ブレイブX 魔を戒める騎士の勇気



夕焼けに染まる麻帆良の森。そこには、二つの影が存在した。一つは髪を後ろで結んだ線目の少女、もう一つは茶色の髪に小さな眼鏡をかけた少年だった。二人は幾度も交差した後、地面に着地した。

「はぁ・・・はぁ・・・」
「お疲れでござる。ネギ坊主」
「いえ・・・まだやります!!」
「止めておくでござる。無理は身体を壊しかねないでござるよ。それに・・・強さは時間をかけて積み重なっていくものでござる」
「・・・・はい!!」

そう言うと、ネギは地面に座り込んでしまった。それを見てニコリと微笑みながら、楓も座りこんだ。

「それにしても・・・この短期間でここまで体術を覚えるとは・・・さすが天才先生かつ魔法使いでござるな♪」
「あぅぅ・・・それは言わないで下さいよ〜〜〜」
「ははは、いいではないか♪」

そう言って楓に遊ばれるネギ。すると、楓は何を思ったのか一本の忍者刀を差し出した。

「なんですか?」
「ちょっと・・・・使ってみるでござるよ」

楓に言われ、ネギは忍者刀を握った。すると、何故かネギの雰囲気が唐突に変わった。そして、それを自由自在に操った。それは、一つの演舞のようで、まるで刃を振るった場所に敵がいたように見えるほど、鮮やかで・・・・尚且つ壮絶に見えた。

「これは・・・・・」

楓はその光景に驚きの表情を浮かべた。10歳の少年がいくら魔法使いとはいえ、今日渡したばかりの刃を自在に操ったのだから。

「・・・・・・・・・はぁ〜〜〜〜〜」

振り終わると、ネギは刃を止めた。そして疲れが一気に出たのか、そのままパタリと地面に倒れこんでしまった。

「大丈夫でござるか?ネギ坊主」
「はぃ・・・・なんとか・・・」
「しかし・・・今のはなんでござるか?あれほど刀を自在に操るのは・・・・よほどの使い手でござるよ」
「僕にもよく分からないんです・・・・ただ」
「ただ?」

楓の言葉に、ネギは刀を振るっている時に脳裏に写ったものがあったのを思い出した。

「何故か分からないんですけど・・・・僕、刀の使い方を知っていたような気がするんです」
「知っていた・・・でござるか?」
「はい・・・なんだかずっと前から・・・・刀の扱い方を知っていたような・・・」

そう言いながら、ネギは自身の手に握られていた刀を見ていた。拳で握るたび、脳裏に黒い服・・・そして白いロングコートを羽織った誰かが・・・刃を振るっていた・・・。

「まぁ、あせらず強くなっていくでござるよ。鍛錬は続ければ必ず、その身に付いていくものでござる」
「はい!!」

そう言うと、ネギはまた楓と稽古をし始めた。その度に楓は感じた、ネギは楓を行う動作一つ一つを投影し、間違いなく強くなっている事を・・・。

(一年もすれば・・・・剣士として完成するかもしれないでござるな・・・これに魔法が付くとなると・・・・どこまでいくかが気になるでござる)


翌日、エヴァと茶々丸は麻帆良学園のサーバーにアクセスしていた。

「どうだ?」
「マスターの予想したとおり、サウザントマスターのかけた“登校地獄”とは別に、学園を覆っている結界が存在します。この結界は学園全体に張り巡らされている電力によって成り立っています」
「やはりか・・・魔法もハイテク化し始めたか・・・」

そう言うと、エヴァは窓の外を見ていた。

「今日こそ・・・私は自由を取り戻してみせる・・・・待っていろ、ネギ・スプリングフィールド」

エヴァはそう言うと、茶々丸のほうを向いた。

「そうだ茶々丸。もしかすれば、あの神楽坂明日菜や・・・式森和樹が敵となる」

その言葉を聞いた瞬間、茶々丸の思考は停止してしまった。

(あの笑顔・・・・優しさ・・・・強さを持つあの人を・・・・私が・・・討つ・・・)

茶々丸のメモリーに、和樹とのふれあいの記憶が流れる。その思い出は、全て優しく・・・暖かなものだった。

「ん、どうした茶々丸?」
「マスター・・・私は・・・」
「なんだ、言ってみろ?」
「式森先輩とだけは・・・・・戦えないかもしれません・・・」

茶々丸の瞳の奥にある悲しみが見えた瞬間、エヴァは悟った。

(茶々丸が・・・・私の命令に逆らうほどの想いを持つとはな・・・)

