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I.S.O

 夕日が差し込む美術室。
 袖村勇馬(そでむら ゆうま)はイーゼルの前に座って、鉛筆を走らせていた。
 そんな彼を、横手から一人の女子生徒がのんびりとした様子で眺めている。
 美術室に他の生徒の姿はなく、時折グラウンドの方からクラブ活動の声が遠く聞こえてくるのみだ。

 ちょこんと、椅子の上で両膝を抱えるように座った姿勢で、女子生徒──榛名果歩(はるな かほ)が声をかけてきた。
「ね、袖村君」
「ん、何?」
 ゆるく握った6Bの鉛筆を画用紙に滑らせていた手を止め、勇馬が右手に座っている果歩に視線を向けた。
 果歩は抱えた膝にほっぺたをくっつけてこちらを見つめている。椅子の上で体育座りのように膝を立てているため、彼女の正面に座っている勇馬からはスカートの中が丸見えだ。
 一瞬、真っ白な下着が目に入ってしまい、勇馬は出来るだけ自然な動きで視線を画用紙に戻した。極力平静を保っているため、彼女にはバレていないと思う。

 最近分かったことだが、同じクラスの榛名果歩は、どうも無防備なところがある。
 クラスの中では一番よく話す女子で、最近はこうやって放課後も一緒にいることが多くなってきた。
 普段は優等生然とした隙のない態度なのに、放課後になると気が緩むのか、スカートの存在を忘れているような時がある。ちなみに、勇馬はこの一週間ほぼ毎日のように彼女の下着を目撃している。

 女の子の下着をチラ見出来るのは、健全な男子高校生としては嬉しいものだ。それが、密かに想いを寄せている女の子のものだった場合はなおさらだろう。
 だが、勇馬は内心少し複雑だった。

 榛名果歩は可愛い。
 思ったことを素直に口にする性格のため、ちょっと周りから浮いてしまう時もあるが、勇馬はそんな裏表のない彼女に好感を抱いていた。
 自分は本来、長身でスタイルのいい、いわゆるお姉さんタイプの女性が好みのはずなのに、気がつけばクラスで一番背の小さい彼女を好きになっていた。
 下品な言い方かもしれないが、自分はむっちりと肉感的なスタイルの女性にそそられる。たまに友人と情報交換するオカズも、そういったものばかりだ。西洋絵画の婦人のように、包み込んでくれるかのような肉感が好きだ。
 それなのに、小さくて華奢な彼女が気になって仕方がない。
 制服のブラウスとニットベストも、彼女が着ると、まるでハンガーにでもかけているかのようにぺたんとしていて、思わず抱きしめてその細さを実感したくなってしまう。
 ふとそんなことを想像してしまうたびに、勇馬は頭から不純な考えを追いだしていた。なんとなく、小さい彼女にそんな劣情を抱いてしまうのは、いけないことのような気がしてならない。

 そうやって、劣情と理性の間で葛藤している勇馬の心を、榛名果歩の無防備さがかき乱す。
 意図せず彼女のパンチラを目撃してしまうたびに、勇馬は内心激しく動揺してしまう。
 それに加えて、そんな無防備でいると他の男にも見られてしまっているのではないかと気になってしまい、正直気が気ではない。
 彼女に「パンツ見えてるぞ」と指摘して無防備さに気付いてもらうことも考えたが、なかなか言い出すことが出来ず、結果、気をもむ毎日を送る勇馬だった。

