目次へ





 20xx年  盛夏。

 性的搾取などと一部の人間が声高に叫んでいた「夜明け前の時代」から十数年を経て、バトルファックはスポーツとして確立されていた。

 今日ではかつてのように破廉恥だとか卑猥だとか言い出す輩はごく少数。

 いまやルールも細分化されプロ化も進み、興行も順調で勢いのある一大市場だ。
 会場はもとより選手が身につけるコスチュームやグッズ、そして初等中等教育の現場での認識も進み、教育の一環として当然のように性が扱われるようになった。

 中には政府が手動して活動を奨励する国も見受けられる。

 その背景に世界的な少子化問題があったことは否めない。
 世代によってセックス自体を忌避する風潮を払拭する必要もあった。

 同性でのバトルファック、性差、権利などそれらに関係する難しい問題についてここでの言及を控える。

 ただ事実として、それら様々な問題をクリアしていった結果、男女が心と体を遠慮なくぶつけ合える唯一のスポーツとしてこの競技は広く人々に受け入れられている。


 そして一番大きなイベントは世界選手権。ワールドカップである。
 文字通り各国の選手が性技を競う祭典。
 5年に一度、参加国の持ち回りで開催されるこのイベントが、今回は日本で行われることになった。

 競技場の整備や空港からのアクセス、宿泊所なども調整が済んでおり開会式を待つだけとなった現在……日本選手団はある問題に直面していた。

 それは経験不足。どの国でも起こりうる。避けられない事態。

 女子代表はベテラン揃いで問題は少ないのだが、男子の方はちょうど世代交代をして選手を総入れ替えしたばかりだった。

 競技としてバトルファックは基本的に男女それぞれ5名の代表選手によって行われ、男子代表と女子代表またはその逆の組み合わせで各国の持ち点を競い合う。

 理想的なのは男女がそれぞれ3勝すること。
 仮に男子が4勝した場合は女子が2勝すれば団体では勝利となる。

 女子代表に胸を借りるつもりで男子代表たちは調整を重ねていたが、このままでは男子の3勝はおろか、2勝すら難しいと強豪国のアナリストたちは分析していた。

 選手の実力は試合での場数を踏んでこそ醸成され発揮されるもの。
 しかし日本男子には圧倒的にその経験が足りない。模擬戦ではなく実戦が欲しい。

 そんな折、来週から始まるバトルファックU20を前に、対戦相手になるかもしれないチームから親善試合の招待状が届いたのだ。

 普段なら開催当日まで選手村で過ごし、他国の選手と肌を合わせる機会はない。
 自分たちの手の内を見せることになるからだ。

 だが男子は今年が初めてのチーム。選手個々の能力は史上最強を謳っているもののチームとしての歴史はまだないに等しい。
 そういった意味で他のどの代表選手団よりも日本男子は試合に飢えていた。
 自らの血肉となる経験に飢えていた。

 そこへきて親善試合の招待である。
 相手は近年頭角を現し強豪国の一角として数えられるオーストラリア女子。

 話を聞けば相手も同じような理由らしい。
 しかもバトルファック専門ではない急造チームだという。

 チーム内で慎重に検討を重ねた結果、日本代表サイドはその申し出を受け入れた。
 
 
 
 そして都内某所。
 数十名程度の関係者を除いて観客はほとんどいない会場。

 非公式で行われるこの試合で男子代表のベンチは緊迫感に包まれていた。

「まずいな……」

 プロ入りして6年、キャプテンである御柱(みはしら)は思わずそう漏らした。

 急増であるはずのオーストラリア女子との初戦、様子見で出した日本男子の先鋒は開始後10分も経たずにリングを降りることを余儀なくされた。

 あちらの先鋒であるエミリーという選手は元テニスプレイヤー。スタミナはチーム内随一であるという情報もあり、それに合わせた戦術を組み立てたつもりだったが一蹴されてしまった。

(挿入にめっぽう弱いと聞いていたが……メンタルが強すぎる!)

