた有希への想いを、自分の色に塗りつぶす気なのだ。

(どんなに可愛くても綺麗でも、この人は有希じゃない!)

 心の中で自分を戒める。
 でも有希にこんなことをされたら……
 いや、するわけがない。あのおとなしい有希が……

 くちゅくちゅくちゅっ!

「隙あり……」

「ぐあああぁ!」

 考え事で気の抜けた僕のペニスを、鷹野さんの柔らかい手が包み込んだ。
 そして素早くシェイクするように上下にしごかれてしまった。
 たったそれだけで、有希への想いを守ろうとしていた自分が崩されていく……

「イかせてほしいでしょう?」

 柔らかな微笑みはまるで天女のよう……
 僕は彼女の誘惑に負けた。
 股間は痛いほどに反り返って、あの筆使いを待ちかねている。

「はい……」

「よろしい。とどめを刺してあげるわ」
 
 そしてぎゅっと抱きしめられる。
 甘い……まるでキンモクセイみたいな生徒会長の髪の香りに包まれる。

 身体中の力が股間に集まって、早く愛撫してほしいと僕を責め立てる。
 もう力が入らなくて……

 高野さんが僕の耳たぶに息をかけた。
 熱い息を耳の中に吹き込まれた。
 背筋をゾクゾクさせられて、頭がぼんやりする……

「ユキに恥ずかしいお顔を見せて? と・も・く・ん♪」

 ともくん……

 少し声を潜めた彼女の一言……それは有希が発する声と全く同じ響きだった。

「ああぁぁ! なぜその呼び方をっ!!」

 慌てる僕を見て、鷹野さんは笑う。

「ただの女の勘よ。もしかしてそうかなぁって思ったの」

「そんな……」

「当たり? ふふっ、よかった♪」

 背中を抱きしめたまま、鷹野さんは僕の目の前に二本の筆を見せつけた。
 平筆と丸筆……
 どちらも筆先がすっかり湿っている。

「ふふふ……」

 それらを僕に目で追わせるようにしながら、筆を持つ手をペニス付近に下げる。

「じゃあ気持ちよくしてあげる」

 耳元で甘く囁かれただけでペニスがビクンと反応した。

 いよいよイかせてもらえる……。


「私の名前を呼んでみて……?」

「しかし……」

「おねがい」

 彼女の勢いに押されるように、僕は控えめに名を呼ぶ。

「ゆ、ゆき……」

 しゅるしゅるっ

 その瞬間、筆がうごめいた。

「うはあああぁぁぁ!」

 亀頭の広くなった部分と、カリ首を二本の筆が挟むように愛撫する。

 たった一度の愛撫なのに身体の芯に残る!

「もっと呼んで?」

「ゆき、ゆき……! あっ、ああぁ~~」

しゅるっ、しゅるっ、しゅるしゅるしゅるっ!!

「ほら、もっと……」

「ユキっ、ゆき、ゆきいいぃぃ!!」

 名前を呼べば呼ぶほど鷹野さんの手が動く。
 背中を預けたまま彼女の指先の動きに踊る。
 柔らかな丸筆と、少し硬めの平筆のコンビネーションが僕を狂わせる。
 筆先が僕を容赦なく犯す度に、鷹野さんで胸がいっぱいになっていく。

「筆使いがやわらかくなってきたでしょう?」

 ぬるついた筆先が亀頭だけを責めなぶる。

 しゅるるっ、しゅるしゅるっ!

 しゅるっ、しゅるっ、しゅるしゅるしゅる……

 しゅしゅっ、しゅるしゅるしゅるっ!!

 不規則なリズム。
 途切れない快感に声も上げることができない!


「あなたの身体は硬くなってるのにね……くすくすっ」

「あああぁ、も、もう……!」

「そろそろ降参かな?」

 僕は鷹野さんをじっと見つめた。

 こんなの我慢できません……

 もうイかせて……

 センパイの筆で思いっきり僕を犯して……

 声にできないほど僕は切羽詰っていた。
 そんな思いが彼女に伝わる。

 背中が解放された。
 僕の正面に彼女がいる。

「最後は正面から抱きしめてあげる」

 ぎゅううぅ……

(ああぁぁ、センパイ!)

 鷹野さんの香りに、今度は正面から包み込まれる。
 ペニスへの刺激はない。
 僕に身体を預けるようにして、少し腰を引いているのだ。

 そう思っているのもつかの間、ペニスの……裏筋の辺りに筆が添えられた!

「あふっ!」

「抱きしめながら、指先でこちょこちょしてあげる……」

 彼女は左腕を僕の首に回して、右手だけで股間を愛撫し始めた。
 そして、これはおそらく筆じゃなくて人差し指……だ。

「あああぁっ、こ、これっ!?」

「指一本でイかせてあげる」

 まっすぐに伸びた人差し指で亀頭を何度もくるくると回す。
 シコシコとしごかれるわけでもなく、筆先で集中責めされるわけでもない。
 
 自然に腰が動く。
 その動きに合わせて彼女も指先をペニスに絡める。

「も、漏れるぅ……!」

「じれったいままイっちゃいなさい……」

 その一言が引き金となって、僕は身体を硬くした。

 指先は相変わらずくるくると亀頭の周りを愛撫している。

 だが、ほんの一瞬だけ彼女の指がペニスに巻きついた瞬間……


「で、出ますっ! あああぁぁぁ!!!」

 どっぴゅううううううううう~~~~~~~!!!!


 発射する瞬間を見計らって、彼女は身体を少し動かした。
 生徒会室の広い空間に真っ白な液体が舞い上がった。










 鷹野さんはぐったりする僕を抱えるようにして、ソファーに横たえた。

「すっかり日が落ちちゃったわ、今日はここまでにしましょう」

「あ……うぅぅ……」

「身体が動かないでしょう?」

 本当に動かない。
 まるで手足が棒になったみたいに筋肉痛だ。
 それはきっと、たっぷり快感漬けにされただけでなく、同じ姿勢を強要されていたから。


「ごめん、有希……」

 思わずつぶやいてしまう。
 僕を信じて送り出してくれた彼女のことを思うと、少しだけ胸が痛む。
 でも今は……

「なにを謝っているのかしら?」

「あっ……いいえ……」

 目の前にいるユキのことしか考えられない。
 年上で美人の生徒会長……様。

「私はあなたのもので、あなたは私のものよ。これからずっと……」

 ソファーに横たわる僕に覆いかぶさるように、鷹野さんが身体を重ねてきた。


「今度はあなた自身の筆卸(ふでおろし)をしましょうね?」

「お……おねがいします、ユキ先輩」




「くすっ♪ いいわよ、ともくん」

 魅力的な笑顔。窓から吹いた風に黒髪がフワリと揺れる。

 この人はこうやって何人の男を駄目にしてきたのだろう。

 それでも……もうだめだ、戻れない。

 また筆先で犯されたい。
 
 あの白い指でしごかれたい。

 あの上品な口で弄んで欲しい……。

 僕の身体が彼女を求めている。

 明日も、そのまた次の日もきっと……





(了)




イラスト担当:じゃんぽ~るさん
じゃんぽ~るさんのブログ。彼は『くノ一の奪い方』担当絵師さんです。