ネギ補佐生徒 第16話





 ひらひらと舞い散る桜の花びら。
 総本山の桜は、遅くまで咲いているらしく、この時期でもこうやって満開の夜桜を見ることができる。
 用を足し終わり、澤村は廊下を歩いていた。腰にあったタコヤキくん人形がないせいか、歩きやすい。
 あの人形は、今晩とまることとなった部屋でお留守番中なのだ。
 身代わりは、詠春の式神がやってくれるとかで安心して泊まっていいとのこと。
 これは昼間の疲れが残るネギたちにとっては、渡りに船だった。
 和美達は、部屋で何やらがやがやと修学旅行気分のままで楽しんでおり、刹那は木乃香に魔法使いのことを説明するとかで、風呂場で呼び出した木乃香を待っている。
 木乃香と明日菜は、そんな刹那の元へと行ってしまった。ネギは、どこに行ったか不明。

「あれ?」

 ふと澤村は足を止めた。
 目の前に浴衣を着た木乃香と明日菜がいたからだ。ある部屋を見つめたまま、二人は固まっている。
 明らかに様子がおかしかった。顔は青ざめ、目は見開かれている。体も密かに震えていた。
 訝しげな顔で澤村は彼女達に近寄る。
 二人に呼びかけながらも澤村は二人の視線をなぞるように部屋を覗いた。

「どうしたの、かぐら――――」

 言葉が……息が止まった。
 3人は固まる。
 目の前の人間の石像を目の前に――――――。





  ネギ補佐生徒 第16話 誘拐





「―――――何なんだよ、これ」

 ようやく動き始めた口で、呆然と澤村は言葉をこぼした。
 その声は、擦れ擦れで震えている。
 目の前には、人間の石像。
 こんな大きな家なら、そんなものもあっておかしくないだろう。
 だが、目の前の石像は、異常さがあった。
 恐怖と焦りに彩られた表情の侍女の姿をした石像たちは、澤村たちが立つ出入り口を目指していた。
 走って逃げる者の石像、這って逃げる者の石像もあれば、腰を抜かしたかのように床へ尻餅をついた石像もあった。
 それは、逃げ惑う人間たちの一場面を切りぬいたかのように……もしくはその時を止めたかのように。
 妙に生々しい、異常な光景。
 現実味のない現実。魔法。敵。

 そう、これは―――――

 何が起こったのか理解した澤村は、

「何なんだよ、これっ!!」

 混乱から、苛立った声をあげる。
 その声に明日菜と木乃香もようやくこの状況を理解した。

 ――――――何者かが人間を石像へと変えたのだ。

「……さ、澤村君、これ」

 明日菜の声も震えている。
 澤村が明日菜達を見ると、二人の顔は、未だに真っ青だった。
 敵が本気をだしたのだ。
 容赦なく、無関係ともいえる侍女たちをどうやったのかは知らないが石像に変えた。
 さすがに明日菜も、この事実に恐怖を感じているらしい。
 今のこの場いるのは木乃香と明日菜と澤村のみ。
 明日菜がいくら戦えるからといっても、こういった事態ははじめてなのだろう。
 この場にいるのは、女二人と男一人。
 その事実を改めて確認した同時に、澤村の苛立ちはすっと消える。

 ―――――冷静になれ。

 理性が訴えてくる。
 今、男は自分一人。
 明日菜だって、この状況に圧倒されている。今は、自分が率先して動かねば。

「神楽坂さん、近衛さん。他にまだ無事な人を探すから俺についてきて。神楽坂さんは、近衛さんの手をしっかり掴んで離さないように頼む」

 思ったよりも冷静な自分の声に驚きつつも、木乃香のことを近衛さんと呼んでいる時点で余裕がないことを確認させられる。
 それでも彼女達を心配させないように理性で震えそうな全身を押さえ込んだ。
 明日菜たちの姿を確認してから、澤村は走り出す。
 とにかくここにいる全員に危険を知らせなければいけない。
 そして、この中で一番頼りになる詠春とあわなければ。
 しかしどこに行っても目の前に広がるのは石像になった人々のみ。
 動いている人間とは出会えない。