 今日もまた、意図せず見えてしまった好きな女の子の下着を記憶から抹消するべく、目の前の無骨な石膏像を必要以上に凝視する。
 そんな勇馬に何気なく果歩が言った。
「きみって、そんなにカッコよかったっけ?」
「……………………は?」
 一瞬、何と言われたのか分からず、勇馬は呆けた声を出してしまう。
「なんかね、最近私、きみのことが気になっちゃって仕方ないんだよね」
「…………何言ってんだ?」
「だから、きみのことが気になっちゃうって話」
 何でもないことのように果歩が言う。
「…………」
 突然、いったい何の話をしているのか。
 唐突にヘンなことを言い出すのはいつものことと言えばそうだが、こういう内容は初めてだった。
 ぽかんとしたままの勇馬に気付いていないのか、果歩がマイペースに続ける。
「気がつけばいつもきみを目で追いかけてるし、用もないのにきみに話しかけちゃうし」
「…………」
「きみが私以外の女の子と話しているのを見ると、なんだか不安になってくるし、少しでも長くきみと一緒にいたいから、こうして美術室にお邪魔してるし」
「…………」
 用もないのに最近毎日放課後、美術室まで着いてきてたのはそういう理由だったのか。と勇馬は半ば呆けた思考のまま、どこか冷静になっている自分に気付く。
「ね、聞いてる?」
「……あー、うん。一応聞いてる」
 突然聞かれ、一瞬遅れて答えた。
 聞いてはいるが、何の話か全く分からない。
 勇馬はなんとなく画用紙に向き直り、デッサンを再開しようとした。が、
「よかった。きみに無視されたりしたら、私生きていけないかも」
「……はあ!?」
 唐突なセリフに、思わず鉛筆を取り落としそうになった。
「だって、悲しいもん」
「あ、ああ、そう……」
 頬杖をついて、平然とした表情のまま、さも当たり前のように言う彼女に、勇馬は漫然と返事をすることしか出来なかった。
 何が何だかよく分からない状態だが、勇馬には彼女を無視する理由はない。
「……別に、無視したりしないよ」
 好きなんだし、と心の中で付け足し、石膏デッサンを再開する。
「ホント? よかった。でね、」
 勇馬の言葉に、果歩は心なしか声を弾ませる。
 彼女の話にはどうやらまだ続きがあるらしい。さっきから一体何が言いたいのか分からず、もはや勇馬は機械のように画用紙に石膏像の陰影を刻んでいくことしか出来ない。
 さっきまでと全く同じテンションのまま、平然と果歩が告げた。
「私、きみのことが好きみたい」
「…………」
 今度こそ勇馬は固まった。ぽきっと、鉛筆の芯が折れる。
 画用紙に芯の折れた鉛筆を押し当てた体勢のまま、まるでイーゼルの向こうにあるマルス像のように硬直。
 文字通り石化している勇馬に、果歩が怪訝そうに尋ねた。
「ホントにちゃんと聞いてる?」
「……き、聞いてるよ。びっくりしただけだ」
 喉から絞り出すように勇馬が答える。平静を装いながら、芯が折れた時に付いた跡を、練り消しで修繕。
「あ。絵、ゴメン。描いてる時にびっくりさせちゃってゴメンね」
「い、いや、大丈夫。消えるから」
 6Bで描いた線は濃い色合いだが、それは芯が柔らかく紙に付着しやすいために濃くうつるのであって、消すこと自体は比較的容易に出来る。
 勇馬はぺたぺたと練り消しを押しつけて余分な線を消しつつ、半ば口ごもりながら聞き返した。
「てゆうか……、あの……。ホントに?」
「何が?」
 相変わらず平然とした様子で、果歩がきょとんとする。
「いや、その……。榛名が俺のこと、好きって……」
「うんホント。なんで?」
 もしかしたら、「きみは(私が)好きなんでしょう?」的なニュアンスのセリフを、「きみのことが好き」と聞き間違えたのではないかと内心怯えながら聞き返したが、杞憂だったようだ。
 というか、
「な、なんでって……」
 むしろこちらがなんでと聞きたい。
 こんないきなり、何の前触れもなく告白されて、一体どういう反応をしていいのか、勇馬はもうほとんどパニック状態に陥っていた。
 なんだ両想いだったのか、と頭の片隅で気付くが、混乱した思考とあまりに現実感のない状況に、その実感がまるで湧かない。
「…………」
「…………?」
 そのまま、静寂が美術室を支配する。
 混乱中の頭で、必死に現在の状況を把握しようとしている勇馬と、そういう状態になっている彼に全く気付いていないような様子で、きょとんと小首を傾げる果歩。
「……あー、その、なんだ」
 しばしの沈黙後、やっとという感じで勇馬が口を開いた。
「な、なんで俺のことなんか好きになったんだ?」
「私がきみのことを好きになった理由?」
「うん。そう」
「分かんない」
「……は?」
 あっさり言われ、思わず間の抜けた声が出た。
「気が付いたらね、きみのこと好きになってたの」
 事もなげに言う彼女に、なんと反応していいのか分からず、勇馬は曖昧に返事をした。
「……そ、そうか」
「うん、そう」
 相変わらず平然と、彼女がうなずく。
 その軽さに、勇馬は実はからかわれてるんじゃないだろうかと思い始めた。
「私、異性を好きになったの初めてだけど、たぶんこれが好きってことなんだと思う」
 果歩は細い顎に指をあて、思い出すような仕草で語り出した。
「きみを見てるとね、なんだか幸せなの。でも、家に帰ってきみを見れなくなると、胸がすごく苦しくなるの。みぞおちあたりがなんか気持ち悪くて、喉に物が詰まったみたいに息苦しい感じ」
 言いながら、左手で胸を撫でる。ちなみに、胸はほとんど真っ平らに見える。
「でね、気がつくとずっときみのこと考えてるの。晩ご飯食べてる時に『袖村君はどんなご飯食べてるのかな』とか考えたり、お風呂入ってる時にも『袖村君はどこから先に洗うのかな』とか、『お湯は熱めと温めどっちが好きかな』とか考えちゃったり」
「…………」
 いつものおしゃべりと同じ口調でとつとつと言い募る彼女に、勇馬は言葉が出なかった。
 果歩はなおも続ける。
「テレビを見てる時も、漫画を読んでる時も、ゲームで遊んでる時も、『袖村君はどの番組が好きなのかな』とか『袖村君は普段どんな本を読んでるのかな』とか『袖村君は格ゲー得意かな』とか。もうずっと、朝起きてから夜寝るまで、ずっときみのことばかり考えちゃうんだよね」
 あ、きみの夢を見ることもあるから、その時は寝てる間もだね。と、何でもないことのように彼女が言う。
「これって、きみのことが好きってことだよね?」
「…………」
 勇馬は、もはや自分が何を言われているのか分からなくなっていた。
 なんだかものすごいことを言われている気がするが、回らない頭ではまるで理解出来なかった。
 とりあえず、からかわれているわけではなさそうだということだけ、働かない頭でもかろうじて判断出来た。
 完全に思考停止し、固まっている勇馬を見て何を思ったのか、果歩が首を傾げた。
「あれ? この気持ちって好きってことだと思ったんだけど、そうじゃないのかな?」
「あっ、いや、」
 反射的に「あってるぞ」と言おうとしたが、口をつぐんだ。
