第62話


機甲兵団ガイアセイバーズでは、様々な人物が働いている。

惑星J出身者。

麻帆良学園女子中学生。

整備用メカ軍団。

今日は、そんなガイアセイバーズで働くとある者達の記録を語ろう。

そのとある者達とは………











格納庫………

油の臭いと機械音が支配する空間の中で、会話に花を咲かせている者達がいた。

否、正確にはチャット会話に花を咲かせている者達と言ったところか。

その者達とは………

[でねでね、ミスティさん聞いてよ〜〜〜。その時レッディーたらさ〜〜]

[………それは流石にレッディーさんが悪いですね]

[ヘーーイ!! ミーの歌を聴けぇぇぇーーーーーっ!!]

[キバ………もう少し静かにできないのか]

[ディノさん、この前はデータ転送、手伝ってもらってありがとうございました]

[ケッ! テメェーがチンタラやってるから、イライラしてつい手伝っちまっただけだっての]

[素直じゃないな………]

そう、惑星J製のPFの制御AI達、ウィン、ミスティ、キバ、レイロン、ラン、ディノ、ヴォルだった。(会話順)

パイロットや整備員の3−A生徒、整備メカが自分達の身体をメンテしている間、暇だという理由でAI達は互いに電脳空間でチャット式会話に花を咲かせているのだった。

[盛り上がってますね、皆さん]

と、そこへ、ジェイスが参加してきた。

[あ、ジェイスさん! こんにちは〜〜]

[お疲れ様です、ジェイス]

………本当にチャット会話のようだ。

[調整の方は済んだんですか?]

[ええ、先ほど龍宮様が手伝いに来て下さいまして、予定よりも早く終わりました]

[へ〜〜、やっぱり]

[何がやっぱりなんだ、ウィン?]

1人だけ、何かを察しているように言うウィンに聞くヴォル。

[も〜〜、ヴォルもレッディーやコルコットさんに似て、鈍いんだから〜〜]

[………ほっとけ]

[それで、一体何の話なんだ?………]

脱線しそうになった話の軌道を戻すレイロン。

[私の推測によると〜〜、ズバリ!! 龍宮ちゃんは神薙さんのことが好きなのよ!!]

[………やはりですか]

即座に反応したのは他ならぬジェイスだった。

[あ! やっぱり、ジェイスさんも気がついてました?]

[ええ、龍宮様のご様子から大体の見当はついていました………しかし、問題は………]

[ミスター神薙がそのことに全く気づいていないということか、だっぜ?]

キバが口を挿む。

[ええ、その通りです]

[うっそーーっ!! あんなにアプローチしてるのに!! 信じらんなーい!!]

[機龍少尉はそういったことには壊滅的に鈍いのです………]

[あーもー! どうしてレッディーといい、コルコットさんといい、ウチの隊には色恋沙汰に鈍い人ばかりなの〜〜!!]

[落ち着け、ウィン]

暴走気味になってきたウィンを止めるヴォル。

[あーあー、ミスティさんとランくんのマスターの2人が羨ましいな〜〜。いっつもラブラブオーラ全開だもんね]

[ラブラブって………(汗)]

[ジン様とサクラ様は御幼少からの付き合いですから。既に以心伝心の仲ですね]

ウィンの物言いに少し引くランと、冷静に答えるミスティ。

[いやいや、随分と楽しそうな話をしているね]

[小官達も参加させて欲しいであります!]

そこへ、さらに2人の人物(?)が参加してきた。

[ん? バロンにヤスミツか]

そう、撃墜されて以来、格納庫の片隅に修復されて置かれているヤマト・ザ・ケルベロスのAI『ヤスミツ』と、シャドウレイヴンのAI『バロン』だった。

[ずっとここに置かれたままだからね。退屈していたところさ]

[察するに、色恋沙汰の話をしていたと思われますが?]

[そうそう、そんな感じ]

[………考えてみれば、この隊は色恋沙汰に縁があるな」

ボソッ呟くように言うレイロン。

[はい………機龍少尉に龍宮様]

[ジン様とサクラ様………]

[ネギくんに宮崎さん………]

[レッディーとさよちゃん………]

[コルコットさんと和泉さん………]

[レイと夕映………]

[アーノルド大佐と那波さん………]

[勇輝少尉殿とあやか殿………]

[ゼオとこのかちゃん………]

[シリウスと刹那………]

計10組のカップリング。(多っ!!)

