楽しい日曜日も終わって、今日は地獄のような月曜日。
俺はいつものように重い足取りで駅の自動改札をくぐる。

なんで月曜日って気分が重いんだろう。
もしかして俺、うつ病じゃないか?

そんなことを考えつつ階段を下りてホームに向かう。

(しまった、ジャンプ買い忘れた。)

電車が来るまでにあと少しだけ時間がある。
慌てて階段を駆け上がり、売店でジャンプを買ってホームに下りた。

まだ電車は来ない。

そのとき、駅の壁に貼り付けてあるポスターに目が留まった。

(可愛い絵だなぁ……)

ポスターの中身は自動改札専用カードの宣伝だった。
その中で俺の目を引いたのは、A2サイズの紙面の半分くらいに大きく書かれた女の子。

茶色いショートボブの髪、ミニスカートにスパッツとバスケットシューズをはいた姿。
どちらかといえば今風の女の子らしく可愛らしい服装だ。

それは別にセクシー路線でもなく、どちらかといえば子犬を見るような可愛らしさ。
圧倒的多数の人はそれくらいしか思いつかないだろうが、なぜか俺にはこの上なく魅力的に見えた。


翌日。

昨日ほど足取りも重くなく、いつものように家を出る。
だが今日は家に忘れ物をしてしまったので一本おそい電車に乗ることになった。

(見事に知らない人ばかりだなぁ)

通学電車の中で俺はつまらないことに感心していた。
ほんの一本違うだけで、乗客の顔ぶれも全然違う。
特に今日は混んでいた。


(あれは……アホ毛?)

何気なく向いた先に、背の低い女の子の髪の先が見えた。
ガタンと電車が揺れたせいで、彼女も少しうつむいた。

見慣れない制服の女子校生。どことなく上質なブレザーの色合い。
俺は制服マニアではないのでよくわからないが、きっとどこかのお嬢様校だろう。
つり革に必死に手を伸ばす彼女の顔を見て、俺は驚いた。

(昨日見たポスターの女の子に似てる!)

軽くドキドキしながら視線を悟られないように彼女を見る。

着ているものは全く違うけれど、やはり似ている。
髪型と髪の色、それと少しタレ目なところなどはそっくりだ。
彼女にミニスカートをはかせたらきっとポスターの娘みたいになる!

そんな妄想をしつつ、しばらく楽しげな気分で彼女を見つめていた。


(む……)

しばらく彼女を観察していたら、あることに気づいた。
たまに苦しげな表情で斜め後ろのほうをチラチラと振り返るのだ。
彼女の視線の先には新聞を広げた50代のサラリーマンの姿。

そのとき電車が揺れた。
わりと大きめの揺れだったので、乗客の一部が小さくうめく。

だが俺の視線は彼女と、彼女の視線の先の男を捕らえていた。

ガサッと新聞が折れる音がして、
その隙間からサラリーマンの手首が彼女のスカートの中に入り込んでいるのが見えた!

(そういうことか!)

考えるよりも先にサラリーマンと彼女の間に俺の身体をねじ込む。
ほんの2メートル程度の移動だが、混雑した車内ではそれすら困難を極めた。

俺が起こした行動は、正義感からでもなく彼女に対する愛情でもなかった。
ただ自分が見つめていた清らかなものを汚されたような嫌悪感。
それをなぎ払うために起こした行為にすぎなかった。

だがそれは結果として痴漢されている彼女を守ることになる。
予想通り女子校生の尻を撫でていた男の手が、急に移動してきた俺の身体で弾かれる。

ぎょっとした顔をする50代の男を睨みつけた。
しばらくの沈黙 ――

「なにか?」

「ちっ……」

男は小さく舌打ちすると、次の駅で降りていった。


それから10分間程度、何事もなかったかのように時間がすぎた。
俺が降りる駅で、たまたま彼女も一緒に降りた。

人であふれるエスカレーターの順番待ちをしながら、さっきの痴漢撃退のことを考えていた。
朝からいいことをした……心の中で自分を褒めちぎっていると、ツンツンと背中を押された。
気になって振り返ると、電車の彼女が俺を見てニッコリと微笑んだ。

「あの、ありがとう!」

ペコリとおじぎをする彼女。
アホ毛も可愛く一緒におじぎする。

「ああ、えっと……気にしないでいいよ。それよりも、大丈夫?」

「ウン……驚いて声が出せなかったの。あんなの初めて」

口の先を尖らせながら、彼女は俺から視線をそらした。
少し恥ずかしそうにしながらも安堵したような表情がとても可愛い。

「これからは気をつけてね」

あんまり見つめていると、今度は俺が痴漢になってしまう。
少し名残惜しかったが手を振る彼女と改札口でお別れした。


次の日曜日。
俺は近くにあるバスケットボール場で汗を流していた。

ここはフープがいくつかあって半円のラインが引いてあるだけの河川敷の簡単な施設。
そこで毎週行われている2オン2の試合が、今の俺にとって大事な趣味だった。
ボールを追いかけているときは無心になれる。
それにここで知り合った仲間はみんないいやつばかりだ。

ちなみに俺の出た高校バスケ部は県大会で3位までいった。
割とうまいほうだと自分では思っている。

さて、今日はいつになく接戦だ。
急に地元の高校生が俺のチームに対戦を申し込んできた。

唇にピアスをしているような連中だったので軽く捻ってやろうと思ったのだが、なかなか鮮やかなコンビネーション。
一人は背が高く、もうひとりは太めだったがなかなか点差が開かない。
相手もそう思っていたのだろう。お互いにぴりぴりした緊張感に包まれる。

「おりゃああああ!」

背の高いほうがボールを手にしたまま、俺の相方を突き飛ばしながらゴールに突進した。
不自然な姿勢で弾かれる相方。もちろんこれは明らかに不自然なファウル。

「ひでぇ……」

倒れた相方の苦しげな表情を見ながら俺は呟いた。


「おっと、わざとじゃないんだぜ? 許してくれよ」

「こりゃたいへんだな!! 早く病院につれてってやんなよ」

対して悪そうなそぶりも見せず、連中が俺の背後で言い放った。
倒された拍子に地面に手をついてしまった相方の左手は痛々しく腫れ上がっている。


「こうなると試合はやり直しだな」

加害者である背の高い男が言った。
そんなことは言われなくてもわかっているし、試合の行方よりも先に俺の相方に謝るべきだろう。
すぐに救急車を呼べ、といいたい俺に向かって太めのほうが続けた。

「アンタの相方、もうだめだろう? 誰か代わりにしてもいいんだぜ?」

「それが無理ならアンタらの負けということになるけどな」

「てめえら……!」

その一言にはさすがの俺もキレた。
礼儀を知らない高校生二人ぐらいなら殴り倒す自信はある。

俺のただならぬ雰囲気にギャラリーもざわめいた。
高校生たちはニヤニヤと俺の様子を眺めている。
一秒ごとに俺の怒りがどんどん膨れ上がっていく。
まさに一触即発の状況。


「じゃあ、あたしが代わりに入ってあげるヨ」

その時、俺の後ろから女の子の声がした。







振り向いた俺の目に入ってきたのは、先日電車で一緒になったあの子だった!

