第50話


その日、基地で待機していた機龍の元に、惑星Jのアルサレア本国から星間通信が届いた。

「生物兵器!?」

「うむ。ヴァリム本国の研究所から第二地球へ送られたという情報が入った」

メインモニターに映っているのは、アルサレア機甲兵団参謀本部の参謀本部長のツェレンコフ・ゴルビー参謀だった。

かつて、グレン小隊のバックアップをしていた名参謀だ。

現在も、首相に就任したフェンナ・クラウゼンと、元帥となったグレンリーダーを支えている。

「スマンな………本来ならば、もう1小隊ぐらい援軍を差し向けてやりたいのだが………ここのところ、ヴァリムが大攻勢に出ており、どこも手が廻らん状態だ。正式に派遣できるのは2人が限界だ」

「いえ………それだけで十分です。これは我々、セイバー小隊に課せられた任務です。我々の手で何とかします。協力者もいてくれますし………」

最後の部分は声のトーンが落ちる。

彼女達は自分達から協力してくれているが、民間人………しかも、年端もいかない子供達を巻き込んでいることが軍人として不甲斐なくて堪らなかった。

「しかし、いい報告もある」

「? 何ですか?」

怪訝な顔になる機龍にツェレンコフ参謀は言う。

「ガーディアンエルフを知っているかね?」

「はい。あの反戦争を訴えて行動を行なっている独立軍のことですね」

「うむ………そこのレッディー・ブルニートと、ゼライド・コルコットという男達が協力を申し出てくれた」

「!! あの『緑光の弾丸』と『灼熱の武人』と呼ばれた2人ですか!?」

驚く機龍。

ツェレンコフ参謀の言った人物は、かつてアルサレア戦役でアルサレア軍としてグレンリーダーと並ぶ戦果を挙げたと噂される、エース中のエースだ。

「遅くとも、そちらの時間で明日中には到着させる予定じゃ。………では、頼んだぞ! セイバーリーダー!!」

「ハッ!!」

機龍が敬礼すると、モニターが切れる。

「アルサレア戦役後、2人とも退役したと聞いていたが、ガーディアンエルフとして活動していたなんて………だが、味方としては、頼もしすぎるぐらいだ」

と、そこへ、作戦室入り口のドアが開き、慌てた様子のジンとサクラが入ってきた。

「た、大変です!! リーダー!!」

「緊急事態です!!」

「どうした、2人共? そんなに慌てて?」

?を浮かべる機龍に2人は声を揃えて言った。

「「麻帆良川に怪物が出現しました!!」」

「何!?」











街の一角を流れる麻帆良川の川べりでは、警察や野次馬が集まり、騒ぎ立てていた。

そんな中に現れて、事件現場へと入っていくセイバー小隊一行。

「これは………」

目を疑う機龍。

そこには、無残に破壊された食肉運搬用の大型トラックがあった。

肉を積んでいた荷台部分は車体から切り離され、巨大な歯型の傷が残っており、車体は物凄い力で押し潰されたようになっている。

辺りには食い散らかされた肉片が散乱していた。

「少なくとも人間の仕業じゃないな………」

「ホントだって!! 見たんだよ!! 川から怪物が現れて、トラックの肉を全部食っちまったんだ!! 信じてくれよ!!」

叫び声が響いたので、それが聞こえてきた方向を見ると、トラックの運転手らしき男がパニクった様子で職質をしている刑事に捲くし立てていた。

「怪物か………」

「この現場を見る限り、そうとしか思えないような状況ですね」

ボツリと呟いた機龍に、ジンが言う。

「そうだな………ん?」

と、機龍は何かを発見したかのように、川べりの壊れた手摺りに向かって駆け出した。

「リーダー!?」

「どうしました!?」

そして、その壊れた手摺りに僅かに掛かっていた、食肉の破片とは違う肉片を注視する。

「これは………」

「その肉片が何か?」

追いかけてきたジンが聞く。

「………すまないが、鑑識の人に言って、採集用の道具を借りてきてくれ」

「え? あ、分かりました」

鑑識の方へと駆けて行くジン。

「一体どうしたんですか?」

残されたサクラは、怪訝な顔をする。

(……………まさか)

