私立一本松高校、2年1組、浦内鼎(うらない かなえ)は、彼女の特技によって学校内外で有名な生徒だった。
その特技とは、『占い』。
鼎の家は代々続く占い師の家系で、先祖は平安時代の卜部氏まで遡ることが出来ると言う。
その的中率たるや、実に100%。
彼女の教室には、休み時間の度に占い希望者の列が出来る。その列は、恋愛運占い希望の女子生徒がほとんどだが、男子生徒の数も少なく無く、中には教師や学校の理事長までもが列に加わることがあるほどだ。
そんなある日の昼休み。
鼎の教室は、いつものように占い希望者が列を成していた。その中に、芹住真(せりずみ まこと)はいた。
真は昨日この学校に転入してきたばかりで、鼎の占いを受けるのは今回が始めてだ。
真の目的は、表向きは彼女に運勢を占ってもらうことだが、彼にとっては彼女との接触自体が大きな目的でもあった。
* * * * *
「この学校に来たなら、浦内さんの占いを体験しないとな!」
「そうそう、すっごく当たるんだよ!」
「なんせ的中率100%だからなぁ」
昨日、転入したばかりの真に、クラスメイトが口々にそう言ってきた。
「100%って……。占いだろ?」
真にはにわかに信じられなかった。というか、単に誇張して言ってるだけのように聞こえた。
普通に考えて、100%当たる占いなんてあり得ない。某無免許外科医だって、手術の成功率は97%とか99%とからしいのに。
「占いだけどさ、100%なんだよ」
「外したところなんて見たこと無いよね?」
「無いな。まあ、芹住君が信じられないのは分かるよ」
「俺も占ってもらうまでは信じられなかったな」
「私も! とにかく一度占ってもらいなよ!」
あまりに熱心に薦めるので、「じゃあ、そのうち占ってもらいに行ってみるよ」と答えた。
その日の帰り、真はなんとなく件の浦内さんがいるという1組の教室を覗いてみた。
そこには放課後にもかかわらず十名近くの希望者が並んでおり、噂の浦内さんが占いの真っ最中だった。
真は彼女を目にした瞬間、
「うぁ、かわ……っ!」
思わず、声が出た。
辛うじて、「可愛い」という形容詞の後半部分は飲み込んだが、目は彼女から逸らすことが出来なかった。
まわりの生徒よりも頭二つ分は低い、小柄で華奢な身体。
髪の毛は烏の濡れ羽のように艶やかな漆黒で、ゆるやかにウェーブがかかっている。その毛先はお尻の方まで伸びており、小柄な身体を包み込んでいるかのようだ。
髪の毛とは対照的に、肌は病的なまでに白い。前髪が顔の半ばぐらいまで伸びているため、余計に白い肌とのコントラストが際立っている。
長い前髪の向こうに見え隠れしている瞳は、髪の毛と同じ漆黒で、吸い込まれそうになるほど仄暗い。
感情を感じさせないような瞳だが、まるで黒曜石のような輝きを放っており、同色の髪の毛に半ば隠れているのにもかかわらず、不思議な存在感があった。
まさに、一目惚れだった。
真の頭の中は最早「可愛い」という形容詞しか存在せず、ほとんど呼吸すら忘れている始末だった。
「──はい。では4時になったので、浦内さんの今日の占いはここまでです」
その声で、真はやっと我に返った。
見れば、鼎の隣にいる女子生徒が「今並んでいた人で占ってもらえなかった人は、明日優先的に占ってもらえるのでノートに名前と希望の休み時間を書いてくださーい」などと言っている。(真は後で知ったことだが、鼎のクラスには「占い補佐係」が設置されており、係の者が希望者の列の調整や受け付けなどを行っているのだ)
どうやら今日の占いは終わってしまったようだ。
真はもっと彼女を見ていたい気分だったが、さすがにじろじろ眺めているのも失礼すぎる。
後ろ髪を引かれる思いいっぱいで、学校を後にした。
* * * * *
そんなこんなで翌日。
受け付けの影響で、その日で一番早く占ってもらえるのは昼休みらしく、真は素早く昼食を済ませ列に並んでいた。
「はーい。次の人どうぞー」
程なくして、占い補佐係に誘導され、真は鼎の前に座った。
「よろしく、お願いします」
間近で見る彼女は本当に可愛く、真は声が裏返りそうになった。
小柄すぎて、制服のサイズが身体に合っていないようだ。手の甲までブレザーの袖が覆い、白い指先が可愛らしく覗いている状態になっている。
うつむくように目を伏せているので、彼女の黒曜石のような綺麗な瞳は見ることが出来ないが、人形のように長い睫が、白い肌に影を落としているのが見て取れた。
「占ってもらいたい内容はなんですか?」
鼎ではなく、占い補佐係の女子が尋ねてきた。鼎は先ほどからずっとうつむいたままだ。
真は思わず呆然と見とれてしまっていた頭を切り替え、尋ねてきた女子に答えた。
「えっと、今週の運勢で」
本当は恋愛運を占って欲しかったが、なんとなく気恥ずかしく、とりあえず今週の運勢を占ってもらうことにした。別に占いは今日しかやってもらえないわけではないのだから、恋愛運は折を見て占ってもらえばいい。
とにかく、彼女とある程度親しくなるのが先決だと真は考えていた。
「……今週の、運勢ですね?」
真の注文を聞き、鼎がゆっくりと顔を上げた。
始めて聞いた彼女の声は、聞き逃してしまいそうな程、か細く小さいものだった。
「うん。お願いします」
「……わかりました。……私に、目を、合わせて下さい」
鼎の占いは手相やタロットではなく、相手の目を見ることで運勢を読み取るらしい。
真は若干緊張しながら、言われた通りに彼女に目を合わせた。黒曜石のような瞳が正面から飛び込んできて、真は思わず背筋を伸ばした。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……あなたは……」
数秒後、鼎は見つめあったまま、か細い声でそう切り出した。
「……あなたは、今日、一つしか持っていないものを失い、同時に、一つしか持っていないものを、受け取ります」
ひどく漠然とした言葉だが、一つしか持っていないものというのは、なんとなく怖い想像を掻き立てられる。
もしかして、命とか、心臓とか肝臓とか、そういう類のものなのだろうか?