「やっほ♪ また逢えたね」

階段にちょこんと座っていた彼女は腰を上げると、こちらに向かってニッコリと微笑んだ。


「きみは……!」

「あの時はありがとう。すごく嬉しかった」

トントントン、と階段を下りてくる彼女。
可愛らしい真っ赤なミニスカートがふわふわ揺れている。

「だから今度はあたしが恩返しするよ!」

そして俺の目の前まで来てパチンとウインクをしてきた。
怒りにまみれていた俺の心が、その瞬きひとつで落ち着きを取り戻した。


「本当にいいのか?」

「ウン!」

もう一度彼女の意思を確認する。
穏やかな表情を崩さない彼女は、どうやらバスケ経験者のようだ。


「おいおいおい!」

「そんなガキ入れたからって手加減しないぜ?」

相変わらずヘラヘラを笑う二人組み。
こんなやつらと知っていたのなら試合など組むべきではなかった。
そうすれば相方も傷つかずに済んだのだが……後の祭りだ。

今から試合を再開する。そしてこいつらに勝つ。
それと……彼女を守る。あの電車の中とは違う意味で。
絶対に怪我などさせてはならない。


「気にするなよ。本当は俺一人でお前らを叩き潰してやるつもりなんだからな」

「ケッ! 後悔するなよ」

試合再開のブザーが鳴った。



俺は彼女にボールを渡した。

「どこでもいいからコートのあいてるところにボールを入れてくれ。後は何とかする」

「ウン、わかった!」

パスを出そうとする彼女の視界をふさぐように立ちはだかる相手。
太めのほうをチラリと見て、彼女は小さく笑った。

「あなたたち、彼と比べてずいぶん動きが遅いね?」

「なんだと、テメー!!」

「ふん」

次の瞬間、彼女の手からボールが消えていた。
少女の挑発を真に受けてブチ切れる高校生の股下を通す鋭いパス。
もちろん太めの足の下を通したのだ。

「な、なにっ!?」

「ほら、やっぱり遅い」

ボールを手放した瞬間に俺と逆方向にダッシュする彼女。
その動きは俺の相方に引けをとらないほど速い!

パスを受け取った俺めがけて襲い掛かる高校生たち。

「ぶっつぶしてやるぜ!!」

「勝手に言ってろ」

俺は誰もいない空間に向かってパスを出した。
すると予想通り、彼女の手にボールが渡った。

「そのまま打て!」

俺が叫ぶと、彼女はコクリと頷いた。
そして3ポイントのラインまでステップバックしてからのシュート。

「えいっ」

「させるかよっ!!」

バックステップから構え、そしてシュートまでの動作が異常に速い!
高校生が必死でシュートをブロックするためにジャンプしたが間に合わない。
背の高い高校生の伸ばした指先の少し上を通過するバスケットボール。

彼女が放ったシュートはとてもきれいな弧を描いた。

そのあと何度か攻守交替はしたが、俺たちの優位は変わらなかった。
俺がボールを手にしたときはカットインしてのシュート。
彼女がボールを持てば3ポイント。
見た目の可憐さ以上に彼女は優秀なバスケット選手……いや、おれの相棒だった。

しばらくして試合終了のブザーが鳴った。


「そういえば、名前聞いてなかった」

ギャラリーから沸いた大きな拍手を浴びながら、俺は彼女に尋ねた。


「あんまり言いたくないんだ。ヘンな名前だから」

「?」

女の子が自分からそういうなんて珍しいと俺は思った。
だが無理には聞くまい。
話題を変えようとした俺に向かって、ポツリと彼女が言った。


「蓮茂花子(はすもはなこ)……」

その表情は痴漢を撃退したあとに俺に見せたものといっしょだった。
少し照れながら視線をそらして口を尖らせる可愛らしい表情。


「ハナ、って呼んでいいよ!」

顔をうっすらと赤く染めながら、彼女はぎこちなく笑う。
今まで名前のことで何か友達にからかわれたりしたのだろうか?
でもそんなことは関係ない。
俺と、俺の相方の窮地を救った可愛い天使に違いないのだから。


「いい名前じゃん。これからも一緒にバスケしよう、ハナ?」

「えへへ、いいヨ♪」


俺の言葉を受けて、彼女の顔がパッと輝いた。






俺の相方が高校生コンビに負わされた怪我は思いのほか深刻だった。

手首だけでなく指の骨にも一部亀裂が走っている剥離骨折。
ポッキリ折れていない分、始末が悪い。
早くても全治6週間。
今までどおりバスケができるようになるには
しばらく時間がかかるだろう、というのが医者の所見だった。

「大会が近いのに申し訳ないな」

本気ですまなそうにションボリする彼を見ていたら、俺はもう何も言えなくなった。
もともと彼の不注意のせいではない。
不慮の事故だ。

「その件はいいさ。これが最後のチャンスというわけでもない。また3ヵ月後にもあるし」

「しかし……お前、大会に向けてすごく練習していたじゃないか!」

「まあな。だが、本当にいいんだ」

俺は本心でそう思っていたのだが、相方はそれでは気がすまないという面持ち。
そしてすがるような眼で彼はチラリとハナのほうを見た。


「彼女、いい動きだったな」

「ああ。助かったよ、ハナ」

相方の言葉に被せるように、俺は感謝の気持ちを告げた。
ハナは少し照れたような表情でニコッと笑った。

「早くよくなるといいネ」

「ありがとう。初対面なのに色々すまない。もうひとつだけ、俺の願いを聞いてくれないか?」

相方の言葉に首をかしげるハナ。


「?」

「そいつと……コンビを組んで欲しいんだ。俺の代わりに」

相方から口にした言葉は、俺からの願いそのものだった。
もしも彼が言ってなくても俺からハナにお願いするつもりだった。

「んん~~…………」

「頼む!」

「ウン、あたしでよければ力になるよ!」

しばらく考えた後、さっきと同じような笑顔でハナは了承してくれた。




「本当に助かるよ、ハナ」

「ううん、イイヨ♪」

「でもなんでこんなに良くしてくれるんだ?」

病院からの帰り道、俺は彼女に尋ねた。


「電車のこともそうだけど、あたしずっと川原のギャラリーだったんだヨ?」

「え……?」

毎週俺たちがバスケをしているとき、確かにギャラリーは何人かいる。
その中にハナが入っていたことに俺は全然気づかなかった。
ハナだからというわけでなく、自分の性格としてバスケだけしか見えなくなってしまうのだ。

