ブレイブVI 悲しき過去を打ち明ける勇気



「ふぅ・・・なんか成り行きでこうなっちゃったけど、大丈夫かな〜?」

和樹は女子寮へと向かいながら呟いていた。そう、さきほど図書館島で真名たちに勉強を教えるって事を約束したためである。そしてそのまま寮の門をくぐると、玄関には私服姿の真名と楓の姿があった。

「あ、迎えにきてくれたの?」
「ああ。さすがに私たちの部屋が分からず迷って痴漢と勘違いされたら、困るからね」
「そういう事でござる」

それを聞き和樹は苦笑すると、そのまま歩き出した二人を追って歩き出した。

「あ、そう言えば式森殿」
「和樹でいいよ。」
「そうでござるか。では和樹殿、夕映殿たちは・・・」

楓はあの仲丸たちの攻撃で気を失った三人の事を心配していた。

「大丈夫。暁たちが治療とかをしたから心配ないよ。ただ・・・・あのバカどもたちとの部分の記憶だけは消したから・・・・二人ともフォローお願いするよ」
「任せておけ」
「了解でござる。クラスメイトを欺くのは苦しいでござるが、任せるでござる」

二人の言葉を聞き微笑んで返す和樹。それを見た二人は頬を赤く染めた。そうしている内に、真名の部屋に辿り着いた。

「さ、ここだよ」

真名に続き中に入るとそこには、クー・刹那の姿があった。

「お、きたアルな♪」
「お待ちしてました」

そして、和樹たちの勉強会が始まった。

「和樹、これはなんて読むアルか?」

クーは分からない漢字を和樹に見せた。そこには、一騎当千と書かれていた。

「あ〜これはね。“いっきとうせん”って読むんだよ」
「あ〜なるほど。そう読むのアルか〜」
「和樹殿、このwillとはどういう意味でござるか?

英語のテキストで分からないところがあった楓が和樹に尋ねた。

「え〜と、これは未来形といって、〜〜するというのを、〜〜するだろうって予測のような形にするんだ」

和樹の適切な教え方が続き、一時間が経った頃、楓がふと思い出した事を和樹に尋ねた

「和樹殿、そういえば先ほどの図書館島での事なのでござるが」
「何?」
「先ほど和樹殿は、スキルを得る代わりに魔法の発動を封印されたと言っていたのでござるが、それはもう魔法の発動は完全に出来ないって事なのでござるか?」
「ん〜完全じゃないんだよ。僕にかけられた呪いは・・・魔法を8回発動したら、この世から完全消滅するってやつだから」

この言葉を聞いた瞬間、和樹を抜いた四人は愕然としていた。

「は・・・八回発動したら」
「この世から」
「完全・・・」
「消滅アルか!?」

四人が不安な表情になったのを察したのか、和樹は四人の頭を優しく撫でた。すると、四人の心にあった不安は消え、安心感が生まれた。

「でも、どうして魔法を封印される事になったんだ?」
「あ・・・・それはね・・・ちょっとした昔話になるけど、いいかな?」

皆が頷いたのを確認すると、和樹は話し始めた。七年前に起きた・・・悲しき真実を・・・。


七年前・・・ウェールズの町に、和樹の姿があった。

「お父さん、お母さん、早くいこ〜」
「ははは、元気だな和樹!」
「あまり遠くに行っちゃダメよ〜」

和樹の側には、和樹の父“宗司”母“玲子”の姿があった。

「あ〜和樹ちゃん♪」
「あ、ネカネちゃ〜ん」

和樹はネカネを見つけると、公園で遊びだしていた。それを見ていた式森夫妻は、幸せそうにその様子を見ていた。

「貴方・・・あの子には、ずっと幸せでいて欲しいわね・・・」
「ああ・・・・アイツは俺たちの子だ。まだ8歳なのに優しさと強さを持ち合わせている。いずれ・・・俺たちや・・・もしかしたらナギたちのようなマギステル・マギにもなれるだろうな」
「まぁ。随分強気ですね」
「もちろん!なんたってこの“強刃の魔剣使い”、そして妻の“優しき魔弓使い”。この二人から生まれた子だぞ」
「そうね・・・・どうせだったらネカネちゃんと一緒になってもいいわよね」
「ナギの娘なのにあんなに真面目で優しい娘だしな。和樹が釣り合うようになるまで俺が鍛えてやるまでだな」
「ふふ・・・平和ね・・・」

