第11話



突然、真名に戦いを挑まれた機龍。

驚きながらも真名を問いただす。

「待て、龍宮くん! なぜ、俺と君が戦わなければならない!!」

「理由は2つさ」

淡々と話す真名。

「まず、1つ目。その蜘蛛たちは私が依頼を受けて、片付ける予定だった。しかし、先生が先に倒してしまったから報酬がパーだ」

化け蜘蛛たちの死骸を指しながら言う。

「私は仕事の邪魔をする奴を許さない」

「それは悪かった、謝る。しかし………」

「そしてもう1つ!」

機龍の言葉を遮り言う真名。

「あのエヴァンジェリン、そして、謎の軍団を退けたという噂………それを確かめさせてもらう」

(!!)

内心で驚愕する機龍。

(なぜ、彼女がそのことを………)

「なんのことだ!?」

「とぼけても無駄だ。さっきの戦いを見れば、おまえが自衛官ではなく、戦場にいた戦士だということぐらい、私には分かる」

「むっ………」

苦い表情を浮かべる機龍。

「お前がこないのなら、こちらから行くぞ!!」

デザートイーグルを両手に構え、魔眼を発動させると機龍に向け発砲する真名。

「うおっ!!」

慌てて木の陰に隠れる機龍。

「しかたない、気絶させるか………」

急いでマグナムにスタン弾を装填する。

そして、木から身を出すと威嚇とばかりに1発おみまいする。

が、真名はそれを最小の動きでかわす。

「何!?」

そして、お返しとばかり銃弾の雨が降る。

「わわわっ!!」

再び木の影に身を隠す機龍。

「なんだあの動きは!! 弾道を見切ってるのか!?」

「そのとおりだ」

「いい!?」

いつの間にか横に回った真名が銃口を向けていた。

「くっ!!」

間一髪、その場から走り出し、ことなきを得る。

反撃に3発撃ち帰す機龍。

だが、弾丸は真名には当たらず、周りの木を傷つける。

「どうした、先生? その程度か?」

「むぐ………」

飛び交う弾丸をかわしながら、別の木の陰に隠れると、残りの2発を真名のいる方に撃つ機龍。

すばやく排莢すると次弾を装填しようとする。

が、それはできなかった………

「マグナムはいい銃だ。6連射だということを除けばな………」

「不覚………」

再び横に回りこんだ真名がライフルを向けていた。

この距離では逃げ切れない。

「さて、話してもらおうか。噂の真相を………」

勝利を確信したのか魔眼をとく真名。

だが、それが悲劇を招いた。

「それは、話せな………!! 危ない、逃げろ!!」

「そんな手にひっかかる………」

と言いかけた時、ズシンという地響きとともに巨大な影が真名の後ろに降り立った。

「なっ!?」

先ほどの蜘蛛たちの親玉だろうか?

象くらいはある巨大な蜘蛛が姿を見せる。

すぐさまライフルを向ける真名だったが、それよりも早く巨大蜘蛛の前足が襲い掛かった。

「がはっ!!」

横に弾き飛ばされ、木に背中から激突する真名。

そのまま、力なく木の根元にへたり込む。

凄まじい衝撃で意識が朦朧とする。

「龍宮くん!!」

(………私としたことが………こんなミスを犯すとは………)

霞む目で巨大蜘蛛を見る。

巨大蜘蛛の口から緑色の液体が溢れる。

(………マズイ………逃げないと………)

しかし、意思に反して真名の身体は動かなかった。

緑色の液体を真名に目掛けて吐き出す巨大蜘蛛。

真名は反射的に目を瞑った。

バシャッという液体が当たるような音の後、ジューという音とともに肉が焼けるようなにおいがする。

だが、痛みはまったく襲ってこなかった。

「ぐ、むう………」

苦悶気味の声が聞こえ、目を開けると驚くべき光景が広がっていた。

「な!! 先生!!」

驚愕する真名。

なんと、機龍が真名を庇うように覆いかぶさり、酸を背中で受けていた。

「無事か………龍宮くん」

自分が大変な目にあっているというのに真名の心配をする機龍。

「私よりあなたが!!」

「………大丈夫………みたいだな………よかった」

息も絶え絶えながらも、微笑んで言う機龍。

ゆっくりと立ち上がると、龍宮から離れるようにして巨大蜘蛛に向き直る。

その背中は焼け爛れ、肉が見え、血がしたたかっていた。

「やれやれ、仮面○イダー響鬼じゃあるまいし、こんな奴と戦うハメになるとはな………」

マグナムに弾を装填しながら言う機龍。

キシャアァァァーーーー!!