「えー、気づいてなかったの?」

「す、すまない……」

少し頬を膨らませて俺のほうをジロリと見つめる彼女。
ここは素直に謝るしかなかった。

「まあ、べつにいいけどネ」

特に気を悪くした風でもなく、ハナはしゃべり続けた。


「小学校からずっとバスケやってた。でも、あたしチビだから……」

残酷なもので、バスケットやバレーボールというのは身長差がそのまま結果に結びつく。
ネットやゴールの少しでも近くに手が届くほうが有利に決まってる。

「でもね! 背が小さくてもアメリカでプロバスケットしている人いるじゃん!」

ハナが口にしたNBAの選手のことは俺も知っていた。
背が小さいながらも得意な才能を伸ばして名を馳せたプレーヤーだ。
確か日本に帰ってきているような?

「あの人の真似してノールックパスできるようになったんだよ」

「それがあの時のパスか!」

「そうそう。でもあの時は股間にぶつけてやろうと思ったんだけどネ」

「それはむごい……」

コロコロ笑いながら俺を見上げる彼女。
高校生の一人の股下を見事にスルーさせたキラーパス。
そのあとも何度か見せたハナのパスの切れ味は只者ではないと感じていた。

「それをゲームで試せたらいいなぁっていつも思ってた」

努力で勝ち取った才能は、いつか試してみたくなるものだ。
飛び入りで俺に力を貸してくれたハナの動きは申し分なかった。
改めて俺は彼女にコンビを組んでくれるようにお願いした。

「でも、毎週来ていたのなら俺たちに声をかけてくれば良かったのに」

「無理だよ。あたし恥ずかしがり屋サンだもん♪」

ペロリと小さく舌を出して、ハナは可愛らしく微笑んだ。



そして2週間後。大会当日。
ここはいつもの川原ではなく市民総合体育館。

俺にとっては6度目の大会だ。
参加人数は軽く50組を超える。

「結構盛り上がってるんだねぇ……」

初出場のハナは俺からゼッケンを受け取りながら、熱気渦巻く会場を見てつぶやいた。
実際に中高生の参加は少なく、社会人や大学生の腕自慢が集まる大会として有名になりつつある。
そんな中でも俺と相方は優勝候補とまで言われてはいないが、上位入賞確実と噂されていた。

「ぷぷ、ぷれっしゃー……だわっ」

「気にするな、仮に一回戦で負けても死ぬわけじゃないし」

勝手に武者震いしているハナに、一回戦からの流れを説明していると
俺の背後で聞き覚えのある声がした。


「あら、いつもの彼はどうしたの?」

「お前は……!」

俺たちが振り返った先には、いかにも気の強そうな美女が二人立っていた。


ポニーテールで切れ長の瞳を持つリーダーと、ショートカットで可愛らしい顔立ちのもう一人は大会でも有名なコンビ。
こいつらは優勝候補の一組で、チーム名を「ショットガンズ」という。
その名のとおり近距離での攻撃力はすさまじいの一言。
女性だからといって甘く見ていると蜂の巣にされてしまう。

「……あいつは他に用事があってな。今回はパスだ」

「ふ~ん、そう。それで今度はそのオチビちゃんがアナタのパートナー?」

「オチビじゃない! ハナ!!」

突然の挑発にプンスカ怒り出すハナ。
その様子をクスクス笑いながら上から目線で見下す美女たち。

「私は山手翠香(やまのてすいか)。ショットガンズのリーダーよ」

「私は神崎円香(かんざきまどか)。よろしくね」

「ふんっ」

ぷいっと横を向くハナ。
その先に回りこんで、少しかがむようにして翠香は話を続けた。

「まあ、つれないオチビさんね。ふふっ、あのね……私、彼のモトカノよ?」

「だから何っ!?」

「あなたも気をつけることね、オチビちゃん。彼、とっても手が早いから」

その会話はナイショ話に近い音量だったので俺には聞こえなかったが、
ハナの肩がプルプル震えているのはわかった。

「おい、翠香。もうそのへんにしてくれよ」

「そうね、お邪魔しちゃったかしら。またゲームで会いましょう?」

ショットガンズの二人は俺たちに背を向けると優雅に立ち去っていった。

「あっかんべーだ!!」

突然舌を出して翠香に向かって中指を立てるハナを見て、俺はビクッと震えた。




これも運命のいたずらか ――

抽選の結果、俺たちは翠香のチーム「ショットガンズ」と一回戦で当たることになった。
この大会にシードは無い。
もちろん負けるつもりは無いが、緒戦でこいつらとやるのは骨が折れる。


「あたしぜったい負けないから!」

「…………」

残念ながらショットガンズに死角は無い。
せめてもの救いは3ポイントシュートを乱発してこないことだけだ。
奴らへの戦略で悩む俺の脇で、ハナはやる気満々だ。


「そうだな、とにかく楽しもうか」

「ウン! そして勝ーつ!!」

だめだ……完全に翠香を敵視してる。
でもそれもモチベーションをあげるひとつになるなら俺はいいと思う。
なぜハナが初対面の翠香に対抗意識を燃やしているのかは定かではないが。


俺たちの試合はAコートの第3試合だった。
翠香たちの追っかけファンも多く、完全にアウェーの雰囲気だ。
俺はともかくハナは初出場なのだから仕方ない。

「だれだあの子? はじめてみる顔だね」

「翠香さーん、ファイトー!!」

「どうせショットガンズの勝ちさ。それも大量得点で」

だが場の雰囲気に飲まれることも無く、ハナは入念にストレッチなどをしていた。
その小さな背中に闘志がみなぎっている。
試合開始のブザーが鳴った。


試合開始3分、ギャラリーがざわめきはじめる。
いつもならすでに2桁得点が当たり前のショットガンズのスコアボードは未だに5。
対戦相手の俺たち、スナイパーズの得点は13。

「なんだよ、あいつら! 強いじゃねーか」

「特にあの小さい子、パスもシュートも切れてる!!」

「これはわからなくなってきたな……」

試合は5分ハーフで前半と後半に分かれている。
このペースだと30得点は硬い。
大会新記録も夢じゃないハイペースだ。

(まさかここまでやるとはな……)

