第78話


ヴァリム襲撃の日の夕方………

既にPF隊の修理は終り、残すはバハムートの修理のみとなっていた。

整備員を残し、ビリーブのブリッジを作戦室代わりにし、一同はヴァリム再来の際の作戦を練り直していた。

「………では、新たな作戦を説明します」

集まった全員に前に、作戦の説明を切り出す機龍。

「現在、ヴァリム軍の要塞島は、麻帆良南西の空中10万メートルの上空に待機しています」

ビリーブのブリッジメインモニターにレーダーが映し出され、機龍が言った地点が赤く点滅していた。

「恐らく、消耗した戦力分を再生産していると思われます。戦力を一遍に失った為、一度また備えてから再び襲撃してくるものと思われます」

「今の内にこちらから先制攻撃を仕掛けて奇襲するという事は出来ないんですか?」

「残念ながら、こちらの戦力もかなり消耗しており、龍宮 真名くんが人質となっている以上、迂闊な攻撃は出来ません」

ネギが述べた意見を、打ち消す機龍。

「ここは此方も戦力を建て直し、向こうから仕掛けてくるの待つしかないでしょう」

モニターの映像が、簡易作戦図に変わる。

「敵の再度襲撃の予想時刻は、明日の朝………それまでにこちらも準備を整え、迎え撃ちます」

「具体的にはどうするんですか?」

今度は、ジンが質問した。

「うむ………まず3−Aメンバーとガーディアンエルフ隊、そして、魔法使いの方々に要塞島外にいる敵軍の相手をして注意を引いてもらい、その隙に惑星J組にネギくんと小太郎くんを加えた部隊で要塞島内部に突入する」

モニターに4色に色分けされ、それぞれの役目に分けられる自軍マーカー。

「その後、要塞島内部にて2隊に別れ、私をリーダーとし、ジンくん、サクラくん………つまり、セイバー小隊とネギくんと小太郎くんはフラットエイトの討伐及び龍宮 真名の救出に………アーノルド大佐をリーダーとし、レイ、レッディーさん、ゼラルドさん、レイク軍曹の部隊が要塞島の中核部を叩きます」

「内部から攻める作戦か………」

「ハイ。要塞島の外装は強固な装甲に覆われており、戦艦の主砲でも破壊できません。バハムートの艦首波動魔砲のフルパワーショットな可能かもしれませんが、残念ながら、明日の朝までではフルパワーショットが可能なまでの修復は不可能です」