 終始リードしていたはずなのに異常な粘り強さを見せ逆転劇を果たしたエミリーに日本男子の全員が衝撃を受けていた。
 速攻を決めるためにバストでの攻撃を避けながらバックから挿入することには成功したものの、その後がよくなかった。
 男子側の選手はエミリーが喘ぐ演技を見抜けず調子に乗ってガンガン攻め続けた結果スタミナ切れをおこし、体位を入れ替えられてパイズリで撃沈。
 誘惑とキスで心を奪われギブアップすら許されず搾り尽くされてしまった。
 敗れた彼はすでに医務室へと運ばれている。

 チームとしての条件はほぼ同じだが地力が違うことを実感する。
 ここへ来て御柱は自らの見通しが甘さに気づき猛省していた。

「……次は誰が行く」

 事前に決めていた順番を変えざるを得ない。
 もしも名乗り出るものがいなければキャプテン自ら勝ちを拾いに行かねばならぬと考えていた矢先に立ち上がるものがいた。

「僕が行っていいですか!」

 気迫充分の声だった。若手注目のホープ・伊賀である。
 プロ2年目を迎える彼は多彩なテクニックで昨年の男子新人王に輝いた経歴の持ち主。
 対する相手選手はジェシカ。有名人である。
 ただしバトルファックではなく、体操選手としての実績によるものだ。

(キャリア不足と聞く。伊賀に勝ち目はじゅうぶんある……いや、ここは勝ち負けより経験を積ませることを重視しようか)

 頭の中で素早くシミュレートした結果、善戦できると判断した御柱は二戦目を期待の若手に一任することにした。
 

「頼んだぞ。できるだけ長く渡り合え。相手の手の内をさらけ出させてみろ!」

「ウッス!」

 余計なプレッシャーを与えぬよう言葉を選び送り出す。伊賀もそれに応えた。
 御柱に鼓舞された若獅子は振り返り敵陣を見据える。
 

 
 一方で、オーストラリア女子陣営では……

「エミリーよくできました!」

 キャプテンのクロエを中心としたミーティングが行われていた。

「サンキュー。全豪オープン予選くらいの難易度だったわ」

「ふふっ、あなたらしく謙虚なコメントですね?」

 はにかんだ笑顔を見せるエミリーにクロエは優しく接する。
 日本男子と同じで経験の浅い新人が多く、まだチームになりきれていない彼女たちのテーマは雰囲気作りである。
 個人が勝ち続けることも重要だがチームとして相手に勝てるという気運を高め、強い精神を築く。
 今回の親善試合を通じて常勝ムードを定着させることが狙いだった。
 そんな静かなプレッシャーを跳ね除けることなく素直に受け入れ、勝利に貢献したエミリーを褒め称える面々。

 その中で敵陣からの熱い視線に誰よりも早く気づいたのはジェシカだった。



 緊張感は維持しつつ、談笑するメンバーをすり抜けて彼女が小さく手を振る。

「ハァーイ」

 偶然ジェシカと目が合った伊賀の表情が強張る。

 元体操選手であり「シドニーの妖精」の異名を持つほどに愛らしいルックス。
 ショートヘアがよく似合う彼女は国内外を問わずファンが多い。
 かつての競技では清純派のイメージを貫いていた彼女がバトルファックへ転向すると決めた時は多くのファンが(表面上は)失望し、同時に今後の活躍を切望されたという。

 じつは日本男子チームの伊賀もそのうちの一人だった。

 今回の対戦に臨むにあたり、彼は仮想敵としてジェシカとのバトルをイメージトレーニングに役立てていた。すらりとしたボディラインと柔軟性を持つ難敵として。

(雑誌で見たことがあるけど本当にきれいな人だ。僕より年上だっけ……いかん、惑わされるな!)

 決して欲情した訳では無いが心は乱されてしまう。
 憧れを抱いたままでは勝負にならない。
 彼はそのことを熟知しているがゆえ、豪州チームの中で好感度の高い彼女をいかに攻略するかに腐心していたのだ。

 開始と同時にタックルで押し倒し、唇を奪って動けなくする。そのままムードを高めて挿入、得意技のクラッシュピストンで制圧する――というファイトプラン。

 つまり速攻だ。平常心を保ったまま一方的に犯す作戦を彼は練っていたのだが、実際はそれどころではなかった。

 ジェシカに挨拶されただけでドキッとしてしまった。やはり憧れが強い。それに彼にとって初の海外選手との攻防。その相手が「シドニーの妖精」だとしたら。
 自分の中で弱点を消しされていなかったことを反省しつつ伊賀は視線を外す。

