第55話


日本近海の海底………ヴァリム共和国軍強行侵略偵察部隊ヘルキラーズ小隊秘密基地。

その作戦室にて………

「久しぶりね、フォルセア」

「ええ、Gエリア戦以来ね」

ヴェルと挨拶を交わす紫色の髪をした、怪しげな顔の女性。

彼女の名は、フォルセア・エヴァ。

ヴァリム特殊諜報部に所属し、神佐という特殊階級を持っている。

数々の戦役の裏で、糸を引いている影の戦士だ。

「苦戦してるみたいね………あなたともあろう者が」

「まさかこちらの地球の人間がアルサレアに味方するとは思わなくてね。ガーディアンエルフのメンバーまで出しゃばってきたし」

お互いに皮肉を言い合う。

「まあ、いいわ。どの道本国も第二地球侵略に本腰を入れてきたわ。そのために私が派遣されたの」

「頼もしいかぎりだわ」

「魔法に呪術………実に興味深い力だわ。この星の侵略が終われば、次はアルサレアの番………今までの恨みを晴らすいい機会になるわね」

彼女はここ最近、アルサレアの戦士達にことごとく敗北をきしていた。

アルサレア戦役ではグレンリーダーに。

シードラボ争奪戦ではレガルドリーダーに。

Gエリア攻防ではコバルトリーダーに。

そのため、アルサレアにかなりの恨みを抱いていた。

「それで、どんなプレゼントを持ってきてくれたのかしら?」

フォルセアに尋ねるヴェル。

「ええ………エグザムコマンド第6班は知ってるわね?」

「ああ、あの攻撃力とイロモノ度の高い機体ばかりが回される事で有名な部署でしょ」

「あそこから1人、連れて来たわ」

「………使えるの?」

ヴェルは、疑惑の目でフォルセアを見る。

「そいつに与えられている機体は新型の試作機でね。出来はいいんだけど、コンセプトに問題があってね。それで上層部はこっちのアルサレアの連中にぶつけてみて、量産を決めるみたいよ」

「へえ………」

「それに時間稼ぎにはなるわ。ようは貴方が言っていた、『アレ』が完成すればいいんだから」

「なるほど………考えたわね」

フォルセアとヴェルは、2人して邪悪な笑みを浮かべのだった。

「それで? その時間稼ぎくんは?」

「既に麻帆良という地に送っておいたわよ」











そのやり取りを通路側の扉の向こうで立ち聞きしている男がいた。

ハクヤ・ロウだった。

(新たな刺客が麻帆良に行ったか………)

不意にハクヤの頭の中に五月のことが過ぎる。

(!?………何を考えている、俺は!! あいつがどうなろうと、俺の知ったことか!!)