「皆は無事かしら!?」
「わからない! とにかく誰かと会わないと……!」

 明日菜の言葉にそう答えながらも澤村は、壊れそうなほど大きな音を立てて襖を開く。
 やはりここも石像しかない。

「ちっ……!」

 このままでは、合流する前に敵と会ってしまう。
 立ち止まり息を荒くする木乃香の姿が視界に入る。どうする?
 冷静でいるのもそろそろ限界だ。
 血の気が引き始めた顔を隠す様に手で覆い隠した時。

「ネギ!?」

 明日菜の驚いた声が聞こえてきた。
 手を顔から離して明日菜をみると、仮契約カードを額に押し当て何か話している。

「親書渡して、一件落着じゃなかったの!? 皆石みたく固まってるわよ!?」

 どうやらネギと念話をしているらしい。

「なぁ、翔騎君、何が起きてるん?」

 ……言ってしまって良いのだろうか。
 下手に言って、木乃香に恐怖を与えるのは忍びない。
 それは明日菜も同じらしい。
 念話を終えた明日菜も木乃香を見つめて黙ったままだった。

「神楽坂さん」

 どうする? と目で問いかける。
 すると、明日菜は木乃香の両肩をしっかりと掴み、

「このか、よく聞いてね」

 木乃香に今の状況を言う。
 それが明日菜の決断だった。

「悪い人達がここに来て、あんたのこと狙ってるの」

 まだ明日菜の言っている意図がわからないのか、木乃香はぼうっとした表情のままだ。
 そんな彼女に、明日菜は子供に問い掛けるように、言う。

「だから逃げるわよ、いい?」

 すっかり明日菜は冷静さを取り戻していた。
 魔法の世界に関わっているだけあって、緊急事態での対処が早い。
 それともネギとの会話のおかげで冷静さを取り戻したのだろうか。

「私が守るから」

 ―――――嗚呼、やっぱり彼女は強い。

 思わず見惚れてしまうほどの凛とした表情。
 きっと彼女は、男の自分より強いだろう。
 心も、身体も。
 来れ! という言葉と共に現れるハマノツルギ。
 澤村が初めて見たのは今朝のことだが、このハリセンの形態をした武器に目を疑ったが、魔物や式神を元の場所に強制的に押し返すという能力があるとかで。
 今回の式神を使う関西呪術協会という敵にはとても有効という、実に頼りになるちゃんとした武器だ。

「澤村君、ネギとさっきのお風呂場で合流するわよ」

 このかをお願い、と言いつつ明日菜が走り出す。
 澤村も慌てて木乃香の手を掴み、それに続いた。
 風呂場にいるはずの刹那は、もう異常を察知して風呂場から出て行ってしまったとしても、いずれは彼女かネギのどちらかと合流できるであろう。
 それまでに、敵と出会わないことを願うしかない。
 明日菜のように誰かと仮契約を結んでいるわけでもなければ、ネギのように魔法を扱えるわけでもないし、刹那のように剣術など使えない。
 あるのは、サッカーのためだけに鍛えた肉体。
 アクション映画などで見たような動きなんて、できる自信はない。
 たぶん、彼らは澤村も狙っているだろう。
 あの時の千草の目は、木乃香だけに向けられたものではない。
 きっと自分だ。
 恐怖で足を止めて叫びたくなる。
 それを堪えていたせいか、あっという間に風呂場についた。
 荒くなった息を、3人とも整えようと足を止める。

「ね、ネギの奴まだ来てないみたいね」

 気の張った表情で、明日菜が言った。

「せっちゃんもいーひん……」

 風呂場には人一人おらず、木乃香の言う通り刹那の姿もなかった。
 その状況に澤村は、顔を歪める。
 敵と襲撃に対応できる人物が少なすぎるのだ。このまま敵の襲撃にあったら、風呂場という限られた場所はこちらにとって不利。
 風の音と自分たちの呼吸音だけが風呂場に響き渡る。
 嫌な空気が流れていた。ありきたりな表現かもしれないが、張り詰めた糸のようだった。
 触れれば、絶対に切れてしまうほどの張り詰めた糸。
 そして、