 彼の様子をじっと見ていたジェシカが妖しく微笑んだ。
 たった数秒のやり取りで確信したのだろう。

「次に出てくるサムライボーイはプロ2年目の彼みたい」

「まってジェシカ。事前に交換したオーダーでは違うみたいだけど」

「ノー。おそらく変更してきます」

 キャプテンのクロエが手元の紙を確認する。次鋒は「寝技師」の二つ名を持つ元柔道選手のはずなのだ。ただ選手の入れ替えはお互いに自由とする取り決めがあるのも事実。

「よろしい。ジェシカ、予定通り2戦目をお願いできますか?」

「オーケー。私も彼みたいな男の子は得意です」

 妖精が自信たっぷりに微笑む。豪州側に変更はない。
 
 
 
 それから15分後、インターバル明け直前に日本男子側から提案があった。
 ジェシカの目論見通りメンバーを入れ替えてくるつもりらしい。
 御柱の言葉にクロエは困惑する演技をしつつ了承した。

 豪州女子が素直に提案を受け入れたことに若干の違和感を覚えつつ、御柱は伊賀と打ち合わせを始めた。
 ファイトプランは速攻。1ラウンドめに全力を尽くせと指示を出す。

「相手は副キャプテン。間違いなく強い」

「はいっ」

「気合は充分だな。よし、油断せずにいけ!」

 ばしっと背中を叩いて闘魂注入する御柱。

 少し力加減が強すぎたようで伊賀はむせてしまった。

 そして試合開始の一分前。

 会場にブザーの音が鳴り響く。セコンドアウト。
 仲間たちの視線を背中に感じながらリング上で伊賀とジェシカが向かい合う。

 お互いに身長差はほとんどない。
 ただジェシカのほうが当然脚は細く、長かった。
 文句なしの脚線美に数少ない観客である関係者も見惚れているようだった。

 元体操選手の美貌に気圧されることなく伊賀は平常心を保ち闘志を燃やす。

 無言で自分をにらむ彼に対してジェシカは腰に手を当てて微笑みかける。

「とても楽しみデース」

「えっ! 日本語!?」

「いっぱい勉強してきまシタ。わたしの言葉、変ですカ?」

「いや……」

 相手はシドニーの妖精。まさか会話をすることがあるとは……にわかに驚きを隠せない伊賀。外国人らしくたどたどしいジェシカの声は少女のようにかわいらしく、思わず視線を彷徨わせる。

 美しい笑みを浮かべたジェシカがわずかに口角を上げる。
 恥ずかしそうにうつむく伊賀には見えない角度で。

(あ、あの妖精が目の前にいるんだ。そして俺は今からこの人と――、)

 彼が戸惑いを打ち消す間もなく、無情なブザーがもう一度鳴り響いた。

 今度こそ試合開始だ。
 
 
 
「集中しろ伊賀ァ!」

 味方の声にハッとなり、自分を取り戻し頭を戦闘モードへ切り替える伊賀。
 腰を落とし、前傾姿勢になり自らを奮い立たせる。

 対するジェシカは自然体のまま軽くトントンとステップしはじめる。
 スラリと伸びた足が左右交互にマットを蹴り、リズムを刻む。

 今回のルールはフルコンタクト。
 わかりやすく言えば、格闘で相手を打ち倒してからセックスでとどめを刺す流れ。
 お互いに顔面への打撃は禁止されている。

 伊賀としても見目麗しい相手の顔を血まみれにするつもりはなく、投げ技中心でジェシカを攻略するつもりだ。
 そのためにはポジショニングが重要。
 自分が有利な態勢で組み合わなければならない。

 始めに動いたのは伊賀だった。
 雑念を捨てて距離を詰める。
 リングサイドの豪州女子から感心する声が漏れるほどのスピード。

 だが彼の手がジェシカの白い肌に触れる寸前で空を切る。

「フフフ」

 サイドステップではなくバックステップ。
 ジェシカの切り返しも速い。最小限の動きでひらりとかわされてしまい、逆に伊賀は伸ばした腕を掴まれてしまう。
 しっとりと、ひんやりとしたジェシカの手のひらを感じてまずいと思い腕を引けば、今度は彼女のほうから身を寄せてきた。

(思ったより握力が強い!)

 伊賀が舌打ちした瞬間、

「投げますネ……」

 優しげな声が彼の耳に届いて、伊賀の視界がぐるんと回った。

 ジェシカが腕を捻りながら軸足を払ってきた。
 柔道の技に近い。

ズダァンッ!