……もしそうだとしたら、とんでもないことになる。
『なんせ的中率100%だからなぁ』
不意にクラスメイトのセリフが蘇り、真は少し怖くなってきた。
そんな真の心配をよそに、鼎の占いは続く。
「……それ以外は、今週は、特に、大きな変化はありません。……明日以降、毎日、今日と同じことを、繰り返すことになります」
また漠然とした言葉が出てきた。占いとはそういうものかも知れないが、出来ればより詳しく知りたいのが人情だろう。それに、的中率100%を謳うなら、もっと詳細を聞かせてもらいたい所だ。
「えっと、質問いい?」
「……どうぞ」
真は少し緊張しながら、尋ねてみた。
「一つしか持っていないものって、何?」
「……あなたが失う方と、受け取る方と、どちらですか?」
「あ、別なんだ? えっと、じゃあ……」
ちょっと迷ってから、悪そうな方を先に聞いてみることした。
「じゃあ、失う方って何?」
「……童貞です」
…
……
………
…………
「………………は?」
あまりにさらりと言われたため、何と言われたのか、はっきり聞き取れなかった。
何か物凄いことを言われたような気がするが、真は気を取り直して聞き直してみた。
「……ごめん、もう一度お願い」
「……童貞です」
「えーーと! なんか俺の耳がおかしくなったみたい。ごめんもう一回いいかなあ?」
「……ですから、童て「わあーーー!」
思わず声を上げて遮った。
「ちょ、まっ、そっ……」
ちょっと待ってそんな、と言ってるつもりで、真が慌てる。慌てながら、真はあることに気付いた。
「あ、そっか。俺が転入生だから、そうやってからかってるんだ? なんだもー。悪趣味だなー、ねえ?」
ねえ? と、隣にいた補佐係の女子を見ると、真以上にぽかんとしていた。
「あ、あれ?」
見ると、クラス中の生徒がぽかんとこちらを見ている。
「……あなたが受け取る方も、知りたいですか?」
周りの反応をまるで気にしていないかのように、鼎が聞いてきた。
「う、受け取る方って……」
失うのが童貞で、それと同時に受け取るものと言ったら……。
「……処女です」
でーすーよーねー。
「……私の」
…………。
今度こそ、真は固まった。
硬直している真をどう思ったのか、鼎が更に口を開いた。
「……あなたは、今日の、昼休み終了のチャイムがなる直前に、私から、愛の告白を受けます。……そして放課後、私の家に、招待され、そこで、あなたは童貞を失い、私の処女を受け取ります」
とつとつと、彼女が言い募った。
先ほどと変わらぬか細く小さい声だが、周りが物音一つない空間となっているため、教室中に響いている。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
教室中を巻き込んだ沈黙の中、真はもう、完全に思考が停止していた。
告白? 愛の? 彼女から? いや、彼女に一目惚れしたのは俺のほうで。だから告白するのは俺の方なんじゃ? でも彼女から告白するってことは、両思いで、いや、俺は一目惚れだから……あれ??
完璧にループ状態に陥った真に、鼎はいつもの調子で口を開いた。
「……あなたが、好きです。……私と、結婚して下さい」
直後、
キーン、コーン、カーン、コーン……。
「はい、よろこんで」
彼女の占い通り、チャイムが鳴り響く中、真は気がつけば頷いていた。
* * * * *
「……どうぞ、上がって下さい」
「お、お邪魔します」
放課後、気がつけば真は鼎の家に招待されていた。
あの告白の後のことは、何も覚えていないし思い出したくない。
次の休み時間が始まる頃には、「童貞と処女の交換会が行われるらしい」という噂が学校中に知れ渡り、全校生徒が動物園のパンダよろしく、自分を見物しにきたことなんか覚えていない。
学校中の人間に、「芹住真は童貞」と暴露された現実なんて、誰だって記憶から抹消したいと思うだろう。
もちろん、男子高校生の中では童貞の方がかなりの多数派なのは分かっている。でも、だからといって好き好んで「○○は童貞だ」と暴露されたい男なんていないはずだ。
だいたい、『交換会』ってなんだ? クリスマスのプレゼントじゃないんだぞ。
そのうえクラスメイトにまで、
「よう、童貞!」
とか、
「都会の人間は進んでるっていうけど、そうじゃない男もいるんだな、童貞!」
とか、散々からかわれたことなんか覚えてないったら覚えていないし、
「うるせえ! そういうお前らはどうなんだ!?」
と言い返したら、
「……死ね! あっと言う間に死ね!」
とか、
「どどどど童貞ちゃうわ!」
とか、泣きながら突っかかってきたことなんか記憶に無い。
そんな様子を見て、
「芹住君が、転入二日目にしてこんなにクラスに馴染んでくれて、先生はとっても安心しました」
なんて、ちょっと頭がお花畑チックな担任はきっと幻に違い無い。
だいたいこんな馴染み方はしたくないし、教師として安心していいのか?
おまけに職員室に呼び出され、初めて見る保健体育の先生から自己紹介もそこそこに、マンツーマンの性教育が始まったことなんか覚えていないし、その内容が教科書に載っていないような極端に実技的なものだったことなんか特に覚えていない。
「とにかく爪を切れ! 深く切ってヤスリを掛けろ!」
と言われ、その場で爪を切らされたこととか、
「胸は丁寧に触れ! 間違っても揉みしだくなよ! 思春期の女性の乳房には内部に芯が(略)」
とか、そんなことを言われたなんて記憶にあってたまるか。
続けて理事長室にも呼び出され、
「鼎さんのお宅は平安時代から続く由緒正しい名家であり、我が校はもちろん、この町にとっても大変重要な御家だ。くれぐれも粗相の無いように」
とか、
「きみは生徒だが、浦内家の次期当主である鼎さんに見初められた以上、一部の校則は超法規的措置も取られる。具体的には不純異性交遊がそれに当たる。存分に励みたまえ」
とか言われたことなんか、これっぽっちも記憶に無い。
それでも教師か!? ダメでしょそんなこと推奨しちゃ! と反論したけど、聞く耳を持ってもらえなかった。もちろん、それも覚えていない。
そんなことを思い出し……いや、思い出したりなんかしない。あんなのは現実じゃない。と必死に頭からかき消しながら、長い廊下を進む。