窓から今だ修復が行なわれているバハムートに目をやりながら言う機龍。

「しかし、所詮は人の手によって操られているモノ………大将であるフラットエイトさえ抑えれば、何とかなります。それから………」

モニターの映像が、フォルセアのオードリー、ヴェルのデビルオードリー、千草のロキ、エンの漆黒鬼の映像が映し出される。

「コレ等のターゲットを確認した場合、最優先で撃破してください。何れもエースパイロット達です。油断しないでください」

その映像を最後に、モニターが消える。

「作戦の説明は以上です。何か質問は?」

機龍がそう言うと、ネギが手を上げた。

「はい、ネギくん」

「機龍さん………この作戦は………成功するんでしょうか?」

全員の視線が機龍に集まる。

それは誰もが思っている事だった。

「………成功するかじゃない! 成功させるんだ!!」

それに対し、グッと拳を握って声高に言う機龍。

「この作戦の成否には第二地球の明日が掛かっている………我々に敗北は許されない!!」

その言葉に誰もが決意を新たにする。

「それから、アンダーセン艦長代理。我々が突入した後の全隊指揮をお願いできますか?」

機龍は、艦長席に座って作戦を聞いていたアキナに聞いた。

「ええ、それは問題ありませんが………ガイアセイバーズは大丈夫でしょうか? エース3機が撃墜されて、戦力はやや不足している状態なのでは?」

それを聞いたアスナ、あやか、茶々丸が悔しそうな顔を浮かべる。

機体を完全に撃墜された彼女達が明日の戦いに出ることは、難しかった。

と、そこへ………

「なら、その作戦………」

「僕達も参加させてもらえますか?」

不意に、ブリッジ入り口から声が響いてきた。

全員が振り返ると、そこには狛牙 勇輝とゼオ・シュルトの姿があった。

「!! 狛牙! ゼオ!」

驚きの声を上げる機龍。

「よお、機龍」

「やはり、生きていたんですね、機龍さん」

「ああ………しかし、本気か? ヴァリムと戦うなんて」

「そうだ、君達は元ヴァリムの人間だろう。信用できないな」

ガンドフィーニが、そう反論する。

「別に、どうってことないさ。元々俺は軍が嫌いだったし………」

「僕は雇われていただけです」

そういう2人だったが、その目に迷いの色は無かった。

「………分かった。信じよう」

「機龍先生!!」

「責任は全て私が取ります。この2人は、我々の仲間です!!」

魔法先生と生徒達の方を見ながら、言い放つ機龍。

「しかし!!………」

「揉めているところ悪いが、話に混ぜてもらうぞ………」

さらにそこへ、新しい声が響いてきた。

再び勇輝とゼオの方を振り向いた機龍は、入り口に立っているハクヤを見て、再び驚愕した。

「!! ハクヤ!!」

「な、何でアンタが此処に!?」

「基地内の独房に入れられてたんじゃ!?」

そこで、3−Aメンバーは、ハッと五月に視線を向けた。

「さっちゃん………ひょっとして?」

〈ゴメンナサイ………私がやりました〉

申し訳なさそうに俯いて話す五月。

「「「「「「さっちゃ〜〜〜〜んっ!!」」」」」

全員がビシッと同時にツッコミを入れた。

「それで、ハクヤ………まさか、お前までヴァリムと戦うなんて言う気じゃないだろうな?」

そんな中、冷静にハクヤに聞く機龍。

「そうだ、と言ったら?」

「………理由は何だ?」

「簡単なことだ。お前には借りがある。それを返すだけだ………それに」

「それに? 何だ?」

機龍は、ハクヤに目を見る。

ハクヤもまた、機龍の目を見据える。

「………良いだろう。作戦への参加を認める」

「機龍くん!!」

「言ったはずです………責任は全て私が取ります!!」

再び、魔法先生と生徒達の方を見ながら、言い放つ機龍。

その迫力に押され、押し黙る魔法先生と生徒達。

「信じるぞ、ハクヤ。よろしく頼む」

機龍は、ハクヤの方に向き直ると、右手を差し出す。

しかし、ハクヤはプイッとそっぽを向いてしまう。

「勘違いするな………馴れ合いをするつもりはない」

「オイオイ………」

やや呆れ顔になる機龍。

と、五月が歩み寄って来たかと思うと、ハクヤの手を取って機龍と握手させた。

「なっ!?」

「四葉くん?」

「オイ、何する………」

〈仲良く………ね〉

ハクヤに聖母の如き微笑みを向ける五月。

「っぐぅ………」

その微笑みに押され、嫌々ながらも機龍と握手を交わすハクヤ。

「………お前も、女には弱いみたいだな」

「………うるさいっ!!」

ハクヤは、再びプイッとそっぽを向く。

………その頬がほんのりと赤かったのは気のせいだろうか?

「では、全員一時解散!! パイロット及び戦闘要員は、再出撃までに休息を取れ!! 要塞島に少しでも動きがあったら報告せよ!!」

「「「「「「了解!!」」」」」」

機龍の命令に、殆どの人間がブリッジを後にした。











バハムート・格納庫………

機甲兵団ガイアセイバーズ基地からヤマト・ザ・ケルベロスとシャドウレイヴン、そして、シロヤシャが運び込まれ、勇輝とゼオ、ハクヤが整備調整を行なっていた。


勇輝サイド………

「よお、相棒! ひさしぶりだな」

コックピットに入るとAIヤスミツに声を掛ける勇輝。

[ハッ! お久しぶりであります、少尉殿!]

「早速で悪いがよー。今度、俺………ヴァリムと戦うことになったんだよ」

[ハッ! 例え、敵が何処の誰であろうと、少尉殿の敵ならば、私の敵です!!]

「ハッ………ヤスミツ、やっぱお前はサイコーだぜ!!」

[ありがとうございます、少尉殿!]

相棒としゃべりながら、調整を進める勇輝。

しかし………

間もなくして、その手が止まった。

「…………」

勇輝の顔から嫌な汗が吹き出てくる。

[少尉殿………非常に失礼ですありますが………調整方法をお忘れになったのでは?]