二人は話しながら、ネカネと楽しく遊んでいる和樹を見ていた。しかしそれから一年後、親子を分ける悲しき出来事が起きる・・・。和樹が9歳になり山へピクニックに出かけた時に・・・・それは起きた。

「ん〜・・・なんか天気が悪くなってきたな・・・」
「雲行きが怪しいわね・・・そろそろ帰りましょうか?」
「だな。よし和樹。後は家に帰って魔法を教えてやろう」
「ほんと!?やった〜♪」

そう言い山から帰ろうとしたその時、突如三人の前に一つの落雷が落ちた。煙が立ち込める中、そこから一匹の魔族の姿があった。

「ほぅ・・・・誰かと思えば、かの有名なアルベリオン公爵じゃないか」
「式森宗司・・・・今日こそ貴様の息の根を止めてやるぞ」

そう、宗司は玲子と結婚する前からこのアルベリオンと戦っていたのだ。決着が付かず、幾度となく激戦を繰り広げてきた、いわば宿命の敵である。

「へ・・・生憎だが息子が後ろにいるんだ。絶対負ける気がしないぜ」
「フン・・・・そういうセリフは・・・これを見てからにするんだな」

そう言うと、アルベリオンの後ろからフードを被った一人の少年が現れた。幼いが、全身から漂う魔力は邪悪に満ちていた。

「へ・・・ホムンクルスか?人工魔族かつ子供の外見だからと言って手加減はしねーぞ」

そう言うと、宗司は背中に背負っていた大剣を手に取って構える。そして剣に気と魔力を纏わせる。

「いくぜ!!玲子、援護頼む!!」
「分かったわ!!」

宗司の指示を受け、玲子は左手に光の弓を作りあげ、右手に矢を作り何時でも撃てる体勢にする。

「喰らえ!!」

宗司は物凄いスピードで刃を振るう。しかし、そのフードの少年はそれを軽々とかわした。宗司は更に連続で振るい、切り払おうとするが少年の速度が速く手が出せずにいた。

「ちぃ・・・チョコマカと・・・・こうなったら」

そう言うと、宗司は刃を上段に構えなおした。そして一気に跳躍すると、少年めがけて落下する。少年はそれを見たのか詠唱をし始めようとした。しかし・・・その瞬間を見逃さない者がいた。

「玲子!!今だ!!」

宗司の言葉を受けた瞬間、玲子は構えていた光の矢を放った。それはまっすぐに少年のほうに飛んでいく。

「・・・!」

少年は一瞬驚きながらも、詠唱を攻撃から防御に切り替えた。矢を防ぐも、宗司の追撃が続く。

「これで・・・・終わりだーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

叫びながら、宗司は刃を振り下ろそうとした瞬間、ふと一瞬だけフードが解けた瞬間・・・宗司の攻撃が止まってしまった。その瞬間、少年の膨大な魔力を込めた拳が宗司を貫いた。

「がは!!・・・・なんで・・・・・」

宗司は宙に舞い上がった後、地面に叩きつけられた。

「貴方!!」
「油断だぞ」

玲子が夫の名を叫んだ瞬間、アルベリオンの爪が玲子を切り裂く。鮮血を吹き上げながら、玲子もその場に倒れこんだ。

「お父さん・・・・お母さん・・・・」

和樹は地面にひれ伏す両親に近づく。しかし、二人の目からは光が失われていた。

「さて・・・坊主にも死んでもらうぞ」

アルベリオンはそう言って爪を振るおうとするが、それを少年が止めた。そして何かをぼそぼそと伝えると、アルベリオンは納得したように不敵な笑みを浮かべた。

「そうだな・・・お前には一つ呪いをかけてやる」

そう言うと、アルベリオンは額の紋章から紫色の光を放った。すると、和樹の身体を六亡星が包み、まるで身体を縛るようにして消えた。

「ふふふ・・・・お前は残りの生涯、魔法を八回しか発動する事が出来ない。八回魔法を発動すれば、お前の身体は灰となり、この世から完全消滅するだろう。はっはっはっは!!」

