「なあ、総太(そうた)」
西武ドームに野球のデイゲームを観に行った帰り道。
駅前のファストフード店に寄って、狭いテーブルに顔をつき合わせてハンバーガーをかじりながら、今日のゲーム内容についてひとしきり歓談。それがひと段落したところで、筑枝摩耶(つくえ まや)がそう切り出してきた。
「んー?」
今字総太(いまじ そうた)がテリヤキバーガーの豊富なソースに悪戦苦闘しながら返事をすると、摩耶がポテトをつまみながら口を開いた。
「総太って、どんなタイプの女の子が好みなんだ?」
「…………突然だな」
本当に突然だ。今の今までライオンズ対ロッテの話で盛り上がっていたのに、とんでもない話題の急旋回だ。
まあ、摩耶がいきなり突拍子もないことを言い出すのはいつものことか。と、半ば諦めかけてる総太をそのままに、摩耶はいつのもように男っぽい口調で聞いてくる。
「まあ突然だけど、気になってさ。で、どんな?」
「どんなと言われてもなあ……」
総太は口ごもった。好みの女の子なんて、今まで考えたことも無かったし、摩耶がいきなりそんなことを聞いてきた意図もよく分からない(まあ単なる思いつきだろうが)。
思わず考え込んだ総太に、摩耶は眉をしかめた。狭いテーブルに小さな身体をすっぽりと収め、行儀悪く脚を組み、スニーカーを履いた足をぷらぷらと揺らしている。
「なんだよ淡白だな。いろいろあるだろ、好みぐらい」
「淡白って……」
その表現は少し違うんじゃないか? と思いつつ、総太は正直に答えた。
「好みなんて、よく分からないな」
「そっか。じゃあ、もっと分かりやすく言うとだな」
言いながら、摩耶は同い年とは思えない小さな手でポテトをつまみ、年頃の女の子らしからぬ仕草で口に放り込む。
総太はペーパーで口の端に付いたテリヤキソースを拭いながら「ん?」と促すと、摩耶はなんでもないかのような口調で、とんでも無いことを聞いてきた。
「総太がよくオカズにする女の子はどんなタイプだ?」
「…………」
思わず、ペーパーをトレイの上に取り落としそうになった。
総太の沈黙をどう勘違いしたのか、摩耶がさらにとんでも無いことを口走った。
「ん? オカズじゃ通じなかったか? 総太がよくオナ……」
「わーった! 分かった! 通じてるよ!」
危険なセリフを、総太がすんでのところで遮った。
「なんだよ。分かったならそう言えよ」
しれっと言いつつ、やっぱり同い年とは思えない童顔を、訝しげにゆがめる。
呆れて口が利けなかったんだよ。と心の中でつっこみつつ、総太は無言でペーパーをくしゃくしゃと丸めた。
「で、どんな女の子が好みなんだよ」
「うーん……」
総太は唸りながらコーラのストローを口に咥えた。
好みのタイプの女の子なんてじっくり考えたことの無い総太は、曖昧に返事をしてお茶を濁そうしたが、摩耶はこの話題を簡単に終わりにするつもりはないらしい。
「ほら、例えば、背が低い女の子が好みだとか、髪の毛は短いほうが好みだとか、少し男っぽい女の子ほうが好みだとか、いろいろあるだろ?」
と、何が何でも総太の好みを聞き出す構えだ。例えがやたらと具体的なのは、たぶん気のせいだろう。
「好みの背の高さと髪型ったってなあ……」
総太はなんとなく摩耶の方に視線を送った。
よく小学生と間違えられる、小柄で華奢な身体。
その身を包むのは、洗いざらしの無地のTシャツに、5分丈のハーフパンツ、そしてスポーツメーカーのスニーカーという、少年のようないでたちだ。高校1年生になったというのに、まるで洒落っ気がない。
今日は野球観戦をしてたからこのようなラフな格好をしているわけではない。摩耶の普段着はだいたいいつもこんなナリだ。
華奢な細い手足は日に焼けて、よく見れば肘あたりに絆創膏なんかが貼ってある。ああ、この前ダイビングキャッチした時に出来たのすり傷だな。と、総太はぼんやりと思い出した。
口を開けば男言葉。常に堂々とした言動と、その姿に良く似合ったボーイッシュな髪形。
そんな摩耶が、ポテトをほおばる手を止めて、こちらをじっと見つめている。総太からの返答を待っているのだろう。
総太と摩耶は幼馴染みで、小学校に入る前からの付き合いだ。
かれこれ10年以上の付き合いだが、摩耶がこんな、「好みの女の子のタイプは〜」などと色恋沙汰のようなことを口にするのを、総太は初めて聞いた。
こんな話は、いままで話題にすら上がったことが無い。
総太は微妙に戸惑いを覚えつつも、考えながら答えてみた。
「うーん、背は高いほうがいいし、髪の毛も長いほうがいいかな」
「…………ふーん、そうか。他には?」
気のせいか不機嫌そうにわずかに眉をしかめて、摩耶が促した。
「あとは、そうだな。年上が好きかな」
「年上はダメだ。同い年にしとけよ」
途端に、摩耶がダメ出しをしてきた。
「……なんでだよ」
ダメだと言われても困る。自分の好みの話のしているのに。
摩耶は何故か不機嫌そうに少し早口でまくし立てた。
「なんでもだ。まあ、年上は置いておいて、他には?」
目の前の箱を手で横にどかすような仕草をして、摩耶が促す。仕方なく総太は答えた。
「さっきも言ったけど、背が高くてロングヘアで、落ち着いた感じのコがいいな」
「ダメだ。背は低めにしとけよ。そんで髪も短かめで、性格も活発な感じの方がいいだろ」
「だからなんでだっつーの」
真逆じゃねえかよ。と、思わずつっこむ総太。