「ギクッ!!………ソ、ソンナコトナイゾー」

[片言になっていますが?]

「………ああ、そうだよ!! ずっと弄ってなかったから、すっかり忘れちまったんだよ!! 悪いか、コノヤロウッ!!」

逆ギレする勇輝。

「相変わらず、野蛮な人ですこと」

と、不意に聞こえてきた声に開けたままだったコックピットハッチの外を見てみると、タラップの上に、あやかの姿があった。

「何だよ、雪広? 笑いにでもきたのか?」

と、憎まれ口をたたく勇輝だったが、あやかはそれを気にした様子も見せず、コックピットの中に潜りこんできた。

「オ、オイ! 何だよ!?」

「OSデータ修正。同時に、火器管制、照準を微調整」

勇輝の抗議を無視して、ヤマト・ザ・ケルベロスを調整していくあやか。

「お前………」

「勘違いしないでください。貴方がドジるとネギ先生に迷惑が掛かる。だから手伝っているだけですわ」

「ハッ! どうせ、そうなこったろうと思ったよ!」

剥れるようにいう勇輝。

「でも………ありがとうよ」

「フフフ………貴方にはまだ色々と言いたい事がありますからね………死なれては困りますわ」

などと言い合う2人だったが、その顔には笑みが浮かんでいた。





ゼオサイド………

シャドウレイヴンのコックピットで、調整をしながらバロンに話しかけるゼオ。

「バロン、実は………」

[分かってるよ。ヴァリムと戦うんだろ?]

「えっ!? 何でそれを?」

[前にも言っただろ。長い付き合いだからね。君がしようと思うことなんてまる分かりさ]

クールに答えるバロン。

[まあ、僕達は元々傭兵さ。誰と戦うなんて、僕達の自由さ]

「バロン………ありがとう」

ゼオは、長年の相棒に感謝した。

[それより………後の調整は僕がやっておくから、表にいる子に声掛けてあげたらどうだい?]

「えっ!?」

バロンに言われて、カメラを起動させてみると、シャドウレイヴンの足元にいるこのかの姿を見つける。

「! このかちゃん!!」

[行ってきなよ、ゼオ]

「………まったく、余計な所にまで気が回るんだから」

そう言いながらも、ゼオはハッチを開けるとコックピットから出て、タラップで降りていった。

「あ、ゼオくん!」

「このかちゃん、どうしたんだい?」

「ゼオくん………コレ、受け取ってくれへん?」

そう言って、このかは1つのお守りをゼオに差し出した。

「お守り?」

「ウチの手作りなんや………だから、絶対にゼオくんを守ってくれるわ」

「そうか………ありがとう」

そう言ってお守りを受け取るゼオ。

「じゃあ、このかちゃんのことは、僕が守るよ」

「えっ!?」

ゼオは、驚くこのかをギュッと抱きしめる。

「ゼ、ゼオくん………(赤面)」

「必ず………生きて帰ろうね」

「………うん」

2人は、暫しその場で抱き合うのだった。





ハクヤサイド………

「フン………いい気なものだな」

ハクヤはそんな2組のカップルを呆れたような目で見ながら、シロヤシャのコックピットで調整を進めていた。

[そう言うハクヤ少尉は違うのですか?]

と、シェンがツッコミを入れてきた。

「? 何がだ?」

[四葉………五月様でしたか? 少尉のことを何かと気に掛けてくれているようでしたが?]

「んなっ!!」

驚いて手が止まるハクヤ。

「………ええいっ!! お前には関係ない!!」

照れ隠しのように怒ると、電源を切りにかかる。

[あ! ハクヤしょ………]

と、シェンが言いかけたところで、電源が落ちた。

「まったく………誰に吹き込まれたんだか………」

ブツブツ言いながら、コックピットから出ると、タラップを使って下に降りる。

すると、そこには………

〈あ! ハクヤさん〉

「ぬあっ!!」

五月が待ち構えていた。

〈?? どうしたんですか? そんなに驚いて?〉

「な、何でもない!! それより、何の用だ!?」

慌てて話題を反らすように言うハクヤ。

………誰がどう見ても、動揺していることが窺える。

〈あの………肉まん作ったので、差し入れにと思って………〉

ほんのりと頬を染めながら、校内販売用の肉まんの入った箱を差し出す五月。

ホカホカの肉まんが湯気を立てて、良い匂いを発していた。

(う、うまそうだ………)