鼎の家は、名家らしくとても歴史を感じさせる建物だった。決して古いだけではなく、まるで文化遺産のような、一種独特な神聖不可侵的な雰囲気を感じさせる。
真は、古いのによく手の行き届いた廊下を、鼎の後をついて歩く。
程なくして、鼎が障子の前で振り返った。
「……ここが、私の寝室です」
相変わらずか細い声で言いながら、障子を開け放つ。建付けの良い障子は、ほんの微かに摩擦音を立てるのみだ。
「あー、おうちの人は?」
部屋には入らず、真が訪ねた。鼎の家に入ってから、一度も家人の姿を見ていなかった。
鼎の家族構成は正確には知らないが、両親は健在らしいし、これだけ家が大きいのだからお手伝いさんがいてもおかしくないように見える。
真の疑問に、鼎は事も無げに答えた。
「……今日は、誰もいません」
「ああ、そうなんだ? じゃあ……」
おうちの人がいないのにお邪魔するのは悪いから、また今度にさせてもらおうかな! と言おうとした真を予測していたかのように、鼎が口を開いた。
「……正確には、家を、空けてもらっています。……家族は、全員、今日ここで行われることを、知っていますから」
「…………知っているって……?」
「……安心してください。……家族は、行為の、細かい内容までは、知りませんから」
「ああ、良かった。それは安心だ。……って、おおい!」
思わず突っ込んだ。
「そういうことじゃないでしょ!」
「……?」
鼎がこちらを見上げたまま、不思議そうに小首を傾げる。
その仕草に、うっ、可愛いなちくしょーめ! と内心悶えながら、真は問いつめた。
「知ってるって、つまり、なんだ、その、ここで、俺と浦内さんが、」
「……鼎です」
真のセリフを鼎が遮った。
どうやら名前で呼べとの事らしい。
「あー、うん。俺と鼎さんが、」
「……鼎さんではなく、鼎と、呼んで下さい」
「いや、さすがに呼び捨ては」
「……では、おまえと、呼んで下さい」
「あれ!? 呼び捨てよりハードル高くなってるよね!?」
おまえ、なんて、演歌とか昭和の頃の歌詞じゃ無いんだから……。
彼女は家も古風なら、発想も古風なようだ。
「……それならば、鼎ちゃん、とか、かなちん、とか、呼んでもらえると、私が凄く、喜びます」
「…………」
別に古風なわけでは無かったようだ。
淡々とした口調なので、冗談なのか本気なのか分からない。というか話が進まない。
「とりあえず、鼎さんで」
「……分かりました」
ちょっと不満そうに、鼎が頷いた。
真は今まで振り回されっぱなしだった状況から、ようやく一つ自分の主張を通せて、ほんの少し気を落ち着けることが出来た。……こんなことで、とか、器が小さい、とか言ってはいけない。
「えっと、つまり、俺と鼎さんがここで、……『交換会』をするのを知ってるってこと? 家族も?」
「……はい」
「そ、そぉなんだ……」
家族公認の交換会。
そんなのは、自分の常識からかけ離れすぎていて一体どういう反応をすればいいのか、真はもう分からなくなっていた。
まあ、家族公認どころか、学校公認であり、学校中の人間が知っているという現実を考えると、そんなことは小さなことなのかもしれない。……とても小さなこととは思えないが。
ちなみに、帰りの道すがら鼎に、
「占いの時、何も童貞とか処女とか言わなくても……」
などと女々しい抗議めいた発言をしたら、
「……あなたに、一つしか持っていないものとは何か、と、聞かれたので、答えたのですが」
と、きょとんとしながら返され、ああ、そうだった俺の馬鹿。と頭を抱える結果に終わった。
「……浦内家では……」
もう何も考えたくない心境で、半ば呆然としてる真をそのままに、鼎が口を開いた。
「……私の家では、毎年元日に、その年に門閥で起きる大きな出来事を、占うことになっています」
相変わらずの、か細い、感情に乏しい声で、鼎が語り始めた。
歳の初めに浦内家の一族が全員集まり、その年に一族に起きる重要な出来事を、裏内家の現当主である鼎の母が占うらしい。
一年分なので、日々の細かい内容までは占わず、大きな出来事だけを拾い上げていくようだ。
一体どのような仕組みの占いなのか分からないが、随分と柔軟な選択が出来るものだ。
鼎曰く、相手の目を見ることで、その人に起きる出来事がコマ送りのように飛び飛びでフラッシュバックするらしい。
その人にとって重要な出来事であればあるほどコマ送りの“絵”として現れやすく、その精度を上げたり下げたりすることで、重要度をふるいにかけることが出来るとのことだった。
「……もっとも、私は、母と違って、それほど細かく見ることは、出来ません」
まだ修行中の鼎は、精度の調整が苦手らしく、占いを受けた人が本当に重要だと感じた出来事しか見ることが出来ないようだ。
鼎の母はかなり精度を上げることが出来るらしく、相当に細かく見ることが出来るらしい。さすがは当主と言った所か。
「……ですので、今日、これから起きることは、裏内家では、予定行事の1つとして、扱われています」
「…………」
鼎の、か細く途切れ途切れな口調で説明されるとあまり実感がわかないが、よくよく聞いてみるととんでもない占いだ。
真はやっと、理事長や教師の行動に合点がいった。鼎の占いに、教師や理事長までもが並ぶわけだし、鼎の家を重要視しているわけだ。
彼女が言っていることが本当ならば、これは最早、占いというよりも未来予知なのではないだろうか? 占いも未来予知の一種かもしれないが、鼎の能力はなんとなく占いとは質が違うような気がする。
鼎の占いの凄さは分かったが、真にはそれとは別に、彼女に確認を取らなければならない事があった。
「つまり、鼎さんの家では今日のことが元旦から予定されていたと?」
「……はい」
こくりと、鼎が頷く。
「なるほど。じゃあ、これは……」
言いながら、真は開け放たれた障子から鼎の寝室を伺った。
先程からチラチラと視界の端に映っていた不穏当なものの正体を、覚悟を決めて、正面から捉える。
「この、どピンクな内装とか、いかがわしい照明とか、なんだかやけに円いベッドは、鼎さんの趣味じゃないんだね?」
12畳の和室は、およそ目にしたことの無いような様相を呈していた。
薄ピンクの下地に、濃いピンクのハートマークがちりばめられた壁紙。