俺自身もハナの活躍に驚いていた。
ゴール真下に切り込んでくる翠香へのパスは完全にカット、
そして自身が放つ3ポイントはすでに3ゴール。
シュート成功率はいまのところ100%だ。


「タイム!」

痺れをきらせた翠香が審判に向かって叫んだ。
お互いにハーフごとに30秒のタイムは許されている。

「思ったよりやるわね。あのスピードは厄介だわ」

ペットボトルのドリンクを少量口に含みながら翠香がいう。

「それにあのシュート。オチビのくせに惚れ惚れするようなフォーム」

ショットガンズのもう一人、円香も憎々しげにハナをにらみながら口走った。
そこには敵ながら天晴れ、という余裕は無く悔しさだけがはっきりと滲んでいた。


「それにあの二人、コンビネーションも絶妙……あの子、絶対彼のこと好きよね?」

「ここはひとつ、揺さぶりをかけてみましょうか?」

二人の美女はニヤリと微笑むと、ほんの数秒間で戦略を立て直した。
そして試合再開のブザーが鳴った。

「そうね、これでもうあの子はボロボロ……ふふっ♪」




前半の残り2分間、俺はさっきよりも気を引き締めてコートに入った。
ハナもテンションをキープしたままのはずだったが、なぜか急にシュートが入らなくなった。
それだけでなく翠香へのパスも通るようになり、そのパスがそのまま相手の得点へと結びついた。
俺へのガードもきつい。翠香がマンツーマンで、まるで蛇のように俺に絡み付いてくる。

「ハナッ! こっちだ!!」

「う……うんっ」

ぱしっ!

「あら、残念ね?」

今度は翠香ではなく円香にもパスをカットされた。
俺たちはいいところ無くハーフタイムを終了した。

ハーフタイムが終わって、2分間の休憩。
俺は思い切ってハナに問いかけた。

「どうしたんだ、ハナ!」

俺は彼女をしかりつけるべきではない。それもわかってる。
でも、彼女らしくないタイム後の動きはチームリーダーとして問いただす必要はあった。

「こないだみたいに動きにキレがないし、集中力も途切れてるだろ」

「…………」

「なにがあった? 話してみろよ」

それでも黙り込むハナ。
しかもこんな暗い表情で俺の前でうつむくなんて。

どうすることも出来ない自分に腹を立てた俺がため息をついた瞬間、ポツリとハナがつぶやいた。


「モトカノって言ってた……」

「な、なに?」

突然の言葉に俺は反応できなかった。
だが、ハナはこっちを見て恨めしそうにしている!

「あなたのモトカノだっていってた!!!」

「……翠香がそういったのか?」

「ううん、あたしをマークしてたショートカットの子が言ってた!
 翠香さんとあなたは名コンビで、3つ前の大会では優勝したって!!」

今にも泣き出しそうな顔でハナは俺に向かって叫んだ。


「あたしなんかより、翠香さんと組めばいいじゃない!」

「お前、それを気にしてたのか……」

「そんなことないもん! ぜんぜん気にしてない!」

きっとショットガンズの連中がタイムの間に考えた作戦なのだろう。
マンツーマンでハナにくっついている間、ずっと円香はハナに囁いていたのだ。
疑うことを知らない純粋なハナの精神面を揺さぶるには有効な手段だ。


「落ち着け、ハナ!」

「おちついてるもん!!」

ぜんぜん落ち着いてない……。
これを瞬間的に治すには荒療治が必要だ。

俺はハナの小さな肩に両手を置いた。

「……じっとしてろ」


暴れだしそうなハナの顔に、そっと頬を寄せる。
そして……


「んんっ!!!」


大会中であるにも関わらず、おれはそっとハナの小さな唇にキスをした。
まるで桜の花びらのように小さな彼女の唇にそっと触れる。
たまたま見ていたギャラリーからも小さな声が上がった。

ほんの2,3秒のことではあるが唇を通して、
取り乱していた彼女の気持ちが落ち着いていくのがわかった。


「は、はわわわわわわぁぁぁ…………」

「俺の気持ちの先渡しだ……本当は試合のあとに伝えようと思ってた」

目が点になっているハナを軽く抱きしめつつ、俺は語りかけた。


「あたしキキ、キス……はじめて……」

「落ち着け、ハナ! それとお前の力を貸してくれ」

「ウ、ウン!!」

彼女の目に光が戻った。
それと、真っ白な肌に赤みが差している。

じっと見つめていると今度はこっちが照れてしまうので、俺はショットガンズのほうへ目を向けた。

「あいつには……翠香たちには負けたくない」

「あたしだって負けたくないヨ!!」

「それから、翠香は俺のモトカノじゃない。俺の相方のモトカノだ」

「えっ……!?」

「とにかく、今は勝つことだけ集中してくれ。頼りにしている」

俺の言葉を聞いて小さく頷くと、ハナは大きく深呼吸をした。

小さな背中に再び闘志が宿る。もう大丈夫だ。


後半開始を告げるブザーがコートに鳴りひびいた。




後半のゲーム開始直後、ショットガンズは再びマンツーマンディフェンスの構えを見せた。

俺の目の前には両手を大きく広げた円香(まどか)の姿しかみえない。

円香の右にパスを出すか、左に出すか……迷いどころだ。

今度は翠香がハナに取り付いた。



「まさかギャラリーが見ている前でキスするなんてね。さっきはずいぶんと見せ付けてくれたじゃない?」

軽くステップを踏むハナの動きにかぶせるような翠香のディフェンス。

ひとつに束ねた黒髪が左右に揺れる。

翠香のほうがハナよりも15cm程度背が高い。



「あれほど私が忠告したのに、聞いてくれなかったのね」

「…………」

俺には聞こえない位置での、お互いに隙を窺いながらの舌戦。

ハナは翠香の軽口をスルーしながらパスを受けるベストポジションを探しているのだ。



「あなたも可愛そうな子ね。試合が終わったら彼に捨てられちゃうのよ?」

「……もう翠香さんの嘘なんて私には通じないもん」


まるで翠香など眼中にないかのように、ハナは言い捨てた。



「クッ、みんなの前で恥をかかせてあげるわ!」

その直後、ハナのステップが鋭く変化した。

翠香もそれにつられてコートを駆ける速度を上げた!



