男は自室からぼんやりと窓の外を眺めていた。
冬の始まりを予感させるような冷たい空気が部屋の中に入り込んでくる。
それでも男は何かを待ち焦がれているかのように夕暮れの空を見つめていた。


最近ルカに会ってない。


男の頭の中にはそのことばかりが繰り返していた。
ルカというのは彼が眠りにつくとしばしば現れる美少女のことだ。
世間一般では「悪魔」ということになるのだが、彼にとってはかけがえのない存在だった。




「ちょっと留守にしますよ、お兄さん」

黒翼の美少女が旅立ってから半月が過ぎていた。
ある晩、たっぷりと搾られて眠りにつく直前にルカは男にそう告げた。
行為の後の極度の疲労と脱力感のせいで、男はルカの行き先を問いただすこともなく気を失った。
今になってはそのことが悔やまれる。


外では子供たちがクリスマスの飾り付けをしていた。
本番はまだ一ヶ月先だというのに、無邪気な姿がまぶしい。

「クリスマスまでには戻ってくるのかな」

まるで遠くにいる恋人を求めるかのような一言が男の口から漏れる。
愛しい少女のことを考えながら男は浅い眠りについた。








「お兄さん、お兄さん」

聞いたことのある少女の声で男は目覚めた。
どうやらあのまま少し眠ってしまったらしい。
外はすっかり夜になっていた。

フワッ…………

月の光に照らされたシルエットには見覚えがあった。
風が少し強く吹いて、長い髪が揺れる。
影が揺れるのと同時に懐かしい香りがした。


(ル、ルカ…………?)

寝起きのけだるさを振り払い、男が必死で目を開くとそこにはルカがいた。
まるで夢のような光景に男は歓喜した。
しかし体が動かない。
男は自らの肉体の異変にすぐに気づいた。

待ち焦がれた美少女が目の前にいるのに声が出せない。
それだけでなく、あわてて飛び起きようとしたが体の自由が利かない。
意識はしっかりとしているのに手足が動かせない。


「久しぶりですね、お兄さん」

ベッドに腰をかけて振り向くような姿勢で微笑むルカ。
男が待ち望んでいた美少女が目の前にいた。
ルカの細い指がパチンと音を立てると、突然男の体に自由が戻った。


「私がいない間はいい子にしてましたか?」

「ルカ!いきなりいなくなって、突然戻ってきて……」

「ちょっと魔界で研修がありましてね。いろいろ学んできたんですよ」

ルカの話によれば、普段は人間界に潜伏して精を奪うことに専念している淫魔も、数年に一度は定例会のようなものがあるらしい。
そのことをルカはたまたま忘れていたので、この間は男を搾ってすぐに魔界に旅立ったという。


「研修のおかげで私の魔力が飛躍的に高まったんですよ」

見た目は半月前の彼女と変わりないように見える。
ルカの目が一瞬だけ真っ赤に染まると、上体を起こしていた男の体がガクッと折れてベッドに沈んだ。


「その成果をお見せします。さっきみたいにお兄さんの体、動かせなくしちゃいました」

「なっ!」

「身動きできないまま嬲られるのがお好きでしたよね?」

崩れ落ちた男の体をベッドの上で整えながら、ルカはそっと彼の耳に顔を寄せた。
そして早口で何かを男の耳元でささやいた。


「はあああぁぁ……な、なんだ!?」

「お兄さんには皮膚の感度を高める呪文をプレゼントしちゃいます」

小鳥がさえずるようなルカの呪文が終わると同時に、更なる異変が男を襲った。
腰の辺りが熱くなりムズムズしてきた。
まるで全身をくすぐられているかのような焦燥感。
体中の感覚がどんどん研ぎ澄まされていく。


「今度は声は奪いませんでした。お兄さんの喜びの声が聞きたいから」


ツツツー……

ルカの指先が男の胸元をすべり、乳首を軽くこすった。


「うああっ!!」

細い指先が乳首をかすめただけでこの快感。
なぜかいつまでも甘い痺れが残っている。

ふとルカの手元を見ると、いつの間にか黒い手袋がはめられていた。


「気づきましたか。この手袋、お兄さんのために苦労して手に入れたのですよ」

見た目はレース編みのような薄い手袋なのだが、なぜか非常に手触りがよい。
普段よりも長く続く甘いしびれに悶絶する男を見下しながら、ルカは両手の指を男の体中に這わせてきた!