だが、摩耶はまた微妙に不機嫌な顔で箱をどかす仕草をし、
「背と髪と性格も置いておいて、他には?」
……それも置いておくのかよ、どんだけ置いておくつもりだ。
心の中でそうつっこみながらも、総太は摩耶の質問に付き合った。
「ん〜……」
コーラのストローをかじりながら、総太が唸る。
普段、こんなことはほとんど考えたことが無いだけに、自分の中の理想の女の子像はかなり曖昧だった。
うんうん唸る総太に焦れたかのように、摩耶が口を挟んできた。
「他にもいろいろあるだろ。ほら、プロポーションとか、そういうの」
プロポーションという言葉が摩耶から出てきたことに少し驚きを感じながら、「そうだなあ」と総太は答えた。
「胸は、大きいほうが」
「ダメだ」
総太のセリフを摩耶が遮った。不機嫌そうにそっぽを向いて、オレンジジュースをストローでかき回し、氷をがらがらと言わせている。
「巨乳なんて無駄なだけだ。胸は小振りな方がいいに決まってる」
そっぽを向いたまま一方的に言い切って、またもや箱をどかす仕草をし、「他には?」と促してくる。
「…………」
俺の好みの話なのに、なんでお前が決めてるんだ。というか、そもそも何のためにお前は俺の好みなんて聞いてるんだ。
最早つっこむ気力も失せてげんなりしつつも、総太は生真面目に摩耶の質問に答え続ける。
「他にはって言われても……あっ、あれだ」
総太は1つ、とても重要なことを思い出した。
「野球だ。野球の話題が通じるコがいいな」
「おお、野球な? 通じる通じる」
今度は摩耶は置いておかなかった。むしろ乗り気でうんうん頷いている。
「そんで、出来れば同じ球団のファンがいいな」
「西武だな? よっしゃ、どんとこい」
今度も摩耶は置いておかなかった。我が意を得たり、といった感じで大きく頷いている。
「まあでも、一番重要なのは、あれだ」
「お、なんだ?」
総太のセリフに、摩耶はテーブルに乗り出すようにして顔を突き出してきた。
総太は、少し恥ずかしいセリフかなと思いながらも口にした。
「俺を好きでいてくれるコだなあ」
好みのタイプというものではないかもしれないが、自分を好きでいてくれる、好きになってくれる女の子が一番だと総太は思い当たった。
言ってから、やはり少し気恥ずかしくなって「まあ一番難しい条件だけどな」と苦笑する。
だが摩耶は拍子抜けしたように、乗り出した身体を背もたれに沈めた。
「なんだ、そんなのが一番重要なのかよ。簡単じゃないか」
「そんなのって……。重要だし、簡単でもないだろ?」
自分みたいな野球バカを好きになってくれる女の子などレア中のレアだ。そう思うだけに、この条件が一番重要で難しいと総太は思った。
しかし、摩耶はつまんだポテトフライをぴこぴこ振りながら問いかけた。
「じゃあ、年上でロングヘアで大人しい性格の女の子と、野球が好きで西武ファンで総太のことが好きな女の子。どっちがいい?」
「そりゃ後者だな」
総太は即答した。
「ホントだな?」
「ああ。断然後者だ」
野球好きで、同じ球団のファンで、それに加えて自分のことが好きだなんて最高じゃないか。その条件に比べたら、背の高さや髪の長さ、ましてや胸の大きさなど、まるで気にならない。
総太の答えに、摩耶は嬉しそうに頷いた。
「よし、決まりだ。じゃあ付き合おう」
「付き合う? 誰と?」
「私と総太だよ」
「はあ? なんで?」
思わず素っ頓狂な声が出た。なんで急にそんな話になるのか。
わけが分からず眉をしかめる総太に、摩耶は背もたれに寄りかかったまま答えた。
「総太は、野球好きで、西武ファンで、総太のことが好きな女の子がいいんだろ?」
「……ああ、まあな」
改めて言われると、少し恥ずかしい。
総太が頷くと、摩耶は勝ち誇ったように言った。
「まさしく私じゃないか」
「……なんでお前になるんだよ?」
総太の問いに、摩耶は自分を親指で指しながら答えた。
「私は野球好きだろ?」
「ああ、そうだな」
総太の野球好きも、元は言えば摩耶の影響だ。
小学校に入る前から、バットとグローブを持った摩耶に引っ張り回され、総太も一緒になって空き地で遊びまわった。その結果、今の野球バカ二人が出来上がった。
総太が頷くと、今度はテーブルに乗り出すようにして続けた。
「そんで、西武の大ファンだ」
「清原、秋山、デストラーデを擁する森監督時代からのな。俺と同い年とは思えない年季の入ったファンだ」
「そして、総太が好き。どうだ? 私だろ」
「……その最後がよく分からん」
摩耶が自分を好きだって? そんな馬鹿な。
「なんでだよ。私は、総太が好き。これのどこが分かんないんだ」
「……冗談だろ?」
「こんな冗談言わない。私は、総太が好きなんだ。I LAVE YOU なんだ」
真面目な顔で摩耶が告げる。だが、英語が間違っている。
「……LAVEってなんだよ。LOVEだろ」
LAVEじゃ「洗う」って意味だ。わけが分からない。
「ああ、そうだった。LOVEだLOVE」
高校生にもなって、なんでこんな簡単な英語を間違えてるんだよ。
呆れている総太に向かって、摩耶は指差し確認しつつ、
「I、LOVE、YOU」
「欧米か」
とりあえずつっこんだ。ぺしっと摩耶の額を小突く。つっこみが少々古いのは勘弁してもらおう。
というか、もしかして摩耶はこのギャグがやりたかっただけなのか?
