第56話


さて、ひょんな気まぐれから麻帆良に住み着いた、元ヴァリム軍人狛牙 勇輝。

今日は、そんな彼の日常を覘いて見よう。











麻帆良学園都市内の住宅地のとあるアパート。

そこが彼の寝床だった。

朝10時………起床。

彼の朝は遅い。

その理由は………

『ねみーから、2度寝する』、『起きんのがめんどくさい』

と、至極簡単な理由だった。

定職に就いていない彼にとっては極当たり前のことだった。

「フアァ〜〜〜〜………昼か」

普通なら「朝か」と言う台詞を言い、一応の身なりを整える。

その後、外出。

適当な工事現場を見つけ、そこに飛び入りで参入し、昼に支給される食事を朝食兼昼食として食べる。

「ガツガツ………モグモグ………スミマセ〜〜〜ン! 御代わり!!」

「またか、兄ちゃん!? これで5人分だぜ!?」

たっぷりと腹を満たして、時給を受け取った後、午後からは特に何をするわけでもなく麻帆良内をブラブラとする。

途中、難癖つけてきた(つけた?)不良達をボコる。

「うう………」

「強ぇ〜………」

呻き声を挙げながら、地面に横たわる不良達。

「ったく、ケンカは相手見てからしろっつーの」

と、それを見下ろしながら、勇輝は凄くイヤラシイ笑みを浮かべながら言う。

「……ところで君タチィ、迷惑料って、知ってる?」

「「「「へっ?」」」」

「俺って繊細だからさぁ、ケンカ吹っかけられたりすると、ストレスで近くのもの砕け散るまで殴っちゃうんだよねー……払うもん払ってもらえれば、すーぐに落ち着けるんだけどなー」

