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よくあるファンタジー物<エルクとウラル>

「どうしてこうなった!?」
 全力で走りながら、俺は思わず叫んだ。

 『森の奥にある洞窟にスライムが発生している。早急に退治してほしい』
 冒険者ギルドに寄せられた、スライムを退治するだけの簡単なクエスト。
 なのに何故、俺たちはスケルトンの集団に追いかけられているのだろう。

「不用意に突入するからですよ。エルク様」
 隣を走っている、ローブ姿の女魔道士、ウラルが俺に突っ込みを入れてくる。
「いやでもな? 洞窟の奥に遺跡を見つけたら、冒険者としては探索するだろ!?」
「それは分かりますけど、宝箱には慎重になるべきでしたねぇ」
「うぐ……」
 走りにくそうなローブを翻しつつ、冷静に突っ込み続けるウラルに、俺は呻くことしか出来なかった。

 俺は剣士のエルク。冒険者を生業としている。
 魔道士のウラルとは、とあるクエストで出会って以来、パーティを組んで一緒に旅をしている。

 今朝、いつものように冒険者ギルドに顔を出し、何かめぼしいクエストはないかと物色していた俺たちに、急ぎの仕事として紹介された洞窟内のスライム退治。それが事の発端だった。

 俺たちは二人だけのパーティだが、依頼のターゲットはただのスライム。
 スライムだからって油断するような初心者ではないが、退治自体は順調に進み、楽なクエストのはずだった。

 退治しそこねたスライムがいないか、洞窟をくまなく探索していたところ、岩壁にわずかな亀裂を見つけた。
 普段なら気にも留めないような小さな裂け目だが、スライムが潜んでいるかもしれない。
 そう思った俺は、スライムが飛び出してくるのを警戒しつつ、裂け目に剣を突き立てた。
 岩壁はあっさり崩れ、目の前に現れたのはスライムではなく、遺跡と思しき通路だった。

 洞窟に隠されていた古代遺跡。思わぬ発見に俺は沸き立ち、スライム退治を一時中断して遺跡探索に乗り出した。
 遺跡はどこにも荒らされた形跡がなく、恐らく未踏。それが俺の冒険心を大いに刺激した。
 そんな心境の中、如何にも宝物庫と言わんばかりの部屋にたどり着き、しかも豪華な装飾が施された宝箱を見つけた日には、どんなに冷静な人間でも浮足立って駆け寄るだろう。
 宝箱に手をかけようした瞬間、
『我が閨の宝を荒らす輩に裁きを』
 どこからともなく呪詛めいた声が響いたと思ったら、いままでどこに潜んでいたのか、ガシャガシャと音を立ててスケルトンが出現した。
 即座に武器を構え、臨戦態勢をとる俺たち。
「エルク様、お下がりください。ここは私が」
「いや、俺に任せてくれ」
 俺をかばうように前へ出ようとしていたウラルを手で制し、剣を構える。
「今日はスライムばかりで飽きていたところだ。我が守護神マルスに、勝利らしい勝利を捧げないとな」
 冒険者はみな、自分の守護神を持つ。冒険者になる時に自ら守護神を選び、洗礼を受けるのだ。
 俺が選んだ守護神は、勝利と力を司る神、マルス。冒険の中で自らの力と勝利をマルス神に示し、捧げることで、レベルアップという恩恵が得られるのだ。
「ウラルは援護を頼む」
「はい。ただ、この場所で戦うのは避けた方が良さそうです」
「何?」
「後ろをご覧ください」
 振り返って宝物庫の入り口を見ると、通路の奥からこちらにむかってくる多数の影。
「スケルトンの集団ですね。もしかすると、遺跡中のスケルトンがこの部屋に殺到してるのかもしれません」
 言っているそばから、ガシャガシャとした骨の音がまるで騒音のように響いてくる。
 
「せ、戦略的撤退ーーー!!」
 かくして、俺たちは遺跡の中を走り回る羽目になった。

 * * * * *

「なんとか巻けたか……」
 しばらく遺跡内をスケルトンと鬼ごっこしたのち、俺たちは小部屋に逃げ込んだ。
 大きく深呼吸をして、息を整える。流石に疲れた……。
「巻けはしましたが、まだスケルトンたちは近くにいるようです」
「しばらくここで休んでやり過ごそう。奴らに部屋のドアを開ける知能はないだろ? ……無いよな?」
「それは術者次第です。執事が務まるくらい賢いスケルトンを作り出す術者もいるそうですが、動きを見る限りここのスケルトンはだいぶ雑なつくりですね。ドアと壁の区別すらつかないと思います」
 なるほど。
「一応、魔除けの結界をしておこうか」
「はい。分かりました」
 ウラルがドアに手をかざし、柔らかな光が空中に文様を浮かび上がらせる。
 疲れて荒い息をついている俺とは対照的に、ウラルは動きにくそうなローブを着込んでいるにも関わらず、涼しい顔をしている。その顔には汗一つなく、疲労の色も見えない。
 男としては負けた気分になるが、彼女は普通の魔道士ではない。気にするだけ損ではあるが、やはり自尊心がうずく。
 本当は座って休みたいが、ぐっと堪える。