「ど、どうだろ。分かんないな」
 果歩のセリフをそのまま信じるならば、それは紛れもなく自分に対する好意だと思うが、勇馬はそれを自分が肯定するのが妙に気恥しく、言葉を濁してしまった。
「た、他人が思っていることなんて、正確には分からないだろ」
「そっか。そうだよね」
 濁した言葉を誤魔化すために、適当にそれらしく言ったセリフだが、果歩は納得したようだ。
「自分の気持ちは、自分しか分からないよね」
「……まあ、そうだな」
 自分でも分からない気持ちというのはあると思うが、今それを言っても話がこじれそうだ。
 いつの間にかカラカラに乾いていた喉を潤すために、手元のペットボトルを傾けながら、勇馬はとりあえず頷いた。
「じゃあやっぱり、私はきみが好きなんだよ」
「……っ!」
 勇馬は口に含んだお茶を吹き出しそうになった。
「だって、こうやってきみのそばにいるのがすごく楽しいんだもん。好きじゃなかったらそばに居たいなんて思わないし」
 言いながら、うんうんと果歩が頷く。
 ゴホゴホと軽く咳き込んでいる勇馬をそのままに、更に果歩が言い募る。
「それに、好きじゃなかったらキスしたいなんて思わないもんね」
「…………は?」
 咳き込んでいたためよく聞こえなかったが、なんだかとんでもないセリフだったような気がする。
 勇馬は思わず呆然と彼女を見つめた。
 それを受けて、果歩が平然と言いなおした。
「聞こえなかった? きみと毎日キスしたいし、毎日セックスしたいって言ったの」
「…………待て。後ろのは言ってないだろ」
「聞こえてるじゃない」
 しれっと果歩が言う。
「そんなセリフ、普通は聞き間違いだと思うだろ……」
 あと、毎日なんてセリフもなかったはずだ。と突っ込もうとしたが、果歩が先に口を開いた。
「でも言わなかっただけで、セックスもしたいと思ってるのはホントだよ?」
「……んな……っ」
「きみとセックスするのを想像して、たまにだけど一人ですることもあるし」
「なっ、おま、何言って……!」
「ごめん嘘」
 間髪いれずに発せられたセリフに、勇馬は脱力してずっこけそうになった。
「たまにじゃなくて、実はほとんど毎日なの」
「そっちかよ!」
 思わず突っ込んだ。
「いやまあ、私も一応女だし、恥じらいというものがあるから、つい」
「もっと他に恥じらうべきところがあるだろ!」
 うおい! と思わず立ち上がりながら突っ込み、がっくりと脱力してそのまま着席。
 額に右手をあて、制するように左手を果歩に向け「落ち着け、な? とりあえず落ち着けよ」と繰り返す。
「私は落ち着いてるよ?」
「分かってるよ! ついだよ! 俺自身に言ったんだよ!」
 訳のわからない言いわけをしつつ、勇馬が果歩をちらりと見る。
 果歩は相変わらず両膝を抱えた体勢で、白い下着が絶賛公開中のままだ。
「……ちょっとちゃんと椅子に座りなさい。言っとくけど、さっきから白パンツが見えてるぞ」
 果歩に振り回されっぱなしの状況から少しでも脱しようと、あえて意地悪く聞こえるように言った。が、
「知ってるよ? 見せてるんだし」
「…………」
 カウンターで返された。
 勇馬はあまりのことに口が利けず、口をぱくぱくさせることしか出来ないが、「どういうことだよ!?」と言いたいのは伝わったらしい。
「本当はね、きみの背中に寄りかかって、『あててんのよ』ってやりたかったんだけど、私の胸じゃあててるのが分からないって言われて、じゃあパンツを見せて『見せてんのよ』作戦で行こうってなったの」
 なんだよそれ……。と、本当に訳が分からず呆然となったが、
「……なあ、ちょっと待ってくれ」
 とてもスルー出来ないセリフが潜んでいたことに気付いた。
「……あててるのが分からないって“言われて”? ……見せてんのよ作戦で行こうって“なった”?」
「うん」
「……誰に“言われて”、どういう経緯で“なった”んですかね?」
 勇馬は嫌な予感全開で尋ねた。実のところ、尋ねがらスルーしちゃえばよかったかなと後悔していた。
「言われたのはあきちゃんに。見せてんのよ作戦は、かなちんに教えてもらった。この作戦で行けば必ず落せるって」
 愛称で言われても勇馬には誰の事だかわからなかったが、あきちゃんとやらには心当たりがあった。同じクラスの女子で、果歩と仲が良い女子のうちの一人だ。
「私がね、袖村君のことが好きなんだけど、どうすれば恋人になれるかなってあきちゃん達に相談したの。始めは『あててんのよ』作戦で行く予定だったんだけど、あきちゃんがあんたの胸じゃ効果薄いんじゃないのって」
 そりゃあ、AAAサイズしかないから未だにソフトブラだけどさ。と聞いていないことまで言いながら、両手を胸にかぶせる果歩。
 一体なんつー作戦を立てているんだ。と、心底呆れながら、そうかAAAサイズか。と深く心に刻み込む勇馬であった。
「それでね、かなちんに相談したら、普段から二人っきりの時にパンツを見せるようにして、告白するときは放課後の美術室でするのがいいって教えてもらって」
「……で、実行したわけだ?」
「うん」
 いつもの調子で、果歩が頷く。
 なんというか、もっとまともな作戦はなかったのかというか、そんな作戦を提案する友達はどういうやつなんだというか。
 それよりも何よりも、ここ最近のパンチラが仕組まれていたものだったと知って、勇馬はなんだかもう恥ずかしくて居ても立ってもいられなくなってきた。
 無防備な彼女にやきもきしてた自分は一体なんだったんだと、いたたまれなくなって顔を両手で覆いたくなった。
 相手の気を引く行動を取るのは、恋愛において常套手段だと思うけど、こういう気の引き方は卑怯だと思う。
 頼むからそうやって男心を弄ばないで下さい! と彼女にこんなことを吹きこんだ連中に向かって、心の中で叫ぶ。
「まあ、そんなわけで、私はきみのことが好きで、きみと恋人になりたんだけど」
 そんなわけってどんなわけだ。と、なんだか疲れ果てた勇馬は、口には出せず心の中で突っ込む。
 ぐったりとしている勇馬に、いつもの調子で果歩が言った。
「告白の返事、いつもらえる?」
「……っ」
 うっと、息を飲んだ。
 言われてみれば、と勇馬は思った。
 告白をされたわけだから、当然返事は返さないといけないが、不意の告白にそれだけで頭がいっぱいになってしまって返事のことまで気が回らなかった。
「出来ればこの場で聞きたいな」
「あ、ああ、うん……」
 いつもの調子の彼女に釣られるように、気がつけば頷いてしまっていた。
 返事の内容は考えるまでもない。自分は彼女が好きなわけだから、それをそのまま伝えればいい。
 しかし、いざ「俺も好きだ」と言うとなると、身体が固まって動けない。
 口を曖昧な形に開けたまま、勇馬は固まってしまった。
 急速に顔面が熱くなってきて、きっと顔は真っ赤になっているに違いない。
 赤面している自分が恥ずかしく、余計に顔に熱がこもる。
 真っ赤になっている顔を見られたくなくて、勇馬は自然と俯いた状態になった。

