(3)リアとミレ
街から少し離れた古い採石場に、俺たちは向かっていた。
そこは昔使われていた石切り場で、今は放置されているが、最近そこでクレイゴーレムが目撃されたらしい。それの討伐が俺たちが受けた依頼だ。
クレイゴーレム。その名の通り、泥で出来たゴーレムで、ゴーレムの中では下級に位置する。
先刻倒したトレントよりも弱いモンスターなので、ウラルの魔法を解禁した俺たちなら楽勝とも言える相手だ。
ただしクレイゴーレムは複数体まとまって出現する傾向がある。目撃されたのは1体のみだが、何体か相手にすることになるだろう。
「手ごろな依頼があって良かったな、ウラル」
「……ええ、そうですね」
ウラルの声が硬い。その原因は、黒竜に挑めなかったから……ではない。
「がんばろーね! ミレ!」
「うん。前衛、気を付けて。リア」
俺たちの前を歩く二人組。一人は角獣族の赤毛の女の子。もう一人は銀髪の人間の女の子。
ギルド酒場で目にした、露出の多い獣人娘とその連れだ。
依頼を受けようとしたとき、丁度彼女らも同じ依頼を受けるところだったらしく、人懐っこい笑顔で話しかけられた。
「ねえねえ! あなたたちもその依頼受けるの?」
夕焼けのように鮮やかな朱色の髪の毛は、炎のようにところどころ跳ねて、彼女の元気な性格を表しているかのよう。
角獣族の証である角は、頭の横から生えた象牙色のねじれ角。そこの根本に、編み込まれた細いリボンが髪飾りのように結ばれているのが少女らしいオシャレで可愛らしい。
一方で装備は、肩や胸元、太ももを惜しげもなく晒した軽装だが、それは防御に無頓着というよりも機動力重視なのだろう。獣人らしいしなやかで引き締まった肉体が垣間見える。
エモノは腰に差した幅広のナイフが一つ。総合すると、レンジャー系の冒険者と言ったところか。
「クレイゴーレム退治か? ああ、受けるつもりだ」
「じゃあさ、どうせなら一緒にやらない?」
「おお、俺はいいぞ」
「やった! じゃあ決まり!」
獣人の娘が嬉しそうに飛び跳ねる。ショートの髪の毛が跳ね、胸も跳ねる。
「あたしはアプリーア。リアって呼んで! この子はミレ」
「よろしくお願いします」
獣人の娘、リアの隣にいる小柄な少女がペコリとお辞儀。彼女はリアとは対照的に大人しい性格のようだ。
青みがかった銀髪に紺のカチューシャ、服装はいかにも魔道士といった濃紺色のローブ姿で、大きな杖を抱えるように持っている。
「おう、よろしく。俺はエルク。こっちはウラルだ」
「エルクとウラル……さん、だね! りょーかい! よろしく!」
何故か俺は呼び捨てでウラルにさん付けする。いや、別に呼び捨てで構わないんだが、どういうわけだか、ウラルには付け足すようにさんを付けた。
とまあ、こんな感じで、即席4人パーティとなったわけだ。
リアとミレは俺が予想した通りまだ駆け出しの冒険者で、最近はこの街に滞在して依頼をこなす日々を送っているらしい。
様々な人や物が集まる街には、必然的にいろいろな依頼が寄せられる。依頼の数が多ければ、駆け出しの自分たちのレベルにあった難易度の依頼も見つかりやすいだろうと、故郷からはるばるここまで旅をしてきたらしい。
腕試しにクレイゴーレム退治を受けたいが、こいつは群れる習性がある。どうしようか相談していたところに俺たちがあらわれたというわけだ。
「エルク様。どうして一緒に受けるのをOKしたんです?」
街から出たのにフードを目深にかぶったままのウラルが、俺の服の裾を引っ張って小声で抗議してくる。
「別にいいだろ? その方が楽だ」
「クレイゴーレムなんてエルク様のメイスや私の魔法で一撃ですよ?」
「何体いるか分からんし、手分けしたほうが早いだろ?」
「それはそうですけど……」
「報酬は山分けになるけど、もう昼過ぎだしな。協力して、日が暮れる前にさっさと片づけたほうがいい」
ウラルは小さくため息を吐いて、被ったフードを引っ張ってさらに顔を隠そうとする。
「ほんと人見知りだな、ウラル」
「仕方ないじゃないですか。性分なんですよ」
私は普通の人にくらべて他人に慣れるのに時間がかかるんです。などと言いながら、チラチラとリアの胸を盗み見しては何とも言えない表情をしている。
臨時パーティーに乗り気でないのは、単に人見知りって理由だけでもなさそうだ。