思わず、ゴクリッと唾を飲み込むハクヤ。

しかし………

「よ、余計な事しやがって!」

プライドからか、素っ気無い態度を崩さない。

〈あ………ごめんなさい〉

途端にシュンとなってしまう五月。

だが………

「し、しかし、無駄にするのもなんだから、食ってやるよ!! しょうがないな!!」

と、言って肉まんに手をつけ始めるハクヤ。

〈あ!………〉

「いいか! しょうがなくだからな!! 勘違いするなよ!!」

………ツンデレだ。

〈フフフ………はいはい、沢山ありますからね〉

それを母の様な慈愛の笑顔で見守る五月だった。





そして、そんなカップル達の様子を格納庫入り口から覗いている影があった。

「うわ〜〜………何処も彼処もお熱いね〜〜」

「お嬢様………」

シリウスと刹那だった。

特に刹那は、複雑そうな顔で、ゼオとこのかの様子を見ていた。

「このちゃん………」

「愛しのお嬢様を他の男に捕られて、寂しいってか?」

冗談雑じりに言ったシリウスだったが、刹那は振り向きながら夕凪を抜刀して振り下ろした。

慌ててヒートホークで受け止めるシリウス。

「………斬りますよ」

「もう斬り掛かってるじゃんかよ!!」

「………ふぅ」

と、刹那は、タメ息を吐いて夕凪を納めた。

「アレ?」

「………確かにシリウスさんの言う通りかも知れません」

「へっ?」

「………ですが、私はお嬢様をお守りすることが使命です。例え、お嬢様に好きな人が出来たとしても、私はお嬢様を………このちゃんを守り続ける!」

確かな決意を秘めた目で言う刹那。

「………そうか、偉いな」

刹那の頭に手を置き、優しく撫でてやるシリウス。

「じゃあ、その刹那ちゃんのことは、俺が守ろう」

「えっ?」

刹那は、驚いた顔でシリウスを見る。

「………迷惑かい?」

「………フフ………当てにしないでおきます」

「うわっ!! ヒッデェー!!」

そう言いながらも、シリウスは声を上げて笑うのだった。

「アハハハハハハッ!」

刹那も、それにつられて笑い出すのだった。











バハムート・医務室………

「和泉くん………本当に大丈夫かね?」

「は、はい………大丈夫………はうぅ〜〜」

負傷したガーディアンエルフのパイロット達を治療しながらも、意識が飛びそうになっている亜子。

そして、それを心配そうな目で見ながら手伝っているゼラルド。

前回の戦いで、ガーディアンエルフの隊員達にも、多数の負傷者が出ており、ビリーブの医務室だけでは手が足りず、バハムートの医務室も解放していた。

そうしたところ、サクラを押しのけ、亜子が医療担当を申し出たのだ。

「やはり、サクラくんに任せた方が良かったのでは………」

「いえ! サクラさんはパイロットやし、少しでも休んでもらわんと!!」

「しかし………」

「ホンマならゼラルドさんにも休んでもらいたいんよ。ウチを気遣うなら、休んでいてくださいよ」

気丈な笑顔で言う亜子。

「あ、ああ………今日は随分と気丈だな、和泉くん」

「………皆が頑張ってんのや。ウチだけ、トラウマでガタガタしとられへんわ。だから、その………」

「ん? 何だい?」

「明日の戦い……必ず勝って、生きて帰ってきてください」

「………ああ、約束するよ、和泉ちゃん」

そう言って、ゼラルドは右手の小指を指し出した。

「えっ!? あ………」

亜子は驚きながらも、それに自分の右手の小指を絡ませた。

所謂、指切りというやつだ。

「約束………ですよ」

「ああ………約束だ」

………その後、お約束のように、隊員達から冷やかしが飛ぶのだった(笑)











バハムート・トレーニングルーム………

レッディーは、そこで1人静かに瞑想をしていた。

(敵はこれまでにないほど強大だ。今度戦えば、俺は………バーサーカー状態を発動させてしまうかもしれない………)

実際に、機龍の出現が、あと一瞬遅ければ………レッディーは、バーサーカー状態を発動させていただろう。

(だが………しかし………)

