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「んっ……え、ええ……やっ」
途切れ途切れに声を上げる愛の下着の横から指を潜り込ませると、
うっすらと開いている秘口に浅く沈めた。
途端に肩にしがみつく愛の手に力がこもる。
そのまま軽く襞の周りをかき回すようにすると、
指が軽く締めつけられて愛が達しそうになっている事を伝えてきた。
「槍溝さん、もうだめなの?」
「ええ……っ、や、だめ……!」
ほんの少しだけ指を深く入れて軽く折り曲げてやると、愛の身体が二度、小さく跳ねた。
それが、二人のおしまいだった。

「これで最後なんて、ちょっと残念ね」
「でもね、たまにはこういうことしてもいいかな、って」
「いいわよ。私のことが忘れられなくなったらいつでもしましょう」
けれど、少しだけ早く大人になったら、少しだけ早く別れも経験する。
それを二人とも肌で感じたのか、もう当分、多分ずっと、
そんな機会は訪れないだろう、と悟っていた。
「それじゃね」
「ええ、さようなら」
倉庫を出た二人は別れ道まで来ると、小さく笑って手を振って別れた。
振り向きたい衝動をこらえながら、駆け足で家に向かって走っていく。
延びた影が夕闇に溶けて、お互いの姿も黒く染まった時、愛は一度だけ来た方を向いた。
きっとしな子もそうしていると信じながら。



吹く風に暖かさを感じるようになった日、拓也はチャイムが鳴る音に玄関に向かう。
扉を開けた先に立っていたのは、ほんの少しだけ髪が伸びた愛としな子だった。
それに気が付いたのは、拓也も少しだけ成長したからかも知れなかった。
何故か門の内側に入ってこようとしない二人に、
拓也はさして疑問も抱かずに自分が外に出ていく。
まだ中学校は始まっていないのだからもちろん中学生ではないはずなのだが、
しばらくぶりに会う二人は随分と大人びて見えた。
「どうしたの? 二人揃って」
「うん、ちょっとね、お話したい事があって」
いつものようにはっきりと用件を切り出さない事に何かあるのを感じ取った拓也は、
何があるのかと内心で準備を整える。
しかし、二人が話し始めた内容は拓也の予想と全く異なる物だった。
「……あのね、あたし達ずっと榎木君とその……してきたんだけど、
ここでね、一回……終わりにしたいな、って」
しな子は最初の一言を言うのにかなり勇気が必要だったが、
その後はせきを切ったように話し出す。
「やっぱりね、榎木君もいつまでも二人と付き合うのは良くないと思うの」
「私は別に良かったんだけど」
「もう槍溝さん、茶々入れないでよ! 
そんなこと言ったらあたしだってそうなんだから」
さりげなく裏切られて、それが愛の本心で無い事は判っていても
つい本音で答えてしまったしな子は脱線しかけたのに気付いて慌てて話を元に戻す。
「だからね、二人で相談して決めたの。一度、榎木君とはもうこういうのやめようって」
「それで、もし拓也君が中学校で他の人を好きになっちゃったら
それは仕方がないし、もし私達のどちらかを選んでくれるのなら、
その時は拓也君の方から改めて告白して欲しい、ってことで」
「あ、でももちろん、あたし達も他の人好きになっちゃうかもしれないから、
その時は諦めてね」
交互に口を開く二人の話を聞き終えた拓也は、自分でも驚くほどショックを受けていた。
元々が半ば強引に始められた二人との関係だったが、
愛としな子の事は気付かないうちに拓也の心の大半を占めていたのだ。
更に、二人の方からこんな話が出てくるはずがない、
という甘えがどこかにあったのかもしれない。
「いやねぇ、そんな泣きそうな顔しないでよ。
別に学校は同じなんだし、もしかしたらクラスだって同じかもしれないのよ」
「うん。別に友達もやめようって言ってるんじゃないんだし」
二人は笑顔で茶化すように無言のまま立ち尽くす拓也に言い聞かせる。
ほんのちょっとのきっかけで泣き出してしまいそうで、それ以外の表情は出来なかった。
「……そうだね。うん、わかったよ。今まで、その……ありがとう」
放心状態から立ち直った拓也はようやくそれだけを言う。
そう言っていいものかどうか迷ったが、替わる言葉はどうしても思い浮かばなかった。
「いやだ榎木君、お願いしたのはあたし達の方なんだから」
「そうよ、それに私達も気持ち良かったし」
「もう、どうして槍溝さんってすぐそういう言い方するの?」
「照れない照れない。同じ穴のムジナですから」
膨れっ面をしていたしな子だったが、やがて耐えかねたように笑い出す。
それにつられるように拓也と愛も顔を崩し、3人はしばらくの間それぞれの表情で笑い続けていた。
「じゃあね」
唐突に笑いを収めた二人が声を揃えて言った次の瞬間、拓也の頬を緩やかな春風が通りぬける。
首のうしろでその薫を捉えた時、二人は妖精のように姿を消していた。
「にーちゃ?」
立ち尽くしてしまっている兄を心配そうに呼ぶ実の声で、拓也にかけられていた魔法が解ける。
ごくわずかに残っている温もりをそっと指先で追うと、それを見た実が駄々をこねた。
「みのもちゅーするの」
その声に向かってしゃがみこむと、小さな身体を抱き上げる。
「駄目だよ。これは、お兄ちゃんの宝物だから」
「いやーん」
腕の中で暴れる実を上手にあやしながら家に入ろうとした拓也は、
最後にもう一度だけ二人のいた方に振り向くと、小さく声にならない言葉を風に乗せた。



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