[やっぱ多いよね〜、カップル]

[………幾つか疑問が残る組み合わせがいるが………]

またもボソッとツッコミを入れるレイロン。

[特に優輝さんとあやかさん、シリウスさんと刹那さんの組み合わせはカップルと言えるのでしょうか?]

[そうですね………片や顔を合わせれば喧嘩となり、片や漫才コンビのようなコントを繰り広げてる組み合わせですし………]

[分かってないな〜、ミスティさんもバロンさんも。愛の形は十人十色なんだよ〜〜]

[聞いたことあるぜ! そういうのツンデレっていうんだっぜ!!]

[………そうなんでしょうか?]

[ラン、私に聞かないでください]

ランの質問に困るジェイス。

[で、やっぱり一番熱いのがジンさんとサクラさんよね]

[続いて、ネギくんに宮崎さんといったところでしょうか?]

[イエイ!! 所謂、プラトニックラブってやつだっぜ!!]

[………キバ、意味が分かって言っているのか?]

………何故、人(?)はこうも他人の色恋沙汰で盛り上がれるのだろうか?











1時間後………

隊員達はいなくなり、すっかり静まり返った格納庫の2人の男女がいた。

女は、16〜17歳位で腰まである黒いロングヘヤーに黒真珠のような瞳の少女。

男は、16〜17くらいで髪が黒で翡翠の瞳をした少年だった。

[じゃ、行くよ! ヴォル!!]

[………なあ、ウィン。どうしても行かなくてはならないのか?]

[ならないの!!]

[…………]

ガイノイドとアンドロイド体に自分達を伝送したウィンとヴォルだった。

あの後の話し合いの結果、どういうわけか各々の隊員達の恋愛が何処まで進んでいるかを調査しようという話となり、ガイノイドとアンドロイド体を持つウィンとヴォルに白羽の矢が当たった。

ウィンはノリノリで引き受けたが、ヴォルは気が引けるといった感じだ。

(………3−Aの人達に感化されたのかな?………)

[いざ行かん! 我等が戦場へ〜〜〜!!]

[………ハァ〜]

ハイテンションのウィンに、タメ息を吐くヴォルだった。











街へと繰り出した2人は、早速、ターゲットカップルの1組を発見した。

ターゲット1………狛牙 勇輝×雪広 あやか

「ですから!! 何度も言うように貴方は素行が悪すぎます!! もう少しキチッとしたらどうですか、キチッと!!」

「うるせーな!! コノヤロウ!! そんなの俺の勝手だろうがよ!!」

「見るに耐えないから言ってるのですわ!!」

通行人の視線も気に留めず、路上でギャアギャアと言い合いをしている2人。

それを電柱の影から覗き見るウィンとヴォル。

[ターゲット1………狛牙 勇輝×雪広 あやか組を発見………現在口論中]

[………やっぱりあの2人がカップルってのはありえないと思うぞ]

[甘いわね、ヴォル。嫌よ嫌よも好きの内なのよ!!]

[何を熱く語っている、何を?]

と、その時、

「よーよー、兄ちゃん、姉ちゃん! さっきから路上でギャアギャアと騒ぎやがって、痴話喧嘩なら他所でやりやがれ!!」

イラついた感じの不良が2人の近くに寄って来て言った。

次の瞬間!!

「「誰が痴話喧嘩なんてしてるか(してますか)!!」」

「もじょぺっ!!」

息の合ったダブルパンチで不良は地に沈んだ。

[ほらね、息ピッタリ]

[…………]

[じゃ、次のターゲットに行きますか]

ウィンとヴォルが去った後も、勇輝とあやかは言い争いを続けるのだった。











ターゲット2………シリウス・レイク×桜咲 刹那

麻帆良道場で女子剣道部の練習を覗き見ているウィンとヴォル。

「ヤアーーッ!! タアーーッ!!」

やはり刹那が実力ピカ一だ。

掛かってくる相手を次々と打ち倒している。

[う〜ん、やっぱり凄いな、刹那ちゃん]

[オイ、桜咲さんしかいないのに観察していてどうするんだ?]