レッディーは迷っていた………

バーサーカー状態の自分の姿を、3−Aの仲間達に………特に、『彼女』に見られたくないと思っていた。

(フッ………俺は、臆病者だな)

心の中で自嘲するレッディー。

と、そこへ………

「レッディーさん………」

「んん!! さよちゃん!? 何時の間に!?」

今まさに気にかけていた『彼女』………さよが、何時の間にか現れていたのに驚く。

「え? ついさっきですけど?」

「やれやれ、気配を察せないとは………俺としたことが、鈍ったかな?」

レッディーは、自嘲気味な笑顔を浮かべながら言った。

「あの………レッディーさん」

「ん? 何だい、さよちゃん?」

「あの、私はオペレーターだから、戦闘中はレッディーさんをサポートするぐらいしかできませんが………力になりますからね」

「えっ?」

一瞬、さよの言葉に意味が分からず、キョトンとするレッディー。

「レッディーさん………何か悩んでますよね、戦闘の事で」

「!! な、何で分かったんだ!?」

「何となくです………」

これがホントの霊感。(しょーもな)

「一体何を悩んでるんですか?」

「………まあ、俺が俺でいられるかってことかな?」

「えっ? レッディーさんはレッディーさんじゃないですか。他の誰でもないですよ」

笑顔でいうさよ。

「!!」

さよにとっては、ただ単純に自分が思っていることを言ったのだろうが、レッディーにとって、その言葉は正に救いの言葉だった。

「そうか………そうだな。ありがとう、さよちゃん」

「?? あの、何がどうありがとうなんですか?」

「ハハハ、気にしないでくれ」

「え〜〜、気になるじゃないですか〜〜」

そう言うさよだったが、レッディーはのらりくらりと追求をかわすのだった。

(さよちゃん………君も、君の友達も、俺が守ってみせるよ)











住居区の一室………

そこにある仮眠室で、レイは仮眠を取ろうとしていた。

しかし………明日が決戦だと思うと、中々寝付けなかった。

(流石に………今度ばっかりは、死ぬかもしれないな………)

そんな考えが、レイの頭の中を過ぎっていた。

若いながら、今まで幾つもの戦場を渡り歩いてきたレイだったが、今回ばかりは不安を隠せなかった。

と、そこへ………ノックの音が響いた。

「ん? 誰だい?」

「夕映です」

「夕映ちゃん? 良いよ、入ってきても」

レイは、部屋の灯りをつけながら言った。

「失礼します」

そう言って仮眠室に入ってくる夕映。

「どうしたんだい? 夕映ちゃん」

「いえ………あの………」

レイの問に、夕映は何やら頬を染めて視線を泳がせる。

「実は………その………疲れを取るため、寝ようとしたんですが………眠れなくて………そ、それで、レイさん………」

夕映は、哲学書をレイに差し出した。

「………読んでくれませんか?」

「えっ? それってつまり………夜寝られない子に絵本読んであげるアレ?」

「…………(コクッ)」

赤面しながら、無言で頷く夕映。

「子供の頃、亡くなったおじい様が、よく私を寝付かせるのに本を読んでくれて………」

「それで癖になってたってか………でも、何で俺なんだ? のどかちゃんとか、ハルナちゃんは? 友達なんだろ?」

「いえ! この事ばかりは、例え友人と教えられない恥部です!!」

夕映は、早口で捲くし立てる。

「は、はあ………じゃあ、何で俺には言ったんだ?」

「そ、それは………」

「それは?」

「レイさんは………特別だからです」

「は?」

一瞬、わけが分からず、キョトンとするレイ。

そんなレイを他所に、夕映はさっきまでレイが寝ていた仮眠ベッドに寝転ぶ。

「え? あの、ちょっと………」

「これ以上、恥を上塗りしないうちに寝かしつけてください」

(命令かよ………)

レイは、心の中で秘かにツッコミを入れる。

(けど、まあ………特別に思われてるんだ………悪い気はしないな)