「結界張り終えました」
 これで安全です。とウラルが頷く。
「お疲れさん。魔力はまだ平気だよな?」
「はい。昨日十分補充していただけましたし、この程度の結界ならば消費も微々たるものです。ただ……」
「ただ?」
「結界張ってから言うのも何ですが、逃げずに倒してしまえば良かったのでは?」
「あの数だぞ?」
 正確には数えていないが、2,3ダース以上いた。数体ならともかく、そんな数を相手にしたら囲まれてボコられるのがオチだ。
 勝利と力を司るマルスを守護神としている俺としては、そんな無様な戦いはできない。……逃げるのは無様ではないのかって? あれは戦略的撤退だ。
「あの程度なら問題なく殲滅できたかと思いますよ」
 事も無げにウラルが言う。
「通路に誘導して一直線に並んだところを熱線魔法で一網打尽。スケルトンの空っぽの頭に頭脳戦というものを教えてやろうと思っていましたのに」
「頭脳戦かそれ?」
 どちらかというと力技に聞こえる。俺の言葉にウラルはきょとんとする。
「だって魔法ですよ? 魔法は知的なものって相場が決まっています」
「…………」
 使っているのが筋力か魔力かの違いだけで、全力ぶっぱの脳筋思考には変わりがない。
「まあ、あれだ。倒したとしても増援があるかもしれないし、やり過ごせるならそれに越したことはない」
 ウラルは、んー。と考え込むように顔を上げると、頷いた。
「叩けるうちに叩いておくのもアリかと思いましたが、エルク様がそうおっしゃるなら止めておきます」
「そうしてくれ」
 大人しそうなナリに騙されそうになるが、こいつは案外好戦的だ。
 そのくせ、信奉や信頼、愛情を司る神、ヴィーリを守護神としているというのだからわけが分からない。
 見てくれだけなら、華奢で儚げな深窓の令嬢といった風貌なだけに、そのギャップもひとしおだ。パーティを組んでしばらく経つが、いまだに慣れない。
 こうして俺の隣に佇んでいる姿を見ると、よりそれを強く感じ、思わず胡散臭いものを見る視線を送ってしまう。
 俺の視線に込められた意味を察してか、ウラルが皮肉を返してきた。
「エルク様にかかると、ただのスライム退治がこんなに刺激的なイベントに変化するんですね」
「ほっとけ」
「それに、さきほどのエルク様は傑作でした。宝箱を見つけた時の少年のように瞳を輝かせた表情から、スケルトンの大軍を見たときの落差ときたら、もう」
「う、うるさいな!」
「我が守護神マルスに、勝利らしい勝利を捧げないとな。キリッ」
「やめて! マジやめて!」
 ひどいいじられ方だ。やっぱりこいつ絶対ヴィーリじゃないだろ!
「お前なあ……。俺は一応、お前のご主人様なんだろ?」
 ヴィーリを守護神としている者は、何かに仕えることを喜びとする。ナイトならば国家や主君、プリーストならば教義や道徳といった具合だ。
「もちろんです。守護神ヴィーリに誓って、私はエルク様に永遠の忠誠を捧げております」
 そう、ウラルが仕えているのは俺。ゆえに、ウラルは俺を「エルク様」と様付けで呼ぶのだが……。
「とてもそうは思えないぞ」
「私はエルク様を心から敬愛し、お慕い申し上げてますのに」
「慕っている相手をいじるなよ」
「それは親しさアピールですよ」
 彼女はしれっと答える。
「親しき中にも礼儀ありって言葉があってだな?」
「エルク様には私の気持ちが伝わっていないのですね。身も心も、すべて捧げましたのに」
 悲しげに顔を伏せるが、わざとらしいことこの上ない。
「ちょっと待て、それは聞き捨てならないぞ。だいたい捧げているのは俺の方……」
「お静かに」
 抗議の声を上げようとした俺を、ウラルが制す。周囲を警戒するように視線を巡らせる。
「……どうした?」
 小声で尋ねつつ、俺もつられて周囲の気配を探る。……スケルトンの気配がない?
 気が付けば、かすかに聞こえていたスケルトンのガシャガシャという音がまったく聞こえなくなっている。
「奴ら、やっとここから離れたか?」
「そのようですね。周囲にアンデッドの気配がありません」
「よし、今のうちに脱出しよう」
 休んだおかげで体力も回復している。脱出するなら今だろう。
 ところが、ウラルはいまだに無言で周囲を伺っている。
「どうした? もうスケルトンはいないんだろ?」
「はい。静かなものです。静か過ぎるくらいに」
 引っかかる言い方だ。警戒態勢が解かれて、元の場所に戻っただけだと思ったが、違うのか?
「魔力探知で動向を探れないか?」
「可能ですが、逆探されて発見される可能性もあります」
「うへぇ、やめておこう」
 せっかくやり過ごしたのに、また追いかけれるのはごめんだ。
「とりあえず、周囲にスケルトンはいません。間違いなく」
「分かった。寝た子が起きる前に退散しよう」
「はい。エルク様」
 なんとなく、引っ掛かりを感じたまま、俺たちは小部屋を後にした。

 * * * * *

「おお……。やっと見覚えのある場所に出られた……」
「でも、思ったより早く着きましたね」
 遺跡内を一心不乱に逃げ回ったおかげで、帰りは道を探りながらだったが、無事洞窟の裂け目まで戻ってこれた。
 あれから、一度もスケルトンに出くわしていない。こちらが慎重に移動しているのもあるが、ちょっと拍子抜けしたくらいだ。
「もうスライムは退治し終わっただろうし、さっさと街に戻ろう」
 遺跡の廊下から裂け目をまたいで洞窟に足を踏み入れようとした瞬間、それに気付いて固まった。
「おい、これってもしかして……」
「足跡ですね」
 洞窟の湿った土には、夥しい数の足跡が出来ていた。足跡の向かう先は洞窟の出口。……とてつもなく嫌な予感がする。
「街へ急ぐぞ!」
「はい」
 俺たちは弾かれたように駆け出した。
 どうりで静かすぎたはずだ。帰り道、スケルトンに出くわさなかったのは、奴らは遺跡から外へ出ていたからだ。