「…………」
「…………」
 向き合って座った状態で、二人は沈黙している。
 一人は顔を真っ赤に染め、自分の気持ちを伝えようと、懸命に声を絞り出そうとしている。
 もう一人は彼とは対照的に、いつものように自然体で返事を待っているように見える。

 このまま黙っているわけにはいかない。
 俯いた状態のまま、勇馬が視線をわずかに上げると、いつの間にか果歩が抱えていた両膝を下ろし、行儀よく両足を揃えて座っていた。
 揃えられた両膝の上に置かれた彼女の手は、こわばるように握りしめられていて、ほんのわずかだが震えているように見えた。
 それを見て、勇馬は覚悟を決めた。
 縮こまるように丸めていた背をスッと伸ばし、顔を上げて真正面から果歩を見る。
 相変わらず顔は熱く、真っ赤になったままだろうが、構うものか。
 顔を上げた瞬間、果歩がわずかに肩を震わせたのが見て取れた。
 思わず、待たせてゴメンと謝りたくなった。
 大きく息をひとつ。
 彼女の瞳をまっすぐ見つめ、勇馬が答えた。
「俺も、好きだ」
 その瞬間、ふっと果歩の肩から力が抜けたように見えた。
「俺も、その、榛名と恋人になりたい」
 正直、恥ずかしくて死にそうだ。特に“恋人”というキーワードが恥ずかしすぎる。
 でも、出来るだけ真剣に、ちゃんと自分の気持ちが伝わるように、彼女の告白に応えたかった。

 一瞬の静寂後、不意に果歩が立ちあがった。
「袖村君も、立って」
 その口調はいつものように平坦だが、勇馬には何かをこらえているような平坦さに聞こえた。
「……あ、ああ」
 その雰囲気になんとなく気圧され、遅れて頷き、勇馬も席を立つ。直後、
「えいっ」
「ぉわ!」
 がばっと、抱きつかれた。
 ほとんど飛び込むような形で、果歩が勇馬に抱きついてくる。
「ちょっ、な……っ!」
 突然すぎて、何が起こったのか分からず、勇馬は固まることしか出来ない。
「告白して、恋人同士になったら、抱きしめ合うものじゃないの?」
 背中に手を回し、胸に顔を埋めた状態で、果歩が言う。
 表情は分からないが、口調は先ほどと変わらず何かをこらえているような平坦さだ。
「そ……っ、そうとは、限らないんじゃないか?」
「そうかな? でも私は抱きしめたいよ?」
 言いながら、胸に額をくりくりとこすりつけてくる。
「本当はすぐでも抱きしめたかったんだけど、椅子に座ってる時に飛び込んだら危ないかなって思って」
 それでさっき「立って」と言ったらしい。
「そ……、それはどうも、お気遣い頂き、恐悦至極に存じます」
 相変わらず、抱きしめられて硬直した状態で、勇馬は口だけを動かして答えた。
「うん。苦しゅうない」
 果歩も相変わらず、甘える猫のように額をこすりつけながら頷く。
「……つーか、気を回してくれるんなら、飛び込んでくること自体を言ってほしかったかな……」
「あは、そうだね。でも、きみの返事を聞いたら気が抜けちゃって」
 いつもの調子に聞こえるが、声がかすかに震えていることに勇馬は気付いた。
「腰が抜けて立ちあがれなくなるまえに、どうしても、抱きつきたかった、から」
 声の震えがはっきりと分かるほどになっていく。
「袖村君ごめん。もう、立ってられない、かも」
「お、おい。大丈夫か?」
 密着した彼女の小さな身体が、小刻みに震えているのが分かった。
「ね、支えて? 抱きしめて?」
「あ、ああ……」
 戸惑いながらも、勇馬が果歩の背中に腕を回す。
 腕の中に感じる彼女の身体は、想像していたよりもずっと細く、柔らかかった。
「はあ……」
 腕の中で、果歩がうっとりとしたような息をついた。
 ぎゅっと、今までよりも強く抱きついてくる。
「ね、もっと強くして?」
「うん……」
 腕の中に収まっている彼女の感覚に、勇馬は頭がぼうっとしてきた。
 彼女の要求に素直に頷き、背中に回した腕に力を入れる。

