第61話


機甲兵団ガイアセイバーズ基地通路………

「貴方という人は〜〜〜!!」

抜き身の夕凪を振り回しながら、シリウスを追い回す刹那。

「だーから、冗談だってば!!」

「私にレ○の疑い掛けといて、冗談で済ます気ですか〜〜〜!!(怒)」

「ぎゃあぁぁぁ〜〜〜!!」

100メートル走だったら、世界新記録が出そうなくらいのスピードで追いかけっこを繰り広げている2人。

と、その途中、立ち話をしていた機龍と真名の横を通り過ぎた。

「あ! どうも!! リーダー!!」

「機龍さん! 失礼!!」

そして、嵐のように一瞬で横をすり抜けて行った。

「………またあの2人か」

「仲が悪いってわけじゃないんだが………どうもな………」

やや呆れ顔になる機龍と真名。

「刹那は真面目な奴だからな………シリウスさんのような軽い奴とは根本的に相容れないところがあるんだろう」

「今のところ問題はないようだが………任務に支障が出るようになると困るな………」

頭を捻る機龍であった。











それから数日後………

深夜の街外れの森林地帯にて、機龍、シリウス、真名、刹那の4人組が集合していた。

学園長より、大物の妖怪が発生したとの報告を受けた機龍は、先に依頼によって駆けつけた刹那と真名の補佐に回るため、手の開いているメンバーに召集を掛けた。

しかし、神の気まぐれか………ちょうど手の開いていたメンバーはシリウスしかいなかった。

しかも、丁度その4人のPFは全部オーバーホール中のため、生身で戦わなければならないというタイミングの悪さ。

どうしたものかと悩んだが、相手のレベルを考えるとシリウスを外すわけにはいかなかった。

荒療治になるが、この任務を通して、刹那とシリウスの関係の修正を図ろうというのだ。

果たしてどうなることやら………

「真名、敵の現在位置は?」

「ここから西に3キロの地点と、北に5キロの地点に集まっている」

「2ヶ所か………」

「どちらも街に近いです。ここは二手に分かれて対処するしかありませんね………」

作戦を練る4人。

「では、組み分けは………」

「俺は真名と組む。レイク軍曹は桜咲くんと組んでくれ」

「「「えっ!?」」」

驚きの表情を機龍に向ける3人。

「ちょっと、機龍さん!!」

「リーダー!! しかし!!」

反論しようとする刹那とシリウスだったが、

「これは命令だ」

そう言われて、何も言えなくなってしまうのであった。

結局、機龍&真名は西の地点。

シリウス&刹那は北の地点へと向かうことになった。











機龍&真名サイド………

「機龍。良かったのか? あの2人を組ませて?」

「どの道、いずれはやらねばならん事だ。それに、荒っぽいかもしれんが、戦いの場こそ信頼は深まるものだ」

不安げに聞く真名に、そう言い返す機龍。

「それもそうだな………」

「ああ………ところで、来客のようだぞ」

と、次の瞬間!!

無数の妖怪達が、機龍&真名を取り囲むように出現した。

「招待したつもりはないがな………アデアット」

そう言って、トロンベを装着する真名。

「ならば………そうそうにお帰り願おうか」

機龍も二刀を構える。

ゴギャアァァァァァーーーーーーッ!!

妖怪達は一斉に2人に襲い掛かった。

「イカれたパーティの始まりだ!!」

「派手にいくぞ!!」

2人は戦闘を開始した。











一方、シリウス&刹那サイドでは………

もう1つの地点目指して歩いている2人。

「そろそろ、リーダー達は敵と遭遇した頃かな?」

「………そうですね」

「「…………」」

そう言ったきり、会話が途切れる2人。

(弱ったな………)

(機龍さんは一体何を考えているんでしょうか………)

2人共、内心穏やかではない。

「あ、あのだね、刹那ちゃん」

「分かっています。今貴方と組んでいる以上、日常でのことは忘れます」

普通の口調だが、あまり感情が籠もってないように言い返す刹那。

(うう〜〜〜、気まずい〜〜〜………)

それを聞いて、心の中で涙を流すシリウスだった。

「!!」

と、不意に、刹那が歩みを止めた。

「どうした?」

シリウスは、怪訝な表情を浮かべて、刹那の傍へ寄った。

「伏せて!!」

「うわっ!?」

刹那はシリウスを引き倒しながら、その場に伏せた。

次の瞬間!!

