スライムバスター4  『閑話  ライムの夢』





 その日、私は普段より少し早めにベッドに潜り込んだ。
 たまたまウィルも出かけていたし、やることもなかったし。
 弟子のマルクも紅茶ケーキを持ってきてくれなかったし、リィナは女王に呼び出されたって言うし。
 だからといって不貞腐れたわけでもなく、本気で私は眠かった。

 なにかに誘われるように眠りについた。




・・・・・・・

・・・・・

・・・



「ねえママー!」
「?」
「ママってばー!」

 呼ばれた方へ目を向ける。
 視線を下げると私を見上げる二人の子供、女の子がいた。

(なんなの? かわいいけど……)

 どちらも赤い髪で、片方はサイドポニー。もう片方はハーフアップ。
 見覚えはないけどどこか出会ったような気がした。

「もしかして、私のこと?」
「そうだよママー!」
「どうしたのー?」

 ああそうか、そういうことね。この夢の設定が読めた。
 よく見ればいつも見ている風景。
 ウィルの家の中だし。

 そしてこの子達は私の娘で、双子ちゃん……誰との間にできた子かしら。
 なんとなく想像できちゃうけど。

 手を伸ばしてプニプニしたまっしろな肌に触れてみる。
 くすぐったそうに身を捩らせるハーフアップの子……マーゴット。
 それを見ながら羨ましそうにまとわりついてくるサイドポニーはデイジー。
 頭の中に勝手に名前が浮かんできた。

(なんか愛着湧いてきた。反応もかわいくていじり甲斐があるわ)

 夢だとわかっていても思わずニヤけてしまう。
 しかも覚める気配がない。

 このまま役を演じきれというお告げなのかも。

「それで、なに、かしら?」

 我ながらぎこちない言葉遣いに苦笑してしまう。
 この二人の子をどこか他人だと感じているからなのだと思う。

「あのねー」
「パパと出会ったときのことを教えて」

 声を揃えてキラキラした目で二人が尋ねてくる。

「私たちは森の中で、その……」
「「運命の出会い!?」」

 二人が驚いたのと同じタイミングで、私の背後で扉が開いた。
 現れたのはウィルだった。

「「おかえりパパー」」
「ただいま。何の話だい?」
「パパとママのことー」

 やっぱりアンタだったのね……この子達の父親って。

「僕たちのことを?」
「ラブラブだってママが――」
「いえ、そうじゃなくて、なんていえばいいんだろ。ウィルもニヤニヤしてないでなんとか言いなさいよ!」
「あ、うん、そうだね。隠すようなことでもないし」
「じゃあパパに聞くー!」

 小さな二人が帰ってきたばかりのウィルに身を寄せていく。
 じつは対話の矛先がそれてホッとしてる。

(ウィルと結ばれたんだ、私……)

 いつもどおりの自然な態度でそばにいるウィルを見てるだけなのに、妙に意識してしまう。

 わ、私のこと、どう思ってるんだろう?

 不器用なウィルはどんな言葉でプロポーズしたんだろう。
 たとえ夢だとしても知りたい。興味ある。

 今はどんな呼び方をしてるのかな。
 子どもたちみたいに「ママ」呼びされるのはちょっと嫌かも。

 私の胸の中で一気に膨らむ想いと関係なくウィルは子どもたちに語り始めていた。

「僕たちは森の中で出会ったんだ。それぞれの使命を抱えてね」
「しめいってなにー」
「その時やらなきゃいけなかったこと、かな」

 うまくごまかしてる。まるで役者ね。
 でもさすがにバトルファックしたなんて言えるわけないし。

「何をしたの?」
「戦ったんだ」

 い、言うのそれ!? 

 なんか当たり前みたいな顔してるけど、アンタあの時、死にかけたよね。
 すっかり忘れたの?

 子どもたちの目はますます輝きを放ってるし、ちょっとどうすんのよ!

「ママとパパは敵同士だったの!?」
「うん、そうだよ」

 さわやかに語ってんじゃないわよと横槍入れるのが恥ずかしくなるくらい普通ね。

 デイジーも抱っこされて嬉しそうだし。
 いい父親してるっぽいのが腹立たしいわ。

「何度も戦って、負けそうになって」
「ママって強かったの?」
「そ、そうだねぇ……超強かった」

 そこは素直に言いきってくれて嬉しいわ。
 子どもたちの尊敬の眼差しを感じる……気分もいいし。

「ママの必殺技って何!?」
「どうやってパパは戦ったのー」
「ちょ、ちょっと落ち着こうか? ふたりともおやつ食べたかい」
「おやついらないから話してー」
「なんで敵だったのにここにいるのー!?」

 ウィルはその先の話までは考えていなかったようで、どう説明しようか困っている。
 しかたないから助け舟を出してあげる。

「でも最後はパパの勝ちだったのよ。だから結婚したの」
「すごーい!」
「パパって弱そうなのにー」
「うん、弱いよ。僕はそんなに強くない」
「じゃあどうしてー?」

 抱きかかえられたまま二人はウィルの顔を見つめていた。

(こうしてみると私そっくりね)

 気が強そうで、髪型は違えど瞳の色もほとんど同じ。
 ウィルも双子をかわいがっているのがよく分かる。
 案外いい夢なのかも。

「ふたりともよく聴いて。パパはね、とっても優しいの」
「優しいと強いのー?」

「そうね。あなた達も覚えておいて。
 戦う時に優しさが何よりも強さになる時があるって」

 不思議そうに私を見る双子。
 いつもみたいに微笑むウィル。

 彼らが少しずつぼやけていく。
 世界が真っ白になっていく。




・・・・・・・

・・・・・

・・・




 白くなりきった世界が暗闇に変わる時、私は目覚めるのだった。





『閑話  ライムの夢』(了)















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