 初めて抱きしめる女の子の感触は、勇馬の想像をはるかに超えていた。
 小さくて、細くて、柔らかくて、温かくて。
 自分の腕の中にすっぽりと収まって、幸せそうにしている彼女を見ると、なんだか胸がいっぱいになった。
 胸がいっぱいになったら、両想いなんだという実感が急に湧いてきた。
 思わず声を上げたくなるような感情が、一気に胸にこみ上げてくる。
 暴力的なほどの衝動に、勇馬は堪らなくなって、より強く果歩を抱きしめた。
 彼女のつむじにキスするような格好で、全身で包み込むように抱きしめる。
 それに応えるかのように、彼女もより強く抱きしめてきた。
 彼女の震えは、ゆっくりと小さくなっていった。

「ね、袖村君」
 果歩はすっかり落ち着いたようだ。口調も、いつもの平然とした調子に戻っている。
「ん?」
「好き」
 腕の中に収まったままで、果歩が幸せそうに言った。
 それが、本当に幸せそうで、勇馬はなんだか嬉しいやら可笑しいやらで、軽く吹き出してしまった。
「なんで笑うのー?」
「や、ごめん。なんか笑っちゃった」
 くくくっと、喉の奥で笑いながら、勇馬が謝る。
 もー。真面目に言ってるのに。と果歩。そう言いながらも、果歩も楽しげな口調だ。
「でも、ちょっと気持ち分かるかも。私もなんか嬉しくって、顔がにやけちゃって戻らないの」
「え、ホント? ちょっと見せて」
 いつも平然とした表情を崩さない彼女がにやけるとは。
 勇馬は思わず見たくなって彼女の顔を覗こうとするが、果歩は胸に顔を埋めたまま離れない。
「駄目。恥ずかしい」
「さっきまで平気でパンツ見せてたくせに」
「それは平気だったけど、これは恥ずかしいの」
 からかうように意地悪く言うと、ちょっと照れているような口調で果歩が答える。
 どうやら本当に恥ずかしがっているらしい。
 その様子に、あああ……っ。と勇馬が心の中で大きく息をついた。
 駄目だ、可愛すぎる。
 果歩が可愛いという気持ちで胸がいっぱいになって、もうどうしていいか分からない。
 この衝動は、なんと形容すればいいのだろうか。
 とにかく果歩が可愛くて可愛くて仕方なく、勇馬はもうそれしか考えられなかった。
 うわあああ……! と、心の中で身体が捩じ切れるんじゃないかというほど悶えまくった。
 そのまま、勇馬は高まるテンションに身を任せた。
 抱きしめた果歩の髪の毛を撫でたり、背中を愛おしげにさすったり、つむじに顎を乗せてこすりつけながら髪の毛の匂いを嗅いだり。
 それに応じるように、果歩も身体をもじもじさせて、より密着してくる。
 今まで寄りかかるように抱きしめていた体勢から、もっと密着するように身体を寄せる。
「好き。好き。好き。ホント好き。大好き」
 独り言のように言いながら、果歩が額を胸板にくりくりと甘えるようにこすりつけてくる。
 上半身もぺったりと密着させ、下半身も、勇馬の片足を太ももで挟み込むようにして密着し、身体全体で抱きついてくる。

 どのくらいそうしていただろうか。
 感情の赴くままに、彼女を抱きしめて、撫でて、匂いを嗅いで。
 勇馬はまるで五感すべてで果歩を感じようとするかのように抱きしめた。
 それは彼女もそうだった。勇馬と同じように、抱きしめて、胸に顔をこすりつけ、匂いも嗅ぐ。
 時間を忘れているかのような二人の睦み合いは、徐々に変化していった。
 抱きしめあっているのは変わりないが、二人の呼吸が徐々に荒くなっていく。