夕映から哲学書を受け取り、ページを開く。

「じゃあ、読むぞ………哲学の発端は………」

そのまま、傍から見れば、けっこう良い雰囲気に包まれる。

………その後、2人揃って同じベッドで熟睡してしまい、翌朝の非常召集サイレンに起こされ、色々と慌てたというのは別の話。











地下シェルターの入り口とバハムート墜落地点の間の道路………

アーノルドと千鶴が、夕暮れ方の破壊された街の道路を歩いていた。

2人とも、地下シェルターに避難していた保育園の子供達を見舞った帰りだった。

幸いにも、子供達は元気だった。

子供心で、ヴァリム軍は、正義の味方がやって来てやっつけてくれると言っていた。

そして………自分達はその正義の味方なのだ。

「アーノルドさん………」

「分かっています。あの子達の為にも、明日の戦いには必ず勝ちます」

決意を固めたという顔で言うアーノルド。

「はい………でも、勝つだけじゃダメです」

「えっ?」

「生きて帰ってくる………それが本当の戦いです」

「………そうでしたな」

「…………」

千鶴は無言でアーノルドに寄り添うように腕を組んだ。

「………必ず………生きて帰ってくると………信じていますからね」

「はい………」

2人は、そのままバハムートへと向かうのだった。











バハムート甲板上………

そこに、少年と男が立ち、沈む夕日を眺めていた。

「夕焼けは良いな〜〜………目に沁みるけど」

「そうだね、父さん」

スプリングフィールド親子だった。

「いよいよ決戦らしいな………」

「うん………でも、父さんがいてくれるから、心強いよ」

嬉しそうに言うネギ。

だが、ナギは厳しい顔を向けてきた。

「残念だが、ネギ………俺はあくまでサポートにまわる予定だ」

「えっ!!」

ネギは、驚きの表情を示す。

「そ、そんな………一緒に戦ってくれないんですか!? 父さん!!」

「バカヤロウッ!!」

声を張り上げるナギ。

ビクッとするネギ。

「良いか、ネギ。俺はもう過去の存在だ。この星の平和を守るのは、今この時を生きているお前達の役目だ」

「僕達の………役目」

「見ろ」

ナギは、沈む夕日を指差す。

「あそこに沈む夕日が俺なら………明日の朝日は、ネギ! お前だ!!」

「…………」

ネギは、黙ってナギの言葉に耳を傾ける。

「この星の明日を………頼んだぞ、ネギ!!」

「ハイ!!」

力強く答えるネギに、ナギは笑顔を浮かべた。

「とまあ、説教はこれ位にして………あとは、あっちの影に隠れてる嬢ちゃんと語らいできな」

「えっ?」

そう言われてネギは、ナギが指した方を見た。

「ひゃあっ!?」

そこには、砲座の影に星○子の如く隠れて、こちらの様子を窺っているのどかの姿があった。

「あっ! のどかさん?」

「ほらっ! 行ってやれよ」

ポンッとネギの背を押すナギ。

「あ、うん………ありがとう、父さん」

そう言って、ネギはのどかの方に駆けて行った。

「のどかさん」

「あ! ネ、ネギせんせー」

相変わらず、ネギを前にすると恥ずかしがるのどか。

………しかし、ネギは、その表情に微かに陰りがあるのを見逃さなかった。

「どうか………したんですか?」

「…………」

不意に、のどかはネギに抱きついた。

「え! あ! ちょ!!」

「…………」

何も言わず、ただネギに抱きつくのどか。

その身体は、微かに震えている。

「のどか………さん?」

「ゴメンなさい、ネギせんせー………私、怖いんです………」

「明日の決戦が、ですか?」

「はい………明日の戦いで………ネギせんせーが死んじゃうんじゃないかと思うと………怖くて、震えが止まらなくなるんです」

抱きしめる力をさらに強めるのどか。

「ネギせんせー………逃げましょう………このまま2人で、何処か遠くへ………戦いの無い場所へ逃げましょう」

のどかの目からは、涙が溢れていた。

ネギは、ハンカチを取り出し、それを優しく拭ってやる。

「それは………できません」

「そう………ですよね。ゴメンなさい………分かってるんです………逃げるところなんか、何処にも無いって………でも! 私………」

「大丈夫ですよ、のどかさん………そうだ! 震えが止まる魔法をかけてあげましょう」

「えっ? 魔法?」

「目を閉じてもらえますか?」

「あ、はい………」

言われるがままに目を閉じるのどか。

(震えが止まる魔法って………どんな魔法だろう?)

