第54話


「勝負や! ネギ!!」

作戦室に響く、小太郎の威勢のいい声。

「あー………うん………また今度ね」

しかし、周りにいる機龍達はおろか、声を掛けられたネギすらその言葉を聞き流している。

「って、オイコラ!! 何聞き流しとんのや!!」

当然のごとく怒る小太郎。

機甲兵団ガイアセイバーズに入隊後も、小太郎は事あるごとに、ネギに勝負を持ちかけてくるのだ。

「今度こそ、京都での決着をつけようって言ってるんや!!」

「もういいよ、そんなの………」

流石のネギも、毎回のように言われてきたのでうんざりしている。

「小太郎くん。我々は今、強大な敵と戦っているんだ。仲間同士で争っている場合ではない」

「確かに俺は今、ガイアセイバーズの一員やが、ネギは俺のライバルや! 決着がつかなかった勝負の続きをするのは当然やんか!」

咎める機龍に突っ掛かる小太郎。

機龍はタメ息を吐きながら、座っていた椅子から立ち上がる。

「そこまで言うのなら仕方がない………」

「おお! 話が分かるやないけ!! ほんなら………」

「君にしばらく休職を言い渡す」

「なっ!?」

これには、小太郎はもちろん、他のメンバー達も驚きの表情を見せる。

「しばらくの間、頭を冷やして強さについて考えてみるんだな。さっ、行った行った」

追い払うように言う機龍。

「き………機龍の兄ちゃんなんて………大嫌いや〜〜〜〜〜っ!!」

主を翻すと、バッと駆け出し作戦室を出て行く小太郎。

入れ違いに入ってきたレイが、機龍に?な表情を向けて聞く。

「何があったんだ?」

「あいつには少し考えることが必要だ」

「??」











夕焼けの街を歩く小太郎。

「チッ!! 機龍の兄ちゃんのバカ………」

面白くなさそうに、機龍に愚痴を零す。

と、そんな小太郎の頭の上に何かが乗った。

「あん? 紙飛行機?」

手に取ったそれは、良くできた紙飛行機だった。

「お兄ちゃ〜〜ん、ゴメン!! それ、僕のなんだ〜〜!!」

とう言う声が、小太郎の頭上から降って来た。

見上げてみると、病院らしき建物から少年が顔を覗かせていた。

「何や、お前んか。ちょっと待っとれ!」

小太郎は跳躍すると、少年のいる窓へ飛び乗った。

「わあ〜〜っ! お兄ちゃん、凄い!!」

「ほれ、気をつけろよ」

感動する少年にぶっきら棒に言う小太郎。

「ありがとう」

「お前、紙飛行機好きなんか?」

ベットの上にところ狭しと置かれた紙飛行機を見て言う。

「紙飛行機というより、空が好きなんだ」

窓の外の夕焼けの空を見る少年。

「僕、この部屋から何時も空を見てたんだ。そうしているうちに、この空を自由に飛んでみたいなって思うようになったんだ」

「それで代わりに紙飛行機飛ばしとったんか」

納得したという顔になる小太郎。

「病気が治ったら、絶対空を飛ぶんだ」

「そうか………ま、頑張れや」

そう言って、小太郎は少年の部屋を後にしようとする。

「あ! 待って! 僕、翔って言うんだ! お兄ちゃんの名前は?」

「あん? 犬神小太郎や」

「小太郎お兄ちゃん! よかったら、明日も遊びに来てよ!」

小太郎は少し考えた後、応えた。

「ええで。どうせしばらくは暇なわけやし」

「やったー! 約束だよ!!」

喜びを明らかにする翔。

「ああ、分かった、分かった」

ヒラヒラと手を振り、翔の病室の窓から去る小太郎。

(変なヤツやな、まったく………)











次の日の昼過ぎ。

小太郎は律儀に約束を守り、翔の病室の下まで来ていた。

(面倒やけど………約束やからな………)

