第77話


学園長室………

「き、機龍くん………」

「どうされました、学園長? 幽霊でも見ているような顔で」

驚きの表情で、機龍を見ている学園長。

集合している他の魔法先生や生徒達も、目の前の光景が信じられないという顔をしている。

「ホントに………機龍くんなのか?」

「ご心配をお掛けして申し訳ありませんでした。神薙 機龍、戦線に復帰いたしました」

ビシッと敬礼する機龍。

「う、うむ、そうか………いや〜〜、無事で何よりじゃったわい」

学園長は安堵の表情を浮かべた。

「それで学園長。早速で申し訳ありませんが、現在の状況は非常に劣勢です。協会側の御意見をお伺い出来ますか?」

機龍は、敬礼を解くとそう切り出した。

「うむ………それは………」

「敵が再度攻め込んで来たら、世界樹の魔力を暴走させ、この都市ごと敵を吹き飛ばす………それが我々の考えた作戦だ」

言い淀む学園長に代わって、眼鏡をかけた黒人男性………ガンドルフィーニ教諭が答えた。

その答えに、機龍はピクッと眉を動かした。

「それはまた………随分と豪快な作戦ですね」

「幸いにも、全市民は超 鈴音と葉加瀬 聡美が極秘裏に建造していた地下シェルターに避難が終わっています。例え都市を自爆させても、犠牲者はでません」

機龍の皮肉めいた言葉に、淡々と言い返す眼鏡をかけたストレートロングの髪型の美女………葛葉 刀子。

「しかし、敵要塞島には3−Aの生徒の1人、龍宮 真名くんが捕らえられています。救出しないことには………」

「その必要はない」

「………何ですって?」

そう言ってきたガンドルフィーニに視線を向ける機龍。

「たった1人の為に、これ以上、麻帆良に住む全ての住人を危険に晒すわけにはいかない」

「龍宮くんを見捨てるんですか………アンタ! それでも教師か!?」

「神薙くん、分かってくれ。僕達にだって苦渋の決断なんだ」

ガンドルフィーニを怒鳴りつける機龍を宥めるように言う瀬流彦。

「残念ながら、機龍くん………瀬流彦先生の言う通りなんじゃ………機甲兵団ガイアセイバーズには、世界樹が自爆するまでの時間を稼いで貰い、その後、自爆寸前に離脱して欲しい」

