『スライムバスター3 ~境界線からの使者~』
彼女が襲いかかってくる様子はない。
そう感じたウィルが悩んだ結果辿り着いた答えは――
(まずは彼女の話を聞いてみよう……)
いかにもお人好しらしい決断だった。
確かにミルティーユはウィルに対して敵意はない。
だからといってライムやリィナに対して攻撃を仕掛けているのは確かで……ウィル自身としては彼女を説得して戦闘を終わりにしたかったのだが、
「ウィル……やっぱり私とあなたは繋がっていたのですね」
「なんのこと?」
「絶対、話を聞いてくれると思っていました。そして私を見つめてくださると!!」
ミルティーユの瞳が一瞬だけ桃色に染まる。
(あああぁ、しまっ――!)
それが魅了の術だと気づいた時にはもう手遅れだった。
ウィルは手足を脱力させてその場に膝をついた。
「二人だけの世界を作りましょう……少しだけ待っててくださいね。スノー・ハレーション!」
ミルティーユはウィルを抱き寄せながら幻惑魔法を唱えた。
二人の周囲にきらめく氷の粒が舞い散る。
それはまるで鏡のような役割を果たし、戦場から彼らの姿を覆い隠した。
周囲の景色と一体化したことにウィルはもちろん、外で戦うライムやリィナも気づくことはできない。
さらに氷の粒の数が増えて、二人を吹雪が包みこむ。
彼らを押しつぶさぬように距離を保ちつつ、雪の結晶がちょうど小さな部屋のような空間を形作った。
「これでもう雑音は聞こえません」
雪の塊をくり抜いたような部屋の中でミルティーユは微笑む。
意中の男性と正真正銘の二人きりになれたのだ。クールな彼女でも自然と興奮感が増してくる。
「うっ……ああぁぁ……!」
「あっ、いきなりは嫌でしたか?」
「そんなこと、ないけど……ぅくっ!」
気がつけば彼女はウィルの装備や衣類を優しく脱がせていた。
そしてむき出しになった彼の体に、細い指先を静かに這わせていた。
「思ったよりも引き締まっていて……素敵……」
(あ、ああぁぁ……ミルの指が、段々下がってくる……!!)
焦らすような、そのさり気ない愛撫は魅了されたウィルにとって大変甘美なものだった。
ますます深い場所へと連れて行かれるような感覚。
まだ今なら戻れる……それなのに抗う気持ちになれない。
「積極的な女の子はキライなのです? ふふふふ……」
「ぅあっ!!」
目の前に現れた真っ白な球体……いつの間にはミルも衣類を脱ぎかけていた。
ウィルは視線を逸らせない。
恥ずかしそうに振る舞うミルの表情を見ているだけで幸せな気持ちになれた。
しかも手を伸ばせば触れる距離で、ライムと同じ美乳が優しく揺れているのだ。
動けない彼の顔をミルティーユが抱きしめて、額と額を合わせながら恋人同士のようにささやく……
「スライムの世界と人間界の平和のため、ずっと尽くしてきたのでしょう? 全部知ってますから」
甘く響く声に、うっとりしながらウィルは頷く。
やわらかな彼女の髪が自分の耳をくすぐると、葡萄のような香りまで感じた。
ミルが優しくつぶやく。
「あなたの気持ち、この私が引き継ぎます……人間界と、スライムを支配することでね」
「!?」
その一言でウィルに掛けられた魅了魔法が一瞬だけ解除されたが、次の瞬間には再び彼はピンクに染まるミルティーユの瞳に魅入られていた。しかもさっきよりも長い時間。
「あっ、ぐ……なんで……!」
「うふふふ、もう動けませんね……至近距離でのチャームは気持ち良いですか」
ミルの言う通りだった。ウィルは動けない。
しかも今回重ねがけされた魔法は、さっきまでとは威力が段違いだった。
頭はぼんやりとしたままで、手足は肘や膝まで力が伝達しないのだ。
それ以上に危険だったのは、抗う気持ちを根こそぎ吸い取られたことだ。
ファサッ……
「ここから先はあなたと魂を重ねる時間ですわ……」
ウィルの目の前にいるのは、衣類をほとんど脱いだ状態のミルティーユだった。
白いニーソックスとショートブーツ以外は裸になっていた。
頬を赤く染めたミルティーユは、身動きもできずに震えるウィルに馬乗りになった。
ツツウゥ……
指先で彼の体を丁寧になぞる。
ペニスはできるだけ刺激せぬよう、十本の指先を上半身に集中させながらウィルを喜ばせるミル。
(あああぁぁ…………!)