小太郎は跳躍すると、翔の病室の窓に飛び乗る。

「あ! お兄ちゃん!! 来てくれたんだ!」

小太郎に気づき、笑顔になる翔。

「ま、約束やったからな」

ぶっきら棒に言う小太郎。

「じゃあ、紙飛行機飛ばそうよ!!」

そう言って、小太郎に紙飛行機を差し出す翔。

「ああ、ええで」

紙飛行機を受け取る小太郎。

「よ〜し、それじゃ………えい!」

「ほれっ!」

2人同時に紙飛行機を投げる。

2つの紙飛行機は、部屋の中を旋回しながら飛ぶ。

やがて、小太郎が投げた方が先に失速した。

「あ!?」

「へへーーっ! 僕の勝ち!!」

「くそーーっ!! もう1回や!!」

ムキになる小太郎。

………どちらが子供か分からない。











最初はノリ気でなかった小太郎だったが、翔と遊んでいるうちに、夢中になっていった。

「お〜〜し! 次は何する?」

「うん! 次は………!! ゴホッ、ゴホッ!!」

と、突然翔が咳き込んだ。

「ど、どないしたんや!?」

「ゴホッ、ゴホッ!!」

さらに激しく咳き込み、遂には吐血した。

「お! おい!! 誰か!! 誰かいないんか!?」

慌てて人を呼ぶ小太郎。

「どうしました!?」

それを聞いた看護婦が、病室へと入ってくる。

そして、翔が吐血しているのを見て驚く。

「!! 翔くん!! いけない!! また発作だわ!!」











その後、担当の医師が駆け付け、鎮静剤を打ったことで翔の容態は安定した。

翔は、まだ鎮静剤が効いているので眠っている。

その寝顔を、不安そうに見つめる小太郎。

と、そこへ、1人の女性が入って来た。

「翔!!」

翔へと駆け寄る女性。

「あんたは?」

「翔の母です。あなたは………翔のお友達?」

「ん? まあ、そんなもんや………」

どう言ったものかと思い、曖昧に答える小太郎。

「そう………ありがとう。心配してついていてくれたのね」

「なあ? コイツ、そんなに酷い病気なんか?」

「ええ………もう、後どれぐらい生きていられるかもしれないの………」

「なっ!!」

驚愕する小太郎。

いつ果てるかも知れない身………

なのに翔は、あんなにも明るく振舞っていたのだ………

「う………ううん………」

と、ここで、翔が目を覚ました。

「!! 翔!!」

「おい、お前!!………」

「あ………ママ………小太郎お兄ちゃん………ゴメンね………心配掛けちゃって………」

「!!」

小太郎はさらに驚愕した。

自分の身が危なかったというのに、翔は自分よりも、母と小太郎に心配を掛けたことを謝ったのだ。

「待っててね、先生を呼んでくるから」

翔の母は、担当医を呼びに、病室から出て行った。

「小太郎お兄ちゃん………」

「何でや………何でお前はそんな身体で人の心配ができるんや! 何時死ぬかも分かれへんのやで!!」

翔に疑問をぶつける小太郎。

翔は力なく微笑んで、弱弱しく言った。

「僕………ずっと病院暮らしで………外の景色なんて………ここの窓から見えるくらいしか知らなかったんだ………」

「…………」

小太郎は黙って、翔の話に耳を傾ける。

「だから………時々、我が儘を言って………ママや病院の先生達を困らせちゃったりもしてんだ………」