エヴァは茶々丸に背を向けると、「好きにしろ」とだけ言い残して教室へと戻っていった。それを聞いた瞬間、茶々丸は背を向けて去っていくエヴァを見ながら「ありがとうございます」と呟き、エヴァの後を追ったのだった。


日も暮れた夕暮れ。3−Bの教室では、仲丸と浮氣、松田の三人が一台のノートパソコンを見ていた。

「で、仲丸。今回は何をするのよ?」
「ふっふっふ・・・今回は少々やばい賭けになるぞ」
「何やるつもりだ?」

浮氣の問いに、仲丸は不敵の笑みを浮かべながら答えた。


「本日の停電を利用し、麻帆良学園のサーバーを支配する。そして・・・この学園を支配するのだ!!」


それを聞いた瞬間、浮氣と松田の二人はポカーンとしていた。

「ふふふ、まぁそれが普通のリアクションだろう。だが、今回の作戦は麻帆良に大打撃を与えるいいチャンスなのだ!!その隙を利用し、我ら3−Bがこの麻帆良を支配するのだ!!」
「でも、どうやって麻帆良を乗っ取ろうって言うのよ?」
「ここのセキュリティは万全だ。いくら停電でセキュリティが消えるとはいえ、どうやってこの学園のサーバーを支配するんだ?」
「ふっふっふ・・・これだ」

そう言うと、仲丸は一枚のディスクを取り出し、二人に見せた。

「大学部で研究中のデータ実体化システムを少々使い、PC内でこのディスクに入っているウィルスを怪獣へと変化させるのだ。名づけて、“侵食怪獣サンビラ”だ」
「なるほど!その怪獣が停電している間に麻帆良のサーバーを破壊し、こっちのいいように組替えるって事だな!!」
「やるじゃない仲丸!!」
「フフフ・・・俺様に不可能はないのだ」

そう言うと、仲丸はノートにディスクを入れた。そして麻帆良のサーバーにアクセスすると同時に、ディスク内に収められていたサンビラを送信した。

「これで・・・・麻帆良も終わりだぜ!!」

麻帆良の空に、暗雲が漂い始めていた・・・。


同時刻。麻帆良での授業を終えたネギは明日菜とともに、帰路についていた。

「ちょっとネギ、大丈夫なのその傷?」
「はい・・・少し痛いですけど・・・強くなりたいですから」

そう言って、右の頬に出来た傷を押さえるネギ。楓とのハードな修行は傷も増やすが、力と経験、そして覚悟も増やしていた。


「そう言えばさ、エヴァちゃん最近何も悪さしてないみたいだけど、大丈夫なの?」
「・・・正直分かりません。ただ、いずれは戦わないといけないんですよね・・・生徒だけど・・・」

そう言い沈みがちになるネギを、明日菜がグシャグシャと撫でる。

「あぅぅ!!」
「あのねネギ、重荷を自分だけで背負おうと思わないでよ。私は頑張ってる奴はガキだろうと嫌いじゃないのよ。だから、ピンチになったら少しは手伝わせなさい。一応パートナーなんだから」
「明日菜さん・・・」
「ほら、シャキっとしなさい!!」

そう言ってネギの背中を叩く明日菜。一瞬びっくりしたが、ネギは次の瞬間には元気を取り戻していた。

「姐さん相変わらずかっこいいっスね〜。もしかして兄貴に気が・・・」
「背骨へし折るわよエロガモ♯」

そう言い握撃を使う喧嘩師も震え上がりそうな勢いでカモの体を雑巾の如く絞り上げる。悲鳴をあげながらギブギブと訴えるが、明日菜は少しも耳に入れてなかった。

「私はあくまで・・・・ネギが心配なだけよ。どこまでも一人で突っ走ったら、ブレーキが効かなくなるでしょ?だから、私がブレーキになってあげたいのよ」

そう言うと、明日菜はカモを開放した。しかし絞り時間が長かったのか、ビクビクと地面で痙攣していた。

「そ・・・・それってプロポーズじゃ・・・」
「死になさいエロガモ♯!!」

そう言い、地面に倒れるカモを蹴り飛ばす明日菜。ネギが抱きついて止めたおかげで、なんとかカモは一命を取り留めた。ちなみに、ネギに抱きつかれた明日菜の表情は、微妙に赤く、尚且つ安心したようなものだった。


(頑張り屋なコイツを・・・支えてあげたい・・・)


明日菜の心に、ネギへの想いが少しずつだが、芽生えつつあった。

「あ、ネギ。今日停電が起きるけど、もし何かあったら私に連絡しなさい。すぐに駆けつけてあげるから」
「や・・やっぱり姐さんは・・・」

余計な一言により、カモは明日菜から月面キックを喰らってしまった(何故出来る!?)。それにより重力をモロに受けたカモは、ネギのヒーリングを受け全身打撲で済んだのだった。


