第32話



破壊され、無残な姿になってしまった本山に戻った機龍達。

今だ数多くいる負傷者の治療のため、このかはネギと仮契約し、力の一部を覚醒させ治療にあたった。

サクラも軍医の資格を持っていたため、治療は何とか終了した。

ネギはこのかとの仮契約が終わると、全ての力を使い果たしたのか、倒れるように眠ってしまった。

そして、機龍は疲れと傷に塗れた身体に鞭を打ち、復興作業の前線に立って指揮を執った。

ハルナ達が目覚めないかハラハラしたが、幸いにもその前に復興は完了した。

そして、夜が明け、朝日が本山の奥の庭に立つ3体の翼を持った巨人を照らした。

と、

その足元に1人の少女が立っていた。

身支度を整えた刹那だった。

「………………」

無言でフェニックス達を見上げていた刹那だが、やがてペコリと頭を下げると山の方へと歩き出す。

[どちらへ行かれるのですか? 桜咲様]

「えっ!? うわっ!!」

突然、合成音声で話し掛けられ振り向いた刹那は驚いて尻餅をついた。

目を点滅させて少し首を動かしているフェニックスの姿があった。

[大丈夫ですか? 桜咲様]

そんな刹那の驚きも知らずに目を点滅させ話し掛けるJフェニックス。

「か、勝手に動いてる!!」

[申し送れました。私はフェニックスのサポートAIのジェイスと言います。お見知りおきを]

「は、はあ………」

額にギャグ汗を浮かべながら立ち上がる刹那。

[ところで、どちらへ行かれるお積もりですか?]

しかし、ジェイスの質問に表情を曇らせる。

「私の正体を見られた以上もう学園には戻れません………このまま消えようと思います。」

[近衛様のことはどうするお積もりですか?]

「このかお嬢様のことはネギ先生と機龍さん達が居ますので安心できますから」

作り笑いを浮かべて言う刹那。

「それでは、皆さんによろしく伝えといてください………」

「刹那さん!!」

そんな刹那の前にネギが現れた。

「ネ、ネギ先生!!」

「どこへ行く気なんですか!? 刹那さん!!」

刹那の説得を試みるネギ。

「ダメですよ刹那さん!! このかさんはどうするつもりなんですか!?」

「い、一応、一族の掟ですから………あの姿を見られた以上、仕方がないのです………」

しかし、刹那の決意は固かった。

「お嬢様を守るという誓いも果たしたし、神鳴流に拾われた私を育ててくれた近衛家への御恩も返すことが出来ました。後のことはネギ先生………よろしくお願いしますっ」

そう言ってネギの横を擦り抜け、ダッと駆け出す刹那。

「あ!! 刹那さん!!」

「スミマセン! 先生………あ、イタッ!!」

チラッとネギを見た後、スピードを上げようとした刹那だが、何かにぶつかり再び尻餅をついた。

「いった〜〜〜い! お尻打っちゃったよ〜〜〜!!」

見ると、同じように尻餅をついているサクラがいた。

「あ、あなたは………」

「初めまして、サクラ・キサラギです。よろしくね、え〜と………刹那ちゃん」

お互いに立ち上がりながら相手を確認する。

「あ、あの、私は………」

「お友達を置いてちゃうの?」

「!!」

ハッしてサクラの顔を見る刹那。

サクラは優しげな笑顔を浮かべていた。

「大丈夫だよ。このかちゃんはあなたのことを嫌いになんかなってないよ。………それとも、あなたはこのかちゃんが嫌い? 傍にいたくない?」

「!! そんなことない!!………あ!!」

思わず叫んでしまい、俯いて顔を赤くする刹那。

そんな刹那をサクラは優しく抱きしめた。

「え!! ちょっと!! あの!!」

「私とジンもね、幼馴染なんだ。でも、ジンったら………いつも、何かあっても自分1人で解決しようとして………今の刹那ちゃんみたいことをしようとしたこともあったんだ………」