やや遠い目をする翔。

「でも………ママや病院の先生達は………僕のこと………嫌いになったりしないで………何時も構ってくれたんだ………だから………もうこれ以上心配させたくないんだ………」

「お前………」

翔の心の強さに、小太郎は今までにない衝撃を受けのだった。











少しして、診察が終わって病室を出て行った担当医を小太郎は追った。

「なあ! あいつ、助けられへんのか!? 何とかできんのか!?」

翔を救う方法がないか、小太郎は担当医を追求する。

「落ち着きたまえ………助ける方法がない理由ではない」

「ホンマか!?」

「ああ………最近発見された新しい手術方法を使えば、あの子を助けることができるかもしれない」

「なら、早く手術を!!」

捲くし立てるように言う小太郎。

「それが………ダメなんだ」

「な、何でや!!」

「実は………」

と、担当医が言いかけた時、ロビーの方から、ガラスが割れる音が聞こえてきた。

「!! 何や!?」

「また来たのか!!」

慌ててロビーに向かって駆け出す担当医。

小太郎も後に続いた。











ロビーでは、いかにもヤクザという感じの男達が暴れていた。

「お前達! また来たのか!!」

と、院長と思われる初老の男が現れ、ヤクザ達に言った。

「よー、院長さん。今日こそ、この病院を明け渡して貰いましょか」

アニキ格のヤクザが、1歩前に出て言う。

「何度も言うように、断る!! 君達にこの病院をやるつもりはない!!」

毅然と言い放つ院長。

「何だと!! この耄碌ジジイ!!」

「痛ーめ見なきゃ、分からねーみたいだな!!」

チンピラ達が院長を突き飛ばす。

「うわっ!!」

尻餅を突く院長。

「院長!!」

とそこへ、翔の担当医と小太郎が現れた。

尻餅を突いている院長に駆け寄る翔の担当医。

「大丈夫ですか!?」

「ああ、すまない………」

「何や? アイツ等は?」

状況が分からない小太郎。

「悪徳不動産に雇われたチンピラだよ。ここの土地が欲しいらしくて、しつこく嫌がらせに来るんだ。翔くんの手術ができないのもアイツ等の所為さ」

「何やて!!」

それを聞いて、小太郎はヤクザ達を睨みつけた。

心の中に、今までに感じたことのない、激しい怒りが込み上げる。

「どうせ残ってる患者なんぞ、助かる見込みのねー死にぞこないばかりだろーが!! ヒャハハハハッ!!」

悪態を吐くチンピラ。

次の瞬間!!

小太郎はそのチンピラに、テキサス・コ○ドル・キックを叩き込んでいた。

「ぐばっ!!」

「「「「なっ!!」」」」

驚く院長と翔の担当医とチンピラ達。

「ほう………」

只1人、アニキ格のヤクザだけが、じっと小太郎を見据えていた。

「な、何しやがる! このガキィ!!」

「喧しいわ!!」

驚いていたチンピラに右ストレートをお見舞いする。

「ごばっ!!」

「この野郎ーーーっ!!」

突っ込んで来たチンピラに足払いを掛け、倒れたところにテキサス・ク○ーバー・ホールドを決めた。

「ぎゃあーーーーっ!!」

続いて、呆然としていたチンピラの首にト○ホークチョップ!!