天井の四隅に備えつけられた照明からは、ピンク色の光が星型やハートの形に降り注ぎ、吊り下がったミラーボールが、キラキラと壁や天井に反射光をばら撒いていた。
仕上げに、部屋の中央にはレースやらなにやらでふわふわにデコレーションされた回転ベッドがデンと居座っている。
文化遺産のような屋敷の、純和風の部屋に、ラブホテル(しかもかなり下品)の内装。
斬新過ぎるレイアウトに、真は目眩がしてきた。これが彼女の趣味だとは思いたくない。
「……私の、趣味では、ありません。……この日のために、用意したものです」
「……こんな熱烈な歓迎、身に余る光栄だなあ」
なんだかもう、突っ込む気も失せて、真は棒読みするだけで精一杯だった。
「……私の母も、このような部屋で、父を誘ったと、言っていました」
「…………」
鼎さんのお母さん、何ヘンな入れ知恵してるんですか。というか、お父さんもなんでこんな部屋で落とされてるんですか。
真は思わず脱力したが、
「……あなたに、喜んでもらえて、とても、嬉しいです」
こちらを見上げながら、鼎が嬉しそうに微笑んだ。微笑みはほんの僅かだったが、初めて見る鼎の微笑みに、真は思わず胸が高鳴る。
「……どうぞ、部屋に、入ってください」
「う、うん」
真は誘われるがままに部屋に入った。後ろで障子が閉まる音が微かに聞こえる。
「…………」
どこを見てもピンク一色で、真は所在なさげにぽつねんとしてしまう。立ったままでいいのか、座ればいいのか、座るにしてもどこに座ればいいのか。なんとなく身動きが取れないでいた。
「……どうか、しました?」
「あ、いや、なんでも──ッ!」
真は思わず声を失った。
見れば、鼎はベッドの真ん中にちょこんと正座している。
ブレザーの制服に、緑のリボンタイ。正座して、プリーツスカートから覗く太ももは、黒いタイツに包まれている。
ピンク一色のベッドは、下品なはずなのに、人形のように小柄な彼女は、レースでふわふわになっているベッドにとてもよくマッチしていた。
声を失って見とれている真をそのままに、鼎が深々とお辞儀をしてきた。
「……不束者ですが、よろしくお願いします」
「……っ!」
それの意味するところを理解して、真はいよいよ慌て出した。
「ちょ、ちょっと待って!」
「……はい?」
鼎がブレザーのボタンを外しながら真を見上げる。
「俺たち、ほら、会ったばかりだし、その、こういうのは……」
「……私は、何ヶ月も前から、あなたを、知っていました」
鼎が淡々と言いながら、ブレザーから腕を抜く。
「でもっ、俺はまだ鼎さんをよく知らないし、」
「……では、今から、私のことを、知って下さい。……隅々まで」
また淡々と言いながら、脱いだブレザーを丁寧にたたむ。
「す、隅々までって……」
「……胸は、小さいですし、背も、小さいですが、気に入ってもらえると、嬉しいです」
またまた淡々と言いながら、リボンタイを取り、黙々とブラウスのボタンを外していく。
「いや、まあ、俺はその方が大変好みなんですけどちょっと脱ぐのストップ鼎さん!」
マイペースに淡々と服を脱いでいく鼎に、たまらず待ったをかけた。
「何しれっと脱いでますか!」
既にブラウスの胸元が際どいところまで開いている。非常に目のやり場に困る光景だ。
しかし鼎はきょとんとしながら、
「……あなたは、着衣のままの方が、好きなのですか?」
「着衣というか半脱ぎが大好きなんですがそうではなくてっ!」
ああもうっ! と、真は思わず頭を抱えた。混乱しすぎて、自分が何を言ってるのかも分からなくなってきた。
「と、とにかく、会ったばかりなのに、いきなりこういうのはどうかと思うんですよっ」
誘われるがままに、鼎の家までのこのこと着いてきてしまったが、何も占い通りに律儀にセックスしなくても良いのだ。
というか、鼎の占いが100%当たると決まったわけではないのだ。自分がここで拒否すれば、占いは外れたことになる。彼女の告白のタイミングは、確かに彼女の言う通りだったが、あれは狙って出来ないとも言い切れない。
「こういうのは、ほら、お互いの気持ちをちゃんと確かめあってからするもので、」
「……私は、あなたが、好きです。……それが、私の気持ちです」
真の言葉を遮って、鼎が真直ぐ見上げて気持ちを伝えてきた。
「うっ……!」
ふわふわのベッドに、華奢で小柄な女の子がちょこんと座って、ブラウスを半分脱ぎかけで見上げてくる姿は、とてつもない破壊力で、真は思わず呼吸が止まった。
思考も呼吸も止まっている真に、鼎が微かに悲しげに目を伏せて問いかけてきた。
「……あなたは、私の事、お嫌いですか?」
「いや、そんなことは! ていうかぶっちゃけ一目惚れだったし!」
「……本当ですか? ……嬉しいです」
勢いで余計なことまで言ってしまったが、それに気付く間もなく、真は固まった。
鼎の嬉しそうな微笑みに、完全に目を奪われていたからだ。
相変わらず微かな表情の変化だが、黒曜石のように綺麗な瞳をかすかに細め、小首を傾げて微笑んでいる。
……禁止だ。小首を傾げるのは、禁止だ。
……こんな、ふわふわベッドに脱ぎかけブラウスで、小首を傾げて見上げてくるとか、もう禁止だ。
呼吸すら忘れ、真は鼎から目を離すことが出来なかった。
「……私は、あなたが、好きです」
繰り返すように言いながら、鼎がベッドの上を四つん這いで近寄ってくる。
そうだ。彼女は、俺のことが好きなんだ。
「……あなたも、私の事が、好き、なんですよね?」
四つん這いで近寄る彼女から目を離せないまま、真が頷いた。
一目惚れだった。思わず「可愛い」なんて声に出そうになるほどに。
「……お互いの、気持ち、これで、確かめあえましたよね?」
気が付けば、至近距離に彼女はいた。彼女はベッドの端まで移動し、膝立ちの姿勢でこちらを見上げている。気付かぬうちに、自分の方からも彼女に近寄っていたようだ。
……鼎さんは、俺のことが好きで、もちろん、俺も好きなわけだ。
……でも、告白したその日の内にセックスなんていきなり過ぎるだろう?
……スネーク! 何を迷っている!? こんな可愛い子が誘ってるんだぞ!
……そうは言うがな、大佐。
混乱のあまり、頭の中で真Aと真Bのやり取りが始まっていた。
……スネーク! ちゃんと目の前のものを見るんだ!
……!!
