朝からの雨がやんで曇り空になった水曜の午後、学校帰りに俺は「道場」に向かった。
 いかにも古めかしくて汗臭い響きだが、俺の中では一番しっくり来る表現。
 これから向かう先は何かを習得するために通う場所なのだ。
 たとえそれがこんな……メイドやコックなどの使用人が10人以上いるような大金持ちの豪邸でも。

「あっ、おにいちゃんだー!!」

「やあヒナちゃん」

 目の前の大きな鉄門を開けると、そこには大きな洋犬と戯れる少女がいた。
 少女は俺の姿を見つけると、近くにいたメイドさんに犬を任せてこちらに駆け寄ってきた。

「えへへっ♪ いらっしゃいませ~」

「うわっ」

 俺にタックルするように抱きついてきた少女はこの屋敷の次女。西条院ヒナ。
 名門女子校に通っているせいか男の友達が少ないらしく、俺のことを気に入っているらしい。

「きょうも『しゅぎょう』するのぉ?」

「ああ」

 抱きつきながら俺におでこをグリグリと擦り付けてくるヒナちゃん。
 雑誌の美少女モデルみたいにキラキラしたブラウンの髪からいい香りがしてくる。

「ほ、ほらっ! そろそろ離れてくれないかな?」

「イヤ」

 少女は俺の背中にぎゅううっと手を回したまま離れてくれない。

(無理やり振りほどくわけにも行かないしなぁ)

 困り果てている俺の様子を見て、屋敷のメイドさんたちがクスっと笑った。
 こんな可愛い子に抱きつかれること自体は嫌ではないのだが、さすがに恥ずかしい。

「おにいちゃーん♪」

 大きな黒真珠みたいな瞳を輝かせ、俺を見上げてくるまっすぐな視線が眩しい……
 ヒナちゃんは将来きっと今よりも可愛くなるに違いない。

「んっと、美咲センパイは?」

「お姉ちゃん? さっき自分のお部屋にいたよ。なんだか怒ってたみたいよ?」

「うわぁっ……」

 思い当たる節はある。
 この可愛いヒナちゃんのお姉さんである美咲センパイは時間に厳しい。
 ひどく単純なことだが、約束の時間からすでに30分が過ぎようとしていた。
 授業が遅くなったとか言い訳したところで許されるはずもない。

「またおにいちゃん、なんかしたの?」

「なんでもないよ! あはははっ」

「うふふっ、ヒナもいっしょに付いてってあげようか?」

 不安そうな表情から一転して、いたずらっぽい視線で僕を見つめてくる。
 時折見せるこういった仕草は小悪魔的で、さすがに姉妹だけあってよく似ている。

「大丈夫さ、ははは……」

 少し引きつった笑顔を見せながら俺は先輩の居る部屋へと向かった。






 いつものように屋敷の二階に上がる。
 手荷物はこの家の一階にあるクロークで全て預かってもらう。
 階段を上がって、廊下を右に進むと左手に白い両開きの扉がある。 
 ここが美咲センパイの部屋だ。

コンコン。

 できるだけ丁寧にノックする。
 毎度の事ながらこの瞬間が一番緊張する。

「どなた?」

 ノックした先から返ってきたのは上品な令嬢の声。


「センパイ、俺です」

「……入れ」

 しかしその数秒後に返ってきたのは、まるで2オクターブくらい下がった低い声だった。
 とてもじゃないが同一人物とは思えない。


「入ります」

 ヒュッ……!

 部屋に入った瞬間、俺の右頬の脇を何かが通過した。
 そして背後の扉に衝突して、軽い音を立てて床に落ちた。
 チラリと目をやると、それは上品なレースのブラジャーだった。

「遅い」

「スンマセン」

 フランス製の大型ベッドの上には、明らかに不機嫌そうな表情の美女が座っていた。
 この部屋の主、西条院美咲(さいじょういんみさき)その人である。
 ツヤツヤとした長い黒髪を指先でもてあそびながら、少し切れ長の瞳でこちらを睨んでいる。

