「おかしいな」
マルクはどこか違和感を覚えていた。
内部が静かすぎるのだ。
先程の警報音のあと、一時的に宮殿内の敵の数が増えたように感じたのだがすぐに落ち着いてしまった。
その後、自分のほかに侵入者が捕獲されたような感じでもない。
「まあいいか……この部屋を調べれば、このフロアには用はない」
彼は自分の中の違和感を置き去りにして、目の前の部屋を透視した。
透視すると魔力を多少消費するが、ドアを開けるリスクを回避できるメリットがある。
その結果、部屋の中には誰もいないという情報が彼の頭の中に拡がった。
「よし、先に進もう……」
マルクは周囲を見回すと、慎重かつ迅速に階段を上った。
■
階段の先は今までのフロアと異なり一本道だった。
周囲のガラスはレンガ調に変わり、壁には永久式のろうそくが均等に並んでいる。
「強敵が近い」
彼の戦いの本能がざわめく。
しばらく歩くと、比較的大きな木の扉が見えてきた。
扉の前には石版があり、魔族の古代文字でこう書かれていた。
「先を急ぐものよ。汝の心を示せ。四つの心に火をともせ。さすれば道は開かれん……」
マルクは一瞬ためらった。
四つの心とは何か……ここまで来るまでになにもヒントはなかった。
考えれば考えるほど謎だった。
思い返せばここまで随分あっさりと進めてしまったからだ。
(迷っている場合じゃない!先に進もう!!)
マルクは自分に言い聞かせると、思い切って扉を開いた。
扉は意外なほどスムーズに開いた。
きしむ音一つしない。
部屋の中は薄暗かったが、しばらくすると目が慣れてきた。
それほど大きな部屋ではなかったが反対側の位置に入り口と同じような扉がある。
部屋の中心に先程と同じような石版と古びた燭台を4つ見つけた。
「燭台の筒を握り、汝の心を示せ」
石盤にはそう書かれている。
マルクは左端の筒を握った。
その途端、心の中に声が響く。
「汝の忍耐力を示せ。何があってもこの筒を放さぬように……」
次の瞬間、筒が真っ赤に染まり熱を帯びてきた!!
手が溶けるほどの高温を感じる!!!
(ぐあああああっ!!)
マルクは思わず筒を放しそうになるが、必死でこらえた。
次の瞬間、筒は真っ青に染まり一気に凍結してしまう。
手が凍えて張り付く……急激な温度変化を感じつつ、マルクは必死でこらえた。
彼は直感でこの感覚が幻であることを見抜いていた。
「幻よ、消え去れ!!」
彼が強く念じると、筒は元通りに常温になった。
そして筒の上には緑の小さな炎が……
マルクは忍耐の炎を得た!
「あと三つか……」
マルクは残りの燭台の筒を順番に握っていった。
筒は彼の心の中の「愛欲」「憎悪」「正義」を試した。
彼は全身全霊で試練に立ち向かった。
■
全ての筒に火がともると、出口の扉がゆっくりと開いた。
光と共に扉の向こうに人影を感じる!
「これはこれは驚きです。ストレートでこの扉をくぐれるとは思っていませんでしたよ? 少年」
扉の向こうには緑の髪をした淫魔・ルシェがいた。
黒い短いブーツにニーソックスとレオタード……扇情的な容貌は変わらず、淫らなオーラが渦巻いている。
しかし以前と違って戦支度を整えているという感じだ。
マルクはルシェの姿よりもその隣にいる人物に驚きを隠せなかった。
ルシェの傍らには……連れ去られたはずのリィナが寄り添っていたのだ!!