「あの子、本当に可愛い彼女ね」

「…………」

こちらでは円香が俺に話しかけて来た。


「純粋で、汚れを知らなくて、しかもあなたが好き……」

彼女の背後では翠香を振り払おうとハナが動き回っている。

だんだんと二人の速度が上がってきてる。

俺は目の前の円香から目をそらさず、ハナの動きを予想する。


「それにあなたも……彼女を好きみたいね? クスッ」

俺の集中力を遮ろうとする円香。

ショットガンズの二人はバスケの腕も立つが、それ以上に口も達者だ。

対戦相手が男の二人組みだと、

たいていの場合彼女たちの甘い囁きに夢中になってしまうほどだ。


「まどか……」

「なぁに?」

「おしゃべりはそこまでだ。お前ら二人、今からぶっ潰してやるよ」

俺は低い声で目の前の美女に向かって言い放った。

案の定、不快感をあらわにする円香。


「なんですって!!」

「ふふっ、それにハナはそんなに弱くないぞ? 舐めてるとやられるぜ」

「フン、ますます壊したくなったわ。

 あなたたち二人の信頼関係……バラバラにしてあげるッ」

穏やかだった円香の表情が一変した。

ほぼ同時に俺の作戦も固まった。

一瞬の間を縫って、俺の手からボールが離れる。


(ハナ、右だ!!)


円香とにらめっこをしながらのノールックパス。

浅い角度でコート面をボールがバウンドする。

この最初のパスが通るかどうかで後半戦の流れが決まる。


「ちっ!!」

ボールと逆の方向に走る俺を追う円香。

こいつを振り払うことはそれほど難しくない。

だが大会屈指のディフェンス巧者である翠香がハナに取り付いているのだ。

果たして振り切れるのか……!?


「ハナ、あいつを振り切ってくれ!!」

「ウンッ」

ボールが手のひらを弾くパシッという音と、ハナの声が同時だった。


「オチビのくせにっ……なんて速さなの……!」

つづいて翠香の声。

どうやらハナの手にボールはあるらしい。


「このまま決めるヨ!」

ハナがシュート体勢に入った。

俺はリバウンドに備えて、円香の細い体を押しのけつつベストポジションをキープする。



*********


翠香さんを振り切ってすぐ、ボールがあたしの手元に来た。

まるであたしがここに来るってわかってたみたいに!

……彼からのパス、いつもすごく取りやすい。

背の低い私に合わせて何気なく出してくれる優しいパスだから、

絶対に翠香さんには渡したくなかった。


(あたし、ずっと彼のこと遠くから見てたのに……)

さっきまで円香さんや翠香さんの言葉で曇っていた私の心。

疑いたくないのに彼のことを疑ってる自分が醜くて、とても嫌だった。

でも彼はそんなあたしを信じてくれた!



「オチビにシュートは打たせないよ!」

必死の形相で翠香さんがシュートコースを塞ぐ。

かまわずシュートの体勢に入ると翠香さんは目の前で大きくジャンプした!

翠香さんの長い手足であたしの視界が遮られる。


(これじゃあシュートしても弾かれちゃうけど……!)

でもこれはフェイク。

翠香さんをわざと飛ばせるための作戦。

あたしはシュートの体勢を崩して素早く下がった。

ほんの少しだけ3ポイントラインを踏み越えた。


「しまっ……!」

「よし! ハナ、決めろ!!」


翠香さんと彼の声が聞こえる。

川原で一生懸命ボールを追う彼を見てるだけであたしは幸せだった。

密かにあこがれていた彼と、私は今同じ場所に立っている。


(電車で痴漢から私を守ってくれたとき、やっと気づいたの!)

憧れの彼が私を助けてくれたのは偶然じゃない。

あれはきっと神様の仕業。

だから、あのあと川原で彼が困っていたとき、いつもと違って一歩踏み出せたの。

あたしに必要だったのは、勇気を持つこと。


再びシュート体勢に入ったあたしに、今度は円香さんが突進してきた!

でも大丈夫。

フェイドアウェイ(後ろに飛びながら)のシュートだから誰にもジャマさせない!!


「このぉ!!」

思い切り手を伸ばす円香さんの指先の少し上を狙う。



シュパッ……


今度は本当に空中でシュートを放った。

いつもと同じ角度で、いつもと同じ手ごたえ。

大丈夫、きっと入る。

彼のパスを受けたときから、絶対一本目は3ポイントって決めてたの。

それともうひとつ……今決めたこと。


(もっと彼のこと、知りたい!)


*********



「おお、すげー!!」


「翠香さん相手にフェイク決めたぜ、あの小さい子!」


ピピー!


惚れ惚れするようなハナの鮮やかなシュートにギャラリーも歓声を挙げた。

俺がリバウンドでジャンプする必要など全くなかった。

リングにかすることもなく、ネットをゆらすハナの3ポイント。

カウントの笛を聴いてハナが小さくガッツポーズをした。


「やったネ!!」

「よくやったぞ、ハナ」

「えへへ♪」

思わずその小さな頭をなでてしまった。

栗色の柔らかい髪が少しクシャクシャになっても、ハナは嬉しそうだった。


「さあ、今度はディフェンスだぞ」

「大丈夫、あたしが守りきってみせるから!」


その言葉通り、ハナは前半の動きを取り戻した。

翠香たちを完全に抑えることは出来なかったが、徐々に点差が広がり始める。

試合は完全に俺たちのほうへと傾き始めた。

そして試合終了までには、点差は二桁まで広がっていた。





「……完敗ですわ」

試合が終了してからの握手で、翠香がため息を吐いた。

こいつが自分から負けを認めるなんて初めてのことだ。


「シュートもスピードもあって、メンタルも強いなんて反則じゃありませんか?」

ハナと握手していた円香も、つられてため息を吐いた。


「あんな嘘つかなくたって翠香さんと円香さんなら充分強いのに」

その言葉を聞いて、円香が苦笑いした。

「私たちだって、いつもならあんな揺さぶりかけたりしませんわ?」

試合開始後のハナの動きを見たら、

たしかに手段を選んでいる余裕はなかったのかもしれない。


「こうなった以上、おふたりの優勝をお祈りしています」

「それと、恋の行方も……ね? フフフフッ」


「なっ……!」


最後の最後まで口が達者なショットガンズの二人。

翠香のその言葉に、俺もハナも真っ赤にならざるを得なかった。



「なあ、ハナ? チーム名、『ザ・キッス』に改名しようか?」

「バババ、バカぁ! なに言ってるのよぉ~~!?」


照れながら俺を睨みつけるハナを見つめながら、翠香も円香も小さく笑った。










気が付くとおれは暖かな湯気が立ち上る部屋にいた。

ライムグリーンの浴槽にはたっぷりと湯船が張られていて、壁にはテレビもある。

ようするにここは風呂場だ。


「…………」

だがここはどこだ? まったく見覚えがない。

しいて言うならばラブホテルのような空間。それも上等な部屋だ。


「なぜこんなところに……!?」

俺はもちろん全裸だ。

片手には柔らかそうなタオルを握り締めているのが妙にリアルだ。

全然冷静になれない。

戸惑う俺の背後で、がちゃっという音がしてドアが開いた!