「どうしてこうなった!?」
 洞窟を抜け、森の中を全力で走りながら叫んだ。さっきも同じセリフを言ったような気がする。
 森の地面にも無数の足跡が残っており、街の方角に向かって延々と続いている。
「スケルトンの魔力を捉えました。やはりまっすぐ街に向かっています」
 俺の隣を並走しているウラルの眼前には小さな魔法陣が展開されており、スケルトンを捕捉している。魔力探知だ。
「追いつけそうか? 数は?」
「はい。それほど離れていません。街に到達する前に十分追いつけるでしょう。数は全部で63体です」
「63!?」
 それほど離れていないという事実に安心したが、問題は数だ。2,3ダースはくだらないと思っていたが、そんなにいるとは。
「なんとかこっちに引き付けることはできないか?」
「魔力探知でこちらに反応するのを期待したのですが、ダメそうですね。追いついてから迎撃するしかなさそうです」
「63体を迎撃か……」
 追いつけるだけまだマシだが、63体のスケルトンなんて、街の衛兵をかき集めても止められないだろう。
「待ちかまえて迎撃するとしても、こちらを無視して進まれる可能性もあります。そうなったら厄介ですね」
 食い止めようと立ちふさがっても、スルーされては止めようがない。川の流れをたった数個の土嚢で堰き止めようとしているようなものだ。
 つまり、なんとかして進行を食い止めるか、進路を変えさせるかしなければ、街に被害が出るのは確実。
「やっぱり、叩けるときに叩いておけば良かったですね」
 まったくその通りでした。ぐうの音も出ない。
 俺はごまかすように叫んだ。
「そ、そもそもなんで奴らは街に向かっているんだ!?」
「おそらく、命令が発せられたら倒れるまで止まらないのでしょう」
「迷惑すぎる!」
 思わず喚いた。いくらなんでも後先考えてない命令すぎやしないか?
 いや、そもそもこんな罠を作るやつが周囲の迷惑を鑑みるわけがないのだが……。
「罠が起動したとき、声がしたのを覚えていますか?」
「声?」
 言われてみれば、たしか裁きとかなんとか……。
「『我が閨の宝を荒らす輩に裁きを』それがおそらくスケルトンを動かしている命令です」
「もう荒らしてないぞ! それに、荒らしたのは俺たちだ。なぜ街に行く!?」
「憶測ですが、私たちを見失ったことで攻撃対象が無くなり、その結果、人間を求めて街へ向かったのかと」
「無差別かよ! ……いや、ちょっと待て!」
 俺たちを見失ったって、もしかして魔除けの結界のせい……?
 呆然とウラルを見ると、察したのかこくりと頷いた。
「魔除けの結界とはつまり、魔物の知覚や認識、感知から外れることなので、命令の対象からも外れてしまったのですね」
「ああもう!!」
 やることなすこと裏目に出ていて、頭を抱えたくなった。
「すみませんエルク様。雑なつくりのスケルトンだと思っていましたが、まさかここまでとは思いませんでした。普通は攻撃対象が居なくなった場合、命令自体をキャンセルするようにしておくものなのですが」
 そりゃそうだ。そうしないと普通に対象を排除したあとも、次の獲物を求めて無意味に倒れるまで動き続けることになる。罠しては不十分な作りだ。
「結界を頼んだのは俺だ。ウラルのせいじゃない」
 そもそも俺が宝箱に目がくらんだのが原因だが、こんなはた迷惑で雑な罠を作った遺跡の主も主だ。
 何が我が宝だ。もう大昔に死んでるだろうに、いつまで権利を主張する気なのか。
「……ん? 宝?」
 そうだ、宝箱の罠を利用すれば!
「ウラル! あの宝箱の罠はもう一度発動すると思うか?」
「わかりませんが、こんな雑なつくりなのですから、可能性はあります。まさかエルク様」
「ああ、俺がもう一度あの罠を発動させれば、攻撃対象が俺になる。そうしたらスケルトンも引き返してくるだろ?」
 急停止し、踵を返して遺跡に戻ろうとする俺の手を、ウラルが引き留めた。
「危険です。遺跡にはまだモンスターがいるかもしれませんし、他の罠もあるかもしれません」
「だからと言って、このままじゃ街に被害がでるぞ」
「遺跡に戻って罠を発動する役目は私がやります。エルク様はこのまま街に行って、衛兵さんに知らせてきてください」
「街にいる衛兵でどうにかできる数じゃないだろう。俺よりお前のほうが戦力になる。役割分担を考えれば、お前がスケルトンを足止めしている間に、俺がまた罠を発動するのが適切だ」
 悔しいが、俺ではあの数のスケルトンを足止めできないし、街にいる衛兵や冒険者をかき集めても止められないだろう。
 だが、ウラルなら可能だ。
「それに、もしかしたら罠が発動しない可能性もある。それを考えたらお前がスケルトンの足止めに向かうほうが良いだろ?」
「……わかりました」
 一瞬の逡巡後、ウラルが頷いた。
「よろしく頼む。魔力出し惜しみしなくていいから、全力で街を守ってくれ」
「了解です。蹴散らしてやります」
 力強く頷くウラルに、思わず付け足した。
「魔力を枯渇させるのだけはやめてくれよ?」
「それは私も嫌ですのでご安心を。それより」
 ウラルがこちらを真っすぐ見つめてくる。
「エルク様、ご無理をなさらないでくださいね。エルク様はそれなりに腕は立ちますが、それなりなんですから」
 いちいち一言多くて突っ込みそうになるが、いつまでもここでやり取りしている暇はない。
「分かってる。お前も知っての通り、俺は撤退には自信があるんだ。じゃあ任せたぞ!」
 俺は再び遺跡に向かって走り出した。

 * * * * *

 エルク様の後ろ姿を見送った後、私も行動を開始しました。
 飛翔魔法を唱え、文字通り飛ぶ速さでスケルトンを追います。魔力は消費しますが、ここは速度優先。エルク様から全力でと許可をいただいたからには遠慮は無用でしょう。

 ほどなくスケルトンの集団に追いついた私は、地面に降り立ち、攻撃魔法を詠唱。
 集団相手には火炎魔法や爆発魔法が有効ですが、森の中では迂闊に使えません。山火事にでもなったらスケルトンどころではなくなってしまいます。私の得意な熱線魔法もここでは封印せざるを得ません。
「スケルトンにこれは効きにくいのですが、仕方ありませんね」
 とりあえず氷結魔法をスケルトンの集団に打ち込み、様子見します。
 氷塊の直撃で1体を撃破、そこから広がった冷気で周囲の2体を氷漬けにし足止め出来ましたが、行軍が止まる様子もこちらに進路を変更する気配もありません。
「やはり攻撃目標を途中で変えるつくりにはなっていないのですね」
 街を現目標としている以上、何があってもそちらを優先するようです。こちらを攻撃対象にしてくれれば、都合の良い場所におびき寄せまとめて吹っ飛ばすことが出来て楽だったのですが、そうもいかない様子。
 しかし、それならそれで、やりようはあります。