ふむ……。ちょいとやる気の出る一言をかけてやろう。
「早く片付ければその分早く補充が出来るぞ?」
「速攻で片付けましょう。クレイゴーレムをただの土くれに変えてやりますよ」
効果てきめん、ウラルはフードを取り払って顔を上げ、縮こまっていた背筋を伸ばした。
俺たちがコソコソ話をしていることに気づいたのか、前を行くリアが振り向いた。とっさにウラルが顔をそらす。挙動不審すぎるぞウラル……。
だがリアは全く違った反応を示した。ハッとしたように隣のミレに捲し立てる。
「どーしよ、ミレ! やっぱりウラルさんってすっごい美人さんだよ! きんちょーする! お姫様みたい! もしかして本物のお姫様だったり!? いつもの調子で呼び捨てしないで良かった!」
どうやらウラルにさん付けしていたのは、盛大な勘違いによるものらしい。
ウラルがまた俺の服の裾を引っ張る。
「エルク様、お姫様らしいですよ、私」
「おう、そうらしいな」
「この子たちいい子たちですね。仲良くやれそうです」
「おう、それは良かったな」
知り合ってからずっと二人旅だったから気付かなかったが、ウラルは想像以上にのせられやすい性格してるようだ。
「あのっ!」
リアがもう我慢できないというように、ずいっと詰め寄ってくる。
「立ち入った話でごめんなさい! エルクとウラルさんってどーゆー関係なんですかっ!?」
テンション高く訊きながら、リアはナイフを鞘ごと外し、鞘の部分を握ってグリップをこちらに向けてくる。まるでここに向かって喋れというような仕草だ。
「あ、ごめんなさい! つい癖で……。お父さんが人に質問するときよくこうやってたから移っちゃって」
ナイフを腰に戻しながら、リアが楽しそうに続ける。
「実はあたしのお父さんはマージドで、お父さんがいた世界では人に質問するときはマイク?っていう道具を使ってこういう仕草をするんだって」
変わった仕草もあるものだ、と思っていたら、なるほど。マージされた人間の仕草だったか。
聞けば、リアは父親がマージドの人間で、母親が角獣族の獣人とのこと。リアの体毛の薄さはハーフだからのようだ。
「あたしとミレは幼馴染で、あたしのお母さんが昔冒険者してて、その話を聞いて育ったからかな? 前からずっと冒険者になりたくて。お父さんには反対されたんだけど、なんとか説得して。ミレは、結構あたしが強引に引っ張ってきちゃった感じで。ね?」
「ううん。私も、リアと一緒に旅したかったから」
「んもー、ミレはほんとに嬉しいこと言ってくれるなあ!」
きゃいきゃいと騒ぎながら、リアがミレに抱き着く。
姦しいというかなんというか、こういうノリは新鮮だな……。
「で、エルクたちは?」
ミレに抱き着いたまま、リアがキラキラした瞳を向けてくる。
「やっぱり男女二人ってことは恋人!? ううん、ウラルさんが本当にお姫様だったらもしかして駆け落ちとか……。キャー、どーしよう、ミレ!?」
一体この娘はどんな答えを期待しているんだ。
「いや、あのな。俺とウラルはそんな関係じゃないぞ」
こくこくと頷きながら「その通りです。エルク様と私が恋人だなんて、勘違いにもほどがあります」と相変わらず小声のウラル。
「えー! そうなの? なーんだ……」
がっかりされても困る。まあ、そんな大層な関係じゃないことを説明しておこう。
「俺とウラルは……」
「私はエルク様に永遠の忠誠を誓う従者です。エルク様のためにこの身、この命、すべてを捧げて付き従う者。エルク様の居るところが私の居るところ。病める時も健やかなる時も富める時も貧しき時も、何時いかなる時も私は未来永劫エルク様を主として敬う事を誓っています。この誓いは絶対でありどんなことがあっても破られません。従って、例えば恋人などというような不安定で不確実な関係ではなく、絶対的で不可侵な、何者にも破られることのない真なる結び付き。それがエルク様と私の関係です」
突然鼻息荒く、ウラルが滔々と語った。今まで人の後ろに隠れて小声で呟いていたクセに、無駄に誇らしげだ。
「……とまあ、一言でいって旅の連れだ」
「えええ!? そんな軽い感じだった!? 重いよ! ウラルさんめっちゃ重たいよ!?」
「輪切りにしますよ」
ぼそっと怖いこと言うな!