「おまたせ~~、ごめんネ?」

「うわっ!?」

振り向いた視線の先にはハナがいた!

急に顔が真っ赤になり、恥ずかしさがこみ上げてくる。

男なら当たり前の反応だ。


「今日は汗いっぱいかいたんだから一緒にお風呂入ろう?」

昇り立つ湯気の中、ゆっくりとこちらに近づいてくる彼女。

「バカッ! こ、こっちにくるな! ハナ、離れろ!!」

「なにそれ? オヤジギャグ??」

彼女はきょとんとしたままこっちを見ている。

俺は慌ててタオルで股間を隠した。

「ふーん、恥ずかしーんだ。 かわいいんだねー?」

「お前は恥ずかしくないのか! 恥ずかしいだろ!? こっちくんなー!!」

「だいじょぶだよ~、あたし水着きてるもん! 恥ずかしくないヨ?」

よく見るとハナは水着を着ていた。

セパレートの白いビキニ……って

(な、なんだこいつ! 思ったより胸もあるし、エロい体してる!!)

ハナの体は真っ白で、手足が長い。アスリートらしく引き締まっていた。

それでいてバストは服の上からではわからなかったが、とても柔らかそうなラインを描いていた。

背は高くはないが、とても均整の取れたスタイルだと感じる。

(これは……やばい……!)

思わず前かがみになる俺。

「なに恥ずかしがってるの? 早くおいでよっ」

その提案は却下だ。

男特有の事情で今は身動きできない!


「じゃあそこに座ってよ。イスあるでしょ?」

「あ、ああ……そうだな」

ハナが指差した先にプラスチック製のイスがあった。

俺は彼女に背を向けてとりあえずイスに腰をかけた。


これは夢だ……そうに決まってる!

俺は祈るように目を閉じて、一人でブツブツいい始めた……。





「いったいどうしたの?」

念仏を唱えるように精神を集中してみたが、なかなか醒めない夢らしい。
俺の顔を覗いて心配そうにするハナ。

「い、いや……なんでもないんだが……」

「へんなの。まあいいけど」

ハナは何事もなかったかのように俺の背中をスポンジで擦り始めた。

正直なところ、俺は今までで一番ドキドキしていた。

これは彼女のことを女として意識せざるを得ない状況。


「背中流すよー、もっとリラックスして?」

……リラックスなどできる状況ではない。

無言のまま身を固める俺。

ハナの着ているビキニや彼女の引き締まったからだと愛くるしい顔が頭の中でグルグル回ってる!


「広い背中っていいね……」

「はうっ!!」

急にハナのほっそりした腕が俺の脇の下をくぐってきた!

小さな手のひらが俺の両乳首をくすぐり、首筋にハナの吐息が当たってる。

それと同時に俺の背中に何か柔らかいものが……こ、これはああぁぁっ!?

「ブッ……な、ななな!!」

「ぎゅ~~ってしちゃう!」

「ハ、ハナ! こらああぁぁ」

俺が声を上げてもハナはまったく意に介さず、背中に抱きついてくる!


「えいっ、えいっ♪」

「ば、ばか! やめろ、くっつくなああ!?」

「あはっ、かーわいい♪」

白いビキニの下にある柔らかい双丘が、俺の背中で惜しげなくつぶれている。

押し付けられた部分から俺の細胞ごとジワジワとろけさせてしまうような快感が流される。

しばらくの間、ハナはおれの背中に身を預けて感触を楽しんでいた……





「は、はぁ、はぁ……ハナ、お前っ!」

「今度は前を向・い・て♪」

反射的にガバッと股間を隠す俺。

今の一連の動きのせいで、もはやすっかりビンビンになってしまった。

「いやだ……」

「えー、早くしないと、あたしが前に回っちゃうよ~~? そのほうがいい?」

「や、やめてくれ……自分で洗うからさ……」

「それも却下」

ニヤニヤしながら俺を見つめるハナ。

いつの間にかこの空間のイニシアチブは完全に彼女のものになりつつあった。

クリクリしたその瞳には逆らえそうもなかった。数秒間の後、俺は観念した。


「ウン、素直でよろしい」

仕方なくハナのほうを向いたものの、体は前かがみになったままだ。

さっきから恥ずかしさなのか興奮なのかよくわからないが、俺の股間が大変なことになっている!


「じゃあ、手をどけて?」

「え……?」

「どけてくれなきゃ洗えないでしょ! 早く!!」

少し強い口調のハナを思わず正面から眺めてしまった。

白いビキニを着ているせいで、裸よりもエロくかんじる彼女の体。

ところどころにボディソープの泡が付着しているのもエロさに拍車をかけている。


「だいじょぶだよ、大事なところは見ないでいてアゲル♪」

その言葉どおり、ハナは俺から視線をそらさずにチョコンと正面に座った。
よく見ると髪が濡れないように後ろでひとつにまとめている。
それがまた微妙に色っぽい。

「その代わり、あなたのお顔をずっと見ててあげるからネ?」

だが、その可愛らしい顔に見とれているのもつかの間……
今度は身を焦がすような恥ずかしさに俺は悩まされた!

「気持ちいい?」

「う、うううぅ……!」

「もしかしてこっちのほうが恥ずかしかったりして……うふふっ」

ハナがいうとおりだった。
じっと見つめられながら、美少女に正面から肩や胸を触られるのはとんでもなく恥ずかしい!

しかも彼女の手つきが絶妙で、泡のついた指先で筋肉を丁寧に揉み解してくる。
思わず声を上げてしまいそうになるのを必死で堪える俺。

「きれいにしてあげるからネ?」

そしてとうとうその泡まみれの指先が俺の股間に伸び始めた!