 氷結魔法1発で撃破1、足止め2。スケルトンは残り60。単純計算であと20発撃ち込めばとりあえず全スケルトンの足止めは出来ます。
 エルク様も心配ですし、ここはパパッと1度で終わらせましょう。

「各スケルトンの移動ルート計測。氷結範囲の最大効率地点を算出。着弾目標設定。多重詠唱開始」
 20発の魔法を同時に詠唱するのは初めてですが、まあ問題ないでしょう。
 多重詠唱は詠唱時間もかかりますし、着弾のコントロールも難しいですが、相手は一定の速度でまっすぐ進むだけの木偶人形。進行の目標を変えないというのならば予測も容易ですし、こちらに向かってこないので長い詠唱で無防備になっても問題ありません。

「──詠唱完了。多重氷結魔法、発動」
 ひと抱えほどある氷塊が、雨あられとスケルトンに降り注ぎ、狙い通り20体のスケルトンを打ち倒し、40体のスケルトンの氷漬けに成功しました。
「さすがに20発同時は魔力の消費も大きいですね」
 氷漬けによる足止めは一時的なもので、数分で融けて動けるようになってしまうでしょう。
 氷結魔法を1発1発撃っていては、氷漬けにさせたそばから融けて動けるスケルトンが出てきてイタチごっこになります。
 消費が大きくとも、全体を一度に足止めできるのは大きなメリットです。
「さっさと片づけてエルク様と合流しましょう」
 私は足止めしたスケルトンを仕留めるべく、魔法を唱え始めました。

 * * * * *

 俺は全速力で遺跡の中を駆け抜けた。
 モンスターに見つからないように、なんて気を配っては居られない。
 幸いにも遺跡の中はもぬけの空で、ウラルの心配は杞憂に終わったが、逆に言うと遺跡内のすべてのモンスターが命令に従って街に向かっているのかもしれない。
 一刻も早く罠を発動しなければ、いくらウラルでも足止めしきれないかもしれない。

「ここだ!」
 宝物庫にたどり着き、宝箱に駆け寄る。
 すると……。

『我が閨の宝を荒らす輩に裁きを』

「よぉし!」
 俺は思わずガッツボーズをした。
 また罠が発動した。雑なつくりで本当にありがとう!
 思わず遺跡の主に祈りたくなった瞬間、耳を疑いたくなる音が響いた。
 ガシャガシャと、スケルトンが、再び出現したのだ。

「だあああ! そういう仕組かああ!」
 既に出現しているスケルトンの攻撃対象が変わるだけかと思いきや、まさか、新たに出てくるとは思わなかった。
 俺は再び走り出した。


「これで4体目!」
 俺の一撃を受け、物言わぬ躯に変わったスケルトンがガラガラと崩れる。
 休む間もなく次のスケルトンが迫り、ぎくしゃくした動きで剣を振り下ろしてくる。俺は後ろに飛びのいて避け、そのまま走り出した。

 俺は遺跡の中を走りまわり、スケルトンに囲まれない場所を選びながら戦っていた。
 それがなかなかに難しい。
 狭い通路だと1対1の状況に持ち込めるが、俺も剣を振りにくくなるし攻撃も避けにくい。かといって広い場所だと容易に囲まれる。
 結果、走りまわって適当な広さの場所に出たら、素早く先頭の1、2体を倒し、囲まれる前にまた移動、という戦法に落ち着いていた。

「よし、ここなら行ける!」
 程よい広さの通路に出て、走りながら後ろをチラ見。スケルトンとの距離を確認すると、俺は振り向きざまに横薙ぎの一撃を繰り出した。
「──くっ!?」
 相手を両断するつもりで放った一撃だったが、望んだ手ごたえは得られなかった。
 俺の剣はスケルトンの骨に亀裂を入れ、たたらを踏ませるだけにとどまっていた。
「くそ!」
 間髪入れず、叩きつけるように上から斬りつける。
 今度こそ倒したが、明らかに動きが鈍っている。移動と攻撃を繰り返す戦法は、確実に俺の体力を奪っていった。
 一方スケルトンはまだまだ数が多く、ガシャガシャと迫ってくる。正直、キリがない。
 だが、今こそ力と勝利を示す時!
 俺は剣を握りしめ気合いを入れ直した。
「ガラクタになりたいヤツからかかってきやがれ!」
 俺の言葉に反応したのか、スケルトンが一斉に殺到する。
「よっしゃオラー!」
 俺は負けじと吼えて、くるりと反転。背を見せて走り出した。
 気合いは入れたが、やることは変わらない。引きまわして、各個撃破だ。


 どのくらい戦い続けただろうか。
「くらえ!」
 俺の攻撃で、またスケルトンがバラバラになって吹っ飛ぶ。
 10体目から先は数えていないので、すでに何体目か分からない。
 6体目くらいで剣が折れたときは大いに焦ったが、壁に掛けられていたメイスを苦し紛れに使ったら、大正解だった。
 リーチは短くなったが、メイスの打撃力はそれを補って余りある戦果を俺にもたらしてくれた。
 力任せに殴りつけるだけで、スケルトンが気持ち良いくらい派手に砕け散る。鈍器やべえ。
 冒険者と言えばやっぱり剣だろ! と、ずっと剣を愛用していたが……。この破壊力は、俺の剣信仰を揺るがし始めていた。
 骸骨を無慈悲に粉砕する、鈍色にくすむフランジ型の柄頭が恐ろしくも頼もしい。
「これなら負ける気がしない、が……」
 正直なところ、早いとこ遺跡を出てウラルと合流したかった。でも今は彼女は彼女で足止めで忙しいだろう。
 ウラルは魔道士として規格外と言えるが、さすがにあの数を相手にするのは、苦戦はせずとも単純に時間がかかると思われる。
 魔力にも限界があるし、合流する前に出来るだけ数を減らしておきたかった。
 ……ただ問題は、俺の体力がそろそろ限界だということだ。
 走りながら後ろを確認すると、通路がスケルトンで埋まっている。だいぶ倒したはずだが、ほとんど数が減ったように感じられない。
 動けるうちに何か策を考えないとマズイ。疲労で動けなくなったら確実に詰みだ。
「またあの小部屋に……いや、ダメだ。それじゃ意味がない」
 小部屋にはまだ魔除け効果が残ったままだろう。そこに逃げ込めば、スケルトンを巻くことができるが、もとの黙阿弥だ。
 街に向かったスケルトンを引き付けるために遺跡にもどってきたのに、また街へスケルトンを送ることになる。いや、数が増えている分、さらに状況が悪化するだけだ。