総太は呆れてため息をついた。
「……つまらない冗談はやめろよ」
「だから、冗談じゃない」
つっこまれた額をさすりながら、摩耶は総太を見つめる。その瞳は、確かに冗談ではなかった。
いつも能天気な摩耶だが、今は能天気さの欠片も見せず、真面目な表情で総太を見つめている。
摩耶との付き合いが長い総太は、それを十分に感じ取り、思わず、乾いた声が出た。
「………………マジで?」
「大マジ。本音と書いてマジと読む」
「……本気と書いて、だろ」
「そうとも言うな」
真面目な顔で、摩耶が頷く。
そうともではない。そうしか言わない。総太は思わず頭痛を覚えた。
間違いない、摩耶はただふざけているだけだ。
額を指で揉みながら、摩耶を手で制す。
「……よし分かった。悪い冗談はここまでだ」
「なんでだよ。本気だって言ってるだろ」
「そんなん、信じられるか」
摩耶の言動はとても告白とは思えない。総太はつい、突き放すような口調になっていた。
「じゃあ、どうしたら総太は信じてくれるんだ?」
摩耶が不安げな顔でじっと見上げてくる。
「どうしたらって、お前……」
その表情を受けて、思わず、総太は言葉に詰まった。
摩耶は、小学校に入る前からの付き合いで、そのへんの男友達よりも仲が良くて、小学校、は言い過ぎだけど、中学校のころからほとんど背格好が変わってないくせに、そのへんの男友達よりも男っぽくて。
「だって、お前……今までそんなこと言わなかっただろ」
「うん。気付いたのは最近だし」
しれっと摩耶が言う。そして、相変わらず総太をジッと見つめながら、真面目な口調で言ってくる。
「総太。さっき、オカズの話をしただろ?」
「オカ……。まあ、うん」
周囲を全く気にしない摩耶の言葉に、総太は思わず周りを伺ってしまう。
「最近な、夜になるとどうも身体が疼くんだ」
「…………」
いきなりこいつは、何を話そうと言うのか。
「で、こう、自分を慰めようとするんだけど、いくらシテも収まらなくて」
「こら、ちょっと待て」
たまらず、総太が待ったをかけた。
「いきなり、何の話を始めてるんだお前は」
普段から突拍子もないことを言ってくるやつだと思っていたが、こうまで突拍子がなく周りが見えていないとは思わなかった。
しかし、摩耶は当たり前のように言ってくる。
「総太が信じてくれないから、自分が総太のことが好きだと気付いた経緯を説明してるんじゃないか」
「……その説明でなんで、」
総太は声を潜め、
「なんでオカズとか、そんな単語が出てくるんだよ」
「聞けば分かるよ。いいか? でな」
「わ、分かった。聞くから、もう少しボリューム落とせ」
ばっちり周囲に聞こえる音量で続きを話そうとする摩耶を慌てて制して、声を落とさせる。
「で、だ。普通にシテも全然収まらなくて、むしろどんどんムラムラしてきて」
「…………」
なんで野球観戦の帰りにこんな話を聞いているんだろうか? 総太は思わず遠い目になった。
というか、摩耶も、そういうことをするのか……。
総太はつい想像しそうになって、慌てて頭からかき消した。
そんな総太をお構い無しに、摩耶の口上は続く。
「で、その時だよ。たまたま総太の写真が目に入ってさ。ほらあれだ。この前バーベキューに行った時に撮ったやつ。で、それを見ながら慰めたら、今までの昂りが嘘だったかのように引いていったんだよ」
本人は大真面目な顔で説明しているが、内容は破廉恥で赤裸々だ。総太は周りが気になり、ついきょろきょろとしてしまう。
「そこで気付いたんだよ。私が最近、夜にムラムラしてたのは、総太に対する欲求だったんだ。だから、総太をオカズにすることでのみ、それを発散することが出来たんだ」
つまり、私は総太が好きなんだよ。と、どうだと言わんばかりに摩耶が言い切った。
幼馴染みの突然の変な告白に、総太は目眩を覚えた。思わずこめかみを指で揉む。
「……お前のその体験談と、俺のことが好きっていうのはどう関係があるんだ?」
「まだ分からないのか?」
総太の質問に、摩耶は呆れたような声を出した。
「だから、この私が欲情するのは総太に対してだけなんだよ。そして、その昂りを鎮めることが出来るのも総太だけなんだ。総太だけが、私の性欲を満たしてくれるんだよ。この現象が好きじゃなくてなんだと言うんだ? それにな、大変なんだぞ最近。毎日ムラムラしちゃって」
総太が分かってくれないもどかしさのせいか、摩耶は下げた声のボリュームがどんどん戻って行く。
「学校から帰ってから1回、お風呂上がりに1回、布団に入ってから1回の計3回だ。ここのところ、毎日そうなんだ。今だって、思い出してちょっとムラムラしてきたくらいなんだからな。──ああ、なんだか総太を見てたら本当にムラムラしてきたな」
「ちょ、声落とせ!」
ボリュームが戻って行くどころか、更に大きくなって行き、しかも内容まで危なくなってきたので総太は慌てて止めにはいった。しかし摩耶は止まない。
「ああ、声と言えば、今までは吐息ぐらいしか出てなかったんだけど、総太の写真でオナニーすると声が抑えられなくて大変なんだよ。ちなみに気持ち良さも段違いでさ、総太の写真を見て、総太の名前を呼びながらオナニーするとあっと言う間にイッ」
「だーーーーッ!!!」
たまらず、メガホン(応援で使った)で摩耶の頭を思いっきりしばいた。パカーンッ! と気持ち良い音が店内に響く。
「〜〜ッたあ……! 何だよ、いきなり!」
「それはこっちのセリフだっ!」
思わず怒鳴り返してから周囲の視線に気付き、総太は声を潜めた。
「と、とりあえず、外に出るぞ」
周囲の視線から逃げるように、総太は席を立ち、摩耶を引っ張って店を出た。
* * * * *
とりあえず、ゆっくり話せる場所に移動しよう。
総太の提案を受けて、摩耶の部屋に行くことになった。
「まあ、とりあえず、分かった」
見慣れた摩耶の部屋に着き、帰りに買ってきたジュースで一息入れたところで、総太が頷いた。
「とりあえず、お前が俺をす……その、まあ、好きなのは、分かった」
「ようやく分かってくれたか」
摩耶もジュースを飲んで、嬉しそうな口調で言う。
「じゃあ、今から総太と私は恋人同士だな?」
「……なんでだよ」
「今日の総太はおかしいぞ? なんでそんなに察しが悪いんだ」
摩耶は呆れたようにでっかい溜め息を付くと、一言一言刻み込むように言ってきた。
「総太は、野球が好きで、西武ファンで、総太が好きな女の子がいいんだろ? で、私は、野球好きで、西武ファンで、総太が好きだ。完璧に条件を満たしてるじゃないか。何の問題があるんだ」
「いや、あのな。確かにその通りなんだけど……」
確かに摩耶の言う通り、摩耶は自分の好みの条件に合致している。でも、まさか摩耶が自分を好きだったなんて考えもしなかった。だから、こういう事態は、摩耶と恋人になるという事態は、想定外もいいところというかなんというか。
「摩耶。あのな、確かに条件はそうだけど、あのな、お前、なんていうか、その……」
全くの予想外の出来事に、総太は頭が回らず、出てくる言葉も不明瞭だ。
あの、その、とパニくっている総太を見て、摩耶は悲しそうに目を伏せた。
「総太は、私のことが嫌いだったのか?」
「は!? いやいや! そういうことじゃ……」
「条件は合っていても、嫌いな女じゃ恋人に出来ないってことなのか?」
「いや、だから、お前のことを嫌いなわけじゃ……」
「ホントか?」
「あ、ああ」
「じゃあ、私のこと、好きか?」
「そ、それは……」
思わず総太は口ごもってしまう。こちらを真直ぐ見つめる摩耶から視線を外し、ぽつりと付け足した。
「……分からない」
「ん。そうか」
摩耶から帰ってきたセリフは、意外にも明るい響きだった。
「安心した。嫌われていたのかと思ったよ」
「……嫌いだったら、二人で野球観に行ったりしないだろ」
総太と摩耶は、時たま二人でお金を出し合ってチケットを買い、球場に足を運んでいた。好きな野球をお金を払ってまで観戦するのに、嫌いなやつと行くわけがない。
「……なんつーか、お前とは親友みたいな感じだと思っていたから……まあ、驚いただけだ」
「私もそうだ。私も総太は親友だと思っていたから、自分の気持ちに気付いた時は驚いた。でも」
一旦切ると、今まで見たことの無いような笑顔を向けてきた。
「驚いた以上に、嬉しかったんだ。異性を好きになったのは初めてだけど、すごく幸せな気分だ」
もしかしたら、ずっと前から総太が好きで、それにやっと気付けたから嬉しく感じているのかもしれないな。と、摩耶が無邪気に微笑む。
「…………」
そんな顔で言われたら、自分はなんと言えば良いのか分からなくなるじゃないか……。
総太は、言葉に詰まってただただ摩耶を眺めることしか出来ない。
「なあ、総太」
不意に、摩耶は真面目な顔つきになった。
こんなに真面目な顔の摩耶は見たことがなかった。日本シリーズで優勝がかかっている1戦を観ている時だって、松坂のパーフェクト達成を固唾を飲んで見守っている時だって、こんな顔はしてなかったと思う。
総太も摩耶につられる様な形で真顔になった。
「なんだ?」
摩耶は、真面目な顔のまま、改めて思いをぶつけてきた。
「私は、総太が好きだ。総太の恋人になりたい」
なんでもないような口調だが、摩耶の思いが込められているのを総太は感じ取った。
摩耶は、俺の事が好き。じゃあ、俺は摩耶をどう思っているんだろうか?