「くそっ」

 派手な音を立てて転がされた伊賀。
 しっかりと受け身は取ったものの彼のショックは小さくなかった。

 細身の女性にあっさり転がされたのだ。屈辱以外の何ものでもない。

 ジェシカがそのままのしかかってくると彼は思ったが、予想に反して美貌の豪州女子は距離を取り、また軽やかにステップをしはじめる。

(舐めてるのか? 明らかにチャンスだったはずなのに)

 伊賀は歯ぎしりする。彼女の余裕の笑みが気に食わない。

 ジェシカにしてみればまだスタミナ充分の彼に襲いかかるのは愚策。ただそれだけの判断なのだが伊賀には別の意味で効いてしまっていた。

「このっ、な、舐めるなあああァァァ!!」

 猛然と襲いかかり打撃に切り替える伊賀。

 ジェシカは一瞬だけ驚いた表情を見せたものの、涼しい顔で彼の腕を手のひらで逸らして応戦する。優雅な手付きでやんわりと男子の膂力を無理に逆らうことなく受け流してゆく。
 次第に伊賀の連撃が鈍くなりはじめた頃、ジェシカが再び彼の腕を掴んで投げる。

「ヤアッ!」

 ぐいっと自分の方へ引き寄せながら彼の膝に足の裏を当てて一回転。

ズダァンッ!

「ふぐぁっ……!」

 したたかに背中をマットに叩きつけられた伊賀が呻く。
 ジェシカからの追撃はない。
 ただ自分を見下ろして優雅に微笑んでいるだけ。



(簡単に組み付けると思っていたのに厄介だな……僕の力を利用して回避と反撃を同時に行ってくるなんて思わなかった)

 ゆらりと立ち上がり、痛みをこらえながらジェシカを睨む。
 伊賀が事前に考えていたより彼女は断然強かった。

 新体操一筋だったジェシカは世界大会に出るほどの逸材。
 何かを極めた者なら当然格闘技だって飲み込みは早いはずなのだ。

 心の何処かで格闘とは縁が薄い相手だという侮りがあった。
 そんな自分の甘さを伊賀は痛みとともに恥じていた。

(とにかく一度落ち着こう……あれは合気道、護身術か? 対策を取らねば不用意に近づいてもかわされる。これ以上カウンターを取られるのはまずい)

 呼吸の乱れを抑えるために伊賀が様子見に回ろうとした時だった。

タンッ!

「え」

 間合いの外といえる距離からジェシカが前転宙返りしてきた。

 本能的に蹴り技を警戒するがわずかに届かない距離。

 空中でゆっくり一回転するジェシカの長い脚ときれいなお尻のラインを見上げたまま伊賀は動けずにいた。

 彼の前で華麗に着地をきめたジェシカが腕を伸ばす。

 肩を掴まれ引き寄せられる伊賀。

 至近距離に端正な顔が近づき心臓が高鳴る。

「ハァイ♪ ナイスファイト! ですネ」

「は……はな、せっ!」

 慌ててジェシカを突き放そうとして伊賀が右手を出す。が、逆にしっかりと指を絡めて握られてしまう。力比べのような体勢で彼女が呟いた。

「ノー。聞いてくだサイ。わたしとキスで勝負、しませんカ?」
 
 
 
 ジェシカはウィンクしながら提案した。
 突然のことに棒立ちになって惚ける彼の頬に左手を添え、にっこり微笑む。

(な、なっ! キス……あのジェシカさんと、僕が!?)

「わたしに教えてくだサイ。サムライボーイのキスを」

 彼の頬に置かれた手がスライドしてゆく。
 ジェシカは身を寄せながら甘えるように熱い息を伊賀の鼻先に吐く。

「キ、キスを……?」

「イエス」

 目を大きく開いた伊賀の後頭部をシドニーの妖精の細い指先が捉えた。

 バトルファックなのだから当然キスの勝負はありうる。
 流れによっては伊賀のほうから仕掛けるつもりだった。

「こ、このっ、望むところだ!」

「フフッ、カモン♪」

 心臓の音で胸が弾けそうになりながら伊賀はその誘いに乗った。

 リングの上で重なり合う唇。空いている手を伸ばしてジェシカの背中をしっかりと抱き寄せる伊賀。

(や、やわらかい……でもこの筋肉、すごい!)