「――――っ!」

 背筋に悪感が襲った。
 澤村が木乃香を自分の身体に引き寄せて前へと足を踏み出すと同時に、スパァンと乾いた音が響く。
 明日菜も澤村も、気がついたのだ。

「すごい。訓練された戦士のような反応だ」

 パシャ、と背後で水を弾けさせ、敵が言った。
 ――――白い髪の少年・フェイトが。

「でもお姫様を守るには役者不足かな」

 君には眠ってもらうよ、とぼそぼそとフェイトが何かを唱えようとしたのがわかる。
 澤村は手近にあった桶を咄嗟に投げつけた。
 だが、それは虚しい抵抗と終わり、ボウンという音を立てて現れた煙へと消えていくだけだった。
 明日菜の浴衣が音を立てて石へと変わっていくのが、晴れてきた煙の中で見える。

「神楽坂さん!」
「アスナ!」

 石像となった人々の原因は、フェイトだったのだ。
 きっとあの煙を浴びれば、人間はあっけなく石像となる。
 そう思ったのだが、

  ―――――パキャァアン!

 明日菜と悲鳴と共に、鳴り響く何かが割れる音。
 ……近頃の子供は、ませているのだろうか。
 石になった衣服が割れて素っ裸の明日菜を見て、非常事態なのにそんなことを思ってしまう。

「何なのよ、コレー!!」

 身体を隠してしゃがみ込む明日菜に駆け寄ろうと、一歩足を踏み出……そうとしたが、

「近衛さん!!」

 振り返り、木乃香に飛びついた。
 それと同時に絡み付く大きな手。

「翔騎く……ひゃ!?」
「澤村君! このか!」

 明日菜の声が風呂場に響く。
 澤村は顔を上げた。
 目の前には、シネマ村で現れた鬼の顔。
 予想は的中だった。
 木乃香を捕まえたのに、何故か自分はこの鬼にしっかりと身体を掴まれている。
 澤村のことも敵は狙っているのだ。

「……じゃあ、お姫様と彼は貰って行くね」

 足掻いても足掻いても、鬼の拳の力が緩むことは無い。
 当然だ。普通の人間と鬼の力の差なんて比べるのもバカらしいほどである。

「ま、待ちなさいよ! このかも澤村君も渡さないわよ!!」

 胸元を隠して座り込んだままでも、ハマノツルギを構えたまま明日菜がフェイトに言い放つ。

「こっのぉ……!」

 明日菜が諦めていないのに、諦めるのは男が廃る。
 澤村は、顔を鬼の手へと近づけ―――――

「ガァア!?」

 ―――――それに齧り付いた。
 悲鳴をあげる鬼。ほんの少しだけ、拳の力が緩んだ。
 前進全霊でその手を振り解く。
 あとは木乃香だけだ。そう思い、彼女に視線を向けると、澤村がしたのと同じように、木乃香も鬼の手に噛みついている姿が見えた。
 木乃香の身体と鬼の拳の隙間にしっかりと指を入れ、思いきり引っ張ると木乃香の体が鬼の手から零れ落ちる。
 澤村は木乃香を抱きとめ、鬼の元から離れようと走り出す。

「澤村君!」

 明日菜のほっとした表情が浮かんだ……かと思えば、愕然とした表情に変わった。
 え、と澤村は小さく声を上げる。

 ―――――瞬間、うなじに鈍痛を感じた。

 それと同時に、澤村の視界は、電源が切れたかのようにぷっつりと暗闇へと切り替わった。





 前へと倒れて行く澤村の身体を、鬼が支えるように手を差し伸べた。
 木乃香が気を失っている澤村の腕の中で目尻に涙をためながらも澤村に呼びかけている。
 そのまま鬼の腕の中に納まる澤村と木乃香。
 再び捕われの身となる澤村と木乃香を見て、明日菜はある疑問を水上で浮くフェイトに投げかける。