機龍の頭には、自分でも嫌になるほど良く当たる、嫌な予感が渦巻いていた。











機龍達は、基地へと帰還すると、採集した肉片を超とハカセに分析するよう依頼し、メンバーを全員招集した。

「何があったんですか? 機龍さん」

「全員召集ということは、只事ではあるまい」

何があったか尋ねるネギと、事態の重さを把握しているエヴァ。

「………皆、先程の事件は知っているか?」

ゆっくりと口を開く機龍。

「ええ、寮への帰り道だったから、学校帰りにチラッと………」

「トラックが目茶目茶に壊れとったのやろ?」

アスナとこのかが答えた。

「何か、トラックの運転手が、怪物を見たとか騒いでいたけど………」

「怪物………ですか?」

和美の意見に怪訝な顔になるさよ。

「妖怪の仕業ではないんですか?」

「いや、その時、まだ日が高かった………ここいらの妖怪がその時間に活動していたとは考えにくい」

あやかの意見を否定する真名。

「じゃあ、一体?」

「案外、どっかの生物兵器だったりしてな、ハハハ」

のどかの疑問の声に、おどけて言う千雨。

「そうかもしれん………」

「「「「「「えっ?…………」」」」」」

機龍の言葉に凍りつく一同。

「先刻、アルサレア軍本部から連絡があり、ヴァリムが生物兵器をヘルキラーズ小隊へ送った、という情報が入った」

「じ、じゃあ、あの事件は!?」

「100%そうだとは言えんが、可能性は高い」

機龍に変わって答えるジン。

「学園長を通じて、市長から表向きは連続殺人犯が麻帆良に潜伏しているという理由で、麻帆良全域に厳戒警報を発令してもらい、外出禁止を呼びかけた。警備部にも連絡を取り、見回りを強化してもらっている」

状況を説明し始める機龍。

「しかし………もし、ヴァリムの生物兵器の仕業ならば、対処できるのは我々だけだ。現時刻から、第1級警戒態勢を取る! 皆にはしばらく基地で待機してほしい」

「分かりました、機龍さん」

「そんなのが、いるかも知れないって言うんじゃ、おちおち外も歩けないしね!」

「ありがとう………なお、今回に限って、万が一の時は市街戦を限定的に許可する。多少の騒動は魔法協会の方が処理をしてくれる。だが、なるべく被害が出ないように頼む」

静まり返るネギ達。

機龍の言葉の裏には、被害が出ることも覚悟しなければ、対処できないという意味も込められていた。

「それから、明日、アルサレア本国から2名と、ガーディアンエルフから2名の援軍が到着する。協力体制を取るようにしてくれ」

「ガーディアンエルフから?」

「本当ですか?」

これには、ジンとサクラも驚いた。

「ああ………聞いて驚け、あの『緑光の弾丸』レッディー・ブルニートと、『灼熱の武人』ゼライド・コルコットの2人だ」

「「なっ!!」」

さらに驚いた顔になる2人。

「何ですか? その………ガーディアンエルフとか………『緑光の弾丸』と『灼熱の武人』とかって?」

事情が分からぬ3−A組を代表してネギが聞く。

「ガーディアンエルフと言うのは、アルサレア、ヴァリムのどちらにも属さない独立軍のことで………」

「『緑光の弾丸』と『灼熱の武人』というのは異名ですよ………かつての大戦で、アルサレア最強と称されたグレンリーダーと肩を並べるエースの………」

「要するに、途轍もなく強い人ってことね。凄いじゃない!! そんな人達が援軍に来てくれるなんて!!」

強い援軍が来ると聞いて、期待を膨らますアスナ達。

「明日までに生物兵器のヤツが出なければの話だがな………」

「「「「「「あ………」」」」」」

途端にアスナ達はガクッとした。

と、そこへ!!