[大丈夫、大丈夫。私の直感が告げているわ。もうすぐここで何かが起こるって!]

[………AIに直感なんてあるのか?]

などと話していると、練習は終わり、部員達が部長と思われし人物のところへ集合していく。

「皆、よく頑張ってるな。特に桜咲、最近動きが良くなったな」

「いえ、そんな………」

「さて、大会も近いことだし、頑張っている皆に私から前祝いがある」

「「「「「前祝い?」」」」」

?を浮かべる刹那と部員達。

「最近、最速で届けてくれることで有名なピザ屋のピザを頼んでおいた。私の奢りよ、皆で食べましょう」

「うわっ! やったー!!」

「流石部長!!」

「いよ! 太っ腹!!」

テンションが上がる部員の中、刹那が嫌な汗を浮かべる。

「あの、部長………それってひょっとして………」

と、刹那が言いかけた時、キキィィィーーーーッ!! というけたたましいブレーキ音がして、道場の扉がバカッと開いた。

「毎度ーーー! ご注文の品、お届けに参りました!!」

そう言って入って来たのは、シリウスだった。

「おお! 本当に早いですね! 頼んでから5分もしてないのに!!」

「ハイ! 迅速、丁寧、低料金、そして頼まれた事は必ずやり通すがウチのモットーですから!!」

「やっぱり………」

シリウスを見て、呆れ顔になる刹那。

「あれ? 刹那さん、この人と知り合いなの?」

それに気づいた部員の1人が声を掛けてくる。

「ああ、いや、その………知り合いというか………」

言いよどむ刹那に代わってシリウスが、

「う〜〜ん、それは一言では言えない、複雑かつ内密な関係としか言えないな〜〜」

など言ったものだから、さあ大変。

バッと視線が刹那とシリウスに集まる。

ある者は驚愕の表情を浮かべ、ある者は「大人の階段を登ったのね」と呟き、ある者は「不潔です!!」と叫んだ。

刹那は、某戦争バカの傭兵に護衛される恋人にしたくないアイドルNO.1の女子高生のように、どこからともなくハリセンを取り出し、シリウスをブッ飛ばした。

スパーーンといい音が響く。

飛び散ったピザを部員達がキャッチする。

ブッ飛んだシリウスは倒れたまま、刹那に顔を向けて言った。

「中々痛いぞ」

刹那は一瞬でシリウスに近づくと、襟首を掴んで前後にガクガクと揺さぶる。

「何であんな言い方するんですか!! 思いっきり誤解されたでしょう!!」

「お、落ち着いて!! 俺はただ事実をだな………」

「事実でも言っていい事と悪いことがあります!! それに言い方が悪すぎます!!」

さらに激しく前後にガクガクと揺さぶる刹那。

「やっぱり………」

「そうなんだ………」

それを見ながら、ヒソヒソ話を始める部長と部員達。

「ああ!! 違います!! 違うんです〜〜〜!!」

刹那は悲痛な叫びを挙げた。

[…………]

[ほらね! 起こったでしょ]

[ああ………]

[よし、じゃあ、次に行こう]

その後も刹那は暴れ続け、遂には夕凪を持ち出して、シリウスを斬ろうとしだしたのだった。











ターゲット3………ゼライド・コルコット×和泉 亜子

ウィンとヴォルは、サッカー部が試合を行なっているグラウンドを茂みから覗き見ている。

狙いはもちろん………

「そこぉ!! もっと上がれ!! 敵に突かれるぞ!!」

「「ハイッ!!」」

ベンチからグランドの選手に指示を出すゼラルド。

「うむ………フォーメーションを変えてみるか………和泉ちゃん」

「ハイ、ここ最近の部員の皆さんのデータです」

「おお、流石、対応が早いな。助かるよ」

「い、いえ………そんな………」

頬を染めて、視線を逸らす亜子。

(アスナ………今まで笑ってゴメン………渋い大人ってええわ〜〜)

ここにもう1人、渋いオジ様好きに少女が誕生した。

「?? どうした? 顔が赤いが、風邪でもひいたのか?」

「い、いえ!! 何でもありません!!」

「?? そうか………」

イマイチ釈然としないが、特に追求はしないゼライドだった。

[う〜〜ん、ここはもう少し様子見かな?]