「あんた――――このかだけじゃなく、澤村君まで……どうしてよ」

 無表情のままでフェイトはそれに答える。

「彼は“スペア”だよ」

 ―――――こいつらは何を考えているのだろう。

「“スペア”……ですって?」

 震えた声で聞き返しつつも、明日菜は立ちあがる。
 自分が裸なんてことは、もう関係なかった。ハマノツルギをしっかりと両手で握り締める。
 木乃香もフェイトの言葉に明日菜と同じ事を思ったのだろう。
 何か叫んでいた。
 だが、それも明日菜の耳には通るだけ。
 理解なんてする余裕がないほどの怒りが込み上げてくる。
 その怒りを包み隠さず、明日菜はぶつけた。

「あんたたち、人を何だと思ってるのよ!?」

 ばっと床を蹴った。一気に間を詰める。
 しかしフェイトは動じることなく札を取りだし、

「ヴァーリ・ヴァンダナ……水妖陣」

 と、唱えた。
 現れたのは、風呂場の湯でつくられた水の手。それも十本前後の数だ。

「あ、アスナ!!」

 木乃香が叫ぶ。
 水の手は明日菜が避ける間もなく、手首、脇、腰をしっかりと掴み―――――

「なっ……あはは、きゃははははっ」

 ……くすぐり始めた。
 爆笑しながらも明日菜はなぜ自分に振りかかる魔法はいつもこういう魔法ばかりなのだろうかと心の中で泣き叫ぶ。
 笑い転げる明日菜を余所に、フェイトは鬼にこの場を立ち去るように即した。

「あ、ちょっと、まちな……あははっ」

 緊張感にかける自分の声に、なんだか情けなくなる。
 笑いながらも、澤村と木乃香を抱えた鬼が立ち去るのを見送ることしかできなかった。





 いい加減慣れてきた廊下の流れる景色に刹那は、こんなにも風呂場までの距離があったのかと疑問に思う。
 荒々しく廊下を走る刹那とネギには、余裕などなかった。
 それには理由がある。

「ネギ先生! 明日菜さんとの連絡は!?」

 走りながらも刹那はネギに問う。
 さきほどからネギはカードで明日菜と連絡をとろうとしているのだが、あちらから反応が全くないのだ。

「ダメです! 返事が返ってきません!」

 つまり、風呂場で襲撃にあったと考えていいだろう。
 刹那は舌を鳴らす。
 いくら明日菜がネギと仮契約をかわしているはいえ、本山の守護結界を破るようなほどの者に敵う筈など無い。
 数分……いや、数秒しかその身を守ることはできない。

「――――ネギ先生、急ぎます!」
「はい!」

 更に速度を上げた刹那になんとかネギはついていけている程度。
 下手をすれば、彼を置いて行ってしまうことになるが、そんなことを気にとめている場合ではなかった。
 木乃香が危ない。
 それだけでも刹那の余裕を奪うには、十分なことだった。
 脱衣所が見えてきた。
 襖を壊してしまうかと思うほどの力でそれを開ける。
 こんなとき、脱衣所と風呂場を襖で仕切っているという構造が恨めしく思う。

 ―――――無事でいてください、お嬢様!

 そんな願いを込めて襖をバン、と開いた。

「あッ、明日菜さん!?」

 しかしそこには、裸で痙攣しつつ倒れている明日菜の姿だけだった。
 木乃香がいないのを気にしつつも、刹那とネギは明日菜に駆け寄る。

「大丈夫ですか、明日菜さん!? 何があったんです!?」

 名で呼び合える仲となった明日菜を心配する気持ちは嘘ではない。
 だがそれ以上に、木乃香の方が心配なのだ。
 よろよろと上半身を上ようとする明日菜の肩にそっと手を添える。

