学校の帰り道のことだった。
 いつもの通り道に見慣れない女の子が立っていた。

(うわ、きれいな人……)

 それが第一印象だった。
 少し遠い僕の位置からでもわかる大きな瞳。小ぶりな鼻や口元が、彼女の目をますます大きく美しく魅せる。
 そしていかにもお嬢様風のブレザーとチェックの短いスカート。
 紺色のニーソックスとスカートの間の白い肌がまぶしい。
 身長は普通ぐらいだろうけど、全体的に線が細いから背が高く見える。
 肩より少し長い栗色の髪が春の風に揺れると甘い香りがした。

「こんにちは!」

 その彼女が、僕に気づいてにっこりと微笑んだ。
 笑顔がまた素晴らしくかわいい。

 もちろん僕は彼女と初対面だ。こんなきれいな人、一度見たら絶対忘れない。

「えっと……?」

「えぇー! 私のこと、わからないの?」

 彼女は少し怪訝な顔をして僕の顔を覗き込んだ。
 突然現れた美少女に、ジーっと見つめられる僕の心の中に何かが芽生える。

(あ、あれ?)

 この女性は僕のことを知っている。そして僕もたぶん、この人を知っている!?

「私のこと忘れちゃったの……。ひどいなぁ」

 曇っていた記憶が一瞬でよみがえる。


「もしかして……な、奈美ちゃん!?」

「ふふっ、正解〜〜」

 通り雨が過ぎたあとの空みたいにニカッと笑う彼女。
 さっきまでの美少女の印象より、こちらの表情のほうが心地よかった。
 僕の頼りない記憶を元に名前を出してみたが、どうやらビンゴだったみたい。
 この女の子は遠い昔に引っ越していった近所の幼馴染だ。

「久しぶりだねぇ。元気してた?」

 僕の真横に並んで、手のひらを頭の上に乗せて比べる彼女。

「……背はそんなに伸びなかったんだね」

「うっ! こ、これから伸びる予定なんだ」

 久しぶりだというのに痛いところを突いてくる。思わず反射的に反論してしまった。
 もちろんこの先、背が伸びる保証は……ない。

「私、久しぶりにこっちにきたの。色んなお話しよ?」

 突然可愛くなって帰ってきたご近所さんを追い返す理由はない。
 彼女とすっかり打ち解けて緊張感がなくなった僕は、とりあえず自分の家に向かうことにした。




 家に帰るとうちの親がいた。
 久しぶりに元ご近所さんの娘を見て、とても驚いていた(もちろんその容姿を見てだろうが)。
 その後二階の僕の部屋に移ると、うちの親が気を利かせてお茶とお菓子を持ってきてくれた。

「私、二学期の途中で転校しちゃったから卒業アルバム見たいな!」

 僕は彼女のリクエストに答えて卒業アルバムを押入れから探して手渡した。
 その時、僕は大事なことを忘れていた。

「ふ〜〜ん、やっぱりどこも同じような内容だよね」

 その意見に僕も賛成だった。卒業アルバムというのは、一度目を通すと何度も見るものではない。
 それよりも僕はペラペラとページをめくる彼女の横顔を見つめていた。

(何気なく部屋に入れちゃったけど……)

 今頃になって恥ずかしさというか、ドキドキ感がこみ上げてきた。
 そんな僕にかまわずアルバムをめくっていた彼女の指が止まる。
 今まで以上にアルバムの一点を見つめている。
 僕も気になって奈美ちゃんの後ろからそのページを覗く。

(し、しまったぁ!)

 彼女が見ていたのは僕のクラスのあるコーナーだった。「最後に言いたいことは?」というタイトルのそのページにはクラスメイトの色んな言葉がつづられている。

 将来、総理大臣になるっ……とか、ニートにはならないぞ!……とか、本当に取りとめもない内容。
 そんな中で、僕の「言いたいこと」が彼女の目を引いたに違いないのだ。


「転校しちゃった中野さんが好きでした。告白しておけばよかった。大好きでーす!!」

 彼女がパタンとアルバムを閉じた。
 アルバムの中の中野さんていうのは、つまり……今、僕の隣にいる人のことで……
 僕は彼女のことを見ることも出来ず視線を宙に漂わせていた。

 しばらくの間、二人の間に流れる時間が止まっていた。

「卒業アルバムにすごいこと書いたのね」

「い、いやぁ……あの時はもう会えないと思ってたからさ」

 しどろもどろになりながら、なんとか会話を続ける僕。
 頭の中がパニックで、自分が何を言っているのか全くわからない状態。

「私はまた会えると思っていたんだけどな?」

「えっ!?」

「男なら自分の言ったことに責任取らないといけないよね?」

 奈美ちゃんがこちらを向いて、真剣な顔で近づいてきた!
 僕の頬に彼女の頬が軽く触れる。さっき道端で感じた甘い香りが強くなる。


「ね?」

 僕の唇をふさぐように奈美ちゃんはゆっくりとキスをしてきた。
 初めての僕のキスがこんなに可愛くなった幼馴染とだなんて!!
 突然の幸運に舞い上がる僕を見て、密かに彼女は淫らな笑みを浮かべていた。

(ふふっ♪ この人、私のものにしちゃおう)