■
「リ、リィナ!」
いつもと同じ見慣れたツインテールの髪型に柔らかそうな大きめのバスト、愛くるしい顔立ち……
マルクの目の前にいるのは間違いなくリィナだった。
「僕です!マルクです!!」
自分のふがいなさのせいで連れ去られてしまった彼女を取り戻すためにここまできた彼は、
リィナの隣にいるルシェには目もくれず必死に語りかける。
心の中に安堵が広がり、自然に笑みがこぼれそうになってしまう。
「…………?」
何かがおかしい。
リィナはマルクの声に反応しめさない。
それどころか彼女の目は彼を捉えていなかった。
まるで強い薬剤を投与されたかのようにリィナの視線は中をさまよい……朦朧としていた。
「ルシェ! 彼女に何をしたんだ!!」
リィナの異変にすぐに気づいたマルクは、殺気をみなぎらせた瞳でルシェを睨みつけた。
特に悪びれる様子もなくルシェが口を開く。
「本当に大変でしたのよ……人間の、スライムバスターの『呪縛』からリィナを救うのは。」
「ふっ、ふざけるな!」
周囲の空気がびりびりと震えそうなほど、マルクは殺気立っていた。
自分にとって大事な人が目の前にいるのに声が届かない苛立ちをルシェにぶつけていた。
しかし緑髪の淫魔・ルシェはあくまでも冷静だった。
「何をそんなに息巻いているのです。リィナは元々淫魔なのですよ。私は人間にそそのかされて淫界に戻れなくなった彼女を元に戻しただけです。」
ルシェはニヤニヤと彼を見つめながら続ける。
さらにリィナの肩に手を回して、リィナを抱き寄せる。
「だいたい彼女ほどの腕利きを捕虜にして、何も交渉してこないあなたたちはどういうつもりなのです?」
まるで人間が淫魔をさらったとでも言いたいような……
被害者のような物言いに苛立ちを隠せないマルク。
「捕虜だと!? リィナは捕虜なんかじゃない!! いったい何が狙いなんだ」
マルクは不適に笑う緑髪の淫魔が、何か企んでいることを見抜いていた。
「ふふ、なかなか勘がいいのですね。私の目的はすでに半分達成しました。」
ルシェは抱き寄せたリィナの頭をポンポンと撫でながら語り始めた。
「一つは彼女、リモーネ家の次女・リィナを淫界に連れ戻すこと。」
そこまで話すとルシェはマルクのことを睨み返しながら語気を強めた。
先程までのマルクと同じく憎しみを込めた眼差し……
言葉には出さないが、ルシェの視線からは人間に対する軽蔑と憎悪だけしか感じ取れない。
「もうひとつは……スライムバスターに捕らわれたリップスのナンバー2・ライムを救い出すこと。」
その言葉にマルクは驚いた。
どうやら彼女は本気で人間がスライムを捕らえていると考えていたらしい。
リィナもライムも自分の意思で人間界にとどまっているというのに!!
「ライムさんは僕の師匠と一緒にいる!ここにくるわけないだろう!! それに…………」
マルクは事情を説明しようとしたが、途中でやめた。
おそらくルシェは話し合いが通じる相手ではない……彼女の言葉尻からそのことを感じ取っていた。
「ふふっ、ライムがここにこないと言うのですか? それがそうでもないのですよ。」
すぅっ……とルシェはマルクを指差した。
「あなた……スライムバスターの愛弟子のあなたがいれば…………」
その言葉でマルクは全てを悟った。
ウィル達がいないときを見計らってリィナをさらったことも、この宮殿の地図を渡したのも、全てはその為だったということか。
ハンター候補生のマルクを自分たちの居城の奥深くで捕らえてしまえば、人間界との捕虜交換などさまざまなカードとして使える。
「それから、あなたがここまで敵らしい敵に出会わずまっすぐこれたことも偶然ではないのですよ。」
ルシェの指先がマルクから、その背後のドアに向けられる。
すると、ドアがあったはずの空間が消え去ってレンガの壁になってしまった!
マルクは退路を絶たれた!!
「あなたはリィナに好意を寄せているようですから、必ずここに乗り込んでくると思ってました。ですから最大限の敬意を払って、戦闘は出来るだけ排除してあげたのです。」
「……リィナさんを元に戻せ!」
マルクはルシェの言葉を無視して叫んだ。
もはや臨戦態勢である。
ルシェを倒すためには、体中の魔力を集めて先手を取るしかない。
マルクがルシェに飛びかかろうとした瞬間、意外な回答が返ってきた。
「まあ……今なら間に合うかもしれないですね。そのためには彼女をイかせる必要がありますけど。」
「な、なんだと!!」
マルクはルシェの言葉を待った。
まだリィナが元に戻る可能性はあるのだろうか?
「私の淫気を再注入したばかりなので、今のリィナの精神は非常に不安定なのです。ですからそれを吐き出させて、あなたの精を与えれば……あなたの言う『元通り』に戻るかもしれませんね?」
そういい終わると、ルシェは一歩下がってリィナの両肩に手を置いた。
一瞬だけリィナの両肩に緑のオーラが絡みついたように見えた。
「それにリィナもあなたとバトルしたいようです。どうしますか?」
ルシェに促されてリィナのほうに目をやると、彼女は先程までのうつろな表情が消えて淫らな笑みを浮かべていた。
それはマルクにとってははじめてみる表情だった。
(こ、こんなの……いつものリィナさんじゃない!!)