「いっぱいアワアワにしよーね?」

「あ、ああ……はひいい!!!」

「もう! そんな声だしちゃダメー!!」

泡の中でもはっきり感じる快感。

ハナの細い指先が敏感な俺自身を優しくなで上げながら洗ってくる。

これはエッチな行為でなく、ただの洗う行為だと頭の中で念じていても無駄だった。

「ハナの手、ちっちゃいからくすぐったいのかな?」

俺の胸の辺りを這い回る指先が乳首を執拗に撫で回す。

手のひらのくぼみを押し付けたり、指先をぱっと開いたままで肩からへその辺りまでを何往復もするハナ。

「指先までちゃんと洗おうネ?」

泡まみれの両手で俺の左手をグリグリ指圧しながらキレイにしてくれた。

もはや俺はうっとりとした目で彼女を見つめてしまう……


「あたし上手でしょ?」

「ああ……すごいよ……気持ちいい……」

「ホント?」

クチャクチャと俺の身体と彼女の手のひらの間で泡が練られる。


(気持ち良過ぎ……る……ぅぅ!!)

ハナにはきっと淫らな気持ちなどないんだ。
ここで俺が声を上げたら、彼女に対して失礼になる!
俺は身動きせずに拷問にも近い快楽に抗うしかなかった。

しかし……



「なんだかすごく……硬くなってない?」

「ご、ごめん……・ああああぁぁ!!」

ハナの左手が俺の股間の付け根にまで伸びてきた!

そして丁寧にふたつの玉を……コリコリと洗い始める。

じんわりとした快感に俺のガマンが溶かされていく気がした……

「気持ち……いい……?」

「あ、ああ……すごい……」

「男の人って、ここを触ってるとこうなっちゃうの? それともあたしだから……?」

じっとりと上目遣いで俺を見つめるハナと思いっきり目が合った!



「やん! 今、ビクンって跳ねたよっ!!」

「すまん……でも……でも!」

「大人しくしないとダメだよぉ……」

そのあと、しばらく俺たちは無言だった。

もちろん一秒ごとに俺の体がハナの手によって快楽漬けにされていくわけだが……


「先っぽも……キレイにしよ?」

「あ……え、ええええ!?」

「嫌がってもするから!」

ハナは息を弾ませる俺を見ながら、ゆっくりと両手で亀頭を包み込んだ。

「先っぽをきれいにしてから……」

彼女の両手の指先が亀頭を這い回る。
ふんわりと先端を包んだままでの亀頭愛撫……
特に人差し指から薬指までをそろえて猫の額を撫でるような優しい手つきは凶悪だった。
堪えていても腰がフラフラと震えてしまうほど気持ちいい!!

「根元のほうも指先で洗ってあげる」

「はぁ、はぁ……ハナ、少し休ませてくれ」

「泡で見えないから恥ずかしくないよネ?」

ニンマリと笑うハナの目は好奇心いっぱいの少女そのもの。
亀頭は解放されたものの、今度はカリ首のしたを念入りにしごき始めた!

「タマタマも……優しくしてあげる」

片手で棹をしごきながら玉袋を優しく洗うハナ。
ボディソープの泡とガマン汁が交じり合った淫らな音が浴室に鳴り響く。

「あれ、先っぽが何だか赤くなってるよぉ?」

体を駆け巡る快感に、思わず浴室にあった手すりを強く握る。


「う……くっ……!」

「クスクス、もう一回……する?」

「も、もう一回って……」

「あたしの手で先っぽを優しく包んで、ニュルニュルにしたまま、ナデナデして欲しいでしょ?」

「…………」

彼女の言葉に、俺は黙って頷いた。





「な、なんだかあたしも変な気持ち……」

急にハナが膝立ちになった!

そしてゆっくりとビキニの上にあたる部分の紐を解いた……

「は、は、ハナッ!!」

「……ねえ、少し冒険しちゃおうか?」

俺の目の前でハナの柔らかそうなバストがあらわになった!


「あんまり大きくないの……ごめんネ?」

「い、いや……!」

俺は思わず大きく首を横に振った。

大きさなど関係ない。

とても神秘的な美しさをかもし出すハナの胸を見た俺はため息しか出なかった。


「うふっ♪ ハナの体、しっかり見ててネ…………」

今度はゆっくりとビキニの下に当たる部分を取り外す彼女。

ほどなくして彼女の一番大事な部分が俺の視界に飛び込んできた。


俺は石になったように動けない。

それどころかこの先の展開に期待さえ抱いてしまっている。

子供のように純粋だと思っていたハナが、こんなに大胆な行動に移るなんて!!


「私のアソコを……アワアワにすれば、
 
 滑らかになって……その……気持ちよく入るかなぁ?」

俺の両肩に手を置いて、そっと囁いてくるハナの声が頭でリフレインする。

今から俺はこの娘と……!


「ハナから目をそらしちゃダメェ……」

「そ、そんなこと言われても!」

こうしているうちにも彼女は次の行動に移っていた。

イスに座る俺の左足を、自分の右足でまたいでペニスを秘所に迎え入れようとしていた!


「おちんちん、あんまり固くしないでネ?」

「そんなこと今更いわれても……!」

この状況でハナの希望をかなえることは不可能だ。

こんなに優しく誘われたら俺じゃなくたって……


「おねがい……あたし初めてなんだよ?」

クニュ……チュ……

ついに亀頭がハナの暖かくてフニフニした部分に接触した。

こいつの今までの行為は処女ゆえの大胆さなのだろうか。


「ほ、ほら……もうすぐだヨ! あ、あっ、あああああああぁぁん!!!!」

俺の顔を抱きしめるように首に腕を絡ませてくるハナ。

気が付くと彼女も小刻みに震えていた。

その甘い吐息を感じるのと同時に、俺の亀頭部分に熱い粘液がねっとりと流れ出して ―――


ずりゅんっ!!


「はあああぁぁん!!」

「あっ、ああああ!」

俺とハナの叫び声が浴室の壁に反射した。

ペニスはドクドクとガマン汁をあふれさせ、熱くとろける膣の中で抱きしめられたまま身動きが取れない。


「あたしの足、絡めちゃうね……」

「うううぅ……ハナ、あああ、すごい……!!」

震える声でハナはそう言うと、右足と同じように左足を俺の右足に乗せてきた。

いわゆる駅弁の姿勢ではあるが、気持ちよすぎて立ち上がれない!


「もっとハナのこと感じて…………」

息を弾ませるハナが俺の首に手を回したまま小さな尻を上下させた。

クニクニクニ……

それによってますます深く結合した俺たちは、すぐにやってきた快感にため息をつくしかなかった。

「うああっ!」

「ハナのこと、しっかり抱きしめて~~~」

反射的に彼女の腰を抱える俺。

吸い付くような柔肌の感触と、ペニスに広がる心地よい痺れがさらに強くなった!


