第5話



エヴァとの初戦から一夜明けた早朝。

機龍は職員用のジャージ姿で世界樹下にて座禅を組んでいる。

左腰には愛刀、龍虎と雀武が携えられている。

ピクリともしない機龍。

と、世界樹の葉が一枚、目の前をひらひらと漂う。

次の瞬間、機龍はカッと目を開け、すばやく膝立ちになり、二刀を抜刀すると葉っぱを×の字に切り裂いた。

「ふ〜〜」

深く息を吐くと、二刀を納刀する。

フェニックスが使えない以上、いざという場合は己自身が戦うしかなかった。

果たして、真祖の吸血鬼を相手に自分がどこまで戦えるか?

一刻も早くフェニックスが直るのを祈るしかなかった。

「そろそろ行くか。これ以上は人目に付く」

その場を去る機龍。

(そう言えば……ネギ先生は大丈夫だろうか……着替えたら様子を見に行くか)


ネギの間借りしているアスナとこのかの部屋を訪ねる機龍。

ノックしようとしたところ、先にドアが開いた。

中から黒髪のストレートヘアの子……このかが顔を出す。

「あ、機龍先生」

「何かあったのか?」

「それが……ネギくんが学校に行きとうないって」

「(昨日のことが尾を引いているのか……)上がらせてもらってもいいかな?」

「あ、はい。どうぞ」

このかに促され部屋に入る。

「ほら、ネギ! いい加減にしなさい!!」

「いやです〜〜〜〜!!」

見るとネギは布団を頭から被り、ベッドに丸まっていた。

アスナが強引に布団を剥がそうとしている。

「二人ともそこまでにしろ」

「機龍先生!」

「機龍さん!」

機龍に気づき、そっちを向く二人。

「ネギ先生。仮にも教員が学校に行きたくないだなんて恥ずかしいと思わないんですか?」

「あうぅ……だって……」

涙目で訴えるネギ。

「すまんが、先に登校してくれ。ネギ先生は俺が責任をもって連れて行く」

「でも……」

「大丈夫だ。任せておけ」

「……わかりました。行こう、このか」

「お願いします」

このかを連れ登校するアスナ。

「ネギ先生。また彼女が何かしてきたら、自分が何とかします。だから、心配しないでください」

「……」

「自分を信用してください」

「……わかりました」

しぶしぶといった感じだが、ネギは登校の準備をする。

(……大丈夫かな?)

機龍は不安を隠せなかった。


「おはよー! ネギ先生!」

「おはようございます、機龍先生」

「ああ、おはよう」

クラスメートたちと挨拶を交わしながら機龍とネギは登校する。

しかし、ネギはキョロキョロと辺りを見回しながら、機龍の傍にピッタリとくっ付いている。

「どうしたの? ネギ先生」

「あ、いえ、何でもないです」

(重症だな、これは……)

そんなこんなで教室へと入る二人。

「あ、ネギ先生、機龍先生、おはよー!」

昨日欠席したまき絵の姿があった。

「佐々木くん、身体はもういいのか?」

「うん、もう平気です」

ピースサインしながら言うまき絵。

「そうか、ならいい。(とくに問題はないか?)」

機龍はエヴァの席に目を向ける。

だが、そこにエヴァの姿はなかった。

「あれ? エヴァンジェリンさん、いない?」

機龍の後ろに隠れながら言うネギ。

[マスターは学校には来ています。つまり、サボタージュです]

「うわっ!!」

エヴァの従者・茶々丸に話しかけられ、慌てて機龍にしがみ付く。

機龍もネギを庇うように茶々丸に向き合う。

[お呼びしましょうか?]

「い、いえ、結構です!」

[そうですか……それから機龍先生。マスターから伝言です]

「俺に?」

[……殺す。だそうです]

「そうか。じゃあ、こう言っとけ……」


放課後。

屋上で寝ていたエヴァを茶々丸が迎える。

[マスター、起きて下さい。下校の時間です]

「う〜ん……もう、そんな時間か……]

[はい。それから機龍先生に伝言を伝えておきました]

「おお、そうか。それで、奴はどうした? 恐怖にでも慄いたか?」

得意げに笑うエヴァ。

しかし……

[返信があります。……無駄なことはよせ。子供は家に帰ってままごとでもしてろ……だそうです。]

とたんに、眉間に血管を浮かび上がらせる。

「……神薙機龍。どうやら、一度思い知らせてやる必要がありそうだな。フフフフフフ……」

怒りのオーラを上げる。

[マスター! 落ち着いてください!]

必死に止める茶々丸であった。


そんなことはつゆ知らず、下校中の機龍、ネギ、アスナ。

「機龍先生! なんであんなこと言ったんですか!?」

茶々丸に伝えた伝言に抗議するネギ。

「戦いの前の心理戦ですよ。奴が怒りに燃えて我を失えば、勝機も増えます」

「でも〜……」

「ほら、いつまでもウジウジしない! しゃきっとしなさいよ、まったく」

アスナが怒鳴る。

「あうう〜……」

と、機龍が立ち止まる。

「どうしたんですか?」

「そこの茂みに何かいるぞ」

次の瞬間、小さな影が茂みからアスナに飛び掛る。

「!?」

とっさに鞄ではたき落とす。

と、制服の前が開き、下着が露になる。

「キャー!!」

「アスナさん!!」

「なんだ!?」

懐からマグナムを取り出し、影に向ける機龍。

「うひー! ちょ、そいつは勘弁してくれ!!」

たまらず悲鳴をあげたのは……

「……オコジョ?」

「き、君は!?」

「よう、兄貴。 久しぶりだな、俺だよ、アルベール・カモミールさ!!」

「オ、オコジョがしゃべってる……」

「カモ君!!」

(……とんだ珍客だな)


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