意識せずとも股間が膨らんでいくのは仕方のない事だった。
うっすらと指先にスライムをにじませながらミルが繰り返す愛撫は極上の刺激。
ウィルの上半身をペニスに見立て、できるだけ快感が蓄積するように仕向けているのだから……
「んっ…………」
ミルが上半身を倒して、馬乗りのまま彼に抱きついた。
「エナジードレインってご存知ですか」
「!!」
彼女の囁きにウィルは身を硬くした。
「あれよりももっと深く、あなた自身を味わう方法があるのですが……試してみたくないですか?」
妖しい誘惑に対して今の彼は無力すぎた。
魔法で魅了されているだけでなく、最愛の女性にそっくりなミルの容姿は抗うことを許さない。
ギュッと目をつぶって時が流れるのを待つことしかできない。
「無言ですか。ふふふ……では、お試しということで」
ミルは空中で四回、指先をくるくる回してみせた。
すると、うっすらと輝く氷の輪が浮かび上がった。大きめのものと小さめのものが2つずつ生成された。
「えいっ!」
ミルの指先が軽く曲がると、それらはウィルの両手と両足にぴたりとはまって、地面の氷と一体化した。
「気持ちよすぎて体が暴れないように……ね…………んん~~~、チュッ♪」
続いてディープキス。
ウィルをガッチリと拘束したまま数秒間、ミルは彼の口の中をかき混ぜた。
(うっ……なんて上手な……しかも、こ、これ……)
弄ばれている舌先の感覚がどんどん消え失せてゆく!
解放されたウィルは、うまく口元が動かせなくなっていた。
「ついでにお口も少し凍らせちゃいました。冷たいキス、美味しかったでしょ」
ゆらりと身を起こしたミルはいたずらっぽく微笑む。
「これでもう叫べません……では参ります」
ミルは華麗な手さばきで彼の上半身、顔なども含めて全身を包むように撫で回す。
(き、気持ち良い……なんでこんな、触られてもいないのに……)
よく見れば彼女の指先、手のひらには青いオーラがあふれている。
それらがウィルの体の表面だけをそっと撫で、くすぐっているのだ。
「クスッ、これだけでもかなりのものでしょう? ほらぁ……浮き上がってきましたわ」
ミルの言葉通り、彼は違和感を覚えていた。
青く輝く手で優しくなぞられているだけなのに、どんどん快感が生まれてくるようで――
(なんだこの変な感覚……っ、あああ! 宙に浮いてる!)
魅了されたままウィルは自らの変化に気づいた。
相変わらず身動きは取れないのに、何故か体が敏感になってフワフワする……
しかもそれは幻ではなかった。
ミルの手のひらや指がなぞった場所……そこから半透明の自分自身が浮かび上がっている。
「これがあなたの魂……私の手が紡ぐ快感によって無防備にさらけ出してしまったあなた自身です」
「!!!!!」
ミルの視線が自分をハッキリと捉えている。
魂が浮き出たウィルは直感的な恐怖を感じた。
「怯えないでいいですよ。どうせその状態にされてしまえば動けないのですから……」
ミルは彼を見つめながら、うっすらと光る青い指先で彼の魂に優しく触れた。
「あああああああああぁぁぁ~~~!!!」
ウィルは叫んだ。
直接魂をくすぐられるような快感を受けるのは初めてだった。
たとえるなら射精間際の状態で、全身を優しく舐められているような感覚。
「ほらぁ、どうですか」
ミルが触れたウィルの魂は、彼には分からない程度に少しずつ削られてゆく……
触れられるだけで極上の快楽を与えられる彼に抗うすべはなかった。
相手を魂ごと籠絡してゆく術はミルティーユの得意技だった。
「身動きできないまま体中を触られて嬉しいですね? ほらほら、溶け出してきましたよ……」
ウィルは恍惚としつつも自らの身体を見る。
彼女に触れられた場所が、まるで水に浸した石鹸のように柔らかくなっているのが見えた。
(魂の表面が溶け出す……ま、ずい……!!)