「私をこんなに待たせるなんて、キミはどれだけ偉くなったのよ」

 今日はフリル付きの真っ白なチュニックとジーンズ姿で、長い脚を組んでこちらをジーっと見つめている。
 シンプルな装いではあるが、彼女の美しさを際立てている。

「見惚れてないで、さっさと支度なさい!」

 俺は慌てて服を脱ぎ始めた。
 この人も昔はさっきのヒナちゃんみたいに無邪気な時期があったのだろうか。


――そして30分後。

 俺はベッドの上から逃れようとして四つんばいの状態になっていた。

「もうギブア……あがあああぁぁ!!」

クチュ……

「なぁに? 聞こえないわ」

 無防備に開いた俺の股間に、真っ白な美咲先輩の指がしのび込んできた。
 同時に、俺の口の中に彼女の人差し指と中指が差し込まれる。

「そんな簡単に勝負を降りられるとでも思っているの?」

 ペットボトルのキャップを開けるような手つきで俺の亀頭を何度も捻りこんでくる。
 亀頭をいじる手つきと同じように俺の口の中の指もうごめく……

「うあああぁぁ」

「勝手に倒れさせないから」

 先輩は自分の足首を俺の膝にフックさせた。
 完全に俺の上にのしかかりながら俺の姿勢を制御してくる。

 耳元で妖しい言葉をつむぎ、伸ばした指先で俺の弱点を優しく舐(ねぶ)る。
 豊かな彼女のバストが俺の背中でつぶれてる。

「さんざん遅刻しておきながらいつもと変わらないじゃない」

 別に自主トレ(=オナニー)して遅くなってきたわけではない。
 純粋に学校の授業がいつもより多かっただけで……

「遅れてきてもおちんちんは早いのね。ほらほらほらっ!」

クチュクチュクチュクチュッ

「あひいいっ、センパイ、もうギブ……です……」

「だめよ、イきなさい」

 観念したペニスに絡みついた細く長い指先が、何度も俺の裏筋を強めにくすぐってきた。


どぴゅどぴゅどぴゅどぴゅ~~~~!!!!

「あっ、ああああああああああ!!!」

「本当にしょうがない子ね」

 射精最中であるにもかかわらず、先輩は俺を責める手を止めない。
 腰の震えが完全になくなるまで彼女の手コキは続く。

(ああっ、また搾られる……!)

 玉袋から根元までを念入りにしごかれ、再び亀頭を手のひらで包み込まれる。
 じわっとした快楽が俺の先端から雫となって現れる。

ニ……チュ……

「はい、今日もキミの負け」

 ようやく美咲先輩が俺の身体を自由にしてくれた。
 俺はまるでフルマラソンを完走したランナーのように疲労していた。
 悔しいがまったくかなわない。
 こっちは息も絶え絶えになっているというのに先輩はまったくの無傷。

「行方不明のキミのお兄さんは、もっとすごかったぞ」

「そんなこといわれても」

 かつて俺の兄とは恋人同士だった美咲先輩。
 実際に兄が西条院家のお嬢様と付き合い始めると聞いたときは信じられなかった。

『どんなふうにナンパしたんだ? 兄貴』

『さあな……』

 俺に対して兄は多くを語らなかったが、すぐにその理由はわかった。
 学校のバトルファック部で名を馳せていた兄は、名門の白百合学園男子部からスカウトを受けて断った。

『女だらけの環境でいいバトルファックなどできるものか!』

 恥をかかされた白百合学園側は、女子部のエースだった美咲先輩を使ってリベンジしようとした。
 当時、2年生でありながら、すでに美咲先輩は公式戦で何度も入賞するほどの腕前だった。
 学園内では文句なしのナンバーワン。俺の兄よりも戦歴だけで言えば上位だった。

 その彼女からの挑戦を兄が受けるなら、間違いなく美咲先輩が勝つだろうし、
 受けなければ兄の通う学校に対して臆病のレッテルを貼ることが出来る。

 だが兄はその挑戦に対して逃げることなく受け、見事に美咲先輩を退けた。

 白百合学園は兄へのアプローチを諦めざるを得なかったが、きっと美咲先輩は諦め切れなかった。
 二人の間はそれがきっかけだったとしか思えない。

(兄貴……いったいどうやってこの人に勝ったんだ?)

