あまりにも甘美なサラの申し出。
思わず心が折れてしまいそうな陶酔感の中、僕は故郷の彼女を思い出した。
そもそも今回の任務を受けた理由は、その報奨金の多さからだった。
僕の育った村は貧しい。
毎月何人かは飢えのせいで体を悪くしているんだ。
王様と交渉して村が困らないだけのお金を先払いで支払ってもらった。
ただし、僕は生きて帰れるかわからない。
それほど危険な依頼だったのを理由に王様は先払いを許可した。
「リコス、やっぱりやめとけ!」
泣きながら僕を止める母親。黙ったまま動かない父親。
その他多くの故郷のみんなが反対する中、僕の彼女……ミンティアは笑って僕を送り出してくれた。
「私、信じてるから!」
幼馴染のミンティアはにっこりと微笑んで僕を励ましてくれた。
僕が魔物を退治して無事に戻ってくると信じてやまない彼女を裏切るわけにいかない!!
(ミンティア!僕に力を!!)
快楽でおぼれかけた僕の目に理性が戻った!
精神力を高めて炎の拘束を破ろうとする……少しだけ指先が動いたぞ。
サラの魔力は完全ではないようだ。
これなら……
「キミ、もしかしてさ……」
僕の目の前で金色の美しい髪が揺らめいた。
抱きついたまま僕の心の変化に気付いたサラが尋ねてきた。
「まだあたしに勝てるとか思ってない?」
「なっ!……だ、だったら……なんだっていうんだ!」
当たり前だろう。僕は勇者だ!
今から大逆転劇が待ってるんだ。
覚悟しておけよ、というつもりの僕をさえぎってサラは言った。
「サラマンダー舐めるんじゃないわよ。だいたいキミの勇者レベルっていくつくらいよ?」
「僕はレベル78だ!!」
ふふっ、さあ驚け!
そして僕を本気にさせたことを悔やむがいい!!
普通の魔王を倒すだけならレベル50もあれば十分なんだ。
レベル70オーバーなら一人で世界を旅することが出来る通行証が手に入るくらいだ。
だが、自信に満ちた笑いを見せる僕を見ながら、
サラはハァ~っとため息をついた。
「あたしはレベル20000だよ。ホント、お話にならないね」
な、なに……よく聞こえなかったんだが。
太ももに挟まれたペニスが開放された。
しかし相変わらず僕は動けない。
「くっ……!」
ゴオオオッ
再び周囲の炎が勢いを増した!
サラは僕のあごをくいっと持上げて言い放った。
「身の程知らずの坊やは、抱きしめたままキスで溶かしてあげるわ」
「あ……うぅ……」
サラの金色の瞳が自愛に満ちた緑色に変わる。
それと同時に癒しにも似たエネルギーが僕に注がれる……
僕は全快した。
「な、なぜ僕を治した!!」
「なぜって、こうでもしなきゃ瞬間的に気絶しちゃうでしょ?」
サラはつまらなそうに呟くと、僕の唇を指先でなぞった。
細い人差し指がそっと触れただけで、背筋がゾクリとした。
「いくわよ……」
ぷちゅっ
ほんの少しだけ唇が触れた。
1秒にも満たない接触。しかし、
「ん……はあああぁ!??」
「くすっ♪」
唇が離れた刹那、僕の体中に快感が駆け巡った。
彼女はペニスには一切触れていない。
そのせいで寸止め状態に陥った僕の膝はガクガクと震えた。
「ほら、もう一度……」
ちゅ、ちゅっ、ちゅっ♪
「は、はぁっ…………!!」
今度は鼻先やまぶた、耳たぶなどをチョンチョンと撫でるようなキス。
さっきよりも柔らかい刺激だがそれは甘い罠。
キスを重ねられるたびに行き場のない快感が僕の中でずっとくすぶりつづける。
「はぁっ、はぁ……なんで……!!」
「苦しそうね? そろそろディープキス……してあげる」
「っ! えっ、ま、まって……あぁぁぁ」
首を振って拒否する僕を押さえ込んで、サラの舌先が差し込まれる。
僕の舌を絡めとり、何度も何度もピチャピチャと唾液を練りまわす。
「んうううううぅぅぅ!!!」
さっきとはぜんぜん違う……体中に染み込むように甘いキス。
敵を目の前にしつつも、どんどん気が遠くなるのを必死でこらえる僕。
(こ、このキスは――!!)
