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よくあるファンタジー物<エルクとウラル その2>

(4)VS.ゴーレム

「かったーい! ナイフ駄目になっちゃうよぉ!」
 穴の底では、ロックゴーレム相手にリアが攻めあぐねていた。
「リア! コイツ相手にナイフじゃ無理だ!」
 飛翔魔法で底に降り立った俺たちはリアのもとに駆け寄る。
 俺はメイスを構え、ゴーレムに向かって走ろうとし……。
「熱線魔法」
 横合いを光が追い越し、ロックゴーレムを貫いた。
「熱線魔法、熱線魔法、熱線魔法。もひとつおまけに熱線魔法」
 これまでの鬱憤を晴らすかのように、ウラルが熱線魔法を連発する。手の平から熱線が連続で射出され、ロックゴーレムをハチの巣にする勢いで貫く。
 熱線で穿たれた跡が真っ赤に燃え、ゴリゴリと岩同士が擦れる音を立てて、あっさりとロックゴーレムが倒れた。
「久々の熱線魔法はやっぱり格別ですね」
「……おう、気が済んだようで何よりだ」
 ウラルがほぅ……と息を付く。実に満足そうだ。
 見せ場を奪われたような気がするが、まあ、誰も怪我せず無事倒せたのは良いことだ。
「ウラルさんすご……!」
「うん……。詠唱、ほとんどしてなかった……」
 リアとミレが呆然としている。
 特にミレは同じ魔道士だけにウラルの凄さを強く感じているようだ。
「熱線魔法を連発……。杖もロッドもないのに……」
 魔道士は普通、杖やロッドなど、魔力を高めたり詠唱しやすくしたりする魔道具をもっているものだが、ウラルは基本丸腰だ。
 以前気になって魔道具を買わなくていいのかと聞いたことがあるが、その時の答えは「邪魔になるだけなので要りません」だった。
 強大な魔力を有し、詠唱を即座に完了させるウラルにとって、魔道具は無用の長物のようだ。

「さて、帰ろうか」
 クレイゴーレムでなくロックゴーレムだった以上、群れているとは考えにくい。これで依頼達成と思ってよいだろう。
 メイスを腰に納め、踵を返そうとしたとき、背後からゴリゴリと岩音が響いた。
「ウラル!」
「はい」
 振り向きざまにウラルが熱線を放つ。起き上がりかけているロックゴーレムの胴体を貫いたが、ヤツの動きは止まらない。
 リアが悲鳴を上げる。
「ええ!? なんで!? なんでまだ動けるの?」
「わからん!」
 まるでなんともなかったかのように、ゴーレムが立ち上がる。
「ねえあれ! なんかキラキラって光ってない?」
 陽の光の反射だろうか。熱線魔法で穿たれた穴の奥が光っている。
「私の熱線魔法で確かに貫いたはずですが、これは……」
「俺が仕掛ける」
 改めてメイスを構える。不死身の正体が分からない以上、ウラルの魔力は温存したい。
「支援魔法、掛けるね」
「ありがとう。助かる」
 ミレの支援魔法を受ける。光が身体を包むと同時、力が湧き上がってくる。
「おお……これが支援魔法か」
 初めて受けたが、これは確かにテンションが上がってもおかしくない。身体の隅々まで力がみなぎり、感覚もいつもより鮮明だ。
 メイスを握り締め、ロックゴーレムに向かって駆け出す。
 いつもよりも間合いを詰めるのが早いが、反射もブーストしているため面食らうことなく動ける。
「おりゃあ!」
 踏ん張った足を盛大に滑らせながら、すれ違いざまにゴーレムの脚に向かってフルスィングで振りぬく。
 マジックアイテムのメイスは、俺の期待通り岩塊を粉々に打ち砕いた。岩の欠片が飛び散り、もうもうと土煙が舞う。
 これでゴーレムは脚を失い、倒れるだろう。そこを叩けば完了だ。
 今度はトレントの時のように潰されないよう待ちかまえるが、ヤツは一向にバランスを崩さない。それどころか、こちらに向かって腕を振り下ろしてくる。
「このやろ!」
 それを避け、逆に腕にメイスをお見舞いする。
 弾け飛ぶように岩が砕ける。手ごたえは十分のはずだが、ゴーレムがひるんだ様子はない。
「エルク様!」
「!!」
 土煙の先に不意に光るものを目にし、俺は大きく飛びのいた。
 岩をゴリゴリさせながら、ゴーレムが身体を起こす。粉砕したと思っていた脚や腕は健在で、岩の代わりに透明に輝く硬質の物体がそこにあった。
 俺の攻撃の余波だろうか、ヤツの岩が、まるで剥がれ落ちるかのようにガラガラと崩れていく。
「なんだあれは……」
「宝石……?」
「いえ、あれは……クリスタルです」
 岩が崩れ落ちた後に立っていたのは、クリスタルの塊で出来たゴーレムだった。ロックゴーレムのときよりも二回りほど小さく、シャープな形状をしている。
 頭にあたる部分に1つ、目のような光が点灯し、索敵するかのようにぐるぐると回り、ビタッとこちらを凝視。
「いやいやいや、待て待て待て……」
 クレイゴーレムと思ったらロックゴーレムで、実はその中身はクリスタルで出来たゴーレムだったと……?