 勇馬は、完全に欲情していた。
 下半身はとっくに目覚めており、痛いくらいに勃起して制服のズボンを盛り上げている。
 隙間がないくらいに密着しているため、勃起した股間がズボン越しに彼女のお腹に当たっている。
 欲情しているのは果歩も同じらしい。
 相変わらず勇馬の胸に顔を埋めたままだが、隙間から荒い息が漏れているし、密着している身体をもじもじとくねらせて、腹部に当たっている勇馬の股間をぐりぐりと刺激してくる。
 勇馬はもう、我慢出来なかった。
 はぁはぁと荒い息を付きながら、背中に回していた手を下へ。プリーツスカート越しに、彼女の小さなお尻に手を当てる。
 途端に、腕の中で彼女がぴくんと反応した。
 正直、このまま劣情に身を任せ、彼女のお尻を揉みしだきたいが、勇馬はどこまで積極的になっていいのか分からず、彼女のお尻の上の方に手を当てている状態で固まってしまう。
「……こ……」
 勇馬はカラカラに乾いた喉を唾を飲み込んで潤し、なんとか声を絞り出した。
「このくらいにして、そろそろ離れようか……?」
 ああああ! 俺のヘタレ!
 ここまで来て、それはどうなんだと、勇馬は心の中で絶叫した。
 でもここは学校だし、そりゃあ美術室には滅多に人は来ないけどやっぱりマズイだろ? という気持ちと、ここで男にならずにどこで男になるんだ、彼女だってその気になってるだろ? という気持ちが脳みそを綱引きしている。
 離れようと言ってはみたものの、手はお尻を触ったままなのが、より一層情けない。
 押すか、引くか。理性と性欲の綱引きで、勇馬の脳みそがショート寸前になった時、
「や」
 ごく簡単に一文字で、果歩が答えた。
「……え?」
 思わず聞き返した勇馬に、胸に顔を埋めたままで果歩が言う。
「や。離れたくない」
「い、いいのか?」
「うん」
 胸に顔をうずめたままで頷き、続ける。
「私さっき言ったよね。きみと毎日でもセックスしたいって」
「あ、ああ……」
 確かに言っていた。しかし、
「いいのか? ここ、学校だぞ?」
「そんなの関係ない」
 勇馬のセリフを遮るように、果歩が言った。
 平坦な口調の奥に、抑えきれない興奮が見え隠れしているのを、勇馬は感じ取った。
「袖村君」
 果歩がずっと胸に埋めていた顔を上げ、勇馬を見上げる。
「早く、セックスしよ?」
「……っ!」
 その顔を見て、勇馬は息を飲んだ。
「私、もう、ホントにダメ。我慢できない。ね、セックスしよ? ね? 離れるなんて言わないで。お願い。お願いだから、セックスしよ」
 顔を真っ赤に染め、瞳を潤ませて、果歩が訴える。
 言いながらも、小さな身体をくねくねさせ、勇馬の股間を刺激してくる。
 興奮のせいか、言葉を途切れさせながらも早口で訴えてくる。
「袖村君、好き。好きなの。だから、ね? セックスしたいの。お願い早く。早くセックスしよ? セックス……──あっ」
 気がつけば、勇馬は果歩を抱きしめていた。
 勇馬はもう完全に理性が吹き飛び、劣情のままに彼女とセックスをすることしか考えられなくなっていた。