「はがっ!!」

あっという間にチンピラ達を伸してしまう。

と、アニキ格のヤクザが小太郎に拍手を送った。

「いや〜〜、強いな、ボウヤ」

「今度はお前の番やで!!」

構えを取る小太郎。

「おやおや、それは怖い。先生、お願いします」

「おう」

野太い声が聞こえて、病院の入り口から、牛の覆面を被ったマッチョな巨漢が現れた。

「何や? 自分じゃ勝てそうにないから他人に頼るんか?」

小馬鹿にするように言う小太郎。

「ええ、あっしは勝てない勝負はやらない主義でしてね」

さも気にせず、飄飄と言い返すアニキ格のヤクザ。

「俺の名は、ジャイアント・ブル。安心しろ、すぐに終わらせてやる」

指を鳴らしながら、小太郎の前に立つ覆面レスラー………ジャイアント・ブル。

「ああ………あんたを伸してな!!」

空かさずにジャンピング踵落としを見舞う小太郎。

しかし………

「ふん!!」

「何!?」

ジャイアント・ブルは、あっさりと片手でそれを受け止めた。

そして、そのまま床に叩きつける。

「がっ!! このーーっ!!」

だが、怯まずに素早く今度はローキックをお見舞いする。

「むっ!!」

グラつくジャイアント・ブル。

小太郎はそれを見逃さず、さらにローキックを叩き込み転ばせると、スピニング・ト○ホールドを決めた。

「ぐおぉ!!」

「どうや!!」

「何をこれしき!!」

身体を捻って脱出するジャイアント・ブル。

置き土産に延髄切りを叩き込んでいく。

「がっ!! クソーーーッ!!」

互いに距離を取って睨み合いとなる。

と、

「ハイハイ! そこまで!!」

アニキ格のヤクザが手を敲きながら、両者の間に割って入る。

「何や!? 邪魔すんな!!」

「何のつもりだ?」

「いやね、御2人の闘いを見ていたら、どうせだったもっと派手にやろうと思いましてね」

いかにも悪巧みをしているといった笑顔で言うアニキ格のヤクザ。

「どうですかボウヤ? ここは一つ、賭けをしませんか?」

「賭けやと?」

「そう。3日後に、あっしのいる組が経営している闇プロレス場でボウヤと先生の試合をするんです。もし、ボウヤが勝ったら、あっし等はこの病院から潔く手を引きましょう」

「ホンマか!?」

驚く小太郎。

「ただし、先生が勝ったら、この病院は貰い、ボウヤにはうちの組の鉄砲玉になってもらいましょう」

ハイリスク・ハイリターンとはこのことだ。

「イカン! 君、そんな賭けにのる必要は………」

「望むとこや!!」

院長が制止する間もなく、賭けにのる小太郎。

「それじゃ、3日後に麻帆良プロレス場で。期待してるよ、ボウヤ」

「逃げても構わんぞ………」

あからさまにバカにして去るアニキ格のヤクザと、見下して言って去るジャイアント・ブル。

小太郎は、2人の立ち去った後をじっと睨みつけていた。











その後、小太郎は、基地へ戻るないなや、トレーニングルームに籠もり、ひたすらサンドバックを殴り続けている。

変に思ったネギ達が、オペレーター組に調べてもらったところ、細かいことを抜いた事情が分かった。

「ヤクザの用心棒と果し合い!?」

「しかも、病院の土地を賭けて!?」

驚きの声を挙げるネギ達。

ネギ達はすぐさま、トレーニングルームへと向かい、小太郎に静止を促がす。

「ちょっと! 何考えてんのよ! アンタ!!」

「小太郎くん! バカなことはやめようよ!!」

ネギ達の非難の声を無視して、小太郎はサンドバックを殴り続ける。

「聞きなさいよ! 幾らネギとの勝負ができなくて機龍さんに叱られたからって、自棄を起こしてヤクザとなんて………」

「うるさいわ!! 気が散る!!」

「ヒッ!!」

尚も問い詰めるアスナを怒鳴りつける小太郎。

その目は真剣そのものだった。

と、後ろからその様子を眺めていた機龍が口を開く。

「いくぞ、皆」

「「「「「「機龍さん!?」」」」」」

「小太郎は休職中だ。何かあっても、それはアイツ個人の問題だ」

「でも………」

「仕事が溜まってるんだ。ほら、いくぞ」

そう言われて、ネギ達は渋々トレーニングルームを後にした。

相変わらず、小太郎はサンドバックを殴り続けていた。

(初めてだな………あいつが自分のためでなく、何かのために戦おうとするなんて………)

機龍は、出て行く一瞬だけ小太郎を見やり思うのだった。











そして3日間はあっという間に過ぎた。

麻帆良闇プロレス場にて………

「盛り上がってるな」

超に手を回してもらって、小太郎側の応援席についているガイアセイバーズ一同。

と言っても、いるのは機龍達だけだった。

対照的に、ジャイアント・ブル側の応援席は、ヤクザ者で埋め尽くされていた。

「ねえ、機龍さん。ホントにいいですか? こんなことやらせて?」

今だに疑問を感じているネギ。

「あいつは今、何かを掴みかけている。ここは、おとなしく見守ってやろう」

機龍はそう言って、リング上赤コーナーで、試合前のストレッチをしている小太郎を見やるのだった。

反対側の青コーナーでは、ジャイアント・ブルが腕組みをして立っている。

そして、セコンドとしてあのアニキ格のヤクザが付いていた。

「でも………」

「あれ? 何か人数足りなくない?」

と、アスナが、和美、超、クー、ジン、サクラ、レッディー、ゼライド、レイ、アーノルドがいないことに気づく。

「ああ、他の人達なら………」

と、機龍が言いかけた時、

「さあ〜〜〜、皆さん!! お待たせしました!! 世紀の1戦!! 犬神小太郎VSジャイアント・ブル!! 間もなく試合開始です!!」

試合開始寸前を告げるアナウンスが響いた。

「!? この声!!」

アスナ達が実況席を見やると、そこには和美、クー、レイの姿があった。

「実況は私、麻帆良パパラッチこと朝倉和美! 解説にはウルティマホラ優勝者の古菲! そしてゲストには麻帆良の鬼広域指導員、レイ・クルーウェルさんにお越しいただいております!!」