奇声をあげ、機龍へと獲物を変え、襲い掛かる巨大蜘蛛。

繰り出される前足の攻撃を紙一重でかわしながら、マグナムで反撃する機龍。

だが、その巨大さゆえ、たいしたダメージは与えられない。

(チッ………普通の弾丸では無理か)

と、巨大蜘蛛の前足が額を掠る。

「くっ!!」

額から血が流れる。

(アレを………使ってみるか)

排莢すると銀色の弾丸を装填する。

その隙をつくように突進する巨大蜘蛛。

「おっと!!」

機龍はすばやく木の上に跳躍してかわす。

標的を見失い、キョロキョロする巨大蜘蛛。

その頭を目掛けて、飛び降りる機龍。

だが、巨大蜘蛛はそれに気づき酸を吐く。

「!! この!!」

咄嗟にマグナムを左手に持ち替え、右腕で酸を弾く。

右腕が酸で焼け、血が吹き出る。

だが、機龍はかまわず巨大蜘蛛の頭に着地する。

そのままマグナムを巨大蜘蛛の眉間につきつけ、零距離で全弾発射した。

ギャアァァァァーーーーー!!

奇声をあげ、巨大蜘蛛の身体が地に伏せる。

ピクピクと痙攣すると動かなくなった。

「ハア………ハア………感謝するぞ、超、ハカセ」

機龍が撃ち込んだ銀色の弾丸は超とハカセ作の対妖魔用の特殊弾だった。

マグナムをしまうと、真名のほうに駆け寄る。

「しっかりしろ、龍宮くん」

「先………生………」

巨大蜘蛛が倒されて気が抜けたのか、真名の意識はそこで途絶えた。


「う………うん………」

「気がついたか?」

「大丈夫でござるか?」

真名が意識を取り戻すと、そこには刹那と楓の顔があった。

「ここは………?」

「寮の部屋だ。機龍先生がおまえを運んできくれたんだ」

「!! 機龍先生が!!」

驚く真名。

「自分の方が重症だったのに、たいしたことないと言い張って帰っていったでござる」

「一体、何があったんだ?」

刹那の質問に顔を伏せ、表情を暗くする真名。

(何故だ……自分に襲い掛かった人間に何故こうまでする………自分は大怪我をしてまで………)

刹那と楓は首を傾げるばかりだった。


翌日。

学校へときた真名は浮かない顔だった。

もうすぐ朝のHRが始まる時間だが、いつもならその前に来て、生徒たちを静かにさせている機龍の姿がなかった。

「どうしたのかな? 機龍先生?」

「いつもならもう来てるのに………」

他の生徒たちも戸惑いを隠せない。

そうこうしているうちに鐘がなり、ネギが入ってくる。

「おはようございます、皆さん。………あれ? 機龍先生は?」

いつもと違う風景に戸惑うネギ。

「それが来てないの。ネギ君、知らない?」

「さあ? 職員室にいなかったから、てっきり、もう教室に行かれたのかなと………」

と、話していると………

「遅くなって申し訳ありません」

その話の話題の本人が現れた。

「ああ、機龍先生。遅れるなんて珍しい………って、どうしたんですか!? その怪我!?」

驚くネギ。

機龍は右腕と頭に包帯を巻いていた。

さらに右腕の方は、三角巾で首から固定されていた。

騒ぎ出す3−A一同。

事情と本当の怪我の具合を知っている真名はさらに表情を暗くする。

が、

「今朝、寝ぼけて階段から落ちました」

と言った機龍の説明を聞くと思わずコケそうになった。

(な………なんてベタな言い訳なんだ!! そんなので納得………)