苛立ち気にその場を後にするハクヤ。

男はまだ、戦いに飢えていた………











麻帆良学園都市………

「いけない、いけない。今日が新巻の発売日だったとは………危うく買い逃がすところだった」

書店から新発売のコミック(仮面○イダーSPIRITS)を持って出てくる機龍。

非番なので私服姿だ。

早速帰って読もうとしていたところ、何やら人垣ができているのを見つける。

「? 何だ?」

持ち前の長身で最後尾から先を見てみる。

そこには、のされて伸びている不良達数名の輪の中で、あやかと見知らぬ黒髪黒目、日焼けした肌を持つ男が言い争っていた。

「何だ、この光景は?」

状況を理解できない機龍は、あやかに事情を聞こうと人垣を掻き分けて前に出る。

「雪広くん」

「あ、機龍先生!」

「あん? 先生?」

驚くあやかと、釣り目で強気な印象を受ける顔を向けてくる男。

「一体何があったんだ?」

「この女が絡まれてたのを助けてやったのに、文句つけてきやがったんだ」

「あなたのやり方が乱暴すぎるんです。幾ら何でもやりすぎですわ!!」

そう言われて、機龍はのされている不良達を見てみる。

確かによく見ると、顔の原型がなくなっている者、関節があらぬ方向に曲がっている者、うわ言でわけの分からない言葉を呟く者がいた。

「………確かにコレはちょっと」

「何だよ? オメェまで文句つけるのか?」

挑むような視線を向けてくる男。

「しかし、生徒を助けてくれたことにはお礼を言うよ。どうもありがとう」

そう言って頭を下げる機龍。

「な、何だよ! 調子狂うヤツだな。分かったから頭上げてくれ! そういうの苦手なんだよ!!」

それを見て、やや狼狽する男。

「ったく、変わったヤツだな、お前は」

「ちょっと、あなた! さっきから初対面の人になんて言葉使いなんですか」

男の態度を注意するあやか。

「いいんだ雪広くん。見たところ、そう歳も違わないみたいだし」

「しかし!………」

食い下がるあやかに機龍は耳打ちする。

「それより、君は今日、確か機体調整があるんじゃなかったっけ?」

「え?………ああ!! そうでした!! スミマセン、失礼します!!」

早足にその場を去るあやか。

「何だ? 急にいなくなりやがって?」

「急用があったみたいだな」

「ふ〜ん………ところで、お前がその手に持ってるヤツ………」

「ん? コレ?」

手に持っていたコミック(仮面○イダーSPIRITS)を見せる機龍。

「………面白そうだな」

「ん?」











その後、2人は公園へと場所を移動すると、2人してコミック(仮面○イダーSPIRITS)を読み始めた。

「おお〜〜〜!! カッコイイな、仮面○イダーって」

「そう思うだろ」

何やら意気投合する2人。

その後も、漫画の話で大いに盛り上がる。

「いや〜〜〜、お前、話が分かるな〜〜」

「いやいや、お前こそ話が分かるぜ」

いつの間にか機龍もタメ口で話している。

「ところで、見ない顔だけど、麻帆良の外から来たのかい?」

「ん?………ああ、まあ、仕事でな」

曖昧に答える男。

「仕事か。大変だな」

「そーなんだよな………正直、人に誇れる仕事じゃないし………あ〜あ、そろそろ転職すっかな〜」

と、そこで、時計が鐘を鳴らした。

「おっと! もうこんな時間か。ありがとよ、楽しかったぜ」

「それはよかった………そういえば、まだ、名前を聞いていなかったな」

「おお、そういえばそうだ! 俺は狛牙 勇輝(コマキバ ユウキ)ってんだ。お前は?」

「俺は機龍。神薙機龍だ」

「何!?」

機龍の名前を聞いて驚く男………狛牙勇輝。

「? どうかしたか?」

「いや………別に。じゃあな、神薙!」

そう言って勇輝は、早足に去って行った。

「何だ、アイツ?」

機龍は、その姿を怪訝な顔で見送るのだった。











翌日の夕方………。

ガイアセイバーズ隊員達に非常召集命令が下った。

全員が作戦室に集合すると、機龍が既に隊長席に腰掛けていた。

「機甲兵団ガイアセイバーズ、全員集合しました」

「よし………オペレーター、敵の概要を」

「「「「「了解!!」」」」」

カタカタとコンパネを操作するオペレーター組。

「出現地点は山岳部の盆地」

「敵式神PF数は350機」

「機種はヌエ、ヴェタール、ブラフォードN、イリア、アシュラ」

「現在、世界樹方面に向かって進行中」

「尚、アンノウンが敵式神PF軍の後方より1機、進軍中」

「アンノウン? どういうことだ?」

最後に挙がった報告を問い質す機龍。

「PFにしてはエネルギー反応が高すぎるんです」

「なら、GFじゃないのか?」

「いえ、GFにしては低すぎます」

レイの意見を打ち消す夕映。

「何だ? 中途半端だな? もっと詳しく分からないのか?」

「あ! 今、無人哨戒監視カメラの映像が入りました。メインモニターに出します」

メインモニターに問題の反応の物体が映る。

「!! これは!?」

「何!?」

モニターに映し出された映像を見て驚愕の表情を浮かべる一同。

そこには、全身灰色っぽい黄土色で、全長20m、厚さ5mほどの双胴型の兵装・機動ユニットの間に、10mほどの人間型の胴体が挟み込まれるような形で固定されている、という形の物が映っていた。

所々に、ミサイルポッドや砲台が付いている。

「PF………なのか?」

「あんなPF、見たことないよ………」

「差し詰め、重戦車………いや、ちょっとした移動砲台だな」

険しい顔を浮かべる機龍。

「あんなのが麻帆良で暴れたら………」

「被害は途轍もないでしょう………」

ネギ達もヤツがもたらす被害を想像して青ざめる。

「そうなる前にケリをつけるしかない!! 機甲兵団ガイアセイバーズ、出撃!!」

「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」











夕日の中、土煙を上げて行軍するヴァリムPF軍団。

その後方で、一際大きく土煙を上げるキャタピラ走行で行軍する謎の巨大兵器。

と、その前に、ガイアセイバーズのPF軍団が舞い降りた。

行軍を止めるヴァリムPF軍団と謎の巨大兵器。

「近くで見ると、さらに迫力あるわね………」

謎の巨大兵器の迫力に畏縮するアスナ。

「呑まれるなよ、神楽坂くん!!」

それを叱咤する機龍。

「リーダー! どうします?」

「敵はキャタピラ移動だ。機動力には乏しいはず………スピードのある機体は巨大兵器を攻撃。他の者は、周りの敵を排除!!」

「「「「「「「「了解!!」」」」」」」

2手に別れ、ヴァリムPF軍団と巨大兵器へと向かって行くガイアセイバーズ。











ヴァリムPF担当班………小太郎、アキラ、まき絵、ネギ、アスナ、風香、史伽、レイ、アーノルド、ジン、サクラ。

「いっくよーーっ!!」

[8連式ミサイルポット、6連式マイクロミサイルポット、同時発射!!]

