第38話



機甲兵団ガイアセイバーズ結成から1週間がたった。

ガイアセイバーズ基地のトレーニングルーム、スパーリングエリアにて………

「やあぁーーーー!!」

「振りが大きすぎる」

アスナの跳びながら振られたハマノツルギを左手の竹刀で叩き落とすと右手の竹刀で頭を叩く機龍。

「イタッ!!」

尻餅をつくアスナ。

「てやぁーーーー!!」

続いて、刹那が頭上から鞘に納まったままの夕凪を振り下ろす。

ギリギリまで引き付けてかわすと、振り下ろされた夕凪を踏みつけ動きを止める。

「あっ!?」

「一撃必殺は良いが、外した場合も想定しておくべきだ」

そう言って刹那の頭を竹刀で叩く。

「あうっ!」

アスナと同じように尻餅をつく刹那。

「少し休憩するか………」

機龍は竹刀を腰に差す。

「う〜〜、2人ががりでも敵わないなんて〜〜」

「さすがですね、機龍さん」

頭を擦りながら立ち上がる2人。

「な〜に、俺だってまだまださ………」

そう言いながら、窓の外を見渡す機龍。

大きめな窓のついた壁で区切られたトレーニングルームでは、シューティングエリアでは真名とジンが射撃訓練、マシーンエリアではクーと楓が筋トレ、マジックエリアではエヴァが茶々丸と共にネギに魔法を教えている。

作戦室でもサクラがさよ、和美、のどか、夕映にオペレート訓練を課している。

「皆頑張ってるわね」

呟くアスナ。

と、そこへ!!

ビー、ビーと警報が鳴り響き、赤色ランプが点滅する。

「「「「!!」」」」

驚く一同。

[ガイアセイバーズメンバーは速やかに作戦室に集合してください。繰り返します。ガイアセイバーズメンバーは速やかに作戦室に集合してください]

アナウンスが集合を告げる。

「出撃!?」

「何か起きたんでしょうか?」

「分からん………兎に角、全員、作戦室に集合だ!!」

「了解!!」


作戦室へと集合し、それぞれの席へと就く機龍達。

「何が起こった?」

オペレーター席を向いて聞く機龍。

「は、はい、麻帆良管内にて怪事件が発生しました」

のどかがやや戸惑いながら答える。

「怪事件?」

ネギが首を傾げる。

「麻帆良管内にて、同時刻に多数の市民のペット及び野生動物が蒸発。一部で混乱が起きています」

「何だ、動物の消息不明か………下らん」

夕映の報告に退屈そうに呟くエヴァ。

「だが、複数が………しかも同時に消えたというのは気になるな………」

疑問を抱くジン。

「毛皮を狙って動物を攫って海外に売り捌いているって悪質な密売団が麻帆良に侵入したっていう情報もあります」

「あー、それ知ってる! 例の指名手配の連中でしょう」

さよの報告に相槌を打つ和美。

「いやな密売団っスねー」

オコジョの身ゆえか、人一倍危機感を覚えるカモ。

「指名手配犯が麻帆良にか………もし、そうだとしたら、放っておくわけにはいかんな………」

と、機龍が呟いた時………

再び警報が鳴り響いた。

「わわっ!? 今度は何!?」

慌てるアスナ。

「新たに蒸発事件発生!! 場所は麻帆良曲芸手品部のナイトメア・サーカステントです!!」

「曲芸手品部!? それって確か………ザジさんの!?」

夕映の報告に驚くネギ。

「ふむ………出動するぞ!! オペレーター組は情報収集、戦闘班は2人1組になって各蒸発現場へ急行せよ!! 機甲兵団ガイアセイバーズ、初の出動だ………気を抜くな!!」