警報音が鳴り響き、ハザードランプが回転した。

「「「「「「!!」」」」」」

「どうした!?」

身構えるネギ達と、オペレーター席に向かって尋ねる機龍。

「麻帆良学園都市自然公園エリアの川に、巨大な生命反応を確認しました!!」

夕映が落ち着いて答える。

「ついに来たか!!」

「機甲兵団ガイアセイバーズ、出動!! 幸いにも、敵は人気のない公園エリアだ。何としても撃滅せよ!!」

「「「「「「了解!!」」」」」」











日はすっかり暮れ、暗雲が空を覆い、雨が地面を鳴らす中で自然公園に展開するガイアセイバーズ。

それぞれ、油断なく得物を構えて、頭部ライトを点灯して辺りに気を配っている。

「これと言って変わったところはありませんね………」

「油断するな、相手の能力は未知数だ。何が飛び出すか分からんぞ」

気が緩みかけたネギを、嗜める機龍。

「ちょ、ちょっと、皆!! こっち来てーーーっ!!」

そこへ、アスナが叫びを挙げた。

「どうしました? アスナさん」

「何や!? 出たんかいな?」

アスナの元へと集まる一同。

「こ、これ………」

そう言って、Gヴァルキューレがライトで照らした地面に、ヘドロのような黒い粘着液が足跡のように川から続いていた。

「これは!?」

「間違いなく、何かがここいら辺にいるな」

今度は、Jフェニックスがヘドロの続く先を照らしてみたが、雨により途中で掻き消されていた。

「むう………仕方がない。散開して捜索する。ただし、2人1組で行動しろ。目標を発見した場合には、すぐに交戦せず、全員に連絡を取って、集合したのちに一斉攻撃する」

「ええ〜〜!! そんなめんどいことせんでも、見つけたら一気にやつけちまった方が………」

「命令だ!! 小太郎!!」

「お、おう!!」

先走ろうとする小太郎を一喝する。

その後、機龍&真名、ジン&サクラ、ネギ&小太郎、アスナ&刹那(+このか)、エヴァ&茶々丸、風香&史伽、楓&クー、あやか&ザジにペアを組み、公園内の捜索に出た。











あやか&ザジペア………

「「……………」」

無言で森林エリアの捜索を続けるあやかとザジ。

ザジは何時もの事。

あやかは得体の知れないモノと戦うという恐怖心からダンマリに入っている。

(う、ううう………ネギ先生のためとは言え………流石に怪物と戦うなんて、恐ろしすぎますわ………)

ビクビクするあやか。

と、不意にメインモニターが真っ暗になった。

「キャア!! な、何ですの!?」

慌ててサブカメラに切り替えると、モニターが再び映像を映し出す。

どうやら、メインカメラに何かが掛かったようだ。

「もう〜〜! 驚かさないでほしいですわ」

Gレディは左手でカメラアイを拭く。

拭った手を映してみると、黒いヘドロのような物体が付着していた。

「へっ?」

「!! 危ない!!」

ザジが叫びを挙げるという珍しいことに驚く暇もなく、Gレディの上に『何か』が圧し掛かった。

「キ、キャアァァァーーーーーーッ!!」

絹を裂くような悲鳴を挙げ、操縦桿をガチャガチャと動かすあやか。

シャアァァァァァァァァーーーーッ!!

しかし、『何か』は咆哮すると、Gレディを仰向けに押し倒し、両腕を押さえつけると、巨大な口でGレディの頭を食いちぎった。

「ヒィィィィィィィッ!! ネギ先生ーーーーーっ!!」

メインカメラがやられ、暗転したコクピットでパニックを起こすあやか。

「フッ!!」

そこへザジが、トランプカッターでGレディに張り付いている『何か』に攻撃する。

しかし、トランプカッターは『何か』に当たりはしたものの、弾かれて地面に突き刺さった。

シャアァァァァァァァァーーーーッ!!