 何か手はないか? ……そうやって、考え事をしながら走っていたのがいけなかった。
 今まで見知ったルートを巡回していたが、1本通路を間違えてしまったのだ。
「しまった……!!」
 気付いた時にはもう遅かった。眼前は行き止まり。背後にはスケルトンの集団。
 致命的なミス……。俺は袋小路に入ってしまった。

 * * * * *

 スケルトンを片付け、洞窟に戻ってきましたが、エルク様の姿が見えません。
 途中どこかでエルク様と合流できると思いましたが、まだ遺跡の中にいらっしゃるのでしょうか。

 氷漬けにしたスケルトンを始末している最中、氷が融けて動き出したスケルトンの進行が変化したので罠の発動に成功したのだと思いますが、何か不測の事態でも発生したのかもしれません。
「エルク様は基本的に、いろいろと行動が裏目に出る方ですからね」
 実にお仕え甲斐があるというものですが、離れていると不安でもあります。
 急いで向かうとしましょう。


 遺跡に入り、魔力探知でエルク様を探します。
 魔力探知は魔力の発生源を探すものなので、エルク様のように魔法が使えない方の探知には本来向いていません。ですが、誰でも少しは魔力を持っているものなので、精度を上げれば探知可能です。
「これは……」
 遺跡の奥にスケルトンの集団と、エルク様を捕捉。探知の反応から察するにお怪我はないようですが、どうやらスケルトンに追われているようです。
 駆けつけるにも遺跡は迷路のようになっています。どんなに急いでも時間がかかるでしょう。
 エルク様がご無事でなによりですが、事態は思ったより深刻でした。これは一刻の猶予もありません。
 私は即座に、最速でエルク様を窮地からお救いする方法を実行しました。
「熱線魔法。最大出力」
 遺跡の奥、スケルトンのいる方角に手をかざし、熱線魔法を放ちます。
 手の平から照射した最大出力の熱線は、上半身を覆うほどの巨大な光の帯となって石壁に当たり、みるみる溶かしていきます。
 しかしこれではまだ不十分。
「熱線集束」
 広げた指を窄めていくと、それに合わせて熱線が集束を開始。
 耳をつんざくような甲高い音を立て、胴体を飲み込むほどもあった熱線が、指の太さにまで圧縮。
 さながらバターに熱した鉄串を通すかの如く、分厚い石壁をあっさり貫通しました。
 高圧力の熱線は、まるで素通りするかのように次々と石壁を貫きていき、瞬く間に奥地にいるスケルトンに到達。
 私は魔力探知上でそれを確認すると、先頭のスケルトンから最後尾のスケルトンにかけて、撫でるように腕をひと薙ぎ。
 石壁は粘土のように切断され、魔力探知上からスケルトンの反応が消失しました。
「これで良し、ですね」
 ご主人様を危機から救い、忠義を尽くせた満足感が私の胸をいっぱいにします。
 今日の私はなかなか良い働きだったのではないでしょうか。お褒めの言葉を頂けるかもしれません。
「ちょうど魔力も少なくなってきましたし、補充もお願いしちゃいましょう」
 私はスキップしたくなるようなウキウキした気分で、エルク様のもとに向かいました。

 * * * * *

「なるほどです。罠発動のたびにスケルトンが呼び出される仕組みだったんですね」
 合流した俺たちは、それぞれの報告をしていた。
 俺から話を聞いたウラルが頷く。
「スケルトン自体は弱いですが、これだけ沢山のスケルトンを使役できるとは、この遺跡の主はなかなか高い魔力を持っていたようですね」
「雑だけどな」
 一時はどうなることかと思ったが、街にも被害はないし、無事に出られそうだし、何よりだ。
 ふと気付くと、ウラルが俺の服の裾を掴んでいた。
「エルク様、魔力の補充をお願いいたします」
 なんとなく予想はしていた。63体のスケルトンの殲滅に加え、遺跡を横断するとんでもない威力の熱線魔法。
 これだけ暴れれば補充も必要だろうなと。

 スケルトンに追い詰められたとき、横合いの石壁を、何の前触れもなく突き抜けて飛び出した熱線が、瞬く間にスケルトンの群れを石壁ごと両断せしめたときは、助かったという安堵よりも理解の範疇を超えた出来事に唖然とするほかなかった。
 ガシャガシャとした騒音が、数瞬後にはかき消え、残ったのは静寂のみ。
 当たり前のような顔をしてとんでもない魔法を使う彼女には、毎回驚かされる。
 現在その少女は、どこかワクワクした表情で俺の返答を待っている。

 正直この遺跡から早く出たいところだったが、俺の服の裾を控えめにつかみ、こちらをまっすぐ見上げてくる仕草はなかなかに強烈だ。
 それがウラルのような美少女ならばなおさらだろう。俺の股間も目を覚まし、ズボンを押し上げ始める。
「ああ、わかった」
 どうせ誰も来ないんだ。ここでヤッても構わないだろう。そう思い、首肯すると、ウラルはパッと顔を輝かせた。
「では失礼しますね」
 嬉しそうに言いながら、俺の鎧に手を伸ばす。
 慣れた手つきで軽鎧の留め具を外して脱がし、その下の服にも手をかける。
「ちょっと待った。全部脱がす気か? 外なんだし下だけでいいだろ」
「そういういかにも青姦っぽいプレイも好きですが、裸になって密着したい気分なんです」
 言うが早いか、俺の服をまくり上げる。彼女もローブを脱ぎ捨て、お互い上半身裸になったところでウラルが抱き着いてきた。
 細いくせに柔らかくて暖かい女体の感触。俺の下半身がみるみる硬度を増していく。