 なめらかで女性的な美しいジェシカの肌。その下に隠されたインナーマッスルの密度を伊賀は指先で的確に感じ取っていた。立位のままバードキスからフレンチキス、そしてディープキスへと移行する。

「うっ、んっ、ううぅぅ!」

 静かに目を伏せたジェシカと舌先を絡め合い唾液を交換しながら伊賀は必死で冷静さを保とうとしている。

「んっ……♪」

 彼の舌使いを味わい、分析しながらジェシカは次第に主導権を得てゆく。

 伊賀の右手を封印していた左手をほどく。
 気づかれぬよう巧みに下へ回す。

(キ、キスが甘すぎて……おかしくなる……でも耐えて、返さないと駄目だ! ここで負けたらキャプテンたちが……)

 伊賀は苦戦している。シドニー妖精の口づけは情熱的だった。気を抜いたら一気に流れを全て持っていかれてしまいそうなほどに。

 余裕を失いつつある彼にさらに厄介なことが起きようとしていた。

クニュッ……

「!!!!!」

 突然、伊賀の背筋に甘い疼きが駆け抜けた。
 いちいち見なくてもわかる……ジェシカの指先がペニスの先端を捉えたのだ。
 
 
 
「んっ、ん……硬い、ですネ?」

 不意にキスをやめ、微笑むジェシカ。そしてまた唇を奪われる伊賀。

(あああああーーーーーっ!)

 全身が泡立つような快感が伊賀に襲いかかる。

 撫でるように、舞うように……妖精の指先が日本の若獅子を弄び始める。

 新体操は見た目以上に繊細なスポーツだ。ジェシカはその競技で多数の道具を使いこなし、自分の体の一部として扱うことができる。ゆえに、今はリボンやスティックの代わりに肉棒を自らの意のまま操ろうとしているに過ぎない。



(ううっ、なんて、柔らかくてやさしい手付きなんだ……ジェシカさんの手コキ、これは、だめだ……逆らえなくなるやつだ……)

 情熱的なキスと対象的な、子供をあやすような指使い。それはバトルファッカーとして鍛錬を積んだ伊賀とて例外ではなく、男を虜にしてしまう危険なテクニックだった。

 トロリと溢れ出す粘液を指先ですくい、元の位置へ戻しながらクリクリとくすぐり続けるジェシカの手コキ。しかも首から上はキスによって制圧されており、まさに全身で伊賀は自分のあこがれであるジェシカの存在を感じているのだ。

(ああぁぁぁ……このまま身を任せたらどんなに気持ちいいだろう……いやっ、溺れちゃだめだ! 僕は日本代表なのだから)

 まだ残っている闘志のかけらをかき集め、伊賀はギュッと目をつぶって全力で彼女から離れようとした。
 自由になった右手に力を込め、手コキを続けるジェシカの左胸を強く押し出す!

「キャッ!」

 手のひらにしっかりとバストの柔らかさを感じながら、多少の名残惜しさを覚えつつ、さらにジェシカを突き放す伊賀。

 小さな悲鳴とともにペニスにまとわりついていた感触が途切れた。

 伊賀は瞬時に下半身に力を入れ、右足を突き出すようにして相手の左足を絡めとる。

 もつれながら前のめりになるような体勢。

 なんとかジェシカを押し倒すことに成功した。

(よ、よしっ、やった……!)

 たまらず敵を押し倒した彼だったが気遣いは忘れない。

 ジェシカが後頭部を強打しないように柔らかい髪とマットの間に手のひらを挿し込んで衝撃を和らげていた。

 そんな彼を見上げながら驚いたようにジェシカが言う。

「やさしいのですネ」

「あ……」

「わたし、もっとあなたとキスしたいデス♪」

 思わず伊賀は見惚れてしまう。
 魅力的な微笑みと、長いまつげ、そして自分をまっすぐに見つめる大きな瞳に。
 間近で見る「シドニーの妖精」はやはり美しかった。
 そんな彼女の口から出た甘い誘惑に一瞬心を掴まれてしまった。

(く、くそっ、今はバトルの最中だぞ! 振り切れっ)

 雑念を払った伊賀が慌ててジェシカを抑え込もうと手を伸ばす。

 しかしそれはするりとかわされ、体位を入れ替えられてしまう。

 伊賀が伸ばした腕をくぐるようにジェシカは動き、彼の肩を押して仰向けにさせようとしてきた。さすがに騎乗位になることは避けたい伊賀は彼女の背中に手を伸ばしてそれを阻止した。

 正常位から側位へ。とっさの判断としては悪くなかったが、その結果として伊賀は片腕の自由を奪われてしまった。

(くっ、右手がジェシカさんの、下敷きにッ……!)