際どいところまで脱げたブラウスは、真の位置から見ると完全に中が丸見えだった。
真っ白い肌に浮き出た鎖骨。薄く膨らんだ胸。あろうことかブラジャーはレースがふんだんに付いている黒のブラだった。
人形のように小柄で、折れそうに華奢なのに、黒のセクシーブラ。
反則すぎる組み合わせだった。
……ああ、これはもう……。
……性欲を持て余す。
でーすーよーねーー。
気が付けば、真は鼎を押し倒していた。
「……あ……っ」
か細い声を上げて、鼎がベッドに倒れこむ。
「……鼎さん、あのね」
「……はい」
「……そのブラ、反則過ぎです」
「……?」
反則、という言葉の意味がピンと来なかったのか、鼎はきょとんとして小首を傾げた。
「こっ、小首を傾げるのも、反則ですっ」
自分に組み敷かれ、少しウェーブがかった艶やかな長い黒髪をベッドに広げた彼女が、こちらを見つめて小首を傾げる仕草は、もう可愛すぎてどうしようもなかった。
思わず、うわああ……! と、悶え苦しむ。
「……このような下着は、私には、似合わないと、思ったのですが……」
鼎が綺麗な瞳で真直ぐこちらを見つめながら、微笑む。
「……あなたに、気に入って頂けたみたいで、とても、嬉しいです」
俺も、そんなエッチなブラを着けてくれていて、とても嬉しいです。
最早言葉には出せず、真は鼎に覆い被さった。
組み敷いた状態で、小柄な彼女を抱き締めながら、心の中で保健体育の教師に謝った。
すんません。鼎さんが可愛すぎて、俺、教えられた通りに出来そうにないっす。
* * * * *
「……ん……ん、んっ……」
鼎に覆い被さって、真が唇を重ねている。
双方共に、初めてのキスで、見るからに拙くぎこちない。
しかし、それだけに、夢中になって唇を重ねているのがよく分かる。
そんなキスの応酬を、二人は繰り広げていた。
「……ん、ん、ん……ぷあ、ん……」
時折、唇を離して息をつきながら重ねあう。
熱い吐息がお互いの顔を焦がし、頭が熱を持ったかのようにぼうっとしていくのを二人は感じていた。
「……ん、んっ、んぅ……。ぅん……。は、ん……」
真は鼎のぷにぷにした唇に夢中になり、鼎も真の唇を激しく求めた。
ベッドに投げ出された状態だった鼎の腕は、いつしか真の首に絡み付き、頭もベッドから浮かし気味になっている。
「……ん、ん、ん、ん……」
お互い顔をぐるぐる回して、唇を貪りあう。
漏れ聞こえる鼎のか細い吐息が、真にはとてもいやらしく聞こえ、興奮がさらに増大していった。
「……んぅ……ん、は、ぅんっ……」
唇を重ねるだけのキスは、どちらからともなく舌を絡めあう激しいものへと変化していた。
鼎は真の首に抱きつくようにしてしがみつき、夢中になって唇と舌を絡める。
「……ん、ん、ちゅ、んぅ……んっ、ちゅ、ん……」
唇をぴったり合わせて口の中で舌を絡めたり、ちゅっちゅと唇をついばむようにキスしたり、舌先だけを絡めあったり……。
「……んっ、んっ……。はぁ……」
やっと顔を離した時には、お互い顎までだ液まみれになっていた。
唇同士を銀の糸で結びながら、鼻と鼻がくっつく距離で、見つめあう。
鼎は黒曜石のような瞳を潤ませ、透き通るようなミルク色の頬を、耳まで朱に染めている。
半開きになった唇はキスの名残りでぬらぬら光り、はぁはぁと荒い息を漏らしている。
「……好き。……好き、です。……大好き、です」
熱に浮かされたように、鼎が囁く。
声はいつも通りか細く小さいが、艶っぽい響きを含んでおり、真は腰がぞくりと震えた。
はぁはぁと荒い息は、激しいキスで息苦しかっただけではないだろう。見つめあう潤んだ瞳の奥には、隠しきれない情欲が滲んでいる。
その瞳に誘われるかのように、真も答えていた。
「俺も、鼎さんが、好きだ」
「……あぁ……ッ!」
か細い声を感極まったように漏らし、鼎がまた唇を重ねてきた。
「……んっ……ん、すき……すき、んぅ……すきぃ……」
好き好き呟きながら、ついばむようにキス。
綺麗な瞳を潤ませ、頬を赤く染め、首に腕を絡めて自ら唇を絡めてくる鼎に、真はもう居ても立ってもいられなくなった。
鼎のキスを受け止めながら、震える手でブラウスの残りのボタンを外し、前を開く。
「……あぁ……」
恥ずかしさのせいか、興奮のせいか、その両方か、鼎がか細い声を漏らした。
透き通るような白い肌。仰向けになっていると、ほとんど膨らみが認められないような小さな胸。ぺたんとやせたお腹と、ほっそりとした胴回り。
そんなふうに、小さくて華奢な身体なのに、胸を覆う下着は、黒のセクシーブラ。
そのギャップが、真に頭がおかしくなりそうなほどの興奮を与えた。
「鼎さん……!」
「……ぁっ……」
真はすべらせるように鼎の胸に右手を当て、劣情に任せて揉み始めた。鼎がわずかに身体を震わせる。
ブラ越しに、撫でるように手を動かす。ごわごわしたブラの感触の下で、うっすらと膨らんだ胸がやわやわと形を変えるのが分かった。
「……あ……、ふ、ぁ……ん……」
その度に、鼎が吐息のようなか細い声を漏らした。
荒い吐息に混じって消えてしまいそうな声だが、それがかえって真には扇情的に感じられた。
「……ぁ……ん、は………あ……んぅ……」
半開きになった唇から、吐息に混じって時折聞こえるか細い声が、真の興奮を高めていく。
真は左手も胸にあてがい、両手で夢中になって揉み始めた。
「……はっ……あ、ぁ……ふ……ぅん……」
ブラの感触の下で感じる、微かな胸の膨らみ。吐息に混じって消えそうな、か細く漏れる声。
胸の感触も、声も、控えめで、か細いものだからこそ、それを感じた時に例えようのない興奮を真は覚えた。
「……鼎さん、すげえ可愛い」
真は思わず呟き、たまらなくなって鼎の唇を吸った。
「……んぅ……は……ん、ん……あっ……ん、ふぁっ……」
激しく求めてくる真のキスに、鼎も彼の興奮の度合いを感じ取った。鼎は、彼が自分でこんなに興奮してくれているのが嬉しくてたまらず、自らも夢中になって唇を重ねた。
鼎は、呼吸を忘れるほどに唇を重ねながらも、彼の両手で揉まれる胸がじんわり熱くなっていき、どんどん敏感になっていくのを感じていた。
「……はっ……んっ……ん、ん、ん……あぁ……んぅ……!」