「この試合!! 女房を質に入れてでも見る価値が有るアルよ!!」

「鬼広域指導員って………そりゃないだろ」

吉○アナとアデランスの中○さんのような2人にやや当惑するレイ。

「な、何をやってるの? 朝倉に古菲は?」

困惑するアスナ達。

しかし、その後………

「では、今回の試合のレフェリーを務めます麻帆良の頭脳・超鈴音から、ルール説明が行なわれます」

和美がそう言うと、レフェリー姿の超が、リングの上に現れる。

「ちゃ、超さんまで………」

アスナ達の困惑はさらに深まった。

「ルールを説明するネ! 今回の試合方法は1ラウンドきり。ギブアップ、ノックアウト、10カウントダウンで負けとなるヨ。それ以外は何をしてもOKネ!!」

息を呑むアスナ達。

ルールは一応あるものの、これではデスマッチに等しかった。

「では!! 試合開始です!!」

「レディ…………ゴーッ!!」

ゲストのレイが、合図と共にゴングを敲いた。

カーーーーーンッ!!

「トリャアーーーーッ!!」

と同時に、小太郎がジャイアント・ブルにドロップキックをお見舞いした。

「ぐおっ!!」

「おーーーっと!! 小太郎選手!! ゴングと同時に強烈なドロップキックをお見舞いした!!」

「これは効いているアルよ!!」

「まだまだ!!」

よろけているジャイアント・ブルに向かって突進する小太郎。

「甘いは!! 小僧ッ!!」

しかし、ジャイアント・ブルは小太郎の突進を受け止めると、パワーボムでマットに叩き付ける。

「ごばっ!!」

「あーーーっと!! しかし、ジャイアント・ブル選手!! パワーボムで報復!!」

「コンチクショウ!!」











その後、両者1歩も譲らず、技の応酬を続ける。

「さあーーー、両者1歩も譲らず、技の応酬を続けている!!」

「いや、小太郎の方がスピードで若干押しているアルよ!!」

クーの言うとおり、小太郎の技の方が若干多く入っていた。

「へっ!! どないしたんやオッサン? さっきから俺の技の方ばっか決まっとるで!!」

「ぐう〜〜〜っ!! おのれ〜〜〜〜!!」

(ちっ!! 風向きが悪いですね…………しかたないですね…………あの手でいきますか………)