のどかがそう思っていると、不意に、唇に何か柔らかいものが当てられた。

(あ!? 何!? ん………)

思わず目を開けると、目の前にはネギが自分にキスをしている様子が映った。

(!!#$%Z&+¥*=@!?)

途端に、のどかは顔を真っ赤にして頭から湯気を立てた。

そして、慌ててネギから顔を離す。

「ネ、ネネ、ネネネネ、ネギせんせー!?」

「震え………止まりましたね」

「え?………あ!」

そう言われて、のどかは身体の震えが止まっている事に気がつく。

「のどかさん………僕は明日の戦いに必ず勝ちます………そして、必ずのどかさんのところへ、生きて帰ってきます。約束します」

「ネ、ネギせんせー………」

のどかの目に、先ほどの悲しい涙とは違う涙が溢れてくる。

2人はそのまま暫く見詰め合った。











ナギサイド………

「青春は良いな〜〜………見てる方は恥ずかしいけど」

自分が近くにいる事も忘れて、ラブラブフィールドを発生させているネギとのどかに陽気にツッコミを入れるナギ。

「こりゃ、孫が見られるのも近いかもしれんな〜〜」

「随分と老けた発言だな、ナギ」

「ん?」

不意に聞こえてきた声に、後ろを振り返るナギ。

しかし、そこには誰の姿も………

「ここだ! ここだ!!」

否、視線を下に向けると、エヴァの姿が目に入った。

「お、何だ、エヴァか。ちっちゃ過ぎて分からなかったぜ」

「貴様〜〜〜、人が気にしていることを〜〜〜(怒)」

こめかみに怒りの4つ角を浮かべてワナワナと震えるエヴァ。

「悪りぃ悪りぃ、そう怒んなって」

ナギは、そう言うとエヴァを抱き上げた。

「コ、コラ!! やめろ!! 子供扱いするな!! 私は100歳なんだぞ!!」

「はいはい、分かってますよ、おばーさん」

「誰がおばーさんだ!!」

「ハハハハハッ!」

完全に手玉に取られているエヴァ。

「ったく!! お前は何時も何時も私をからかいおって!!」

「スマンスマン。お前があんまりにも可愛いもんだから、つい苛めたくなってな」

さらっと言うナギ。

「なっ!!」

エヴァは、突然の言葉に顔を真っ赤にして口をパクパクさせる。

「き、貴様!! またからかってるんだろ!!」

「いーや。可愛いってのはホントだぜ」

「!! ………だ、だったら」

「ん?」

一瞬口篭るエヴァだったが、すぐに意を決したように言う。

「お前! 私の物になれ!!」

「やなこった」

即答したナギの顔面にパンチを繰り出すエヴァだったが、あっさりと受け止められた。

「甘いな………」

「お、お前という奴は〜〜〜(怒)」

怒り心頭といった顔でナギを睨むエヴァ。

しかし………

「お前が俺の物になれ。それなら良いぞ」

「えっ………」

どうだ? といった顔をエヴァに向けるナギ。

「………し、仕方ないな! それで妥協してやる!!」

「相変わらず素直じゃね〜な〜」

そう言いながら、ナギはエヴァの頭を優しく撫でる。

「………うるさい」

そう呟き、ナギの胸に真っ赤な顔を埋めるエヴァであった。











バハムート船首………

ジンは、1人そこに佇んでいた。

トレードマークの黒マントが風に靡いている。

と、そんなジンの後ろから、人影が近づく。

「………サクラか」

振り向きもせず、人影の正体を言い当てるジン。

「正解。流石だね、ジン」

人影………サクラは、そう言ってジンの隣に立つ。

「エンの事………考えてたの?」

「ああ………アイツとの決着だけは………俺がこの手で着けなければならない」

ジンは、そう言って、グッと拳を握る。

「スマンな、サクラ………コレだけは譲れないんだ」

「うん………分かってるよ、ジン………でもね」

サクラは、スッとジンの前に向かい合うように立った。

「分かってると思うけど、あの時みたく、相打ち覚悟でなんてことは考えないでね。そんなことしたって、ジンの家族は喜ばないからね」

「分かってる………俺は、復讐者としてではなく、一アルサレアの兵として奴と戦うつもりだ」

フッと微笑んで言うジン。

「うん………それで良いよ」

サクラも、ニッコリと微笑むのだった。

優しげな雰囲気が2人の間に流れるのであった。











バハムート墜落地点からやや離れた森林地帯………