 もがいてもどうにもならない失態。
 対するジェシカは左腕を彼の首に回している。

 それが腕枕をされているような心地よさを伴うので伊賀にとっては厄介だった。動揺する彼の心の隙をついたジェシカの行動は素早かった。

「ウフフ、握手? ばんざいデース」

「あっ!」

 伊賀の右腕に体重をかけたまま、ジェシカは右手で彼の左手首を掴む。

 それを軽くひねりながら頭の上へ誘導し、腕枕している左手に送りロックした。

(これじゃあ、うごけ、ない……)

 戸惑いながら伊賀はなんとか脱出しようとするがこの体勢ではどうにもならない。

 右腕はジェシカの下敷きで、左手は頭の上でたたまれて動かせないのだ。

 せめて騎乗位にされぬよう側位のまま左足を踏ん張るので精一杯。
 だがそれが悪かった。

「フフフ……ハンドジョブ、お好きですカ?」

 ジェシカの長い脚が彼の股間に割り込んできた。

「ま、まずいっ!」

 騎乗位を拒絶し、後ろへ倒されぬよう左足で踏ん張っていたのが災いした。
 ジェシカの脚に邪魔されてペニスを防御できない。
 気づいたときには手遅れだった。

「さっきまでの続きですネ?」

 股間を割り広げられたせいで無防備になったペニス。
 そのクビレに妖精の指先が伸びて、ふわりと絡みついてきた。

 愛撫を中断され敏感なままだった肉棒が再び張り詰めてゆく。

 羽が舞うようでいて的確に弱点をあぶり出してくるジェシカのテクニック。
 我慢を重ねていた伊賀の腰が快感にとろけていく……。

(なんで、こんなにっ、きっ、きもちいいんだよおぉぉぉ……!)

 すべすべした指の感触を味わいながら危機感を覚える伊賀。
 先ほどまでよりも明確に送り込まれる魔性の快楽。

 白い指先がクチュクチュと先端をつまみ、伊賀の性感帯を直接舐めるようにこね回すたびに背筋が震えた。

「おっぱいは好き? ですカ?」

 ジェシカは右手でペニスを蹂躙しつつ、時々バストを押し当てることを忘れない。

ふにゅうううっ……

「ひああああっ!」

 この攻撃はジェシカが思うよりも相手によく効いた。特に今回の相手には。

「ナイスリアクション……また、硬くなりました、ネ?」

 他のメンバーと比較して控えめなサイズとはいえ、しっかり柔らかさと暖かさを相手に主張する豊かな胸は伊賀の忍耐力を崩すのに大きく貢献していた。

 ジェシカに見つめられ、優しい言葉をかけられながら手コキとおっぱい責め。

 伊賀の全身から徐々に抵抗する力が抜け落ちてゆく……

(い、い、イっちまう、このままじゃ何もできないままイかされちゃうっ)

 それでも伊賀は耐える。
 もはや男子の代表であることだけが彼のプライドを支えていた。

「ユーはとてもプリティなフェイスですネ」

「え……」

 優しい言葉で語りかけられ、伊賀は快感の中で戸惑う。

 ジェシカは元々愛情たっぷりのセックスを好む。

 それが新体操からバトルファックに転向した理由の一つであり、敵対する相手に対して敬意を持てたとき、愛情はさらに深くなる。

 そして今、目の前で懸命にベストを尽くす伊賀のことを彼女は好ましく思っていた。

「ひとつ、お願いがありマース」

「な、なにを……?」

「あー、わたし、そろそろ、あなたとセックスしたいデス。挿れていいですカ?」

 伊賀はこの時初めて憧れの存在である「シドニーの妖精」と密着し、添い寝しながら見つめ合っていることを意識して赤面した。
 しかもその相手からセックスを希望されている現実。

(ジェ、ジェシカさんとのセックス……本番ってこと? そんなの、挿れたいにきまってる、絶対に挿れたいっ)

 ドクンドクンと高鳴る心臓。
 伊賀はうっとりした目でジェシカを見つめ、現状を再確認する。

 彼女に腕枕され、見つめ合って求愛されている。

 ペニスはずっと白い指で弄ばれていつ射精してもおかしくない。

「ハンドフィニッシュよりも、気持ちいいですヨ?」

「あ、あああぁ……挿れたい、挿れてほしいですっ!」

「フフフ、わたし、あなたに約束しマス……」

 ジェシカが恥じらいながら顔を前に突き出してきた。

 妖精の唇からピンク色の舌が伸びて、伊賀の唇をぺろりとゆっくりなぞる。
 チロチロと唾液を塗りつけられて緩む口元。
 そこにジェシカは舌を尖らせて挿し込んできた。

ニュルリ……ジュプジュプッ!