リィナはゆっくりと服を脱ぎだした。
そして徐々に淫気を解放してきた!
あたりに甘い香りと桃色のオーラが立ち込める……
(どうしても戦わなければならないのか!?)
リィナの様子を見てマルクも気を引き締めた。
そしていったんはルシェに向けた矛先をリィナに向けなおした。
大事なものを守るため、愛するがゆえに戦う……その難しさをマルクは感じ始めていた。
「私の名はリィナ・リモーネです。侵入者さん、気持ちよくしてあげるね?」
ニコニコしながら近づいてくるリィナ。
まるで初めてあったときの様に……マルクの頭の中に記憶がよみがえる。
(リィナさん! 本当に僕のことがわからないのか…………)
マルクは複雑な心境だったが、勝負に専念することにした。
気を抜いたら一瞬でやられる。
リィナはそういうレベルの相手だ。
彼は正面からリィナに近づいて彼女の両手を拘束した。
「あんっ、ずるいですぅ!!」
マルクは片手でリィナの両手を頭の上で固定する。
リィナはマルクに抗議したが、お構い無しで彼女の股間に手を伸ばした。
ぬちゅっ……
リィナはすでに愛液をにじませていた。
マルク得意の指先による女性器への愛撫がリィナに炸裂する!
「えっ、やだっ、感じちゃう……すごい上手ですぅ~」
ほどなくしてリィナが腰をくねらせ始めた。
序盤を制したマルクは勢いに乗って彼女を責め立てる。
「は、はやく……あなたの……立派なものをリィナにください!」
記憶を失っているとはいえ、やはりリィナの顔は可愛い。
瞳をうるうるさせる彼女を見てマルクはそう思った。
そしてリィナに求められるまま挿入を開始する!
……彼は忘れていた。
リィナの膣はウィルでさえ苦労した名器であることを……
(ふふっ、油断大敵ですよぉ……♪)
リィナはマルクに見えないように小さく舌を出した。
■
ずりゅっ……ズプププププ…………
「うああああっ、ひいいぃっ!!!」
悲鳴をあげたのはマルクだった。
リィナの両手を拘束していた力が緩む。
マルクは挿入したままの姿勢で脱力させられてしまった!
(な、なんだこの感触はっ……!?)
股間のほうに目をやると、リィナの尻尾がペニスに巻きついていた。
先端の部分はツンツンと玉袋周辺を刺激している。
「ふふっ、あなたの敏感なところリィナが当ててあげますぅ」
そういいながらリィナは腰のピストンと尻尾によるサポート技を同時に繰り出してきた!
マルクは脱力して思うように動けない!!
くにゅくにゅくにゅっ♪ くにゅくにゅくにゅっ♪ くにゅくにゅくにゅっ♪
くにゅくにゅくにゅっ♪ くにゅくにゅくにゅっ♪
くにゅくにゅくにゅっ♪
(まじでやばい……一気に…………イかされちゃう!!)
マルクは今更ながらリィナのテクニックに驚愕した。
敵に回したくはないと思っていたが、ここまでだったとは。
膣内は複雑にうねり、亀頭はもみくちゃにされながらねっとりと絡み付いてくる。
それに耐えるだけでも一苦労なのに、尻尾が耐久力を削り取ってくる……
「極上の膣と尻尾のハーモニー♪ あなたにプレゼントしますぅ~」
くにゅくにゅくにゅっ♪
くにゅくにゅくにゅっ♪
くにゅくにゅくにゅっ♪
何度も繰り返されるリィナの魔技……
「くそっ、このままじゃ先にいっちゃう!!」
「クスッ、どうぞ先にイっちゃってください~」
リィナの尻尾がふりふりとしなり、マルクの玉袋を愛撫した。
弓なりに背中をそらせて抵抗する!
しかし一気に膨らむ射精感にマルクは悶絶した!!