これはメルティキス!!
かつて有名なボクっこ淫魔が得意とした極悪技だ。
魅了と脱力と恍惚が一気に襲い掛かってくるような状態異常技!
キスされる回数に比例して体中の筋肉が緩み、強制的に脱力させられてしまう。
「すごく気持ちいいんでしょ……ふふふっ」
「ふぁ……ぅ……な、なんで……」
陶酔感をこらえつつ、ひとおもいに殺せ!という気持ちを込めてサラを見つめる。
心だけは絶対に折らない。
帰りを待ってる故郷のミンティアのためにも絶対諦めない!
敵がどんなに強くても気持ちだけは負けたくない……そんな僕の顔を見て、クスクス笑うサラ。
「さっきも言ったとおりよ。あたしとあなたじゃレベルが違いすぎるの」
白い指が僕のあごを軽くくすぐってから、首筋をなぞった。
さらに爪の先でクリクリと乳首をこねられると甘いため息が僕の口から漏れた。
こんなの耐えられない……ず、ずるい…………
身悶えする僕を容赦なくいたぶり、追い詰めるサラの指先。
「はうっ!く、うああぁぁ……やめろぉ……」
「フフッ、みてごらんなさい」
ふいにサラがパチンと指を鳴らすと、手足に絡み付いていた炎が消えた。
だが僕の体に自由は戻ってこない。
動かない手足をよく見ると、サラの髪の毛が絡んでいた。
「どう? 私の髪の毛一本でリコスくんは動けなくなっちゃうのよ?」
「く、くそっ……」
どんなに力んでも手足は動かない。
物理的な力ではなく、魔力で押さえつけられてると思っていたのにどうやら違うらしい……
「弱くて可愛いあなたをキスだけであっさりイカせちゃおうとおもったけど……」
もう一度サラが指を鳴らした。
僕を縛っていた髪の毛がポッと燃えて、サラのポニーテールに吸い込まれた。
すっかり力の抜け切った僕は、その場に膝をついてしまった!
「ぐうっ……!」
「あら大変」
そのまま倒れそうになる僕を抱き起こすサラ。
自分よりレベルが高いとはいえ、女の子に抱かれるなんて……!
悔しさと恥ずかしさで思わずプイっと横を向いてしまった。
「可愛いのね。このまま虜にしてあげる。リコスくん♪」
「あっ……」
サラはそっぽを向いていた僕の顔を強制的に正面に向けると、大きな瞳でじっと見つめてきた!
だがキスはしてこない……とにかくじっと僕を見つめて、優しく微笑んでいる。
「いったい何を―――」
「体の中から気持ちよくなって、心までもとろけちゃうくらい熱くしてあげる」
突然彼女の瞳が金色からルビーのような色に変わった!
燃えるような瞳に見つめられると、僕の中のサラに対する敵意が薄れてきた。
その代わりにドキドキ感で胸が一杯になっていく!!
「サラ……」
美しい紅の瞳に魅了された僕は、自分からサラに向かって口付けをねだってしまう。
「う……うう……」
「あら?キスしてほしいの?」
無意識に顔を近づける僕を見ながら勝ち誇ったようにサラが囁いてきた。
サラの顔が故郷のミンティアと重なる……唇までの距離はあとわずかだ。
「その固い意志がとろけたとき、あなたは私のものになるの」
唇が触れ合うまであと2cmくらいのところで、彼女の両手が僕の頬に添えられた!
「でもまだダメ♪」
放って置いたらキスしてしまいそうな僕を寸止めするサラ。
僕はすでに呼吸も乱れ、下半身は快感を求めて震えはじめているというに!