 キスよりも淫らで一生思い出に残るような刻印。伊賀は興奮でどうにかなりそうな自分を抑えきれず、舌を絡めに行くが逆に絡め取られてしまう。

(だめっ、これ、おかしくなって……虜になるうううぅぅっ)

 角度を変えて甘い舌先が差し込まれて、引き抜かれる時に唇が甘く噛まれる。
 何度も唾液を交換し、時間をかけて彼の唇をジェシカは蹂躙する。

「はぁ、はっ、ジェシカ、さん」

「なんですカ? マイボーイ」

きゅ……

 拘束に使っていた左手を解放して彼を抱きしめ、さらに深く愛情を注ぎ込む。

(あああああぁぁっ、抜け出せなくなる……)

 甘酸っぱい汗の香りと髪の匂いにたっぷり包まれ、伊賀は恍惚感に浸る。



 やがてジェシカが顔を上げて尋ねる。

「インサート、オーケイ?」

 最終確認だった。

 すっかり目が虚ろになった伊賀は息を乱して見上げることしかできない。

 答える代わりに彼は自ら両肩をマットに預けた。
 長い時間、騎乗位を避けるため踏ん張っていた左足から力が完全に抜けた。

 それを確認したジェシカは手コキをやめて彼を横たえ、完全に馬乗りになる。
 
 汗で光る髪をかきあげるジェシカ。

 天井を見上げる伊賀の目に映るシドニーの妖精がひときわ輝いて見えた。

(負けた……僕はジェシカさんに負けたんだ……)

 形の良いバストが揺れるのを見て彼は悟る。
 自分の闘志が完全に折られ、彼女の中に溶け出してしまったことを。

 リングの外で日本男子のメンバーが深い溜め息をついていたことなど今の彼には関係なかった。

 張り詰めたペニスの根本に指を添え、垂直に立たせるジェシカ。
 その先端に狙いを定め、腰を下ろして粘膜で硬さを確かめる。

チュッチュッチュ……クニュ……

「あっ、それ、いい!」

 伊賀は思わず顎を跳ね上げる。
 お互いの敏感な場所による濃密なキスが心地よい。

 ジェシカの膣口はきれいなサーモンピンクで、綺麗に剃毛処理されていることもあり処女のように見える。

「グッド。きもちよくイかせてあげマス」

 その清らかな楽園の入り口が、日本勢期待の若手選手をゆっくり飲み込んでゆく。

「うあっ、ああああっ!?」

「先っぽが入りました……どうですカ?」

クニュッ、チュク……ずぷぷ……ぬちゅ、くちゅ……

(えっ、なにこれ……ジェシカさんのアソコ、すっ、せまい……)

 時間をかけてペニスが飲み込まれていく。

 伊賀はおぼろげな意識で彼女の具合の良さを味わっていた。

 狭い入口を抜けて暖かく包まれ、また締め上げられるという断続的な快感。

 伊賀を包み込んでいるのが超一流の名器であることを知るまでそれほど時間はかからなかった。

「全部もらいますネ……」

 両手を頭の後ろに組み、胸を強調するように突き出しながらジェシカが勢いよく腰を打ち付けた!

ぱちゅっ! ずちゅううううっ!

「うあああっ! ああああああああ~~~~~~っ!!」

 無意識に叫び、逃げ場を探すように手を泳がせる伊賀。

 キスで朦朧としていた意識が急激に覚醒する。

「きもちいいっ、きもちいいい!」

「アハッ、わたしとのセックスは好き? ですカ?」

 腰をくねらせながら妖精が問う。目の前で淫らなダンスを繰り広げるジェシカに翻弄されながら、伊賀はだらしなく顔を歪ませてしまう。

「好き、すきっ、すきです、ジェシカさんっ!」

「うれしいデース♪」

 そう言って膣内を締め上げるジェシカ。深く繋がったことでペニス全体の形がくっきりわかるほど膣壁を密着させ、意識して根本と奥を交互に締め付ける。

(これ、すごすぎるっ! 中がうねって、グニグニしてくる~~~!)