喉の奥から勝手に声が漏れてきて、唇をキスで塞いでいないと溢れてしまいそうだ。
胸を刺激される度に、身体が勝手にくねくねと反応してしまう。
気持ちいい。胸を揉まれるのが、とても気持ちいい。
そう気付いた時には、声に出していた。
「……あ、は……ぁ……。……きもち、いい……です」
はぁはぁと息を荒げ、綺麗な瞳を情欲に染め、か細い声で「きもちいい」と訴える。
そんな鼎が可愛すぎて、真はもう本当にどうにかなりそうになった。
頭に一気に血が上り、ブラジャーに手をかけ、強引に上にずらした。
もともとブラのサイズが大きかったのか、揉んでいる途中でずれていたのか、ブラはたやすく胸から外れ、真っ白い胸が外気に晒される。
「……あっ、や……」
恥ずかしいのか、鼎が反射的に身を捩って隠そうとするが、真がそれを許さなかった。
細い手首をベッドに押さえ付け、至近距離から胸を凝視する。
なだらかな胸の頂点には、薄桃色の小さな乳首が外気に触れてふるふると震えている。
小さな胸にぴったりの小さな乳首は、可愛らしくツンととんがっており、真は弾かれたように口に含んだ。
「……ふぁっ……!」
ぴくんっ、と小さな身体が跳ねる。
ブラ越しでない胸は、真の想像以上に柔らかかった。
膨らみが微かにしか認められないのに、マシュマロのようにふにふにだ。
そのくせ乳首は固くしこって、グミのように弾力がある。
真は夢中になって唇で愛撫した。
「……あ、や……っ、ぅんっ……」
鼎の胸は、真の手の平の方が余ってしまうくらいの小ささだった。
それは乳房が小さいというより、身体自体の作りが小さいためだ。その上で乳房も小振りなので、相乗効果で余計に小さく見える。
そんな鼎の胸を、真は撫でるように揉みながら、唇と舌で乳首を刺激する。
「……んっ、ふぁ……。……胸、あっ……、そんなに……したら……」
鼎がか細い声で喘ぐ。相変わらず消え入りそうな声だが、甘く甲高い響きが含まれ始めているのを真は感じた。
薄い胸をやわやわと揉み刺激を与え続けながら、真が尋ねた。
「そんなにしたら、何?」
「……そんなに、したら……んっ、私、きもち、よくて、あっ、ヘンに、なっちゃいます……」
途切れ途切れで鼎が訴えてくる。
そのセリフに、真は思わず顔を上げた。
……そんなことを言われたら、是非ともヘンにさせたくなるではないか。
愛撫を止めて彼女を見ると、軽くウェーブのかかった長い髪の毛をベッドに広げ、綺麗な瞳を泣きそうな程に潤ませ、唇はだらしなく半開きにさせて、はあはあと荒い息を付いていた。
快感の残滓がいまだその身をさまよっているのか、小さな身体を時おりぴくぴくと可愛らしく震わせている。
自分の愛撫でこんな状態になっている彼女に、真は興奮のあまり喉がひりついた。思わず唾を飲み込む。
「鼎さん、そんなこと言われたら、余計にヘンにさせたくなっちゃうよ……」
その言葉に、鼎が身体を震わせた。「……はぁ……っ」と、吐息も一際荒くなったような気がした。
「……鼎さん、ヘンに、なりたい?」
真の問いに、鼎の瞳がより一層潤み、隠しようのない情欲を溢れさせていく。
はあはあと荒く息を付きながら、欲情しきった瞳で真直ぐ真を見つめ、小さく、こくりと頷いた。
真は、一気に頭に血が上った。
「……あっ!」
弾かれたように鼎に覆い被さり、胸にしゃぶり付く。
「……あ、んっ、んっ……! ふぁ、あ、はぁ……ッ」
薄く盛り上がった胸をやわやわと揉み、乳首を摘み、舌で舐め、唇でくわえ、前歯で軽く甘噛み。
「……ふ、あっ……、あ、あ、あ……! やあ……んっ」
真の激しい愛撫に、か細い喘ぎを唇から漏らして鼎が悶える。
小さな身体を可愛らしく震わせ、快感から逃れるように上体をくねらせる。
「……や、や、んっ……、あ、んぅ……! ふ、あ、あぁぁ……っ」
気が付けば、鼎は真の頭を抱き締めるような形になっていた。
嬌声は途切れ途切れだが、快楽に陶酔しきったように甘く響いている。
「……あ、あ、きもちぃ……! すき……、すき……、すきっ……」
真の頭を力一杯抱き締めながら、鼎が喘ぐ。
相変わらずか細く小さい喘ぎだが、まるで語尾にハートマークがついているような甘く可愛い嬌声に、真は更に劣情を膨らませていった。
本能のままに右手を下へ滑らせ、鼎のスカートの中に侵入せんとする。
「……あっ、や、そこは……」
思い掛けない侵入者に、鼎は思わず太ももを閉じるが、興奮しきった真は構わず手を進ませ、股間に到達させた。
「……あぁ……ッ!」
一際高い声を上げ、鼎が仰け反った。
鼎のそこは、すでにショーツが滴る程に濡れそぼり、真の指をあっという間にぬるぬるにしていく。
想像してたよりもずっとやわらかい感触と、触るたびにクロッチの部分から染み出てくる温かい愛液に、真は夢中になってショーツの上から指を擦りつけはじめた。
「……や、あ、あっ……んっ、それ……ダメ……ッ、やぁ……っ!」
鼎は、初めての刺激に髪の毛を振り乱しながら悶える。
下着越しとは言え、敏感な所を擦られ、激しい刺激に腰がひとりでにビクビクと跳ねてしまう。
「……あっ……あっ……ダメ、ダメ、や……あ、んっ……私、私……っ」
もうどうしようもないような感じで、鼎が小さな身体をはしたなくくねらせ、訴えてくる。
「……私、もう……。……あなたの、あなたのを……あぁ……っ」
真ももう限界だった。
鼎から身体を離し、震える手で制服のズボンを下げる。
弾かれるように飛び出た陰茎は、自分でもびっくりするくらいガチガチになっていた。
「……あぁ……!」
凶悪なまでにいきり立ったそれに、鼎が嬉しそうな喘ぎを漏らした。
黒曜石のように綺麗な瞳は、完全に情欲に染まり、半開きの口から荒い息を漏らしながら、雄々しくいきり立っているそれを見つめている。
真も息を荒げながら、鼎のプリーツスカートに手を伸ばした。
逸るあまり、震える手でプリーツスカートを捲り上げ…………。
息を、飲んだ。
飲んだというか、息が止まったと錯覚するほどの、衝撃だった。
ショーツはブラとお揃いの黒で、ふんだんにレースがあしらわれたセクシーなものだった。ひどくローライズで、真っ白い下腹部が際どい所まで覗いている。
真の息を止めたのは、それだけではなかった。