「ぐううっ!! そ、そうだ……リィナ、ひとつだけ……………………」
リィナの膣テクニックに、マルクはもはや陥落寸前だった。
最終的に負けてしまう……呪縛されてしまうとしても、マルクにはリィナに伝えたいことがあった。
マルクは震えながらリィナの左耳にそっと顔を寄せた。
「命乞いですかぁ? いまさらそんなの許しませ…………」
「リィナ! リィナさん……僕は……僕はずっとあなたが好きでした。もう一度僕のことを思い出して下さいっ!……ぐああぁぁっ!!!」
極上の快感にさらされながらも口にしたマルクの言葉は本心だった。
戦いの中でマルクはリィナへの思いを再確認した。
そして嘘偽りない言葉をリィナの耳元で囁いた。
「えっ……えええっ!? うそッ……」
突然のマルクからの告白に、勝負を忘れてリィナは頬を赤く染めた。
それはきっとマルク自身の素直な言葉が、人間と淫魔の壁を越えてストレートに染み渡った結果なのだろう。
「そんなこといわれたら……リィナ、リィナ感じちゃいます!! ああっ、はああああぁぁ!!!!」
体の内部からあふれ出す快感にガクガク震えるリィナ。
戦いの終わりが近いことを感じ取ったマルクは、気力を振り絞ってリィナをバックで犯す体勢に移った。
ルシェがリィナに注入した淫気を除去するためには、淫気解放と精液注入を同時に行う必要がある。
そのためにリィナが行く直前に挿入しておく必要があった。
しかし……
「ふふふっ…………きゃはっ、演技でした~~~」
今まで喘いでいたはずのリィナの表情が普通に戻っている!
マルクは愕然とした。
この上ない徒労感が彼を襲う。
いつもの彼ならここでおしまいである。
この後は無様にイかされるだけ……
「まだだ……まだまだっ!!」
しかし今日のマルクは違った。
瞳の奥に決意をみなぎらせて、再びリィナを抱きしめた。
(効いてないはずはないんだ。自分の力を信じろって、いつも師匠に言われてるんだ!!)
マルクはリィナの腰をがっしり掴むと、気を取り直して丁寧に愛撫を再開した。
ねっとりとした指使いで彼女の秘所をなぞる。
「そんなところをいくら責めたって…………えっ、何これ!!はあぁぁん♪」
急にリィナが腰をくねらせ始めた。
さっきのような演技ではない本気の悶え方……
やっと彼の指先はリィナのツボに届いたようだ。
「き、効いてる!? でも……くそっ、もう一押しか!!」
そこからのマルクはリィナの弱点であるクリトリスを必要に責め立てた。
彼女の体が先程よりも強く震えてきた。……絶頂が近い。
後はタイミングを合わせて同時に絶頂すれば、リィナの『解毒』は完了する!!
「すばらしい人間よ。あなたのその心意気に感動しましたわ!」
しばらく二人の戦いを静観していたルシェがパチンと指を鳴らす。
「えっ……はぁん!? マ、マルクくん!! なんでっ……あああぁぁっ!!」
突然リィナの意識が戻った!
ルシェの合図とともに、リィナの心を縛っていた淫気が全て消滅したのだ。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……! なっ…………リィナさん、元に戻った!?」
リィナの声色が変わったことで、マルクは責め手を緩めた。
しかしすでに極限まで高められていたリィナの性感は、絶頂への階段を下りることはなかった。
「だめっ、イっちゃううううううううう!!!」
マルクの腕の中でビクビクと震えるリィナ。
もはや耐えようもなかった……イく直前で意識を強引に引き戻されたことで、快楽への渇望が一気に膨れ上がる。
「ああああぁ…………」
リィナはイってしまった!
それと同時に始まる淫体の消滅……
「リィナさん! リィナ!! 消えちゃだめだ!! 待ってくれ……間に合ってくれ!!」
マルクがあわててリィナの中に射精する。
しかしすでに手遅れだった。
同時絶頂という条件を満たす前に、リィナが先に達してしまったからだ。
その様子をルシェは笑い声をかみ殺して眺めていた……
快感と共に薄れ行く意識をつなぎとめて、リィナはマルクに微笑んだ。
「マルクくん、ありがとう……リィナを助けに来てくれたんだよね?」
正気を取り戻したリィナは自分の状況を把握した。
ぼんやりと消え始めるリィナを見ながら、マルクの目からは自然に涙があふれる。
「それなのにごめんね。私、マルク君を辛い目にあわせちゃった……」
黙って首を横に振るマルク。
自分の涙で彼女のことがよく見えない。
大好きだったリィナを自分が消してしまうことになるなんて考えてもいなかった。
「私のためにここまできてくれたこと、本当に嬉しいよ……だから……」
リィナはマルクの頬に手のひらを寄せる。
……が、すでに彼女の腕は透き通り始めていた。
「マルクくん、私が消えても悲しまないで……新しい……うぅん、もっともっと強くなってね」
苦しそうに微笑むリィナを見ていて、マルクの目からは涙が溢れ出す。
「最後に言わせて……リィナはマルク君のこと、好きだったよ…………」
その言葉を最後に、リィナは光の渦の中に消えていった。
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