「へ〜、機龍先生って意外とドジだったんだね」

「仕方ないんじゃない。機龍先生って色々と急がしそうだし」

(………するか………このクラスなら………)

呆れ顔になる真名。

「いや〜、お恥ずかしい。ハッハハハハ」

左手で頭をかきながら、照れ隠しするかのように笑う機龍。

「「「「アハハハハハ!!」」」」

つられて3−A一同も笑いだす。


昼休み。

機龍はコンビニで買った弁当を食べようと屋上に昇っていた。

と、屋上の縁に座り、食べ始めようとしたところ、来客がきた。

「機龍先生………」

「ん? おお、龍宮くんか。まあ、座れ」

促されて機龍の隣に腰掛ける真名。

「あの………昨日は………」

「昨日はすまなかったな」

「えっ!!」

自分が言おうとしたことを先に言われ、驚く真名。

「仕事を勝手に片付けてしまったうえ、危ないめに遭わせてしまって………」

それを聞いていた真名の脳裏にある人物が思い浮かぶ。

(彼も自分よりも他人のことを考える人だった………そして、私を庇って………)

胸の中に何かがこみ上げてくる。

「………何故だ」

「え?」

「何故、そんなことが言える!! 私はお前を倒そうとしたんだぞ!! それをなんで、そんなふうに心配できる!!」

立ち上がり、叫びをあげる真名。

機龍は黙ってそれを聞いていたが、やがてゆっくりと口を開く。

「お前は俺の生徒だ」

「!!」

「生徒を守るのは教師の役目だ」

笑顔で言う機龍。

真名の脳裏にフラッシュバックする光景。

(お前は俺の従者だ………従者が主人を守るのが役目なら………従者を守るのは主人の役目だ)

真名に笑顔を向ける真名の元パートナー。

(そう言ったときの彼の笑顔…………私はあの笑顔が好きだった)

「あの人も同じようなをことを言っていた………」

「ん? 何か言ったか?」

「いや………なんでもない」

落ち着きを取り戻し、再び機龍の隣に座る真名。

「そうか………」

機龍はそれ以上は詮索しなかった。

「それじゃ、礼は言っておくよ。ありがとう」

「どういたしまして………そういえば」

「ん、なんだ?」

「噂のこと、聞かないのか?」

「借りがあるからな。それに、もうどうでもいいさ」

「そりゃ助かる」

そう言うと機龍は弁当に箸を付け始める。

が、うまく掴めず取りこぼす。

「む………」

「右利きなのか?」

「ああ。しかし、これぐらい………」

「無理するな」

機龍の手から箸を取り上げる真名。

そして弁当のおかずを掴むと機龍の口元に持っていく。

「お、おい!」

さすがの機龍もこれには焦った。

「はい、アーン………」

対する真名も少々恥ずかしいのか、わずかに頬を赤く染めている。

と、

「機龍先せーい! ちょっと聞きたいことが………」

やってきたのは麻帆良パパラッチ、朝倉和美だった。

二人の状況を見て固まる和美。

二人も突然の来訪者に固まる。

「シャ、シャッターチャンス!!」

やがて、先に動いたのは和美だった。

デジカメを取り出すとシャッターを数回切る。

そして、すばやく退散する。

はっ、とすると素早くその後を追う真名。

「ま、待てえぇぇぇぇーーーー!! 朝倉ーーーーーー!!」

「ハハハハァーーーー!! スクープゲットォーーーーーーー!!」

大声と足音と銃声(!!)をたてて去っていった二人。

取り残された機龍は少しすると再び弁当を食べ始めた。

「………ちょっと、惜しかったかな」

そう言って見上げた空はどこまでも青かった………。


ちなみに、機龍の怪我はその日に完治した。

後に診療した医師は、

「長年医者やってきたが、あれほどタフで回復力のある患者は初めてだ」

と、語ったそうだ。


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