セコンドについているアニキ格のヤクザが懐を漁る。

「ぬおぉぉぉ〜〜〜〜〜っ!!」

小太郎に向かって突進するジャイアント・ブル。

「何の!!」

しかし、小太郎は勢いを利用してショルダースルーで投げ飛ばす。

「ぐおわっ!!」

「もらったで!!」

倒れたジャイアント・ブルの足を素早く取り、スピニング・ト○ホールドを決める。

「でたーーーーーっ!! 伝家の宝刀!! スピニング・ト○ホールド!!」

「完璧に決まっているアル! もう逃げられないアルよ!!」

「どうや!? 降参せんと足折ってまうで!!」

捻りに力を入れながら言う小太郎。

「ぐおぉぉぉ〜〜〜〜っ!!」

悲鳴を挙げるジャイアント・ブル。

「ちょいと、ボウヤ! その技を外してもらおうか?」

「何!?」

とここで、セコンドのアニキ格のヤクザが小太郎に言った。

「寝ボケたことぬかすな!!」

「おや? いいんですかい? そんなこと言って」

アニキ格のヤクザが懐からケイタイを取り出す。

「今、あの病院にあっしの子分共が張り付いてるんや。あっしが一声掛けりゃ、そいつ等が一斉に病院を襲いまっせ」

「なっ!?」

驚愕する小太郎。

悪党ここに極まるだ。

「ひ、卑怯やで!!」

「言ったでしょう。あっしは勝てない勝負はやらない主義だってね。さあ、どうします?」

「くっ………」

止むを得ず、小太郎はスピニング・ト○ホールドを解いた。

「おおっと!? どうしたのでしょう小太郎選手!? スピニング・ト○ホールドを解いてしまったぞ!?」

実況の和美が状況が分からず、困惑した様子で伝える。

「さあ、先生。やっておくんなせぇ」

「おのれ! 小僧!!」

すかさずジャイアント・ブルは、小太郎にキックをお見舞いする。

「ぐわっ!!」

コーナーポストにブッ飛ぶ小太郎。

間髪いれず、ジャイアント・ブルは小太郎に後頭部からアイアンクローを掛けると、勢い良くコーナーポストに顔面を叩き付けた。

「がっ!!」

額が切れて、血が流れる。

「ああ〜〜〜っと!! これは残虐!! 小太郎選手!! 流血です!!」

「小太郎ちゃん!!」

「キャアァァァーーーーーッ!!」

「う〜〜〜ん………」

小太郎側の応援席では、千鶴と夏美が悲鳴を挙げ、喧嘩と血が苦手な亜子が気絶した。

「は、反則よ!! 怪我してるじゃない!!」

「いや、この試合にあるのはギブアップ、ノックアウト、10カウントダウンによる負けだけだ。それ以外は何をしても合法だ」

異議を唱えるアスナに、冷静に言う機龍。

「ぐ………う………」

マットに倒れ、額を抑えて悶える小太郎。

「ふん………そういえば小僧。貴様、スピニング・ト○ホールドが得意だったな」

そう言って、小太郎の左足を掴むジャイアント・ブル。

「そんなに得意なら………自分で喰らってみろ!!」

そしてなんと!!

小太郎にスピニング・ト○ホールドを掛けた!!

「ゲーーーーッ!! なんとジャイアント・ブル選手!! 掟破りのスピニング・ト○ホールドだ!!」

「ぐわあぁぁぁーーーーーーっ!!」

苦悶の声を挙げる小太郎。

それを聞いてジャイアント・ブルは、さらに技に力を入れる。

そして!!

ベキッという乾いた木の枝を折るような音が響いた。

「!! ぎゃあぁぁぁーーーーーーっ!!」

それと同時に悲鳴を挙げる小太郎。

「な、何!? 今の音!?」

「足の骨が………折れた」

「「「「「ええ〜〜〜〜〜っ!!」」」」」

見ると、小太郎の左足は明後日の方向へ曲がっていた。

「な、なんと!! 小太郎選手の足の骨が折れてしまった!!」

「なんて残酷なことを!!」

拳を固くするレイ。

「そらそら!! どうした!?」

完全にグロッキー状態で倒れている小太郎に容赦なく連続踏み付けをお見舞いするジャイアント・ブル。

段々と小太郎の周りのマットに、赤い斑点ができていく。

「も、もう我慢できないわ!! 助けに行くわよ!!」

「はい!!」

アスナとネギが応援席から飛び出そうとする。

「おっと待て」

「ニンニン」

しかし、真名と楓が取り押さえる。

「ちょ、ちょっと、何するのよ龍宮さん!?」

「楓さん!? 離してください!!」

「悪いな、そういうわけにはいかん」

「機龍殿の命令でござる」

「「機龍さん!!」」

機龍の座っている席を睨むアスナとネギ。

しかし、当の機龍の姿はなかった。

「「あれっ?」」











「へっへへ、いい感じですね〜」

ジャイアント・ブル側のセコンドで、小気味の悪い笑いを浮かべるアニキ格のヤクザ。

「ほう〜〜〜………どこらへんが?」

「そりゃ〜、あんた、あっし等に歯向かってきたボウヤが何にもできないで、ただやられているところが………!! ぐえぇっ!!」

と、突然後ろからチョークスリーパーを掛けられるアニキ格のヤクザ。

「何かおかしいと思ってたが………そうか、お前の仕業か」

それは、いつの間にか応援席から姿を消していた機龍だった。

「な、何すんでっせ………あっしに手ぇ出したら………子分供が」

「ほうほう………子分供が何だ?」

アニキ格のヤクザの首をさらに締め上げる機龍。

「ぐえぇぇぇ!!………どうなっても知りやせんぜ!!………おい、お前等!! 病院を襲え!!」

ケイタイに向かって叫ぶアニキ格のヤクザ。

しかし、返事は返ってこなかった。

「アレ?」

「生憎だったな、仲間なら俺にもいる」

そう言って、ケイタイを取り上げる機龍。

「おーい、聞こえるか?」

「その声はリーダーですね………」

と、ケイタイから聞こえてきたのは、ジンの声だった。

「どうだ、そっちは?」

「はっ、病院を襲撃しようとしていたチンピラ達は、自分、サクラ、レッディーさん、ゼライドさん、アーノルド大佐が全て片付けました………」

「もう心配しなくていいですよ〜」

「まあ、こんなものか………」

「どこの星でも、チンピラという者はいるのだな………」

「漢の勝負を汚すヤツは許さん!!」

ケイタイから返ってくるジン、サクラ、レッディー、ゼラルド、アーノルドの声。(回答順)