 それにしても強い。いや、強すぎる!
 端正な容姿だけでも男を悩殺できる美咲先輩だが、真の強さは先読みの正確さにあると思う。
 どういった責めを繰り出してくるか、事前にわかっているかのようにこちらの技は全ていなされる。
 そして返しのカウンター技は的確に相手の弱点を責め嬲る。

「早くお兄さんに追いつくことね」

 まだ息が整わない俺に向かってそう言い放つと、美咲先輩はシャワールームへと向かっていった。
 現在は公式戦を行っていないとはいえ、バトルファックにおいての女帝ぶりは健在だ。
 西条院美咲を超えることが今の俺の目標なのだ。




 しばらくして手足から快感の痺れが消えたころ、俺はフラフラしながら先輩の部屋を出た。

「またやられちゃったの? おにいちゃん」

 階段の手前には心配そうな表情のヒナちゃんがいた。
 その優しい声にほっとする。

「これ、どーぞ♪」

「いつもありがとう」

 彼女はタオルと精力剤を手渡してくれた。「黒マムシZ」か……今の俺には効きそうだ。


「おねえちゃんも少し手加減してあげればいいのにネ?」

「うっ……」

 不安そうな目で俺を見つめる少女を見て、あらためて自分が情けなくなった。
 確かに俺の兄貴は強かった。
 それは認めるが、美咲先輩の強さも尋常じゃないと思う。
 特にこの二年間でバトルファック選手権を総なめにした気迫はどこから来ているのだろうか。

(先輩、今よりも強かったんだろうな)

 あんまり考えたくないが、とにかくそんな女性が相手なのだ。
 この程度で済んでいること自体が幸運かもしれない。

「でも、おにいちゃんだって弱くないと思うんだけどなぁ?」

 チラリとこちらを見るヒナちゃん。彼女が言うとおり、俺は学校では敵なしだ。
 ただそれはここでの修行のおかげだと思ってる。
 かなわないながらも美咲先輩との修行のおかげで強くしてもらっているんだ。

「今度、ヒナとバトルファックしてみるぅ?」

「ははっ、遠慮しておくよ」

「もうっ、意地悪~~~!」

 俺への挑戦状をあっさり破り捨てられて、ほっぺをパンパンにして膨れる少女。
 もしかしたら美咲先輩と同じようにヒナちゃんも天才的なバトルファッカーなのかもしれない。
 でも万が一、彼女にイかされるようなことがあったとしたら立ち直れない気がした。

「美咲センパイめ、こんなところに付けなくたっていいのに」

 俺は首筋を軽く撫でながら呟いた。


『きょうの罰ゲームは……ここだなっ』

 先ほどの修行のあと、先輩は俺の首筋に強くキスをしてきた。
 当然のようにキスマークが残る。人に見られたくないのでさりげなく湿布などを貼って隠す。
 俺に刻まれた敗北の証。しばらくの間、屈辱的な気分になる。







「まだ身体がしびれてるな……」

 手のひらを握ったり開いたりしながら家路に着く。
 ヒナちゃんにもらった精力剤のおかげで回復した俺は、西条院家からの帰り道にゲーセンに立ち寄った。

 最近、オンライン対戦できる格闘ゲームにハマっている。
 不用意に打撃を繰り出そうとすると手足をつかまれて投げ飛ばされるあたり、バトルファックに通じるものがある。
 どんな勝負でも先読みは大事だ。
 頭の中でそんなことを考えながらプレイを重ねているうちに、俺は日本中で10本の指に入るほどの腕前になっていた。

 このゲームに関しては、普通の腕前では絶対に俺には勝てない。
 昨日は18人連続で挑戦者を退け、勝ち続けた。
 最後のほうは面倒になって、わざとゲームに負けて店をあとにした。

 淡々とゲームを進めながら、ふと考えをめぐらせる。
 今日に限らず何度も考えていることではあるのだが……


――俺の兄貴はどこへ行ったのだろう。


 行方不明になってから、かなりの時間が経っている。
 死んでいることはないのだろうが、無事なら便りが欲しい。

 幼い頃に両親が他界してからというもの、俺は兄貴に徹底的に甘えてきた。
 幸い両親が残してくれた保険金があったのでお金に困ることはなかった。

 しかし、それでも兄貴にとってはプレッシャーの毎日だったに違いない。
 保険金を狙って近づいてくる親戚を追い払い、甘えてくる俺を養い……

 兄貴のおかげで今日も普通の一日を送っているが、俺もそろそろ自立しなくてはいけないと思う。

 そのために早く一人前のバトルファッカーになる必要があるのだ。
 セックスが絡んだギャンブルは景気の良し悪しに関係なく人気が高い。

 今の時代、手っ取り早く稼ぐにはこれが一番だ。



「とりあえず3連勝……っと」

 挑戦者が現れたのでオンライン対戦をはじめてみたものの、まったく歯ごたえがない。
 あんまり強い奴が居ない時間帯だったので、適当に負けてやったりしながら結局は自分が勝つようにゲームメイクする。
 せっかく3ラウンドもあるのだから相手にも楽しませてやらないといけない。