ヒュンッと風を切るような音がして、さっきまで2人が立っていた後ろにあった木に、巨大な矢が刺さった。

「うわーーーっ!! 矢だ!! ヤダーーッ!!」

「くだらない駄洒落を言ってる場合ですか!!」

刹那は、すぐさま臨戦を取り、矢の飛んできた方向を見据える。

「ほほう………良い反応だ。流石は神鳴流剣士」

そう言いながら、木々の間の暗闇から現れたのは、烏天狗だった。

その後ろのは、様々な妖怪達の軍団が控えていた。

「烏天狗か………」

「神鳴流剣士! お手合わせ願おうか?」

烏天狗はそう言って、持っていた棒を構えた。

「何だと?」

「私に勝つことができたら、このまま引いてやろう」

「挑発だ、誘いに乗るな」

シリウスが横から口を挿んだ。

「どうした? 臆したか? 神鳴流剣士ともあろう者が」

そう言って小馬鹿にするような笑みを浮かべる烏天狗。

流石の刹那もカチーンときたようだ。

「………良いでしょう」

刹那は抜刀しながら前に出た。

「お、オイ、刹那ちゃん!!」

「手を出さないでください!!」

止めようとしたシリウスを、刺すような視線で制す。

「うぐっ!!」

「それでこそ神鳴流剣士だ」

烏天狗も前に出る。

お互いに得物を構え、睨み合い状態となる刹那と烏天狗。

妖怪軍団とシリウスが事の成り行きを見守っている。











30分経過………

相変わらず、刹那と烏天狗は睨み合っていた。

どちらも殺気は衰えていない。

と、そこへ、風が吹き、1枚の木の葉を宙に舞い上がらせた。

木の葉は、刹那と烏天狗の間にヒラヒラと落ちていき、地面につくとカサリと音を発てた。

その瞬間!!

刹那と烏天狗は、一瞬で距離を詰め、お互いの得物をぶつけ合った!!

(!! 早い!! これが神鳴流の剣!!)