まずはサクラが敵軍の中心にミサイルを撃ち込み、数機を撃墜する。

慌てて散開するヴァリムPF軍団を、他の機体が各個撃破に向かう。





「桜華槍衝!!」

光の矢を杖に乗せて放った突きで、ブラフォードNを破壊するGウィザード。

「兄貴!! 後ろだ!!」

そこへ、後ろからアシュラが斬り掛かる。

「何の!!」

しかし、素早く杖を低く振って、足を払うように攻撃した。

「闇夜切り裂く 一条の光 我が手に宿りて 敵を喰らえ………」

そして、詠唱しながら杖を左手に持ち変えると、宙に浮いたアシュラの背中に右手を当て持ち上げる。

「白き雷!!」

零距離での白き雷が決まり、アシュラは爆散した。





「どおりゃぁぁぁーーーーっ!!」

ハマノツルギでヌエを叩き壊すGヴァルキューレ。

「次!!」

続いて、近くにいたヴェタールを蹴りで浮き上がらせる。

「いくわよ!! 新技!!」

さらにイナズマのようにジグザグに飛びながら、敵を蹴り上げていく。

「必殺!! ライトニング・メテオ!!」

そして、一定高度に達すると、下方に蹴り落とした。

落下地点にいた他の数機を巻き込み、ヴェタールは爆散した。

「よし!! 成功だわ!!」





「えい!」

プラズマトライデントでイリアを1機串刺しにするGマーメイド(2脚モード)。

そのまま放電攻撃で爆散させる。

と、今度は数機が纏めて襲い掛かる。

「ハリケーントルネード!」

しかし、Gマーメイドの両肩から巨大な回転フィンが出現し、竜巻を巻き起こした。

忽ちに襲い掛かった敵機はバラバラになりながら上空に巻き上げられ、地上に落ちると爆散した。





「超必殺!! Gリボン!!」

初の実戦にも関わらず、華麗な動きを見せるまき絵の機体………セーラー服を着た女子高生のようなデザインのGノーベル。

ビーム粒子で形成されたリボンで敵を斬り裂いていく。

近距離は不利と判断したか、距離を取ってヴェタールがバズーカで、ヌエがスマートガンで攻撃する。

「わっ! わっ! やったな〜! Gフラフープ!!」

それを回避しながら、ビーム粒子でフラフープを形成すると、新体操のような動きをして投げつける。

Gフラフープは回転しながら飛んで行き、ヴェタールとヌエを胴から分断した。

「やったね!」

爆発する2機の方を見ながら、戻ってきたGフラフープをキャッチしてポーズを決めるGノーベルだった。





「行くよ! 史伽!!」

「了解です! お姉ちゃん!!」

合図と共に、機体前面にエネルギーの壁を展開するGフェアリー。

「「ダブルソニッククラッシャー!!」」

そのまま2機でブースターを全開にすると、次々に敵機に体当たりして、撃破していく。

「これで!!」

「最後!!」

残った1機のヌエに2機同時に体当たりする。

ヌエは粉々になって爆散した。

「「イエーイ!!」」

2人でハイタッチしてみせるGフェアリー。





「ブゥゥゥーーースト! パンァァァーーーチッ!!」

小太郎の熱い雄叫びと共に発射されたGウルフの両腕が、敵機を粉砕する。

両腕が外れたのが隙とみたのか、敵機が一斉にGウルフに攻撃を加える。

「マジックコーティングメタルのこのボディに、そないな攻撃が通用するかい!!」

しかし、Gウルフには傷一つ付かない。

Gウルフは腕を戻すと、両肩の装甲の一部を外して組み合わせ、ブーメランを作る。

「スラッシュ! ブゥゥゥーーーメランッ!!」

掛け声と共に投げられたブーメランは弧を描き、一斉攻撃してきた敵機を胴から分断し、Gウルフの手に戻る。

「へっ!! ただ暴れまわっていた頃の俺と違うで!!」





「ハッ!!」

バスターブレード一振りで、一気に3機撃墜するGブレイダー。

そこへ、ミサイルランチャーを装備したブラフォードN隊が、ミサイルを発射する。

「む?」

Gブレイダーは後退しながら、左手に持ったハンドガンで撃ち落としていく。

しかし、落としきれず、何発かが近くに着弾する。

爆煙が上がり、Gブレイダーの姿が見えなくなる。

撃墜したかを確認するため、煙が収まるのを待っているブラフォードN隊。

と、その時!!