 結論から言えば、今対戦している相手は弱すぎる。
 あっさりと3ラウンド目を制してから画面に向かってため息を吐いた。

 今日は強い奴と会えるといいのだが。
 軽く諦めかけていたとき、次の挑戦者が現れた。


「ほう、チュン・レイ使いか」

 挑戦者が選んだのは中国人格闘家。
 美少女格闘キャラの代表みたいな存在。
 初心者向けで、動きは速いが攻撃パターンが読みやすいのが特徴だ。
 ちなみに俺は今までの対戦で負けたことはない。


しかし……

(まじかよ! こいつ、つよい!!)

 キックとパンチが主体の攻撃だが、そのへんのヘタクソが向かってくるのとどこか違う。
 巧みにフェイントを織り交ぜてくるのでリズムが全く掴めない。

 最弱と揶揄されることもあるチュン・レイ使いでここまで俺を追い込んだ奴は今まで居なかった。
 辛くも俺は1ラウンド目を制した。だが体力ゲージが残り少ない。

 そして気を取り直しての2ラウンド目。
 さっきまでの油断など払拭したつもりだったが、俺のキャラがチュンレイの猛攻にさらされる。

 オープニングヒットを狙って繰り出したキックをあっさりと掴まれ、軸足を払われた後に追撃の膝落とし。
 この時点で体力のゲージが緑から黄色に突入する。
 そして起き上がったところを間髪いれずに連続コンボ。
 全部防御したはずなのに途中でテンポをずらされて滅多打ちにされてしまった。

 鮮やかな相手の攻撃に舌を巻いた。
 こいつは最近ではお目にかかれなかった好敵手だ。
 勝ったり負けたりしながらその相手と数回プレイを重ねる。
 やればやるほどこいつの強さが伝わってくる。
 テクニックの底が見えない。

(こんなやつ見たいことない! 何者だ?)

 ちらりと画面の端のエントリー先を見ると、なんと相手プレイヤーは俺と同じ店にいるとわかった。
 すばやく立ち上がって店内を見回すと、見たことのある顔ばかりだった。
 こいつらの中にこれほどの使い手はいない。俺は黙って着座した。

 気を取り直して再プレイする。しかし勝てない。
 今度はあっさり2連敗してしまった。

 その時、画面の中のチュン・レイが笑った。一瞬見間違いかと思ったがはっきりと表情が変わっている。
 男を見下すような妖艶な表情、とでも言えばいいのだろうか。

(こんなことはありえない……なんだこれは!?)

 不審に思った俺は席を離れようとしたが、今度は身体が動かない。
 あせる俺の頭の中に女性の声が響いた。

「お前はなかなかの腕前だ……こちらに引き釣り込んでやる」

 画面が白く光った気がした。俺の意識が急激に遠のいていく。







「なんだこれは……」

 閃光に包まれた俺が目を開くと、そこは闘技場だった。
 見覚えのある光景。周囲の観客が見守る中、俺は目の前に立っている人物を見つめた。


「ようこそ、強きものよ」

 目の前には女戦士がいる。
 チャイナドレスをアレンジした稽古着とキリリと結んだ髪。
 170センチ近いスレンダーな体型。
 見慣れた衣装、まちがいなくチュン・レイそのものだ。
 しかしその顔はゲームのキャラよりも美しかった。


