『不滅の赤』のうわぬりさんからいただきました!
天啓赤壁です。最初にいただいた堅瑜だと思います。



戦の後も戦の前も、あるのは狂気を潜めた緊張と退廃的な香り。
そして、制御しようのない高揚。
いよいよ戦を三日後に控え、江東は静かに沸いていた。
「ふぅ」
宴の席半ばで抜け出した周瑜はようやくといった体で息をついた。
賑やかな明かりは遠く、不思議と静寂が漂う奥まった庭園に自然足は向くというもの。
賑やかなものも嫌いではないけれど、ああも酒を開けた友と一緒にいるのはいささか気が引ける。
「伯符め…」
自分にはすぎた酒量にほてった体を撫でる夜気が心地よい。
「アレがまた何か迷惑をかけたか?」
ふいに掛けられた声にも動じることなく、彼にしては珍しく年相応の笑顔で振り返った。
「殿」
鷹揚な足取りで周瑜の隣へと歩み寄った孫堅は、そのままゆったりと腰をおろした。
「汚れますよ」
眉を顰める周瑜のことばを無視して、目を閉じる。
その様子に最初から咎める気などない周瑜も同じように目を閉じた。
風が通りぬける。
さらっと髪に何かが絡まる感触に目を開ければ、いつの間にか孫堅が髪を指に絡め、じっと周瑜をみつめていた。
「美しいな」
その言葉にどう返したものかと一瞬の思案に沈んだ周瑜に、孫堅はその絹のように滑らかな髪へと唇を寄せた。
「お前は、誰よりも美しい」
息子と並ぶとアレとお前が同じ種類とは思えんと笑う孫堅に、今日は随分とお酒を召していらっしゃるようだと周瑜もされるがままで反論はしない。
要するに、目的は酔い覚まし、同じということだ。
護衛もつけずに…そう思っても、この孫家本宅でこの孫堅を討ち取ろうなどというつわものもそう居ないだろう。
「酔っていらっしゃるんですか?」
「生意気を」
くっと笑った孫堅は髪を玩んでいた指を、そのまま周瑜の白い頬に滑らせた。
「熱いな」
ほんのりと赤い頬を撫でながら、言外にお前も一緒だろうというその意外と子供じみた態度に微笑をもらす。
いつも王者然として威風堂々としているのに、珍しいその調子がくすぐったい。
しばらくそうやって滑らかな肌と髪の感触を楽しんだあと、唐突に孫堅は身を沈めた。
「借りるぞ」
そのまま膝へと頭を乗せた無防備な様子に、周瑜は困ったように孫堅の肩へと手を置いた。
「風邪を召されてしまいます」
しかしそんな周瑜にも意に介さずに、孫堅は目を閉じる。
「お前の体温で充分暖かい」
「殿…」
尚も言い募ろうとする周瑜に、一瞬身を起こした孫堅は顔を近づける。
「煩い口だ」
そのまま問答無用で文字通り口を封じられ、一瞬のこととはいえ周瑜は絶句して何もいえなくなる。
「との…っ!」
「なんだ、もう一度か?」
意地悪くゆがめられた唇にカッと頬を染めながら周瑜はどうにか口を閉じた。
酔えば性質の悪いからかいを仕掛けてくるのは、親子揃って同じだと頭が痛くなる。
目を閉じたまま楽しそうな孫堅の様子に諦めて大人しく膝を貸しながら、そっと視線を下に落とす。
美丈夫。
自分とは違い雄雄しく、男らしい美しさをもつ容姿に溜息がでる。
「半刻たったら起こせ」
それきりの無言の時を、始終飽きもせず孫堅へと視線を落としたまま、周瑜は溜息を吐いた。
悩まし気な、微かで少量の熱を込めたため息を。


「殿、起きてください」
柔らかな周瑜の声に、孫堅はぱちりと目を開けた。
ほんの僅かに移動した月を確認して、ゆったりと身を起こす。酔いはすっかり抜けたようだ。
「ふむ…戻るか」
「はい」
音一つ立てず立ち上がった孫堅は、自然な流れで周瑜へと手を差し出した。
一瞬目を見開いた周瑜も、有無を言わさぬ視線の前に遠慮がちにその手をとった。
さくさくと草を掻き分けながら、二人無言で喧騒の場へと足を向ける。
それに目聡く気が付いた孫策が馬鹿みたいに大きく手を振っていた。それに釣られるように歴戦のつわもの達も陽気に笑っている。
その面々へと鷹揚に頷きながら、孫堅は後ろの周瑜の耳へと唇を寄せた。
「あまり見つめるなよ?」
「…っ起きて!?」
慌てる周瑜にくっくっくと悪戯が成功したように笑った孫堅は、頬に掠めるように唇を落とす。
ああ親父何してんだ!
孫策の叫び声と囃し立てる声がどっと沸く。
呆然と成すがままの周瑜の視線の先で、孫堅の奥方…孫策の母親でもある…がおもしろそうに笑っているのが見えた。
「隙だらけだな、瑜よ」
「殿!」
いつも冷静な周瑜の取り乱しように、周りは益々囃し立てるばかりで。
ほんのり頬を染めたその姿に、孫堅は満足そうに一つ頷いた。

 

-終-


いいですねーww
殿のちょっとしたいたずらと翻弄されっぱなしの周瑜とかたまりませんよぅ!!!
ごちそうさまです!www
膝枕…やっぱロマンですよねーww
ありがとうございました!