黒いタイツだと思っていたのはストッキングで、あろうことに、ガーターベルトで止められていた。
ぺたんと痩せたお腹。華奢な腰に黒いガーターベルトが巻かれ、真っ白い下腹部をローライズの黒いショーツで申し訳程度に覆っている。ただでさえほっそりとした太ももは、黒いストッキングをはいているせいで、余計に細く華奢に見えた。
セクシーなのは、ブラだけでは無かったようだ。
おまけにショーツは見た目にも分かるほど濡れそぼり、豊富な愛液で内ももまでもがぬらぬらと輝いていた。
自分の胸よりも身長が低い、小柄な体躯。
烏の塗れ羽のように艶やかで、緩やかにウェーブがかかっている長い黒髪。
長い前髪の奥で見隠れしている、仄暗いのに、黒曜石のように輝いている瞳。
透き通るような白い肌と、人形のように華奢な身体。
こんなに小さくて、こんなに可愛いのに、こんなにエッチな下着でびしょ濡れにしてるなんて。
そのギャップに、脳味噌が瞬間的に煮沸するような感覚を覚えた。
真は、完全に止めを刺された。
獣のように鼎に襲い掛かり、一目散にショーツを掴んで、ほとんど乱暴に引き下ろした。
ブラとお揃いの黒いショーツは紐のように丸まり、鼎の内ももに愛液の筋をつけ、ストッキングに染みを作る。
まるでおもらしでもしたかのようにびしょ濡れになっている秘所を凝視しながら、脚を開かせ、細い腰を掴んだ。
鉄棒のようにガチガチになった自分のものを鼎の割れ目にあてがったところで、辛うじて、真の理性が動きを止めさせた。
「……鼎さん、いいよね? 俺、鼎さんのナカに入れたい」
荒い息を付きながら、真が確認を取る。
正直、ここで拒否されても止める自信はない。
もう駄目だ。自分はもう、完全に駄目になっている。
それは、鼎も同じだった。
散々いじられた身体は、完全に快楽に酔っており、鼎はもう、真のそれで膣内をかき回してもらって精液を出してもらうことしか考えられなくなっていた。
「……私も、欲しいです。……あなたの、それ、私の、ナカに、」
か細く途切れ途切れのお願いは、途中までしか口に出来なかった。
「……あッ、あぁぁぁぁ……ッ!」
ガチガチに固くなった肉の銛が、鼎のナカに突き刺さってきたからだ。
途中の抵抗を突き破り、更に奥に侵入してくる。
「……あ、ぅ……、あぁぅぅ……!」
ほとんど渾身と言ってもいいくらいの力で、鼎が真にしがみついた。
涙を浮かべ、口を真一文字に結んで震えている鼎に気付いて、真は動きを止めた。
「だ、大丈夫?」
「……は、はい……」
小さく頷いているが、大丈夫そうには見えない。
正直、彼女の中は、温かくてとろとろで、真は一刻も早く腰を振りたかった。
柔らかいのにきつく締まって、不規則にうねうねと刺激してくるので、挿入の途中で止めるなんて拷問にすら思えた。
だが、震えながらきつく抱き締めて来ている彼女を見ると、とても動く気にはなれなかった。
「……もう、大丈夫です。……ありがとうございます」
「う、うん」
程なくして、彼女は落ち着いたようだ。震えも随分収まっている。
「……実は、少し、不安でした」
「不安?」
「……占いで、見えるのは、断片的なもののみなので……」
そういえば彼女は大雑把にしか見えないと言っていた。
「……占いで、あなたが、獣のように、私の下着を下ろす所が、見えたので、こんなに優しくしてもらえるとは、思いませんでした」
「……あー……。ごめんなさい」
思わず謝った。
確かに、先ほどの、小柄で華奢な彼女とは不釣り合いな官能的な下着を見た時は、我を忘れたほどに興奮して、思わず獣化した。
今も十分興奮しているが、まるで爆発したかのように瞬間的に興奮が高まったのは初めての経験だった。
「……謝らないでください。……私で、あんなに興奮してもらえるとは、思いませんでした。……とても、嬉しいです」
本当に嬉しそうに、鼎が微笑んだ。
赤く染めた頬をわずかに緩ませ、涙で潤んだ瞳を細めている。
至近距離からそんな可愛い笑顔を見せられては、もう我慢出来なくなってしまうではないか。
「……あっ……! ……ナカで……」
半分程入った肉棒が持ち主の心情に反応して、彼女のナカをこじ開けるかのように膨らみを増した。
「動くよ? いいよね?」
真は興奮の余り若干早口だ。
「……はいっ……私も、動いて欲しいです」
鼎の言葉が終わると同時に、真は己のものを奥までねじ込んだ。
「……ああぁぁ……っ」
甲高い声を上げ、鼎が仰け反った。
膣内に溜まっていた愛液が、ぷちゅっと音を立てて押し出され、突然の刺激に驚いたかのように膣がきゅうきゅうと締まる。
「うあっ……」
その刺激に呻きながら、真は夢中になって腰を振り出した。
ぐちぐちと淫らな水音が響き、ベッドが軋む。
「……あ、あ、あ、あっ」
か細い声を漏らしながら、鼎の瞳が情欲に濡れていく。
狭い膣内をガチガチに硬化した肉棒でかき回される刺激に、鼎はたまらず溜め息を漏らした。
「……ああぁぁ……! きもちいい、です……!」
上気した顔でこちらを真直ぐ見上げ、甘い口調でそんなことを言ってくる鼎に、真の興奮がさらに高まっていく。
覆い被さるように上体を倒し、がむしゃらに腰を振る。
「……あっ、は、んっ……ああ……っ」
小さな彼女の小さな膣内を、凶悪なまでに勃起した肉棒が往復する。
プリプリに盛り上がった亀頭で膣壁をえぐるように進み、子宮口を叩く。
膨れ上がったカリ首で敏感な膣内の襞を引っ掻きながら、入り口まで肉棒を引き抜く。
「……ん、は、あっ、や、あぁ、ああっ……」
鼎は、鉄棒のごとく硬化した肉棒で膣内を広げれる度に、熱い先端で子宮口を突かれる度に、パンパンに張ったカリ首で敏感な所を一気に入り口まで刺激される度に、快感が腰から脊髄を通って脳を直撃するのを感じていた。
「……ああっ、あっ、あ、んぅっ、ふああぁ……っ!」
慣れない快感に、鼎は戸惑いながらも夢中になった。
腰が蕩けるような気持ち良さが、神経を通って身体中に伝播していく。
気持ちいい、気持ちいい。何よりも、彼がこんなに自分を求めてくれているのが、嬉しくて、気持ち良かった。
「……あぁっ……すき、すき、すき、すきっ」
声はいつもようにか細いが、甘く蕩けた調子で鼎が呟く。
とにかくもう、彼が好きで、こんなに求めてくれるのが嬉しくて、
