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よくあるファンタジー物<エルクとウラル>

 序章

「エルク様……」
 一人の少女が、俺の前に跪く。
 祈るように両手を組んで、うやうやしくこちらを見上げる。
 透明感のある、美しい少女だ。儚げな雰囲気を纏いつつ、その眼差しは理知的で、どこか意志の強さを感じさせる。
「エルク様……」
 まるで、神に対面してるかのごとく、厳かに、清らかに。そして、さもそれが欣幸の至りであるかのように、少女が宣言する。
「私は、あなたに永遠の忠誠を誓います」
 俺は、その声に応えるように、彼女の唇に……。

 * * * * *

「……エルク様、エルク様」
「……んあ?」
 目を覚ますと、見知った顔が目の前にあった。
「エルク様、おはようございます」
「ああ、おはよう。ウラル」
 あくび交じりで答えつつ、大きく背伸び。なんか懐かしい夢を見ていたような気がする。
「そろそろ宿の朝食おわってしまいますよ」
「おお、そんな時間か」
 見れば、ウラルはすでに支度を済ませ、いつもの地味なローブ姿に身を包んでいる。服装は地味だが、彼女の儚げな雰囲気も相まって、お忍びで旅をしている深窓の令嬢といった印象を感じさせる。
 まあ、実際は全然そんなことはないのだが。

「エルク様、今日は早く起きるんじゃなかったんですか? 朝一番に冒険者ギルドに行くって、夕べおっしゃってましたのに」
 言いながら、水瓶から桶でタライに水を汲み、ベッド脇のテーブルに置いてくれる。
 俺はそのタライに手を浸し、顔を洗う。冷たい水が心地よい。「どうぞ」とウラルが差し出してくれた手ぬぐいを受け取る。
「いや、そのつもりだったんだけど、誰かさんがなかなか寝かせてくれなかったからなあ」
「仕方ないじゃないですか。昨日は結構魔力を消費したんですから」
 まあ、その通り。なんせ昨日のクエストは散々だった。なんとか達成は出来たものの、想定の5倍は苦労したと思う。
 だから、今日は朝一番でギルドへ行って、楽でマシな依頼を探すつもりだったのだ。
 それなのにウラルはしれっとこんなことを言う。
「楽な依頼なんて期待しないほうが良いですよ? エルク様のことですから、何か起きると思っていた方が良いかと」
「これから出発って時に不安になるようなこと言うなよ」
「でもご安心ください。私はエルク様に絶対の忠誠を誓った身。私の魔力でもって、どんな障害だろうと打ち砕いてみせます」
「おう、ほどほどにな」
 実際、頼りにはなるのだが、加減を知らないところが玉に瑕。

 そんなやりとりをしながら、服の上から軽鎧を着け、腰に剣を差し、身支度を整える。
「さて、朝飯食って、ギルドに行くとするか」
「はい、エルク様」
 目深にフードを被ったウラルとともに、俺は部屋を後にした。


 これは、俺──剣士エルクと魔道士ウラルによる、冒険の物語である。

本編





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