「さあ、はじめましょう!」

 これもチュン・レイのセリフだ。
 いつもと違うのは俺自身がこの世界に入り込んでいることだ。


「夢なのか……?」

「ちがうわ」

 ふいにチュン・レイが微笑んだ。

「あなたには戦うしか選択肢はないの。元の世界に戻りたければね?」

 いつもは画面の外から眺めるしかない世界にいきなり放り出され、戸惑う俺に向かってチュン・レイは言う。

「どういうことだ?」

「ここは虚構と現実の境界にある世界。でも今のあなたにとってはまぎれもない現実よ」

「…………」

 彼女が言うことは今の俺の状況なら納得できる。
 頬を自分でつねればそれなりの痛みがやってくることだろう。
 そんなことは俺だって気づいている。だが信じたくない。
 夢ならさっさと醒めてくれ。

「とにかく、お前を倒せばここから出られるんだな?」

「おそらくそうなるわね。無理だけど」

「……なんとか見逃してくれないか?」

「そうもいかないわ。せっかくの獲物ですもの♪」

 あっさりと交渉は決裂した。
 ニコニコ微笑みながらもこちらの申し出を却下する中華系美女。
 どうあっても、こいつを倒さないと元にもどれないようだ。

(だがどうやって?)

 だいたい触れることは出来るのだろうか。
 目の前のチュン・レイを「倒す」方法がわからない。

 黙り込む俺に向かって彼女は言った。

「念じるの。いつものあなたの姿を」

「おれの?」

「この世界でのあなたの姿よ。今のあなたでは、私と戦えないですもの」

 迷っていても先に進めないので相手の言葉に従うことにする。
 俺は黙って目を閉じた。

 そしていつも使っている男性キャラ……回し蹴りの達人である格闘家をイメージした。

「うううっ!!」

「そう、上手ね」

 イメージしている間、身体の奥から力があふれてくるのを感じた。
 チュン・レイの声を聞いて目を開けると、身体つきと服が劇的に変化していた。
 腕には見慣れたリストバンドがあり、拳も格闘家らしくゴツゴツしている。
 それに身体が軽い。

「さあ、はじめましょう!」

 俺の背後で大きな銅鑼が鳴り響いた。
 いつもの戦いの合図だ。



「ハッ!」

 チュン・レイは風のような速さで俺との間合いを詰めると、掌打を放ってきた。
 慌てて左腕でガードするも間に合わない。
 俺の腕にインパクトする瞬間、彼女の手が光り輝いた。

ドンッ

「ぐあああっ!!」

「どう? 痛いでしょ」

 まるで左の腕が焼け付くような感覚。信じられない痛みだった。
 ガードせずにこの打撃を腹部に食らっていたら悶絶するのは間違いない。

「さっきまでと違ってリアルに感じるはずよ」

ボヒュッ

 チュン・レイの追撃の左回し蹴りをかわす。
 しかしさらに続くチュン・レイの3段蹴りをガードさせられてしまった。

「ガードしても痛いでしょ?」

 蹴りをブロックした腕に重い衝撃が残る。
 ダメージを逃がすためのほんの少しの時間だけ、身体が硬直する。
 そのわずかな隙を突いて、間合いを詰められてしまった。

「えいっ!」

 さらに俺の手首を掴み、数メートル先に投げ飛ばすチュン・レイ。
 硬い地面に背中から叩きつけられてしまった。

「がああっ!!」

「こうやって投げられれば呼吸も乱れるわ」

 倒れた俺に向かって跳躍するチュン・レイ。
 このままだと鳩尾にニードロップが決まる。

(起き上がらないとやられる!)

 頭の中に技を食らったときの痛みをイメージした瞬間、身体が自然に動いた。

 素早く身体を横に捻り、追撃を回避する。
 さらに起き上がりざまにカウンターの脚払いを放つ。

「やるわね」

 俺のカウンターは不発に終わったが、チュン・レイの顔から余裕が消えた。
 さっきよりも速い突きを何度も繰り出し、時折キックも織り交ぜてくる。
 一度投げ飛ばされたおかげで、俺は冷静さを取り戻していた。

 ここはゲームの世界。
 それなら想像力が優れているほうが勝つはず。


「当たらない!?」

 激しさを増すチュン・レイの攻撃も、いつもの自分なら全部余裕でいなせる。
 彼女の行動パターンを思い出す。
 おそらく次は……右のハイキックがくる。
 予想通り放たれた右ハイキックをかわして、俺は左脚でローキックを放つ。
 イメージしたとおりに身体が動く。さっきまでとは全然違う感覚。