煙の中から銀色のナイフのような物が多数飛び出したきて、ブラフォードN隊に突き刺さった。

爆散するブラフォードN隊。

「甘いな………」

煙の中からGブレイダーが無事な姿を見せる。

そして、先ほどブラフォードN隊に飛ばしたナイフ………特殊形状記憶合金製ウイングカッターの羽を元に戻す。

[敵機撃墜を確認………これより、次の行動に移ります]





「そらそらそらぁ! 道を譲んないと地獄に直行だぜぇ!?」

リグレットで次々に敵機を斬り裂いていくJヘル。

[OK、レイ!! バリバリのノリノリだっぜ!!]

そして、パイロットよりもハイテンションなJヘル搭載AI『キバ』。

接近戦は不利と思ったのか、敵機は距離を取り始める。

「おっと、逃がしはしねぇっつの!!」

レイがそう言うと、Gヘルの背中の超硬度飛刃翼『スクリーム』が外れ、ブーメランのように回転しながら、敵機に向かって行く。

コックピットから遠隔操作されているそれは、狙いを過たず、敵機を全て斬り裂いた。

「イエーイ!! 最高………」

[だっぜ!!]





「この朽ちかけた老兵にも、やるべき事があるようだな」

青龍を両手に構えて、敵機集団に突撃していくJクーロン・アーノルドカスタム。

[………まだ十分若いです、大佐]

ボソッと呟く様にツッコミを入れるJクーロン搭載AI『レイロン』。

「逝けぇ!」

気合の掛け声と共に演舞のような動きで次々に敵機を葬っていく。

と、そんなJクーロン・アーノルドカスタムに離れた場所から、スナイパーライフルを持ったヌエが狙いを定める。

照準を合わせ、引き金に力を入れるヌエ。

だが、その瞬間!!

ヌエの周りを小型の『何か』が飛び廻る。

驚いたようにそちらに視線を移すヌエ。

次の瞬間、ヌエの周りを飛んでいた『何か』からビームバルカンが発射される。

全身を蜂の巣にされ、ヌエは爆散した。

「それぐらい………読めぬとでも思ったか」

そう言って、アーノルドはヌエの周りを飛んでいた『何か』………肩部無線誘導式独立機動ユニット『双龍』を戻す。











一方、巨大兵器担当班………機龍、真名、エヴァ、茶々丸、楓、クー、刹那&このか、あやか、ザジ、レッディー、ゼライド。

順調に戦果を挙げているヴァリムPF担当班に比べて、巨大兵器担当班は苦戦を強いられていた。

巨大兵器からの凄まじい砲撃、ミサイル攻撃により、接近することができず、遠距離攻撃では厚い装甲に阻まれて、効果的なダメージを与えられずにいた。

「クッ!! 予想以上の火力だ!!」

「オイ!! どうするだ!! このままじゃ、ジリ貧だぞ!!」

苛立ち気に機龍に言うエヴァ。

「確かに、このままじゃマズイ」

「何か手はないでござるか?」

真名と楓も焦り気味の声を挙げる。

「チッ!! こうなりゃ、ギガ・ビーム・ランチャーで………」

「よせ、レッディー!! 地上でも使う物じゃない!!」

思わず高威力武器の転送要請をしようとしたレッディーを止めるゼラルド。

「こうなれば突撃あるのみアル!!」

[その場合の生存率はコンマ3以下です]

