第13話



朝日が昇り始めた午前6時ごろ。

訓練としてジョギングをするネギと機龍。

「やはり、早朝はジョギングに限りますね」

「そう………です………ね」

既に息も絶え絶えなネギ。

ジョギング自体は普通の訓練だが、実はこれより2時間も前より走っているのだ。

機龍は涼しい顔をしているが、ネギの方は瀕死だ。

「ゼエ………ハア………ゼエ…………ハア………」

「少し休みますか。あそこに自販機がありますし」

「は、はい(助かった………)」


缶ジョースを飲みながら自販機の前に座り込むネギと、同じく缶コーヒーを飲みながら自販機に寄りかかる機龍。

「プハー! 生き返る」

「大げさですよ、先生」

本当に生き返ったという顔をするネギに機龍は言う。

「ん?」

ここで機龍が何かに気づいた。

「どうしました?」

「シッ! 静かに………」

機龍に促され、静かにすると、微かに猫の鳴き声が聞こえてくる。

「これは?」

「向こうのほうですね………」

導かれるように声のする方に歩いていくと、そこには、猫の群れに囲まれながら餌をあげている茶々丸の姿があった。

その表情はとても柔らかだった。

「絡繰くん?」

「茶々丸さん」

[! ネギ先生、機龍先生]

声を掛けられ、一瞬驚く茶々丸だったが、お辞儀をしながら挨拶した。

[おはようございます。お早いですね]

「はい、機龍さんと訓練してて。そうか、この場所………茶々丸さんがいつも猫に餌をあげてた場所でしたね」

「邪魔してしまったかな?」

[いえ、大丈夫です]

と、茶々丸の足元にいた猫たちがネギたちのほうにも寄ってくる。

「おっとと………」

「わー、かわいい」

ちょっと慌てる機龍と、座り込んで一匹を抱き上げるネギ。

[よろしければ、先生たちもあげてみますか?]

「本当ですか!?」

「いいのかい?」

[はい]

茶々丸から餌をもらい、猫たちにあげる二人。

「アハハハ」

「いつもこうしてるのかい?」

[はい]

「そうか。立派だな」

「いえ、そんなことは………」

とここで、ネギが時計を見た。

「あ、機龍さん。そろそろ行かないと………」

「ああ、もうそんな時間か。それじゃ、絡繰くん、また学校で………」

[はい、ありがとうございました]

「それじゃ」

「また後で」

ネギたちが行った後、後片付けをしてその場を去る茶々丸。

…………その様子を建物の上から謎の影が覗いていた。


昼休み。

屋上で昼食を取るネギ(+カモ)と機龍。

「しかし、絡繰くんには感心しますね」

「ああ、あのエヴァンジェリンの従者だなんて信じられないスよ」

「ホント、そうですね」

今朝のことで興味を持ったのか、話題は茶々丸のことだ。

と、

「ん? 兄貴、ダンナ、アレ」

カモが何かを示すように町外れの方を向いた。

「どうしたの、カモ君?」

「なんだ?」

促されて見てみると遠くに黒煙が上がっているのが見えた。

「!! か、火事です!! どうしましょう!?」

「慌てないでください。学校からだいぶ離れているから大丈夫………ん!! あそこは!?」

「どうした、ダンナ?」

何かを思い出したように言う機龍。

「あそこは………絡繰くんが猫に餌をあげていた場所では!?」

「ええ!?」

と、二人の上をジェット音と共に何かが通り過ぎて行った。

「うわっ!?」

「!! 絡繰くん!?」

それは空から現場に向かう茶々丸だった。

「茶々丸さん!?」

「こりゃマズイ!! 先生、俺たちも!!」

「は、はい!!」

慌ててネギの杖で茶々丸の後を追う二人。


茶々丸が現場に降り立つと、そこには『騎士』がいた。

銀色の西洋甲冑に身を包み、左手に盾、右手に剣を持った騎士が猫たちを追い回していた。

[!!]

その光景に驚きながらも、茶々丸は猫を守るように騎士に立ちはだかる。

茶々丸の姿を確認すると、騎士はその場で立ち止まる。

猫たちが茶々丸に気づき、鳴き声をあげる。

[逃げなさい]

そう促す茶々丸の言葉を理解したかのように、猫たちがその場を去る。

[絡繰茶々丸を確認。破壊する!!]