「エルク様の奇運も恐ろしい境地に到達しましたね」
 そんな境地、達したくない。
 そもそもクリスタルのゴーレムって……。聞いたことないぞそんなの……。
「もしかすると、先ほど目にしたマージドの遺跡に眠っていたのかもしれませんね。このクリスタルゴーレムは」
「ずっとそのまま寝ててくれ!」
「そこはエルク様ですから。クレイゴーレムがロックゴーレムだったときは、いつものエルク様だと思いましたが、さすがです。現状に満足せず常に上を目指すタイプなんですね」
「目指しとらんわ、こんなの! というか俺のせいにみたいに言うな!」
 どうしてこうなった!
「え? え? どーする? 戦う? てか倒せるのこれ!?」
「リ、リア……。あの熱線魔法でも倒せないなら……もう……」
 リアは完全に気が動転してあわあわとし、ミレは顔面蒼白で杖を握り締めて立ちすくんでいる。
 無理もない。ロックゴーレムでさえ二人には荷が重いのに、その正体がさらにヤバそうなクリスタルゴーレムときたもんだ。
「もちろん、倒せます」
 自信満々にウラルが前に出る。この自信が自惚れでも虚勢でもないことを俺は知っている。こういう時、この相棒は本当に頼りになるのだ。
「ウラル。ヤツに熱線魔法は相性が悪い、別の魔法で押そう。俺もメイスで応戦する」
 熱線魔法をくらってもピンピンしていたのは、クリスタルによって透過してためだろう。外殻のように纏っていた岩は溶かせても、光を透過するクリスタルには効果が薄いようだ。
 ところがウラルは首を振った。
「いえ。私の熱線魔法は無敵です。必殺技です。それが通じないわけがありません」
「さっきの見ただろ? 熱線じゃ素通りしちまうぞ」
「見たところ先ほどよりも魔力反応が弱まっています。つまり、多少はダメージが通っているということです。それならば……」
 ウラルが詠唱を始める。
「敵が倒れるまで撃ち続けるまでです」
 ……前言撤回。やっぱりこいつはただの脳筋だ!
 ウラルは右手を胸の前で握り、意識を集中している。ほぼノーモーションで魔法を放てるウラルが詠唱に集中しているということは……。
 次の瞬間、クリスタルゴーレムの光の目がぐるんと旋回し、ウラルの方を向く。ウラルの魔力に反応したのか、彼女に向かって走りだした。
「くそ!」
 図体がでかいくせに恐ろしく速い! 支援魔法を受けていなかったら俺より速かったかもしれない。
 今まで鈍重だったのは岩を纏っていたせいだったのだろう。岩石という拘束具から解放された今が、本来の動きというわけだ。
「させるかっ!」
 俺はウラルとの間に割って入り、飛び上がって頭部に向かって攻撃を仕掛ける。ヤツは腕で頭をガードするが、構わず振りぬいた。
 甲高い音を立て、盛大に火花が飛び散る。今まで硬い樹木も岩石も一撃で打ち砕いたメイスの攻撃は、ヤツの腕に毛ほどの小さなヒビをつけただけに留まっていた。
「かってぇ……おわっと!」
 逆の腕で繰り出してきたパンチを、ガードしている腕を蹴って避ける。
 着地の瞬間を狙いすまして、上から拳が降ってくる。
「くっ!」
 着地と同時に横っ飛びし、間一髪避ける。転がってゴーレムの後ろに回り込み、背後から頭部を狙う。
 ぐるんとゴーレムの目が俺を追いかけて、頭部を腕でガード。俺のメイスはまたしても腕に弾かれる。
 ……なんだ?