しかし魅了され、手足も拘束されたままの彼には何もできない。
やがてミルの美しい唇が丁寧に彼自身を舐め始めた……
「魂のしずく……頂きますわ」
トロ……
肉体から浮き上がったウィルの魂に優しく口付けをするミル。
そして音を立ててウィルを吸い取ってゆく。
ピチャッ、チャプ、ピチュッ、チュッチュッチュ……
「ふあああぁぁ!!」
美しい唇が魂の輪郭をなぞるたび、彼は喘がされた。
先ほどのキスのおかげで叫ぶことはなかったが、ウィルは身悶えし続けた。
小さな水音を何度も立てながら、数分間かけてミルは彼自身を味わった……
「美味しい。さすがはスライムバスターですね」
満足気な表情で彼を見つめるミル。
しかしウィルは気持ちよすぎたのか痙攣し続けている。
そんな彼の肉体を優しく抱きながら彼女は言う。
「今、私が吸い取った分だけ……補充してあげる。私の魂であなたをコーティングしてしまうの……」
その言葉が終わると、ミルの体が淡く光りだした。
謎の光に共鳴するように、再びウィルの体から少しだけ魂が滲みだす。
「抱いてあげます」
ミルの肉体から浮かび出た魂がウィルの肉体を包み込む。
直接肉体が触れ合うよりも濃密な快感が両者に流し込まれる。
「ねえ、あなたも気持ちいい? うふふふ……」
瞳を潤ませながら自分に問いかけてくるミルに、彼は何度も大きく頷いてみせた。
「さっきよりもお互いに仲良くなれた気がするでしょう。だからもっとミルにあなたの味を教えて……ウィル……」
そしてミルティーユは先ほどと同じように、オーラを纏わせた指先で彼の上半身を愛撫する。
触れるか触れないかに見える手の動きだが、実際にはミルティーユが一方的に彼に愛撫を加えているのだ。
ほどなくして無防備なウィルの魂が、華麗な指技に呼応するように浮かび上がってしまう。
「クスッ、さっきよりも簡単に魂が剥がれましたね。さあ……繰り返しますよ」
ウィルは彼女の赴くまま、魂の表面を溶かされて吸い取られた。
一度に大量のドレインをすることはせず、ミルティーユは念入りに時間を掛けて彼の力を自分の中に取り込んでゆく。
同時に自分自身と混ぜ合わさったエナジーを彼に注ぎ、再び魂の表面を削りとってゆく…………
――数時間後
「ごちそうさま。あなたの味を堪能させていただきました」
ミルティーユは満足そうに彼を見下ろしている。
ウィルはうっとりした表情で彼女を見上げていた。
「そしてあなた自身も……もうミル無しではいられない体になってしまったのでは?」
彼女に言われるまでもなく、ウィルの体は作り変えられていた。
肉体的には変化なしと言えなくもないのだが、特に忠誠心……
何度も魂を溶かされ、唇で吸い取られては抱きしめられ――その繰り返しによって、ミルティーユという絶対的な女神像が彼の中に出来上がってしまったのだ。
ウィルは目の前にいる最愛の女性に無意識にキスをねだってしまう。
その様子を見て、ニッコリと微笑みながらミルは彼を抱きしめた。
「嬉しいです。もっと愛しあいましょう……そして」
チュウウッ♪
音を立てて唇から彼自身を吸い取る。
腕の中で小さく震えたウィルを強く抱きしめながらミルがささやく。
「……永遠の虜にしてあげる。私の伴侶として」
ここは北の大地。
スライムバスター・ウィルの旅はミルティーユの腕の中で終わってしまった……。
(BAD END ミルティーユのソウルドレイン)