それから数時間が経ち、麻帆良は暗闇に染まっていた。その一角の大学部のパソコン室で、茶々丸が学園のサーバーにハッキングしていた。

「ハッキングにより麻帆良を覆っている結界は封印、成果は順調・・・・予想通りの結果です。マスター」
「そうか・・・なら今宵は勝負の時だな」

そう言うと、隣にいたエヴァが黒いマントを広げると、窓から空へと跳躍した。そしてそれに連なるように、茶々丸をブースターを展開して追走する。すると、一瞬だけ茶々丸のメモリーに一瞬ノイズが走った。

(今のは・・・気にはしていられません。今はマスターの望むがままに)

後にこれが悲劇を招くとも知らず、茶々丸はエヴァを追っていった。その頃、ネギとカモは学校の見回りを行っていた。

「やっぱり真っ暗だね」
「だろうな、停電の暗闇に月光が辺りを照らす・・・十分にやばい雰囲気だぜぇ」
「こ、怖い事言わないでよカモ君!!」

そう言ってビクビクしながら周りに懐中電灯を当てるネギ。すると、とある場所に人影が見えた。そこには・・・。

「ま、まき絵さん!?」

そう、衣服を纏わず立つまき絵の姿があった。

「ネギ・スプリングフィールド。エヴァンジェリン様がお前と戦いを望んでいる。数分後に、大浴場へと来い」

そう言うと、恐ろしい身体能力とリボンを駆使し、まき絵は姿を消した。

「や、やべえぜ兄貴!!エヴァンジェリンの奴が復活しちまった!!」
「更生したと思っていたのに・・・・。しかも僕の生徒まで巻き込むなんて・・・」

ネギは拳を握りしめながら自分の不甲斐なさを感じていた。すると覚悟を決めたのか、ポケットから携帯を取り出す。

「明日菜さん・・・・・・お願いします。僕と一緒に戦ってください!!」

ネギの覚悟の篭った声に、明日菜は即座にOKした瞬間、物凄いスピードで明日菜が突っ走ってきた。そのタイム、僅か10秒(んなアホなw)

「は・・・早いな姐さん・・・」
「言ったでしょ。すぐに駆けつけるって」
「いや世界記録更新しまくりだろ!?寮からここまで数キロあるんだぜ!!」
「そんな細かいことは気にしないの。いくわよ、ネギ!!」
「はい、明日菜さん!!」
「っとその前に・・・」
「え?」

ネギが一瞬ほえ?っと疑問を浮かべた表情をすると、明日菜はネギと唇を合わせた。それにより、パクテイオーが更新され、完全なものとなった。

「あ・・・・あああ明日菜さん!?」
「なによネギ?驚きすぎよ」
「僕・・・キスは初めてだったんですよ〜〜」

ネギがそう言った瞬間、明日菜はネギを見ながら尋ねた。

「私が初めてで・・・・嫌だった?」
「え・・・お姉ちゃんに似てますから嫌じゃないですけ・・・あうあうあうあう〜〜〜〜!!」

突然の明日菜の言葉に、ネギは混乱していた。すると、明日菜は微笑みながらネギを抱き締める。ネギは一瞬驚いたが、明日菜の暖かさに触れ、安心感が心を包んでいた。

「たとえアンタのお姉ちゃんに似ててもいい・・・私は・・・・ネギを守るわ」
「明日菜さん・・・僕」
「何?」
「僕も・・・明日菜さんを守ります。絶対に!!」
「うん・・・・私たちなら・・・・絶対負けないわよ。誰にも」

今ここに、最強のタッグが誕生した。ネギは明日菜を杖に乗せると、一気に大浴場まで辿り着いた。

「どこですか!?エヴァンジェリンさん!!」
「出てきなさいエヴァちゃん!!」

ネギは杖を構え、明日菜は自然体の構えをし辺りを見回す。すると、影に覆われていた場所に月光が当たり、そこから・・・・3−Aの生徒を従者にした、エヴァンジェリンと茶々丸の姿があった。

「来たな・・・ぼーや」
「エヴァンジェリンさん!!」
「威勢がいいなぼーや。前の時とは背負っている雰囲気が全く別物だ。しかし、パートナーを連れてくるとは、お姉ちゃんに助けてもらいたいのか?」
「明日菜さんは僕の大切なパートナーです!!助けてもらうんじゃなくて・・・・“一緒に戦い、守り合う”ためです!!」