「ウラルは守護神がヴィーリだからな。ちょっと表現が重たいだけだ」
「なるほど! ……なるほど?」
納得いかない様子だが、正直追及されても困る。「エルク様。あの子たちに私の忠誠が表現だけと思われるのは心外です。ここはしっかりと私たちの関係を……」と俺の服の裾を引っ張りながら小声で抗議してくるウラルをまぁまぁとなだめて、話題を変えることにした。
「目的地に着く前に確認したいんだが、リアはレンジャー、ミレは魔道士であってるか?」
「うん!」
「私は、魔道士だけど支援が専門。戦闘は苦手」
ふむ。レンジャーのリアをミレが支援するパーティというわけか。
「俺は剣士、ウラルは魔道士だ」
「剣士?」
リアが俺のメイスを見る。やっぱり剣士を名乗るなら剣を持っていないとサマにならないか……。
「まあ、事情があって武器はメイスだが、前衛だと思ってもらっていい。ウラルは……」
「攻撃魔法なら任せてください。……と伝えてください」
「こいつは攻撃魔法撒き散らす癖があるから、二人とも巻き込まれないように注意してくれ」
「なにそれこわい!」
「エルク様、撒き散らすような無駄なことはしません。確実に仕留めるため全力を尽くすだけです」
「ああそうだな。その全力の結果が、攻撃魔法を撒き散らすだったな」
「……リア、前衛だから心配。気を付けてね」
「えええ!? 魔法ってかわせるんだっけ!? 気を付けようあるのかな……?」
そんなやり取りをしつつ、目的の採石場跡にたどり着いた。
リアが足を止め、ざっと周囲を見渡す。
「ねえここ、採石場というより遺跡の跡っぽくない?」
「確かに、そんな感じするな」
言われてみると、人工的な建造物の跡がチラホラ見つかる。ただ、それらは古ぼけているが古代の遺跡という感じではない。文化が違うというか、うまく表現できないが、この異質さは……。
「……ここ、マージドかも」
「ああ。たぶん、そうだろうな」
ミレの言う通り、この遺跡はマージドに違いない。
マージされるのは生物だけではない。道具や建物、果ては地形までもが異なる世界からこの世界へマージされる。
今まで空地だったところに忽然と謎のオブジェが出現したり、湖に島が出来たり、山に遺跡が現れたり、マージはいわば自然現象だ。
この世界は、マージドで溢れている。
創世の神話によると、この世界はもともと何もない、「無」の世界だった、とか、創造主と数人の人間だけが住まう小さな浮島だった、とか、いろいろ諸説あるが、とにかく初めは小さな小さな世界だったそうだ。
そこに、よその世界から様々なものをマージして、大地ができ、空ができ、海ができ、生物ができ、コンフリクトによって多様な生き物が生み出され、神々までもがマージされ、この世界が出来上がっていった、らしい。細かいところは国や文化ごとに異なるが、だいたいこんな内容で伝えられている。
それが本当かどうかは分からないが、マージという現象が日常的に発生しているのは事実。
ただ、マージが起きやすい場所とそうでない場所があり、この世界の中心から離れた、未開の辺境の地ほどマージが起きやすい。
世界の中心と言われているゼロ・ポイント、その近くに位置する都「央都」ではほとんどマージは起きず、最後に記録されたのは数百年前とのことだ。
一方で辺境へ行くほど確率は上がり、聞くところによると極東の地ではひと月に1度は発生するらしい。
「この辺りは央都から離れてるけど、見たところ最近じゃなくてかなり昔にマージされたものっぽいな」
採石場というが、実際には発掘場のようなものだったのかもしれない。