「……きもち、いいっ……、です、これ、ああ……きもちぃ……!」
鼎はもう、どうしようもなかった。
頭の中は、愛しい彼と、彼から与えられる快楽と、それを与えられる幸福感に満ちあふれていた。
とにかく好きで、気持ち良くて、幸せで、好きすぎて、大好きすぎて、気持ち良すぎて、幸せすぎて。
「……あぁ、あぁ、きもちいい、すき、すき、あなたがすき、だいすき、ああ、きもちいい……!」
「鼎さん……ッ!」
小さな身体を可愛らしく震わせながら、ハートマークが付いているかのような、とろんとした調子で訴えてくる鼎に、真はもうおかしくなりそうだった。
ガーターベルトが巻かれた華奢な腰を両手で掴み、打ち付けるように腰を振る。
黒いストッキングにガーターベルト、そんな妖艶な格好とは裏腹に、彼女の生白い腰は華奢で、お尻も小さかった。
そんな華奢な腰に、自分のいきり立ったものが出入りしている様は、恐ろしく卑猥で扇情的に見え、真は夢中になって腰を打ち付け続けた。
そのうえ、ショーツを脱いで大事な所を丸見えにしているのにストッキングとガーターベルトをそのまま着けている状態が、真の興奮を天井知らずに高めていく。
「……あ、ふあ、や……んっ、あ、あ、あ、ああっ」
ぱちゅぱちゅと音が鳴り響く激しい注挿に、鼎が可愛らしく身体を震わせ、悶える。
か細い嬌声が甘く甲高いものへと変化していき、鼎の快感が絶頂に向けて高まっていっているのが手に取るように分かる。
真も腰がぞくぞくするような快感が陰茎に集中していくのを感じ、歯を食いしばって射精感に耐えながらがむしゃらに腰を振る。
「……ああ、ああ、や、あっ……、わたし、わたし、もう……!」
「俺も、もう、出そう……ッ」
「……あっ、あっ、だめ、や、やあっ……!」
切羽詰まった声で喘ぎながら、彼女が小さく小さく、本当に辛うじて聞こえるくらいに小さく、声に出す。
「……イク、イク、あ、だめ、イク……!」
そんないじらしい様子にたまらなくなって、真は狂ったように腰を振った。
射精寸前のビキビキに膨らんでガチガチに固くなった肉棒で、容赦なく鼎のナカをえぐり子宮口を突く。
「……あッ、やっ、やっ……イク、イク、イッちゃう、イッちゃう、イッちゃうぅぅ……ッ」
子宮口をこじあけてめり込んでくるような勢いの肉棒に、鼎は気持ちよすぎてほとんど気が狂いそうになった。「イク、イッちゃう」と、間近に迫った絶頂を訴える声が、か細く呟くような調子から、はっきりと聞き取れるほどに大きくなっていく。
長い前髪の奥に隠れた瞳を、膜がかかったかのようにとろんとさせ、小さく開いた口の端から涎をたらしながら「イク、イク」と迫り来る絶頂を伝えてくる鼎に、真も喉の奥でうめき声を上げながら、目前に迫った絶頂に向かってラストスパートをかけた。
ぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅと豊富な愛液の飛沫をあたりに撒き散らしながら、二人は狂ったように求め合う。
「……すきッ、すきッ、すきッ、すきッ、すきッ、すきぃ……ッ! あッ、イク、すき、イク、やあイク……あああ……ッ!」
限界をとうに超えて高まった快感が、鼎の腰の中で一気に弾けた。
「……イクッ、イクッ、イッ……あああぁぁぁ…………ッ!」
甲高い声を上げ、鼎は細い身体を折れそうに仰け反らせ、絶頂に達した。
「う、ぐッ!」
同時に、真の肉棒が狭い膣内で跳ね回った。
ビュー、ビュー、と音を立てるような勢いで、精液がほとばしる。
鼎は絶頂中に新たな刺激を受け、声もなく身体を震わせた。
「……ッ! ……ッ! ……ッ! ……ッ!」
熱い精液を子宮口に浴び、絶頂を迎えて限界に到達したはずの快感がさらに引き上げられる。
強制的に快感の波が跳ね上がり、鼎の神経を一本残らず快楽色に染め上げていく。
緩やかにウェーブがかかった長い髪を振り乱し、びくびくと可愛らしく身体を痙攣。
「……ッ! ……ん……ッ! ……ぁぁ……ッ!」
強すぎる快感から逃れるかのように、ベッドの上で鼎が悶える。
小さな身体を仰け反らせたり縮めたり、気持ち良すぎてどうしようもないといった様子で、可愛らしくくねらせている。
自分の射精でこんなに悶えている鼎が愛おしくてたまらず、真は繋がったまま上体を倒して彼女を抱き締めた。
* * * * *
「一つ、聞き忘れたことがあったんだけど、いいかな?」
「……はい」
ふわふわのベッドに二人並んで座りながら、真が尋ねた。
「今週は今日以外は特に変化がなくて、毎日同じことを繰り返すって言ってたけど、あれは具体的にどういうこと?」
漠然とした占いの結果に気になって聞いてみたが、鼎はきょとんとして答えた。
「……そのままの、意味です」
「そのままというと、いつも通りってこと?」
いつものように朝起きて、いつものように学校に行く。そんないつもの生活を送るということだろうか。ということは、逆に言うと大きな出来事がないということになる。
真は少し安心したが、少し残念な気もあった。
いつも通りと言うことは、鼎とこういうことをするのは、今週はもう無いということだからだ。
……エロいとか猿とか言わないで欲しい。こんな可愛い彼女としたいと思うのは、当然のことだろう。
しかし、鼎はきょとんとしたまま口を開いた。
「……いつも通り、というのは、少し、違います。……今日と同じ、ということです」
それって同じ意味では? と思ったが、真はハッとした。
「今日と同じってことは……もしかして、放課後、毎日?」
隣に座る彼女を見ると、黒曜石のように綺麗な瞳を真直ぐこちらに向け、いつものようにか細い声で、嬉しそうに答えた。
「……はい。……今日と、同じ、ですから」
そういうことか。
……すいません、俺は猿でした。
「あー、身体、持つかな?」
なんとなく恥ずかしくなって、独り言のように言った真に、鼎は事も無げに答えた。
「……占いで、見えたのは、今日と同じ、光景です」
「それって…………」
今日と同じ光景ということは……。獣化?
真の問いに、鼎は嬉しそうにこくりと頷いた。
訂正、俺は猿じゃなくて、獣でした。
終わり
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