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普段はどちらかというと拓也が感じるさまを見るのが好きで、
自分の感じている声はあまり聞かせたくなかったのだが、
電話でするというシチュエーションが興奮させるのか、
やがて、本気で気持ち良くなりはじめた愛はどんどん大胆になっていった。
「ね、拓也君……も……一人で、した事って……あるのかしら?」
「ひ、一人でって……」
「おちんちんを、擦ったり」
本人を目の前にしては決して言わないような猥語が、すらすらと口をついて出る。
「そ、そんなの……したこと……ないよ」
異性を意識する前にセックスを覚えてしまい、
しかも未だちゃんとした知識は持っていなかったので、それは本当だった。
「今は? 今は……拓也君の……おちんちん、硬くなってない?」
おちんちん、という言葉を口にする度、
愛は身体が興奮に震え、下腹部が熱くなっていくのを感じて、
胸に置かれていた手を、拓也に触られていると想像しながら身体の中心へ動かす。
「あ、あの……僕……」
言葉を詰まらせる拓也に、自分の質問が的を射ている事を確信したが、
それを拓也本人の口から言わせたくなって語を重ねた。
「ね、拓也君も……ズボン脱いで、手で……触ってみて……私も、触る、から……」
拓也は自分がひどくいけない事をしているような気がしたが、
甘くかすれた愛の声は思考を麻痺させるように全身を犯してくる。
自分の手つきをもどかしく感じながら、ズボンのボタンを外した。
軽く腰を浮かせて、ズボンは片足から抜き取ったが、
パンツは硬くなってしまっている物の為に引っかかって片手では脱げない。
迷った拓也は受話器を床の上に置くと、急いでパンツをずりおろして下半身を露出させる。
階下の春美達に気付かれないか、ちらりとドアに目をやるが、
もう引き返すには深入りしすぎていた。
と、受話器から愛の声がしているのに気が付いて、慌てて拾う。
「もしもし? 拓也君、どうしたの?」
「あの……パンツ……脱いでた……」
何も正直に言わなくてもよい物を、元来の性格なのか、
それとも愛に対する条件反射が躾られてしまったのか、拓也は包み隠さず告げてしまう。
「そう……。……ね、おちんちん……触ってみて」
指示に従って、自分の身体の一部なのになんとなく目をそむけてしまいながら、
手探りで自分のペニスに触れた。
自分の身体とは思えないほど熱く、脈打っているのが伝わってきて驚いたが、
指が触れた事による快感の萌芽もまた恐ろしいほどだった。
「どんな、感じ……?」
拓也が自分のペニスに触れている所を思い描きながら、
そっと、おへそから更に下へと手を滑らせる。
まだ触れてもいないのに、割れ目からは蜜が溢れ出していて、指に熱さを伝えてくる。
「硬くて……僕の身体じゃないみたい。それに……熱いよ……」
普段トイレに行く時でもほとんど意識しないで持つそこは、
今烈しい程反りかえって自己を主張していた。
拓也はわずかに恐怖を感じながらも、
それを上回る好奇心と快感に囚われて手を離そうとしない。
「拓也君、握って……みて……」
愛に言われるままに、拓也は包み込むように屹立を握ると、
それは未だ完全に掌の中に隠れてしまう大きさだったが、
与えられた役割を果たそうと手の中で脈打ちながら、更なる刺激が加えられるのを待っていた。
「ね、どう……? 気持ちいい……?」
「……う、うん……」
「……あのね、擦ると……気持ち良くなるって、本に……書いて、あったの……」
割れ目の周りを指でなぞりながら愛は指示を続ける。
拓也は愛に言われた通り、ぎこちない手つきで掌を上下させはじめた。
初めこそ慣れない動きで変な方向に力をかけてしまって痛い事もあったが、
次第にスムーズにしごきはじめる。
少しずつ、自らの力で高めていく性感に、拓也はごくわずかに呼吸を荒げる。
(こんな……の……ダメ、だよ……止め、ないと……)
なお心に残る理性がそう考えてみても、腕の動きを止める程の命令を出す事はできず、
やがてそれも淡雪のように消えてなくなり、拓也は初めての自慰に没頭する。
受話器の向こうから荒い呼吸が漏れてくると、愛の指もそれに応じるように激しさを増していった。
それまでぴったりと割れ目に押し当てて軽くさすって、
指腹全体でやんわりと刺激するに留めていたのを、
自分の指を拓也の物に見立てて浅く指を入れてみる。
(拓也……君……)
ぞくぞくするような痺れが広がっていき、すぐに我慢できなくなって、
より深くへと指を差し込むようになる。
愛は今まで、一人で慰めた事はあっても、それほど本格的にした事はなかった。
それはやはり嫌悪感と恐怖心のせいだったのだが、
今は、完全に中指全てを自分の中に挿入してしまっていても、
それが拓也の物だと思うと、怖くはなかった。
それどころか、更なる悦楽を引き出そうと積極的に指を動かす。
「んっ……拓也君……拓也君、好き……」
想いを口にしてしまっている事にも気付かず、愛は拓也の名前を連呼していた。
何度目か奥深くまで指を突き入れた時、急速に頭の中が白く弾け、そして何もなくなる。
愛が絶頂を迎えたのとほとんど同時に拓也も達しようとしていた。
身体の中から何かがせりあがってきて、出口を求めて一点に集まってくる。
「…………!」
吐き出す為の最後の引き金は、愛の声だった。
情欲をそそる喘ぎ声に混じって突然自分の名前を呼ばれ、
驚いた所に更に「好き」と言われた事で一気に爆ぜる。
声にならない叫び声を出しながら、白濁した液を勢いよく、何度かに分けて宙に放つ。
強烈な開放感が拓也を襲い、それに続いて快感が身体を支配する。
腰が自分の物でなくなったように感じながら、拓也は受話器を力一杯握り締めていた。
「……もしもし」
呼吸が整っていないまま、愛が拓也を呼ぶ。
「……な、なに」
拓也の返事が詰まったのは、見られていないとはいえ射精の直後で、
しかも最後の愛の言葉が急に脳裏に甦って恥ずかしくなったからだ。
しかし呼びかけた愛も、何故かそれ以上続けようとはせず、
二人とも相手が何か話しかけてくるのを待ったが、微妙な沈黙が二人を包む。
といって自分から電話を切る気もしないまま、更に時が流れようとした時、
突然拓也の耳に別の声が飛びこんできた。
「拓也? まだ電話してるのか?」
邪魔をしないように気を利かせて実と風呂に入っていた春美だったが、
風呂からあがってもまだ拓也が電話をしているのに驚いて、
さすがに階下から呼びかけてきたのだ。
「う、うん! 今終わった!」
拓也はとっさに春美に嘘をつきながら、愛に急いで事情を説明してほとんど一方的に切ってしまう。
切られた電話の向こう側では、
愛が受話器の先にいる無粋な誰かを睨みつけるような表情をしていた。
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