「どうです、お兄さん?すごく気持ちいいでしょう」

ルカの両手が左右対称の動きで乳首からわき腹へと滑る。
男の意思を無視してゆっくりと両足が開いていく。

「恥ずかしい格好ですね。でも可愛い……」

丸見えになったペニスを見つめながら、その周辺を黒いレースの手袋越しに愛撫するルカ。
太ももの内側をなぶられるとジンジンとした痺れがペニスへと伝わってゆく。
不思議なことに男はまだ上半身を這い回る指の感触を振り払えないでいた。
そこへさらに上積みされるように下半身に刺激が送られているのだ。


「ふあぁぁっ!なんでっ、こん…なあぁ」

「この手袋に淫気を通すと、相手に与えた快感が一定時間継続するのです」

指先で犯されるという表現がぴったりなほど、男は体中をルカに蹂躙されていた。
魔法の手袋の威力とルカの性感テクニックの相乗効果で男はあっという間に射精直前まで追い込まれた。
無造作にうごめく指先は決して彼の股間に触れることはなく、残酷なまでに性感だけを高めていく。


「ひっ!はぁっ……あああはぁぁ!」

「もうまともに言葉も出ませんか。ふふっ」

全身をヒクヒクさせながら快楽に抗う男の顔を楽しげに見つめながら、ルカは少しずつ指の動きを緩めていった。
そしてかろうじて意識をつなぎとめている男に見せ付けるように優雅に衣類を脱ぎ始めた。

「もっと興奮させてあげますよ」

今まで幾度となく見てきたルカの体だが、今日はいつもよりきれいに見えた。
ほんの少し会わないだけでこんなにも胸が高鳴っている自分に、男は戸惑った。

裸になったルカはベッドに上がると男の顔をまたいだ。
さらに体を反転させてシックスナインの体勢をとる。

「はいっ」

ピチャリ。


「んんんんんー!!!」

すとん、と腰を落としてルカは男の顔に自らの秘所を擦り付けた。
そして8の字を描くように淫らな香りを丁寧に刷込む。


「あふぅ…良かったら吸ってもいいですよ、おにいさん」

もちろん自分が楽しむことも忘れない。
両膝で顔を挟まれるような体勢がさらに男を興奮させる。
ルカの香りを吸い込んだ男のペニスがビクンと大きく震えた。

「ふふっ」

その反応を見ながら少しだけルカが腰を上げた。
ちょうど男の鼻先から数センチ離れたところで位置を決める。

「お兄さんに私のジュースを少しずつ分けてあげます」

男の目が無理やりルカの艶やかな淫肉に向けられる。
しかしまったく身動きが取れない。
男はそのもどかしさに悶えた。


(あああっ、ルカ……ルカッ!)

魅惑の美少女の秘所が目の前にさらされ、時折ペニスを求めるかのように震え、わなないている様子は男をさらに興奮させた。


ぽたっ

焦る男の鼻先に何かしずくが落ちてきた。


ぽたぽたっ

今度は唇の端に……男が思わず舌を伸ばして味わってみると、それはとても甘い液体だった。
この味には覚えがあった。
少女が精製する禁断の甘い媚薬。


「私の味を思い出してくれましたか?お兄さん」

魔力で体の自由を奪われた男は顔面騎乗されながらルカの淫らな点滴を受け続けた。
まったく手を触れていないのにルカの目の前で男の股間がムクムクと膨らんでいく。


「うれしいですよ、おにいさん。こんなに」

男の怒張を小さな手のひらがそっと包み込む。
クチュリ、という音と共にカリ首がゆるゆると撫で回される。

「はううぅっ」

細い指先がサワサワと亀頭をくすぐり、男を喜ばせた。
余裕たっぷりの表情でルカは男を見下していた。


(もうイっちゃいそうですね?おにいさん。)

