第12話



「ハア………ハア………ハア………ハア………」

「頑張れー!! あと5周!!」

「ラジャー!! 教官」

早朝に第2グラウンドにてトレーニング中の機龍とネギ。

ちなみにネギはタイヤ(3個)を引きずってグラウンド25周目。

激を飛ばしている機龍は、背中に錘(100キロ)をのせ、片手腕立て伏せ(2995回目)をしている。

「2996………2997………2998………2999………3000!! ふ〜、これぐらいにしておくか」

錘をどかし、立ち上がる機龍。

「ゼエ………ゼエ………ゼエ………機龍教官。30周、終わりました」

ネギの方もランニングを終了する。

「よし、とりあえず残りのトレーニングは放課後に………ん?」

機龍の目に遠くで何かを探している少女が映った。

「レニーデイくん?」

それは3−Aでも最も謎の生徒、ザジ・レニーデイだった。

「機龍教官? どうかしましたか?」

「あ………いや………」

ネギに視線を向けた後、再びザジの方を見たがすでに彼女の姿はなかった。

「(気のせいか………?)すみません、何でもありません」

「そうですか………?」

「あ、そうそう。ネギ先生」

持ってきていたリュックをゴソゴソと漁る。

「はい?」

「今日からこれを着て生活してもらいます」

と言って、機龍が取り出したのは全身に計100キロの錘が縫いこまれた背広だった。

ネギは一瞬、目の前が真っ暗になった。

ちなみに、このトレーニングは機龍がドラ○ンボールを読んで思いついたらしい(ダイリーガー養成ギ○スとどっちにするか迷ったのは秘密だ)。


「ねえ、今日のネギ先生、なんか変じゃない………」

「うん、何と言うか………動きがぎこちないような………」

背広の重さに苦戦しながらも、ネギは授業を進めている。

プルプルと腕を震わせながらも、黒板に描写する。

「え〜………では………ここの………訳を………誰に………」

声も途切れ途切れだ。

「ネギ君、大丈夫?」

「具合悪いんじゃない?」

見かねた生徒が声をかける。

「大………丈………夫………です………」

強がりの笑顔で言うネギ。

と、ここで、チャイムが鳴った。

「今日は………ここまでに………します………復習………しておいて………ください」

と言って教室を出ようとするネギ。

が、バキッという音とともに床を踏み抜きコケた。

「うわぁ!!」

「ネギ君!?」

「ネギ先生!?」

あまりの光景に呆然とする3−A一同。

「ア、アハハハ、すみません………では、失礼します」

笑ってごまかし、地響き気味の足音をたてながら、ネギは教室を出て行った。

(何があったの………アイツ?)

疑問を感じるアスナだった。


「全身に100キロの錘!!」

「ああ………しかし、やっぱりきつかった」

「当たり前です!!」

体育の授業中(ソフトボール)、ネギのことを機龍に聞いたアスナは思わず叫んだ。

「すまない………50キロぐらいにしておくべきだったか」

「そーじゃなくて!!」

「アスナー! 打順きたよー!」

まき絵がアスナを呼ぶ。

「あ、わかった。今行く………とにかく、無茶な特訓はやめてください!」

そう言って、バッターボックスに向かうアスナ。

「ふう〜………メニューを考え直すか………ん?」

訓練メニューを検討し直しながら、3−Aの方を向くと、ザジの姿が目に入った。

いつものように無表情、無口で淡々と運動をしている。

が、機龍はその姿にどこか違和感を感じていた。


「では、錘入り背広の方はもう少し検討してから投入します」

(助かった〜〜)

心からそう思うネギだった。

「では、放課後の訓練を開始するわけですが………今日は神楽坂くんに加え、龍宮くんもか………どうしたんだ?」

アスナの横に立つ真名を見て言う。

「いや、なに、機龍先生がネギ先生に特訓をつけていると聞いてな。様子を見に来たのさ」

「見てても面白くないと思うけどな」

「わかってないな………」

「??」

少々残念そうに言う真名に機龍は首を傾げた。

「教官。本日の訓練はどんなものですか?」

「ああ、とりあえず筋トレを………あれ?」

ネギの声に反応し、その方向を向きながら言った機龍は思わず呟いた。

「どうしました? 教官」

「あれ………」

そう言って機龍はネギの後ろの方を指差した。

その場にいた全員がその方向を見た。

その方向の先では、ザジが懸命に何かを探していた。

「あれって………ザジさん?」

「………のようだな」

「何か探しているんでしょうか?」

ネギたちがそう言っている間も何かを探し続けるザジ。

「……声掛けてみるか?」

機龍の言葉に全員が頷いた。


ザジは探していた。

茂みを掻き分け、ベンチの下を覗き込み、高台に立って辺りを見回したりして懸命に探していた。

「何やってるんだい?」

声を掛けられ振り向くと機龍、ネギ、アスナ、真名が立っていた。

「こんにちは、ザジさん」

ネギに挨拶され、ザジも無言で頭を下げる。

「「「「……………」」」」

無言の時間がしばし続く。

(ちょっと、何か言いなさいよ)