「う……うう、刹那さん……わ、私、も……ダメ……」

 目尻に涙をためて息を切らして言う明日菜の様子に、刹那はあることが浮かんだ。
 裸で、息も絶え絶えで、もうダメというセリフ。

「ハッ……」

 サァアと血の気が引いた。

「ま、まさか、アスナさん……」
「どうしたんです、アスナさん! 何されたんです!?」

 ネギの言葉にも答えない明日菜に、刹那が変わりに答えるつもりで、

「え……えっちなコト、とか?」

 たいへん、とちょっと想像してしまった所為から頬を熱くして、そうこぼす。
 と、同時に、

「されてないーい!!」

 刹那の額に明日菜の手刀が入る。相変わらず彼女の反応は早い。

「それより、ごめん……刹那さん。このか……さらわれちゃった……」

 やはりそうなのか、と刹那は、ぐっと拳を握る。
 けれど、次の言葉は予想に反していた。

「さ、澤村君もさらわれちゃって……ほんとに、ごめん……」
「澤村さんも!?」

 ネギの驚きの声を聞きつつも、刹那は愕然とした表情で明日菜の言葉の先を聞きいる。

「き、気をつけて。あいつ、まだ近くにいるかも……」

 瞬間、刹那は人影で少しだけ視界が暗くなったのがわかった。
 それと同時に感じる、殺気。
 振り向きざまに刹那はその人物を捕らえようと手を伸ばす。
 だが、それは上へと弾かれた。
 一瞬のことだった。
 もう片方の手で攻撃しようと身体を回すが、それよりも早く、

「――――!」

 素早い拳が刹那の腹部に迫っていた。

  ガン!

 今までの戦闘でもこんな音は聞いたことが無い。
 人間を殴って、こんな音など普通なら発しないのだから。
 受身を取る間もなく、床に叩きつけられた。
 それだけでは勢いは止まらず、身体がボールのように跳ね飛び、壁へと向かう。
 ようやく身体をぐるりと回転させ、なんとか壁を片足につけて膝をクッションに使うことはできたが、やはりそれでも勢いは収まらない。
 反動に流されたまま、刹那は折り曲げた膝を伸ばす。
 そして、ダン! と音をだして、違う壁へと背中を打ちつけられた。

「刹那さん!」

 ネギの声がするが、あまりの激痛で涙が滲む。
 息もろくにできず、

「あ゛……かはっ……」


 壁からずり落ちながら喘ぎ声を上げるだけだった。

「ま、まさか君が……」

 刹那に攻撃を加えた人物、フェイトを睨みつつネギが言う。
 フェイトは無表情でそれを見つめ返すだけ。
 床へと座り込みながら、刹那はぎゅっと目を瞑り痛む腹部を手で押さえる。
 ただ者ではない。
 これは、自分でも厳しい相手だと刹那は認識した。
 ネギではきっと敵わない。

「こ……このかさんと澤村さんをどこにやったんですか……?」

 収まりつつはある痛みに耐えつつ、刹那は片目を開けてネギを見る。

「みんなを石にして、刹那さんを殴って」
「せ、先生」

 初めて見る、ネギの怒り。

「このかさんと澤村さんをさらって、アスナさんにまでひどいことをして……!」

 浮遊術で浮くフェイトの無表情は崩れることはない。
 それでもネギは、続ける。

「先生として、友達として、僕は……僕は……」

 フェイトを見据え、

「許さないぞ!!」

 風呂場に響く、ネギの声。
 しばしの間のあと、やはり無表情でフェイトは言葉を返す。

「……それで、どうするんだい? ネギ・スプリングフィールド」

 挑発なんかではない。
 無機質な言葉。任務だけを遂行する、仕事中の自分の姿と似ていると刹那は思った。

「僕を倒すのかい? ……やめた方がいい」

 そう、フェイトにネギも、刹那も敵わない。
 力の差は歴然だ。
 だから、

「今の君では無理だ」

 その言葉は、刹那の身体に浸透した。

「あ、待て!」

 水の中に消えて行くフェイトが刹那に残したのは、水音と、

「くっ……」

 腹部の痛みだけだった。

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