(大佐………申し訳ありません)

心の中でゼラルドに謝罪するヴォルであった。











ターゲット4………レッディー・ブルニート×相坂 さよ

麻帆良学園ダンス部総合練習ホール………

「それ! ワン、ツー!! ワン、ツー!!」

手拍子でリズムを取るレッディー。

それに合わせて踊る部員達。

「………いいな〜」

それを物陰で、羨ましそうに眺めているさよ。

(私もダンスをやってみたいな〜〜………でも、私幽霊だし………無理だよね〜〜………ハアァ〜〜)

さよがタメ息を吐くと、

「よーーし、今日はここまで! 各自、ちゃんと復習するように!!」

「「「「「ありがとうございました!!」」」」」

挨拶をすると、ホールを出て行く部員達。

全員が出て行ったのを確認すると、レッディーは物陰の方を向いて言った。

「さよちゃん、いるんだろ? 出ておいで」

「え、あ? 気づいてたんですか?」

ゆっくりと物陰から姿を現すさよ。

「なんとなくね………それじゃ、やってみようか」

「え? あの、何を?」

「ダンスだよ。やってみたかったんだろ」

「ええ〜〜!! で、でも、私、幽霊だし、足がないから………」

「フフ………さよちゃん、こんな言葉を知ってるかい?」

「え?」

「足なんてものは飾りです。偉い人にはそれが分からんのですよ」

さよは一瞬、レッディーの後ろにジ○ングが見えた気がした。

「え〜〜と………」

「………と、まあ、冗談は置いといて」

冗談かよ!!

「何事もやってみなければ分からんさ。さあ、やろうぜ」

「………ハイ!!」

最初は戸惑っていたさよだったが、やがてレッディーと一緒に踊りだす。

[うんうん、いいよいいよ]

[………しかし、レッディーさん、このシチュエーションに気づいてないな]

[う〜〜ん、そこが惜しまれるけど、まあいいものが見れたし、満足かな]

広いホールで2人だけのダンス大会が続くのだった。











ターゲット5………ゼオ・シュルト×近衛 木乃香

屋台超包子にて仕事に励むゼオ。

「ハイ! エビチリお待ち!!」

〈ゼオさん、次、豆板醤お願いします〉

「ハイ、了解です」

五月に言われ、次々とオーダーされたメニューを調理していく。

「頑張ってんな〜〜、ゼオくん」

と、そこへ、このかがやって来て、カウンター席に座った。

「ああ、このかちゃん、いらっしゃい。何時もので?」

「うん、お願い」

「ハイよ! ちょっと待っててね」

豆板醤を仕上げるとこのかのオーダーを造り始めるゼオ。

「ゼオくん、ここの生活………慣れたん?」

「うん、まあね………このかちゃんは最近どう?」

「ボチボチやな〜〜」

「そっか………」

ほんわかした雰囲気が2人の間に漂う。

「オホン、このかサン、ゼオ。いちゃつくなら営業時間外にして欲しいネ」

そこへ、超がわざとらしく咳払いしてツッコム。

「ええ! いや、あの、別にいちゃついてるわけでは!!」

「あ〜〜ん、超さんのいけず〜〜」

慌てるゼオと、いつもの調子のこのか。

[うん! ここもいい感じね、素晴らしいわ!!]

[………もう好きにしてくれ]

客に紛れて観察するウィンと、完全に諦めモードに入るヴォル。











ターゲット6………アーノルド・アルバトス×那波 千鶴

保育園のグラウンドにて………

「アーノルドおじちゃん! 遊ぼう!!」

「遊ぼうよ!!」

「「「「「遊ぼう!! 遊ぼう!!」」」」」

甘い物に群がる蟻の如く、アーノルドに群がる子供達。

「分かった、分かった!! 分かったから、引っ張らないでくれ!! 後と登らないでくれ!!」

子供にあちこち引っ張られ登られ、たじたじになるアーノルド。

「皆〜〜、休み時間は終わりよ〜〜!! 教室に入って〜〜!!」

「「「「「は〜〜〜〜い!!」」」」」

と、そこへ、千鶴の声が響いて、子供達は一目散に教室へ走っていった。

「大丈夫ですか、アーノルドさん?」

やって解放され、ボロボロ状態のアーノルドに駆け寄る千鶴。

「いやはや、最近の子は元気ですな〜〜」

苦笑いを浮かべて、服についた砂を叩き落とすアーノルド。

「しかし………こうしていると、時々戦争が遠くに感じられますよ」

「そうですね………」

澄み切った青空を見上げて言う2人。

「戦争なんて………ないに越したことはないですね」

「自分も………そう思います」

自然と寄り添う2人。

和やかな雰囲気が漂う。

[キャアァァァーーー!! アーノルドさんと千鶴さんったら素敵!! 夫婦みたい]

[………那波さんって本当に中学生なのか?]