「すご……い! 突き刺さってるぅ!!」

ハナがビクンと身体を震わせた。


「キス、いっぱいしよ……」

「はぁ、はぁ……んんんん!!!」

そして俺に抱きついたままでのディープキス。

急に唇を彼女に奪われて呼吸が乱れる。

だがお構い無しに俺の唇を吸い続け、何度も何度も舌先を出し入れするハナ。

ピチャピチャという唾液が飛び散る音が俺の耳から消えない……


「気持ちよくて……あたし、溶けちゃいそうだヨ……」

ハナより先に俺のほうが溶けてしまいそうだった。


「ねえ……膣内(なか)で射精したい?」




「だ……したい……けど!!」

ハナの質問に必死で意識を繋ぎとめる俺。

もはや黙っていてもこのまま中で弾けてしまいそうだ。

だが俺は必死で射精をこらえた。

「ハナのおまんこでイきたいの?」

くちゅ……ぬちゅっ、ぬりゅ……

「動いちゃダメだよ、ハナ! 気持ち良過ぎるっ!!」

「赤ちゃんできちゃうからダメぇ…………んちゅ……♪」

再びキスをしながら少しだけ腰を上げるハナ。

甘い舌先が差し込まれ、くちびるが俺の呼吸を不規則にする。

潤んだ瞳が俺の心を優しく包んで離さない。

どんどんハナが好きになる……


「その代わり、ギリギリまでおちんちんを抱きしめててあげる!」

にっこりしながらジリジリと腰で円を描くハナ。

ペニスが膣の中でねじまげられ、柔らかい壁にこすり付けられる。


「うあ、すごい……ハナのあそこが……!」

「あたしのこと、もっと好きになって欲しい……」

震える俺の身体に抱きついたまま、ハナは突然ペニスを解放した。

そして俺の前にしゃがみこむと、両手で膨らみきったペニスを優しく握った。

「すご……くあああああぁぁ!!」

「体中ヌルヌルで気持ちいいネ?」

滑らかな手つきで俺に快感を流し込む。

こんなことされたら……もう自分の手でイけなくなる……!

「なんだかますますヌルヌルだねぇ」

ハナは亀頭から根元までを何度か往復させたあと、そっと股間に顔を寄せた。


「最後はほっぺでグリグリしちゃう……」

「えっ!!」

次の瞬間、もちもちした彼女のほっぺが俺の亀頭を優しく撫で始めた!

すでに手でつかめないほどネトネトになっている亀頭を優しく摩り下ろすハナ。

小さな頭がぎこちなく左右に揺れる。


(こんなこと……これじゃこいつの顔に思い切りぶっかけちまう!!)

彼女を汚したくない一新で祈るように射精をこらえようとする。

だがもう手遅れだ。精液はすでにグツグツ煮えたぎり、発射のときを待ちわびている。

左右の頬を交互に押し当てるハナ。

必死で射精を堪えていた俺に、止めを刺したのはこの連続攻撃だった。

「やばいっ、もう……!!!」

「イイヨ♪ いっぱい出して~」

上目遣いで俺に微笑む彼女と目が合った。

その瞬間、俺の中で緊張の糸がぷちっと切れたような音がした……


「出る、イク~~~~~~!!!」

瞬間的に背筋をそらせる俺。

その分深く彼女の頬に突き刺さるペニス。


どぴゅどぴゅどぴゅ~~~~~~~~!!!!!

「やんっ」

彼女の小さな顔を弾き飛ばすほどの射精の勢いだった。

徹底的に焦らされ、膣の中での射精も許されずの顔射……


「熱い……ほっぺが真っ白に溶かされちゃったヨ!!」

「おれも……溶かされたみた……い……」

彼女のほうを見ると、顔中に精液を浴びた感じではなかった。

射精の瞬間に顔を引いてくれたことになぜかほっとする。


「ハナ、ありがとな……」

「うふふっ、あたしの身体で気持ちよくなってくれたんだ……ヨカッタ♪」

右頬にトロリとした粘液を滴らせながら、ハナは色っぽく微笑んだ。





急に目の前が真っ白になって、聞き覚えのあるハナの声が耳元で聞こえてきた。
それと同時に体を揺さぶられているのもはっきりと感じた。

「ちょっと! 起きてよ~~~~」

少し子供っぽいようなハナの声で目が覚めた。
まだまぶたが重い。

「ん……あ、あれっ? フロは……!?」

「なに寝ぼけてるのよっ、もうすぐあたしたちの出番だよー!!」


周りを見ると、市民総合体育館だった。

どうやら俺はその片隅で居眠りしてしまったらしい。

寝起きでボンヤリしている俺とは対照的に、ハナは慌てている。

何かあったのかな?


「えっと、あれ……まだちょっと」

「もうっ! 次は決勝戦だよ、早く早く~~!!」

「なにっ!?」

そうだ、思い出した。

俺たちはあのあと順調に二回戦と三回戦を勝ち進み、

いよいよ決勝リーグへとコマを進めたんだ。


決勝戦前にわずかでも体力を取り戻すために俺はコートの脇で仮眠を取っていた。

その大事な仮眠で……よりによってあんな夢を見てしまうなんて。

体を起こそうとしても、股間が張り詰めてて体を起こせない。


「ハナはもう行くからね! 早く来てよね」

「ああ、わかった。すぐに追いつく」

正直、彼女が先に行ってくれた方がありがたい。

ハナが登場したさきほどの夢のせいで
俺の息子は興奮しっぱなしなんだから、近くにいられたら収まらない。


(……股間が鎮まったら俺もすぐいくよ。)

心の中でそう呟いたとき、クルリとハナが振り返った。


「それと…………あのね、

 あんまり寝言であたしの名前、叫ばないで」


「なっ! な、なんだって!?」

彼女はなぜか少し照れたような顔でこちらを見ている。

ハナの言葉を聞いた周囲の観客がクスクス笑っている。


「ホントに、恥ずかしかったんだよぉ?」

「…………」


思い当たる節があるだけに俺もドキドキしてきた!

かなりまずい……あんな夢のあとなんだから、
おそろしく恥ずかしいことを口走ってしまったのかもしれない。

さらに俺の不安に追い討ちをかけるハナの一言。

「みんなに聞かれちゃったんだからネ!!」

「な……なあ、ハナ? 俺はなにか……その……何を言ってた?」

急に慌てふためく俺の姿をみて、彼女もクスクス笑い始めた。


「気になる? うふふっ、気になるよね~~??」

「あ、ああ……」


「それ、優勝したら教えてあげる♪」

「お、おいっ! ちょっとまて!!」


ハナはこちらを向いて意味深な笑みを浮かべてから、

俺に背を向けて決勝のコートへと走っていった。













(第一部 了)