「それは………命令ですか?」

静かに聞く機龍。

学園長は無言で首を縦に振った。

「………分かりました」

「すまない、機龍くん。我々には、世界の平和を守る義務があるのじゃ」

学園長は本当に申し訳なさそうに機龍に言った。

しかし………

「では、世界樹が自爆する前に敵要塞島に突入し、龍宮 真名を救出します」

「「「「「なっ!!」」」」」

機龍が言った言葉に、全員が揃って驚愕した。

「失敗した場合、退避が完了していなくとも、自爆を決行してくれて構いません」

「ガイアセイバーズを全滅させるつもりか!!」

「ご心配なく………救出に行くのは私1人だけです。他の隊員達は、時間前にキッチリ退避させます」

「何故だ!! 何故、たった1人の為に、自分の命を投げ出すんだ!!」

それを聞いた機龍は、静かにだがはっきりと言った。

「たった1人の命も救えずに………世界の平和が守れるわけないでしょう」

「「「「「!!」」」」」

その言葉に誰もがハッとした。

「再出撃に備えなければならないので、これで失礼します………では」

そう言い残し、機龍は学園長室を後にした。

「「「「「……………」」」」」

残された魔法先生や生徒達は、ただ無言で、何かを考えていた。

「若さとは、時に周りの人間に情熱を取り戻させてくれるのじゃのう………わしも昔のように熱くなってきおったわい」

誰とにもなく言う学園長だった。











一方、麻帆良住民が避難している地下シェルターでは………

「怪我をした方はこちらに集まってくださ〜〜い!!」

「配給食はこちらです〜〜! 人数分ありますので押さないでくださ〜〜い!!」

所狭しと詰めている市民を公共やボランティアの団体が取り仕切っていた。

「………これからどうなるんだろ」

「何なんだよ、あのロボットやバケモンの大軍………」

どの人達の表情も暗かった。

そんな民衆の様子を壁に凭れ掛かって見ている男が1人いた。

「俺は………これからどうするべきなんだ………」

………ハクヤだった。

五月によって逃がされた後、流されるように避難民の中に混ざり、このシェルターまで来ていた。

自分はどうするべきなのか………その答えが出ずにいた。

「何だと、テメェー、コノヤロウッ!!」

「やんのか、コラァッ!!」

と、苛立ちのあまり喧嘩を始める輩がいた。

周りの事など一切お構いなしに激闘を繰り広げる。

「…………」

ハクヤはただ黙ってそれを眺めていた。

と、何処からとも無く現れた男が一瞬で喧嘩をしていた者達を殴り飛ばし、喧嘩を鎮めた。

「テメェー等!! こんな大変な時に喧嘩なんかしてんじゃねーっ!!」

「!! あの男は!?」

喧嘩を鎮めた男の姿を良く見てみると………

「ったく!! 何考えてやがるんだ」

それは、狛牙 勇輝だった。

「狛牙!?」

「ん? おおーー!! お前は確か、え〜〜と………そうそう! ハクヤじゃねーか!! 元気してっか?」

フランクに話す勇輝。

「貴様、何故ここに?」

「そりゃこっちの台詞だ。何でお前が麻帆良にいるんだ?」

「それは………」

ハクヤが言いよどんでいると………

「た、大変!! 大変です〜〜〜っ!!」

大慌てといった様子でゼオが駆け寄ってきた。

「おう、ゼオ。どうした?」

「び、ビッグニュースですよ!! って、ハクヤさん!?」

何事か言おうとして、ハクヤの存在に気づいて驚くゼオ。

「ゼオ!? お前までいたのか!?」

「そんなことより、ゼオ。ビッグニュースって何だ?」

「ああ、そうだった!! 聞いて驚いてください!! 機龍さんが生きてたんです!!」

「!!」

「何っ!? そりゃホントか!?」

驚きを露にするハクヤと勇輝。

「ハイ!! 確かな情報です!!」

(生きてきたのか………神薙)

「そーか、そーか!! まあ、アイツが簡単にくたばるわけねーとは思ってたがな!! それで、今何処に?」

「ガイアセイバーズに戻ってるそうです」

「そうか………よし!!」

勇輝は、パンッと手を打った。

「どうするつもりだ?」

「決まってるだろ! ガイアセイバーズも相当やられたらしいからな………加勢しに行くのさ!」

「何っ!?」

驚くハクヤ。

「お前、ヴァリムに歯向かうつもりか!?」

「そんな気は無えよ。俺は今でもヴァリムは好きだ。親は死んじまったが、ダチも、世話になった人もいるし、何より俺が生まれた国だしな………けどよ、これは、違うだろ? ここの奴らは無関係じゃねえか。ヴァリムも、アルサレアも、ここの奴らとは何にも関係無え」

「それは………」

「そんな奴らを、何で巻き込む? ケンカなら当事者同士でやるべきだろーが」

「…………」

ハクヤは閉口する。

「……それに、俺はここが結構好きだ。同じ飯食って美味いって言って、同じマンガ読んで笑える奴らがいる、ここが好きだ。だからよ、ここがぶっ壊されるのは、我慢ならねえ」