突撃しようとするクーに、冷静にその場合の生存率を言う茶々丸。

「何とか接近さえできれば、私の太刀で!」

「焦らないで、せっちゃん!」

焦りを見せる刹那を宥めるこのか。

「………………」

ザジも無言で苦い顔を浮かべる。

と、

「ここは私にお任せください!」

あやかのGレディが前に出る。

「「「「いいんちょ!?」」」」

「雪広くん、何か策があるのか?」

「勿論ですわ!!」

自信満々に言うあやか。

「よし! やってみろ!!」

「了解ですわ!!」

Gレディは巨大兵器の正面に廻り込む。

格好の的と思ったのか、巨大兵器が全兵装を向ける。

と、

「フラワーハリケーン!!」

突如、Gレディの手から花びらが舞い散り、巨大兵器の視界を乱す。

巨大兵器は、砲撃は無理だと諦め、ミサイルのみを発射する。

だが、ミサイルは発射されるとフラフラとなり、見当違いな方向に飛んでいく。

「オーホッホッホッホッ!! いかがですか!? 新兵器、チャフ製のフラワーハリケーンは!?」

どうやらこのフラワーハリケーンは、爆薬ではなくチャフが装備されていたようだ。

攻撃を無効化される巨大兵器。

「せっちゃん! 今や!!」

「ハイ!!」

好機と見たGウイングが、長刀を構えて横から斬り掛かる。

「あ! 抜け駆けは酷いアルよ!!」

それを見たGカンフーが、後ろ腰から三節混を抜き、振り回しながらGウイングとは反対の方向から突撃する。

しかし!!

突然、巨大兵器の双胴の外側が変形し、巨大な蟹のハサミのようなマニピュレーターが出現した。

「「「なっ!?」」」

「あんな隠し手が!?」

逃げる間もなく、太刀を持った両腕を挟まれ宙吊りにされるGウイングと、両足を挟まれ逆さ吊りにされるGカンフー。

「クッ! 油断した!!」

「せっちゃん!!」

バーニアを全開にして抜け出そうとするGウイング。

だが!!

ミシミシと音がして、Gウイングの両腕は握り潰された。

「うわっ!!」

「キャアァァァーーーーーッ!!」

切断面からスパークを発しながら、横たわるGウイング。

「刹那!! コラーッ!! このカニロボット!! 放すアルよ!!」

マニピュレーターを三節混でガンガンと殴るGカンフー。

と、その時!!

ハサミの又の部分からガトリング砲が出現した。

「へっ?」

そのままGカンフーの足に零距離で弾丸を吐き出す。

「うわぁぁぁーーーーーっ!!」

足を粉々にされ、倒れるGカンフー。

「桜咲くん!! 近衛くん!! クーフェイくん!!」

「「任せろ!!」」

空かさず、JエアロがGウイングを、JスパイラルパワードがGカンフーを回収する。

「チィ!! 小賢しい!! 一気に決めてくれる!! 契約に従い 我に従え 氷の女王!!」

最大呪文の詠唱に入るエヴァのGバンパイア。

「!! イカン!! 全員、緊急離脱!!」

巻き添えを喰っては適わないと思った機龍は、慌てて全員に離脱命令を出す。

それを聞いて、上空へと退避する巨大兵器担当班。

「来れ とこしえのやみ!」

そして、今まさに詠唱が終わろうとした瞬間!!

突如、巨大兵器の双胴の間の人型の胴体の後ろの部分が変形し、超大型のレールキャノンが出現した!!

[!! マスター!! 危ない!!]

慌てた茶々丸のGジェットが間に割って入り、自機を盾に砲弾を防ごうとした。

しかし!!

轟音が響いたかと思うと、Gジェットの右足と、Gバンパイアの左腕が根元から消し飛び、遅れて本体が吹き飛んだ!!

「ぐわあぁぁぁーーーーーっ!!」

[!!!!]

森へと墜落するGジェットとGバンパイア。

「マクダウェルくん!! 絡繰くん!! 大丈夫か!?」

「大丈夫だ………しかし、機体の方は、もう動かせそうにないな………」

[こちら茶々丸。機体損傷、甚大。戦闘続行不可能]

苦々しげに言うエヴァと、機械的に報告する茶々丸。

「クッ!! 何て奴だ!!」

[少尉]

と、ジェイスが口を挟んだ。

「何だ、ジェイス?」

[敵機より通信が入っています]

「何!?」

驚く機龍。

[繋ぎますか?]

「………ああ」

一瞬考えた後、回線を開く。

「!!」

そして、機龍は再び驚愕した。

そこに映っていたのは、ヴァリム軍のパイロットスーツを着込み、ヘルメットのフェイスバイザーから黒髪黒目、日焼けした肌を持つ、釣り目で強気な印象を受ける顔を覗かせたの男………狛牙 勇輝だった。

「お前は!?」

「よう、やっぱりお前だったのか………アルサレア部隊の隊長ってのは」

複雑そうな笑顔を浮かべる勇輝。

「お前こそ………ヴァリム軍だったのか」

「まあな………ほかにできることも無いから軍に入った………そんなもんだけどな」

「…………」

「…………」

無言になる2人。

「………引く気はないのか?」

「ないね。一応、任務だからな」

「そうか………ならば………サシで勝負しようじゃないか!!」

「………上等!!」

そう言い残して、勇輝は通信を切った。

「機龍! どうした!?」

「何があったでござる!?」

入れ違いに、巨大兵器担当班から通信が入ってくる。

「………全員、後方に下がり、待機。ヤツとは、俺が………サシで勝負する!!」

「「「「なっ!?」」」」

今度は、真名達が驚愕した。

「無茶だ!!」

「1対1で適う相手ではありませんわよ!!」

「………危険!!」(訳:やめて先生!! 危険だよ!!)

