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終業のチャイムが校舎に響き渡ると、生徒たちが我先にと教室を飛び出していった。
それまで静けさに包まれていた校舎は、あっという間に騒がしくなり、鳥達が驚いて飛び去る。
6年2組の教室も例外に漏れず、にぎやかな声が充満していたが、
それでも5分もすると、残っている人数もわずかになり、嘘のように静かになった。
「拓也ー、帰ろうぜ」
帰り支度をする拓也のところに、わずかな人数の一人、後藤正がやってきて声をかけた。
同じ幼稚園に弟と妹を通わせている正と拓也は揃って迎えに行くことが多く、
この日もそうするつもりで正は声をかけたのだ。
「ごめんゴンちゃん、まだ僕やらなきゃいけない事があるんだ。悪いけど先に帰っててくれる?」
「ふーん、わかった。じゃーな拓也」
「うん、バイバイゴンちゃん」
自分と違ってしっかり者で、教師の信頼が厚い拓也は何かと学校の用事を言いつけられることが良くある。
この日もそうだと思った正は、あっさりと頷き、手を振って帰っていった。
正が教室を出て行くと、拓也も荷物をまとめて教室を後にする。
二、三歩歩いた所で、拓也は突然お尻に誰かが触れるのを感じて飛びあがった。
「うっ、うわああ」
振りかえったその先には、槍溝愛が立っていた。
「逆セクハラ」
拓也はもう幾度となくこの逆セクハラをされているのだが、
慣れるどころか、未だに槍溝の気配すら察知する事が出来ずにいた。
「やっ、槍溝さん……」
「榎木君も職員室? 奇遇ね、一緒に行きましょうか」
(奇遇って、もしかしてずっと待ってたんじゃ……?)
あまりにタイミング良く愛がいた事に、拓也はそう思わずにはいられなかった。
それでも、口に出しては何も言わずに無言で頷くと、職員室へと向かう。
用事を済ませて職員室を出た拓也を、いつの間に拓也より先に出たのか、愛が待ち構えていた。
「ね、榎木君、今からちょっと付き合って欲しいんだけど」
その言葉を聞いた瞬間、拓也の身体が硬直する。
愛のちょっと、と言う言い方に、良からぬものを感じたのだ。
「ちょっとって……まさか」
「そう。この間の続き」
それは二週間ほど前の、体育倉庫での出来事。
拓也の脳裏にその時の、愛の少し冷たく、柔らかい手の感触と、甘いリンスの香り、
そして自分のペニスを口に含んだ愛の熱い舌触りとが昨日の事のように鮮明に思い浮かんだ。
それは決して不快な記憶ではなく、むしろいくばくかの興奮を伴って甦る。
それでも、こう面と向かってはっきりと言われてしまうとやはり恥ずかしく、
顔を赤らめるとうつむいて何も言えなくなってしまった。
さりげなく拓也の手をきゅっと握った愛は、拓也の前に立って歩き出した。
拓也もついつられて握り返すと、愛も、何も言わずに更に手に力を込めてくる。
ただ手を握っているだけなのに、拓也は心臓の鼓動が早くなるのを感じた。
(槍溝さんも、ドキドキしてるのかな……?)
二人はいつのまにか、しっかりと手を握りあって階段を上り始めていた。



「え……?」
愛に連れられて拓也が着いた先には、「音楽室」の看板がかかっていた。
「今日は他所の学校で合同練習するんですって。だから誰もいないの」
(槍溝さん、良くそんなのチェックしてるなぁ……)
「ん? どうかした?」
無言で見つめる拓也の視線に気付いた愛が振り返る。
「あ、ううん、なんでもないよ」
「そう。それじゃ、入りましょうか」
足を上げた愛が急停止すると、振りかえって意味ありげに笑った。
「なんだか、ラブホテルに入るみたいね」
「やっ、槍溝さん……」
もちろん拓也はラブホテルの事など全く知らなかったが、
それでも言葉の響きにいやらしい物を感じて赤面してしまう。
「まあ、これからする事も大体同じなんだけど」
「……」
(どうしてそんな事平気で言えるのかなぁ? 恥ずかしくないのかなぁ?)