機龍は、ユニサスと共に、そこに来ていた。

「さあ、ユニサス。ここが今日からお前の故郷だ」

そう言ってユニサスを森に放そうとする機龍。

ブルルルル………

しかし、ユニサスは嫌だというように、鼻を鳴らす。

「いいか、ユニサス。お前は確かに戦う為に生み出された存在かもしれない………しかし、だからと言って、それに従う必要はない」

機龍は、ユニサスの頬を撫でながら言う。

「最初の戦いには付き合わせちまったが、お前はもうこれ以上戦う必要はない。この森で静かに暮らせ………さあ、行くんだ!」

やや強く言う機龍。

ユニサスは、やや名残惜しそうに機龍を見た後、森の奥へと消えて行った。

「短い間だったが、ありがとうよ、ユニサス」

機龍は、それを見送ると、バハムートへと戻って行った。

「さて………後は真名を助けるだけか………待ってろよ、真名………必ず………必ず助けてやるからな」

そう言いながら、決意を新たにする機龍だった。











そして、翌日の日の出と同時に………

惑星J組、3−A組、魔法先生と生徒達は、戦艦着陸地点近くにあった広場に集合していた。

何処からか持ってきた朝礼台の上に立った学園長が、皆を前に語り始める。

「諸君………今だかつて無い戦いがこれから起きようとしている………しかし! 我々に敗北は許されない!!」

誰もが黙って学園長の言葉に耳を傾ける。

「我々が負けるということは………この星が奴等の手によって侵略されてしまうということじゃ。絶対に負けることはできん!!」

と、学園長はそう声高に演説すると………

「………それじゃあ、後はナギ、お前さんに任せる」

「あ!? 俺!?」

急に話しを振られて戸惑うナギ。

「お前さんは、多くの魔法使い達の目標になっておる。ここで一つ、若い連中を鼓舞してやれ」

意地の悪そうな笑みを浮かべて言う学園長。

「ふざけんなジジイ!! 俺は演説なんて………」

と、言いかけたナギだったが、ふと何かを思いついたような顔をすると、朝礼台に上った。

「おお! やってくれるか」

「うお〜、サウザンドマスターの演説が聴けるぞ!」

「こりゃ凄いぜ!」

伝説の魔法使いの言葉が聴けるとあって、期待を持つ一同。

しかし、機龍だけが、黙って手で耳を塞いだ。

「機龍さん?」

「どないしたんや?」

ネギと小太郎が尋ねた、その時!!



「わしが男○塾長、江○島平八であ〜〜〜〜る!!」



ナギの途轍もない大声が響いてきて、何人もの人が、目を回してブッ倒れた!

辛うじて意識を保っていた者も、耳がキーンとなっていた。

「………やると思った」

機龍が、呆れたように呟いた。

「以上」

「何が以上じゃ!! もっと真面目にやらんか!!」

学園長の怒声が飛ぶ。

「分かった分かった………真面目にやるよ。ん! んん!!」

ナギは咳払いをして仕切り直す。

「諸君、私は戦争が好きだ」

「少佐もやめんかーーー!! もうええわい!!」

「ちぇ! 何だよ、自分から言っといて………機龍。代わりに何か言っといてくれ」

「はいはい………」

ナギと入れ替わるように朝礼台に立つ機龍。

「ここまで来たら、俺が言うことは1つしかない………全員、死ぬな! 必ず生き延びろ!」

誰もが、機龍の演説に釘付けになる。

「俺達の戦いは明日の為の戦いだ! その明日を創らぬうちに死ねば………それは我々の負けだ!!」

機龍は、グッと拳を握る。

「勝ち残って明日を創る………それこそが我々の最大の勝利だ!!」

そこで、バハムートとビリーブから、警報が鳴り響いた。

[緊急事態!! 緊急事態!!]

[要塞島が動きを見せました!!]

超とブラウニーの声が響く。

それを聞いた機龍は、全員を見据えて言った。

「機甲兵団ガイアセイバーズ、並びにガーディアンエルフ、関東魔法協会………出撃せよ!!」

「「「「「「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」」」」」」

全員は敬礼と共に力強く答え、ザッと駆け出して行った!!










今………史上最大の決戦が幕を開けた。










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