「…………と、友達から、というのじゃダメか?」
なんと答えたらよいのか分からず、自分の気持ちも分からず、でも何か答えないといけないプレッシャーに圧され、そんな言葉が出てきた。
「総太はさっき、私を親友と思っていると言ってくれたよな?」
「あ、ああ」
「じゃあ、私たちは既に友達以上じゃないか」
「そうか。そうだな……」
確かにその通りだ。友達からも何も、摩耶と自分は既に友達以上の関係だった。
「総太は、私と恋人になるのは嫌なのか?」
「嫌って言うんじゃないんだ。ただ、その、なんだ……」
自分の言いたいことがまとまらず、尻すぼみになり、視線も落ちていく。
自分はずっと摩耶を一番の友達だと思っていた。気が付けばいつも一緒にいるような仲だったし、それが自然だと思っていた。
摩耶のことは好きだ。これは間違いない。ただ、それが異性に対するものなのか友達に対するものなのか、総太には分からなかった。
親友と恋人。親しさではそう大きく変わらないかもしれないが、何かが決定的に違う。
親友でいた時間が、長過ぎた。親友をそんなすぐに恋人に切り替えて考えることが出来るほど、総太は器用な性格ではなかった。
沈黙を破ったのは、摩耶だった。
「私は総太が好きだという自分の気持ちに気付いて、嬉しかったんだ。だから、ただ単純に総太に伝えたかっただけなんだ。私は総太が好きだって」
総太が顔を上げる。摩耶はさっきと同じ真面目な表情をしているが、心なしか悲しそうな顔に見えた。
「でも、それがそんなに総太を悩ませることだとは思わなかった。総太。困らせてごめん。私の言葉は忘れてくれていいよ」
「──ッ!」
その言葉に、総太は殴られたようなショックを受けた。
「──ダメだ! それはダメだ!」
弾かれたように、声を上げた。
「それに、謝らなきゃいけないのは、俺のほうだ」
情けない。自分は、摩耶の告白に対して慌ててただけで、何も言葉を返していない。
「俺も、摩耶が好きだ。ただ、それが友達として好きなのか、女の子として好きなのか、分からなくて、摩耶とはいつも一緒にいたし、それが自然だと思ってたし、これからもこうやって一緒にいたいと思ってて、それで……」
ああくそっ! と頭をかきむしる。摩耶に伝えたいことがあるのに、言葉にならない。
「……悪りぃ、ホント、謝るのは俺のほうだ。つーか、かっこ悪いな。ホント、ごめん」
自分の情けなさに、心底呆れた。
摩耶は自分の気持ちを真直ぐ伝えてくれているのに、それに対して自分は何も言えず、挙句の果てには謝らせてしまった。最低だ。本当に最低だ。出来ることなら消えてしまいたい。
でも、それじゃダメだ。
上手く言葉にならないとしても、自分も摩耶のように気持ちを伝えないとダメだ。
総太は情けなさにうつむきそうになる顔を必死に上げ、思いを伝えた。
「恋人とか、彼女とか、そういうの分からないけど、俺は、お前とずっと一緒にいたいと思ってる。はっきりしなくて、ホント自分でも情けないと思うけど、自分でも分からない気持ちをいい加減に言いたくないし、だから恋人になろうって今すぐ言えないけど、お前とずっと一緒にいたいって思う気持ちは本当なんだ。……これじゃ、ダメか?」
「ダメじゃない。ダメじゃないよ」
摩耶は泣き笑いのような顔で被りを振った。
「総太は、私とずっと一緒にいたいんだな?」
「ああ」
恥ずかしいが、出来るだけしっかりと頷いた。
「総太は、私が好きなんだな?」
「ああ」
それが友情から来るものなのか、愛情からくるものなのか、今は判断付かないが、好きは好きだ。
「嬉しい。その言葉を聴けて、すごく嬉しい」
本当に嬉しそうに、摩耶が微笑む。
「なあ、総太」
言いながら、摩耶がにじりよってくる。
「なんだ?」
「抱きついていいか?」
「…………我慢しとけ」
にりじよる摩耶に、総太は思わず少し身体を仰け反らせてしまう。
「我慢できないな」
「…………それでも我慢しとけ」
「無理だな」
言い合いながら、どんどん摩耶が近付いてくる。総太はその分身体を仰け反らせ、ちょっと苦しい体勢になるほど、上体を倒した格好になってしまっている。
「……友達同士っぽい抱きつき方なら、まあ、OKだ」
極端に倒した上体を支えている腕を、ぷるぷる言わせながら、総太がよく分からない基準の譲歩をした。
「どういう抱きつき方が友達同士っぽいのか分からないけど、じゃあ、遠慮なく」
総太の首に手を回し、そっと、摩耶が抱きついてきた。
まともに正面から抱きつかれると後ろに倒れしまう体勢のため、横から寄りかかるような形で摩耶が抱きついている。
ふわりと軽い摩耶の体重を肩と胸に感じる。
自分の胸ぐらいまでしかない小柄な身体のため、抱き返せば腕の中にすっぽりと納まりそうだ。
そう思ったら、途端に胸がざわついた。こんな不安定な体勢でなかったら、抱き返してしまっていたかもしれない。
鼻先にある、短く切ったボーイッシュな髪の毛から摩耶の匂いがした。野球観戦でかいた汗はもう引いているが、匂いは残っていた。摩耶の薄く甘い汗の匂いを感じ、胸のざわつきが更に大きくなるのを感じた。
総太はそれを誤魔化すように、口を開いた。
「そういえば、俺、汗臭いだろ? 臭いがうつるぞ」
「確かに汗臭いな。でもお互い様だ。私は気にならないよ。むしろいい匂いだ。ずっとかいでいたい気分だ」
そう言うと、肩にうずめた顔をくりくりさせてきた。
そうしながら、摩耶が甘えたような声を上げてくる。
「総太ぁ」
「……なんだ?」
「好きだぞ?」
「……そうか」
「うん。すごい好きだ」
心底幸せそうに、摩耶が繰り返す。
「好きぃ。総太ぁ、好きぃ」
額を肩口にくりくりさせながら、いつもの男口調を崩し、摩耶がまるで子どものように甘えた声で言ってくる。