(いや、ちょっと僕、ザジさんとは話したことなくて………)

(私もだ………)

(でも、この沈黙はさすがに気まずいんじゃ………)

「いったい、どうしたんだい? 何か探してるようだったけど………」

と、ここで機龍が話を切り出した。

「……………」

ザジは無言のままだ。

「あ、あの、ザジさん。できればでいいんですがしゃべって………」

「ふむ、それで?」

「「「えっ!?」」」

相槌を打つ機龍に驚く三人。

「……………」

ザジは無言のままだ。

「そうか………それは大変だな」

しかし、機龍はまた相槌を打つ。

「って、機龍先生! ザジさんと意思疎通してるんですか!?」

「? 当たり前だろ」

ごく当然に言う機龍。

「い、一体どうやって!?」

「相手の目を見れば、何を言いたいかなんてすぐ分かるさ」

「………さすがだな」

驚く三人を余所に機龍はザジと話(と思われるもの)を続ける。

「よし、わかった」

「あの、それで、どうしたんですか?」

機龍に尋ねるネギ。

「何でも、手品で使う鳥が怪我をして看病していたんだが、ちょっと目を離した隙に逃げ出してしまったそうだ」

「そうなの?」

アスナの問いかけに無言で頷くザジ。

「ネギ先生。申し訳ありませんが今日の訓練は中止させてもらいたいのですが………」

「わかっています。鳥さんを探すんですね」

「私も手伝うわ」

「ふ………サービスだ。私も手伝おう」

「ありがとう、みんな。さて、レニーデイくん、俺たちも手を貸すよ」

ザジは首を横に振る。

と、機龍は中腰になるとザジの頭に手をのせ、優しく撫でる。

「遠慮するな。困ってる生徒を助けるのは教師の仕事だ」

笑顔でいう機龍にほんのりと頬を赤くするザジ。

そして、そのやや不機嫌になる真名。

「よし、手分けして探すぞ」

「「「はい!」」」


日が暮れかけた頃、元いた場所に再び集まるネギたち。

「どうでした?」

「ダメ、見つかんない」

「こっちもだ」

「……………」

表情を暗くするザジ。

「ザジさん、落ち込まないでください」

「そうよ、必ず見つけるわ」

ザジを励ますネギとアスナ。

「そういえば、機龍先生はどうした?」

帰ってきていない機龍に気づく真名。

と、

ウルト○マン80〜♪ ウルト○マン80〜♪ He came to us from a star♪

音楽と共に歌が流れる。

「あれ、これって………」

「ウルト○マン80………だな」

「あ、僕のケータイだ」

と言って、ケータイを取り出すネギにズッこけるアスナ。

「なんでウルト○マン80なのよ!!」

「機龍さんからもらったんです。教師の着メロはこれだって………」

「あいつは………」

呆れる真名。

それを横目にネギは携帯に出る。

「もしもし?」

[ああ、ネギ先生。見つけましたよ、鳥]

「本当ですか!? ザジさん、見つかったそうです」

「!!」

その知らせに驚くザジ。

「それで、どこですか?」

[あ、いや、ちょっと今、立て込んでて 「死ねやー!!」 フン!! 「グバッ!!」]

「………何ですか、今の?」

間に聞こえてきた声を怪しむネギ。

[いや、実はヤクザの家に押し掛けて 「くたばれー!!」 うるさい!! 「ゴバッ!!」]

怒声や悲鳴に混ざり、時折、銃声が聞こえる………

「き、機龍さん!! 大丈夫ですか!? 機龍さん!!」

ブッと音がして、携帯はツー、ツー、ツー、ツーしか聞こえなくなった。

「………切れました」

「ど、どうしよう?」

「とりあえず、待ってみよう………」

機龍の状況を心配しながらも、待つしかないネギたち。


「お待たせしました」

しばらくして機龍は帰ってきた。

少々………というか大量に返り血を浴びて………

「機龍さん………その格好は………」

「あ、いや、ちょっと、ペンキが落ちてきて………」

(((………ベタだ)))

相変わらず、ベタな言い訳をする機龍。

「それより、この鳥だろう?」

機龍が右手を差し出すと羽根に包帯を巻いた青い小鳥がいた。

ザジは頷くと小鳥を自分の手に移す。

「いや〜、よかった。ヤクザの家に迷い込んだ時はさすがにどうしようかと思ったけど、無事でよかった」

(((………やっぱり、殴りこんだんだ)))

呆れるネギたち。

と、

「………ありがとう………」

そう言って、笑顔を見せるザジ。

「「「!!」」」

ザジが言葉を発したことと笑顔を見せたことに驚くネギたち。

「どういたしまして」

この男、大したたまである。

「よし、じゃあ、メシでも食いに行くか。俺のおごりだ」

「ほう、いいのか?」

「かまわんさ。だだし、あんまりガバガバ食うなよ。さあ、行くぞ」


その後、クラス内でザジの様子が変わったことが騒がれたが、その要因である機龍はいたって気づいていなかった。


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