合成音の声を出しながら、茶々丸に襲い掛かる騎士。

剣を上段に振りかぶり、一気に振り下ろす。

茶々丸はそれを回るようにしてかわすと、勢いにのせた回し蹴りを放つ。

騎士はそれを盾で防ぐ。

弾かれるように距離をとる二人。

しばし、睨み合いが続く。

と、騎士が先に仕掛けた。

茶々丸に向かって突進する。

茶々丸はそれに対し、右手の有線ロケットパンチを放つ。

それは狙いを過たず、騎士の頭部に命中する。

兜がへこみ、仰け反る騎士。

が、騎士はすばやく体制を立て直し、有線ロケットパンチのワイヤーを掴む。

[!!]

茶々丸は慌ててワイヤーを巻き戻そうとするが、それよりも早く騎士がワイヤーを引っ張り、茶々丸を引き寄せた。

引き寄せられた茶々丸に騎士は盾で殴りつける。

[うっ!!]

一瞬、フリーズしかけたが持ち直す。

だが、その隙をつき、騎士はワイヤーを剣で斬る。

[あ!!]

バランスを崩し、仰向けに転倒する茶々丸。

すぐさま起き上がろうとしたする。

が、騎士は茶々丸の腹部に容赦なく剣を突き刺した。

[ぐう!!]

損傷した腹部からオイルが噴き出す。

さらに騎士は、追い討ちを掛けるように剣から電撃を発する。

[!!!!!!]