だが、『何か』は驚いて、Gレディの上から飛び退き、Gマジシャンと対峙する。

ザジはGマジシャンのライトで、『何か』を照らす。

それは………

背中は亀のような甲羅に覆われ、蜘蛛のような足で這い、尻尾は魚の尾ひれのようで、右腕らしき部分は蟹のハサミ、左腕と身体の側面の至る所にはイソギンチャクのような触手が生え、頭部と思われる部分は昆虫のような目が6つ付いており、ワニのように大きな口をしていた全体が黒色の怪物だった。

世にもおぞましい姿だ。

「…………!!」

息を呑むザジ。

シャアァァァァァァァァーーーーッ!!

怪物は唾液を垂らしながら吼える。

身体からは黒い体液が染み出している。

「こちら、ザジ………目標らしきものをはっけ………」

機龍達に通信を送ろうとした、その時!!

シャアァァァァァァァァーーーーッ!!

いきなり怪物が飛び掛って来た!!

「!! 速い………」

慌てて投げナイフ爆弾を投げつけるGマジシャン。

数本が突き刺さり、爆発するものの、怪物は気にも留めず、Gマジシャンに向かって右手のハサミを振り下ろす。

回避行動を取るものの、間に合わず、左腕を肩から鋏まれて切断された。

切断部に雨水が当たって、火花が飛び散る。

「………左腕大破………稼働率………15%低下………」

損害状況を確認しつつ、ザジは対抗手段を模索する。

シャアァァァァァァァァーーーーッ!!

しかし、そんな暇も与えず、怪物は再びザジへと襲い掛かる。

「!!………」

今度はGマジシャンの右腕に食いつく。

バキッバキッと音を発て、右腕が潰れていく。

ザジは、何とか引き剥がそうと足で蹴りを入れるが、怪物はまったく応えない。

絶対絶命か!?

その時………

「見つけたで!! バケモン!!」

「ザジさんを離しなさーーい!!」

突如現れた、小太郎のGウルフと、アスナのGヴァルキューレが、ギア・ドリルとハマノツルギで怪物に攻撃を仕掛けた。

「待て、2人共!! 迂闊に近づくな!!」

続いて現れた、ガイアセイバーズメンバーの先頭にいた機龍が慌てて止めたが、時既に遅し。

シャアァァァァァァァァーーーーッ!!

怪物は、首をブンッと振って、Gマジシャンの右腕を食いちぎると、右手のハサミでGウルフの胴体を鋏み、身体の側面の触手を伸ばしてGヴァルキューレを絡め取った。

「キャア!!」

「しもうた!!」

2人がそう言った次の瞬間!!

Gウルフは胴から真っ二つにされ、Gヴァルキューレは手足をもがれた。

「うわぁぁぁーーーーっ!!」

「キャアァァァーーーーッ!!」

「アスナさん!! 小太郎くん!!」

「くっ!! 長瀬くん!! 真名!! 4人を回収してくれ!!」 

「「了解!!」」

GニンジャとGガンナー(アーティファクト装備)が4人の回収に向かう。

「残りは集中砲火で注意を逸らすんだ!!」

しかし………

「うえ………気持ち悪い………」

「お嬢様!? し、しっかりしてください!!」

「こ、怖いよ〜〜〜!! お姉ちゃ〜〜〜〜ん!!」

「あう、あう、あう…………」

怪物のあまりのおぞましい姿に、このかが気分を悪くし、鳴滝姉妹が引き付けを起こしかけている。

「!! イカン!! サクラくん!! 彼女達を離脱させて治療を!!」

「了解!! ジン!! 手伝って!!」

「任せろ!!」

Gウイングは全操縦を刹那に回して、Gツイン・ルビーをJブレイダーが、Gツイン・サファイヤをJランチャー・サクラスペシャルが連れて離脱する。

「今度こそいくぞ!! 一斉攻撃ーーーーっ!!」

残ったJフェニックスカスタムがショットガンとマグナム、Gウィザードが魔法の射手・雷の矢、Gバンパイヤが魔法の射手・氷の矢、Gジェットが全武装で攻撃する。

シャアァァァァァァァァーーーーッ!!