シリウスも驚愕の表情を浮かべる。

そのまま、目にも止まらぬ攻防が始まる。

風を切る音が鳴り続け、刃と棒が交わりあった瞬間にはガキィン、ガキィンという音が鳴り響く。

両者、互角の戦いを繰り広げる。

やがて、徐々に刹那が押し始める。

「ぬう! イカン!!」

「隙あり!! 神鳴流奥義!! 斬空閃!!」

夕凪から放たれた三日月状の気が、烏天狗を吹き飛ばす。

「ぐわっ!!」

「トドメだ!! 神鳴流奥義!! 斬魔剣!!」

トドメを刺そうと吹き飛んだ烏天狗を肉薄し、夕凪を振り上げる刹那。

しかし、その瞬間、烏天狗の目が怪しく光った。

「!! 危ない、刹那ちゃん!!」

それに気づいたシリウスが叫んだが、遅かった………

烏天狗が、棒を端を持って引っ張ると、ギラリと光る刃が出現した。

「!! 仕込み刀!!」

「バカめが!!」

刹那がそれに気づいた瞬間に、銀色の光が走り、刹那の身体に左脇から右肩にかけて傷が出来て、血が噴き出した。

「ぐ………は………」

どさりと仰向けに倒れこむ刹那。

「チッ!! 浅かったか………」

それを見ながら残念そうにしている烏天狗。

「刹那ちゃん!! 貴様!! 卑怯だぞ!!」

「仕込み刀は暗器………隠して使わず、どうする?」

さも当然のように言い放つ烏天狗。

「クソ!! 刹那ちゃん!!」

慌てて刹那に駆け寄ろうとしたシリウスだが、その前に妖怪軍団が立ち塞がった。

「ええい!! 邪魔するな!!」

ヒートホークを両手に持って妖怪達を切り裂いて行くシリウス。

しかし、妖怪達は次々に出現し、シリウスを足止めする。

「フン………愚かな男め………」

「うう………シリ………ウス………さん………がはっ!!」

身体を動かそうとした刹那だが、激痛が身体に走り、血を吐いた。

「キュウーーッ!! 烏天狗のダンナ、この女の血、いただいてもいいですかい?」

蛭のような妖怪が、刹那に近寄り、烏天狗に向かって聞いた。

「好きにしろ………」

「んじゃ、遠慮なく………キュウーーッ!!」

蛭のような妖怪は、刹那の傷口に口を押し当てると、血を吸い始める。

「ぐ………あ………」

唯でさえの大量出血に加え、蛭のような妖怪に血を吸われ、刹那の顔がみるみる青くなっていく。

「ん〜〜〜? 何か、コイツの血、妙な味がするぞ………そうだ!! こりゃ、烏族の血だ!!」

「何?」

「何だって!?」

「!!」

それを聞いて、怪訝な表情を浮かべる烏天狗と、驚愕するシリウスと刹那。

「そうか………烏族と人間の間に生まれた不吉の象徴の白い翼を持つ半妖の娘が、西の長に拾われ、神鳴流剣士になったという話を聞いていたが………お前のことだったのか」

刹那の表情がさらに青ざめる。

「それがどうして、東のこの地にいるかわ知らんが………貴様も救いようのない奴だな」

刹那を見下ろしながら言い放つ烏天狗。

「貴様は人間でもなく、妖怪でもない………どちらにも成れぬ半端者よ………それが人間のように振る舞い、我等を狩る側に回るとは………まさにお笑い種だな」

「う………うう………」

刹那の目から涙が溢れる。

「精々苦しめ………そして人間でも妖怪でもない己の身を呪って死ぬがいい………ハッハハハハ!!」

烏天狗がそう言った瞬間!!

回転しながら飛んできたヒートホークが、蛭のような妖怪を胴から真っ二つにした。

「ギャアァァァァァァーーーーーーーッ!!」

断末魔を挙げて煙のように消えて行く蛭のような妖怪。

「何!?」

驚愕の表情を浮かべながら、ヒートホークが飛んできた方向を見る烏天狗。

そこには、熊も失神しそうなほどの怒気を放っているシリウスがいた。

周りには、襲い掛かっていた妖怪達が、物を言わぬ骸となって転がっていた。

「貴様!?………」

烏天狗がそう言いかけた瞬間!!

顔面に鉄拳を喰らい、木々を薙ぎ倒しながら吹き飛んだ。

「ぐはっ!!」

「………いい加減にしろよ」

静かだが、激しい怒りの感じ取れる声で言うシリウス。

「さっきから黙って聞いてりゃ、ベラベラと………刹那ちゃんが人間じゃないだと? 冗談じゃない!! 刹那ちゃんは人間だ!! 普通の女の子だ!!」

「シ………シリウス………さん………」

視線だけをシリウスに向ける刹那。

「例え世界中の奴等が否定しても、俺は彼女を人間だと叫び続けてやる!!」

叫びと共に烏天狗に突進するシリウス。

「バカめ!! そいつの二の舞だ!!」

烏天狗は仕込み刀を抜くと、突進してきたシリウスに振り下ろした。

しかし、シリウスは構わず突進する!!

「!? 血迷ったか!?」

振り下ろした烏天狗の仕込み刀がシリウスの肩に食い込んだ。

だが!!