「総太ぁ、好きぃ。もう、ほんと好き。大好き。大好き」
「……もう、いいだろ? そろそろ離れろよ」
あまりに好き好き言われるので、さすがに恥ずかしくなって総太が口を挟んだ。
「ふふっ。恋人っぽいだろ?」
「……友達同士っぽい抱きつき方ならOKっだって言っただろ」
「総太は、私と恋人になるのがそんなに気が進まないのか?」
「……気が進まないって言うか、踏ん切りが付かないって感じだ……たぶん」
総太のセリフを受けて、摩耶が頷いた。
「ん。じゃあ、その踏ん切りを付けさせてあげるよ」
言うなり、摩耶が強く寄りかかり、総太を押し倒した。
「ちょ、なっ……!?」
あっという間に、摩耶が総太に馬乗りになる。
「ちょ……、待て! 何するつもりだ!」
突然の行動に、総太は泡を食った。慌てて逃れようとするが、馬乗りになった摩耶に遮られる。自分の胸ぐらいまでしか背丈が無くて、華奢で軽いはずなのに、摩耶はまるで鉛にでもなったかのようにビクともしなかった。
「ま、待て。摩耶、落ち着け」
「私は落ち着いている。落ち着いていないのは総太の方だ」
摩耶は先程と同じように微笑みを浮かべているが、気のせいか瞳は潤み頬が上気している。
「総太、実はな」
「な、なんだよ」
慌てている総太とは対照的に、摩耶の口調は淡々としている。
「さっきから、総太が私の部屋に入ったときから、実はもう限界だったんだ」
「げ、限界って……な、なにが?」
その質問には答えず、摩耶が淡々と続ける。
「部屋で総太と二人っきりになっただけで限界だったのに、総太が抱きつかせたりするから、もう限界なんて余裕で振り切っちゃった感じだ」
「抱きつかせたって……。お前が抱きついてきたんだろ……」
もう何も聞こえていないかのように、総太のつっこみも無視して、更に摩耶が淡々と続ける。
「だからな? もう、ダメだ。私の理性は、特大場外ホームランなんだ」
そう告げたと同時、がばっと摩耶がTシャツを脱ぎ捨てた。
唖然とする総太の目の前で、白いスポーツブラを身に付けた摩耶の上半身が露になる。
総太はあまりに突然のことで声が出ない。
摩耶は何の飾り気もないコットンのスポーツブラに手をかけ、欠片も躊躇せずに捲り上げた。そのまま首から抜き、無造作に放る。
仰向けになった総太に馬乗りになった摩耶が、止める間もなくトップレスになった。幼馴染みの裸の上半身が、目の前に晒される。
日焼けの跡が、まるで小学生のように半そでの形でついている。
普段、日焼けした腕や脚を目にしているせいか、日に焼けていない部分の肌の白さが際立って見えた。びっくりするくらい、白く、瑞々しい。
総太は、こんなことは止めさせないとダメだと頭で分かっていつつも声が出ず、身体も動かなかった。いけないと思う気持ちとは逆に、見慣れた幼馴染みの、見慣れない素肌を凝視してしまう。
透き通るような白い肌に、鎖骨が浮き出ている。その下には、辛うじて膨らみが確認できる程度の、なだらかな胸の曲線が描かれている。
子どもの様な日焼けの跡と、薄い盛り上がりの頂点にある綺麗な桜色とのギャップが、総太の脳味噌を直撃した。
無邪気さを感じさせるような半そでの日焼け跡とは対照的な、艶かしい曲線を描く真っ白い胸と桜色の頂点。華奢で小振りな胸が、かえって総太には耐え難いほど扇情的に見えた。とても目を離すことが出来ない。
「そんなにじろじろ見られると、さすがに恥ずかしいな」
「──あっ! いや、その」
摩耶の声で、総太は我に返った。
「でも、私の胸にそんなに夢中になってくれるとは思わなかったから。嬉しい」
頬を赤く染め、潤んだ瞳で摩耶がはにかむ。その表情も、総太の心臓を大きく跳ねさせ、言葉を奪った。
「さっき、総太は大きな胸が好みだって言ってたから、少し自信がなかったんだ」
馬乗りになったまま、摩耶がこちらを見下ろしている。
「総太ぁ……」
囁くように言いながら、摩耶が上体を倒してくる。
馬乗りのまま、覆い被さるような位置まで摩耶が近付く。
「私の身体は、ちゃんと興奮できるか?」
はあっと、溜め息のように荒い息を吐きながら、摩耶が潤んだ瞳で問いかけてくる。
ささやかな胸の膨らみは、下向きになって重力に引かれてもほとんど形が変わっていない。だが、その小さな胸が、目の前でふるんと微かに揺れている。
小さいのに、ものすごく柔らかそうなその揺れに、総太は興奮のあまり喉がヒリついた。思わず唾を飲み込む。
「触っても、いいよ?」
囁くような声で、摩耶が誘う。
総太は、引き寄せられるかのように手を延ばしていた。
震える指先が、胸を捉えた。そこは、ほとんど膨らんでいないくせに、予想以上に柔らかく、温かかった。
「んっ……冷たい」
総太に触れられた感覚と指の冷たさに、摩耶がわずかに震える。
壊れ物を扱うかのように、総太がぎこちなく指を動かす。その動きに合わせて、なだらかな胸がふにふにと形を変える。
「ん、ん……」
指先で撫でるような繊細な愛撫に、摩耶が吐息を漏らす。その反応に、総太は既に限界まで高まっている興奮が、更に昂っていくのを感じた。
初めて触る女の子の胸の感触は、総太の想像を遥に越えていた。柔らかくて温かくて、素肌の滑らかな感触は、しっとりとしていて指に吸い付くようだ。
申しわけ程度に膨らんだささやかな胸のサイズと、信じられないくらいの柔らかさは、壊れそうな危うさを感じさせ、総太はほとんど恐怖すら覚えた。
だが、手の動きを止めることが出来ない。いつまでも触れていたいと思ってしまうような、総太の劣情をダイレクトに刺激する柔らかさがそこにあった。
高まる興奮で、指に自然と力がこもるが、総太はわずかに残された理性でそれを押さえ込んでいた。出来るだけ優しく、彼女を扱いたい。