 * * * * *

「んっ、んぅ……。ちゅ、ん、んっ」
 二人とも床に膝立ちになり、密着して唇を重ねている。
 まるで貪るような激しいキス。
 唇をぴったりと重ね、お互いの口内で舌を絡めあい、唾液を交換し合っている。
「ちゅ、んぅ、んっ、あっ、は、んぅう……」
 顎先から涎が滴り落ちるような激しいキスを繰り返しながら、時折、果歩が身体を震わせる。
 二人はキスしながら、お互いの下腹部をまさぐり合っていた。
 果歩の小さい手が、制服のズボン越しにガチガチになった股間を撫でまわしている。
 勇馬の手はスカートの中に潜り込み、下着越しに秘所をいじっている。
 ふかふかした柔らかい素材のショーツは、もうすっかりびしょ濡れになっていて、温かい粘液が勇馬の指に絡みつく。
 割れ目に沿うように中指で秘裂をこすると、ぐじゅっと愛液が染み出し、果歩が身体を震わせた。
「んっ、ふ、あっ、ああ……っ」
 ほとんど唇がくっついた状態で、果歩が気持ち良さげに喘ぐ。
 その反応に、勇馬は興奮で喉がヒリつくのを感じた。
 自分の手で彼女が感じている。こんなに下着から滴るほどに濡れて、彼女が感じている。
 堪らなくなって、より激しく果歩を攻める。
 中指の腹で、ショーツの上から割れ目をえぐるようにして愛撫。
「あっ、ああ……ッ!」
 途端に果歩が反応した。
 小さな身体を可愛らしく震わせ、真っ赤な顔を切なげに歪ませる。
 打てば響くような彼女の反応に、勇馬も興奮を高めていく。
「ふあ、あッ、んっ、や、やン、きもちい、あぁッ」
 嬌声を上げながら、堪らずといった感じで勇馬にしがみつく。
 勇馬の股間を刺激していた手は止まっており、彼女の余裕のなさを物語っていた。
「あーーっ、ああーっ、だめ、きもちい、きもちい、も、もう、私」
 強すぎる快感に耐えるように、果歩が勇馬の首に腕を絡め、ぎゅっとしがみつく。
 あーっ、あーっ、と甲高い声で喘ぎながら、密着した身体をビクビクと跳ねさせる。
 彼女の反応が可愛すぎて、勇馬は我を忘れて攻め続ける。
「だめ、だめ、もう私、やッ、だめ、も、イキそ、イキそうなの! やぁッ! もぉ……!」
「いいよ! イッていいよ!」
 絶頂を訴える彼女に堪らなくなって、攻める手を激しくする。
 ぐちゅぐちゅと水音が立つくらいに激しく、彼女の秘所を愛撫。
「あーーッ! あーーッ! イク、イッちゃう! あああッ! やッ、イッ……!」
 ビクンッ! と身体が跳ね、直後、
「あああああーーーッ!!」
 ひと際大きな嬌声を上げ、果歩が絶頂に達した。
「ふああッ! ああ……ッ! あああああ……ッ!!」
 ぎゅうううっと力いっぱい抱きつきながら、小さな身体をガクガクと痙攣させ、果歩が絶頂に悶える。
「あ、ふああ……、あ、あああ……!」
 力いっぱいしがみついたまま、絶頂の余韻にカタカタと身体を震わせる果歩。
 自分の腕の中で、小さな身体を震わせながら悶える彼女が、可愛くて可愛くて仕方がない。
 果歩が気持ちよくなっている様を見たいがために今まで攻めていたが、もう限界だった。
 股間はもうこれ以上ないほどガチガチになって、チャックをはち切らんばかりに勃起している。
 これ以上、可愛い彼女が悶えている姿を見ていると、それだけで出てしまいそうだ。
 興奮のあまり震える手で、絶頂の余韻に肩で大きく息をしている果歩を床に横たえる。
 逸る気持ちを抑えるように唾を飲みこみ、勇馬が果歩に迫る。
「その……いいか? 俺、もう……」
 彼女の返事を待たずに、震える手でベルトを緩め、ズボンをトランクスごと下ろす。
 ガチガチになった肉棒が弾かれたように飛び出し、お腹にくっつくほどにそそり立つ。
 その瞬間、床に仰向けになった果歩が、腰を震わせた。
 潤んだ瞳で勃起した股間を見つめている。
 はぁはぁと荒い息を吐きながら、果歩が頷いた。
「うん……。私も、入れてほしい。だから、これ」
 果歩がスカートのポケットに手を入れ、何かを取りだした。
「……ゴム?」
「うん」
 半透明のセロファンに包まれたそれは、まさしくコンドームだった。
 3つ連なっているそれを、勇馬が受け取る。
「……用意がいいな」
「うん。袖村君とセックスするために、持ってきたの」
 包みを一枚切り取り、ギザギザに沿って袋を破る。
 初めて手にしたコンドームに、勇馬は上手く付けることが出来るかどうか一瞬不安になったが、スムーズに付けることが出来た。
 ころんと仰向けになっている果歩にのしかかり、スカートの中に手を差し入れる。
 腰を浮かせた果歩から、びしょ濡れになった白いショーツを脱がし、脚を開かせる。
 初めて見る女性器に、すでに限界以上に勃起している肉棒が、さらに大きくなった気がした。
「じゃあ、挿れるぞ……?」
 改めて確認を取ると、果歩がこくこくと頷いた。
 見ると、まるで待ちきれないかのように腰をもじもじとさせている。ぬるぬるになっている割れ目もわずかにひくついており、とろとろと新しい愛液が溢れてきているのが見て取れた。
 勇馬は荒く息をつきながら、自分でも驚くほど熱くガチガチになっている肉棒を掴み、ぬかるんだ割れ目に当てがう。そのまま腰を進ませて挿入。
 想像よりも入口がきつく、ぐっと力を入れて押し進めると、ぬるっと吸い込まれるように亀頭が飲み込まれた。勢い余ってそのまま半分ほど挿入。
「あ……っ! あぅ……!」
 直後、果歩がぎゅっと縮こまった。眉根を寄せ、耐えるように身体をこわばらせる。
「だ、大丈夫か?」
「うん……。平気。思ったより痛くなかった」
 果歩は2、3度大きく息を吐くと、潤んだ瞳を細めて微笑んだ。
「痛いけど、嬉しいの。私たち、セックスしてるんだね」
 本当に嬉しそうに、果歩が言う。
「きみと両想いになれて、セックスまで出来て、私今、すごく幸せ」
「……っ!」
 見たことのない彼女の満面の笑みに、勇馬は言葉に詰まった。
 もう駄目だ。自分はもう完全に彼女にやれてしまった。
 半分ほど埋まった肉棒が、持ち主の心情に呼応するようにビクンと跳ねた。
「あっ、ナカで……」
 勇馬は完全に理性がすっとんだ。
 果歩の細い腰を両手でつかみ、腰を振り始める。
「あッ! あああッ!」
 初めて受け入れる肉棒の刺激に、果歩がのけ反る。
 前戯で一度達しているためか、初めての挿入にも関わらず、果歩の膣はやわらかくほぐれており抽送はスムーズだ。
 温かく柔らかい膣内の感触に、勇馬は腰がぞくぞくと震えるのを感じた。
 本能のままに腰を振り続ける。
「あッ、や! ナカ、おっきい……! これ、ああッ!」
 初めて感じる肉棒の刺激に、果歩が戸惑いながらも身体を震わせ、喘ぐ。
 その様子に、勇馬の興奮が高まる。
 勇馬は果歩の両脚を抱くように抱え、より深くまで腰を進ませる。
「あッ! あーーッ! それ、おく、きもちいッ! ああーッ! ああーッ!」
 甘く蕩けたような嬌声を上げ、果歩が身体を可愛らしくくねらせる。
 鼻にかかったような甘えた声で、きもちい、きもちいと繰り返す。
「ああもう、可愛すぎるよ……!」
 勇馬は思わずつぶやき、より激しく腰を振る。
 じゅぶじゅぶと淫らな水音を立て、果歩の膣内に肉棒が出入りする。
「きもちいッ! きもちいいよぉ……! あンッ、やあんッ!」
 語尾にハートマークが付いているような甘い嬌声を上げ、果歩が快感に悶える。
 小さな身体を可愛らしくくねらせ、蕩けたような表情で、果歩が夢中になって快楽を味わっている。
 その様子に、勇馬の腰が震える。
 まだ一度も達していない勇馬はすでに限界に近く、迫りくる射精感を奥歯を噛みしめて堪えていた。
「や、ああんッ! あン、あッ! 好き! 好きなの! 大好き!」
「俺も、好きだ……!」
 覆いかぶさるような体勢に変え、密着して、打ち付けるように腰を振る。
「ああーッ! ああーッ! 好きッ! 好きッ! あ、あーッ! 好きぃッ!」
 勇馬の首に腕を巻きつけ、果歩が甘い嬌声を上げる。
 感極まったように甲高く、心の底から幸せそうに甘く、「好き! 好き! 好き! 好き!」と繰り返す。
 耳元で繰り返されるその声に、勇馬は限界が来た。
「うあ、出る……ッ!」
 溜まりに溜まった射精感に、腰がぞくぞくと震え、こわばるように身体に力がこもる。
「うん! 出して! イッて!」
 心底嬉しそうに言いながら、果歩が首に回した腕に力を込め、ぎゅっと抱きしめてくる。両脚も勇馬の腰に絡ませ、身体全体でしがみついてくる。
「うぐ……ッ!」
 堪える間もなく、勇馬が達した。
 ビューッ! ビューッ! と精液が放出され、そのたびに肉棒がビクビクと跳ね、射精の快感に腰が震える。
 同時に、
「あッ! ああああ……ッ!」
 膣内で跳ねまわる肉棒と、ゴムの中に溜まっていく精液の熱さに、果歩も身体を震わせる。
 ぎゅっと勇馬を抱きしめ、心地よさそうな吐息を漏らす。
「は、あ……ッ、すき、すきぃ……。あああ……ッ」
 小さく華奢な身体を震わせ、うっとりとした口調でつぶやく果歩が可愛くて堪らず、繋がったままキス。
「んっ、ちゅ、んぅ……」
 ちゅっちゅとついばむようなキスを繰り返し、鼻がくっつくような距離で見つめ合う。
 真っ赤な顔に潤んだ瞳で、果歩が幸せそうに微笑む。
「すごく、気持ちよかった」
「俺も」
 見つめ合ったまま、またキス。
「ちゅ、んぅ……。ね、袖村君」
「ん?」
「ゴム、あと2つ余ってるよ?」
 ぷっ、と思わず噴き出した。
 笑いながら勇馬が尋ねる。
「したいんだ?」
「うん」
「即答だな」
「だって気持ちよすぎるんだもん。こんなに気持ちいいなんて思わなかった。それに、すごく幸せ」
 果歩は本当に嬉しそうだ。
 そんな彼女を見て、勇馬は萎えかけた股間がむくむくと大きくなっていくのを感じた。
 思わず抱きしめた勇馬の耳元で、果歩が熱っぽく言った。
「続き、しよ?」


