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「もしもし?」
「あ、あのっ、榎木と言いますけど、槍溝さん……」
「榎木君?」
おそらく近くに家族がいるのだろう、愛の声は妙に小さく、事務的だった。
しかしそれを怒っているからだと勘違いした拓也は再び気弱になってしまう。
「うん……」
「ちょっと待っててくれる? 部屋に電話持ってくから」
愛は電話口を手で塞ぐと、親に部屋で話す事を告げ、受話器を持って急いで移動した。
扉を閉めてベッドに潜りこんで、ようやく愛は拓也に話しかける。
「もしもし? どうしたの? 家に電話してくれるなんて、初めてじゃない?」
「う、うん……あ、あのね」
時間をおいて再び聞こえてきた愛の声はそれほど怒っているようには聞こえず、
拓也はほっとしたが、いざ謝ろうとすると、それ以上言葉が続かない。
拓也が言いたいことをほぼ予想していた愛は辛抱強く待っていたが、
一向に話そうとしない受話器の向こうの声にしびれをきらして水を向けた。
「今日のこと?」
「う、うん……。あの、……ごめんね」
「ううん、別にいいんだけど……どうしたの? 何かあったの?」
「その……恥ずかしかったんだ」
「……」
「あのね、電車に乗って手を繋いだ時あったでしょ。
あの時から、どうしてかわからないけど急に恥ずかしくなっちゃって、
槍溝さんが話しかけてくれた時も、何か言わなくちゃって思ってたんだけど、
どうしても声が出なくって、本当にごめんね、あの……槍溝さん………怒ってる?」
顔が見えない事に後押しされて一気に自分の胸の内を吐き出した拓也は、
途中から愛が無言なのに気付いて慌てた。
しかし、愛が黙った理由は拓也の想像したのとは程遠く、
はじめは呆れて、次いで嬉しかったからだった。
(裸まで見てるのに、なんで今更照れたりするのかしら……?)
拓也がしな子の身体を自分からこっそり触って、
いささか順番が逆ながら異性に目覚めつつあったことを知らない愛は当然の疑問を抱いたが、
とにかく、自分に対して照れる、ということは少なからず気がある訳で、
それに気付いた所で嬉しさが込み上げてきた、という訳だった。
「怒ってないわよ、大丈夫」
「良かった……」
心底ほっとしたようなため息を漏らす拓也に、愛はちょっとした悪戯心が芽生える。
それは今日のデートが台無しになってしまったのと無関係ではなかっただろう。
「今、電話は大丈夫なの?」
「え? うん、今部屋で話してるから大丈夫だよ」
「そう。ね、ところで今、私、どんな格好してると思う?」
「え?」
突然違う話題を振られて拓也はとっさについていけなかったが、
それでも、機嫌を損ねないように何か言わなければと思って、適当に思いついた事を言う事にした。
「昼間着てた服……じゃないの?」
「ぶぶー」
受話器の向こうで楽しそうにしている顔が容易に想像できるほど、愛の声は弾んでいる。
その様子にちょっとだけ元気を取り戻した拓也だったが、
愛の次の一言で再びパニックに陥ってしまった。
「今ね、ちょうどお風呂から出た所だったの」
(!? っ、てことは……)
思わず愛の格好を想像してしまい、拓也はぶんぶんと首を振った。
そんな拓也を更に刺激すべく、愛は続ける。
「あら。バスタオルが落ちちゃった」
思わず生唾を飲みこむ音が聞こえてきて、愛は拓也が作戦に乗った事を確信した。
「ゆ、湯冷めするといけないし、服……着た方がいいと思うよ」
「そうね……でも、拓也君と裸で話してるって思うと……すごく……興奮するのよ」
裸、という言葉を強調するように囁く。
愛の期待通りその言葉は拓也の脳裏に響き渡って、下半身に血を集めはじめる。
「で、でも……風邪引いちゃう、よ……」
喉の辺りが干上がるのを感じながら、拓也はかろうじて声を絞り出した。
「そうね。せっかく拓也君が心配してくれたんだし、服着るわね。
ちょっとそのまま待っててくれる?」
「う、うん」
ほっとしたような残念なような気持ちになって、拓也は心持ち受話器から顔を離す。
腰の辺りがむずむずしてきて、そっと右手で押さえると、
その刺激が引き金になって、すぐにペニスはズボンの中で膨らみ始めた。
「拓也君は今何してるの?」
突然愛の声がして、拓也はもう少しで受話器を落っことしそうになる。
「!! べっ、別に、何にもしてないよ」
「ふーん……ね、私ね、いつもお風呂出たらしてることがあるんだけど、なんだか解る?」
「えっ……と、その……」
考えては見たものの、いつも実の身体を拭いてやる事に気がいっていて、
自分の身体など適当に拭くだけの拓也には想像もつかない。
「胸のマッサージ」
拓也が答えに詰まったその一瞬、絶妙なタイミングで愛は爆弾を投げ込んだ。
「むね、って……」
「もう……おっぱいの事よ」
さも恥ずかしい言葉を無理やり言わされてしまった、といった口調を作って愛は答える。
「身体が温まって血行が良くなってる時にすると効果が高いんですって」
「そ、そうなんだ……」
それが本当か嘘か拓也に解るはずもなく、ただあいまいに同意するしかない。
「そうなのよ。本当は、男の人に揉んでもらうと更に効果があるらしんだけど」
愛はある事ない事適当に言いはじめるが、
それも拓也はその手の事に疎いに違いない、と計算しての事だった。
空いている右手を服の中に忍び込ませながら、舌で唇を舐めて軽く湿らせる。
「身体が冷える前に……ちょっと……するわね」
するって何を、と拓也が問う前にかすかな声が受話器から漏れはじめた。
「んっ………ぁ……」
何度か聞いたことのある声。
その声を聞く時は、いつも二人とも裸になっていて、そして……
拓也の頭の中に、愛の裸がフルカラーで浮かび上がる。
視覚と聴覚を一致させようと、受話器に耳を押しつけるようにして拓也は愛の声を求めた。
「いつも……拓也君が触ってくれる時みたいに、
手のひらで押しつけるようにしながら触るとね……だんだん……気持ち良く、なって……くるの」
「ね、拓也君は……私の胸、好き?」
「え、あ、う……うん」
他に答えようも無く、拓也は小さく頷く。
「そう……嬉しい……ん、ん……」
愛は少しずつ手の動きを大きくしながら、
少し演技っぽい口調を作って電話の向こうの拓也に声を聞かせる。
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