「もう使いこなせているの? その身体を!」

 自分で思い描いたとおりにこの身体は動いてくれる。
 敵の攻撃もリアルに感じる分だけ読みやすいし、キー操作をしない分だけ先手を取れる。

 少しずつ俺の手数が増え、チュン・レイは受身に回りだした。

「だんだん速くなって……いくなんて!」

 キックとパンチのイメージに投げ技や掴み技も織り交ぜる。
 頭で考えたままに身体が動いてくれるのだから、速くて当然だ。
 俺の頭の中から試合開始当初のぎこちなさは完全に消えていた。

「しかもまだ……速度が上がるなんて!?」

 防戦一方となったチュン・レイの隙を突いて、チャイナ服の襟を掴んで地面に叩きつけてやった。
 そしてダウンした相手の顔面に拳を振り下ろす。

ドガッ

 チュン・レイは俺の拳を両手をクロスさせて防いだ。
 ガードした腕の隙間から彼女の笑みが見え隠れした。

「さすがに強いわね。それに飲み込みも早い」

「それはどうも」




 馬乗りになったまま、俺は自分の真下にいる美女をにらみつけた。
 この体勢なら追撃はいくらでも可能だし、腹筋を使って彼女が俺を跳ねあげることも不可能だ。

 だがチュン・レイは抵抗するでもなく、むしろ自分から両手を上に上げて大の字になった。

「ここからが本当の勝負よ」

「なんだとっ……!」

 組み敷いた相手から想定外の挑発。
 チャイナドレス風の衣装の隙間からチュン・レイの白磁のような肌が見え隠れする。

「格ゲーの女性キャラを犯してみたいとか……考えたことは無い?」

 少しあごを引いたチュン・レイは上目遣いでこちらをじっと見つめてくる。
 普通にゲームしている中では決して見ることの出来ない表情に思わず見とれてしまう。

「そんなことは……」

「あって当然よね。男の子だもの」

 彼女の手が俺の手を握り、豊かなバストへと導いた。
 指先に確かに感じるのはしっとりとした質感の双丘。

「……エッチね」

「違うっ!」

「あら、恥ずかしいの?」

 艶やかな唇の端をかすかに吊り上げ、ニヤリと笑いかけてくる。
 俺の目を見つめたままチュン・レイの細長い腕が俺の股間へと伸びてきた。

「初めてというわけでもないでしょう? さあ……」

「う……ああぁぁ……」

「ほらぁ、つかまえた♪」

 ニュル、とした音が聞こえそうな気がした。
 ほっそりとした彼女の指先が俺の亀頭を包み込む。
 親指はそっと添える程度に、人差し指と中指がペニスの形を確かめるようにクネクネとうごめく。

「優しくしてあげるね」

くちゅくちゅ……


「んああっ!」

 粘液に包まれたチュン・レイの指先がカリッと裏筋を引っかく。
 そのあまりにも優しい手つきに悶絶する俺。

「体力ゲージを削ってあげる。ここがいいの?」

 少し目じりを細めて、おいでおいでをするような手つきでペニスを愛撫してくる。
 片手に感じるチュン・レイのバスト、下から見上げてくる挑発的な視線と股間を蝕む淫らな手淫。

(腰に力が……くううぅ……)

 たまらなくなった俺は思わず彼女の衣装に手をかけた。
 その行動を予想していたかのようにチュン・レイは微笑んだまま俺の様子を窺っている。

「いい感じよ。すごく上手……あ……」

 あらわになった豊かなバストを揉みながら、片方の乳首に口付けをする。
 うっすらと汗を含んだ女性の香りが頭の中に広がってくる。
 さらに手を動かしながら、口に含んだ桃色のつぼみを軽く歯で擦ってやる。

「そんなに強く揉まれたら痛い! ……でも、気持ちいい……はぁっ!」

 フルフルと首を横に振ってチュン・レイが快感に身悶えしている。
 先ほどまで俺を悩ませていた甘い刺激にも慣れてきた。
 股間に伸びた彼女の手の動きも緩やかに感じる。

「ひいいっ!!」

 さっきまでのお返しとばかりに俺は片方の手を相手の股間に忍ばせた。
 その指先がズプッとぬかるみにはまる。
 彼女の秘所は、すでにグッショリと濡れていた。
 乳首をもてあそびながら同じように股間をいたぶってやると、すぐにクチュクチュと水音が聞こえてきた。

「ひっ、あああああぁぁ……!!」

「ずいぶん感じやすい身体だな」

 完全にペースを握った俺は冷ややかに彼女を挑発した。
 身悶えしながらもこちらを恨めしそうに見返してくるチュン・レイ。

「あなたのこと、甘く見ていたわ……少し本気出してあげる」

 その時、一瞬だけチュン・レイの目が光った。


(なっ……?!)