「じゃあ、もう何も残ってないかなぁ」
言葉とは裏腹に、リアは何かを見つけようとあちこち見渡している。
気持ちは分かる。冒険者としては、マージドの遺跡となれば、どんなお宝が眠っているか気にならないわけがない。
まあ、実際には用途不明のガラクタが多いのだが。基本的には専門機関が買い取ってくれるし、好事家や金持ちに高く売れる場合もある。
マージドの遺跡に気を取られ、よそ見してふらふらと明後日の方向に進もうとしているリアの手をミレが掴む。
「リア、もう何も残ってないと思う。それより今は……」
「ごめん、そだね!」
「ああ、まずはクレイゴーレムを見つけないとな」
情報だとクレイゴーレムはこの近くにいるはずだ。さっさと見つけて依頼を片付けよう。
「ウラル、魔力探知を頼む」
「はい、分かりました」
ウラルが眼前に小さな魔法陣を展開させ、ぐるっと周囲を見渡し、ある方向を指さす。
「この先に魔力反応です」
「数は?」
「それが、1体だけですね。精度を上げてもそれらしい反応は皆無です」
「よし、まずはそこを目指してみるか」
「はい。ただ、クレイゴーレムにしては魔力反応が異常に高いですね」
「ほんと!? 強敵そう!」
リアが胸の前で両拳をつくり、気合を入れるように身体を振る。赤い髪が揺れ、大きな胸も揺れる。
「エルク様」
直後、ウラルがジト目を向けてくる。
「仕方ないだろ。揺れるものには目が行っちゃうんだよ」
「何も言ってませんよ」
ウラルの視線が痛い。小声でのやり取りだったためリアには聞こえていなかったらしく、当の彼女はきょとんと首をかしげている。
「とりあえずみんな、注意して進もう」
気を取り直し、追跡を開始した。
遺跡が点在した箇所を抜けると開けた場所に出て、目の前に巨大な穴が姿を表した。すり鉢状に掘られた、露天掘りの採石跡だ。
深さはそれほどでもないが、穴の直径はかなり大きい。斜面にはぐるっと螺旋状に掘られた足場があり、底まで続いている。
底は平らになっていて、ちょっとした街の広間くらいのスペースが広がっている。台形をひっくり返したような断面の穴だ。
「この下ですね。底から反応があります」
「よく見ると底に沼があるな」
「ホントだ! 見える見える! 何か動いてるよ!」
獣人だからか、リアはなかなかに目がいいようだ。言われてみると、たしかに黒い沼の表面がうごめいている。
「ここはあたしたちに任せて! ミレ!」
「うん。行くね、リア」
リアの合図でミレが杖をかざし、詠唱を始める。
「二人だけで行く気か?」
「底にいるヤツは任せて! エルクとウラルさんは他のヤツがいたらお願い」
「……我が同胞に、大いなる加護と力を……」
ミレが杖を振り上げると、リアが光に包まれる。
「みなぎってキターーッ!!!」
「リア、頑張って」
「まっかせて!」
言うが早いか、リアがぴょんと穴に飛び込む。
「うりゃりゃりゃりゃりゃ!!!」
奇妙な声をあげながら、リアが斜面を真っ直ぐに駆け降りる。下ってるとは言え、とんでもない速さだ。
「支援魔法ってやつか」
「うん。筋力と反射をブーストする支援魔法」
「なんかテンションもブーストされてないか?」
リアの叫び声が広い採石場に響いている。ずっとうりゃうりゃ叫びっぱなしだ。
「リアさんに掛かっている支援魔法はあくまで肉体への効果であって精神には影響ないはずですが、見事に引っ張られてますね」
「大丈夫なのかそれ?」
「大丈夫。これがリアの戦い方。ブーストモード」
ミレが誇らしげに微笑む。この二人はいつもこうやって戦闘をこなしてきたのだろう。彼女たちの間に強い信頼関係があるのを感じる。