そしてそれを保育園の門の影からちゃっかりと覗き見ているウィンとヴォルだった。











ターゲット7、8………レイ・クルーウェル×綾瀬 夕映+ネギ・スプリングフィールド×宮崎 のどか

図書館島にて読書に洒落込んでいる4人組。

「さ〜〜て、今日は何を読もうかな〜〜」

「コレなんてどうですか?」

本棚の前で、何を読もうかと悩んでいるレイに、夕映がお勧めの本を差し出す。

「あ、ネギせんせー。前にお貸した本の続編、見つけましたー」

「わぁー、ありがとうございます。続きが気になっていたんですよ」

その隣の本棚の前で仲良さげに談笑しながら本を選んでいるネギとのどか。

やがて、選び終わるとレイと夕映組、ネギとのどか組に分かれて、席について読み始める。

「………やっぱり、ここが一番面白いですね」

「そうなんです、ここが一番の見せ場で………」

ネギとのどかは、相変わらず読みながら談笑に耽っていたが、ふと、自分達が距離零の位置にいることに気づいた。

「!! わわっ!! すみません!!」

「!! い、いえ!! あの!!」

途端に顔を真っ赤にして離れる2人。

向かい合ったまま、俯いてしまう。

「相変わらず、初々しいね〜〜。うん、青春だ」

「のどか………お幸せに」

それを見ながら、そんな感想を漏らすレイと夕映。

「ところで夕映ちゃん?」

「? 何ですか?」

「それ、何だい?」

夕映の飲んでいる飲み物のボトルを指差すレイ。

「コレですか?」

ボトルのラベルを見せる夕映。

そこには『薬草ポーション』と書かれていた。

「………美味しいの?」

「はい、中々ですよ」

「ふ〜〜ん………じゃ、ちょっと貰うね!」

夕映からボトルを引っ手繰ると、グビッと一口飲むレイ。

「あっ!!」

夕映が驚いた次の瞬間!!

「!? ゴボッ、ゲボッ、グバッ!!」

激しく咳き込み、椅子から転げ落ちると悶えるレイ。

「ぐおぉぉぉ〜〜〜〜っ!! 苦い!! しょっぱい!! 甘い!! 辛い!! 青臭い!! 詰まるところ、マズイ〜〜〜ッ!!」

阿鼻叫喚状態となってるレイに対し、夕映は何やら顔を赤くして転がった『薬草ポーション』のボトルの飲み口を見ていた。

それもそのはず、そのボトルは最初に夕映が呑んでいた物。

つまり………

(間接キス………です)

やっとのことで夕映が、レイの様子に気づき、レイが苦しみから解放されたのは、それから暫くしてからだった。

[いいね〜、いいね〜、ネギくんとのどかちゃん。ホント、初々しい〜〜]

[………クルーウェル准尉、どうかご無事で]