「ん……ん……はっ、ん……。総太……」
上から、摩耶の切なげな声が聞こえる。
胸を凝視していた視線を上げると、摩耶が潤んだ瞳で見つめていた。
「もう少し、んっ。強く、して?」
「あ、ああ」
いつもの摩耶らしからぬ切なげな声に、総太は唾を飲み込むようにして頷いた。
おずおずと、胸に手のひらをかぶせる。小さな膨らみは容易に手の中に納まった。しっとりとした柔肌が手のひら全体にぴったりと吸い付き、総太の興奮を高める。
総太はゆっくり手を動かした。
「は……んっ、ふぁ、あ……うんっ」
馬乗りになった摩耶に、下から手を延ばして胸を揉む。
若干、下から掬い上げるようにしながら、やわやわと手を動かす。
「ん、ん、あっ、はぁ……。総太ぁ……」
摩耶の半開きの口から、吐息のように喘ぎが漏れる。眉を切なげに寄せ、瞳を潤ませ、顔は真っ赤だ。
「総太、もっと、強く……」
「こ、このくらいか?」
「ふあっ! んっ、そう、そのくらい。ああ……っ」
撫でるように揉む手を強めると、途端に摩耶が心地良さそうな声を上げた。
「ああ……総太ぁ……きもちぃ……。胸、もっと……」
摩耶が小さな身体をもじもじと揺らしている。半開きの口からは熱い吐息が漏れ、蕩けたような表情で喘ぐ。
「きもちい、ああ……いいよぅ、総太ぁ、きもちいい……。ふあぁ……」
摩耶は気持ちいい気持ちいいと繰り返し、快感に身を委ねている。
もじもじと小さな身体をくねらせ、荒い息をつく。真っ赤になった顔は、完全に欲情して蕩けた笑みで総太を見つめている。
摩耶のそんな表情は見たことがなかった。総太は初めて見る摩耶の表情に、脳味噌が焼き切れそうな興奮を覚えた。
「総太ぁ、総太ぁ、総太ぁ……」
気持ち良くてどうしようもないような様子で、摩耶が総太の名を連呼する。こんな甘い声も、総太は初めて聞いた。
媚びるような、甘えるような、とろんとした調子で、摩耶が自分の名を口にしている。そのあまりの淫靡さに、総太はもう頭がおかしくなりそうだった。
その昂る興奮は、行動となって表れた。
「あッ!? ふああッ!」
総太は弾かれたように上体を起こし、摩耶の胸にしゃぶりついていた。
「あッ、やッ、総太、それ、やッ! ふあ、あああ……っ!」
摩耶は不意をつかれた格好となり、予期せぬ刺激に身体をびくびくと震わせる。
可愛い乳房に舌を這わせ、さっきよりも強めに揉みしだく。
「やッ、やッ、やぁッ! 総太、ひ、あッ、ん……あッ」
総太の愛撫が、鋭い快感となって摩耶の小さな身体を駆け巡る。その気持ち良さは、先ほどの緩やかな愛撫とは比べ物にならない。
「ああッ! 総太、総太ぁ!」
不馴れな快感に翻弄され、摩耶が身体全体でイヤイヤをするように、悶える。
目の前でくねくねと反応する摩耶の身体と、頭の上から聞こえる可愛い嬌声に、総太の劣情が激しく刺激される。
手と舌で愛撫された胸は、可愛い乳首をぷっくりと立たせていた。可愛らしい桜色のそれを、総太が唇で銜える。
「ひぁあッ!」
途端に、摩耶が反応した。
敏感になった乳首を銜えられたまま口中で舌で転がされ、また片方の乳首も人指し指と中指の付け根で、乳房を揉むと同時に挟んで刺激される。
「ふああッ! それ、総太、それ、あッ! あッ! や、だめ、だめ」
身体を駆け巡る快感に、摩耶は総太の頭を胸に抱いて耐える。
「総太ぁ、むね、きもちぃ、ああッ、もう、総太ぁ」
気持ち良くてどうしようもなくて、総太の頭をきつく抱き、かぶりを振る。口の端から涎を垂らしてしまっているが、摩耶にはそんなことを気にする余裕がなかった。
「総太ぁ、総太ぁ……。もうだめ、もうだめだよぅ、こんな、きもちよすぎ、て、もお……」
総太から与えられる快感は、自慰で得られる快感とは次元が違っていた。
信じられないくらい気持ち良い。快感が、胸から背筋を通って身体の四肢まで行き渡り、甘えるようなはしたない嬌声が、勝手に喉から出てくる。
身体もひとりでにびくびくと震えてしまい、腰の奥がじんじんと熱を持って行くのを感じた。
「もぉ、だめぇ……! 総太ぁ、おねがい、もぉ、わたし、総太、総太の、総太のあれ……」
腰の奥で燻る熱を感じて、摩耶はもう居ても立ってもいられなくなった。はしたなくおねだりをしてしまう。
「総太ぁ、わたしもう……、おねがい総太、総太の、あれ、あれ、ね? 総太ぁ……」
もうなりふり構っていられなかった。
お腹の奥が総太を欲している。腰が蕩けたようにふわふわして、お尻が勝手にもじもじと揺れる。
総太のものでお腹の中を埋めて欲しくて埋めて欲しくて、密着した総太の腰に、くいくいと腰を振って下腹部を擦り付けてしまう。
「摩耶……!」
今まで夢中になって胸を攻めていた総太だが、摩耶の懇願に愛撫を止めて胸から顔を離した。
摩耶のあまりのいやらしさに脳が煮えたぎって、目眩すら覚える。
摩耶が、幼馴染みの女の子が、はあはあと息を荒げ、瞳を情欲一色に染め、完全に欲情して自分を欲している。
「総太、わたしもうほんとにだめ……。ね? 総太、わたしもうこんなになってるから、だから……」
はあはあと荒い息で、摩耶がまくしたてる。
腰を浮かし、もどかしげにハーフパンツをショーツごとずり下ろし、“こんなになってる”ところを見せつける。
「っ!」
その様相に、総太は息を飲んだ。
二人は寄り添うような距離で向き合っており、火照った体温が伝わってくるような至近距離で、摩耶が膝立ちになって下腹部を総太の鼻先につきつけている。
太ももの中程から下は日に焼けて、その上は上半身と同じように真っ白だ。
華奢な腰と、ほっそりとした太もも。
溢れ出る愛液でおもらしでもしたかのように内ももまでびっしょりと濡らし、湯気立っているような熱気が伝わってきそうなほど、とろとろになっている。