下を眺めると、リアはもう底に到達しそうだ。
リアの叫び声に反応したのか、沼から巨体が出現した。人の形をした泥の塊、クレイゴーレムだ。
「でかいぞ!」
クレイゴーレムはせいぜい大人の男よりも一回りくらい大きいサイズだが、今出現したものはそれを大きく上回っている。
「りゃりゃりゃりゃっ!」
沼の端からリアが跳躍。一足飛びでクレイゴーレムに到達し逆手に持ったナイフで首を一閃。ヤツを踏み台に大きく飛びのき、見事に着地を決めた。角獣族はもともと身体能力が高めだが、支援魔法によってまるで獣のような動きになっている。
「すげえな……。支援魔法ってあんなに効果あるのか」
「リアさんとミレさんは余程相性が良いのでしょうね。支援魔法の効果や持続時間は、術者と対象者の相性によりますから」
なるほど。幼馴染らしいし、信頼も厚そうだし、相性抜群のコンビというわけだ。
そのコンビの片方は、俺の隣でリアの戦いぶりに小さく拍手している。
「すごい、一撃で倒した。さすがリア。強い。かっこいい。可愛い。好き」
なんかこの場合の賞賛とはちょっと違う言葉も聞こえたが、それよりも。
「いや、まだだ」
「ええ。魔力反応は残ったままです」
ゴーレムはダメージのショックで固まっていたが、すぐに動き出した。
「うりゃりゃりゃ!」
リアが再び攻撃を仕掛けた。目にもとまらぬ一撃離脱の一閃を次々と繰り出す。
鈍重なゴーレムは無防備に攻撃を受ける一方だが、一向に倒れる気配がない。
「まだまだいくよっ!」
まるで旋風のような怒涛の連続攻撃。リアのナイフが煌めくたび、泥が弾け飛び、そぎ落とされていく。徐々に、真っ黒い泥の奥から異なる材質の下地が見え始めた。
「おい、あれは……」
泥はヤツの表面を覆っていただけで、ヤツの本体は別物だった。泥の奥から姿を表したのは灰色の岩塊。
「ロックゴーレムじゃねえか!?」
「道理で魔力反応が大きかったわけですね」
同じゴーレムでもクレイゴーレムより遥かに強い。動きの鈍さはどっこいどっこいだが、身体が岩そのものなので、単純に頑丈さが段違いだ。
剣や弓など冒険者が良く使う武器では余程の使い手でないと太刀打ちできない。ましてやリアのエモノはナイフだ。
ミレが弾かれたように立ち上がる。
「助けに行かないと……!」
「ああ、加勢に行こう!」
「エルク様、飛翔魔法を使います。ミレさんもお手を」
ウラルを真ん中に3人が手をつなぐ。ウラルが飛翔魔法を唱え、身体が風に包まれる。
「わ、わ、わっ」
飛翔魔法の感覚に慣れていないのだろう。ミレが慌てた声をあげる。
「大丈夫だ。落ち着いて身を……」
ミレのほうを見ると、風で彼女のローブが捲れ上がり、色白のふとももがあらわになっているところだった。
ちらっと下着も見えた、気がする。
途端に詠唱が途絶え、ミレは真っ赤な顔でローブを押さえる。
「エルク様」
「見てない。大丈夫だ、ギリギリ見えなかった」
「何も言ってませんよ」
「嘘。今の角度、絶対見えてた……」
「エルク様」
ジト目のウラルと、涙目のミレ。二人の非難の視線が突き刺さる。
「エルク様、今は早くリアさんを助けに行こうとする場面ですよ?」
うん分かっている。だがちょっと待ってほしい。そもそも今のは俺は悪くないはずだ。
だが反論しても勝てる気がしない。女性に口喧嘩を挑むほど俺は身の程知らずじゃないし、今はそんなことをやっている場合ではないもの確かだ。
「……俺は目を閉じてるから、さっさと行こう」
俺は黙って目をつむり、手を差し出した。
(4)VS.ゴーレム につづく
|