本棚の上から、ウィンはネギとのどかを覗き見、ヴォルはレイの身を案じるのだった。











ターゲット9………ジン=ミスラトル×サクラ=キサラギ

保健室にて………

「はい、コレで大丈夫だよ」

椅子に座っているジンの左腕に包帯を巻き終わったサクラが言った。

「………スマンな」

左腕に巻かれた包帯をまじまじと見やるジン。

「謝るなら無茶はしないでよ。たった1人で1000人の暴走族相手にするなんて………」

以前、ジンに潰された暴走族が同じ同士を集め、ジンに報復をしてきたのだ。

ジンは、自分で起こした事なので自分で責任を取ると言い、たった1人でそれに立ち向かって行ったのだった。

………結果、暴走族は壊滅。

ジンは左腕を負傷という、傍から見れば、もの凄く不公平な結果に終わったのだった。

「………自分で蒔いた種は自分で刈る。俺はそういう奴だ」

「もう………」

サクラは、座っているジンに覆い被さるように後ろから抱きついた。

「………心配してる人がいるって、忘れないでよ」

ジンの肩に顎を乗せ、耳元で呟くように言った。

「………ああ」

ジンは、サクラの頬に優しく手を添えるのだった。

と………

「!! 誰だ!!」

左手にダブル・ファングを構えたかと思うと、保健室のドアに向けるジン。

「ど、どうしたの?」

驚いてジンから離れるサクラ。

ジンは、ゆっくりとドアに近づくと、バッと開け放つ。

しかし、そこには、誰もいなかった。

「?? 気のせいか………妙な気配がした気がしたんだが………」

同刻、保健室からやや離れた通路の角では………

[ハア〜〜………危なかった〜〜]

[ウィン………やっぱり帰ってもいいか? いい加減、砂吐きそうだ]

[ダ〜〜メ!! 本命が残ってるじゃない!!]

[本命って………やっぱり………]

[決まってるじゃない!! 勿論………]











ターゲット10………神薙 機龍×龍宮 真名

夕刻、麻帆良学園都市、山岳森林地帯にて………

警備員服姿で腰に二刀を差して、ショットガンを持ちながら、森の中を走る機龍。

(こちら機龍。真名、ターゲットは?)

仮契約カードを額に当てて、パートナーの真名に念話を飛ばす。

(川原に追い詰めた。現在、足止め中だ)

真名から返信がくる。

(分かった! 俺もすぐ行く。気をつけろよ)

(了解だ!)

念話を終えると、さらに加速する。

同刻、山岳森林地帯内の川原では………

キョオォォォーーーーーッ!!

「街へは行かせんぞ!!」

仕事人服姿でトロンベを装着した真名が、巨大なヤマアラシを足止めしていた。

キョオォォォーーーーーッ!!

ヤマアラシは背中のトゲを執拗に飛ばして、真名を攻撃する。

それをローラーダッシュで華麗にかわしながら、ランツェ・カノーネで反撃する真名。

一方的に攻撃を喰らうヤマアラシ。

しかし、それに怒ったヤマアラシは足で地面を蹴り、石や砂を飛ばしてくる。

「くっ!!」

真名は、咄嗟にトロンベのマントを翻して防ぐ。

だが、その一瞬、隙ができてしまう。

ヤマアラシはそれを見逃さず、トゲを2本飛ばし、トロンベのマントを貫く。

「うわっ!!」

衝撃で吹き飛ぶ真名。

さらに運悪く、マントを貫いたトゲが地面に刺さり、動きを封じられてしまう。

「!! しまった!!」

キョオォォォーーーーーッ!!

動けなくなった真名を踏み潰そうと、ヤマアラシが接近する。

真名は、トロンベをしまうか、攻撃するかを考えてしまい、反応が遅れてしまう。

ヤマアラシの足の裏が視界一杯に広がる。

「う、うわぁぁぁーーーーっ!!」

思わず、悲鳴を挙げる真名。

と、その時!!

ヤマアラシの右目が爆発し、真名を踏み潰そうとした足は隣の地面を砕くに終わる。

「真名!! 大丈夫か!?」

声が聞こえた方向を見ると、銃口から煙を上げたショットガンを持った機龍が目に入った。

「機龍!!」

「スマン!! 遅くなった!!」

ショットガンを発砲しながら、真名に駆け寄る機龍。

ヤマアラシは堪らず、よろけながら後退する。

その隙に機龍は、トロンベのマントに刺さっていたトゲを抜く。

「まったく………死にそうになったぞ!」

「スマン、思ってたより地形が入り組んでてな」

「………詰まるところ、道に迷ったと?」

「いや、ホント! 悪かったって!!」

拗ねたように剥れる真名に、どうしたものかと慌てる機龍。

キョオォォォーーーーーッ!!