「機龍殿、落ち着くでござる!!」

口々に機龍を止めようとする真名達。

と、そんな中、レッディーとゼライドは………

「本気か? 神薙少尉」

「………ハイ」

「分かった。ならば私達は下がっていよう」

「ありがとうございます」

機龍の決意を感じとったのか、素直に従う。

機龍はJフェニックスを巨大兵器の正面に着地させる。

「「「「機龍(殿、先生)!!」」」」

慌てて追おうとした真名達をレッディーとゼライドが止める。

「手を出すな!」

「「「「しかし(でも)!!」」」」

「信じろ………神薙少尉を」











夕日の中、右手にマグナムを構え、左腕のシールドで防御姿勢をとっているJフェニックスと、全兵装をJフェニックスに向けている巨大兵器………ヤマト・ザ・ケルベロス。

暫し、睨み合いが続く。

「くらえ!!」

[トリプルショット!! であります!!]

と、先に動いたのは、ヤマト・ザ・ケルベロス!!

3門全てのレールキャノンを同時発射する。

「むっ!?」

Jフェニックスは上に飛んでかわす。

「甘いっての!!」

しかし、それを予想していたのか、ヤマト・ザ・ケルベロスは16連装高機動誘導マイクロミサイルポッド『スネイクサーカス』を発射する。

白煙を上げて迫るミサイル。

「チッ!!」

頭部バルカン砲で迎撃するJフェニックス。

しかし、全弾落としきれず、何発かがシールドに当たる。

[シールドにダメージ!! 残り耐久力、78%!!]

「まだまだ!!」

Jフェニックスは、バーニアを全開に噴かすと、ヤマト・ザ・ケルベロスの周りを旋回し始める。

「目くらましか? 無駄だぜ!!」

[位置解析!! 照準ロック完了!! であります!!]

猛スピードで飛び回るJフェニックスを、いとも簡単にロックオンするヤマト・ザ・ケルベロス搭載AI『ヤスミツ』。

「よっしゃ!! 喰らえ!!」

再び、スネイクサーカスの発射口を開く。

「掛かったな!!」

しかし、それこそが機龍の狙いだった。

素早くマグナムを発射口に目掛けて撃ち込んだ。

発射寸前だったミサイルが爆発する。

「うおぉっ!!」

[スネイクサーカス大破!! 使用不能!! であります!!]

「パージだ!! 誘爆を防げ!! チキショウ!! 嵌められた!!」

黒煙の上がるスネイクサーカスをパージしながら、忌々しくに言う勇輝。

「行くぞ!! ソニックブースト!!」

チャンスとばかりに、マグナムを収納し刀に持ち変えると、ヤマト・ザ・ケルベロスの左側から一気に突撃する。

「この野郎!! 調子に乗んなよ!!」

左側の、50口径60センチレールキャノン『レフトヘッド』と、近接格闘用補助マニピュレータ『メタルシザース』の又のバルカン砲を向ける。

「遅い!!」

だが、発射する前にJフェニックスの刀で斬り落とされた。

「んなっ!!」

「貰った!!」

そのまま、双胴型の間の人型部分に、斬り掛かる。

と、

「コナクソ!!」

勇輝はヤマト・ザ・ケルベロスを思いっきり、超信地旋回させた。

そして、何と!!

展開中だった75口径60センチレールキャノン『センターヘッド』の砲身を、Jフェニックスの横っ腹に叩き付けた!!

「ごふっ!!」

刀を手放し、大きく飛ばされ、地面を擦るって止まるJフェニックス。

「おまけだ!! コイツも喰らえ!!」

間髪入れず、ヤマト・ザ・ケルベロスは4連装垂直発射式ミサイルポッド『フォーリンスター』を全弾発射する。

垂直に発射されたミサイルがある程度上昇すると反転し、大量の子弾をばら撒いてJフェニックスを爆撃する。

「ぐわぁぁぁーーーーっ!!」

爆発と爆煙でJフェニックスが見えなくなる。

「「「「「「機龍(先生)ーーーーーー!!」」」」」」

真名達が悲鳴を挙げる。

だが、勇輝は静かに爆煙の中を見つめる。

と、爆煙の中に、緑色の目が光る。

[反応確認!! 敵機、健在であります!!]