「「「「了解!!」」」」


ナイトメア・サーカステント………

警察が立ち入り禁止のロープを張り、動物のいなくなった檻を調べている。

辺りには野次馬が集まっている。

そこへ、現れる機龍と真名。

「凄い騒ぎになっているな………」

「猛獣が檻から消えたんだ、騒ぎにならない方がおかしい」

「そうだな………しかし、これじゃ、現場検証は難しい………って、おい!! 機龍!!」

驚く真名を他所に機龍はさも当然のように野次馬を掻き分け、立ち入り禁止のロープを潜って現場へと入る。

慌ててそれに続く真名。

「いいのか!? こんなことして………」

「おい、ちょっと、君達! ダメじゃないか、現場に入って来ちゃ!!」

案の定、見張りの警官に止められる。

しかし、機龍は内ポケットから手帳を取り出して警官に見せる。

「機甲兵団ガイアセイバーズです。今回の事件について、我々も調査することにしました」

「あ、失礼いたしました! どうぞ、お通りください!」

あっさりと道を空ける警官の横を通って現場へと入る機龍と、唖然としながら続く真名。

「言っただろ、ガイアセイバーズの権限は警察を上回っているって」

「ああ、そうだったな………」

そうこう言っているうちに現場に辿り着く。

鑑識の人があちこちを調べて廻っている。

「すみませ〜ん!! 責任者の方はいらっしゃいますか!?」

突然響いた声に注目する鑑識と刑事達。

「私だが………君達は誰だ? どうして現場に入ってきている?」

いかにもベテラン刑事といった感じの初老が近寄ってくる。

機龍は再び手帳を見せる。

「機甲兵団ガイアセイバーズです。今回の事件について、教えてくれませんか?」

「ああ、これはどうも………事件現場ですが、特に荒らされた様子はなく、動物達は薬か何かで眠らされて運び出されたようです」

刑事の言葉を手帳にメモしていく機龍。

「なるほど………犯行当時の状況は?」

「ちょうど、飼育係が餌を取りに倉庫に入った時、何者かに倉庫に閉じ込められ、やっとのことで這い出た時には動物は全て運び出された後だったそうです」

「その時間は?」

「20分ほどです」

「20分………単独犯の可能性は低いですね」

20分でサーカスの動物全てを盗み出すというのは、単独犯では無理だ。

かなりの複数犯の犯行であろう。

「例の指名手配中の密売団の犯行の可能性は?」

「大いにありえます。これだけ大規模な犯行となると、奴等以外に考えられません………」


その後も2、3質問をし、機龍達はテントを後にした。

「うむ………やはり、例の指名手配中の密売団の犯行というのが妥当な線だな」

「他の班からの連絡でも、皆、複数犯らしき状況だったそうだ」

状況をまとめる2人。

と、機龍の腕時計の通信機がなる。

「基地からか………こちら機龍」

「あ、機龍さん! さよです。例の指名手配中の密売団なんですが、どうも魔法使いだって情報を入手しました」

「何?」

「本当か?」

隣にいた真名も聞き耳を立てる。

「はい、関東魔法協会の方で裏がとれました。魔法界でも指名手配されているそうです」

「なるほど………今までの事件がどれも迷宮入りしかけているのも頷けるな」

指名手配中の密売団の犯行は、どれも誘拐だということは分かっているものの、その手口、手法は解明不能となっていた。

おそらく魔法を使ったのだろう。

「だとしたら、少し厄介だな………」

「うむ………相坂くん、各員へも警戒を強めるよう連絡してくれ」

「了解しました!」

通信の終わりを確認して通信機を切る。

「よし、もう少し情報を収集………ん? あれは?」

「どうした?」

真名は、何かを見つけたような機龍の視線の先を見る。

するとそこには俯いてベンチに腰掛けているザジの姿があった。

近寄ると声を掛ける。

「どうしたんだ?」

「ザジ、大丈夫か?」

2人の声にザジは顔を上げる。

そして、2人の姿を確認すると、途端に目に涙を溢れさせ、機龍にしがみ付いた。

「おおっとと、レニーデイくん?」

そのまま、声を殺して嗚咽を漏らすザジ。

機龍は無言でその肩に手を置き、優しく抱き寄せる。

「心配するな、サーカスの動物達………いや、君の友達は必ず助ける。だから、泣くんじゃない」

少し赤くなった目で、機龍を見上げるザジ。

「…………約束」

「ああ、約束する。だから、君はテントで帰りを待っていろ」

それを聞いてザジはテントの方へと戻っていった。

「とりあえず、もう少し情報を収集………って、どうした真名? 何、不機嫌そうにしてるんだ?」

「………別に」

そう言うと真名はスタスタと歩いて行く。

「?? 何を怒ってるんだ?」

理由が皆目見当つかない機龍。

………やはりこの男、かなり鈍い!!