「さあ、こっちこっち」
愛は立ち止まってしまった拓也を音楽室の中に引っ張り込むと、
奥の方に連れて行き、手早く机を並べてその上に拓也を座らせた。
「それじゃ、あんまり時間も無い事だし、早速始めましょうか」
(槍溝さんって、やっぱり少し怖い……)
宿題でも始めるかのような気軽な口調でセックスの開始を告げる愛。
「ふつつかものですが、よろしくお願いします」
本気なのか冗談なのか判らない表情でそう言った愛は軽く頭を下げると、
拓也の服のボタンを外し始めた。
あっという間に全部のボタンを外し終わって、そのまま脱がせようとすると、
珍しく拓也が抵抗を見せる。
「上着脱ぐのは……ちょっと……」
「恥ずかしいの?」
途中で言葉を切った拓也に、愛が言葉を引きとると、拓也は頷いてはだけた裾を両手で合わせた。
「でも」
愛は指を唇に当てて考え込む仕種をしたが、それも一瞬の事だった。
「榎木君、あたしの裸は見たわよね」
「う、うん……」
「と言う事は」
再び拓也の腹に手を滑りこませながら続ける。
「私も榎木君の裸見たって良いって事よね」
「それは」
槍溝さんが勝手に見せたんじゃない、と拓也は思ったが、
口にした所で言い負かされてしまうのが落ちだったので
しぶしぶ愛の言うとおりに上着を脱いだ。
正面からまじまじと見つめられ、恥ずかしそうに身じろぎする。
「榎木君って、肌きれいね。ちょっと妬けるわね」
「そ……そうなの? ……ありがと……ひゃっ」
拓也はもちろん肌の滑らかさなど気にした事も無かったが、
一応誉められていると思ったのか、律儀にお礼を言った。
それを聞いているのかいないのか、愛は医者のように掌を拓也の胸に押し当てて、心音を感じ取ろうとした。
規則正しい鼓動が伝わってきて、それだけで満たされた気持ちになってくる。
「すべすべ……気持ちいい……」
滑らかな手触りを楽しむように、愛の手は拓也の身体を胸から腹へ、
腹から背中へと執拗に撫でまわす。
「……ん……っ」
初めは我慢していた拓也も、くすぐったさから、ついに背中をのけぞらせて声を上げてしまう。
「榎木君」
唐突に名前を呼ばれて、思わず正面を見た拓也の眼前に、愛の顔が迫っていた。
「ん……」
不意をつかれた拓也は、そのまま一気に愛の舌の進入を許してしまう。
「ぅあ……ん、ん、……っぐ、んむ……」
なすすべを知らない拓也の舌は、あっという間に愛の舌に絡めとられた。
耳の後ろの辺りがそばだって、思わず身をこわばらせるが、
それも一時の事で、愛の技巧を凝らしたキスに、徐々に力が抜けていく。
「っ、……ふ、……んん、ぷあ………ん」
頭の奥から沸き起こる熱さは激しさを増していき、拓也は愛の身体にしがみつくように腕を回した。
「んん、……うぁ、……んんっ、ん……」
拓也は途切れそうになる意識を必死になって繋ぎ止めようとするが、
愛の舌が唾液を乗せて拓也の舌先へと移し、こねるように絡めていくと、
遂に何かが弾けて、ぐったりと愛に身体を任せた。
触れている唇越しにそれを確認すると、愛は立膝になって拓也に跨り、
ほとんど顔を垂直にして更に奥深く舌を差し込む。
(榎木君……)
赤ん坊のように自分に身体を預けて、
自分のキスを受け入れる拓也に愛はどうしようもなく心が昂ぶる。
両腕でしっかりと拓也の頭を抱きかかえると、愛は本格的に拓也の口腔の蹂躙を始めた。
一度舌を抜き取ると、ついばむように拓也の唇を咥える。
まだ女の子のものとあまり変わらない、柔らかい唇が心地よい。
そのまま強く吸い上げて離すと、拓也が鼻にかかった声を上げる。
それに興奮した愛は、一気に拓也を押し倒すと、勢い良く自分の唇を押し付けた。
長い長いキスが終わり、愛がようやく唇を離すと、
唾液が糸を引いて名残を惜しむように垂れる。
「ぷぁ……ぁ?」
あまりに快感が強すぎたのか、拓也は呆けたように口を開いて、
焦点の定まっていない目で愛を見やった。
(そういえば…深谷さんも、こんな感じだったわね)
愛はその時の事を思い出して笑うと、何かを思いついたのか、
その笑みを悪戯っぽいものに変え、甘えるように拓也にしがみついて、耳元で囁いた。
「た・く・や・君」
「なっ……なに?」



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