目の前の真っ白く華奢な腰に、総太は釘付けになった。興奮のあまり心臓の音が聞こえてきそうなほど早打ち、息も荒くなる。
摩耶も総太の興奮を感じ取り、お腹の奥から更に温かいものが溢れてくるのを感じた。
新しく溢れた愛液が秘所から漏れ、まるで壊れた蛇口のようにとろとろと秘裂から太ももに流れる。滴る愛液は膝下まで垂れていき、ずり下げたハーフパンツに染みを作った。
総太に“こんなになってる”ところを晒している羞恥心と、それに伴う興奮で、腰が勝手にくねくねと揺れる。その度に割れ目から欲情の印が糸を引いて落ちた。
「総太ぁ……。おねがいだから、わたしのここ、総太ので……」
お願いされるまでもなかった。
総太もトランクスごとズボンを下ろし、陰茎を露出させる。
そこは当然ガチガチに硬化しており、ビクビクと震えながら雄々しく起立している。
「ああ……ッ!」
欲しくて欲しくてたまらない総太のそれを目にし、摩耶が熱にうかされたような溜め息をつく。
一瞬だけ視線を合わせる。お互い、言葉はいらなかった。
摩耶は腰を下ろして行き、総太は自分のものを支えながら摩耶の腰に手を添えて誘導する。
熱いぬかるみに先端が接触。一瞬、「んっ」と摩耶が震えただけで、そのままほとんど速度を変えずに、摩耶の腰が落ちて行く。
細くて白い腰に、赤黒く充血した肉棒がめり込んで行く。
「……んッ!」
内部の抵抗も一瞬だった。
摩耶がわずかに眉をしかめる。あまり痛みはなかったらしい。
摩耶は野球好きで、運動全般が好きなため、自然と膜の亀裂が大きくなっていたようで、破れる部分があまりなかったようだ。
総太は摩耶を気遣うように顔を覗き込んだが、そこに苦痛の色は確認出来なかった。
逆に、肉棒が膣にめり込んでいくほど、愉悦の色が広がって行くのが見て取れた。
「あっ、あっ、ああ……ッ!」
ガチガチにいきり立ったものを飲み込んで行きながら、摩耶は心地よさげな溜め息をはいた。
膣内にたっぷり愛液が溜まっていたらしく、ぷちゅぷちゅと音を立てて肉棒との隙間から愛液が押し出されてくる。
摩耶の膣内は、ガチガチになったペニスが蕩けてしまいそうに温かくてトロトロだった。
押し出されて溢れてくる愛液は、驚くほど熱く、幹を伝って根元に溜まる。
「あ、あ、あ……。ふああ……!」
とうとう肉棒は摩耶の内部を隙間なく埋め、その感覚に摩耶が幸せそうに身体を震わせた。
小柄な摩耶には全部入らず、根元が少し余っている。
その余っている部分の存在が、自分のものが摩耶のナカを埋め尽くしていることを強く実感させる。
小さくて、自分の胸ぐらいまでしか身長がない摩耶に、自分のものがめり込んでいる。
彼女の細い腰の中を自分のいきり立ったものが隙間なく埋めていると思うと、股間に更に血液が集中した。
「……あッ!」
ぴくんと、摩耶が可愛らしく反応した。
「はあ……。総太の、ナカで大きくなった……」
とろんとした表情で、摩耶が嬉しそうに微笑む。
その表情に、総太はもう居ても立ってもいられなくなって、摩耶の腰を掴んだ。
対面座位で繋がって、荒い息がお互いの顔をくすぐる。
「摩耶、俺、もう動かしたい。……その、いいか?」
「うん。私も、動きたい」
そのまま、至近距離で見つめあい、どちらからともなく顔を近付けていった。
「……んっ」
軽く、唇をあわせる程度のキス。
鼻と鼻がくっつく距離で、見つめあう。
「ファーストキスだ」
「俺も。……順番、ちぐはぐだな」
「ふふ、そうだな」
くすぐったそうに笑って、またキス。
「ん、ん……っ」
ちゅっちゅとついばむようにキスをして、摩耶が総太の首に腕をからめる。
「ね、総太……」
「うん。摩耶、動くぞ?」
「うん、気持ち良く、なろう?」
ほとんど唇が触れあっている状態で、囁きあう。
またどちらからともなく、腰を動かし始めた。
「あ、あッ、んッ! は、あン」
ゆっくりと、摩耶が上下する。
腰の動きに合わせて結合部から水音が響き、摩耶の半開きになった唇からも喘ぎが漏れる。
「はっ、ふあッ、ん、あっ、あ、ふ、うン」
胸を散々いじられたせいか、摩耶の膣内はまったくいじっていないのにも関わらず、とろとろで、初めての肉棒の抽送もスムーズだ。
とろとろになってはいるが、きつく締まり、不規則に襞がからまってペニスを刺激する。
同時に、それは摩耶の膣内も刺激されていることになる。
「あッ、あッ、はあ、あッ」
腰の動きと同時に漏れる喘ぎに、甘い響きが広がり、至近距離で見つめあう表情にも愉悦の色が広がって行く。
「ん、あン、ふあぁ、きもちいい……!」
うっとりとした声を上げ、摩耶がとろんとした表情で微笑む。
総太の首に絡めた腕を引いて、より密着し、摩耶がはしたなく腰をくねらせる。
「あッ、あッ、これ、これ、総太の、総太のが、ああ……ッ!」
総太の目を見つめながら、摩耶が甘い声で喘ぐ。
摩耶は、総太のものが自分のナカに入っているのがたまらなく嬉しく、たまらなく心地よかった。
総太のものの存在をより感じようと、摩耶が腰を前後左右にくねらせる。
「総太の、私のナカ、ああ、これ、すごい……きもちぃ……!」
ガチガチに硬化した肉棒で膣内を擦られる度に快感が腰から全身に広がり、頭の中が快楽一色に染まっていく。
半開きになった唇から涎を垂らし、表情を蕩けさせ、腰を振って快感を貪っている。
いつも男口調で、少年のような格好の摩耶が、一心不乱に腰を振って、こんなに気持ち良さそうにとろんとした表情になっている。
その様子に、総太は例えようのない興奮を覚えた。
「摩耶、俺も、気持ち良い……!」
前戯の時から摩耶のいやらしい痴態を目にし続けた総太は、気を抜くとすぐに達してしまいそうだった。