 ゴーレムの挙動に俺はかすかに違和感を覚えた。だが休む間もない怒涛の攻撃に俺は防戦一方で、感じた違和感を探る余裕がない。
 次々に繰り出させれる攻撃を、俺は必死で避け続けた。硬い上に速いなんて反則だ!
「エルク様! 危険です、距離をとってください」
「それが出来ればやってる!」
 攻撃が激しすぎる。直撃を避けるだけで精いっぱいだ。
 と、その時。
「うりゃりゃりゃりゃーーー!」
 奇妙な掛け声とともに、リアが突っ込んできた。
 ゴーレムの目がぐるんと反応し、頭を腕でガードするが、リアは胴体に向かってドロップキックをぶちかました。
 ダメージは皆無だろうが、速度を付けて全体重を乗せたドロップキックは、クリスタルゴーレムをよろけさせることに成功した。
「ふぎゃっ」
 攻撃に集中していたためか、リアが受け身を取り損ねて尻もちをつく。
 そうか!
「頭だ!」
 俺は違和感の正体を突き止めた。攻撃に対してゴーレムは神経質なほど頭への攻撃を警戒している。攻撃箇所に問わず必ず頭部をガードしているのがその証左だ。そこがヤツの弱点かもしれない。
「ウラル、ヤツの頭にぶちこんでやれ!」
「はい」
 ゴーレムがよろけている隙に、俺はすかさず倒れているリアを抱きかかえて回収し、ダッシュで距離を取る。
「多重熱線魔法、発動」
 ウラルが右手を突き出すと同時、十数本もの熱線が放たれた。それらがクリスタルゴーレムの頭部目がけて走る。
 しかし、ゴーレムは熱線魔法を上回る反応速度で頭部を腕でガード。刹那、光の束がゴーレムの腕に集中した。
 熱線の光が折り重なり、まるで目の前に太陽が出現したかのような輝きがあたりを照らす。
 熱線はゴーレムの腕に吸い込まれ、乱反射して辺りに光線を撒き散らす。地面を薙ぎ、抉り、無秩序に飛び交う。
「うきゃ、あぶっ、あぶなっ! っきゃーーー!!」
 俺に抱きかかえられたリアが悲鳴をあげる。
「顔にしがみつくな! 前が見えん!」
「そんなこと言ったってぇー! ウラルさんホントに攻撃魔法撒き散らしてるよぉ!!」
 遮二無二に抱きつかれ、顔面に柔らかいものが押し付けられる。
 なんとか引き剥がしゴーレムを見ると、熱線は全て腕に阻まれ、頭には届いていなかった。ヤツは体内の屈折率を変えられるのか、腕から透過した光は頭部を避けてあちこちにそれて反射している。
「くそ! 駄目か!?」
「いいえ、押しきります」
 ウラルは右手の熱線魔法を維持した状態で、左手に力をこめるように胸の前で握りしめる。まさか更に重ねる気か!?
「オイオイオイ、無茶するな!」
「──多重熱線魔法、発動」
 左手も突き出し、追加で十数本の熱線が照射される。熱線に熱線が重なり、光の洪水となってゴーレムの腕を飲み込む。
 耳をつんざくような甲高い音が響き、ゴーレムが光に押されるように膝をつく。反射した光がカーテンのように広がってゴーレムの周りの地面を抉る。すさまじい熱量に、ゴーレムの足元の地面が赤熱化し、沸騰を始めている。
 だが、これだけやっても頭部へは届いていない。
 くそ、何か手は……。
「──我が同胞に、大いなる叡智と魔力を……!」
 ウラルの身体が光に包まれたと同時、1つ1つの熱線魔法が何倍にも膨れ上がった。ミレの支援魔法だ!