 パリっと小さな電流が身体に流れた気がした。俺の手の動きが止まる。

「うごけないでしょう?」

 スルリ、と俺の拘束から抜け出すチュン・レイ。そのまま動けない俺の背後に回りこんできた。

「よくもやってくれたわね?」

 金縛りにあったように俺は動けない。まばたきはおろか、指先すら満足に動かせない。
 チュン・レイは無防備な俺の背中を抱きしめてくる。

「うう……」

「ごほうびをアゲル」

 むにゅ、と背中で彼女の胸がつぶれるのを感じる。
 さらにペニスがそっと両手で包まれた。

「こうすると良かったわよね?」

 再び股間に広がってきたのは忘れかけていた魅惑の手淫だった。

「うっ、あああぁぁ!!!」

 先端部分を5本の指先が這い回りネチャネチャとこねまわされる。
 棹の部分はもう片方の手で捻りこまれていく。
 断続的に俺の背筋を通過するのは、あわ立つような快感。

「もうパンパンにしちゃって……クスクス」

「いったい何をしたんだ!?」

「フフッ……さあね?」

 じわじわと繰り返される指の動きは確実に俺を射精へと導いていた。
 女性に背後から抱きしめられた状態での一方的な愛撫に追い詰められる屈辱。

「そろそろ食べてあげる」

 チュン・レイは悠々と俺の身体を横たえると、ぺたんと尻餅をつくように馬乗りになってきた。
 そして軽く腰を上げると、いきりたった俺自身を秘所にあてがった。

「挿入れる直前に呪縛も解いてあげるわ」

「呪縛……だと!?」

「あなたの身体を極限まで敏感にしてあげるわ」

 硬さを確かめるように何度か指先でペニスを弾く。
 そして勝ち誇った視線をこちらに送ってから、一気に腰を沈めた!

「ほら、イきなさい……しっかり見ててあげるから!」

じゅぷっ

 すっかり熱くなっていたチュン・レイの膣に吸い込まれるペニス。
 その内部に飲み込まれた瞬間、金縛りが解けた。
 だが代わりに体中が快感に支配され、激しくくすぐられたような感覚が波紋のように広がった。

「うわあああああああああああぁぁぁ!!!」

どぴゅどぴゅどぴゅどぴゅ~~~~~!!!


 奥に到達するまでもなく、挿入した瞬間にやってきた射精。
 しかも射精した感覚がまだ続いて、快感が落ち着かない。

「まだ出せるでしょ? ほらぁ」

「あう……」

 身悶えする俺の肩を押さえ込んだまま、チュン・レイはゆさゆさと身体を揺らす。
 膣に収められたペニスがピクピク震えるタイミングにあわせて、何度も優しく締め付けられた。

「どう、この動き。天国でしょ?」

「もうやめ……」

「やめるわけないじゃない。もっと動けなくしてあげる」

 少し強めにキュウキュウと膣を締め上げてから、彼女は体を起こした。

「こうやって片足を持ち上げられたら……どう?」

 いわゆる「松葉崩し」の体勢。ただし男女の位置が逆だ。
 格闘ゲームの女子キャラを犯しているはずだったのに、いつの間にか……

 これは女性に犯されていると錯覚させられる体位だ。
 チュン・レイは俺の反応を楽しみながらペニスを膣から引き抜いた。

「片手で搾ってあげるわ」

「ひっ……」

ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅッ

ジュプッ、ジュプジュプジュプジュプ

 すっかりヌルヌルになったペニスを掴み、激しく上下にしごきあげる。
 膣の中よりも直接的で荒々しい刺激が俺の体中に広がって一気に追い詰められてしまった。

「あああああああっ、もう!」

「はい、二回目……」

 ビクビクと背中をのけぞらせる俺を見ながら、チュン・レイはペニスをしごく手つきを緩めた。
 それは決して手加減したわけではなく、巧妙な手コキの罠……こうされると男は最後の一滴まで女性の手の中に捧げてしまうのだ。