ネギのマジな言葉に、明日菜は不覚にも頬を真っ赤に染めた。そしてエヴァはネギの変貌した様子に、驚きを隠せなかった。

(おかしい・・・いくらナギの息子とはいえアイツは10歳のガキ・・・・何故これほどの闘気が発せられている!?これは・・・・一切油断出来んな・・・)

そう言うと、エヴァは呪文を詠唱する体勢に入った。それを見たネギも詠唱を始める。

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!!」
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル!!」

二人は同時に、自身の従者へも魔力を供給する。

「ゆけ!!茶々丸!!」
「ネギの従者!!神楽坂明日菜!!」

詠唱が終了した瞬間、茶々丸がブースターを全開にしてネギへと向かう。しかしそれを、明日菜が超人的速度で回り込み、それを阻止した。

「神楽坂さん・・・」
「茶々丸さん、貴方を相手は私よ!!」

そう言うと、明日菜は掴んでいた茶々丸の腕を払い上げ、拳を放った。しかし、茶々丸はブースターを利用した蹴りでそれを防ぎ、もう片方の足で明日菜の背中を蹴り上げる。

「あぐ!!」
「明日菜さん!!」
「お前の相手は私だぞ・・・ぼーや」

そう言うと、エヴァはまき絵・亜子・アキラ・裕奈に魔力行使を行い、人形使いのスキルを起動させる。

「いけ、私の従者たちよ!!」

その言葉を受け、一斉に四人が襲い掛かる。

「あ、兄貴!?」
(下手に動いちゃダメだ・・・・こういう時は・・・)

迫る四人を冷静に分析すると、ネギは地面を蹴り跳躍する。予想外の行動を予知できず、四人は頭をぶつけた。

「今だ!!武装解除!!」

ネギは魔法薬を取りだし、四人のいる場所へと落下した。そしてフラスコ同士がぶつかり割れた瞬間、四人の着ていたメイド服は吹き飛んだ。

「大気よ水よ白霧となれ!!彼の者らに一時の安息を!!」

ネギは杖に乗り、詠唱を続ける。

「眠りの霧!!」

ネギが詠唱を終えた瞬間、四人の周りを白い霧が覆った。それにより、四人はその場に眠り込んでしまった。

「これで従者はいない・・・・エヴァンジェリンさん!!」

そう言うと、ネギは杖に乗りながら魔法銃を取り出し、エヴァへと放った。

「ぬるいわ小童!!」

しかしエヴァの放った氷楯により、その弾丸は防がれてしまった。しかしネギの攻撃は続く。

「魔法の射手!!連弾!!光の11矢!!」
「(なんて速い連携だ!!)。魔法の射手!!連弾!!闇の11矢!!」

ネギの連携に驚きつつも、エヴァは対応する。しかし、どうみてもエヴァは押されていた。

「ちぃ!!氷爆!!」

エヴァの放った氷の塊に、ネギは風楯をそれを防ぐが衝撃を緩和しきれず、窓をぶち破って外へと飛ばされる。

「ネギ!!」
「・・・油断です」

吹き飛ばされたネギを見て明日菜に一瞬隙が出来たのを見て、茶々丸がロケットアームを放とうとした瞬間、明日菜の両眼が輝いた。そして次の瞬間、明日菜は小さく言葉を発した。

「・・・アデアット」

その瞬間、明日菜の手には巨大な大剣が握られていた。そしてその大剣の腹で、茶々丸を叩き落した。

「・・・・・・・・・・!!」

突然の出来事に茶々丸の思考が停止する。すると、またメモリーにノイズが走った。

(これは一体・・・・・・・!!)

茶々丸が思考を切り替えようとした次の瞬間、茶々丸のメモリー内にバチバチとヒビが入ったのだ。そしてそれにより、茶々丸のメモリーの中におぞましき怪獣の姿が映る。
茶々丸は地面に叩きつけられる瞬間、自分が想っている人物のイメージが最後に再生され・・・・画面がエラーと表示されて・・・ブラックアウトした。

「あれ・・・・私・・・・」

明日菜は何が起きたのか理解出来ず、辺りをキョロキョロと見回していた。すでに大剣の姿はなく、両眼の輝きも元に戻っていた。そしてふと視界に、倒れている茶々丸の姿があった。

「ちょ・・・・・茶々丸さん!?」

明日菜は慌てて駆け寄る。すると、茶々丸が明らかに異変を現すようにビクンビクンと痙攣していたのだ。

「どうしたの茶々丸さん!?しっかりして!!茶々丸さん!!」

明日菜は茶々丸を抱きかかえると、大学部へと駆け出していった。闇夜の中、戦いは続く・・・。


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