 ミレは相変わらず顔面蒼白だが、手を震わせながらもウラルに向かって杖を突き出している。
 膨れ上がった熱線がゴーレムの腕に到達。その瞬間、ヤツの腕から一筋の光が迸る。……あれは、俺がメイスで付けたヒビだ。
 ガラスをひっかくような耳障りな音を立て、ヒビが腕全体に広がっていき──。
 弾けるようにクリスタルゴーレムの腕が砕け散った。
 直後、腕によって堰き止められていた熱線魔法の塊が、極大の光のうねりとなってゴーレムの頭部を捉える。
 多重に多重を重ね、支援魔法によってブーストされた熱線魔法はあっけなく頭部を打ち砕き、後方の斜面に大穴を穿つ。光の帯は大穴に吸い込まれるように収束し、後には真っ赤に灼けた地面だけが残った。
 頭部を失ったクリスタルゴーレムは糸が切れた操り人形のようにバラバラになって崩れ落ち、それきりピクリとも動かなくなる。

「……倒したん、だよね?」
「ええ。魔力反応は消失しました。撃破で……エルク様」
「どうした?」
「いつまでそうしてるんですか?」
 熱線魔法よりも鋭い視線が俺を突き刺す。
 さっきからずっと、リアが俺の身体に脚を絡ませてしがみついたままだった。彼女が慌てて離れる。
「わぁ! ご、ごめんなさい!」
「リアさんは悪くありません。エルク様、私が必死に戦っている間、ずいぶんお楽しみだったんですね」
「いやいやいや、俺も戦ってたぞ!? みんなの勝利だろ!?」
 直接トドメを刺したのはウラルの魔法だが、リアの活躍がなければ弱点を見抜けなかったし、俺のメイスでヤツの腕にダメージを与えていなければガードを崩せなかったし、ミレの支援魔法がなければ押し切れなかっただろう。
「分かっています。冗談ですよ。お顔に大きなおっぱいを押し付けられて鼻の下伸ばしてるご主人様に一言言いたかっただけです」
 しれっととんでもないことを付け足すな! リアが反射的に胸を庇うように身をすくめているじゃないか。
「私も下着見られた……」
「ミレ!?」
 突然予想だにしなかった方向から糾弾が飛んできた。
「えええ! ホント!?」
「うん……。リア、慰めて……」
 涙を浮かべ、ミレがリアに抱き着く。
 豊満な胸に幸せそうに顔を埋め、ちらっとこちらを一瞥。
 その顔が「このおっぱいは私のもの」と言っているような気がした。この娘は意外にいい性格をしてるのかもしれない。
 まあ、それはともかく、俺には確かめないといけないことがある。こそっとウラルに耳打ちした。
「ところで、魔力は大丈夫なのか?」
「はい。結構消耗しましたが平気です。程よく空腹といったところですね」
「そうか、良かった。熱線魔法の大盤振る舞いだったから、心配したぞ」
「ふふっ、1週間分の熱線魔法を撃ってやりましたよ」
 得意げにウラルが微笑む。というか1週間分どころじゃないだろう、あれは。
「私の感覚では、あれだけ撃てば魔力をもっと消耗するものなのですが、不思議と余裕がありますね」
「そうなのか? まあ、とにかく」
 俺はウラルの肩に手を置き、顔を引き締め意識して力強く言う。
「ウラル、よくやった。いい働きだったぞ」
「え、ああッ……!」
 感極まった声を上げ、ウラルが身震いする。目を潤ませ、震える手で戸惑いながら俺の服の裾を掴む。
 守護神ヴィーリの性質も手伝って、ウラルはこういった上からの労いの言葉に弱い。ぶっちゃけこれは、ウラルの発情スイッチと化している。
 本当は俺に抱き付きたいのだろうが、リアとミレの目があるので我慢しているのが手に取るようにわかる。あの二人にだいぶ慣れたようだが、さすがに過剰なスキンシップをしているところを見られるのは抵抗があるようだ。
 俺の服を、切なそうに何度も掴みなおしているところが実にいじらしい。
「エルク様、こんな所で……!」
「いやなに。ウラルは今回本当によくやってくれたと思っているからな」
 おまけに今回は完全に不意打ちだったらしく、いつもよりも効果が高いようだ。
 まあ、わざと不意打ちしたのだが。
「い、いじわるですっ、エルク様ぁ……!」
「何の話かな?」
 今回、リアやミレと何か接触があるたびに俺を責めてきたのだ。これくらいの仕返しは許してほしい。
 俺がウラル以外にその気になるはずないのだから。

(5)1週間ぶりの魔力補充 につづく





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