しかし、JフェニックスカスタムとGジェット攻撃で甲羅の一部と足と触手が数本ほど弾け飛んだが、GウィザードとGバンパイヤの魔法の射手は障壁のようなモノで防がれた。

「!! 何!?」

「魔法が効かない!?」

シャアァァァァァァァァーーーーッ!!

怪物は痛手を受けたからか、川を目指して走り出す。

「!! いかん!!」

慌てて機龍が追うが、一歩届かず、怪物は川へと飛び込んだ。

「クソ!!」

川に向かってショットガンを撃つJフェニックスカスタム。

しかし、手応えはなかった。

降りしきる雨は、激しさを増していった………











「酷くやられたネ………」

機甲兵団ガイアセイバーズ基地格納庫にて、帰還したメンバーのPFを見て呟く超。

Gレディは頭をもがれ小破。

Gマジシャンは両腕を失い中破。

Gウルフは胴から真っ二つにされ、Gヴァルキューレは四肢をもぎ取られて大破。

「………修理にはどれぐらい掛かる?」

「Gレディが1日、Gマジシャンが3日、GウルフとGヴァルキューレは5日………どれだけ急いでも、最低、それだけは掛かります」

修理日数を聞くジンに、整備メカに指示を出しながらハカセが言う。

「そうか………」

「ねえ、ねえ、ジンさん!! いいんちょ達は大丈夫なの!?」

「小太郎ちゃんは? 無事なの!?」

整備員用作業着姿の夏美と千鶴が、ジンに詰め寄る。

「ザジちゃんは無事だったが………小太郎くんとアスナちゃんは機体大破により脱出したが、衝撃で脳震盪を起こし………あやかちゃん、このかちゃん、風香ちゃん、史伽ちゃんは精神的ショックを受けて………現在、入院中だ」