「やっぱな………そうだよな」

やがて爆煙が立ち消え、膝立ち状態でシールドを傘のように上に構えているJフェニックスが姿を見せる。

Jフェニックスがゆっくり立ち上がると、シールドがバラバラと崩れた。

機体にも若干損傷を受けている。

「やるな………まさかレールキャノンの砲身で殴りつけるとは………恐れ入ったよ」

「そうでもないさ。無茶したせいで、砲身が曲がっちまったしな」

勇輝が言うとおり、センターヘッドの砲身は、中央から曲がりくねっていた。

「もうここまでにしたらどうだ? 状況から見て、ミサイルの残弾も少ないだろ」

機龍は勇輝に降伏を促がす。

「へっ! そうはいかないねーよ!!」

しかし、勇輝はそれを拒否する。

「……確かに、俺は他に出来る事が無くて軍に入った。だけどよ、だからって適当にやるつもりはねえ……だから、絶対、勝つぜ!!」

Jフェニックスを睨む勇輝。

「俺は、気合と、根性と、ケンカだけは誰にも負けねぇ!! そうだろ、ヤスミツ!!」

[Yes,sir! その通りであります、少尉殿!! 現在こちらの損傷率は64%、ミサイル残弾無し、彼我の予想戦力値1:3! 確実な負け戦ですが、この絶望的状況を打破してこそ、真にヴァリム軍人足りえると愚考いたします!!]

「……ハッ、まったくサイコーの言葉だぜ! やっぱお前は最高の相棒だ、ヤスミツ!!」

[は、感激の極みであります!!]

「行くぜ!! 神薙!!」

Jフェニックスに向かって、全速力で突撃するヤマト・ザ・ケルベロス。

「来い!! 狛牙!!」

Jフェニックスもバーニアを全開にし、ヤマト・ザ・ケルベロスに向かって突撃する。

「!? 正面からぶつかり合う気か!?」

「無茶だ!! 重量さが有り過ぎる!!」

「機龍!! よせーーーーっ!!」

レッディー、ゼライド、真名の叫びを無視して、機龍はさらにJフェニックスを突撃させる。

2機の距離は瞬く間に縮まっていく。

「これで終わりだぁぁぁぁぁぁっ!!」

Jフェニックスを押し潰そうとするヤマト・ザ・ケルベロス。

だが!!

「むんっ!!」

何と、Jフェニックスはアメフトのタックルのようにヤマト・ザ・ケルベロスと組み合う。

重量さに押され、両足が地面を押されていく。

しかし!!

「ジェイス!! オーバーヒートしてもいい!! 出力を全開に上げろ!!」

「Yes!! 出力全開!!]

全身から湯気を上げるJフェニックス。

ついに!!

「なっ!!」

「「「「ええっ!!」」」」

ヤマト・ザ・ケルベロスの巨体がゆっくりと持ち上がった!!

「うおおぉぉぉぉぉぉーーーーーっ!!」

関節が悲鳴を挙げるのを聞きながら、尚も機龍は操縦桿に力を入れる。

そしてそのまま、投げっぱなしジャーマンの要領で投げ飛ばした!!

それと同時に、Jフェニックスの両腕関節と両膝関節が爆発する。

真っ逆さまに地面に叩き付けられるヤマト・ザ・ケルベロスと、仰向けに倒れるJフェニックス。

そして、互いのカメラアイの光が消える。

[損傷甚大………体勢制御不可能………ヤマト・ザ・ケルベロス、活動停止………]

「ありがとよ、ヤスミツ」

勇輝はヘルメットを外すと、シートベルトを解き、ハッチを強制解放して外に出る。

Jフェニックスの方を見やると、同じようにヘルメットを取って、コックピットから出てくる機龍の姿があった。

2人は機体から降りると、お互いに睨み合いながら歩み寄っていく。

「「「「「????」」」」」

何が起こるのか分からず、困惑する真名達。

やがて2人は、お互い後1歩の距離まで迫る。

と!!