 結局その後、すぐにゴムを付け替えてもう1戦行ったところで、時間的にこれ以上学校に残っているわけにもいかなくなり、学校から出た。
 下校はしたが、それで終わりではなかった。
 「うち、今日は誰もいないから」と果歩に誘われ、そのまま家にお邪魔して、彼女の部屋でもう1回。それでも飽き足らず、二人はお互いを求めあい、休憩をはさみながら幾度も交わった。
 蕩けたような甘い嬌声を上げ、小さく華奢な身体を可愛らしく反応させる果歩に、勇馬は夢中になった。
 快感に悶え、絶頂に震える果歩が可愛くて堪らず、勇馬は夢中になって攻め立て、そのたびに果歩は登りつめた。
 果歩も、勇馬に抱かれる心地よさと幸福感の虜となり、愛しい彼が与えてくれる快楽に溺れた。
 もう飽きるほど「好き」と囁き合ったが、そのたびに気持ちが昂り、多幸感に酔った。
 心も身体も、気が狂いそうになるほど気持ちよく、幸せで、二人は貪りあうようにお互いを求めた。
 恋人同士の睦み合いは、その日夜遅くまで続いた。

 * * * * *

 セックスをしすぎると、腰が痛くなるものだと思っていた。
 一体どこでその知識を仕入れたのか思い出せないが、勇馬はそれが間違った知識だと身をもって思い知った。少なくとも、それは自分には当てはまらない症状だと判明した。
「太ももが痛ぇ……」
 翌日の登校途中、思わず声に出た。
 まるで、マラソンをした次の日のように、太ももがパンパンに筋肉痛になっていた。背中や腕も、太ももほどではないが鈍く痛む。
 正直、昨日ははっちゃけ過ぎた。
 腰がやばいかもと覚悟はしていたが、まさか太ももにくるとは予想外だった。
 セックスって筋肉痛になるんだな……。と、軋む身体で通学路を歩く。
 両脚を引きずるように歩きながら、榛名もどこか筋肉痛になってるかなと、昨日出来たばかりの恋人に思いを馳せていると、
「おはよ。袖村君」
 果歩が後ろから小走りにやってきた。
「おはよう。……どこか身体ヘンじゃないか?」
 平然とした様子なので、気になって聞いてみた。
「別に? あ、初めてだったから心配してくれてるの?」
「ん、まあ……」
「ありがとう。大丈夫だよ。女の子は初めての後は痛くて歩きにくくなるって聞いてたけど、全然平気」
 身体を引きずるように歩いている勇馬とは対照的に、果歩の足取りは実に軽やかだ。
「そ、そうか。それは、よかった」
「うん。心配してくれてありがとう。大好き」
 嬉しそうに言われ、なんとなく口ごもってしまった。
 物理的に傷を負ったはずの彼女が何ともないのに、男の自分が筋肉痛ごときで泣き言を言うわけにはいかない。
 それに、何ともないに越したことはない。
 勇馬は太ももの痛みを無視し、平然と歩きだしたが、
「今日もまたいっぱいセックスしようね」
 嬉しそうな彼女の言葉に、ぎしっと固まってしまった。

終わり






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