「でえぇぇぇぇりゃあぁぁぁぁぁっ!!」

それがシリウスの身体を両断するよりも早く、シリウスが振り下ろしたヒートホークが、烏天狗を唐竹割りにした。

「な………に………!?」

視点がずれていくのを感じながら、烏天狗は絶命し、煙のように消えた。

「ハア………ハア………」

息を荒げながら、肩に食い込んだままの仕込み刀を抜きにかかるシリウス。

「が………あ………ええい!!」

激痛が走りながらも、無理矢理仕込み刀を抜くと投げ捨てる。

傷口からドクドクと血が流れる。

「ふう………やったか………!! 刹那ちゃん!!」

慌てて刹那に駆け寄るシリウス。

「シ………シリウス………さん………ありが………とう………がはっ!!」

再び血を吐くと気絶してしまう刹那。

既に出血の量は致死量に達しようとしていた。

「刹那ちゃん! ガンバレ!! 今、病院に………」

「それには及びませんよ」

と、不意に聞きなれない声がしたかと思うと、フードの付いたローブを纏った謎の男が現れた。

「!? 誰だ!?」

ヒートホークを構え、臨戦体勢を取るシリウス。

「大丈夫ですよ。怪しい者じゃありません。唯の通りすがりの図書館島の司書です」

信用しがたい笑顔を浮かべていう男。

「思いっきり怪しいぞ………」

「まあまあ、そう言わずに………」

そう言って、男が手を前に出すと、そこから光る球体が2つ出現し、1つは刹那に、もう1つはシリウスに取り込まれていった。

すると、忽ち2人の傷は、何事も無かったかのように完治した。

「!? これは!?」

「これでもう大丈夫です。では、私はこれで………」

男はシリウスに背を向けると、その場を立ち去ろうとした。

「待て! 一体何者なんだ、アンタは!?」

「アルビレオ・イマ………いえ、クウネル・サンダースとでも言っておきましょう。ただ他者の人生の収集が趣味の変人ですよ………では、さらば!!」

クウネルはそう言い残し、スーと消えた。

「!? 消えた!?」

驚くシリウス。

そこへ、

「オーイ! レイク軍曹!!」

「刹那ー! 無事か!!」

自分達が担当していた妖怪達を片付けた機龍と真名がやってきた。

「リーダー! 真名ちゃん!」

「おお、無事だったか」

「シリウスさん、刹那はどうしたんだ?」

真名は、シリウスの傍で倒れている刹那を見ながら心配そうに言った。

「いや、気絶してるだけだ。大怪我を負っていたんだが、妙な男が現れたと思ったら、魔法みたいなもんですぐさま治しちまったんだ」

「妙な男?」

「はい。アルビレオ・イマ………あ、いや、クウネル・サンダースと名乗っていましたが………」

「………フライドチキンか?」

「機龍………それはカー○ル・サンダースだ」

素早くツッコミを入れる真名。

「う………ううん………」

と、その時、刹那が目を覚ました。

「おお、桜咲くん。大丈夫か?」

「機龍さん? あ、はい! 大丈夫です!! っと!!」

慌てて立ち上がる刹那だったが、立ちくらみを起こし、バランスを崩した。

「危ない!!」

しかし、シリウスがすぐさま支える。

「無理しないで、刹那ちゃん」

「あ………はい」

「とりあえず、任務完了だな。私は学園長に報告してくる。桜咲くんはレイク軍曹が送ってやってくれ」

「は! 了解しました」

シリウスは、刹那を負ぶうと、寮へと向かって歩いて行った。

「………シリウスさん」

「ん? 何だい?」

「………ありがとうございました」

「………気にするな」

その言葉に、シリウスはフッと笑顔を見せるのだった。

「どうやら………荒療治は上手くいったようだな」

「そのようだな………」

それを見ていた機龍と真名も、フッと微笑むのだった。










翌日、またもシリウスを追い回す刹那という光景を目にした機龍は、胃に痛みを覚えたのだった。










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