 さらに締め付けが強くなり、腰の回転も加速する中ではっきりと自分がジェシカに犯されたことを伊賀は自覚していた。

ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ!

 前傾姿勢となったジェシカは長い腕で彼の首を抱きしめ、腰のクビレから下だけを動かし始める。

 新たに生み出されるた快感のウェーブに翻弄される伊賀。
 あまりの気持ちよさに歯がガチガチ震え、噛み合わなくなっている。

「気持ちいいですカ?」

「あうっ、ああっ、ああーーーーー!」

チュッ♪

 もはやまともに答えられなくなりつつある対戦相手を称えるようにジェシカが優しくキスを振る舞う。



「キスされながら、ノックアウト……好きですカ?」

 ピッタリと上半身を重ね、おっぱいを惜しげなく擦りつけながら妖精が舞う。

(きもちいっ、きもちい、きもちいいいいい!)

 口をパクパクさせながら伊賀は叫ぶ。もはや声は出ないが、そのぶんだけジェシカにストレートに気持ちが伝わる。

 すでに勝敗は決していた。だがレフェリーが止める様子はない。
 キャプテンの御柱もタオルを投げようとしない。
 伊賀の乱れ方を見てすでに手遅れだと思っていたのかもしれない。

 激しく動いていたジェシカの腰がピタリと止んだ。

「ここからはファンサービスですネ」

 じっと抱きついたまま彼女は動かない。しかし伊賀のほうは違った。

グチュグチュグチュグチュウウウーー!

「え……あ、ああ、なにこれっ、あ、ああああーーー!」

 腰の動きは止まっているのにペニスが内部で吸い上げられている……そんなふうに彼は感じていた。

「あなた、試合前からわたしのこと好きでしたネ?」

「そ、それは……っ」

 全身が絶え間なくくすぐられているような感覚。

 そして悶える。妖精の腕の中で。

「素直に言ったほうが良いですヨ?」

グチュグチュグチュグチュウ~~~ッ!!

「ひあああああああああっ!?」

 妖しい目で伊賀を見つめながらジェシカは微笑み、膣内を激しく蠢かせる。

 伊賀のペニスは彼女の膣奥にまで達している。
 そして男の感じやすい部分……裏筋や先端、カリ首などはジェシカによって完全に把握され、ピンポイントできつく締め上げられて脱出不可能。
 さらに膣内はジェシカの思うままに変化し、捉えた獲物を逃さない……肉ヤスリとも言えるほどの男殺しの名器。
 しかも伊賀は騎乗位で動きを封じられている。
 名器に閉じ込められたままその脅威にさらされ続けているのだ。

(すきです、すきでした! ずっと前から、ジェシカさんのことがあああああ!)

 かすれすぎて声にならない声で、泣きそうな顔をして伊賀は告白する。憧れのジェシカに見つめられながら心の奥にしまっていたことを全て打ち明けようとした。

 そんな彼を強く抱きしめ、ひときわ甘く膣内をざわめかせるジェシカ。
 ペニスは涙を流すように精液を吐き出しつづけ、伊賀は何度も気絶するほどの快感を味わいながら空っぽになるまで妖精の名器で蹂躙された。

「アイラブユー……フフ♪ グッバイ、サムライボーイ」

 ジェシカが自分の下でピクリとも動かなくなった伊賀にささやく。

 その直後、レフェリーから勝利の宣告を受けるのだった。
 

 
 『寝技師』の異名を持ち、柔道の有段者でもある宇垣はその一部始終を眺めていた。

「結果は残念ですが攻略の糸口が見えました」

「本当か!」

「相手のジェシカという選手、うまく隠していましたが仕入れた情報通りスタミナが無いですね。だから誘い受けしつつ試合を急いだ」

 ベテランの彼らしい言葉に御柱は黙り込む。
 冷静な分析だった。

 だが次に誰が出る? その想いに応えるように宇垣が口を開いた。

「来週の本番では自分が出ます。作戦通り長期戦に持ち込めば勝てない相手ではないでしょう」

 寝技師が静かにリベンジを誓う。
 御柱はその頼もしい横顔を見てうなずくのだった。

 そう、この時は未だ男子側にその程度の余裕は残されていたのだ。





第1話 ~ 伊賀VSジェシカ戦  ~ (了)






目次へ










※このサイトに登場するキャラクター、設定等は全て架空の存在です
【無断転載禁止】

Copyright(C) 2007 欲望の塔 All Rights Reserved.