「ねぇ、女の子とキスしたことなかったの?」

 奈美ちゃんのその言葉で僕はハッとした。
 初めてのキスの余韻と、目の前の美少女の微笑みに骨抜きにされかけていた。

「う、うん……。今のがはじめて……だった」

 人生で一番の恥ずかしさをこらえて、僕は素直に告白した。
 だめだ、目をあわせられないや。その言葉を聞いた彼女の目がキラリと光った。

「じゃあ私がいろいろ教えてアゲる」

 戸惑う僕を上目遣いに見ながら、洋服を器用に脱がせにかかる彼女。
 しかし彼女はというと、まだブレザーを脱いだだけだ。

「男の子は我慢強くないといけないんだよ?」

 あっという間に上半身を脱がされてしまった。
 ピトッ……彼女の指先が僕の首筋に触れる。

「ふあぁっ!」

「うふっ、声を出しちゃだめだよ〜」

 そしてそのまま白い指先は首筋からわき腹まで流れるように舞い降りていった。
 体をピクピクさせながら初めての快感に耐えようとするけど、彼女の指さばきがそれを許さない。
 上から下へ、下から上へ……思いのままに僕の体をなぞる美少女の手。

(な、奈美ちゃんの手が……気持ちいいよぉ……)

 僕は声を出すことを許されていない。
 彼女が言うように男は我慢強くなきゃいけないと思う。
 その思いに縛られた僕の体を、彼女は好き放題にもてあそぶ。

「ふふっ、もうビンビンだね」

 僕はいっそう顔を赤くした。
 彼女が言うとおり、ズボンの下では窮屈そうにしている僕のペニスが解放されることを望んでいた。

「導いてあげる……」

 思いを見透かしたような奈美ちゃんの一言に、自然と僕の股間が反応した。
 カチャカチャとベルトをはずされながら、この先に起こる出来事を期待する。

「ここをこうやって……」

 慎重にトランクスからむき出しにされたペニスを見て、彼女は敏感な頂点に指先を這わせる。
 むずむずとした刺激が沸き起こり、彼女に見られているという羞恥と交じり合って更なる快感へと昇華していく。

クニュクニュクニュクニュ……

「ほらぁ、感じちゃうでしょ? くすっ」

 感じる、なんていう生易しいものではなかった。
 ほんの少しいじられただけで、優しく触れられただけで……僕の心の中が官能に染まってしまった!
 ペニスを優しく包む彼女の指先の動きを見つめると、体の奥底からグツグツと射精したい欲望が湧き上がってくる。

「もっといっぱい我慢してね。思いっきり弾けさせてあげるから」

 僕はもう我慢の限界だった。
 体の中がどんどん溶け出していくかのように熱くなっていた。

「な、奈美ちゃん! も、もう……」

 言葉もうまく口を出ない。それほどまでに僕は彼女の指先の魔術に犯されていた。

「うふふっ、もう……なぁに?」

 彼女は意地悪く微笑むと、今まで触れなかった亀頭の付け根に指を忍ばせた。
 通常、裏筋といわれているその場所は男の急所のひとつだ。
 それをとびきりの美少女である奈美ちゃんがイタズラな顔をして優しく擦りあげている……

「あっ、ああっ……!」

 そのことを僕が認識したとき、絶頂は訪れた。


ドピュッ、プピュピュッ、ドピュ〜〜〜〜〜〜!!!

 今までにない量の精液が、大好きな彼女の手の中で弾けた。
 嫌がる様子もなくその光景を観察する奈美ちゃんを見て、僕は再び射精した。

「うああぁ、また出るっ!!」

 今度は奈美ちゃんの手のひらがクリクリと亀頭をしごいてきた。
 敏感になっているペニスに容赦なく快感を刷り込んでくる。

(こ、こんなのダメだ……くせになっちゃうよぉ…………)

 自分でするオナニーでは到底なしえない快楽を、奈美ちゃんの指で与えられた僕はしばらく身動きが出来なかった。
 僕は情けないことにしばらくの間気を失っていた。




 目が覚めたのは彼女の膝枕の上だった。

「あのね、その……ごめんなさいっ」

 ペコペコと頭を下げる奈美ちゃん。心配そうに僕の様子を見ている。

「あなたがこんなに感じちゃうなんて思ってなかったから手加減できなかったの」

 僕はというと、何とも決まりが悪くて奈美ちゃんの顔を見れなかった。
 久しぶりに出会った幼馴染に男としていいところをみせることなく昇天してしまったのだから。


「僕の方こそごめんね。一人で感じちゃって」

 膝枕から上体を起こして、僕は奈美ちゃんと向かい合った。

「奈美ちゃんの指がものすごく気持ちよくて、何も考えられなくなっちゃったよ」

 素直な気持ちだった。男として情けない気持ちよりも先に彼女の指技をほめてしまった。
 そして口には出せなかったけど、僕はまた彼女にシテほしいと望んでいた。

「許してくれるの?」

 キョトンとした表情の奈美ちゃん。
 元々が美少女なだけに、こうした仕草も抜群にかわいい。
 僕は静かに頷いた。

「やったぁ〜♪」

 許しを得た彼女は満面の笑みで抱きついてきた。
 下半身に力が入らない僕は彼女に押し倒されてしまった。

「私ね、さっきあなたのイくところを見てすごく感じちゃったの」

 耳元で囁く彼女の言葉に、思わず赤面してしまう。
 奈美ちゃんは男を恥ずかしくさせる天才なのかもしれない。

「……だからこれからもエッチさせてね? ふふっ」

 僕は再び静かに頷いた。


(了)