込み上げる射精感に、奥歯を噛み締めて耐える。
「総太、総太ぁ……! わたしも、きもちいい……あ、ふああン」
甘えるような声で、摩耶が喘ぐ。
「あン、はっ、あッ! ふあッ! やぁ……!」
くねらせるような腰の動きは、いつしかガクガクと激しい運動に変わり、摩耶はもう、総太のもので気持ち良くなることしか考えられなくなっていた。
「きもちいッ! きもちいッ! あああ……ッ!」
耳まで赤くした顔を蕩けさせ、荒い呼吸を甘い吐息に変えて吐き出す。
「総太ぁ、すきぃ、すきだよぅ、総太ぁ」
心の底から快楽に染まって、甘い声で摩耶が喘ぐ。すきぃすきぃと連呼し、頭の中はもう、総太の事しか考えられなくなっている。
とにかく総太が好きで、総太のものが気持ち良くて、総太とこうして抱き合っているのが幸せで、頭がおかしくなるくらい気持ち良くて、好きで、好きで、大好きで。
「総太ぁ、総太ぁ、総太ぁ」
語尾にハートマークを付けて、摩耶が連呼する。
激しい情事とは不釣り合いな無邪気な笑顔で、摩耶が微笑んでいる。
「摩耶……ッ!」
自分にこんなに好意を伝えてきて、自分とのエッチでこんなに気持ち良さそうにして、とろとろに蕩けている摩耶に総太はもう、どうにかなりそうだった。
もう限界に到達しようしている射精感に耐えつつも、総太は摩耶の腰を掴んで激しく突き上げ始めた。
もっと乱れる摩耶が見たい。もっと快感に悶えて可愛く喘ぐ摩耶が見たい。
細い腰を掴んで引き寄せるようにしつつ、下から突き上げる。
「ああッ! ああーッ! やッ、やあッ! 総太ぁ! こし、おく、あああ、おく、ああああッ」
射精寸前のビキビキに膨らんだペニスで、腰の中をめちゃくちゃに蹂躙される。
今まで以上に太い肉棒で膣内を広げられ、子宮口を突かれ、摩耶は乱れに乱れた。
「こし、おく、だめ、だめ、それ、あああッ!」
戸惑ったようなセリフだが、ハートマークが付いているかのような甘い声のため、もっともっとと誘っているように聞こえる。
実際、誘っているのだろう。だめぇ、だめぇと言うセリフとは裏腹に、とろんとした表情で喘ぎ、涎が駄々漏れになってる。
「ああーッ! ふああッ! こし、なか、あああッ! だめだめだめもうだめぇッ!」
子宮口を容赦なく突かれ、今までとは比べ物ならない快感が腰の中で爆発している。
今までだって頭の中が快楽一色に染まるくらい気持ち良かったのに、それを上回る快感が子宮口を突かれる度に発生し、全身を駆け巡る。
身体中の神経が1つ残らず快楽に染め上げられて行き、気が狂いそうな性感に、摩耶はかぶりを振って耐える。
「総太、総太、もう、わたし、だめ、イッちゃう、イッちゃう」
「俺も、もう……ッ!」
「総太、総太、イク、だめ、わたしだめもうこしきもちぃああイク」
摩耶はもう、総太と一緒に絶頂を迎えることしか頭になく、完全に快感に支配された状態で、腰をがむしゃらにくねらせ続ける。
「すきぃ! 総太ぁ、すきぃ! だいすきぃ!」
身も心も腰の中も、とろとろに蕩け、総太と摩耶が絡み合う。
お互いの快感が快感を呼び、普通ならとっくに絶頂を迎えているはずなのに、どんどんどんどん高みへと上って行く。
「あーッ! あーッ! イクッ! イクッ! やあイクう!」
「摩耶、出る……ッ」
ビクンッと、肉棒が跳ねた。
同時に、摩耶も絶頂を迎えた。
「あああイクぅッ! イッ、あああーーーッ!!」
ぎゅうっと抱き締めたまま仰け反り、絶頂に身体を震わせる。
そこへ、総太の溜めに溜めた精液が、叩き付けるような勢いで子宮口にぶつかってきた。
「あーッ! あーッ! あーッ! あーッ!」
絶頂中に新たな刺激を受け、摩耶がさらに高みへと上った。
「あッ! ふああああッ!」
ガクガクガクと身体を痙攣させ、強過ぎる快感から逃れようとするかのように、総太を強く抱き締めたり放してみたりしている。気持ち良すぎて、どうしていいか分からないといった様相だ。
「あ、あ、あああ……!」
可愛らしく悶える摩耶を、総太はぎゅっと抱き締め、繋がったまま余韻を楽しんだ。
* * * * *
「なあ、総太」
「……なんだ?」
ベッドの上で、二人で並んで座っている。
幸せそうに総太に寄り添い、摩耶が問いかけてくる。
「どうだ? 踏ん切りは付いたか?」
踏ん切りが付いたというか、付けさせられたというか。
「……まあ、吹っ切ったって感じだけどな」
なんだかもう、色々なものの踏ん切りが付けさせられ、色んなものが吹っ切れた気分だった。
「ん、そうか」
摩耶は満足そうに微笑み、総太の肩に頭を乗せる。
「なあ、総太」
「ん?」
「子供は沢山欲しいな?」
「……もう子供の話かよ」
気が早過ぎる。まだ結婚すらしていないのに。
「うん。沢山欲しいからな。早めに、計画的にいきたいところだ」
「……沢山ってどのくらいだ?」
摩耶の事だ、野球のチームを1つ作れるくらい、とか言い兼ねない。
「ん、そうだな」
総太の質問に、摩耶が嬉しそうに答えた。
「西武ドームのスタンドを、私と総太と二人の子供で埋めて、貸しきり状態にするのが夢だな」
野球のチームではなく、観客のほうだったか。というか、何万人子供を作るつもりだ?
「……無茶言うな」
「ダメか?」
「ダメ以前に、不可能だ」
「ん、そうか? やってみないと分からないぞ?」
言いながら、抱きついて来る。
うっとりした表情で、囁く。
「さっそく、試してみようか?」
「ちょ、待て、ダメだ!」
総太の抗議を無視して、摩耶がのしかかる。
「総太、大好きだ」
心から幸せそうに、摩耶が総太の唇を塞いだ。
終わり
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