 これから行われるのは、魔力の補充である。
 ウラルは魔道士として規格外だが、魔力の補充方法も常識外れだった。
 魔力というのは、普通は体力と同じように、安静にしておけば自然と回復する。
 だがウラルの場合は、新鮮な男の精液を膣内で受け止めなければ魔力が回復しないというのだ。
 なんというか、男にとって都合の良すぎる話だ。実際にウラルを知らず、人からその話を聞いたのならば、一笑に伏していただろう。

「エルク様の胸板にこうやってくっつくの好きなんですよ」
「知ってる」
 一緒に旅をしてきて、魔力補充として何度もウラルを抱いている。普段はしれっとした態度だが、こういう時は情熱的に甘えてくる。そのギャップもたまらない。
「今日の私は、結構お役に立てたのではないですか?」
 甘えるようにささやく声に、背筋がぞくぞくする。
「もちろん、助かったよ」
「ふふ、良かったです」
 うれしそうに言いながら、俺の首元に額をこすりつけてくる。
 このまま押し倒して滅茶苦茶に犯したくなるが、ここは我慢。先に言うべきことがある。
 俺はウラルの背に手をまわして軽く抱きしめ、できるだけ硬い口調で言ってやる。
「俺の期待以上の働きだったぞ、ウラル。よくやってくれた」
「ああ……! エルク様ぁ」
 途端に、ウラルが腕の中でとろけるように脱力した。
 こういう扱いがウラルは大好きらしい。「ありがとう」といった感謝の言葉よりも、部下を労う上司然とした言葉を好む。もっと言うと、絶対的な権力者たる王が、臣下に告げるような言い方が大好物のようだ。
 俺にはよく分からないが、これも仕えることを喜びとする守護神ヴィーリの性質だろうか。
 仲間に対して上から目線なのはやや抵抗あるが、よくやってくれたと思っているのは本心だし、感謝を伝えるんだったら相手が喜ぶ伝え方のほうが良いだろう。
 ただし、喜ぶからといって乱発されるのはイマイチらしい。ここぞという時に一言だけ言ってやると効果てきめん。さっきのようにとろとろになる。
「エルク様、私もう我慢できません」
 はぁはぁと荒い息を付きながら跪き、俺のズボンに手をかけ下着ごと脱がす。飛び出した逸物が勢いよく跳ね、下腹を叩いた。
「ああ……、これです。これが欲しかったんです」
 反り返った俺のものを見て、ウラルはうっとりとため息を漏らすと、自分の下着も脱ぎ捨てる。
 その間、ウラルは俺の股間を凝視したままだ。瞬きすらせず、視線がペニスに固定されている。
 俺が腰を下ろして座ると、ウラルは待ってましたとばかりにまたがってきた。
「もう入れちゃいますね……んっ、ああぁぁ……」
 すでに十分潤っている秘所に、俺のものが飲み込まれていく。
 熱くてヌルヌルした感覚にペニスが包まれ、快感に腰が震える。
「気持ちいいです、エルク様ぁ」
 至近距離で、恍惚とした表情で微笑む。
 俺はたまらなくなって下から突き上げ始めた。
「あッ、あぁん!」
 ウラルは不意を突かれたのか、甲高い声で喘ぎ、仰け反る。
「あーッ! あーッ! エルク様ぁ……!」
 喘ぎながら、ウラルがキスをしてくる。
「んぅ、ちゅ、はぁ、んっ」
 貪るように激しくキスをしながらも、腰の動きは止まらない。
 俺の突き上げに合わせてウラルもいやらしく腰をくねらせ、打ち付けてくる。
「ちゅっ、んっ! あッ、あぁ……! きもちいぃ……! あああ……!」
 俺の肩に手を置き、一心不乱に腰を振る。離した口からよだれが糸を引いて、千切れて落ちる。
 はぁはぁ喘ぎながら、だらしなく開いた口の端からよだれをたらし、整った顔を快感に蕩けさせる。
「エルク様、私すごいきもちいいです……。エルク様はどうですか?」
「俺も、くッ、すげえ気持ちいいよ」
「良かった。私でもっと気持ちよくなってくださいね?」
 とろんとした顔で、ウラルが微笑む。心の底から嬉しがっていることが伝わってくる。
 俺は興奮に腰が震え、ペニスもビクビクと跳ねた。
「あんッ」
 可愛らしい声を上げると、膣内のペニスを味わうように腰をもじもじと捩ってくる。
「ふふ、今私のなかでエルク様のがビクッてなりました。おちんちんでお返事するなんて、エルク様って本当にエッチですね」
「スケベなのは認めるけど、お前が言うか!」
「ああぁぁッ!」
 ウラルの細い腰をつかみ、ガンガンに揺さぶってやる。
「ああーッ! ああーッ! あぁーッ!」
 嬌声を上げ、ウラルが快感に悶える。
「あーッ! いやぁッ! そんな、奥、ああああん!」
 ガクガクと腰を震わせ、髪を振り乱す。
「奥、おく、ああッ! おく、いいです、きもちぃ、ああッ、あああーッ!」
 甘い嬌声に、俺の興奮も高まる。腰ごとめり込ませるように、容赦なく打ち付ける。
「エルクさまッ、わたし、もう、イキそッ、です! ああッ!」
「ああ、遠慮なくイケ!」
「やあ、エルクさまもっ、ああ! エルクさまも出してください!」
 快感に耐えるようにかぶりを振りながら、ウラルが乞う。
「エルクさまのせいえき、わたしのなかに、おねがいします、エルクさまぁ……!」
 切なげに顔を歪ませ、ほとんど泣きそうになりながら、俺の精液を懇願してくる。こんな状況、耐えられるはずがない。
「ああ! ちゃんとなかに出すから、心配するな!」
「あぁ……!」
 涙すら流し、本当に嬉しそうに顔を綻ばせる。
 たまらなくなって抱きしめ、対面座位の形で揺さぶる。
「ああーッ! ああーッ! イキそ、イキそぉ…! ああイクぅうう……!」
 ガクガクと震えながら、ウラルがきつく抱きしめてくる。
「イクイクイク……ッ! イッ……、ああああーーーーッ!」
「俺も、出るッ! ぐぅ……!」
 ウラルの絶頂と同時に、俺も精を放った。
 ドクンッ、ドクンッと膣内でペニスが脈動し、そのたびに大量の精液が吐き出される。
「あーッ!! あーッ!! あーッ!! あーッ!!」
 ウラルは華奢な身体を痙攣させ悶えている。身体の中を快感が跳ねまわっているかのように、ビクビクと可愛らしく震わせ、嬌声を上げ続ける。
 それでいて、まるでもっともっとと精液をねだるかのように膣内がきゅうきゅうと閉まり、俺のペニスから1滴でも多く精液を搾り取ろうとしている。
「あ、ああ……! エルクさまの、いっぱい……。嬉しいです」
 ウラルは蕩けた顔で微笑むと、幸せそうに唇を重ねてきた。