情報収集を続けるガイアセイバーズ隊員達。

ある者は、街角で通行人からそれとなく。

ある者は、街の情報屋から金で。

ある者は、裏に通じていそうな人間を締め上げて。(オイ!!)

そして、日が沈みかけた頃………

基地の和美から情報が入った。

曰く、街外れの廃工場にて不審な集団が目撃されている、と。

一同はすぐさま、街外れの廃工場へと向かった。

そして、廃工場を囲むように展開する。

「全員、配置についたか?」

各員に通信で確認を取る機龍。

「こちら、ネギ。アスナさんも一緒です。配置につきました」

「こちら、ジンとサクラ。配置につきました」

慣れた感じの返事で返すジンとネギ。

「刹那です。お嬢様………」

「このちゃんゆうて〜」

「………このちゃんも一緒です。配置につきました」

このかといちゃつきながら?返事を返す刹那。

「楓でござる。クーも一緒でござる。配置についたでござる」

「踏み込むアルか!? そういうのは望むところアルよ!!」

血気盛んに楓の返事に割り込むクー。

「私だ………いつまで待たせる気だ! とっとと血祭りに挙げさせろ!!」

[マスター、落ち着いてください]

今にも飛び出して行かんばかりの声のエヴァとそれを止める茶々丸の声が返ってくる。

「待て、もうしばらく様子を………」

「おい、機龍!! アレ!!」

真名の叫びに機龍が廃工場の入り口に目を向ける。

「!? レニーデイくん!?」

そこには、テントにいるはずのザジの姿があった。

ザジは一度、廃工場の入り口から中を覗き込むとやや躊躇った後、中へと入って行った。

「!! マズイ!!」

「くっ!! 全員、突入!!」

機龍の命令と共に全員は廃工場へ突入した。


日が沈みかけ、真っ暗になりかけている廃工場の中を歩くザジ。

機龍に待っていろと言われたものの、やはり動物達が心配でサーカステントを飛び出し、独自に情報を集めてここに来たのだった。

と、奥から動物の鳴き声らしきものが聞こえてくる。

「!!」

その声に導かれるように奥へと駆け出すザジ。

すると、檻に入れられた動物達を発見する。

「………あ!?」

その中の一角にサーカスの動物達の発見する。

すぐさま駆け寄り、安否を確認する。

サーカスの動物達はザジの姿を確認するとうれしそうな鳴き声を挙げる。

「………よかった」

それを聞いて、無事だと確認するザジ。

そして、今度は檻の鍵を何とか外そうと試みる。

が、

「おっと、お嬢ちゃん。いけないな〜、そんなことしちゃ〜」

突然現れた男がザジの後頭部に銃口が突きつけた。

「!!」

「おい、どうした?」

「お、カワイイお客さんだな」

さらに十数人の男が現れる。

「このお嬢ちゃんが大事な商売道具に悪戯しようとしててよ〜」

「そいつはいけねーな〜」

「少しお仕置きしてやるか」

そう言って、ザジへと手を伸ばす男。

「待て、お前達」

「「「「ボス!!」」」」

ボスと呼ばれた男がザジへと近づく。

「見た感じ、かなりの上玉だ。外国にでも売り飛ばした方が金になる」

厭らしい笑みを浮かべて言う密売団のボス。

「おお、そいつはいいッスね」

「確かにこのガキ、高く売れそうですね」

部下達も厭らしい笑みを浮かべる。

「……………」

ザジは無言で男達を睨みつける。

「ああん、何だ? その目は?」

「生意気なガキだ」

「ボス、ちょっとだけ可愛がってやってもいいですかい?」

「………後は残すなよ」

それを聞いて、再びザジに手を伸ばす数人の男達。

恐怖に目を瞑るザジ。

と、その時、

天井を突き破り、数人の人影が降ってきた。

「なっ!?」

驚いている男達に人影は飛び掛かる。