そう言って高笑いをするアルベリオン。だが次の瞬間、アルベリオンと少年はその場から飛び退いた。すると次の瞬間、強力な雷が和樹を避けるようにその場に落ちた。それにより地面は裂けていた。

「だ・・・誰だ!?」
「テメエ・・・・人の親友殺しやがったな・・・・」

煙の奥から現れたのは、茶色の髪にフードを被り、一本の杖を持った男が立っていた。その姿を見た瞬間、アルベリオンの表情は愕然とする。

「き・・・貴様、ナギ・スプリングフィールド!!」

そう、アルベリオンの目の前に立っていたのは、最強の魔法使い“サウザントマスター”であったのだ。

「く!!・・・・まさかこんな所に現れるとはな」
「風に吹かれて来たのはいいが、仲間が殺されてるとは・・・思ってもなかったぜ!!」

そう言うと、ナギは瞬動で一気にアルベリオンの前に立ち、魔力を凝縮した拳を放った。しかし、アルベリオンも同じく魔力を凝縮させ防御結界を張りそれを防いだ。

「・・・この野郎」
「フフフ、そう簡単に私を殺せると思うなよ」

二人は一度間合いを取ると、互いに攻撃の構えと取った。・・・その時!!

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

突如和樹が叫び声を上げた。するとその場が光り始め、和樹の身体が包まれた。そして光が収まると、その場にはクワガタのような外見をした、短い二本角、白い生体鎧にベルトの戦士が立っていた。しかし、すぐにその姿に異変が起きた。短かった角は四本へと伸び、白かった鎧は漆黒に染まり、全身に金色の血管が浮かび上がる。

「ち、マズイ!!」

ナギはそう言って上空へ跳躍した。次の瞬間、アルベリオンの身体を爆熱が襲った。

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

断末魔の悲鳴を上げながら、アルベリオンは一瞬にして灰と化してしまった。それと同時に、戦士の姿は和樹に戻り、地面に倒れこんでしまった。

「まさか・・・・宗司、お前の息子・・・スキルを手に入れてしまったのかもしれないぜ・・・」

そう言うと、ナギは和樹を抱え町へと向かった。その時、アルベリオンと共にいた少年は姿を消していた。


「それから僕は、父さんたちと同じくウェールズに住んでいた親戚のもとで育てられたんだ。その時、親戚の叔父さんから戦うすべを学ぶために体術を学び、スキルもコントロール出来るように独学で覚えこんだんだ」

話を終え皆のほうを見た和樹は驚いた。皆は和樹のほうを見ながら涙していたのだ。真名は瞳から一滴の涙が落ち、楓は両目を開いて涙を流し、刹那も目に涙をため、クーにいたってはドバドバと涙を流していたのである。

「・・・そんな壮絶な過去があったなんて・・・」
「拙者には想像できない辛さでござる・・・」
「家族を殺され、呪いを受けた代償に」
「力を得るなんて・・・・ひどいアル」

四人はそう言って顔を伏せる。すると、突如四人は頭を軽く叩かれた。驚き顔を上げると、そこには優しく微笑む和樹の姿があった。

「気にしないで。僕は今あるこの力を憎んでいないよ。僕がこの力を得たのは、復讐のためじゃなく、救いを求める誰かを助けるためにだと・・・・僕は信じている」

その言葉を受け、皆の表情は元に戻ったのだった。そしてそれからテスト勉強を続け、そしてテスト終了後、和樹の教え方が良かったのか、真名・・・平均95、楓・・・平均87、刹那・・・平均90、クー・・・平均85と驚異的な点数をたたき出したのだ。そして他のバカレンジャーたちも頑張ったおかげで、2−Aの解散はなくなり、ネギも正式に教師になる事が出来たのだった。


おまけ

和樹たちによりボコボコにされた仲丸たちは、先に目覚めた学園長演じるゴーレムによって地下へと落とされ、一週間後になんとか脱出したのであった。ただし、和樹たちとの戦闘は覚えておらず、メルキセデクの書を強奪しようとした事により、学園長命令で和樹によるオシオキが実行されたのである。それにより、仲丸たちは一週間ほど、まるで真っ白になったように寮の部屋に篭ったそうである。当たり前だが、仲丸たち2−Bは戦力が三人も足りなかったため、2−Fに一位を取られ、賭けに負けた2−Bから制裁を受けたのであった。


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