と、そこで、態勢を立て直したヤマアラシが、再び2人に襲い掛かる。 

「議論は後だな」

「そうだな、とりあえず今は、コイツを!!」

2人は、左右に飛び退いてかわすと、真名は再びランツェ・カノーネを構え、機龍はショットガンをしまい、二刀を抜く。

「「イッツ!! ショータイム!!」」

掛け声と同時に、2人はヤマアラシへと向かって行った。

トゲを飛ばして攻撃するヤマアラシ。

「なんの!!」

しかし、機龍が二刀で全て切り落とす。

「トアッ!!」

そのまま、ヤマアラシへと飛ぶと、トゲを斬り裂いて背中に乗る。

「散髪してやるよ!! テリャーーーーッッ!!」

そして、二刀でヤマアラシを丸坊主にしていく。

キョオォォォーーーーーッ!!

ヤマアラシは堪らず、機龍を振り落とそうと暴れる。

が………

「トロンベよ、その力を私に示せ! シュツルム・アングリフ!!」

真名の連射を喰らいよろける。

「トオッ!!」

機龍は、ヤマアラシを完全に丸坊主にすると、一旦飛び退く。

「シュルター・プラッテ、ダブル!!」

それと同時に、真名がシェルター・プラッテを2つとも飛ばす。

2つのシュルター・プラッテは、丸坊主になったヤマアラシの背中を切り裂き、真名の両肩へと戻る。

キョオォォォーーーーーッ!!

傷口から緑色の血を流しながら、暴れるヤマアラシ。

「トドメだ!!」

二刀を構えながら、突撃する機龍。

「神薙二刀流!! 横二文字斬りィィィーーーーッッ!!」

横薙ぎに振った二刀がヤマアラシを綺麗に3つにスライスした。

ヤマアラシの死体は、そのまま、煙のように消えていった。











「オイオイ………そろそろ機嫌直してくれよ、もう日が沈んじまうぞ」

「…………」

機龍がそう言っても、真名は相変わらず、無言で木の根元に体育座りして、機龍から顔を逸らしながら頬を膨らましている。

「子供か、お前は?」

「………死にかけたんだぞ」

「うっ………」

そう言われると何も言えない機龍。

「あ〜〜………どうすりゃいい?」

「………おんぶ」

「は?」

「おんぶして帰ってくれたら機嫌直してやる」

真名は、膨れっ面のままで言ったが、内心少し遊んでいた。

(フフフ………流石にやりすぎたか………まあ、これぐらいで………)

と………

「………やっぱり、子供だな、お前」

「へっ?」

次の瞬間、機龍は真名の前に背を向けて膝立ちになった。

「え、ええっ!!」

「ほら、早くしてくれ。この後、報告書を纏めなきゃいかんのだから」

「あ、ああ………」

言われるがままに機龍に負ぶさる真名。

機龍はしっかり真名を支えると立ち上がって歩き出した。

「あの………」

「何だ?」

「………重くないか?」

「女にそんな失礼なこと言うほど軟弱なつもりはない」

「あ、うん………」

結局、真名はそれ以上は何も言えず、顔を真っ赤にして機龍の背で縮こまる。

しかし、機龍はそれを気にも留めず、ただ悠然と歩を進めるのだった。

(うう………冗談だったのに………でも………良い気持ちだ………)

ちょうど北風が吹いていたが、真名は機龍の背からの体温で暖かく感じるのだった。

(大きな背中………あの人と同じくらい………いや………ちょっと大きいかな………)

真名の意識は段々と闇に沈んでいった。

「真名?」

と、さっきから会話がないので機龍が声を掛けてみる。

「スゥー………スゥー………」

「寝てる………いい気なもんだな、オイ」

一瞬そう思った機龍だが、

「スゥー………スゥー………」

真名の幸せそうな寝顔を見ているうちに、自然と笑みが零れる。

「ま、いいか………」

そのまま歩いて行く機龍を覗く影が2つ。

[うわ〜〜! 機龍さんったら、大胆!! 唯一惜しまれるのが、態度が淡白過ぎることね〜〜っ!!]

[………俺が人間だったら、今日1日で胃に穴が開いてるな]

一連の騒動を高みの見物していたウィンと、げっそりしているヴォルだった。

結局、機龍が真名を寮に送り届けた後、基地へ戻って報告書を書き終えたのは、3時間後だった。





翌日、何故か生き生きとしているウィンと、げんなりとしているヴォルに、レッディーとゼラルドは頭を捻るのだった。





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