沁み沁みと言うサクラ。

刹那は慌てるのをやめ、サクラの話に聞き入る。

「けどね、私はね………ジンが1人で抱え込んでるよりも………一緒に悩んでくれたらいいなって思うの………きっと、このかちゃんだってそうだよ」

「そのとおりだ、桜咲くん」

そこへ、このかを伴った機龍とジンが現れた。

「な!? お、お嬢様!?」

「機龍さん!!」

「ジン!!」

いきなりの登場に驚く刹那、ネギ、サクラ。

「じゃ、後は君の仕事だ」

そう言ってこのかの背中をポンッと押す機龍。

このかはそのまま、刹那に歩み寄る。

サクラは雰囲気を察して、ジンの方へと離れる。

「せっちゃん………」

「お、お嬢………このちゃん………」

「………残ってよ、せっちゃん」

刹那は黙り込んでしまったが、やがて………ゆっくりと首を縦に振った。

「よかった、よかった。一件落着!」

「喋りすぎだぞ、サクラ」

自分を引き合いに出されたのが気に障ったのか、不機嫌に言うジン。

「ほえ? だって、ホントのことだよ?」

「………フゥ。もういい………」

タメ息を吐くジン。

サクラは?な顔をしたが、やがて笑顔を浮かべてジンに寄り添う。

ぶっきらぼうな顔を浮かべるジンだが、片手は優しく、サクラの背に回されていた。

その2組の光景をやや離れた位置から見ながら微笑む機龍とネギ。

「よかったですね」

「ああ………」

「………これで終わったんですね」

「いや………始まったんですよ」

「えっ!?」

微笑んだ顔から険しい顔へと変わり、空を見上げる機龍。

「この星での………ヴァリムとの戦いが!!」

その言葉にネギもハッとすると、険しい顔になり空を見上げる。

「皆様、こちらにおいででしたか」

と、本山の巫女の1人が機龍達の方へと歩み寄って来た。

「長がお呼びです。至急、来て欲しいとのことです」

「長殿が?」

疑問を感じながら、後に続く機龍達。


「天ヶ崎千草が見つかっていない!?」

長の部屋へと集まった今事件の関係者達(ネギ(+カモ)、アスナ、このか、エヴァ、茶々丸、武闘四天王、セイバー小隊)に聞かされた説明に声を張り上げる刹那。

「おそらくは、例のヴァリムという連中が手助けしたのでしょう。月詠と犬上小太郎は捕らえたのですが、捜索に出た本山の者が、皆、天ヶ崎千草を発見できずに戻ってきました」

「なんでそんなことを?」

詳細を説明する詠春に聞くサクラ。

「数少ない呪術者の協力者だからな。手放すのが惜しかったんだろう」

「おそらくそうだろうな」

推測を語る真名とそれに同意する機龍。

「じ、じゃあ、またこのかさんを狙って来るってことも!?」

「ありえるでござるな」

全員がこれからの状況を危惧する。

「とにかく、我々、関西呪術協会も全面協力いたします。一刻も早く、ヴァリムという連中を何とかしてください」

「わかっています。我々の任務はヴァリム軍の討伐にあります」

「その通りだ」

「そうそう」

力強く応えるセイバー小隊の3人。

その顔はプロの軍人の顔だった。


その後、報告のため、ジンとサクラを先に麻帆良へと帰還させ、修学旅行最終日をエヴァに振り回される形で終了したネギ達。

翌日の帰りの新幹線では、殆どの生徒が眠ってしまっていた。

そんな中、機龍は1人、窓側の席に座り景色を眺めながら、物思いに耽っていた。

(ジンくんとサクラくんが来てくれたことでこちらの戦力は上がった………関西呪術協会の協力も得られるようになった………ヴァリムめ!………来るなら来て見ろ!!)

「どうしたんだ、機龍先生? 難しい顔して?」

そんな機龍の隣に座る真名。

「龍宮くんか。休んでなくていいのか?」

「それほど疲れちゃいないさ。それより、思いつめるなよ」

「ん?」

訝しげな顔をする機龍。

真名はカードを取り出して、機龍に見せながら言った。

「私は機龍先生のパートナーなんだ。それに仲間だっている。だから、心配するな」

その言葉にフッと微笑む機龍。

「そうだな………ありがとう、龍宮くん」

「ああ、気にするな………その、ところでだな………」

「ん?」

突然、目線を逸らし、頬を染めながらモジモジとし始めた真名に、機龍は今度は怪訝な顔をする。

「その………パートナーなんだし………名前で呼んでくれた方が………うれしいんだが………できれば呼び捨てで………」

後半は消え入りそうな声だったが、機龍はちゃんと聞き取っていた。

「………そうだな。じゃあ、プライベートでは名前で呼ばせてもらおうかな。その時は、俺のことも機龍でいいぞ」

「あ、ああ………」

「じゃあ、改めてよろしくな、真名!」

それを聞いた途端、ボッと顔を赤くする真名。

「プ、プライベートで、と言ったじゃないか!!」

「誰も聞いちゃいないよ」

俯く真名を機龍は笑顔で見つめていた。


こうして、波乱と戦いに満ちた修学旅行は幕を閉じた。

そして………

新たな戦いが始まろうとしていた。


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