悲鳴を挙げる間もなく、全身から煙を噴き、茶々丸は機能停止した。

騎士は剣を茶々丸の腹部から引き抜くと、振りかぶり今度は頭に振り降ろそうとする。

「「待てーーー!!」」

だがそこに、杖に乗ったネギと機龍が駆けつけた。

声に反応し、ネギたちの方を向く騎士。

「ラス・テル マ・スキル マギステル 光の精霊11柱! 集い来たりて 敵を射て!! 魔法の射手!! 連弾・光の11矢!!」

ネギの右手から光の矢が放たれる。

騎士はそれを盾で防ぐ。

「トオ!!」

爆炎が収まらぬうちに今度は機龍が杖を足場に跳び、騎士にキックをお見舞いする。

騎士は再び盾で防ぐ。

「まだまだ!!」

しかし、機龍はキックの勢いで反転すると再びキックをお見舞いした。

騎士はこれも盾で防ぐが、衝撃を殺しきれず、後ろに吹き飛ばされる。

「見たか!! 仮面ラ○ダーV3の必殺技、V3反転キック!!」

勝ち誇るように言う機龍。

「茶々丸さん!! しっかりしてください!! 茶々丸さん!!」

機能停止した茶々丸に必死で呼びかけるネギ。

しかし、茶々丸の目は光を失ったままだ。

それを見た機龍は激しい怒りを燃やす。

「貴様!! 俺たちの大事な生徒を!!」

「許しません!!」

マグナムを構える機龍と杖を構えるネギ。

両者はしばし睨み合う。

と、突如騎士が甲冑の隙間から煙を噴出した。

「うわっ!! ゴホッ、ゴホッ!!」

「煙幕か!!」

煙が晴れると騎士の姿はなかった。

「ああ!!」

「逃げられたか………畜生!!」

サイレンが遠くから聞こえてくる。

「マズイ!! ネギ先生はハカセたちに連絡を!! 俺は絡繰くんを工学部に運びます!!」

「わ、わかりました!!」

慌てて飛び去るネギと茶々丸を抱えて工学部へと向かう機龍。


麻帆良大学工学部、ハカセの研究室前。

手術中の家族を待つように、扉の前で茶々丸の修理が終わるのを待つエヴァ、ネギ(+カモ)、アスナ、機龍。

「茶々丸……」

いつもの強気がウソのように弱気な声で言うエヴァ。

「すまない………俺がもっと早く現場に駆けつけていれば………」

「機龍さんのせいじゃありません。僕がもっとしっかりしていれば………」

お互いに自分を責める機龍とネギ。

「兄貴、ダンナ。過ぎたことを言ってもしかたないスよ」

「大丈夫よ。クラスの天才二人が付いてるんだもの」

と、扉が開き、超が顔を出す。

「! 超さん!!」

駆け寄る一同。

「茶々丸は……茶々丸は大丈夫なのか!!」

超にいまにも掴み掛かろうとするエヴァを抑える機龍。

「幸い、AIに損傷はないネ。ボディの損傷もそれほど酷くないヨ」

「じゃあ、大丈夫なのね!!」

「当たり前ネ。茶々丸は魔法と科学の申し子ヨ」

「よかった………」

力が抜けたのか、その場に座り込む一同。

「もうすぐ、再起動が終わるネ。入るよろし」

「ああ、お邪魔させてもらうよ」

「失礼しまーす」

機龍に続き、部屋の中に入るネギたち。

奥の机の上に寝かされ、裸の身体のさまざまな部分にコードをつけた茶々丸を、ハカセが整備している。

ロボットとはいえ、女性が裸で横たわっているのを見て、ネギと機龍は視線を外す。

「あ、皆さん! よかった、これから再起動させますので見ていてください」

と言って、机のコンパネを操作するハカセ。

ゆっくりと茶々丸が目を開ける。

[ここは………]

「茶々丸!!」

エヴァが茶々丸にしがみ付いた。

[マスター………]

「バカモノ!! 散々心配を掛けおってからに………うううう」

涙を流すエヴァ。

[申し訳ありません、マスター]

「ヒック………うううう………」

嗚咽を洩らすエヴァの頭を茶々丸は優しく撫でる。

「よかった〜」

「安心しました」

「まったく、ヒヤッとしたよ」

機龍たちも安堵の声を挙げる。

[みなさん、心配を掛けて申し訳ありません]

起き上がりながら言う茶々丸。

「いや、気にするな………とりあえず、服を着てくれ」

視線を逸らしながらながら言う機龍に、茶々丸は自分の格好を思い出し、慌てて用意してあった予備の制服を着る。

「それで、茶々丸をあんな目にあわせた騎士とやらはどうした? 見つけしだいスクラップにしてやる!!」

「今、警備員の方たちが総出で探しています」

「しかし、解せんな」

「何が?」

疑問を浮かべる機龍に聞くアスナ。

「あの騎士は絡繰くんがあの場所に思い入れをしているのを知っていた。つまり、最初から絡繰くんを狙っていた………」

「まさか、犯人は茶々丸さんに恨みが!?」

「それはないですよ。茶々丸は人に恨みを買わせるようなことはできないようプログラムされています」

「むしろ、恨まれているのは、ハカセか超かもしれん」

「「「「えっ!?」」」」

機龍の言葉に疑問を浮かべる一同。

「どういうことですか?」

「推論だが………絡繰くんはこの地球では最も優れているロボットと言えるだろう」

「そうネ。茶々丸は世界で最も優秀なロボットヨ」

「だが………それを気に食わない奴がいたとしたら………」

「!! 茶々丸を亡き者にして、自分のロボットが世界一だと誇示する!!」

機龍の推理にひらめくハカセ。

「その通りだ。おそらく、あの騎士は絡繰くんを倒すために造られた戦闘用ロボットだ」

「それじゃ、つまり、あの騎士のロボットを造った人は自分のロボットの方が優秀だと言いたいだけで茶々丸さんを壊そうとしたんですか!?」

「多分な………」

「酷い! たったそれだけの理由で茶々丸さんを襲ったわけ!? 許せないわ!!」

と、その時、振動が部屋を揺らす。

「うわっ!?」

「何事ネ!?」

[緊急事態発生!! 正面入り口より謎の騎士型ロボが侵入!! ガードロボを蹴散らし、さらに奥へと侵入中!! 各員、迎撃にあたれ!!]

「………避難じゃなくて迎撃かよ………どんな大学だ?」

アラームとアナウンスが流れる。

「ふん、ちょうどいい!! 茶々丸!! 今度はお前がアイツをスクラップにしてやれ!!」

[はい、マスター。迎撃します]

騎士を迎え撃つべく、茶々丸は1階へと向かう。

「俺たちも行くぞ!!」

「「「「はい!!」」」」

それに続く機龍たち。


ガードロボと迎撃機を蹴散らし、騎士は奥へと踏み込んでいく。

と、広いフロアに出ると茶々丸が待ち構えていた。

[こんにちは]

律儀に挨拶をする茶々丸。

騎士は茶々丸を見据える。

そこへ現れる機龍たち。

「茶々丸!! 遠慮はいらん!! 徹底的にやれ!!」

[はい、マスター]

構える茶々丸。

その姿に機龍は違和感を感じる。

(何だ?………嫌な予感がする)

悔しくもその予感は当たることとなった。


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