 * * * * *

「次は後ろから、いいですか?」
 ウラルは四つん這いになり、可愛いお尻を向けてくる。
 いやらしくひくついている秘所は、精液と愛液でドロドロになり、太ももの内側を伝って地面に染みを作る。
 やはり1度では足りないようだが、こちらとしても望むところ。
 挿入を期待してか、もじもじと揺れる小さなお尻はとてつもなく扇情的だ。射精したばかりで柔らかくなっているペニスが、たちどころに硬度を取り戻す。

 魔力の消費具合にもよるが、ウラルの魔力を満タンにするのは、だいたいいつも複数回必要だ。
 特に今回は消費が多めの様子。長期戦の予感に、興奮半分、不安半分といったところ。
 回数が多すぎるとツライだけになるので不安だが、それでも枯渇した時よりはマシだ。

「よし、挿れるぞ」
 可愛らしい小尻を鷲掴みにして、先端をあてがう。
「あっ、ああ……ッ! この挿入感、好きです……」
 ズプズプと肉銛を突き刺し、ウラルがうっとりとため息を漏らした、その時。

『我が閨で不貞を行う者どもに鉄槌を下さん』

 聞き覚えのある声が響いてくる。
「オイオイオイ、またか!?」
 やっぱり遺跡から出ておけば良かった!
 こんなところをスケルトンに襲われたらたまらん。慌てて抜こうとするが、ウラルが後ろに手をまわして俺の腰を押さえる。
「途中で止めちゃ嫌です、エルク様」
 未だとろんのした顔で、法悦から抜け出していないようだ。さっきは調子に乗って激しくやりすぎたのかもしれない。
「いやいやいや! スケルトンが来るぞ! 脱出が先だ」
「平気ですよぉ。ここのスケルトンは数だけで、つくりは雑ですから、来ても私が追い払います」
 だから早く続きを、とねだるように腰をくねらせる。
「いや、そうは言ってもな……」
「大丈夫です。こんな雑な罠と雑なスケルトンなんて物の数ではありません。ですから、早く」

『雑雑言うなあ!!!』

 突風が巻き起こり、不安定な体勢だった俺たちは風圧に飲まれ吹き飛ばされる。
『先刻から事あるごとに雑雑雑雑と……! 我への侮辱は万死に値する!』

 俺は起き上がり様にメイスを拾い、声の正体をにらみつける。
 突風の中心には、ボロボロになった法衣を纏ったアンデッドが浮かんでいた。
 禍々しい気配に、悪寒と怖気がこみ上げてくる。
 噴き出した瘴気の影響か、周囲の空間が歪んで見えるほどだ。
「リッチー!?」
 伝聞でしか聞いたことがないが、スケルトンを多数操る能力と風貌、なによりこの威圧感は間違いなく……。
『今更怖気づいても遅い』
 地の底から響くような声に、冷や汗が噴き出る。
『よくも我が閨で好き放題してくれたな』
 そうか。てっきり、遺跡の主はもういないものだと思い込んでいたが、閨か。
 つまり、眠っていた遺跡の主が目を覚ましたらしい。
『我が怒りに怯え、後悔しながら死にゆくがよい』
 リッチーの空洞になった眼窩の奥。無いはずの目と視線が合った、と思った瞬間。
「ぐッ!?」
 心臓を鷲掴みされたような感覚に襲われる。息がつまり、膝を折る。意識が急速に薄れていって……。
「我が怒り……? それは私のセリフです」
 ウラルの声が聞こえたと思ったら、胸の圧迫がかき消えた。
「げほっ! げほっ!」
「大丈夫ですか、エルク様」
 俺は咳き込みながら頷き返す。不快感は綺麗になくなっていた。
『貴様……』
 表情はなくとも声だけで十分伝わってくる。生きとし生けるものでは持ちえない、底なしの怒りと恨み。どす黒い瘴気が渦を巻き、遺跡自体が揺れているような感覚すらおぼえる。
 ……まあ、自分の寝室に無断で侵入し、あまつさえ盛っていたら、リッチーでなくても怒るのは無理はない。
 ウラルは全裸のまま対峙する。リッチーの威圧感など微塵も感じていないようだ。
「私の魔力補充を邪魔し、事もあろうかエルク様に危害を加え、そして私の魔力補充を邪魔したあなたこそ、万死に値します」
 2回言った。
『何を人間風情がぁぁぁああああ!!???』
 セリフの途中でいきなり声のトーンが変わった。怒りの声かと思いきや、悲鳴だったようだ。
『ぐあぁぁぁあああ!!!』
 空中でリッチーの身体が、見えない力でギリギリと捩じられていた。
「ボロ切れらしく、雑巾絞りにしてあげます」
 お預け食らったのが余程腹立たしかったらしい。
『貴様……! この魔力は……!』
「あと腐れなく浄化してあげましょう」
 ウラルはリッチーを捩じる力を維持したまま、魔法を詠唱し始める。
『浄化魔法なぞで我を祓えると思うな!』
 浄化魔法はこの世に未練や怨念を残したままアンデッド化したものを浄化する魔法で、スケルトンやゾンビのように使役された存在には効果がないが、ゴーストやスペクターと言った存在には有効な魔法だ。
 そういう意味ではリッチーにも浄化魔法は効き目がありそうだが、アンデッドの王と呼ばれるほどの存在を消し去れるものだろうか。
「確かに、1発の浄化魔法では抵抗されてしまうでしょうね」
 1発の、を強調する。ああ、なるほど。ウラルの魔法を日々見ている俺にはピンときた。
「しかし、重ね掛けならどうですか?」
『何!?』
「多重浄化魔法、発動」
 柔らかく眩い光が、リッチーを包み込む。
『があああああああ!!!!!』
「念のため10回分を重ねました。いかにリッチーといえど耐えられないでしょう」
『……ああぁぁぁあああぁぁぁぁ…………』
 ウラルの言葉通り、リッチーはあっさりとかき消え、あたりを包んでいた瘴気も霧散し、清浄な空気に満たされる。
「ちょっと重ねすぎましたね。もっと抑えても行けたでしょうが、つい」
 怒りに任せて全力でぶっぱなしてしまった、と。
「さて、エルク様。続きをいたしましょ……う?」
 ウラルが振り返り、にっこりとしたまま、ギシッと停止した。
「おい、まさか……」
「すみません……。魔力が、枯渇、して……しまった、ようで……す……」
 力を失い、ウラルが膝から崩れ落ちる。俺は慌てて抱き留めた。
「マジか……」
 腕の中のウラルは、ピクリともしない。完全に昏睡状態だ。
 さらに、崩れ落ちたのは、ウラルだけではなかった。
 地響きが響き始めると、壁や天井に亀裂が走り、瓦礫が落ちてくる。
「マジかあああ!!!」
 俺はウラルを抱え、全裸のまま、崩れ始めた遺跡から逃げだした。