「!!」

「………こんだけ理由がありゃあ、『軍』に歯向かうには十分だろ?」

「狛牙………」

「僕もお供させてください、狛牙さん!」

と、そう言ってゼオが話に割り込んできた。

「ゼオ!? お前まで!?」

「僕はもう傭兵じゃない。だから僕は、僕を助けてくれた人や愛する人の為に戦うつもりです!!」

「!!」

「よし!! 行くか、ゼオ!!」

「ハイ!!」

2人はそう言って、シェルターの出入口目指して走り出した。

「………ったく、何奴も此奴も、人の為、人の為かよ」

残されたハクヤは、そう呟く。

「………しかし………そんな理由で戦うのも、悪くないかもしれん」

そしてハクヤも、同じように出入口目指して走り出した。











そして、魔法戦艦バハムート墜落地点では………

ビリーブもその近くに着陸し、現在、ガイアセイバーズとガーディアンエルフが総出でバハムートとPF部隊の修理を急ピッチで進めていた。

「5番の装甲盤、どこやった!?」

「2番のコード、持ってきて!!」

誰も彼も、忙しく走り回っていた。

「え〜〜と、あれ? レンチどこやったけ?」

辺りをキョロキョロと見回すネギ。

「ほら、ここだよ」

と、1人の男が、ネギにレンチを差し出した。

「ああ、ありがとうございます………って、ヘルマンさん!?」

ネギは、レンチを受け取ろうとして、差し出した相手………ヘルマンを見て驚愕する。

「やあ、久しぶりだね、ネギくん」

ニッコリ笑って言うヘルマン。

「ネギー! どうしたの? 大声挙げて………って、アンタは!?」

様子を見に来たアスナが、ヘルマンの姿を見て、慌ててハマノツルギを呼び出し、構えた。

それに気づいた他数人が同じようにやって来て、それぞれ得物を構えた。

「そう警戒しなくてもいい。私は君達に味方するために来たのだからね」

「味方!?」

「信じられませんわ!!」

ヘルマン事件に関わった3−A生徒達は、ヘルマンを疑う。

「いえいえ、本当ですよ。彼は貴方達の味方です」

と、不意にそんな声が響いてきて、ヘルマンの隣に、ローブを纏った男………アルビレオ・イマが現れた。

「!! お前は!!」

その男の姿を見て、今度はエヴァが驚愕した。

「お久しぶりです、古き友、エヴァンジェリン」

「そうだな………ナギが生きていたのだから、お前が生きていても不思議はないな………アル」

露骨に嫌そうな顔を向けるエヴァ。

「おやおや、私は随分と嫌われているようですね」

それをさらっと受け流すように信用しがたい笑顔を向けるアル。

「当たり前だ!! 散々私を嵌めて、猫耳やら、セーラー服やら、スクール水着やら、体操着(ブルマー)やら、ナース服やら、チャイナドレスやら、メイド服やらを着せたのは何処のどいつだ!!」

エヴァは、顔を真っ赤にして声の限り叫んだ!!