ある者はパ○・スペシャルを仕掛け、ある者はハリセンでブッ叩き、ある者は中国拳法をお見舞いし、ある者は長刀で峰打ちし、ある者は分身して連撃を叩き込む。

「サツか!? それとも、魔法協会か!?」

「兎に角、逃げろ!!」

慌てて出口に向かう密売団。

すると、今度は物陰から一斉に人影が現れ、様々な銃を向ける。

「何!?」

「撃てーー!!」

ショットガン、大型ハンドガン、ガトリング砲、デザートイーグルが火を吹く。(ゴム弾です)

「ぎゃあーー!!」

「ぐわっーー!!」

次々に倒れていく密売団。

「今度は何だ!?」

「クソ、逃げろー!!」

生き残った密売団は別の方向に転換する。

だが、

「ラス・テル マ・スキル マギステル 風の精霊17人 縛鎖となりて 敵を捕まえろ 魔法の射手・戒めの風矢!!」

「氷爆!!」

風の鎖に縛られ、氷の爆発に凍りつく。

「……………」

その光景に呆気とられるザジ。

と、1人の人影がザジに近づく。

「大丈夫か? レニーデイくん」

「!!………機龍先生」

さらに驚くザジ。

「………どうして?」

今のザジの言葉を訳すと、どうして機龍先生がここにいるの? さっきの攻撃は何? と言っている。

「あ〜………いや〜………それは………」

どう説明したものかと口籠る機龍。

「大変です!! 機龍さん!!」

そこへ、ネギの慌てた声が響く。

「どうした!?」

「ボスの男の姿が見当たりません!!」

「何!?」

そして、次の瞬間!!

工場の壁の一角が爆発した。

「キャアーーーー!!」

「何事だ!?」

爆発で空いた穴から、6輪の装輪式戦車が現れる。

「!! 奴等、あんな物を!?」

機龍達の方に砲口を向ける装輪式戦車。

「こうなったらみんな御終いだ!! 全て吹き飛ばしてやる!!」

ボスの男の怒声が響く。

「マズイ!! 全員退避!!」

と、その時!!

ザジが咄嗟に投げナイフを砲口に投げ込んだ。

発射直前だった砲弾が暴発し、砲塔が吹き飛ぶ。

「どわっーーーーー!!」

ボスの男が悲鳴を挙げる。

「おお!! やるな、レニーデイくん!!」

ザジの咄嗟の行動に驚く機龍。

「ち、ちきしょう〜〜〜………」

吹き飛んだ砲塔部分から、アフロヘアになったボスの男が這い出してきて、尚も逃げようとする。

「おっと、逃がすか!! 48の殺人技!! 風林火山!!」

ボスの男に掴みかかり、サイクロンホイップで回転させる!

「速きこと風のごとく!!」

続いて、ローリングクレイドルを掛けながら上昇する!

「静かなること林のごとく!!」

そして、パイルドライバーで脳天を地面に叩きつける!

「侵略すること火のごとく!!」

再び飛び上がり、空中でロメロ・スペシャルを決める!

「動かざること山のごとく!!」

「げばっ!!(吐血)」

完璧に決まった!!

「やったーー!! さすが機龍さん!!」

(((これまたすごい技をだしたな………)))


その後、密売団は魔法協会に引き渡し魔法に関する記憶を消した後、警察へと連行された。

そして………

「新メンバーを紹介する。ザジ・レニーデイくんだ」

「…………」

無表情・無言で挨拶するザジ。

現場を見られた為、機龍はザジをガイアセイバーズへと引き込むことで機密を守ることにせざるをえなかった。

幸い、ザジは多少なり魔法のことを知っていた為、説明のほどは問題なく済んだ。

それでも機龍の心境は複雑だった。

戦力が増えるのは嬉しいが、これ以上、無関係な人間を巻き込みたくはなかった。

「…………気にしないで」

訳:気にしないで、私が自分で決めたことだから

「すまないな………」

幾分か重荷が軽くなるのを感じる機龍だった。


NEXT


前へ 戻る 次へ