少女の淫らな視線は男の恥辱を煽るのには十分すぎた。
ルカは少し腰を沈めて片手で男の股間を責め立てていた。

まったくペニスのほうへは目もくれず、ルカは真上から男の表情をじっと見つめていた。
そのことが男をさらに高めていく。

「この手袋の感触はいかがですか」

裏筋とカリ首を優しく愛撫されながらの問いかけに男は喘ぎながら首を縦に振った。
その様子に満足げなルカ。

「そろそろ遠隔操作にしちゃいましょうか」

しゅるっ

ほんの少しの衣擦れの音。
ルカがゆっくりと魔法の手袋から手を抜き取る。
しかし、ルカの手が離れたにもかかわらず手袋は先ほどと同じように亀頭周辺を撫で回し続ける。


「あっ、うわあぁっ!なんで!?」

ルカに撫でられているのと同じ感触で愛撫は続けられていた。
そこへ自由になったルカ本人の、真っ白な指先が男の乳首をひねり上げた。


「私の手が増えたみたいに感じるでしょう、おにいさん」

手袋のペニス愛撫と本体の上半身責めに男は喘いだ。
さらにルカは男の背後に回りこみ、男の耳元でささやきながら乳首やおへそを責め続ける。

「こうすると手の動きが良く見えるでしょう?」

ルカの言うとおりだった。
淫らにペニスをこね続ける手袋と、真っ白な美少女の指先の動きに男は魅了されてしまった!


「も、もうっ…ああああぁぁ!!!」

「イっちゃいますか、おにいさん」

少女の声が頭の中でこだまする。
体と心の両面を少女に犯されながら、男はつま先に力を入れて抵抗していた。


「踏ん張っても無駄ですよ…んん~」

ルカが耳元に舌先を伸ばしてきた。

ジュプリュッ!!

男の左耳の穴にルカの小さな舌先がねじ込まれた。



(男の人なのに私に穴を犯されちゃいましたね?フフッ)

心の中にルカの声が染み込んできて、男はとうとう絶望の声を上げてしまった。


「ああああぁぁぁぁ、イ、イイ、イクッ!!」


「ずいぶん溜めてたんですね、おにいさん」

体全身をルカに預けるようにして、男は何度も何度もビクビクと痙攣した。
2週間分ではきかないくらいの精力をたった一度の射精で少女にもぎ取られる。

「私のためにこんなに出してくれちゃうんですね」

ルカは丁寧に男を搾り続けた。
痙攣が治まった後もじわじわと棹をしごいて最後の一滴までも奪い取った。
恍惚感と脱力感の中で男は気を失った。







「お兄さん、お兄さん」

ゆさゆさと体を揺らされ、男は重いまぶたを開けた。
はじめに起こされたときと違って夢魔の拘束魔法は解けている。
しかしまぶたと指先しか動かせない。
半月ぶりに味わうルカの搾精によって男の肉体は極限まで疲弊していた。





「良かった。やりすぎちゃったから本気で心配しちゃいましたよ」


んちゅ…………


突然男の唇をふさぐルカの優しいキス。
そこにはいつものように技巧を尽くした舌の動きや催淫効果のある唾液などはなかった。
しかし小さな唇を通じて充分すぎるほどの自分へのいたわりを感じることができた。
本当に申し訳なさそうな顔でルカは男の顔を覗き込んでいた。

「もう大丈夫だよ」

脱力感にまどろみながらも精一杯の笑顔をルカに返す。
ほんの少しでも彼女を悲しませたことを申し訳なく思った。


「これ、お兄さんにあげます」

ルカは男の笑顔に安心したのか、笑顔を取り戻した。
そしてリボンのかかった小さな黒い包みを男に手渡した。


「これ……は?」


「誕生日、明日ですよね。だからおめでとうございます」

戸惑う男を見つめながら、ルカはいたずらっぽく微笑んだ。
もらったプレゼントを慌てて開けてみると、中にはルカが自分のために選んだであろう茶色い手袋が入っていた。


「これを僕に?」

ルカは黙ってうなづいた。
男はありがとうを言う代わりに目の前の少女を抱きよせた。


「お兄さん、もしかして私のこと好きになっちゃいました?」

少し照れながら問いかける夢魔の少女を、彼はさらに強く抱きしめた。
もしこれが淫魔の魅了魔法でもこのまま彼女に堕ちてしまってもいい……男はそう考えていた。

しばらくそのままの姿勢で男の抱擁を受け入れていたルカが、ゆっくりと顔を上げて男を見つめた。


「夢魔を本気で好きになっちゃうような不埒なお兄さん」


すうっ……

ふんわりと両手で男の顔を挟んだルカは再び熱いキスを男にプレゼントした。
今度はピチャピチャという粘液の流れる音が周囲に響いた。
甘い唾液を飲まされた男はうっとりとルカを見上げていた。

「これからもずっと私が搾ってあげますね」

月の光に照らされたルカの笑顔は、男が今まで見た中で一番美しかった。









(了)