「ああ、アレは良い思い出でしたね〜〜」

「貴様〜〜〜〜〜っ!! 言うに事欠きおって〜〜〜〜っ!!」

アルに飛びつき、ローブの襟を掴んで激しく前後に揺さぶるエヴァ。

「ハハハハハ」

しかし、アルは効いていないのか、笑ったままだった。

「「「「「…………」」」」」

あまりの展開に完全に置いてきぼりを喰らっているネギ達。

「ま、まあ、彼等の事は置いておくとして………ネギくん、私が本当に信用できないかね?」

ヘルマンは、真っ直ぐネギの目を見ながら言った。

「…………」

ネギも、真っ直ぐにヘルマンの目を見る。

暫し、2人はお互いの目を真っ直ぐに見据える。

そして、ネギが不意にフッと笑った。

「僕は………貴方を信用します、ヘルマンさん」

「ありがとう………ネギくん」

ネギとヘルマンは、ガッチリと握手を交わした。

「ネギ!! 本気なの!?」

「僕には分かります。ヘルマンさんは信じられると」

「………全力を尽くして闘った相手だから?」

アスナの問に、ネギは無言で頷いた。

「………フゥ〜、分かったわよ。アンタがそこまで言うんなら、信用してあげるわ」

「私も、ネギ先生がそう仰るのなら………」

ネギへの信頼から、次々と賛同者が出る。

「ありがとうございます、皆さん」

「相変わらず、良い仲間達を持っているな………羨ましいよ、ネギくん」

「ヘルマンさんも今はその仲間じゃないですか」

「フッ………そうだな」

微かに笑って頷くヘルマン。

と、そこへ………

「全員集合!! 協会の作戦が決まった!! 通達するぞ!!」

戻ってきた機龍がそう叫び、全員集合を促がした。

そして、集まった隊員達に協会の作戦を説明し始めた。











「………というのが、協会側の作戦だ」

「………そんな」

その作戦内容を聞いた誰もが唖然とした。

「そ、それじゃ、龍宮さんもろともヴァリムを!?」

「たった1人の為に、これ以上、麻帆良に住む全ての住人を危険に晒すわけにはいかない………それが協会側に意見らしい」

「ちょっと、そんなの納得できるわけないじゃない!!」

「これは、決定事項だ………」

重々しく言う機龍に、誰もが反論できなかった。

「では、作戦通り、君達とガーディアンエルフは世界樹が自爆するまでの時間を稼ぎ、その後、自爆寸前に離脱せよ」

「えっ!? 君達と? !! まさか機龍さん、また!?」

「そうだ、俺はヴァリム軍要塞島に突入に、真名を救出する」

「「「「「「やっぱり!!」」」」」」

その言葉に全員がそう言った。

「はっきり言って救出作戦が成功する確率は限りなくゼロに近い。危険な賭けだ。君達まで巻き込むわけにはいかない」

そう言う機龍だったが………

「その作戦………僕も乗らせてもらいますよ、機龍さん」

「なっ!?」

最初にネギがそう言ったのを皮切りに………

「自分も参加します」

「私も!!」

「俺も!!」

「僕も!!」

隊員達が次々に救出作戦に名乗りを上げてきた。

「お前達! 分かってるのか!! 可能性は殆どゼロなんだぞ!!」

「可能性なんてものは目安や!! あとは勇気で補えばいい!!」

「………って、リーダー、何時も自分で言ってたじゃないですか」

危険だと促がす機龍に、そう言い返す小太郎とサクラ。

「しかし!!………」

「機龍さん………若さって何ですか?」

「!!」

ネギのその言葉に驚く機龍。

だが、次の瞬間にはニッと笑い、言葉を返した。

「振り向かないこと。そして、諦めないことだ!!」

機龍がグッと拳を握って、皆の顔を見た。

誰もが分かっていると言うように、コクリと頷く。

「皆!! 愛って何だ!?」

「「「「「「「躊躇わないこと!! 悔やまないことさ!!」」」」」」」

「今ここに宣言する………君達は最高の仲間だ!! 龍宮 真名救出作戦は、ガイアセイバーズ全員で行なう!!」

「それは違うぞ、機龍くん」

と、ゼラルドが言った。

「我々、ガーディアンエルフも全面協力させてもらう」

「ビリーブ隊には話を通してある。皆で龍宮ちゃんを助けるんだ」

「レッディーさん、ゼラルドさん………ありがとうございます!! よし! 総員、準備に掛かれ!!」

「「「「「「「了解!!」」」」」」」

全員が敬礼し、PFとバハムートの修理を再開に取り掛かろうとする。

そこへ………

「我々も………手伝わせてくれないかの」

と言う学園長を先頭に、魔法先生と生徒一同が現れた。

「!! 学園長!! 皆さんも!!」

「機龍くん………君の若さ………我々も信じてみたくなったよ」

ニコリと笑って言う学園長。

魔法先生と生徒一同も無言で頷く。

「学園長………」

「おーおー、凄い事になってきたじゃねーか」

そこへ、ひょっこりと現れるナギ。

………何故かバナナを食べている。

「おお、ナギ。久しぶりじゃのう」

「よぉ、爺さん。相変わらず面白い頭してんな〜」

「ほっとけ!!」

「ダ〜〜ハッハハハハ!!」

ナギは、呵呵大笑とばかりに笑う。

「兎に角、機龍。取り巻き共は俺達に任せろ。お前は、お前のやりたいようにやれ!」

「ナギさん、ありがとう………よ〜〜し!! 整備員は作業を続けろ!! 戦闘班は作戦会議を開く!! ビリーブのブリッジに移動しろ!!」

「「「「「「「了解!!」」」」」」」

こうしてガイアセイバーズとガーディアンエルフ、そして関東魔法協会の連合軍は、ヴァリム再来に備えて、着々と準備を進めるのであった。










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