「「どおぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」

何と2人は、その場で殴り合いを始めた。

「「「「「へっ?」」」」」」

素っ頓狂な声を挙げる真名達。

そんな真名達の様子も知らず、夕日を背に激しく殴り合う機龍と勇輝。

「まるで学園青春ドラマのワンシーンだな」

「自分も同意見であります、大佐」

事の成り行きをただ見守るゼラルドとレッディー。

「ちょっ!! 止めなくてよろしいんですか!?」

「ほっとけ」

「どちらかが倒れれば終わるだろう」











30分後………

夕焼けの空が暗くなり始め、星が瞬き始める。

「ゼェ………ゼェ………ゼェ………ゼェ………」

「ハァ………ハァ………ハァ………ハァ………」

そんな中、2人はお互いの顔に青痣や腫れを大量に作り流血をしながら、肩で息をしていた。

「そろそろ決まるな………」

「お互い、次の一撃が最後になりますね………」

冷静に状況を分析し、予想を立てるゼラルドとレッディー。

「「「「「「「「…………………」」」」」」」」

ヴァリムPF担当班と合流しいた3−A組とレイ、アーノルドも、じっと2人の勝負を見守っている。

「ゼェ………ゼェ………行くぞ!!」

「ハァ………ハァ………おうよ!!」

誰もがクロスカウンターパンチの相打ちを想像した。

だが、現実は遥かに凄かった!

「「トオッ!!」」

掛け声と共に飛び上がる2人。

「「「「「「「「へっ!?」」」」」」」」

そのまま飛び蹴りの体勢になる。

「「ラ○ダァァァァァーーーーーキィィィィィック!!」」

そして、互いの顔面にキックが決まる!!

「ごはっ!!」

「げぼっ!!」

クロスカウンターはクロスカウンターでも、ラ○ダーキック同士のクロスカウンターだった!!

「「「「「「「「…………………」」」」」」」」

呆気取られるガイアセイバーズの一同。

そのまま地面に落ち、大の字になる2人。

「ゼェ………ゼェ………中々やるなじゃないか………お前」

「ハァ………ハァ………お前こそ………いいキックだったぜ」

お互いの健闘を称え合う。

それを聞いていたガイアセイバーズは揃ってこう言った。

「「「「「「「何のこっちゃ!?」」」」」」」」

青春とは、時に理解されないものである………











翌日の放課後………

基地へと向かう途中の機龍と真名。

「イテテテテ………顔中が痛いぜ」

「当たり前だ。あれだけ殴り合えばな」

顔中に絆創膏と湿布を貼っている機龍に、冷ややかに言う真名。

「しかし………本当によかったのか? アイツを見逃して」

結局、あの後、機龍は勇輝を見逃した。

拘束するべきだと意見する隊員達を隊長命令で黙らせ、立ち去る勇輝の背中を黙って見送ったのだった。(ヤマト・ザ・ケルベロスは接収した)

「いいさ。何かアイツは、敵だとは思えなくてな」

「拳で語り合った仲だから、か?」

「………武人の感、さ」

ニヤリと笑って言う機龍。

「フッ………まあ、いいさ。ヤツがまた攻めてくるようなら、戦うだけだ」

諦めたような笑顔で返す真名。

「苦労を掛けるな………」

と、などと言いながら、工事現場の近くを通りかかった時………

「おっ○さんのた〜〜〜めな〜〜〜ら、エ〜〜〜ンヤ、コ〜〜〜ラ! もひとつオマケに、エ〜〜〜ンヤ、コ〜〜〜ラ!」

「え?」

聞こえてきたヨイ○マケの唄に反応する機龍。

「どうした? 機龍」

「この声は………」

機龍は工事現場を見やる。

「お○っつあんのた〜〜〜めな〜〜〜ら、エ〜〜〜ンヤ、コ〜〜〜ラ!」

そこのいたのは、完全な工事現場職人の格好でつるはしを振るっている勇輝だった。

「狛牙!?」

「何!?」

真名も驚いて工事現場に眼をやる。

「ん? おう、神薙! 元気してっか?」

2人に気づいて、機龍と同じように、顔中に絆創膏と湿布を貼っている顔を向ける勇輝。

「何やってんだ、お前!? そんな格好で?」

「見りゃ分かるだろ? 工事だよ」

「いや、そうじゃなくて………」

「ああ、ヴァリム軍のことね。辞めた」

「「ええっ!?」」

あっけらかんに言う勇輝に、思わず口をあんぐりと開ける機龍と真名。

「ケルベロスもお前達に取り上げられちまったし、特に軍に拘りがあったわけでもなっかったしな。これからは、ここで気ままに生きるって決めたんだ」

「お〜〜い! 新入り!! ちょっとこっち手伝ってくれ!!」

現場監督らしき男が勇輝を呼ぶ。

「ウ〜〜〜ッス!! それじゃ!!」

機龍と真名に手を挙げて立ち去る勇輝。

2人は暫く呆然としていたが、やがてポツリと機龍が言った。

「軍人やっててそれほどじゃないけど、あんな気まぐれなヤツ、初めて見たよ………」

「…………」

その言葉に、真名も無言で同意するのだった。










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