更なる恐怖に顔を引きつらせる不良達。

そこへ、1台のバイクが停まり、乗っていた男女が降りてくる。

「待て!」

広域指導員姿のジンが、勇輝を止める。

「やりすぎだよ、どっちが不良か分からないじゃない!」

救急箱を持ったサクラが横たわっている不良達に駆け寄り、治療を始める。

「チッ!! お前等かよ………」

心底嫌そうな顔をする勇輝。

「お前等かよ、じゃないだろ」

「いつも言ってるけど、素行が悪すぎるよ、狛牙くん」

「リーダーの計らいで、お前はこの地で生活できるんだぞ。少しは自粛したらどうだ?」

勇輝に説教する2人。

しかし………

「うるッせえよこのベストバカップル!! 外だろーと何だろーと二人そろえばベタベタベタベタしやがって!! 人の素行注意する前にまず自分たちの素行を鑑みやがれ!!」

勇輝はやや僻みを込めた反論をする。

「ほえ〜〜〜〜………」

「……………」

サクラは顔を真っ赤にし、ジンは無言で勇輝をバスターブレードでホームランした。










麻帆良川の川原………

「エイホ、エイホ………そらー!! ガンバレ!!」

「「おおーーーーっ!!」」

天気が良いので外で特訓しようということになり、走りこみをしている機龍、ネギ、小太郎。

その様子を土手に座って眺めている真名、アスナ、このか、刹那、のどか。

「何か最近………ネギが体育会系になってきた気がするわ………」

「そうですね………」

走っているネギに目を向けながら言うアスナと刹那。

「せや、小太郎くんと一緒に、ほんま男らしくなってきたわな〜」

「ネギ先生………」

何時ものほんわか雰囲気で言うこのかと、そんなネギに熱っぽい視線を送るのどか。

「やはり、アイツの影響かな………」

機龍を見ながら言う真名。

さっきから視線は機龍にだけ注がれている。

と、それに気づいた機龍が笑顔で小さく手を振ると、顔を赤くして視線を逸らした。

そんなこんなで、和気藹々としていると………

「おわぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

叫び声が響いて、何かが川に落ち、水柱を上げた。

「うわっ!!」

「キャア!!」

「何だ!?」

慌てて全員が川を見やると、

「チキショウ!! アイツめ、覚えてろよ!!」

喚き立てながらこちらへと泳いでくる勇輝の姿があった。

「狛牙!?」

「よう、神薙」

川原に上がりながら、機龍に挨拶する。

「空から登場とは随分と派手だな………」

「いや、それがな………イックシッ!!」

「加○ちゃんか、お前は!!」

「どうもスンずれいしますた〜」

機龍達は全員ズッコケた。

そして、何故か勇輝の頭に金ダライが落下した。











「というわけで、空から飛んできた」

「そりゃ、お前が悪いだろう………」

土手に座って勇輝が空を飛んできた経緯の話を聞いて、呆れ顔になる機龍。

「「「「「ウンウン」」」」」

真名達も深く同意する。

「ところで、神薙。相談が………」

「金は貸さんし、飯も奢らんぞ」

1ミリ秒で言い返す機龍。

「早ぇな、オイ!」

「その台詞………何度目だと思ってるんだ」

勇輝は金と飯に困ると、機龍を訪ねては金を借りるか、飯をたかっていた。

「頼むよ〜〜〜! 今日の時給は漫画に消えちまう予定でもうないんだよ〜〜〜!!」

「じゃあ、この前の5万円、返せ」

「………漢が細かいこと気にするな」

「開き直るな!!」

まるで高校生が悪友と語りあってるような光景(実際2人の年齢は18。ギリギリ高校生と言える)にギャグ汗を浮かべる真名達。

そして………

「テメェ!! 表に出ろ!!」

「ここはもうとっくに表だ!!」

ついに取っ組み合いが始まったところで、真名達が止めに入るのだった。











その後、勇輝と別れ、帰路につく機龍達。

「………まったく! 狛牙のヤツ!!」

勇輝に愚痴を零す機龍。

「アハハ………」

と、そんな機龍にネギが笑いを零した。

「ネギくん、何が可笑しいんだ」

それを見て、機龍は憮然となる。

「だって、今の機龍さん………軍人じゃなくて、普通の人みたいで」

「は? どういう意味だ?」

「だって、機龍さんって何時もどこかキリッとしてて堅苦しい感じがしてるのに、今は何て言うか………普通のお兄さんみたいで」

「そう言やそうやな」

ネギの言葉に同意する小太郎。

「まあ………確かにアイツと絡んでると、つい地が出てしまうことがあるがな」

「狛牙さんって何か不思議な人やな〜」

「何か気安く話せるっていうか」

アスナ達も勇輝について話し出す。

「「「「ちょっと不良入ってるけど………」」」」

だが、結局、意見はそこに行き着くのだったが………











一方、勇輝の方は………

「チッ!! 神薙のケチ野郎!! あ〜あ、腹減ったな〜〜。今日の晩飯、どうしよう?」

こちらも、機龍への愚痴を零しながら、街をウロウロとしていた。

と、如何にもヤクザな感じの男とぶつかった。

「イテテテテッ!! 何しがる!!」

「大変だ兄貴!! 骨が折れちまってる!!」

そして、勇輝に如何にもな言い掛かりをつけるヤクザ達。

「オイオイ、兄ちゃん。どーしてくれるだ、え、オイ!!」

「………消えろ。殺されたくなかったらな」

そんなヤクザ達を三白眼で睨み、挑発的な台詞を吐く勇輝。

「何だとーーーっ!!」

「いてもうたれーーーっ!!」

勇輝に襲い掛かるヤクザ達。











30分後………

「ったく、人がただでさえ機嫌悪いってのに、喧嘩なんかさせやがって」

血だるまにしたヤクザ達を見下ろしながら、ブツクサと言う勇輝。

周りには人垣ができて、ザワザワと騒いでいる。

と、サイレンの音が聞こえてきて、パトカーが現れた。

「げっ!! やべっ!!」

面倒なことはご免だと思った勇輝は一目散に逃げ出す。

後ろから警察官が待ちなさいと言ってきたが、思いっきり無視して走る。

しばらく走り続けて、不意に止まる勇輝。

辺りは既に日が落ちかけていた。

「ゼエ………ハア………走ったら余計腹減った………」

足取りがフラフラとしだす。

視界も段々と歪んでいく。

「あ………もう………ダメ………」

勇輝はそのままパタリと地面に倒れた。

途中、誰かが駆け寄ってくるのが見えたが、勇輝の意識はそこで途切れた。











「ん………ううん………」

勇輝が意識を取り戻すと、見知らぬゴージャスな天井が視界一杯に広がっていた。

「あれ? 俺、確か外で倒れてたはず………」

身を起こしてみると、これまたゴージャスなベットで寝ていたことに気づく。

「何がどうなってんだ?」

わけが分からず混乱する勇輝。

と、左側の壁にあったドアが開き、メイド姿の女性が現れる。

「お目覚めですか?」

「誰だよ、アンタ?」

「しがないメイドです。お嬢様がお待ちです、どうぞ、こちらへ」

扉を示して促がすメイド。

「はあ? お嬢様? ますますわけ分かんねー」

勇輝はそう思いながらも、他に状況を打開する策も思い浮かばなかったので、大人しくメイドについていくことにした。











メイドの後について、少し歩いて行くとやがて大広間に辿り着いた。

中央に置かれた長いテーブルの上に、豪華なご馳走がところ狭しと並べられている。

「おおっ!!」

思わず声を挙げる勇輝。

「やっとお目覚めになられましたのね」

そして、その端に座っていたあやかが勇輝に声を掛けた。

「雪広? 何でお前がここに?」

「ここは私の実家ですわ」

「何ィ!?」

驚く勇輝。

(雪広が金持ちだっては聞いてたけど、ここまでだったとは………)

「まったく、たまの連休で実家に帰ったら、家の前で人が倒れていると聞いて見てみれば、あなただったなんて………」

不満そうに言うあやか。

「そりゃ悪かったな。じゃあ、助けなけりゃよかったじゃねーかよ」

「そうするのも目覚めが悪いのでこうしてお助けしたのですわ。別に恩に着せたりしませんから、ご心配なく」

「どーも………ところで………そのご馳走………」

「食べたければどうぞ。あなたが寝てる間もお腹の虫があんまりにも煩かったので用意させましのよ」

「マジかよ!! サンキュー!!」

そう言うがいなや、適当な席に座って、ご馳走をパクつき出す勇輝。

「ちょ、ちょっと、アナタ!! 少しはテーブルマナーというものを!!」

「うっせーな! どう食おうと俺の勝手だろ!」

「アナタがそういうことだから、機龍先生や(私の)ネギ先生が苦労を!!」

ぎゃあぎゃあと言い争いを始める2人。(勇輝は食いながら)

メイド達や執事は止めるのも忘れて唖然としていた。











「やれやれ、とんだ晩飯だったぜ」

愚痴を零しながら雪広邸の門を出る勇輝。

「それはこっちの台詞ですわ!!」

何だかんだで、苛立ち顔でそれを見送るあやか。

「雪広」

「何ですの?」

「ありがとよ………」

「えっ!?」

勇輝の思わぬ言葉に驚くあやか。

「じゃあな!!」

勇輝は片手を上げると走り去って行った。

あやかは少しの間、その場に佇んでいたが、勇輝の去って行った方を見ながらフッ微笑んだ。

「………まあ、また家の前で行き倒れていたら、助けてあげてもよろしいですわよ」

そう言って、あやかは家へと戻っていった。





以上、狛牙 勇輝の長い一日をお送りしました。





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