「そ、そんな………」

「眠れ!!」

呆然となったアニキ格のヤクザをチョークスリーパーで落とした。

「ぐえっ!!………」

泡を吹いて気絶するアニキ格のヤクザ。

「よし!! 小太郎!! もう大丈夫だ!!」

リングの方に向いて言う機龍。

しかし………

「フフフ………少し遅かったようだな」

既に小太郎は、血まみれで動かなくなっており、ジャイアント・ブルが勝ち誇っていた。

「ワーーーン!! ツーーーー!! スリィーーー!! フォーーーー!!」

超がカウントを始めている。

「こ、小太郎くん………」

「そんな………」

「小太郎選手!! まったく動かない!! 最早これまでか!?」

ガイアセイバーズ一同に絶望の雰囲気が流れる。

と………

「コータロー!! コータロー!! コータロー!! コータロー!!」

機龍が大声で、小太郎コールを始めた。

「!! 機龍さん」

「機龍………」

その様子に驚くアスナ達。

「………コータロー!! コータロー!! コータロー!! コータロー!!」

そしてネギもそれに続いた。

「「コータロー!! コータロー!! コータロー!! コータロー!!」」

今度は千鶴と夏美が。

「「「「「コータロー!! コータロー!! コータロー!! コータロー!!」」」」」

そして、ついに全員が小太郎コールを始めた。

「ファーーイブ!! シーーーーックス!! セブーーーーン!! エーーーーイト!! ナーーーーイン!!」

そしてカウントが終わろうとした時!!

「ぐ………ぐおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

気合の掛け声と共に小太郎が起き上がる!!

「な、何!? 馬鹿な!!」

「俺は………俺は………負けられんのやーーーーっ!!」

折れた足を気にも留めずに踏み込み、渾身の左ストレートをお見舞いする。

「がはっ!!」

「あーーーっと!! 小太郎がいったーーーーっ!!」

実況の和美も急に熱が入る。

小太郎はそのまま、ラッシュ、ラッシュ!! パンチのラッシュ!!

「いった!! いった!! 小太郎がいったーーーーっ!!」

「おーーーーりゃーーーーーっ!!」

そして、右ストレートで弾き飛ばす!!

「ぐわっ!!」

「取って置きを見せてやる!!」

そう叫ぶと、膝立ちになり、右手の親指と人差し指だけを伸ばし、口元に当てる。

「ア○ッチのおたけび!! ウラララーーーーッ!!」

「ぐおぉぉぉぉぉーーーーーーっ!!」

大音響と衝撃波に耳を押さえて悶えるジャイアント・ブル。

ちょうど後ろのヤクザ者達も次々に気絶していく。

「ウラララーーーー………ラーーーーッ!!」

そしてついに!! ジャイアント・ブルは吹き飛ばされ、後ろのロープに弾かれ、上空に舞う。

「テヤッ!!」

小太郎も片足で飛び、ジャイアント・ブルの背に乗る。

「カーフ・ブラ○ディング!!」

そのままマットに叩き付けた!!

「ぐばっ!!」

吐血して動かなくなるジャイアント・ブル。

レフェリーの超が状態を調べる。

「………ノックアウト!! 勝者、犬神小太郎!!」

小太郎の手を取って上げ、宣言する超。

「「「「やったーーーーーっ!!」」」」

沸きあがるネギ達。

「やったな、小太郎」

リングの傍に来て、小太郎の勝利を褒める機龍。

「へへ………機龍の兄ちゃん………俺………何かわかった気がするで………」

「そうか………」

「でも………凄く………疲れたわ………」

「おっと!!」

崩れるように倒れてきた小太郎を受け止める。

「ま………まだまだ、削りは粗いが、まずまずになってきたな」











その後、翔少年の手術は無事成功し、地上げに関わった悪徳不動産とヤクザに一同は、機龍と超の手回しにより、全員逮捕となった。

この事件は、小太郎を1歩戦士へと成長させたのであった。





余談だが、元気になった翔に、小太郎は機龍に無理を言って、ヘリコプターでの麻帆良遊覧飛行をプレゼントしたのだった。





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