「ほらぁ、ちゃんとおねだりしなさい?」
「そ、そんなのイヤだぁ……!」
ブンブンと首を振って抗う。
このままキスしたら僕の心が溶かされてしまう……そんな気がした。
楽しそうにクスクスと笑いながら僕から離れるサラ。
「嫌がってる男の子を奪っちゃうのって楽しいのよ。もう一度おねだりさせてあげる」
一瞬だけサラは意地悪な笑みを浮かべた。
そしてもう一度僕の顔を両手で挟むと、今度はスリスリと頬擦りしてきた!
「あ、あ、あああっ!」
無意識に目を瞑り、他の事を考えながら気をそらそうとしても無駄だった。
すべすべのサラの肌を押し付けられながら、甘い髪の香りで一杯にされてしまう。
「こんなに可愛い女の子が誘ってるんだよ?我慢する必要なんてあるのかしら」
サラがまた僕から離れた。
思わず名残惜しそうに彼女を抱きしめようとしてしまう。
「ほら、見て?」
彼女はウィンクしながらその場でくるっと回ってみせた。
金色の長い髪が揺れる様を、ついついうっとりと眺めてしまう。
悔しいけど確かにサラは…………かわいいかもしれない。
(なかなか頑張ってるけど、もう少しで堕ちちゃいそうね……)
サラは両手を広げて僕を誘うような表情をした。
すでにたっぷり魅了された僕はフラフラと彼女に近づいてしまう。
形の良いサラのバストがふるふると揺れている。
無防備に開かれた細い腕がゆっくりと僕を包み込む……
「ほら、つかまえた♪」
食虫植物に捕食された虫のように僕はサラに絡みつかれてしまった。
無理やり捕えられたわけではなく、自分自身の意思で彼女の腕の中に落ちたのだ。
サラは全力で僕を抱きしめてくる。
弾力のある大きな胸が形を変えて押し返してくる。
「このままじゃ負けちゃうよ?」
そのまま押し倒された僕は、尻餅をついた姿勢のままサラを向かい入れた。
座位の体勢だ……
「それとも負けたいの?」
くちゅ……
サラはキスを重ねながら舌先を何度も何度も出し入れする。
ペニスをピストンする動きと舌先の動きが見事にシンクロする。
ぴちゃっ、ぴちゃぴちゃ……
ぬちゅぬちゅぬちゅぬちゅっ、ずりゅっ!!
「リコスくんのエッチな音がすごいね」
「イ、イクっ……ふあああぁぁっ!!」
サラの舌先も、アソコの中のうねりも、妖しい眼差しも……
その全てが僕を快楽の沼に沈めようとしてくる!
こんなの……も、もう我慢できない!
でもなんで我慢してるんだっけ……?
もうなにがなんだかわからなくなってきた。
「あれっ、リコスくん?絶対あきらめないんじゃなかったっけ?」
その言葉を聴いた直後、頭の中……それと胸の奥がズキンと痛んだ。
なぜだかわからないけどサラの言葉が心に引っかかった。
あきらめちゃいけない……でもなにを?
考えてもわからない僕は、目の前の美しいサラマンダーを見つめながら呟いた。
「あきらめない……サラのこと…………」
「あはっ、とてもうれしいわ♪」
もはや僕は彼女のことしか考えられなくなっていた。
故郷に残してきたはずの……あれ?なんだったっけ……だめだ、思い出せない。
「好きだよ……サラァ」
そして僕はもう一度自分から彼女の甘い唇を求めた。
つやつやした小さな唇がにっこり微笑みながら僕のリクエストに応える。
「フフッ、そんなにキスしちゃっていいの?」
そっと覆い重なるように僕を抱きしめるサラ。
続いて心の奥まで熱くなるようなキス……ああ、また何も考えられなくなる。
次の瞬間、最後まで自分の中に残っていたモヤモヤがどこかへ弾けて消えてしまった……
「これでもう貴方は私のものよ」
あなたの旅はここで終わってしまった……