「今度は早かったね。クスクスクス」

 さっき出したばかりなのでさすがに量が少ないが、巧みな手コキのおかげで玉袋を空っぽにさせられた気分だ。

「く……そ……」

「あと2回くらいかしら」

「え……?」

 精液まみれになった指先をピッピと振り払うようにしながらチュン・レイがつぶやいた。

「あなたの精神をこちらの世界に縛り付けるまでの射精リミット」

「どういうことだ!?」

「あと2回の射精でおそらくあなたは戻れなくなるわ」

 確かに身体の感覚が鈍い。
 射精したあとのほうがさらに快感を求めて敏感になっていく気がする。
 まるで自分の身体が自分のものではなくなってきているように思える。

(ここはいったん逃げたほうがいい……)

 しかし逃げ出そうにも連続射精のおかげで手足が言うことを聞かない。
 これでは簡単に捕まえられてしまう。

「さあ、もう一度出しましょうね?」

 息を切らせる俺の上に再びのしかかるチュン・レイ。
 二度の射精を経て小さくなったままのペニスにぴったりと膣口を押し当ててきた。

「このまま大きくしてあげるわ」

 ゆっくりとした腰の動き。その淫らなリズムをペニスに刻みつけられる。

「ああ……また……!!」

「大きくなったらそのまま飲み込んであげる」

 やばいとわかっていても、再び快感がわきあがってくる。
 勃起した瞬間に彼女に飲み込まれ、また射精させられてしまうというのに!


「出せば出すほどあなたは薄まっていくの」

「い、いやだ……!」

「この世界でしか生きられなくなる。それもまた素敵じゃない?」

 柔らかな腰の動きのせいですでにペニスは半立ちになっていた。
 頭では負けることを拒否しているのに体がいうことを聞かない。
 もはや力が入らず、相手のなすがままにされるしかないのか……

「うっ、ああ……くそっ、くそっ!!」

「悶えちゃって可愛い。ほらぁ、抱きしめてあげる」

「やめ……」

「あら? もうすでに先を越されていたみたいね」

 チュン・レイは上体を前に倒して首筋にキスしようとしてきた。
 ちょうどこの世界に来る前に美咲センパイにキスされたところ見つけたようだ。

「まあいいわ。ここに重ねてあげる」

 美咲センパイのキスマークにそっと口づけするチュン・レイ。
 そのぽってりとした唇が首筋に触れた瞬間だった。

「んっ♪……ん、んんん!! きゃあああああああああああああ!!!!」

 突然、センパイにキスされた場所が光を放った。
 とっさに離れようとするチュン・レイ。

「あなた!! 聖印をもっていたの!?」

「セイ……イン……?」

 キスされた場所からまばゆい光があふれて俺の身体を包み込んだ。
 その効果なのだろうか……快感に支配されかけていた感覚がリセットされた。
 体中を駆け回っていた淫らな痺れが吹き飛んだ。

 逆にチュン・レイは苦しそうな表情をしていた。

「しかもこの印は……強い!」

 ふいに彼女の顔に亀裂が走る。
 亀裂が入った箇所からパリパリと電流が滲み出す。
 チュン・レイは自分の姿を保つことが出来ずに崩れはじめた。
 時間にするとほんの数秒程度だったが、完全にチュン・レイの姿は空間に飲み込まれてしまった。

『遊びのつもりでDクラスのボディしか装備してこなかったのが災いしたか』

 その様子を呆然と見つめていた俺の後ろで声がした。
 振り返ると真っ赤な髪をした美しい女性が立っていた。
 どこか先ほどまでのチュン・レイと面影が似ている気がした。

『今日のところはそちらの勝ちだ。』

「なんだお前は……!」

『我が名はリルージュ。次に会うときは必ずイかせてやる。』

 そういった後に赤髪の美女が俺の顔の前に手をかざした。
 目の前が真っ白になり俺は――――




「う……」

 気がつくと俺はゲーセンにいた。
 何事もなかったかのように周囲の連中はゲームを楽しんでいる。

(美咲センパイに助けられた……のかな?)

 はっきりと覚えている。あれは決して夢などではない。
 俺はとりあえず西条院の家に向かうことにした。




第一話 了。

(続けるかどうか未定)