「そんな!!」

「!!」

ジンの報告に夏美は悲痛な叫びを挙げ、千鶴は驚愕の表情を浮かべる。

「今はサクラとネギ先生達が付き添ってくれている………君達も、後で見舞いに行ってくれないか?」

「もちろんだよ!!」

「分かってます」

そう言うと、機体修理に懸かるべく、2人はハンガーへと駆けて行った。

「そう言えば、機龍はどしたネ?」

「リーダーなら作戦室だ。今回の件を学園長に報告している」











「ふむ………そうか。撃破には至らんかったか………」

「申し訳ありません………お孫さんを始め、生徒の皆に多大な被害を与えてしまいました………如何なる処分もお受けいたします」

モニターに映る学園長に向かって、深々と頭を下げる機龍。

オペレーター組はアスナ達の見舞いに行っているので、作戦室にいるのは機龍1人だ。

「今はそれよりも、生物兵器撃破が最優先じゃ。君の処分は事が済んでからとする」

「いえ! しかし、それでは………」

「君達以外に、あの怪物と戦える者はおらん。な〜に、一度の失敗ぐらいで、落ち込むんじゃない」

「………すみません」

「頼んじゃぞ」

学園長がそう言うと、モニターは切れた。

「……………ふう」

それを確認すると、機龍はタメ息を吐いて椅子に腰掛けた。

と、作戦室の扉が開き、両手にカップを持った真名が現れた。

「機龍、コーヒー持って来たぞ」

「ああ、真名………ありがとう」

真名からカップを受け取ると、一口飲んでみせる機龍。

「!! うっ!!」

「ど、どうした!? 機龍!!」

顔を顰めた機龍に、慌てる真名。

「あ………」

「あ?」

「甘すぎる………」

その言葉にヘナヘナと脱力して、機龍の隣の椅子に座る真名。

「………たったのスティックシュガー1本分だけだぞ」

「俺、甘いのダメなんだ」

そう言ってカップを置く機龍。

「やれやれ………無敵の男の弱点見たり、だな」

「俺は無敵なんかじゃないさ………」

そう言うと、表情にやや陰りを見せる。

「他星の………しかも一般人の君達を戦いに巻き込み、挙句の果てに、負傷者まで出してしまった………ただの情けない男さ」

「そう自分を責めるな」

「事実さ………この次にヤツが出現したら、君達3−A生徒組は待機していてくれ」

「………セイバー小隊だけでケリをつけるつもりか?」

「そうだ………これ以上君達に迷惑を………!! イダダダダダッ!!」

機龍が台詞を言い終わる前に、真名が機龍の頬を引っ張った。

「言ったはずだぞ? そういうことは、言いっこなしだって………」

「と、とりあえず!! 手を離せ!!」

機龍の抗議を無視して、さらに機龍の頬を引っ張る真名。

「イダダダダダッ!!」

「お前は、私やネギ先生達が、仕方なく協力しているとでも思っているのか?」

心外だと言わんばかりに、機龍を見る。

「言っただろう………私達は自分の意思でここにいる。皆、お前の力になりたいと思っているんだ」

「真名………」

真名の話に聞き入る機龍。

「それに………私はお前のパートナーだ。どんな事があっても、お前の味方だ」

と、言ってて恥ずかしくなったのか、真名は手を離すと赤くなった顔を背ける。

「………そうだったな、ありがとう」

そう言って、機龍は真名の頭を優しく撫でる。

(あ………暖かい)

幸せ一杯とばかりの良い気持ちになる真名。

と………

〈あ、あの〜〜〜〉

「!! なっ!?」

「ああ、四葉くんか」

いつの間にかいた四葉が怖ず怖ずといった感じで声を掛けてきた。

この前の事件以来、五月は機龍達の正体を知り、給仕係として働いていた。

「い、何時からそこに!?」

機龍から飛び退くように離れて、目に見えて慌てて聞く真名。

〈龍宮さんが機龍さんの頬を引っ張ったあたりから………気づきませんでした?〉

ボンッと音がせんばかりに、真名は顔を真っ赤にする。

「それで、どうかしたか?」

そして、相変わらず冷静なままで五月に尋ねる機龍。

〈はい、あの………今回の事件に、ハクヤさんは………〉

「出てきたのは生物兵器と思われる怪物だけだ。ハクヤ・ロウの姿は確認できていない」

〈そうですか………〉

超包子に来る客には、絶対見せないような悲しげな顔をする五月。

(………やはり、四葉くんはハクヤのことを………)

五月は、この前の事件以来、ハクヤ・ロウのことを気にかけていた。

出撃があったたびに、ハクヤがいたか聞きに来ていた。

「四葉くん………余計なことかもしれんが………あまりアイツに肩入れするのは………」

〈すみません………でも、私………どうしても気になるんです………失礼しました〉

そう言って、五月は作戦室から出て行った。

「ふう………ハクヤめ………どこまで俺達に迷惑を掛ける気だ………」

タメ息を吐きながら機龍は言うのだった。

「じ、じゃあ、機龍。私はそろそろ行くよ」

さっきにことがまだ尾を引いてるのか、赤い顔のまま立ち上がる真名。

「ああ、ありがとう。明日は日曜だから朝一で、対策を立て直す会議を開く。皆にも伝えといてくれ」

「あ、ああ………それじゃ、御休み」

「御休み………」

挨拶を交わし、真名は作戦室を出る。

残された機龍は、明日への会議を頭の中でまとめるのだった。










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