 * * * * *

「エルク様、それはあんまりです。考え直してください」
 俺の告げた今後の方針に、ウラルは泣きそうな顔になった。
「いや、今回ので本当に懲りた。しばらく魔法禁止な」


 魔力が枯渇すると、ウラルは意識を失って昏倒する。
 これはウラルに限った話ではない。魔力が空になると、誰もがみな精神衰弱し昏倒する。
 ただし、普通の人間は安静にしていれば魔力が回復し、意識も戻る。
 だが自然に魔力が回復しないウラルは話が変わってくる。精神衰弱した状態が延々と続き、下手をするとそのまま息を引き取る危険性すらある。

 つまり、魔力が枯渇したウラルを回復させるためには、意識を失ったウラル相手に魔力の補充である性行為をしないといけないのだ。
 肉体的な反応が皆無で、まるで死んだように昏睡している相手と性行為し、膣内射精をするのがどれほど大変か分かるだろうか?
 おまけにタイムリミット付きと来ている。
 中にはそういう趣味を持っている人間もいるかと思う。でも俺は、幸か不幸か居たってノーマル。
 いかにウラルが見目麗しい美少女でも、正直キツイ。

 あの後は本当に散々だった。
 崩れゆく遺跡からなんとか脱出し洞窟に戻ってこれたものの、俺たちは全裸。正確には裸にブーツの裸族スタイル。道具はすべて置き去りにしてしまい、持ち出せたのは手に持っていたメイスだけだ。
 まずはとにかく、昏睡状態にあるウラルを早急に回復させなければならない。
 俺は覚悟を決めて、ともすると萎えそうになる逸物を奮い立たせ、物言わぬウラルに挿入。
 ちっとも楽しくない性行為に勤しんでいるところを、スライム退治からいつまで経っても戻ってこない俺たちの様子を見に来た冒険者ギルドの受付(女性)に目撃された。

「ひっ! いやあああああああ!!」
「ち、違う! 誤解だ!」
「誰か! 誰かあああああ!!!」
「待って! 人を呼ばないで!」

 薄暗い洞窟で、ぐったりした全裸の女性に覆いかぶさって腰をヘコヘコさせてる姿は、さぞ異常な行動に映っただろう。
 何とかウラルに目覚めてもらうしかないと、あの状態で射精まで持って行けた自分を褒めてやりたい。
 意識を取り戻したウラルと「あれはそういうプレイ」と口裏を合わせ、受付嬢に頭を下げてスライム退治の報酬を使って服を買ってきてもらった。

「もともと着てた服はどうしたって? あー、ほら、洞窟ってなんていうか、原始的っていうか、野生に戻るっていうか、なんかそんな感じでスパーンって脱いじゃってさ、でも洞窟寒いから、丁度いいやこれ燃やして暖取ろうぜーってなって」

 そんな言い訳が通じたか通じてないか分からないが、受付嬢は引きつった笑顔で服を置くと、そそくさと帰っていった。
 最悪の誤解は解けたが、変態冒険者としてのレッテルを貼られるには十分すぎる事件だった。
 どうしてこうなった……。

 結果、俺たちは街に居辛くなり、夜逃げさながらに旅に出た。
 俺たちは冒険者だ。別に1つの街に居続けるわけではない。他の街に旅立つのも日常茶飯事だ。
 ただ、今までそれなりに親しくしていた飲み屋の女将さんや道具屋のおっさんたちから白い目で見られるのが非常に辛かった。


「魔法禁止だなんて。まさか補充も禁止じゃありませんよね?」
 俺たちは街道を歩き、次の街を目指していた。
「魔力消費しないんだから、補充もいらないだろ?」
「そんな!」
 ウラルとのセックスは魅力的ではあるが、枯渇状態から満タン状態になるまで嫌になるほどしたので、しばらくはそういう気分になれない。
 それに、あの一件がトラウマすぎて性的不能になりそうだ。落ち着くまで性的なことから遠ざかって心の傷を癒したいというのもある。
「では、戦闘はどうするのですか?」
「俺のメイスがある」
 俺は腰に吊るしたメイスに手をかける。遺跡での唯一の戦利品だ。
「遺跡の戦いでかなり敵を倒したからな。レベルも結構上がってると思う。ウラルの魔法に頼らずともやっていけるだろ」
「せっかくなら、股間のメイスのレベルも上げませんか?」
 なんてことを言うんだこの娘は。

 のどかな街道に声が響く。
 俺たちの冒険は始まったばかりだ!?

終わり






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